曹禺「雷雨」の人称代名詞 : 言語面からの人物関 係の検証
著者 今井 敬子
雑誌名 人文論集
巻 48
号 1
ページ A209‑A229
発行年 1997‑07‑31
出版者 静岡大学人文学部
URL http://doi.org/10.14945/00001109
曹呂「雷雨」の人称代名詞
一言語面か らの人物関係の検証一
△ マ
は じめ に
小論は、テクス トの中で使用される言語標識を、テクス ト全体を視野におい て位置づけ、そのはたらきの特性 をテクス トの流れの中で分析することを目的 とする。具体的には、曹呂作の戯曲「雷雨」の台詞に見 られる人称代名詞 (二
人称、三人称 を中心に )を 取 り上げ、必要に応 じて呼びかけ語 も参考にしなが ら、語用論、談話文法論の観点から考察を加える。そして、テクス ト内におけ るそれらの標識の使用特性が、劇中の人物関係、人物特性をいかに反映 してい るか、具体的な人物に即 して検証を試みたい。
小論は次のような構成 になっている。
1.主 要人物 とあらすじ
2。 人称代名詞の使用基準 と使用範囲
3.人 物関係の個別検証 3.1魯 侍沐 と周朴園 3.2周 繁洵と周落
3.3魯 四鳳 と魯貴 t周 落、周沖
なお、引用例は 「曹呂文集 第一巻」 (中 国戯劇出版社 1988)所 収の 「雷雨」 D から収集 している。
1.主 要人物 とあらす じ
主要人物 は、炭坑 を経営す る周家の四人の家族 とその下僕の一家・ 魯家の四 人 の家族である。周家 は、主人・ 朴園 (55歳 )と 妻・ 繁洵 (35歳 )、 朴園の先 妻の生んだ長男・落 (28歳 )と 、繁洵の生 んだ次男の沖 (17歳 )力 れヽる。朴園 は絶対権力 をふ りまわす暴君的な夫、父である。繁洵 と継子の不 は不倫の関係 にあったが、清算 しようとする落 と、執着する索洵とが対立 している。沖は純 真で美 しい夢の中に生 きる人物である。
敬 子 井
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一方の魯家 は、主人・ 魯貴 (48歳 )と 妻・ 侍落 (47歳
)、侍落の連れ子であ る息子 0大 海 (27歳 )、 魯貴 と侍沐の娘 0四 鳳 (18歳 )の 四人 だが、魯貴 は周 家の下僕で、侍落 は家族 を離れてひ とり遠方で働 き、大海 は周家の炭鉱で働 く 労働運動の指導者、四鳳 は周家の下女 をしている。四鳳 は周家の長男・ 落 と秘 密の恋仲であ り、杯の弟・ 沖か らも想 いを寄せ られている。
30年 前、南方の町 にあった周家 に仕 える下女 の娘・侍落 (当 時 は梅侍落 )は 、 御曹司の朴園 と相愛関係 にな り、ふた りの男児 (落 と大海 )を 生んだが、大海 を生んだ直後 に捨て られ、追い出された。 30年 の後、北方の地で、侍落 と朴園 がはか らず も再会 した ことか ら、侍落が実 は落の生母であること、恋仲の澤 と 四鳳 は同母兄妹であることな ど、すべての秘密が明 らかになる。衝撃で部屋 を 飛び出 した四鳳 と彼女 を追 った沖 は、庭 の電線 に触れて感電死 し、落 はピス ト ル 自殺 をす る。大海 は失踪す る。子供たちを失った二人 の親が後 に残 され、そ の うちの二人一一侍沐 と索治は発狂す る。
四幕構成の ドラマは、ある夏の日の朝か ら翌 日の未明 までの短時間のあいだ に、限 られた空間 (周 家の客間 と魯家 )に おいて始 まり、展開 し、終結する。
主筋の四幕のほかに、プロローグ とエ ピローグが設 けられ、そこでは、時が移 つ て 10年 後の冬、かつての周家の屋敷が今で は教会付属病院 に変わ り、入院 して いる索満 と侍沐 を、老いた朴園が見舞いに訪れ る。
2。 人称代名詞の使用基準 と使用範囲
小論では、単数二人称 と単数二人称 の指示 を中心 に とりあげる。 まず、多用 されている二人称の使用か ら見てい く。
中国語の単数二人称代名詞 には、 ni"と その敬語体 nin"の 二形態があるP この両者 は、上下・ 親疎の違いによる対人関係や場面 に応 じて使 い分 けられ る が、 nin"は 、尊敬、あるいは疎遠、 ni"は 、親近 あるいは軽蔑のニ ュア ンス があることはよ く知 られている。
「雷雨」のテクス トのはじめか ら終わ りまでの流れの中で、使用 されている 二人称代名詞 を、指示者 (発 話者 )と 指示対象 (二 人称代名詞の場合 はすなわ ち聞 き手 )の 関係 ごとに調べ る と、次の ように大別で きる。
(1) ni"あ るいは nin"の 専用 (基 本的に一方だけを使用 ) (2) ni"と nin"の 両用
(2)に ついて、同一場面 における一連の会話 を単位 にして調査す ると、つぎ
のように分 けられ る。
(2‑1)始 まりでは ni"あ るいは nin"の 一方 を使 い、会話の進行 (時 間 的経過 )に 従 って、別の一方の使用 に移行す る。
(2‑2) ni"と nin"の 両者 を一連 の会話の中で交互 に、あるいは移行 の かたちで使用。
(2‑3)あ る会話 (場 面 )内 では ni"あ るいは nin"の 一方のみ、別の会 話 (場 面 )で は もう一方のみを使用。
(1)の よ うな一方のみの使用 は、 ni"に ついては多 くの人物関係 について 広 く見 られ るが、 nin"の みの使用 は限 られている。 その代表 は子→親 (指 示者
→指示対象 )の 場合である。た とえば、周家では、兄弟 ともに両親 を nin"で 指示し、魯家では兄妹ともに母を nin"で 指示する P父 の魯貴のみ ゴ "も 使 用される。従って、子→親の場合は nin"の使用が標準的で、魯貴の場合はこ の基準から逸脱 しているものと理解できる。魯貴に対 しては、息子の大海は終
始 ni"で 指示する。 これは大海が、周家に卑屈に仕える継父の魯貴を軽蔑 して
いるために、目上の尊敬すべき対象を指示する in"を つかわず、 ni"で 指示 するもの と考えられる。又、娘の四鳳は、 nin"を 基本にしながら ni"を 併用 する。 このケースは (2‑2)に 分類 される。
nin"の 専用に準ずると考えられるのが、下僕→主人の場合である。その状 況はやや複雑で、たとえば魯貴 は、繁洵、沐、沖を nin"で 指示する。四鳳は、
索洵には nin"を 、沖には、 ni"で指示する P沐 に対 しては、両者を使い分け ているため (2‑3)に 分類 される。 このように、魯貴 と四鳳 とでは使用状況 に違いがあることは、ふた りが同じ下僕の身であっても、実際にはその立場が 違っていることがうかがえる。
周家の主人
0本卜 園は、人称代名詞で指示されることの最 も少ない人物である。
魯貴、四鳳 は、岱名詞を使わずに 老爺 "で 指示するが、 これは nin"の 使用
に関して敬語 ̲Lの 制約がはたらいているのであろう。しかし、第二幕で、名前
を特定 されていない下僕が nin"で 指示 していることを考 えあわせ ると、下僕
→主人 は 亜 n"が 標準的 と理解 して もよいか もしれない。
(2)│ま (1)と はちがって限定 された関係 にだけ見 られる。
(2‑1)の タイプは、時間的経過 にしたがって、指示者 と指示対象の上下・
親疎関係が変わってい くとい う特徴がある。顕著なケースは、侍落→朴園で、
ふた りがはか らず も再会 した とき、本卜園に向かって、侍沐が徐々に素性 を明か してい く過程 に、 nin"か ら ni"へ のはっきりとした推移が見 られる。 また、
周不→侍沐 は、初対面では ni"を 、後 に四鳳の母であると知 ってか らは nin"
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を使 う。 こち らは一連の会話の中での移行ではないが、 このタイプに準ず るも の として分類で きる。
(2‑2)は 、指示者 と指示対象の関係 は単一で固定 しているが、心理的な 距離、発話効果な どが要因 となってい るタイプである。 ni"と nin"が 同等の 頻度で使用 されるケースはな く、両者の どち らかが使用度が高い。顕著 なケー スは四鳳→魯貴で、 」 n"が 基本であるが、 五 "が 一定程度 (12件 。 この他、
nin老 人家 "が 2件 )使 用 されている。四鳳→周沖 は 」 "が 基本だが、下女
→主人の関係 を強調する効果 をね らった nin"が 2件 見 られ る。 この両 ケース は、 nin"の 連鎖の中に、時 に ni"が 入 り込む とい うかたちである。
また、大海が、労働交渉のために朴園に接見する場面では、冒頭のあいさつ と それに準ず る短い会話だけが nin"で 、 その後 は ni"に 切 り替 わる。 こち ら は一方か らもう一方への移行のかたちである。
(2‑3)は 、指示者 と指示対象が複数の関係 をもつ場合 に、その使い分 け に応 じて ni"と nin"が 交替 して使用 され るタイプである。典型的なケース は、周落→繁洵で、ふた りだけの場面 (か つての愛人関係 )で は ni"を 、第二 者 の面前 (母 子の関係 )で は nin"を 使用す る。 また、四鳳→周落 は、会話場 面のほ とん どがふた りだけの場面であつて ni"が 使用 されているため、 ni"
の専用の ように見 えるが、実 は、第二者の同席す る場面で dn"を 使用 してい る例が一例 あるため、両用 して使い分 けていると考 えてよいだろう。
単数二人称代名詞 ta"り は、話者の眼前 にいる人物 を指示する場合 (現 場指 示 )と 発話 の中に現れ る人物 を指示す る場合 (文 脈指示 )が ある。 また、二人 称 の場合 と違 って、指示対象 と聞 き手が別の人物であ り、聞 き手の立場が ta"
の選択使用 に影響す る場合がある。
敬語上の使用制約が ta"に も認 め られることは、木村 (1990)に 詳 しいが、
「雷雨」で は、現場指示の ta"は 、用例が少ないため見極 めがむずか しい。文 脈指示の場合 は、用例が不十分ではあるが それで も、発話の相手 (聞 き手 )の
影響 に関 して一定の傾向が見 られ る。すなわち、子→親 は、 ta"で指示 してい る。下僕→主人 は、魯貴 と四鳳が、朴園に対 して ta"の 使用 を避 け 大少爺 "
を使 つている。一方、繁洵や周澪、周沖 に対 しては、聞 き手が発話者寄 り (魯 家の家族 な ど )の ときは ta"で 指示 していて、指示対象寄 り (周 家 の家族 )の
ときは、 ta"を 使 いに くい という傾向が見 られ る。
これ とは別 に、テクス トの流れの中で ta"を 見 る と、次の二点の用法 におい
て顕著な特徴が見 られ る。
(3)文 脈指示の場合、先行詞が前後の文脈内にない もの、あるいは、先行詞 があって もわか りに くい ものがある。 この用法 は全体 として多 くはない が、 索満が指示者である例が最多である。
(4) ta"を 使用 して、二人称以外 (一 人称、二人称 )を 指示す るような指示 の変換がみ られ る。全体の数はわずかだが、索洵に関するものが最多で ある。
以上 の全般的状況 に基づ き次節では、上の分類の (2)、 (3)、
(4)について、主要 人物の中の侍沐、繁治そして四鳳の三女性 に関心の焦点 を置 き、具体例 を挙げ
なが ら分析 を進 める。
3.人 物関係の個別検証
3.1魯 侍落 と周朴園、周薄
魯侍沐の発話 には、会話の進行 に ともなって人物関係が移 り変わる場合の、
二人称代名詞の典型的な用法が見 られる。
「雷雨」 には、二人の侍率がいる。むか し周家の下女であった梅侍澤、周落 の「亡 くなった」生母の侍沐、そして魯侍率である。第一幕の最後の部分で、
周本の亡母・ 侍澪 について、僕園 と息子の率の比較的長い会話があ り、二人の 侍澪の中で、 まずは彼女 にスポッ トライ トが当て られる。僕園は、亡 き妻・ 侍 沐の写真 を部屋 にかざ り、彼女の生前の習慣 に従って夏で も部屋の窓 を閉め切 り、亡母 に恥ずか しくない生活 をするように、 と自堕落な生活 に苦 しむ息子・
沐 にさとすのである。
魯侍沐 は、八人 の主要人物の中で最 も遅 く、第二幕 になって初 めて登場する が、彼女の出現が糸口になって、すべての秘密が発覚 し、終局の破滅へ と進む
ことになる。
彼女 は、周 繁洵に呼 ばれて周家の屋敷 を訪ねるとい うかたちで登場する。繁 洵が、息子・ 沖の四鳳への純真な想いに危険 を感 じて (周 落 と四鳳 の関係 を断 とうとす る気持 ち もあ り )、 四鳳 を解雇 しようとし、母親 の侍沐にそれ をいいふ くめるべ く呼び寄せたのである。
以前 は南方の無錫の地 にあった周家だが、その後、 ここ北方の地 に居 を移 し ている。朴園に捨 て られてか ら、あらゆる辛酸 をなめ尽 くした末に、今では魯 貴 の妻 となっている侍沐 は、夫 と娘の働 く屋敷が当の周家 とは知 らずに訪れる。
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が、音の ままに保存 された部屋の様子や、箪笥の上の「周家の当主の先妻であ り、長男の亡母」の写真 を見て、かつて仕 えた周家である │と を知 る。
その後侍落 は、部屋 を出る機会 を逸 し、入 ってきた朴園 とはか らず も対面す るはめになって しまう。最初 は新来の下女 と思って何 も気つかなかった本卜 園だ が、侍薄の もの ごしと無錫なまりの口調 に何かを感 じ取 る。 こうして始 まるふ た りの対話 は、前半のクライマ ックスである。
朴園にたずね られて侍落 は無錫で育 った と答 え、対話が始 まる。最初 は 老 爺 "(旦 那 さま )と 朴園 を指示 し、人称代名詞 はまだ使 われない。
朴 :(沈 思 )三 十多年前、是的、彼遠 唯、我想想、我大概是二十多歳的時 候。那時候我還在無錫
IFL。(物 思いに沈んで )30年 前、そう、ずいぶん 昔だ、た しか、わ しは 20才 とい くつかの頃だったろう、あの頃 はまだ 無錫 にいた。
侍 :老 爺0是那個地方的人 ? 旦那 さまは無錫 のかたでい らっしゃい ます か。 2‑99
侍落 は、顔 を会わせた当初か ら、相手が朴園であるとわかっていて、た くみ に会話 を続 けてい く。朴園が、むか し無錫で梅 とい う娘の投身 自殺があった こ とに言及す ると、侍落 は四鳳の母だ と名乗 りなが ら、「梅 とい う娘」を ta"で 指示 し、町中で うわさとなった彼女の苦難 の半生 を語 り聞かせ るである。
この間に、 老爺 "で の指示が 3件 あ り、そのあ と初 めて nin"が 使われ る。
最初 は次の例の ように、 nin"の みの指示 よりも丁寧度の高い 老爺、面
n・¨
"とい うパ ターンで使われている。侍澪が、梅 とい う娘が実 はまだ生 きているこ と、 しかもこの地にいることを告げると
:朴 :甚広 ? 地就在這児。此地 ?(な に、あれはここにいるのか、 この地 に )
聰、就在此地。
(ええ、 この地です
)暇 H(あ あ !)
老爺、恣想見一見地
rFL。(旦 那 さま、お会いにな りますか
)不、不、謝謝体。 (い や、いいよ、あ りが とう )2‑102
このあ と、同一会話中に 老爺 "と nin"が 併用 され るかたちを中心に、 nin"
が徐々に使用 を増す
(この間 に 老爺 "3件 、 亘 n"2件 )。
やがて侍不 は、かつて彼女が刺繍 をほどこした朴園のシャツに言及 し、朴園 はついに、 日の前の女が侍落であると気づ く。 ここか ら、侍落の指示の しかた は、 ni"に 切 り替わ る。
侍
本ト
侍
本ト
(徐 徐立起 )峨 、体、体、体是一一 (や お ら立 ち上が り )お 、お前、お 前 は―
我是従前伺候過老爺的下人。わた しはむか し旦那 さまにお仕 えした下 女で ございます。
峨、侍沐 !(低 声 )想 磨是体 ? お、 シーピン !(声 を落 して )ど う してお前が ?
体 自然想不到、侍沐的相貌有一天也会老得連体都不認識了。侍不の容 色が、いつの 日にか見わけがつかないほ どに衰 えような どとは、あな た は思って もみなかった ことで しょう。
体―一侍不 ? お前 は一― シー ピンなのか ? (思 わず箪笥の上の写真 と魯婦 を見比べ る )
朴園、体伐侍沐鳴 ? 侍沐在這児。 プーユエ ン、 あなたはシー ピンを 探 しているんで しょう ? シー ピンはここにい ますわ。 2‑103
最初 はおずおず と朴園の質問 に答 えるだけであったが、彼が切 に欲 している 情報 を少 しずつ提供 しなが ら、徐々 に会話 を主導す るようにな り、ついには自 ら素性 を明かすのである。 このあ と、侍澪 は一連のふた りの会話の中で、ずっ と ni"で 朴園 を指示 し続 ける。
以上のように、 老爺 "→ 老爺 と nin"の 混在 "→ nin"→ ni"と 、一 連 の会話の流れの中で指示の しかたが推移す る。 老爺 "か ら ni"に 至 るまで の過程 は、現在の魯侍率か ら 30年 前の梅侍澪へ と時 をさかのぼって、朴園 との 関係 を規定 し直 してい く過程 である。侍沐 と朴園はそのほかの人物 と違 って、
卜書 きにおいて人物特性が詳説 され ることな く、 「 もっぱ ら対話 と独 自によって 来歴や心理が明かされ る」つため、第二幕の この部分の一連の対話 は、情報量 が
きわめて多い。
侍澤 は、三度 とふたたび訪れない ことを本卜 園に約 して別れ る。 ところがその 後、 はか らず もまた もや朴園 と顔 を会わす ことにな り、 その ときには nin"で 指示 をす る。第四幕の終盤で、出発 しようとす る周沐 と四鳳 を繁洵が遮 り、夫 の朴園を呼ぶ場面である。階上か ら降 りてきた朴園は、三度 と戻 らない と言っ たはずの侍沐 を見て、思わず彼女の名 を回走 って しまう。 こうして、四鳳の母 が実 は周不の生母であることが、いあわせた劇 中人物全員の前に明 らかになる。
第四幕の山場 である。 この とき侍落 は、不の生母であることを否定 しようとし て、 「旦那様 の朴園」を nin"を 使 って指示す る。彼女 はすでに、何 も知 らない
本ト
侍
本ト
侍
本ト
侍
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四鳳 と周沐を行かせることに同意 している。今さら真実を明かすことはできな
い :
朴 :(明 白地 )急 磨一一一 (向 侍落 )侍 澪、体到底還是回来了。 (事 態 をさ とって )ど うして・・ (侍 落 に向かって )侍 沐、お まえはやっば り戻 っ て きたんだな。
索 :(憶 )甚 磨 ? (驚 いて )な んですって ?
侍 :(慌 )不 、不、恣弄錯了。
(あわてて)い え、いいえ、お まちがえです。
4‑198
彼女の必死の否定 にもかかわ らず、すべては明 らかになる。その結果、四鳳 と、彼女 を追 った沖 は、漏電 している電線 に触れて死 に、大海 は失踪する。次 は、大海 を追 うように命 じたあ との朴園の台詞である
:朴 :(哀 傷地 )我 去了一個児子、不能再云第二個了。 (嘆 いて )息 子 をひ と り失 って、ふた りまで失 うなんて ことはで きない。
侍 :都 去 EE! 譲他去了也好、我知道這核子。他恨体、我知道他不会回来 見体的。みんな行 ってお しまい ! 行 かせればいいの よ。あの子 は、
あなた を恨 んでい ます。あなたに会いに戻 って くるはずなんてないわ。
4‑203
ここで、侍落 は再 び本卜園を 亜"で指示 している。 この直後 に、周落の銃声が 聞 こえ、劇 は終わ る。
10年 後 を描 くプロローグ とエ ピローグを見 ると、ふた りはずっ と、失踪 した 大海の帰 りを待 ち続 けてきた ことがわか る。 もし大海が帰 ってきた ら、新 しい 物語が始 まるのであろうが、エ ピローグの朴園の台詞では、 その可能性 は皆無 に近いようだ。朴園 と侍澪 は、劇物語の根源 にいる男女のペアであ り、すべて の事件がふた りをそ もそ もの起点 にして発生 した。エ ピローグではそのふた り が揃 って姿 をあ らわ し、劇 をしめ くくるのである。
周落が初 めて魯侍落 と会 うのは、周家 に交渉 に来た大海が、 朴園の措置 に怒 っ て暴れ出 し、喧嘩沙汰 になった ときである。侍薄 は思わず周沐の前 に駆 け寄 り、
泣 きなが ら大海 をかばう。侍澪 は、 日の前の青年が周率であることを、すでに 本卜 園か ら聞かされているが、周沐 に とっては、突然見知 らぬ女が飛 び出 して き たのである
:澪 :体 是誰 ?(あ んたは誰ですか )
侍 :我 是体的―一体 打的這個人的婦。
(あなたの・・ あなたがな ぐった この
子の母です よ )2‑112
その後、四鳳の母であるとわかると、 魯効効 "(魯 おばさん )と 呼びかけ、
亜 n"を 使 うようになる。
落 :魯 効妨 、請恣相信我、我一定好好地待地、我個現在決定就走。
(魯 おばさん、ぼ くを信用 して ください、 きっと四鳳 をだいじにしま す、ぼ くたちいま出発することにしました )。 4‑188
ところが、周落 はこの後、侍澪が亡 くなったはずの生母だ と知 ることになる。
侍落 は彼 に とって、見知 らぬ女→大海 の母→四鳳の母→自分の生母 というふ う に、彼 との関係 を変 えてい く。周漆 にとっては、想像の中で美化 された母 と実 際の母 (侍 沐 )の 姿 とはあま りにかけ離れ、 しか も恋人の四鳳の母で もあると は、耐 え難 い現実であった。周落をとりまく女 は、繁洵 と四鳳の二人だけでは な く、幻想の中の実母 もそのひ とりである。最後 にその実母が もた らした恐 る べ き現実 に直面 した彼 は、耐 えきれずに自らの生 を閉 じるのである。
3.2.周 繁 騎 と周澪
周繁満は、 ni"と nin"の 使 い分 けの指示者ではな く、指示対象であ り、 ま た、 ta"の 用法 に関 しては際だった特徴が見 られ る。
周家の長男・沐 は、父 に対 しては常 に 」 n"で 指示す るが、母の繁洵には、
第二者の面前で nin"を 、ふた りだ けの場合 は ni"を 、 とい う画然 とした使 い分 けをする。彼が 繁洵を nin"で 指示するのは、母 として扱 うべ き公の場面 においてであ り、 面 "を 使 い、 ファンイ (繁 洵 )と 呼ぶ (2‑77)の は、かつ ての愛人で今 は重荷で しかない繁洵と相対するときである。
次 は、繁洵 と周沖の話 しているところへ周落が入 ってきた場面での会話であ る
:沖 不 繁
耳可。 にいさん。
体在這児。お まえ、 ここにいたのか。
(覚 得没有理地 )薄 !(無 視 された と思 って )ピ ン
!不 :峨 ?(低 了頭、又拾起 )恋 一一恣也在這児。え ?(う つむき、再び顔
を上げて )あ なた・・ あなた もここでしたか 1‑56
周沐が きわめて意識的に、繁洵を 母親 "と 呼ぶ場面がある。父 と母 を避 け て通 り過 ぎようとした落 を、朴園が呼び止める場面である。落は、生 き直すべ
く周家 を離れ ようとしている
:朴 :弥 不是明天早車走鳴 ? あ したの朝早い汽車で行 くん じゃなかったの
‑217‑
か 。