血清中 microRNA を用いた臨床及び非臨床における 新規バイオマーカーの確立に向けた研究
著者 山浦 優
著者別表示 YAMAURA Yu
雑誌名 博士論文本文Full
学位授与番号 13301甲第412号
学位名 博士(創薬科学)
学位授与年月日 2020‑09‑28
URL http://hdl.handle.net/2297/00061305
doi: https://doi.org/10.1016/j.clinbiochem.2017.08.010
博 士 論 文
血清中 microRNA を用いた臨床及び非臨床における
新規バイオマーカーの確立に向けた研究
2020
金沢大学大学院医薬保健学総合研究科
(
博士後期課程)
創薬科学専攻 薬物代謝安全性学研究室 学籍番号1429012019
学生氏名 山浦 優
主任指導教官 中島 美紀
論文提出
令和
2
年7
月目次
略語表
序論
1
第
I
章miRNA
のバイオマーカーとしての役割4
第
II
章 肝障害患者における血清中miRNA
の網羅的発現変動解析7
第
1
節 緒言7
第
2
節 実験材料および実験方法7
II-2-1
実験材料および試薬7
II-2-2
肝障害患者の血清7
II-2-3 mirVana PARIS Kit
を用いた血漿からのRNA
の抽出9
II-2-4 RT
反応によるcDNA
の合成9
II-2-5 PreAmp
反応によるcDNA
の増幅10
II-2-6 TaqMan microRNA array
解析10
II-2-7
主成分分析10
II-2-8
統計解析11
第
3
節 実験結果11
II-3-1
肝障害患者血清中miRNA
の網羅的発現プロファイル解析11
II-3-2
主成分分析による肝障害患者血清中miRNA
の網羅的発現量解析
14
第
4
節 考察17
第
2
節 実験材料および実験方法20
III-2-1
実験材料および試薬20
III-2-2
化合物の投与と採血および組織採取21
III-2-3
血漿中および血清中マーカー値の測定22
III-2-4
病理組織学的検査22
III-2-5
血清からのRNA
の抽出およびmiR-206
発現量の測定22
III-2-6
頻回採血が血清中miR-206
およびMyl3
値に与える影響23
III-2-7
統計解析24
第
3
節 実験結果24
III-3-1
骨格筋障害モデルラットの評価24
III-3-2
骨格筋障害モデルラットにおける血漿中CK
、LDH
と血清中
miR-206
、sTnI
およびMyl3
の変化25
III-3-3 CK、 LDH、 miR-206、 sTnI
および Myl3の骨格筋障害バイ オマーカーとしての感度と特異度29
III-3-4
頻回採血が血中miR-206
発現量に与える影響31
第
4
節 考察32
総括
35
参考文献
37
謝辞
44
参考論文
45
略語表
本論においては以下の略語を用いた。
Ago2 argonaute 2
AIH autoimmune hepatitis ALP alkaline phosphatase ALT alanine transaminase ANOVA analysis of variance AST aspartate transaminase AUC area under the curve
Bcl2 b-cell lymphoma 2
CK creatine kinase
Ct cycle threshold
Ctrl control
DILI drug-induced liver injury
HB hepatitis B
HC hepatitis C
HDL high-density lipoprotein LDH lactate dehydrogenase
MC methyl cellulose
miRNAs microRNAs
Myl3 myosin light chain 3
NASH non-alcoholic steatohepatitis
PBC primary biliary cirrhosis
PC principal component
PCA principal component analysis
sTnI skeletal troponin I T-Bil total bilirubin
TGF-1 transforming growth factor 1
TMPD 2,3,5,6-tetramethyl-p-phenylenediamine
TNF tumor necrosis factor
序論
MicroRNAs (miRNAs)
はタンパク質をコードしない22
塩基程度の小さなRNA
である。
1993
年に線虫で最初のmiRNA
が発見され(Lee et al., 1993)
、これまでヒトで2,600
種類、マウスで1,900
種類、ラットで700
種類以上のmiRNAs
が同定されている(miRBase version 22)。miRNAs
は同定された順にmiR
の後ろに番号が付けられており(Ambros et al., 2003; Griffiths-Jones., 2004)
、同じ番号が付与されているmiRNAs
の塩基 配列は種で保存されている。miRNAs
は標的mRNA
に結合して分解を促進もしくはタ ンパク質への翻訳を抑制することで、標的遺伝子の発現を負に制御する (Ambros,2001)
機能を有しており、発生や分化などの多彩な生命現象に関与すること、その発現異常が癌をはじめとするさまざまな疾患に関与すること
(Johnson et al., 2005)
が明 らかになっている。RNA
分解酵素が豊富に存在する血中に、miRNAsが安定的に存在していることが2008
年に報告された (Mitchell et al., 2008)。血中に存在するmiRNAs
はmicrovesicle
と呼ばれる膜成分に内包されているため(Valadi et al., 2007; Mitchell et al., 2008)
、もし くはargonaute 2 (Ago2)
やhigh-density lipoprotein (HDL)
などのタンパク質と複合体を 形成しているため (Arroyo et al., 2011; Vickers et al., 2011) にRNA
分解酵素に耐性を示 すと考えられている。血中miRNAs
の存在が判明して以降、血中miRNAs
が癌(Mitchell et al., 2008)
や糖尿病(Chen et al., 2008)
をはじめ、様々な疾患のバイオマー カーとなる可能性が注目されている。本研究では、臨床において既存の血中パラメー ターでは原因や病態の分類が困難な肝障害、および医薬品開発における非臨床毒性試 験で血中パラメーターでの検出に課題のある薬剤性骨格筋障害について、血中miRNAs
がバイオマーカーとなるか明らかにすることを目的とした。肝障害はウイルス感染、薬物投与、高脂肪食、アルコール摂取などにより引き起こ される。医薬品の服用が原因となる肝障害は肝細胞障害型 (hepatocellular injury type)、
胆汁うっ滞型 (cholestasis type) および混合型 (mixed type) に分類される。また、高脂
(hepatoma)
と病態や進行の程度により区別される。肝障害の診断には、血中マーカー として肝細胞からの逸脱酵素であるalanine aminotransferase (ALT)
やaspartate
aminotransferase (AST)
、胆道系酵素であるalkaline phosphatase (ALP)
、total bilirubin
(T-Bil)
などが用いられている。肝細胞障害型ではALT
およびAST
の上昇が、胆汁うっ滞型では
ALP
およびT-Bil
の上昇が認められる。しかし、ALT
は飲酒や運動により 一過性に上昇することや、AST
は心筋および骨格筋にも存在し、心疾患などによって も上昇することが知られており(Nathwani et al., 2005; Antoine et al., 2009)
、肝障害を特 異的に検出しているとは言いきれない。また、これらの血中マーカーでは肝障害の部 位や病型の特定を行うことは不可能である。一方、ウイルス性肝炎の診断には、ウイ ルス抗原や抗体を測定するなどのさらなる検査が必要となる。薬物性やアルコール性 肝障害の診断においては、医薬品の服用やアルコール摂取の聴取など患者の自己申告 に頼るため、診断を誤る場合がある。血中マーカーで原因や病型が特定されない場合、肝生検が行われることもある。肝生検は肝組織を直接観察するため最も確実な検査法 とされ、肝障害の程度の判定、原因不明の肝障害の診断および黄疸の原因究明が可能 である。しかし、食事制限や麻酔を要するなど患者への負担が大きい。そのため、様々 な肝障害を分類できる低侵襲性の血中マーカーの開発が急務である。筆者らは過去の 検討において、薬剤性肝障害 (肝細胞壊死型および胆汁うっ滞型)、脂肪肝、非アルコ ール性脂肪性肝炎 (NASH)、肝線維症のモデルラットを作成し、血漿中
miRNA
の網 羅的発現変動解析を行うことで、肝障害の病型によって血漿中miRNA
発現プロファ イルが異なることを明らかにした(Yamaura et al., 2012)
。さらに、肝臓に特異的かつ 豊富に発現しているmiR-122
の経時的発現変動解析および肝細胞壊死の程度との比 較から、血中miRNA
のバイオマーカーとしての有用性を示した (Yamaura et al., 2012)。そこで本研究では、ヒトにおいても血中
miRNA
が種々の肝障害を分類できるか、様々 な病型の肝障害患者の血清中miRNA
の発現プロファイルを評価した。骨格筋障害は市場撤退となり得る副作用の一つであることから (Olson et al., 2000)、
医薬品開発において重篤な骨格筋障害リスクの早期検出が求められている。例えば、
セリバスタチンは重篤な横紋筋融解症に起因する死亡例が多数報告されたことから、
2001
年に販売中止となった(Kalaria and Wassenaar, 2002)
。現在、臨床で筋疾患のバイオマーカーとして用いられている血中の
creatine kinase (CK)
もしくはlactate
dehydrogenase (LDH)
は、非臨床毒性試験においても骨格筋障害の検出に頻用されている
(Grindem et al., 2017)
。しかし、CK
やLDH
は心筋や脳、肝臓などでも発現が認 められており、これらの臓器障害の際にも血中で増加することが知られている(Grindem et al., 2017)。さらに、 CK
やLDH
は運動 (Sastre et al., 1992) や加齢、筋肉量、妊娠、飲酒 (Matsuzaka et al., 2014) によって変動することが報告されており、骨格筋 障害を特異的に検出しているとは言いきれない。近年、
skeletal muscle troponin I (sTnI)
やmyosin light chain 3 (Myl3)
がヒトやラットの骨格筋疾患/
障害のバイオマーカーと して有用であることが報告された (Simpson et al., 2005; Matziolis et al., 2011; Burch etal., 2016)。しかしながら、消失の早さや腎不全時に血中で変化するといった課題も報
告されている(Tonomura et al., 2012)
。従って、骨格筋障害に特異的かつ高感度で、非 臨床毒性試験で利用可能なバイオマーカーの同定が求められている。骨格筋に豊富に 発現しているmiR-206
は (Minami et al., 2014)、骨格筋細胞の増殖や分化に重要な役割 を有していることが知られており (Chen et al., 2010; Dey et al., 2011; Ma et al., 2015)、また血中
miR-206
が臨床で筋ジストロフィー(Hu et al., 2014)
や骨格筋萎縮(Wang et
al., 2017)
、筋萎縮性側索硬化症(Toivonen et al., 2014)
といった筋疾患のバイオマーカ ーとなり得ることが報告されている。加えて、筋毒性を誘発するタイガースネーク由 来毒素であるノテキシンをラットに投与した際、血漿中のmiR-206
が上昇することが 報告されている(Siracusa et al., 2016)
。しかしながら、血中miR-206
が医薬品開発に おける非臨床毒性試験で薬剤性骨格筋障害の検出に利用可能かどうかは明らかにな っていない。そこで本研究では、血中miR-206
が薬剤性骨格筋障害のバイオマーカー となるか、モデルラットを構築して血中miR-206
および既存の骨格筋に発現するパラ メーターを測定し、評価を行った。第 I 章
miRNA
のバイオマーカーとしての役割ヒト全
miRNA
のうちの約10%
程度が組織もしくは細胞特異的に発現していることが知られている
(Ludwig et al., 2016)
。miRNA
の発現は炎症、低酸素状態、また薬剤 処置といった外因性刺激によって変動すること、また老化や心疾患、がんなどの疾 患の過程によっても変動し、発症・進行に寄与していることが報告されている(Bracken et al., 2016; Lin et al., 2016; Zhu et al., 2017; Kreth et al., 2018)
。例えば、乳癌の 発症・進行にmiR-27b
によるCYP1B1
の発現制御が関与している可能性が報告され ている (Tsuchiya et al., 2006)。CYP1B1はシトクロムP450
分子種であり、エストロ ゲンをDNA
損傷性の代謝物に変換することから発癌に関与していることが知られている。
Tsuchiya
らの報告では、乳癌組織において非癌部と比べてmiR-27b
の発現量が低いことが癌組織で
CYP1B1
タンパク質が高発現する原因であることが示され ている。さらに癌組織で発現が増加するmiR-21
も癌遺伝子としての役割を担ってお り、癌の発症や進行に寄与することが知られている(Toiyama et al., 2013; Feng and
Tsao, 2016)
。また、疾患の発症や進行に様々なmiRNA
が複雑に関与しているケースもあり、その例として肝臓の線維化が挙げられる。肝臓の線維化は細胞外マトリッ クスが無秩序に増加することで発症・進行していくが、肝での細胞外マトリックス 産生には肝星細胞が重要な働きをしていることが知られている (村脇, 川崎, 1999)。
さらに星細胞の増殖、活性化、マトリックス産生能に各種のサイトカインが関与し ているが、中でも
transforming growth factor β1 (TGF-1)
は最も強力な線維化促進性 サイトカインである (Massague, 1990; Border and Noble, 1994)。miR-194、miR-29、miR-150
は肝星細胞の活性化に寄与し、またmiR-192
やmiR-133a
はTGF-1
を制御 することが知られている(Roderburg et al., 2013; Sanjay and Girish, 2017)
。このように、様々な
miRNA
が複雑に線維化関連の遺伝子やパスウェイを制御することで、発症や進行に関与していると報告されている。
2008年にmiRNAsが血中に存在しており、そのうちmiR-141が前立腺がん患者におい
て有意に高い値を示すことが報告された(Mitchell et al., 2008)
。この報告以降、がん(Cermelli et al., 2011; Ding et al., 2012)
に加え、肝障害(Starkey et al., 2011; Roderburg et
al., 2011)、心不全 (Devaux et al., 2017)
など様々な疾患において、血中miRNAsがバイ オマーカーとなる可能性が報告されている。このうち、肝障害に関しては臨床検体を 用いた検討に加え、非臨床検体を用いた検討(
マウス:Wang et al., 2009
、ラット:Laterza et al., 2009; Yamaura et al., 2012;
、カニクイザル:Iguchi et al., 2018
、イヌ:Oosthuyzen et al., 2018; Eman et al., 2018)
も多くなされており、種を超えて肝障害時に 血中miRNAが変動することが分かっていることから、医薬品開発における非臨床試験 でもバイオマーカーとして利用できる可能性が示されている。ある疾患で血中での
miRNA
の発現が増加する主なメカニズムとして、細胞障害によ る漏出型と、細胞での発現が増加し血中にも反映される分泌型の2種類がある。漏出 型は、ALTなどの逸脱酵素と同様に細胞膜の損傷に伴う細胞内成分の漏出により、血 中で発現が増加すると考えられており、例えば肝臓に特異的かつ豊富に発現しており 肝障害により血中での発現が増加するmiR-122
がある(Wang et al., 2009)
。一方、分泌 型では、癌などの疾患によって細胞内での発現が増加したmiRNAが、エンドサイトー シスにより血中に分泌されることにより、血中で発現が増加すると考えられており、例として
miR-21
がある(Toiyama et al., 2013)
。分泌型メカニズムにより血中での発現 が増加するmiRNAs
に関しては、疾患との関連も十分に評価されている点を踏まえて も、バイオマーカーとしての有用性は高いと考えられる。miRNAをバイオマーカーとして用いる利点として、罹患しているか否かの診断にと
どまらず、疾患の程度や進行度に関しても評価できる可能性が報告されている。例と して、従来の腫瘍マーカーでは即時の治療が必要な悪性度の高い腫瘍であるか、その 必要はないものかを判断することは非常に困難であった。Mihelich ら (2015) は前立 腺癌患者の血清より miRNA を採取して解析し、14 種類の miRNA の発現パターン が、悪性度が高い腫瘍の患者と悪性度が比較的低い腫瘍の患者では異なることを見出 した。この結果を利用することにより、即時の治療が必要のない患者に対する過剰な 治療を防ぐことができる可能性がある。また前立腺癌については、骨へ転移するケー スが多く認められるが、骨転移は患者の生存率と密接な関係が知られており、骨転移al., 2016)。このように、血中miRNAを用いることで疾患の診断に加え、疾患の程度や
進行度に関しても評価できる可能性があることから、多くの大学・企業で研究が行わ れてきた。近年の日本における取り組みとしては、2014
年より産官学によるNEDO
研 究開発プロジェクト「体液中マイクロRNA
測定技術基盤開発」が開始され、臨床検体 を用いた大規模なmiRNAの癌診断バイオマーカーとしての検証実験が行われている。当プロジェクトにおいては、臨床現場における血清中のmiRNAの抽出から検出までを 全自動で、簡便かつ短時間に行えるような自動検査システムの開発も行われており、
臨床現場での実用化が現実的になりつつある。
以上、血中miRNAは様々な疾患でバイオマーカーとしての有用性に関する報告が多 数なされており、今後、臨床や非臨床での実用化が期待されている。このような背景 のもと、本研究では血中
miRNA
が臨床現場における肝障害バイオマーカーおよび非臨 床毒性試験における薬剤性骨格筋障害バイオマーカーとなるか評価を行った。第 II 章 肝障害患者における血清中miRNAの網羅的発現変動解析
第
1
節 緒言本章では、様々な肝障害患者において血中
miRNA
が種々の肝障害を分類可能なバ イオマーカーとなるか明らかにすることを目的とし、肝障害患者の血中miRNA
発現 変動解析を行った。B
型肝炎(Hepatitis B, HB)
、C
型肝炎(Hepatitis C, HC)
、自己免疫 性肝炎(Autoimmune hepatitis, AIH)
、原発性胆汁性肝硬変(Primary biliary cirrhosis, PBC)、NASH、薬物性肝障害 (Drug-induced liver injury, DILI)
患者および対照群とし て肝臓に異常が認められないヒトの血清からRNA
を抽出してTaqMan microRNA array
解析を行った。第
2
節 実験材料および実験方法II-2-1
実験材料および試薬TaqMan MicroRNA Reverse Transcription Kit、 mirVana PARIS Kit、 2× TaqMan Universal Master Mix NoAmp Erase UNG、Megaplex Primer Pools Human Pools、TaqMan Human MicroRNA Array v2.0
はApplied Biosystems (Foster City, CA)
より購入した。RNAiso Plus
およびDr. GenTLE Precipitation Carrier
はタカラバイオ(Shiga, Japan)
より購入し た。その他の試薬は和光純薬工業等の特級または一級のものを用いた。以下に本章 で使用した試薬の組成を示した。II-2-2
肝障害患者の血清Table 1. Clinical data of patients with liver injury or control.
HB: Hepatitis B, HC: Hepatitis C, AIH: Autoimmune hepatitis, PBC: Primary biliary cirrhosis, NASH: Non-alcoholic steatohepatitis, DILI: Drug-induced liver injury, Ctrl: Control.
Group No. Age Gender ALT ALP
HB
1 60 M 43 317
2 57 F 181 259
3 59 M 61 222
4 34 F 26 27
5 54 M 27 192
6 59 F 18 239
HC
1 52 M 47 251
2 66 F 146 233
3 50 F 52 230
4 61 M 27 31
PBC
1 40 F 114 481
2 54 F 66 837
3 54 F 33 364
AIH
1 46 F 323 382
2 67 F 22 260
3 54 F 83 286
NASH
1 47 M 183 455
2 52 M 110 129
3 53 M 33 251
4 41 F 218 138
5 28 F 123 214
DILI
1 53 M 175 1473
2 43 M 212 736
3 69 M 1141 528
4 70 M 843 661
5 45 F 236 359
6 50 M 684 487
7 65 F 722 222
Ctrl
1 68 F 22 231
2 68 F 18 348
3 58 M 11 182
4 52 M 15 171
肝障害患者の血清は、富山大学医学部第三内科 田尻 和人博士、峯村 正実博士
(現富山大学附属病院
地域医療総合支援学講座 客員教授) よりご供与頂いた。肝障害の分類、年齢、性別、血中マーカー値および既往症を
Table 1
に示す。対照群とし て、肝臓に異常が認められないヒト(control
と記す)
の血清サンプルも得た。II-2-3 mirVana PARIS Kit
を用いた血漿からのRNA
の抽出TaqMan microRNA array
解析に用いるRNA
はmirVana PARIS Kit
により抽出した。血清
600 µL
に2× Denaturing Solution
を600 µL
加えて転倒撹拌し、5分間氷冷した。1.2 mL
のAcid-Phenol:Chloroform
を加えて5
分間撹拌し、12,000 rpmで5
分間遠心分 離した。上清を回収し、同様にAcid-Phenol:Chloroform
を加えて抽出の操作を行った。上清を回収して
1.25
倍容の100%
エタノールを加え、転倒撹拌した。Collection Tube
にFilter Cartridge
をのせてサンプルをアプライし、12,000 rpm
で30
秒間遠心分離した。ろ液を捨て、
miRNA Wash Solution 1
を700 µL
アプライし、12,000 rpm
で15
秒間遠心 分離した。ろ液を捨て、Wash Solution 2/3
を500 µL
アプライし、12,000 rpm
で15
秒 間遠心分離した。ろ液を捨て、再度Wash Solution 2/3
で洗浄し、さらに12,000 rpm
で1
分間遠心分離した。Filter Cartridgeを新しいCollection Tube
に移し、95°Cに加温し たNuclease-free water 100 µL
を加え、12,000 rpmで30
秒間遠心分離した。II-2-4 RT
反応によるcDNA
の合成II-2-3
で抽出したRNA
溶液3 µL
にNuclease-free water 0.2 µL、 25 mM MgCl
20.9 µL、
10× RT Buffer 0.8 µL
、10× Megaplex
TMRT primers 0.8 µL
、100 mM dNTPs (with dTTP) 0.2
µL
、20 U/µL RNase Inhibitor 0.1 µL
、50 U/µL Multi Scribe
TMRT 1.5 µL
を加え、全量を7.5 µL
とし、5
分間氷冷した。16°C
で2
分、42°C
で1
分、50°C
で1
秒の反応を40
サ イクル行った後、85°Cで5
分間処理することで酵素を失活させた。II-2-5 PreAmp
反応によるcDNA
の増幅I-2-4
で得たcDNA
溶液2.5 µL
にNuclease-free water 7.5 µL
、10× Megaplex PreAmp Primers 2.5 µL
、2× TaqMan PreAmp Master Mix 12.5 µL
を加え、全量を25 µL
とし、5
分間氷冷した。95°C
で10
分、55°C
で2
分、72°C
で2
分反応させ、さらに95°C
で15
秒、60°Cで4
分の反応を12
サイクル行った後、99.9°Cで10
分間処理することで酵 素を失活させた。II-2-6 TaqMan microRNA array
解析TaqMan Human MicroRNA Array
を用いて、7900HT Fast real-time PCR System (Applied Biosystems)
にてアレイ解析を行った。TaqMan Human MicroRNA Array
は2
つのサブセット (AとB)
で構成されており、計664
のプローブが搭載されている。I-2-5
で得たPreAmp
産物9 µL
に2× TaqMan Universal Master Mix NoAmp Erase UNG 450 µL
とNuclease-free water 441 µL
を加えて転倒撹拌した。TaqMan microRNA array
のポートに100 µL
ずつ注入し、1,200 rpm
で1
分間の遠心を2
回行った後、シールし た。50°Cで2
分、95°Cで10
分反応させた後、95°Cで15
秒、60°Cで1
分の反応を40
サイクル行った。II-2-7
主成分分析本検討においては、(40-Ct) 値を解析に用い、この値が高いと発現レベルが高いこ とが判断しやすいようにした。まず、
1
つ以上の検体において40-Ct
値がメーカー推 奨のカットオフ値である8
以上の値を示したmiRNA
を絞り込んだ。なお、40-Ct
値が8
以下のmiRNA
に関しては、非特異的な増幅を検出している可能性があるため、40-Ct
値を
0
として以降の評価を実施した。絞り込んだmiRNAs
のうち、ANOVA解析から いずれかの群において有意な変化(P < 0.05)
があると判断された37 miRNAs
を用い てPartek Genomics Suite version 6.12 (Partek, St. Louis, MO)
により主成分分析を実施した。
II-2-8
統計解析Graphpad Prism 8.0.2 (GraphPad Software Inc., La Jolla, CA, USA)
を用い、血中で検出された
miRNA
数の対照群と肝障害群での比較解析にはStudent’s t-test
を、miRNAの発現量の各群間での比較解析には
Tukey's Multiple Comparison Test
を用いた。P < 0.05 の時、統計学的に有意とした。第
3
節 実験結果II-3-1
肝障害患者血清中miRNA
の網羅的発現プロファイル解析32
名の肝障害患者および4
名の対照群の血清を用いて、miRNAの網羅的発現プロ ファイル解析を行った。(40-Ct)
値がカットオフ値である8
以上で増幅されたmiRNA
の数を
Table 2
に示す。検出されたmiRNA
の数は個人で異なることが明らかとなった。また、対照群と比べて肝障害患者で検出される
miRNA
の数が多いという傾向は認め られなかった。全
32
検体のうち、1
つ以上の検体において40-Ct
値がメーカー推奨のカットオフ値 である8
以上の値を示したのは、201 miRNAs
であった。これら201 miRNAs
のうち、対照群および各肝障害群のいずれかの群間で、これらの
miRNA
の発現量に有意差が 認められたのは37 miRNAs
であった (Fig. 1)。37 miRNAs
のうち、miR-218、 miR-363、 miR-518f、 miR-628-5p、 miR-888、 miR-523、
miR-141
、miR-302b
およびmiR-643
は対照群でのみで検出され、どのタイプの肝障害群でも検出されなかった。
miR-29a
は対照群と比較して全肝障害群で有意に低い値を 示し、さらにAIH
群ではDILI
群と比較して有意に低い値を示した。miR-573は対照 群と比較してDILI
群で有意に低い値を示し、PBC
およびAIH
群では検出されなかっTable 2. Number of miRNAs whose levels were over the cut off value.
Groups No. Number of miRNA
(40-Ct)>8
HB
1 127
2 111
3 91
4 63
5 97
6 85
HC
1 76
2 89
3 67
4 37
PBC
1 78
2 71
3 74
AIH 1 105
2 100
3 86
NASH
1 60
2 98
3 101
4 130
5 121
DILI
1 95
2 111
3 135
4 127
5 112
6 87
7 87
Ctrl
1 55
2 65
3 91
4 101
Fig. 1. Levels of 37 miRNAs whose expression in serum was significantly different between the groups. The values are 40-Ct. The heat map was generated with Excel 2016 (Microsoft). The color scale of 40-Ct is shown at the right of the figure. Red and green color represents high and low expression of miRNA, respectively.
1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 1 2 3 1 2 3 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4
hsa-miR-218 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 18.0 18.6 19.1 18.4 2.0E-40
hsa-miR-363 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 9.0 10.7 9.0 9.0 6.7E-26
hsa-miR-518f 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 16.0 15.3 16.7 13.3 6.4E-25 22
hsa-miR-628-5p 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 8.8 0 0 0 8.1 0 0 0 0 19.7 20.0 20.5 18.4 3.9E-12 21
hsa-miR-888 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 10.1 0 0 0 0 0 14.3 12.6 17.7 11.0 2.7E-09 20
hsa-miR-523 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 9.5 13.2 10.4 1.1E-05 19
hsa-miR-141 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 11.2 10.3 10.8 5.8E-06 18
hsa-miR-302b 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 9.0 9.4 10.1 0 6.0E-06 17
hsa-miR-643 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 13.9 16.3 0 1.0E-02 16
hsa-miR-29a 11.8 9.7 8.9 9.8 9.6 9.0 0 9.7 8.9 0 9.8 9.7 8.8 0 0 9.3 0 10.6 10.3 11.9 9.6 8.8 8.8 11.1 10.8 11.2 10.6 9.5 20.1 21.2 21.2 21.3 1.8E-06 15
hsa-miR-573 0 0 0 21.1 19.0 19.6 0 0 0 20.7 0 0 0 0 0 0 0 0 0 20.6 20.3 0 0 0 0 0 0 17.3 15.5 23.3 23.2 17.5 3.1E-02 14
hsa-miR-378 11.4 10.1 10.5 0 0 0 11.2 10.9 10.4 0 9.8 8.5 8.9 9.8 8.2 0 8.2 9.3 8.1 0 0 9.4 10.5 12.6 12.1 9.9 9.3 8.1 0 0 0 0 1.9E-02 13
hsa-let-7b 10.3 13.1 10.3 0 0 0 0 12.3 0 0 12.7 11.3 9.1 9.5 10.2 11.0 0 12.2 11.6 0 0 11.1 11.5 12.9 13.3 12.4 10.9 0 0 0 0 0 2.5E-02 12
hsa-miR-122 13.6 14.8 15.0 15.0 12.6 9.2 10.2 12.7 12.4 0 15.0 14.1 12.8 12.6 0 11.1 11.2 14.9 10.4 14.8 14.1 13.8 14 17.5 18 14.5 12.0 14.7 8.2 0 8.6 0 1.7E-03 11
hsa-miR-192 12.3 12.2 11.2 12.7 12.0 9.3 0 11.8 9.3 0 11.8 11.7 8.8 8.6 0 10.6 0 11.1 9.8 11.7 12.8 13.0 9.8 14 13.7 11.2 8.8 13.9 0 8.6 0 0 5.0E-03 10
hsa-miR-574-3p 0 0 0 11.1 13.4 11.9 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 12.8 12.1 0 11.3 12.1 11.8 12.7 12.1 11.5 0 0 0 0 5.3E-03 9
hsa-miR-193a-5p 8.7 8.4 0 0 0 0 0 0 0 0 8.1 8.2 0 0 0 0 0 9.3 0 0 0 11.2 10.3 13.3 11.8 10.7 10.3 10.5 0 0 0 0 5.9E-06 8
hsa-miR-148a 9.4 8.4 8.2 8.1 0 0 0 0 0 0 8.4 8.7 0 0 0 0 0 8.7 0 10.6 0 9.2 10.3 11.7 11.3 9.4 8.4 12.0 0 0 0 0 1.4E-04 7
hsa-miR-520d-5p 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 10.5 10 10.5 8.5 8.6 0 0 0 0 0 7.6E-05 6
hsa-miR-16 17.4 17.0 16.0 14.3 17.0 15.6 14.8 15.0 13.4 13.2 18.1 15.9 15.3 13.9 15.6 15.2 13.6 16.6 16.6 16.6 15.5 16.0 16.9 18.3 18.8 18.2 16.9 16.8 12.2 15.7 14.4 15.8 2.7E-03 5 hsa-miR-222 15.1 14.9 13.9 12.4 14.9 14.1 13.8 14.5 13.2 10.7 14.7 14.0 13.3 13.1 13.6 13.4 13.4 15.1 15.6 15.1 14.1 15.4 14.6 17.1 16.4 15.9 15.3 13.7 11.7 12.3 12.5 14.1 4.0E-03 4 hsa-miR-320 14.5 14.2 12.3 12.1 13.8 13.2 12.8 13.8 11.9 10.0 15.5 13.3 13.0 12.8 12.6 12.1 13.0 14.2 14.4 14.2 13.0 14.6 14.5 15.9 15.6 14.1 13.0 15.6 11.8 11.8 12.6 13.6 5.7E-03 3
hsa-miR-345 10.6 9.1 8.2 0 8.3 8.7 0 9.2 0 0 0 9.1 8.0 0 0 0 0 8.9 9.4 9.9 9.2 10.3 8.9 9.1 8.3 10.4 9.1 9.8 0 0 0 0 3.0E-04 2
hsa-miR-483-5p 11.2 12.2 9.4 9.7 9.9 8.6 10.2 13.0 9.3 8.9 11.8 10.9 8.8 11.9 8.1 0 12.2 12.2 10.1 10.2 11.5 14.4 11.5 14.8 14.5 13.6 12.5 14.5 9.2 0 0 8.5 7.2E-04 1
hsa-miR-193b 10.7 11.4 10.2 9.7 10.6 0 0 11.5 8.8 0 12.2 10.6 0 0 0 0 9.3 11.7 9.4 11.1 12.3 12.3 11.5 13.5 13.6 10.5 0 15.0 0 0 0 0 1.4E-03 0
hsa-miR-21 12.4 13.0 11.5 0 10.3 8.9 8.8 10.4 0 0 13.0 12.8 10.5 11.4 10.8 9.7 9.7 12.5 11.8 12.8 11.2 13.5 14 16.1 15 12.3 11.7 11.5 8.5 0 9.6 10.4 1.3E-02 hsa-miR-20a 16.0 16.3 15.6 11.6 14.0 13.4 12.2 13.0 11.6 0 17.0 15.3 13.6 12.6 14.3 13.4 11.5 15.4 15.3 15.9 13.7 14.1 15.4 16.1 16.6 15.8 14.2 14.1 11.3 14.2 14.3 14.6 3.3E-02 hsa-miR-92a 16.5 16.0 14.8 13.2 14.5 14.8 13.5 13.7 12.8 9.7 17.8 15.2 13.8 13.0 13.7 12.2 13.8 15.6 15.4 15.6 15.1 15.5 15.2 16.7 17.7 15.9 14.4 17.0 10.3 13.6 14.7 14.5 3.2E-03
hsa-miR-375 9.4 9.1 9.5 0 0 0 0 0 0 0 9.2 8.6 8.2 10.1 8.5 9.5 0 9.3 9.2 9.2 0 10.1 10.2 12.1 13.4 12.0 0 9.3 0 9.0 0 0 1.1E-02
hsa-miR-423-5p 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 8.5 8.2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 8.2 0 8.8 9.3 8.7 0 0 0 0 0 0 4.1E-03
hsa-miR-374a 11.9 11.4 9.9 9.3 10.9 10.5 8.8 9.2 0 0 9.7 10.6 9.7 10.0 9.8 9.4 8.4 10.9 10.2 12.4 10.3 10.3 10.7 11.1 10.9 10.3 10.6 9.1 0 0 10.0 10.5 7.3E-03 hsa-miR-19a 12.2 12.4 11.1 11.0 12.2 11.6 0 9.7 0 8.2 12.0 11.0 10.0 8.6 9.7 10.0 8.8 11.3 11.1 13.6 12.1 10.6 11.4 13.5 11.3 12.8 12.1 12.9 0 9.1 9.7 11.8 3.0E-03 hsa-miR-19b 16.9 16.2 15.4 13.9 15.9 14.7 13.5 14.7 13.2 10.9 17.1 15.6 14.8 14.0 15.0 14.3 13.6 16.0 16.0 16.9 15.4 15.2 15.4 16.9 15.7 16.7 15.9 16.2 11.7 14.6 14.6 15.6 6.9E-03 hsa-miR-26b 12.0 11.8 11.4 11.5 12.0 10.7 8.6 9.2 0 0 10.6 10.4 9.6 8.8 8.9 9.9 8.2 11.4 11.3 14.1 11.7 11.0 10.7 12.6 11.7 11.8 10.3 9.8 0 9.8 9.0 10.9 4.6E-03 hsa-miR-142-3p 13.0 12.2 12.3 11.5 11.1 10.7 9.0 8.7 8.0 0 10.8 12.2 10.6 11.3 10.4 10.7 9.0 12.5 12.3 14.4 11.2 12.3 12.7 13.8 13.2 12.2 11.1 10.0 10.1 10.3 11.0 11.9 2.3E-03 hsa-miR-25 12.8 12.2 11.3 9.8 11.2 10.4 0 10.1 0 0 13.7 11.6 9.0 0 10.0 9.8 9.1 11.8 11.1 12.3 10.8 11.1 10.8 13.2 13.4 12.0 10.7 11.3 15.8 16.0 16.1 15.7 7.7E-06 hsa-miR-451 15.1 15.0 13.5 11.7 13.7 12.4 9.4 9.7 9.9 0 16.1 13.7 12.5 9.4 12.0 10.7 9.5 13.9 13.6 14.1 13.1 12.9 15 16.3 17 14.1 13.3 12.6 8.2 12.7 12.3 12.5 1.5E-03
Color Scale (40-Ct) p-value
miRNAs
Expression level (40 - Ct)
HB HC PBC AIH NASH DILI Ctrl
対照群と比較して、肝障害群で高い値を示した
miRNAs
は以下の通りである。miR-378
とlet-7b
は対照群で検出されなかったのに対し、全肝障害群で検出された。miR-122
とmiR-192
は対照群と比較して全肝障害群で有意に高値を示した。miR-574-3p
は、対照群と比較してDILI
群で高い値で検出されたが、HC
、PBC
およびAIH
群で検出されなかった。miR-193a-5p
とmiR-148a
も対照群、HCおよびAIH
群で は検出されなかったのに対し、DILI
群では高い値で検出された。miR-520d-5p
はDILI
群のみで検出された。miR-16
およびmiR-222
は対照群およびHC
群と比較してDILI
群で有意に高い値を示した。miR-320
は対照群およびHB
群と比較してDILI
群で有意 に高い値を示した。miR-345およびmiR-193b
は対照群、AIHでは検出されなかったものの、
HB、NASH
およびDILI
群で高い値を示した。miR-483-5pは対照群と比較して、
HB
、NASH
およびDILI
群で有意に高い値を示した。次に対照群と肝障害群の間に差はないものの、各肝障害群の間で
miRNA
発現量に 有意な差が認められたmiRNAs
は以下の通りである。miR-21、miR-20a、miR-92aおよび
miR-375
はHC
群では検出されなかったのに対し、DILI
群で高い値で検出された。miR-423-5p
はDILI
およびPBC
群でのみ検出された。miR-374a
はDILI
およびHB
群 と比較してHC
群で有意に低い値を示した。miR-19a
、miR-19b
およびmiR-26b
はDILI
、HB
およびNASH
群と比較してHC
群で有意に低い値を示した。miR-142-3p、miR-25および
miR-451
はDILI、HB、PBC
およびNASH
群と比較してHC
群で有意に低い値を示した。以上の結果から、
37 miRNAs
の中には、各肝障害群間で有意な差が認められた
miRNAs
は存在するものの、一部のmiRNAs
は他の肝障害群においても類似した値を示し、肝障害の種類を分類するバイオマーカーとして単独の
miRNA
を利用する のは困難と考えられた。II-3-2
主成分分析による肝障害患者血清中miRNA
の網羅的発現量解析次に、主成分分析により肝障害患者血清中
miRNA
の発現プロファイルを解析した。主成分分析では、多くの変数により記述された量的データがある場合、これら変数間 の相関を排除し、総合指標となる合成変数を新たに作成する。合成変数は、できるだ
け多く元の変数の情報量を含むようにするため、データの散らばり具合、つまり分散 をもとに作成される。分散が最大の方向に軸をとり、その軸における変数を第一主成 分
(principal component 1, PC1)
と呼ぶ。しかし、PC1
のみでは元の変数の情報を全て 含むことは不可能なため、次に分散が大きい方向に軸をとり、その軸における変数を 第二、第三成分と作成していく。また、各成分が全成分のどの程度の割合を説明でき るか示した値が寄与率として算出される。対照群および各肝障害群のいずれかの群間で
miRNA
の発現量に有意差が認められた
37 miRNAs
の発現量について主成分分析を行ったところ、PC1
では全体の43.9%
の寄与率を示し、
PC2
は22.6%、 PC3
は6.99%、 PC4
は5.43%を示した。各検体の PC1、
2
および3
として作成された各変数を、それぞれX、Y
およびZ
軸にプロットしたと ころ、肝障害群と対照群が離れた位置にプロットされた(Fig. 2A)
。従って、肝障害患 者と健常人をPC1
、2
および3
の成分を用いたプロットにより、分類できることが明 らかとなった。しかしながら、肝障害群のうち、HB、PBC、NASHおよびDILI
群は 比較的近い位置にプロットされたことから、これらの肝障害における37 miRNAs
の 発現プロファイルは類似しており、PC1
、2
およびPC3
の変数では肝障害の病型を区 別するのは困難であることが判明した。次に、PC2
、3
および4
を軸にプロットした ところ、HBとNASH
群は比較的近くにプロットされたものの、他の肝障害群に関し ては離れた位置にプロットされた (Fig. 2B)。従って、PC2、3および4
の成分を用い ることで、各肝障害を区別可能であることが示された。以上、対照群と肝障害群では血中
miRNA
発現プロファイルが大きく異なり、さら に肝障害の病型および病因によっても発現プロファイルに違いがあることが明らか となった。従って、これら37
種類のmiRNA
の血清中発現パターンは、肝障害の病型 および病因を特定可能なバイオマーカーとなり得ることが示唆された。Fig. 2. PCA of serum miRNA expression in 6 hepatitis B (HB), 4 hepatitis C (HC), 3 primary biliary cirrhosis (PBC), 3 autoimmune hepatitis (AIH), 5 non-alcoholic steatohepatitis (NASH), 7 drug-induced liver injury (DILI), and 4 control (Ctrl). PCA was performed using 37 miRNAs that exceeded the cut off value in all subjects (n = 32). (A) A three-component model was developed that explained a total of 73.49%
(PC1, 43.9%; PC2, 22.6%; PC3, 6.99%) of the variability of the data. (B) A three-component model was
developed that explained a total of 35.02% (PC2, 22.6%; PC3, 6.99%; PC4, 5.43%) of the variability of the
data. Each ball representing an individual is connected to the centroid of each group. The numbers near the
balls represent the subject number.
第
4
節 考察肝障害と言っても多種多様な病態が存在する中で、近年、ある一種類の肝障害患者 と健常人での血中
miRNA
の変化を比較している論文が散見される(Starkey et al., 2011; Roderburg et al., 2011)。このような評価の場合、報告された miRNA
が当該肝障 害の特異的なバイオマーカーとして利用可能かは不明である。この問題を解決するた め、本研究ではHB
、HC
、AIH
、PBC
、NASH
、DILI
患者および対照群の血清中miRNA
の網羅的な発現プロファイリング解析を行った。Noren
ら (2010) はmiRNA
の発現プロファイルが加齢により変化することを報告しているため、対照群は患者群と同程度の年齢の検体を用いた。加えて、血清や血漿に おけるいくつかの
miRNA
の発現量には性差が認められるとの報告もある(Duttagupta et al., 2011; Wang et al., 2012)
。本検討では、各群の検体数はmiRNA
の発現量の性差を 評価するには十分ではないと判断し、性差は考慮せず、群間でのmiRNA
の発現量の 変化を評価した。血中
miR-122
はHB (Cermelli et al., 2011)
やHC (Ding et al., 2012)
、NASH (Cermelli et al., 2011)
、アルコール性肝障害(Zhang et al., 2010)
、DILI (Zhang et al., 2010; Starkey et al., 2011)
や肝がん (Cermelli et al., 2011; Ding et al., 2012) などの多くの肝障害のバイオ マーカーとして報告されている。本検討においても、miR-122はHB、PBC、NASH、
DILI
において対照群よりも有意に高い値を示した。加えて、HC
やAIH
でも対照群と 比較して高い値を示す傾向が認められ、過去の報告を支持するものであった。肝障害時の血中
miR-122
の増加は、肝臓特異的に発現するmiR-122
が肝臓の障害で肝細胞から血中に漏出したためであると考えられる。従って、miR-122は様々な肝障害を検出 する有能なバイオマーカーであるとともに、肝障害の種類を分類することは困難であ ることを意味する。
対照群および各肝障害群のいずれかの群間で
miRNA
の発現量に有意差が認められ た37 miRNAs
のうち、miR-218、 miR-363、 miR-518f、 miR-628-5p、 miR-888、 miR-523、
導性肝障害において、血清もしくは血漿中で発現量が増加することが示されているが、
これはアセトアミノフェン誘発性脳障害に起因していると報告されている (Starkey
et al., 2011)
。理由として、miR-218
が脳に高く発現していること、また血中miR-218
がアセトアミノフェン誘発性肝障害患者のうち、脳障害(grade 4)
を有する患者にお いて脳障害が認められない (grade 0) 患者と比較して有意に高い値を示したことがあ げられる。従って、miR-218は他臓器障害で血中での発現量が変動することから、単 独では肝障害のバイオマーカーに適していないと考えられる。本研究の結果ではmiR-218
を含む数種類のmiRNA
の減少が認められた。複数のmiRNA
を評価することで、他臓器障害による変動といったノイズを排除し、肝障害の診断を精度高く行える 可能性が示唆された。アルコール性肝硬変などの肝線維化を有する患者において血中 での
miR-29a
発現が低下していると報告されている(Roderburg et al., 2011)
。本検討では、
miR-29a
はすべての肝障害患者において低い値を示した。HB
、HC
、PBC
、NASH
は通常、肝線維化を伴っているものの、薬剤服用後、早期に発症する
DILI
では肝線 維化は認められないことが多い。従って、miR-29aは肝線維化のバイオマーカーでは なく、全般的な肝障害のバイオマーカーとして利用できる可能性が示唆された。miR-192
発現量はDILI
患者において血中で高値を示すことがStarkey
ら(2011)
によ って報告されているが、本検討ではDILI以外にHB患者においても高値を示すことが 明らかになった。また、Shwethaら (2013) は、miR-483-5p発現量がC型肝炎ウイルス 感染により血中で高値を示すことを報告している。本検討においてmiR-483-5p
はHC
患者で高い値を示す傾向にあったものの、HB
、DILI
、NASH
患者においても有意に高 い値を示した。Shrivastavaら (2013) はmiR-20aとmiR-92a発現量が血中で高値を示す ことから、これらのmiRNAsがC型肝炎ウイルス感染の早期バイオマーカーになると報 告している。しかし、本検討では、HC
患者におけるこれらの値は対照群と同程度で あり、一方、DILI
患者で高値を示すことが明らかになった。従って、miR-20a
とmiR-92a
はC型肝炎ウイルス感染のバイオマーカーとして利用できないと考えられた。miRNA
の細胞内における発現は、様々な疾患によって変化することが知られており
(http://www.miR2disease.org/)
、またmiRNA
による遺伝子の発現調節が疾患の発症 や進行の原因となることが知られている(Kreth et al., 2018)
。本検討において、対照群と各肝障害群のいずれかの群間での発現量に有意差が認められた
37 miRNAs
のうち、いくつかの
miRNAs
に関しては、肝障害の発症もしくは進行メカニズムへの関連が報 告されている。例えば、miR-29
は肝線維化を促すコラーゲンの発現抑制(Roderburg et
al., 2011)
、miR-21
はプログラム細胞死に関する遺伝子の発現抑制や抗炎症反応の促進(Szabo and Bala, 2013)、 miR-16
は抗アポトーシス遺伝子であるBcl2 (b-cell lymphoma 2)
の発現抑制およびTNF (tumor necrosis factor)
誘導性アポトーシスの促進 (Szabo andBala, 2013)
に関与すると報告されている。しかしながら、その他のmiRNAs
に関しては、肝障害への機能的関与は未だ解明されていない。本研究は肝障害を分類可能なバ イオマーカーの確立に向けた研究であり、よりバイオマーカーとしての妥当性を説明 するためには、今回抽出した
37 miRNAs
の肝障害における機能を明らかにする必要 があると考える。異なる原因や病名の肝障害であっても病態が類似しているために、一つもしくは数
種類の
miRNA
で肝障害の種類を分類することは困難であると考えられた。そこで、本研究では選定した
miRNA
に関してPCA
解析を行い、種々の肝障害を分類できない か検討を行った。Fig. 2
に示した通り、37 miRNAs
のプロファイルは肝障害群と対照 群で明確に区別されることが明らかになった。さらに、PCA
においてPC2
、3
および4
を軸に解析した結果、各肝障害群の変数がそれぞれ近くにプロットされたことから、37 miRNAs
の血清中発現量によって肝障害を分類できる可能性が示された。これに加え、様々な種類の肝障害を一度に診断可能であるという点において、本研究で見出さ
れた
37 miRNAs
は非常に有用なバイオマーカーになり得ると考えられた。以上、本章ではヒトにおいて血中
miRNAs
の発現プロファイルが肝障害病型によっ て異なることを明らかにした。今回見出した37
種類の血中miRNA
の発現プロファイ ルを評価することで、ヒトの肝障害を診断および分類できるツールとして使用できる 可能性が示唆された。第 III 章 薬剤性骨格筋障害モデルラットにおける
miR-206
の有用性検討第
1
節 緒言本章では血中
miR-206
が非臨床毒性試験において骨格筋障害を検出できるバイオ マーカーとなるか明らかにすること、さらに既存のバイオマーカーと比較して、感度 および特異性が優れたバイオマーカーとなるか明らかにすることを目的として、検討 を実施した。まず、2,3,5,6-
テトラメチル-p-
フェニレンジアミン(TMPD)
投与により 薬剤性骨格筋障害モデルラットを作製した。薬物の投与後、大腿筋、下腿筋、横隔膜 および頚多裂筋のヘマトキシリン・エオシン (hematoxyline eosin, HE) 染色を行い、骨格筋障害を評価した。既存のバイオマーカーである
CK
およびLDH
を血漿より、近年骨格筋障害のバイオマーカーとして注目されている
sTnI
およびMyl3
を血清より 測定した。また、血清よりRNA
を抽出し、real time PCR法を用いてmiR-206
を測定 した。加えて、過去社内試験において、骨格筋障害が認められたcompound A、B、C
およびD
を投与したラットの血清サンプルを用いた評価を行った。また、miR-206
の 骨格筋障害に対する特異性を評価するため、イソプロテレノール投与による心筋壊死 モデルラットを作成し、血清中Myl3
およびmiR-206
の測定を行った。第