する研究
著者 松本 裕之
雑誌名 金沢大学大学院自然科学研究科博士論文, 131p.
ページ 1‑131
発行年 2010‑03‑23
学位名 博士(工学)
学位授与年月日 2013‑03‑23
URL http://hdl.handle.net/2297/36385
活性酸素種の計測モニター開発と プロセス応用に関する研究
松本 裕之
平成 22 年 1 月 5 日 提出
博士論文
活性酸素種の計測モニター開発と プロセス応用に関する研究
金沢大学大学院自然科学研究科 システム創成科学専攻 知的システム開発講座
学 籍 番 号 0923122206 氏 名 松本 裕之
主任指導教員名 岩森 暁
i
‐目次‐
第1章 緒論
1
1.1
本研究の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.2
活性酸素種の定義と特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1.2.1
活性酸素種の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1.2.2
活性酸素種生成方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
1.2.2.1
光化学反応による活性酸素種の生成・・・・・・・・・・・・6
1.2.2.2
放電プラズマによる活性酸素種の生成・・・・・・・・・・・8
1.3
活性酸素検出に関する既往研究・・・・・・・・・・・・・・・・・10 1.4
本研究の目的と社会的意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 1.5
本論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
参考文献
14
第
2
章 水晶微小天秤法の概要と活性酸素種の測定検証16 2.1
水晶微小天秤法の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
2.1.1
水晶振動子・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
2.1.2
水晶微小天秤法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
2.1.3 QCM
用水晶振動子の基本特性・・・・・・・・・・・・・・・18
2.1.4
水晶振動子の表面物理形状・・・・・・・・・・・・・・・・・20
2.1.5
水晶振動子の湿度依存性・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
2.2 QCM
法による活性酸素種検出の予備検証・・・・・・・・・・・・25
2.2.1
低圧水銀UV
ランプによる活性酸素生成と表面作用スキーム・・25
2.2.2
実験条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
2.2.3
結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
2.2.4
オゾン単体およびオゾン/
原子状酸素混合状態の検出・・・・・・30
2.2.5
結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
2.2.6 QCM
法による活性酸素種検出の予備検証のまとめ・・・・・・34
2.3
本章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
参考文献
35
ii
第 3 章 Silver-QCM による原子状酸素モニタリング
36 3.1
低圧水銀UV
ランプ下での活性酸素検出・・・・・・・・・・・・・36
3.1.1
低圧水銀UV
ランプによる活性酸素生成原理・・・・・・・・・36
3.1.2
実験方法・実験条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
3.2
実験結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
3.2.1 QCM
測定結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
3.2.2 X
線回折による酸化銀層の構造解析・・・・・・・・・・・・・38
3.2.3 STEM
による構造解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
3.2.4
光電子分光による化学結合状態解析①・・・・・・・・・・・・43
3.2.5
光電子分光による化学結合状態解析②・・・・・・・・・・・・48
3.3
本章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
参考文献
54
第 4 章 UV ランプ下活性酸素生成の
フォトンモンテカルロシミュレーションによる解析
55 4.1
フォトンモンテカルロシミュレーションの概要・・・・・・・・・・55
4.1.1
光化学反応の原理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
4.1.2
フォトンモンテカルロシミュレーション・・・・・・・・・・・57
4.1.3 NMEM
計算・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57
4.1.4
シミュレーションの流れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・61
4.2
シミュレーションモデルと条件・・・・・・・・・・・・・・・・・61
4.2.1
考慮したシミュレーションモデル(幾何形状と境界条件)・・・・61
4.2.2
考慮した反応式および初期条件・・・・・・・・・・・・・・・62
4.2.3 NMEM
計算パラメータ設定・・・・・・・・・・・・・・・・64
4.3
結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65 4.4
本章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68
参考文献
69
第 5 章 プラズマプロセス下で生成した活性酸素の有機系
薄膜検出層付き QCM によるリアルタイムモニタリング
70 5.1
減圧リモートプラズマプロセス活性酸素のモニタ・・・・・・・・・70
5.1.1
誘導結合性プラズマと活性酸素種の生成原理・・・・・・・・・70
5.2
実験装置・実験条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72
5.2.1
誘導結合プラズマ装置とプラズマ生成手順・・・・・・・・・・72
5.2.2
有機薄膜検出層付きQCM
の作製とリモートプラズマ測定条件74
iii
5.3
結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76 5.4
本章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・79
参考文献
80
第 6 章 有機系薄膜付き QCM による活性酸素検出
81 6.1
活性酸素の有機系薄膜付きQCM
による検出・・・・・・・・・・・81 6.2
実験装置および条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81
6.2.1
高周波スパッタリング法による有機系薄膜の成膜・・・・・・・81
6.2.2
評価方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・84
6.2.2.1 QCM
による活性酸素作用量測定・・・・・・・・・・・・・84
6.2.2.2
光電子分光(XPS
)による有機薄膜表面化学結合状態の評価84
6.2.2.3
原子間力顕微鏡(AFM
)による有機薄膜表面状態の評価・・84
6.3
結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85
6.3.1 QCM
測定結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85
6.3.2 XPS
解析結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86
6.3.3 AFM
解析結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89
6.3.4 PI-QCM
による活性酸素検出スキームの推定・・・・・・・・・90
6.3.5
各種有機系薄膜付き QCM による活性酸素検出特性・・・・・・・91 6.4
本章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92
参考文献
93
第 7 章 プラズマ気相反応シミュレーション
94
7.1
モンテカルロシミュレーションによる誘導結合酸素プラズマ中の活性酸素生成分布の解析・・・・・・・・
94
7.1.1
シミュレーションの概要と原理・・・・・・・・・・・・・・・94
7.1.1.1 Electron Monte Carlo Simulation Module (EMCSM)
・・・95
7.1.1.2 Electro- Magnetics Module (EMM)
・・・・・・・・・・・98
7.1.1.3 Poisson’s Equation Module (PEM)
・・・・・・・・・・・・101
7.1.1.4 Drift Diffusion Equation Module
・・・・・・・・・・・・102
7.1.1.5 Direct Simulation Monte Carlo Method
・・・・・・・・・103
7.1.2
計算条件の設定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・104
7.1.2.1
幾何形状の設定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・104
7.1.2.2
考慮した反応式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・106
7.1.2.3
計算パラメータの設定・・・・・・・・・・・・・・・・・107
7.2
結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・108
7.3
本章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・112
iv
参考文献
113
第 8 章 活性酸素および UV が表面処理に及ぼす影響の検証
114 8.1
有機スパッタリング薄膜付きQCM
によるUV
ランプ洗浄装置内の活性酸素作用量検出・・・・・・・・・・・114
8.1.1 UV
ランプ装置における表面処理の有機薄膜付き
QCM
による検出・・・・・・・・・・・・・・・・・114
8.1.2
実験条件・実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・114
8.1.3
結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115
8.1.3.1 QCM
測定結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115
8.1.3.2 AFM
解析結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116
8.1.3.3 XPS
解析結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116
8.2
殺菌処理に活性酸素が及ぼす影響の調査・・・・・・・・・・・・・118
8.2.1 UV
ランプ装置およびプラズマ装置による枯草菌の処理・・・・118
8.2.2
実験条件・実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・118
8.2.2.1
枯草菌試料の準備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・118
8.2.2.2 UV
ランプ下における殺菌処理方法・・・・・・・・・・・・118
8.2.2.3
リモートプラズマによる殺菌処理方法・・・・・・・・・・119
8.2.2.4
処理後試験サンプルの培養および評価方法・・・・・・・・120
8.2.3
実験結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・120
8.3
本章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・122
参考文献
123
第 9 章 総括
124
1
第1章
諸論
1.1 本研究の背景
我が国は、「電子立国」と呼ばれるほど、半導体を中心とした製造、輸出産業に依存し た国家である。もはや半導体を用いていない製品は皆無といっても過言ではなく、
IC
(集積 回路)や電子デバイスを高度な技術でアセンブリした電化製品は、日常生活において不可欠 なものとなっている。これら半導体製品の製造工程に着目すると、シリコン基板の洗浄、薄 膜の成膜、有機レジスト塗布、フォトリソグラフィー、エッチング、イオン打ち込み、リフ トオフといった一連のプロセスを繰り返し行った後、配線処理、最終的には樹脂封止による パッケージングがなされ、製品として出荷される1)。これら一連の工程のなかで、例えば、基板の洗浄や表面酸化、レジストアッシング(灰化)、成膜といった各プロセスにおいては、
「活性酸素種」が処理因子として重要な役割を果たしている。基底状態の酸素分子はその電 子配置から、二つの不対電子を有するビラジカルの状態であるが、活性酸素は文字通り活性 化された酸素種の総称であり、基底状態の酸素よりも桁違いに高い反応速度定数、すなわち 酸化力を有している2)。このため活性酸素は、半導体工程のみならず、有機・無機系の基材 表面洗浄や改質をはじめとした各種工業の表面処理に幅広く利用されている3)。
近年、世界規模の伝染性ウイルスの蔓延などを背景に、医療品、食品、空気、飲料水など の殺菌・滅菌プロセスへの活性酸素利用に大きな注目が集まっている。
医療用品に関する滅菌処理では、1880年代から高圧蒸気滅菌法が主流となっているが、
熱に弱いプラスチック製器具の処理は困難である。また、1950年代から使用され始めた エチレンオキサイド滅菌では、発癌性ガスであるエチレンオキサイドの取り扱いに関する安 全性や除害処理に課題がある。これら事情を鑑みて、相良らは過酸化水素低温プラズマ滅菌 法を提唱している4)。これは減圧チャンバー内にプラズマ化した過酸化水素(
H
2O
2)を導 入し、プラズマ中の電子衝突反応や副次反応で生成する高活性なヒドロキシラジカル(・OH
)やヒドロキシパーフルオロラジカル(・O-O-H
)などの活性酸素により、DNA
成分、特にシトシンへ作用して細菌を不活化するものであり、
40
~50
℃の低温で処理ができ、滅 菌後も有毒物を残さない方法として注目を集めている。関連して、Kylian
らは、O
2/N
2混合 ガ ス の 高 周 波 誘 導 結 合 プ ラ ズ マ (RF-ICP
) を 用 い た 芽 胞 菌 (Geobacillus Stearothermophilus
)の滅菌において、原子状酸素(O
)および放電から放射される紫外線(
UV:ultraviolet
)の相乗効果の可能性について述べている5)。また同様の観点から、櫻井 らは、オゾン(O
3)ガスを用いた滅菌方法を提唱している。オゾンガスの半減期は半日程度 と非常に長寿命であるが、オゾンが分解した際の酸素原子と水の反応によって生成するヒド ロキシラジカル(・OH
)が細菌や細菌芽胞の細胞壁、細胞膜を破壊して、内部の核酸に作2
用するといったメカニズムについて言及している6)。柴田は、アナターゼ(
anatase
)型結 晶構造をもつ酸化チタン(TiO
2)表面の触媒反応と殺菌作用について言及しており、そのな かで酸素の1電子還元体であるスーパーオキシドアニオンラジカル(O
2-)、3電子還元体の ヒドロキシラジカル(・OH
)の生成メカニズムとブドウ球菌、大腸菌、腸炎菌の殺菌効果 の検証について述べている7)。食品および原材料の殺菌と脱臭では、オゾンが古くからその有用性を知られており、食品 製造工程や貯蔵工程、包装材の殺菌にオゾンガスやオゾン水が用いられている8)。
また近年、紫外線による上水、下水などの水質浄化が行われており、光化学反応で生成し たヒドロキシラジカル(・
OH
)による水中有機物質(例えば、ダイオキシン、環境ホルモ ン、抗生物質など)の促進酸化処理や微生物の不活化、藻類の抑制などに関して研究、開発 が行われている9)。活性酸素を用いた処理として、戸坂らは、高濃度オゾンのレーザー解離によって生成する 励起一重項状態の原子状酸素(
O
1D
)を用いたシリコン表面処理を提唱し、低温で高品位なSiO
2膜が得られることを示している10),11)。このように活性酸素を利用したプロセスや研究事例については枚挙に遑がなく、諸工業に 深く関与し、大きく貢献していることが窺える。
3
1. 2 活性酸素種の定義と特徴
ここでは、本研究のキーワードである活性酸素の定義と特徴について概説する。
1.2.1 活性酸素種の定義
活性酸素は文字通り反応性の高い酸素種の総称と定義され、放電や放射線の照射時に生成 することが知られている。表1.1に活性酸素種の名称をまとめた。狭義には酸素原子やオ ゾンが、広義にはイオン種やヒドロキシラジカルなども活性酸素種に含まれる。また、表1.
2に各種活性酸素種の反応速度定数をまとめた。活性酸素種が基底状態の酸素分子と比べて、
桁違いに高い反応性を有することが分かる12)。
表1.1 活性酸素種の定義
Table 1.1 Determination of active oxygen species
狭義 広義
O
酸素原子O
2‐ スーパーオキシドO*
励起酸素原子HO
2 ヒドロペルオキシドO
2*
励起酸素分子H
2O
2 過酸化水素O
3 オゾンOH
ヒドロキシラジカルO
2*
励起酸素RO
アルコキシラジカルROO
ペルオキシラジカル表1.2 活性酸素種の反応速度定数(
L mol
-1sec
-1)Table1.2 Rate constant of various active oxygen species
酸素種
OH O
21ΔgO HO
2O
3O
2-O
2速度定数
10
8-10
910
6-10
710
5-10
610
2-10
310
2-10
31-10 10
-30このような、基底状態酸素と活性酸素種の反応性の相違は、酸素の電子スピンの構造に基 づいている。電子軌道におけるスピンとその多重度、すなわち縮退状態の数は全スピン量子 数をSとして、2S+1で与えられる。例えば、基底状態の酸素分子は図1.1に示すよう な電子構造を有し、1つの電子軌道にスピンをその向きを逆向きにして2個配置した場合の 合成スピン量子数Sはゼロとなるが、フントの規則より、最外殻に不対電子を「2個」持つ ビラジカルの状態となるため、その多重度は
2
×1
+1 = 3
となり、このような多重度を「3 重項状態(triplet
)」と呼ぶ。分子の電子軌道の軌道角運動量
L
=0,1,2
をギリシャ文字のΣ、Π、⊿で示し、左肩にそ の多重度の数値を記載する。基底状態を示すX
を軌道およびスピン多重度の数値の左に記 して、酸素分子はX
3Σg-と記す。尚、右肩の符号は分子軸を含む面に対して電子軌道の波4
動関数が対称のときに+、非対称のときに-となり、また右下の記号は2原子分子の際に対 称中心について反転した時、波動関数が不変(
gerade
)か符号を変える(ungerade
)かに よって、g
とu
で区別している。図1.1 基底状態酸素分子の分子軌道と電子配置
Figure 1.1 Molecular orbital and electronic states of ground state oxygen
酸素の電子スピン構造による反応性に関して、反応物
A
、B
のスピンと生成物AB
の合成 スピンには表1.3に示すような関係がある。この相関より、反応前後において個々の電子 スピンは変化しないというスピンの保存則が成り立っている。このことは、例えば安定な一重項(
singlet
)分子A
と三重項酸素B
の反応では三重項分子AB
の生成のみが許容で、一重項やそれ以外の生成は禁制であることを示している。一方、一重項同士の反応は許容であ るため、一重項酸素は高い活性を有することになる。一重項酸素はスピン量子数
S
=0
で不 対電子を持たないが、空軌道の強い求電子反応により、強い酸化力を有する。表1.3 スピン相関則
Table 1.3 Spin relation law A
+B
⇔A B 1 1 1 1 2 2 1 3 3 2 2 1, 3 2 3 2, 4 3 3 1, 3, 5
酸素原子 酸素原子
酸素分子(O2)
2Px 2Py 2Pz 2Pz 2Py 2Px
σ σ* σ σ* σ
σ*
π π
π* π*
2S 2S
1S 1S
5
図1.2には活性酸素種の電子配置状態を示した。原子状酸素についても同様に、その電 子配置とスピン相関則で酸化力が定義される。基底状態の原子状酸素(
O
3P
)は三重項状態 であり、スピン量子数S=1
で2
個の不対電子を持つラジカル状態である。一方、励起一重 項状態の原子状酸素(O
1D
)はスピン量子数S=0
の一重項でラジカル状態ではないが、空 軌道の存在によって高い酸化力を発現する13)。図1.2 活性酸素種の電子配置
Figure 1.2 Electronic states of active oxygen species
図1.3に酸素分子および原子のポテンシャル曲線、表1.4に酸素原子・分子の励起状態 をそれぞれ示した14),15)。これをみても、励起状態原子状酸素(
O
1D
)は基底状態原子状酸素(
O
3P
)よりも1.97 eV
高いエネルギー状態であり、高い反応性を有することがわかる。図1.3 酸素分子のポテンシャル曲線
Figure 1.3 Potential curve of oxygen molecule
1
6
表1.4 酸素原子・分子の励起状態
Table 1.4 Excitation states of atomic and molecular oxygen
1.2.2 活性酸素種生成法
1.2.2.1 光化学反応による活性酸素種の生成
酸素分子は図1.4に示すように
200nm
以下の紫外域の波長に吸収(シューマン・ルン ゲ帯)を持ち、以下のような光化学反応によってオゾン(O
3)を生成する。O
2+ hν
→O
2* (
3Σu-)
→
O
2* (
3Πu)
→
2O(
3P) hν: 175
~205nm
(1.1)
O(
3P) + O
2 →O
3(1.2)
さらにオゾンは
300nm
以下に吸収(ハートレー帯)を有しており、励起状態の原子状酸 素(O
1D
)と酸素分子(O
2)
を生成する。O
3+ hν
→O(
1D) + O
2(1a
Δg)hν: 220
~300nm (1.3)
表1.5、表1.6には各波長域における酸素およびオゾンの吸収係数をまとめた。
このような光化学反応は、地表から高度
200
~600km
の高層圏において支配的であるが、図1.6に示すような発光スペクトルを持つ低圧水銀
UV
ランプを用いることによっても同 様な反応が得られる。低圧水銀UV
ランプでは、水銀原子の共鳴線である184.9nm
により オゾンが生成し、さらにオゾンが253.7nm
を吸収、光解離することにより、O(
1D)
が生成さ れる。前述のとおり、各種の表面処理には高い励起エネルギー(1.97 eV
)を有するO(
1D)
が大きく関与しているといわれている。これら光化学反応による活性酸素種の生成と表面への作用については、次章以降で明らか にしていく。
O
2X
3Σg-a
1⊿gB
1Σg+C
3⊿uA
3Σu+C
1Σu-B
3Σu- 励起電圧/
eV 0 0.98 1.63 4.26 4.34 4.49 6.12
垂直励起電圧
/
eV 0 0.98 1.63 6.1 6.1 6.1 8.4
O
3P
2 3P
1 3P
0 1D
2 1S
0励起電圧/
eV 0 0.02 0.03 1.97 4.19
7
図1.4 酸素およびオゾン吸収特性
Figure 1.4 Absorption characteristics for oxygen and ozone
表1.5 波長
254 nm
におけるオゾンの吸収係数Table 1.5 Absorption coefficient of ozone at the wavelength of 254 nm.
表1.6 オゾンの紫外~赤外域における吸収帯の分類
Table 1.6 Classification table of ozone absorption band
between ultraviolet and infrared wavelength region
ε:モル吸光係数 A:モル吸収係数 β:吸光係数 α:吸収係数
3000
[L /cm
・mol]
6910
[L /cm
・mol] 134 [l /cm] 308 [l /cm]
I= I
010
-εcdI= I
0e-
acdI= I
010-
βdI= I
0e-
αd吸収帯 波長範囲 吸収ピーク位置 励起電圧 遷移
Hartley 220~300 nm 255 nm 4.1~6.2 eV
1B
2(2b
1←1a
2) Huggins 300~374 nm 300 nm 3.4~4.1 eV 2
1A
1←1A
1Chappuis 450~850 nm 600 nm 1.5~2.8 eV
1B
1(2b
1←4a
1)
Wulf 700~1000nm 1043 cm
-11.2~1.8 eV
1A
2←1A
18
図1.6 典型的な低圧水銀ランプの放射スペクトル
Figure 1.6 Typical radiation spectrum of low-pressure mercury lamp
1.2.2.2 放電プラズマによる活性酸素種の生成
上記のような光エネルギーによる活性酸素種の生成と同様に、酸素分子の結合エネルギー 以上の電子衝突による解離や励起、イオン化によっても各種活性酸素が生成可能である。表 1.7に減圧プラズマ内部における主な活性酸素種生成反応を示した16)。
電子やイオンといった荷電粒子種と酸素種が複雑に反応し、励起状態原子状酸素
O(
1D)
や 励起状態酸素分子O
2(
1Δg)
、オゾンO
3、スーパーオキシドアニオンO
2-などの活性酸素種を 生成していることが分かる。184.9 nm
253.7 nm
9
表1.7 酸素プラズマ中の活性酸素の反応素過程
Figure 1.7 Reaction processes of active oxygen species in oxygen plasma
反応
k [cm
3/s]
σmax[cm
2]
分類e+O
2→O
2++2e e+O
→O
++2e e+O(
1D)
→O
++2e
9.0
×10
-10Te
0.5exp(-12.6/Te) 9.0
×10
-9Te
0.7exp(-13.6/Te) 9.0
×10
-9Te
0.7exp(-11.6/Te)
2.72
×10
-161.54
×10
-18イオン化
e+O
2→O+O++2e 5.3×10
-10Te
0.9exp(-20/Te) 1.0×10
-16 解離イオン化e+O
2→O+O
-e+O
2→O
++O
-+e e+O
3→+O
2-+O
8.8
×10
-11exp(-4.4/Te) 7.1
×10
-11Te
0.5exp(-17/Te) 1
×10
-91.41
×10
-184.85
×10
-19解離付着
e+O
2→2O+e e+O
2→O+O(
1D)+e
4.2
×10
-9exp(-5.6/Te) 5.0
×10
-8exp(-8.4/Te)
2.25
×10
-18 解離e+O
2→O
2(
1Δg)+e
e+O
→O
2(
1D)+e
1.7
×10
-9exp(-3.1/Te) 4.2
×10
-9exp(-2.25/Te)
3.0
×10
-20 励起O
++O
2→O+O
2+O
-+O
2(
1Δg)
→O
2-+O
2.0
×10
-11exp(-300/T) 1
×10
-10電荷移動
O
-+O
→O
2+e
O
-+O
2→O
3+e O
-+O
2(
1Δg)
→O
3+e
1.4
~5
×10
-105
×10
-153
×10
-10脱着
e+O
2+→2O 5.2
×10
-9/Te
電 子-
イ オ ン 再結合
O
-+O
2+→O+O
2O
-+O
+→2O O
-+O
2+→3O O
2-+O
2+→2O
2O
2-+O
+→O
2+O
9.6
~20
×10
-8(300/T) 2
×10
-7(300/T)
1
×10
-72
×10
-7(300/T) 2
×10
-7(300/T)
イ オ ン
-
イ オ ン 再結合O
3+O→2O
21.80×10
-11exp(-2300/T)
原子再結合e+ O
2(
1Δg)
→O
2+e O
2+ O
2(
1Δg)
→O
2+ O
2O+ O
2(
1Δg)
→O
2+ O e+ O(
1D)
→O+e O+ O(
1D)
→O+O O
2+ O(
1D)
→O+O
2O
2+ O(
1D)
→O+O
2(
1Δg)
5.6
×10
-9exp(-2.2/Te) 2.2
×10
-18exp(T/300) 1
~7
×10
-168
×10
-98
×10
-126.4
~7
×10
-12exp(67/T) 1.0
×10
-12失活
e:
電子(electron), k:
反応速度定数, Te:
電子温度[eV],
T:
ガス温度[K], σ:
衝突断面積10
Nd:YAGlaser
Dye
laser BBO
Pulse generator
Digital
Oscillo. PMT
Pulse power generator
Power monitor
Filter 226 nm
452 nm
845 nm 3p3P
3p3S
226 nm two-photon absorption
J=0 1 2 2p3P
226 nm photoionization O+(4S03/2)
1.3 活性酸素検出に関する既往研究
活性酸素種の計測と定量化に関する取り扱い、即ち、工業用途で活性酸素生成量とその作 用量をモニターしている事例はほとんどない。気相中の活性酸素のリアルタイム検出に関す る研究事例としては、レーザー誘起蛍光(
Laser Induced Fluorescence
)法による検出が挙 げられる17)‐20)。図1.7に大気圧放電で生成された原子状酸素のLIF
測定原理を示し た。小野らは、対象となる基底状態原子状酸素(O: 2p
3P
)に対し、レーザー光(波長226 nm
) を照射し、励起準位(3p
3P
)から下準位(3p
3S
)に遷移する際の蛍光(波長845 nm
)を計 測することで基底状態原子状酸素の数密度を計測している21)。また、励起レーザー光の波 長を変えることで、特定の活性酸素種(例えば、OH
ラジカルや振動励起状態のO
2*など)の同定が可能であるとしている。しなしながら、計測には高価なレーザー測定系が必要で、
また光学系があるため装置自体が非常に大型となり、各工程のプロセス装置毎に測定系を取 り付けて活性酸素をモニタリングすることは事実上不可能である。
図1.7
LIF
法による原子状酸素測定原理(文献21記載図から引用)
Figure 1.7 Principle of atomic oxygen detection using LIF method
11
堀、後藤らは、マイクホローカソードランプ(
MHCL
)とよばれる真空紫外光源から放射される
130 nm
光の原子状酸素による吸収を測定し、原子状酸素の数密度を求める真空紫外分光法を考案した22),23)。その測定原理を図1.8に示す。この方法では真空紫外光源の 他、モノクロメータや真空紫外域の光学系が必要となるため、測定装置が数千万円程度と高 価である。さらに真空紫外光を利用するため、大気中でのプロセスで生成する活性酸素種の モニタリングには適用できないという問題点がある。
図1.8 真空紫外分光法の測定原理
(文献24記載図から引用)
Figure 1.8 Measurement principle of vacuum ultraviolet absorption spectroscopy method
本分野に関連して、地表約
200~700 km
の高層圏大気の原子状酸素による材料劣化現象 に関する研究が数多くなされている24)。Knootz
らは、マイクロ波(2.45 GHz
)酸素プラ ズマで生成したアフターグロー中の原子状酸素をNO
2ガス滴定(titration
)により調べて いる25)。しなしながらこの方法は高純度のNO
2ガスを必要とし、一般的なプロセス装置へ の適用は難しい。さらに、White
らは、カーボン薄膜をベースとした抵抗体に原子状酸素を 照射した際の抵抗変化から原子状酸素センシングを試みている 26)。しかしながら、この方 法では原子状酸素照射時のカーボン薄膜の温度変化による抵抗率変化を補正する必要など があり、実用上への課題も多い。12
田川らは、高層圏の環境を模擬した試験装置であるスペースチャンバーを用い、レーザー デトネーションで発生させた並進運動エネルギー
5 eV
の原子状酸素ビームを材料に照射し て劣化現象を評価している27),28)。その際、銀薄膜が表面に形成された水晶振動子によっ て原子状酸素ビームのフラックスを定量し、水晶振動子上にスピンコートして形成したポリ イミドフィルムの劣化現象解析を試みている。この測定法は、水晶振動子上の質量増減をナ ノグラムオーダーという高感度で検出することができ、また被照射側の基材の観点から、活 性酸素種の作用をモニタリングできるという大きな利点がある。しかしながら、この測定を 実際のプロセス装置での活性酸素検出に応用したという報告例はなく、上記研究はあくまで 高層圏を模擬したチャンバー内での原子状酸素と材料表面の反応現象を理解する一助とし ての位置づけにすぎず、工業的な利用を念頭においた測定の検証作業は進められていない。さらに生物関連では、活性酸素の検出に電子スピン共鳴(
electro spin resonance: ESR
) を用いている。この方法は一旦ラジカル捕捉剤にトラップした活性酸素種を計測する必要が あるため、リアルタイムのモニタリングは困難である。またESR
装置は大型であり、プロ セス毎への導入は困難である。1.4 本研究の目的と社会的意義
上記のような実情を鑑みて、本研究では、工業プロセスで利用可能な活性酸素種のモニタ ー開発を最終的な目標としている。本研究では、装置サイズが小型かつ安価で、取り扱いが 非常に容易な活性酸素モニターを実現すべく、水晶振動子法を用いた活性酸素検出について、
実際の工業プロセスで利用されている各種活性酸素生成源での検証を行う。さらに、本研究 では、モンテカルロシミュレーションをベースとした理論計算を行い、各プロセス下での活 性酸素種の振る舞いについて知見を得ることを目的とする。
1.5 本論文の構成
本研究は、本章、第1章および以下の章から構成される。
第2章「水晶微小天秤法の概要と活性酸素種の測定検証」では、本研究のキーワードであ る「活性酸素種」のモニタリング手法の候補である「水晶振動子法(以下、
QCM
法とよぶ)」 についての基本的性質を理解し、その性質についてまとめ、次いで、QCM
法による活性酸 素種の計測について予備実験を行い、活性酸素種のモニター測定が可能であることを明らか にした。第3章「
Silver-QCM
による原子状酸素モニタリング」では、紫外(UV
)放射ランプ下で生成した活性酸素種、特に高い反応性を有する励起一重項原子状酸素(
O
1D
)を銀薄膜付き
QCM
(Silver-QCM
)によって検出し、その特性について調べ、また、その酸化反応の機構を明らかにし、測定上の問題点を提起した。
第4章「
UV
ランプ下活性酸素生成のフォトンカルロシミュレーションによる解析」では、第3章で述べた
UV
ランププロセスでの光化学反応を考慮したフォトンモンテカルロシミ13
ュレーションにより、表面酸化反応に寄与する励起原子状酸素(
O
1D
)等の空間生成密度分 布、反応の時定数などを解析、反応性について考察を行った。第5章「プラズマプロセス下で生成した活性酸素の有機系薄膜検出層付き
QCM
によるリ アルタイムモニタリング」では、第3章の質量加算型QCM
を用いた場合の活性酸素検出で 露呈した問題点を鑑み、質量減算型および質量増加型検出層の積層構成であるCarbon/
Silver-QCM
を新たに開発し、プラズマプロセス下での検出特性を調査し、その有用性を明らかにした。
第6章「有機薄膜付き
QCM
による活性酸素検出」では、同じく質量減算型検出層であり、ポリイミドフィルムをターゲット材として用い高周波スパッタリング法によって形成した 有機系薄膜によるプラズマプロセス下での活性酸素検出特性について調べ、その検出メカニ ズムについて、光電子分光(
XPS
)、原子間力顕微鏡(AFM
)等の測定を併用し解析を行っ た。第7章「プラズマ気相反応シミュレーション」では、第5章および第6章で用いたプラズ マプロセスのシミュレーションによる解析を行い、プラズマ状態の解析およびプロセスで生 成される活性酸素種の同定を行った。
第8章「活性酸素および
UV
が表面処理に及ぼす影響の検証」では、有機薄膜を成膜したQCM
によるUV
ランプ装置内での処理効果リアルタイムモニタリングを試み、活性酸素雰 囲気下でポリマー材料の表面処理を行う際のUV
光の寄与について検証を行った。さらに各 種QCM
で活性酸素生成量が計測されたUV
ランプ殺菌ボックスおよび低圧リモートプラズ マ装置を用いた枯草菌の殺菌処理を行い、活性酸素とUV
による殺菌効果の相違について調 べ、本測定手法の工業的な応用化について、その可能性を探った。最終章、第9章では、以上の知見を基に本研究の工業的な意義について総括を行い、今後 の方向性を示した。
14
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15
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16
第2章
水晶微小天秤法の概要と 活性酸素種の測定検証
本章では、本研究のキーワードである水晶微小天秤(
Quartz Crystal Microbalance
) 法について概説し、活性酸素検出の可能性に関する検証を行った。2.1 水晶微小天秤法の概要 2.1.1 水晶振動子
水晶振動子は、人工的に結晶成長させた水晶を特定方向の角度から薄い板状に切り出し、
その両面に金属薄膜電極を成膜した構造の素子であり、金属電極間に交流電圧を印加すると 特定の周波数(共振周波数)で振動する逆圧電デバイスである。圧電結晶は、外部から機械 的な歪み(圧力)を加えると結晶内部のアニオンとカチオンの位置が変化し、結果として電 気的な分極が生ずる。この現象は圧電効果(
piezoelectric
)と呼ばれる。逆に結晶を挟むよ うに電極を取り付け、そこに電圧を印加すれば、結晶中のアニオンは正の電極へ、カチオン は負の電極へ引き寄せられ、結晶は歪みを生じる。これを逆圧電効果と呼ぶ。圧電効果を生 ずる結晶には、水晶(Quartz
,SiO
2)、ロッシェル塩(NaKC
4H
4O
6・4H
2O
)、電気石、な どがある。とりわけ水晶は、圧電特性、化学的特性、熱特性に優れ、時計の時間基準用クオ ーツのほか、携帯電話などのクロック周波数素子、コンピューターの同期信号発振源など幅 広く使用されている1)。水晶の圧電歪みは、結晶の対称性や水晶結晶軸に対する切り出し角度に大きく依存する。
水晶は三方晶系結晶で、
Z
軸に対して垂直に切り出した水晶基板をY-cut
、Y-cut
をX
軸回 りでZ
軸に対して35
°15
′の角度で切り出した基板をAT-cut
と呼ぶ。AT-cut
水晶振動子 は、逆圧電効果により電極平面と平行方向に振動する「ずり振動モード」であり、温度特性 が極めて良好であることから、上記のほとんどの用途で使用される(図2.1)。17
図2.1 水晶結晶の構造
(文献
1)記載図から引用)
Figure 2.1 Structure of quartz crystal
2.1.2 水晶微小天秤法
水晶振動子はその両面に金属薄膜電極を成膜し、交流電圧を印加することで一定の振動数 で発振する逆圧電素子であることを述べたが、この際、金属電極上に物質が吸着、脱離する ことでその振動数(共振周波数)が変化する。水晶微小天秤(
Quartz Crystal Microbalance
:QCM
)法は、この共振周波数の変化を読み取ることで、電極表面に作用した物質の質量変 化を検知する。Sauerbrey
はこの共振周波数の変化と質量変化の相関について、次式のよう な関係を導いた2)。Δ
f
= -2
Δm n f
02 /(A
μq1/2 ρq1/2)(2.1)
ここで、Δ
f
は周波数変化量(Hz
)、f0は基本共振周波数(Hz
)、n
は倍音数、A
は金属電 極の面積、μqは水晶の弾性率(2.947
×10
13gm
-1s
-2)、ρqは水晶の密度(2.648gm
-3)、Δm
は単位体積あたりの物質の質量変化量(g
)である。すなわち、物質が吸着して電極上の質 量が増加した際は周波数減少を、物質が脱離して電極上の質量が減少した際は周波数増加を それぞれ計測することで、電極表面上の反応をモニターすることが可能である。ここで、共振周波数
9 MHz
の場合、電極上に約6.2 ng
の物質が付着すると1 Hz
の周波数が減少することなり、水晶微小天秤法(以下、
QCM
法)では、ナノグラムオーダーの微少な質量変化 を検出できることが分かる3)。また
Sauerbrey
式より、検出される周波数変化量Δf
が、共振周波数f
0の二乗に比例して18
いることが分かる。このことは、共振周波数の高い水晶振動子を用いることで、検出の感度 を上げることが可能なことを意味している。ただし、
AT-cut
水晶振動子の場合、その厚みt
と共振周波数f
0には以下のような関係がある。t = 1.67
/f
0(2.2)
例えば、共振周波数
16 MHz
の素子の場合、厚みt
は0.104 mm
(104 μm
)となる。つまり、基本共振周波数が高くなると検出感度が高い反面、水晶板の厚みが薄くなるため、
機械的な強度が低くなる。センサ用途の場合、
AT
カットタイプで共振周波数1
~40 MHz
程度のものが市販されている。2.1.3
QCM
用水晶振動子の基本特性本研究では、逆圧電性に優れ、温度特性が良好であるという観点から、
At-cut
水晶振動子 を用いた。At-cut
水晶振動子には、素子金属電極の一部とリードピンを銀ペーストで接合し たタイプ、平板上の素子をそのままセンサヘッドに組み込んで使用するタイプの市販の2
種 類のタイプを使用した(図2.2)。リードピン付きタイプは、水晶素子および表面に形成 された電極が雰囲気に露出しているため、電極両面が検出面となるのに対し、プラナータイ プはセンサヘッドに組み込んで使用するため、片面のみが検出面となり、もう片面(裏面)は参照電極となる。
図2.2
AT-cut
水晶振動子リードピン付きタイプ(左)とプラナータイプ(右)
Figure 2.2 AT-cut type quartz crystal device
本研究で使用した水晶振動子の基本特性について、表2.1にまとめた。