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光子-光子衝突型加速器における実光子弾性散乱の研究

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(1)

平成

30

年度卒業論文

光子-光子衝突型加速器における実光子弾性散乱の研究

広島大学理学部物理科学科 高エネルギー物理学研究室

B155193 宮島 諒

主査 高橋 徹 副査 檜垣 浩之

(2)

⽬次

1 概要 ... 1

2 光⼦-光⼦相互作⽤及び光⼦-光⼦散乱 ... 2

2.1 光⼦-光⼦相互作⽤ ... 2

2.2 光⼦-光⼦弾性散乱 ... 3

3 光⼦-光⼦衝突型加速器 ... 4

3.1 ⾼エネルギー光⼦の⽣成法 ... 4

3.2 逆コンプトン散乱 ... 5

3.3 ⾮線形効果を考慮した逆コンプトン散乱 ... 6

3.4 光⼦-光⼦衝突型加速器 ... 7

3.5 ルミノシティ ... 9

3.6 相互作⽤領域と検出器 ... 11

4 実光⼦弾性散乱の観測可能性の検証 1-シミュレーション ... 13

4.1 ⾼エネルギー光⼦の⽣成 ... 13

4.2 信号事象の⽣成法 ... 15

4.3 背景事象 ... 15

4.4 事象の⽣成 ... 16

4.5 検出器シミュレーション ... 17

4.6 ジェットクラスタリング ... 18

5 実光⼦弾性散乱の観測可能性の検証 2-解析,結果 ... 23

5.1 BDT ... 23

5.2 事前選別 ... 24

5.3 事象選別と解析 ... 25

6 結論 ... 27

(3)

1 概要

量⼦電磁⼒学(QED:Quantum EletroDynamics )は、電磁相互作⽤を記述する理論であり多く の実験的検証により正確さが確かめられている。⼀⽅、量⼦電磁⼒学の予⾔する現象の中には実 験的に未検証の部分も残っている。その内の⼀つは、実光⼦間の相互作⽤である。光⼦間の相互 作⽤の検証はなされているが、相互作⽤に関わる全て、あるいは⼀部の光⼦は相互作⽤する瞬間 のごく短い時間のみ現れる仮想光⼦によるものである。

光⼦-光⼦相互作⽤による現象の例としては、電⼦-陽電⼦対⽣成がある。光⼦を物質に⼊射し た時に起こる電⼦-陽電⼦対⽣成はよく知られた反応であるが、⼊射実光⼦と物質中の電磁場の 相互作⽤であり実光⼦間の相互作⽤ではない。真空中における実光⼦間の相互作⽤による電⼦- 陽電⼦対⽣成は SLAC で⾏われた⾮線形効果による観測のみである[1]。

その他の光⼦-光⼦相互作⽤による現象としては、光⼦-光⼦弾性散乱(γγ→γγ)がある。古 典電磁気学においては電磁波同⼠は相互作⽤をしない。⼀⽅、量⼦電磁⼒学は摂動の⾼次効果と して光⼦-光⼦弾性散乱を予⾔する。光⼦-光⼦弾性散乱は、LHC における重イオン衝突過程で 報告されている[2]。しかし、実光⼦の衝突による直接的な観測は未だなされていない。そうし た中、光⼦-光⼦衝突型加速器における実光⼦弾性散乱の検証に向けた実験が中国科学院⾼能物 理研究所(IHEP)で計画されおり、本研究グループも参加している。

本研究は、IHEP で計画されている光⼦-光⼦衝突型加速器を想定し、信号と背景事象の⽣成 数や⾓分布及び検出器モデルを考慮し、⾼エネルギー光⼦の⽣成から相互作⽤領域での光⼦-光

⼦衝突、検出器で検出されるまでの⼀連の事象の数値シミュレーションを⾏った。さらに、測定 データを⽤いた特徴量の抽出、機械学習の⼀種である BDT を⽤いた事象選別の最適化を⾏うこ とで、光⼦-光⼦弾性散乱事象の観測に対する統計的有意性を評価した。

2 章では光⼦-光⼦相互作⽤及び光⼦-光⼦弾性散乱について、3 章では想定している光⼦-光⼦

衝突型加速器及び検出器について記述する。4 章では、考慮した背景事象の種類や事象の⽣成法、

検出器シミュレーション、事象の再構成について記述する。5章では機械学習を⽤いた事象選択 を⾏い統計的有意性を評価し、光⼦-光⼦衝突型加速器における実光⼦弾性散乱による事象の観 測可能性について記述する。最後に 6 章では、本論⽂の結論を記述する。

(4)

2 光⼦-光⼦相互作⽤及び光⼦-光⼦散乱

2.1 光⼦-光⼦相互作⽤

古典電磁気学が記述する電磁相互作⽤は、電荷を持つ粒⼦間、または電荷を持つ粒⼦と光⼦の 相互作⽤であり、電荷を持たない光⼦同⼠は直接相互作⽤する事はない。⼀⽅、量⼦電磁⼒学は 実光⼦間の直接の相互作⽤を予⾔する。

実光⼦とは、次式の関係を満たす光⼦の事である。

E"− p"c"= 0 (2-1)

ここで、E はエネルギー、p は運動量、c は光速度を表す。式(2-1)の関係を満たす粒⼦を実粒⼦

と呼び、式(2-1)の関係を満たさず、摂動計算の過程で想定する粒⼦を仮想粒⼦と呼ぶ。電磁波 の量⼦状態の光⼦は質量 0 で式(2-1)を満たす実光⼦であり物理状態として観測される光⼦は常 に実光⼦である。

これまでに検証されている光⼦間相互作⽤は、光⼦間の相互作⽤ではあっても、⼀⽅は仮想光

⼦であり、物理状態の実光⼦ではなかった。しかし、量⼦電磁⼒学は実光⼦間の相互作⽤を予⾔

する。光⼦-光⼦相互作⽤による現象として予⾔されるものは、図 2.1 のように光⼦-光⼦弾性散 乱、電⼦-陽電⼦対⽣成などがある。

図 2.1 光⼦-光⼦相互作⽤による現象の模式図

真空中において光⼦と光⼦の相互作⽤が発⽣する確率は、低エネルギー領域で極めて⼩さく、実 験による検証は困難である。⼀⽅、光⼦-光⼦衝突型加速器を⽤いた⾼エネルギー領域の実験で は、相互作⽤する確率が⼤きくなり、実光⼦間の相互作⽤による光⼦-光⼦弾性散乱や電⼦-陽電

⼦対⽣成などの検証が期待される。

γ γ γ

γ

γ

γ e-

e+

(5)

2.2 光⼦-光⼦弾性散乱

量 ⼦ 電 磁 ⼒ 学 は 摂 動 の ⾼ 次 効 果 と し て 光 ⼦ - 光 ⼦ 弾 性 散 乱 (γγ→γγ) を 予 ⾔ す る 。 γγ→γγ 過程の摂動の最低次のダイアグラムを図 2.2 に⽰す。

図 2.2 γγ→γγ 過程のダイアグラム(最低次)

この現象の断⾯積は、50 年以上前に計算されている[3,4]。図 2.3 に光⼦-光⼦弾性散乱の散乱断

⾯積を⽰す。

図 2.3 光⼦-光⼦弾性散乱の断⾯積[5]

散乱断⾯積σは、重⼼系エネルギー√Sが 1~2MeV の領域で最⼤となる。⼀⽅、1MeV より⼩さ い領域では、散乱断⾯積が減少している。これは、低エネルギー領域において散乱断⾯積が重⼼

系エネルギーの 6 乗に⽐例するためである。

これまでに、実光⼦弾性散乱の観測に向けた光⼦-光⼦衝突実験は X 線⾃由電⼦レーザー施設 SACLA で⾏われたが、信号事象の観測はされなかった[6]。この要因の⼀つとして、X 線領域の 光⼦のエネルギーでは衝突系の重⼼系エネルギーが低く、散乱断⾯積が⼩さい領域での実験だ ったためと考えられる。⼀⽅、光⼦-光⼦衝突型加速器では重⼼系エネルギー1~2MeV、すなわ ち 0.5~1MeV 程度のエネルギーを持つ光⼦同⼠の衝突実験が可能であるため、散乱断⾯積が最

⼤となり信号事象を観測出来る可能性があると考えられる。

(6)

3 光⼦-光⼦衝突型加速器

3.1 ⾼エネルギー光⼦の⽣成法

⾼エネルギー光⼦を⽣成する⽅法は幾つか存在するが、広く⽤いられる⽅法としてはシンク ロトロン放射を⽤いる⽅法がある。シンクロトロン放射とは、加速器中を運動する相対論的荷電 粒⼦が加速度を受けた時に運動の接線⽅向に光を発する現象である。シンクロトロン放射によ る典型的な光⼦のエネルギーは次式で表される臨界エネルギーで評価することができる。

ℏω =3ℏcγ.

(3-1)

ここで、ℏ ="21、h はプランク定数、c は光速度、ρは電⼦の曲率半径、γはローレンツ因⼦を 表す。例えば、兵庫県の播磨科学公園都市にある⼤型放射光施設 SPring-8 では、電⼦のエネル ギー8GeV、曲率半径 39.3m より臨界エネルギーは 28.9keV である[7]。数 MeV のエネルギー を持つ光⼦を⽣成したい場合、さらにエネルギーの⾼い荷電粒⼦を⼩さい曲率半径で曲げる必 要があるが、現在シンクロトロン放射を⽤いて数 MeV の光⼦を⽣成することが出来る施設は存 在していない。

シンクロトロン放射を⽤いない⾼エネルギー光⼦を⽣成する⽅法としては、逆コンプトン散 乱を⽤いる⽅法がある。X 線やγ線の波⻑領域の⾼エネルギーの光⼦が電⼦に衝突することで 光⼦のエネルギーの⼀部が電⼦に移り、⼊射光⼦よりエネルギーの低い光⼦が⽣じる現象はコ ンプトン散乱であるが、これに対して、⾚外線やマイクロ波の波⻑領域の低エネルギー光⼦が⾼

エネルギー電⼦と衝突することで電⼦のエネルギーの⼀部が光⼦に移り、⼊射光⼦よりエネル ギーの⾼い光⼦が⽣じる現象が逆コンプトン散乱である。本研究ではこの逆コンプトン散乱を

⽤いて⾼エネルギー光⼦を⽣成する。始状態の光⼦にはレーザー光を利⽤する場合が多く、その 場合はレーザーコンプトン散乱と呼ばれる。

(7)

3.2 逆コンプトン散乱

図 3.1 に逆コンプトン散乱の概念図を⽰す。

図 3.1 逆コンプトン散乱の概念図

⼊射光⼦、⼊射電⼦、散乱光⼦、散乱電⼦の 4 元運動量をP4、P5、P46、P56おき、以下のように表 す。

P4=798: cosφc sinφ 0

@ , P46=798C: c cosθsinθ

0

@ (3-2)

P5=79E: c β 00

@ , P56=79EC: c β6cosθ6 β6sinθ6

0

@ (3-3)

ここで、E4,E46は散乱前後の光⼦のエネルギー、E5, E56は散乱前後の電⼦のエネルギー、φ は光⼦

と電⼦の衝突⾓、θ は光⼦の散乱⾓、θʼは電⼦の散乱⾓、c は光速度、β = G9 、γ = H

IHJKL E5= mc"γ、

γ はローレンンツ因⼦を表す。

散乱前後において 4 元運動量の保存則より次式が成⽴する。

E5+ E4= E56 + E46 (3-4)

mcγβ +E4

c cosφ = mcγ6β6cosθ6+E46

c cosθ (3-5)

E4

c sinφ = mcγ′β′sinθ′ +E46

c sinθ (3-6)

上記式を変形すると、散乱後の光⼦のエネルギーE46は次式のように表される。

E46 = E5E4(1 − βcosφ)

E5(1 − βcosθ) + E4(1 − cos(φ − θ)) (3-7) γ

e-

θ

photon

electron

sca,ered.photon

γ’

sca,ered.electron

e-’

φ

θ’

(8)

例えば、⼊射光⼦のエネルギー1.176eV(λ=1054μm)、⼊射電⼦のエネルギー200MeV とした 場合の衝突⾓、散乱⾓、散乱光⼦のエネルギーの関係は図 3.2 のようになる。

図 3.2 衝突⾓、散乱⾓、散乱光⼦のエネルギーの関係

図 3.2 は、衝突⾓ φ が π の場合、すなわち⼊射光⼦と⼊射電⼦が正⾯衝突し、後⽅散乱する場 合に散乱光⼦のエネルギーが最⼤になっている。

式(3-7)においてE4≪ mTc"γ、|θ| ≪ 1 、β ≈ 1 ( 4HL ≪ 1)、φ = π の場合を考えるとE46は次式の ように表される。

E46 = E4WXY6 1 + 11 + x (γθ)"

(3-8) ここで、x =[7WEL78 であり、E4WXY6 は散乱光⼦の最⼤エネルギーで次式で表される。

E4WXY6 = x

1 + xE5 (3-9)

E4WXY6 において各値を代⼊して計算すると、E4WXY6 =0.71MeV となる。

3.3 ⾮線形効果を考慮した逆コンプトン散乱

逆コンプトン散乱過程においてレーザー光の電磁場の強度が⾼い場合、⾮線形効果の影響を 受ける。⾮線形効果の例としては、⾼エネルギー電⼦の質量 m が相対性理論補正を受けて有効 質量 m= I1 + aT" mとなり静⽌質量より重くなる効果や、散乱過程において、1 光⼦吸収ではな く n 光⼦の吸収に対応する効果がある。1 光⼦吸収の場合で⾮線形効果を考慮すると、散乱光⼦

の最⼤エネルギーを表す式(3-9)は次式に書き直される。

E4WXYH = x

1 + aT"+ xE5 (3-10)

この場合の⾮線形効果の影響は、コンプトン散乱スペクトルにおけるピークエネルギーが低エ ネルギー側にシフトするなどとして現れる。n 光⼦吸収した場合の影響は、式(3-10)で表される 散乱光⼦の最⼤エネルギーよりもエネルギーが⾼い光⼦が⽣成されるという影響がある。

(9)

3.4 光⼦-光⼦衝突型加速器

光⼦-光⼦衝突型加速器は、電⼦-陽電⼦衝突型加速器の拡張として議論されてきたもので、電

⼦-陽電⼦衝突型加速器において衝突直前の地点で電⼦ビームにレーザー光を照射し、逆コンプ トン散乱によって⽣成した⾼エネルギー光⼦同⼠を衝突させるものである。本研究で想定する 光⼦-光⼦衝突型加速器は、IHEP にある Beijing Electron Positron Collider (BEPC)⼊射加速器 からの電⼦ビームを実験室に導き、レーザー光を照射し、光⼦-光⼦衝突を起させるものである。

図 3.3 に本研究で想定している光⼦-光⼦衝突型加速器の概略図を⽰す。

図 3.3 光⼦-光⼦衝突型加速器の概略図

本実験では、図 3.3 のように電⼦ビームを⼆⽅向に分割し、⾼エネルギー光⼦を衝突させる相 互作⽤点(IP:Interaction Point)に向けて運ぶ。電⼦ビームの電⼦源には、RF 電⼦銃を⽤いた低 エミッタンス源を想定している。運ばれてきた電⼦ビームに相互作⽤点直前の地点のコンプト ン散乱点(CP:Conversion Point)でレーザーを電⼦ビームに照射して逆コンプトン散乱を起こす。

逆コンプトン散乱によって⽣成された⾼エネルギー光⼦は相互作⽤点に向かうが、コンプトン 散乱点で相互作⽤させた電⼦も相互作⽤点に向かう。そのため、相互作⽤点では、光⼦-光⼦、

光⼦-電⼦、電⼦-電⼦の全ての組み合わせの相互作⽤が起こる。

表 3.1 に本研究で想定しているレーザー光及び電⼦ビームのパラメータを⽰す。

(10)

表 3.1 想定しているレーザー光及び電⼦ビームのパラメータ

レーザー光 電⼦ビーム

レーザー波⻑ (μm) 1.054 電⼦ビームエネルギー(MeV) 200 集光点でのレーザーウエスト径 (μm) 5 衝突点でのビームサイズ(μm) 2 レイリー範囲 (μm) 298 衝突点でのβ関数 (μm) 626 レーザーパルスエネルギー (J) 2 電⼦バンチ電荷(nC) 2 レーザーパルス⻑ (ps) 600 電⼦バンチ⻑ (mm) 0.6 繰返し周波数 (Hz) 50 繰返し周波数 (Hz) 50 電⼦ビームに対する⼊射⾓ (mr) 0 電⼦ビーム同⼠の交差⾓(mr) 0 IP-CP 間距離(μm) 400 エミッタンス (μm) 6.39×10-3

⾮線形パラメータ a0 0.32 幾何学的ルミノシティ 1.6×1028 (レーザーパルス⻑、電⼦バンチ⻑は強度の⼆乗平均平⽅根として定義している)

レーザー波⻑は 1.054 μm の⾚外線領域の波⻑で光⼦のエネルギーとしては 1.176 eV である。

レーザーパルス、電⼦バンチあたりの粒⼦数はそれぞれに対しておおよそ 1.06×10H^個、1.25×

10HT個含まれている。表 3.1 中の、エミッタンスとはビームの質を表す指標の⼀つでありエミッ タンスの値が⼩さいほど質の良いビームと⾔える。ビームの進⾏⽅向を z 軸とした場合に進⾏

軸と垂直な⾯(x,y)を考えた時、バンチがある z 座標の⾯を通過する時の状態はバンチ中の粒⼦

が、位相空間(x,pY,y, p_)を占める⾯積で表現できる。以下、(x, pY)について考えると、バンチ中 の粒⼦が位相空間を占める⾯積は以下のように表すことができる。 (〈 〉は粒⼦平均を表す。)

I〈(𝑥 − 〈𝑥〉)"〉〈(𝑝d− 〈𝑝d〉)"〉 − 〈(𝑥 − 〈𝑥〉)(𝑝d− 〈𝑝d〉)〉" (3-11)

⼀般に加速器ではpYの代わりに、粒⼦ビーム軸に対する傾きx6を使うことが多い。(x6=eYef

hi

h , pf≈ pである。)

(x,x6)⾯上でのエミッタンスは、幾何学的エミッタンスεk5lWとよばれ次元は⻑さの次元を持つ。

⼀般的にエミッタンスというとこのεk5lWを指すことが多く、最⼩ビームサイズσTは εk5lWと β を⽤いると σT= Iβεk5lW と表すことができる。エミッタンスεは Liouville の定理よりビームの 進⾏⽅向の加速では変化しない保存量であるがεk5lWは定義より加速とともに 1/p で減少する。

これに対して規格化エミッタンス εnloWと呼ばれるεnloW= γεk5lWで表されるものを考えるとこ れは加速で変化しない。(γ はローレンツ因⼦)

(11)

3.5 ルミノシティ

衝突型加速器における素粒⼦実験で、着⽬する素粒⼦反応の単位時間あたりに反応する回数 を N、散乱断⾯積をσとすると N とσには次式の関係がある。

N = σL (3-12)

式(3-12)の L はルミノシティと呼ばれ、特にビーム同⼠の正⾯衝突の場合は、次式で表される。

L = NHN"f

4πσYσ_ (3-13)

ここで、NH, N"は、⼀衝突あたりに関わる粒⼦数、 f は単位時間あたりのビームの繰返し数、σY, σ_

は衝突点での x ⽅向, y ⽅向のビームサイズを表す。ルミノシティは、衝突型加速器の衝突点に おいて粒⼦の衝突頻度を表す量である。

光⼦-光⼦弾性散乱の散乱断⾯積は、光⼦のヘリシティの組み合わせに依存する。したがって、

光⼦-光⼦弾性散乱の単位時間あたりに反応する回数を計算するためには、ルミノシティも各ヘ リシティの組み合わせで計算しなければならない。ここで、ヘリシティ h とは、スピンの運動量

⽅向への射影のことをいい、次式で表される量である。

h = s ∙ p

|p| (3-14)

式(3-14)において、s は粒⼦のスピン、p は粒⼦の運動量である。ヘリシティの値の符号が正の 状態は右巻き、負の状態は左巻きという。

ルミノシティが衝突の重⼼系エネルギーに依存する場合に重⼼系エネルギーで微分したもの を微分ルミノシティいう。図 3.4 に本研究で想定する光⼦-光⼦衝突型加速器の光⼦-光⼦衝突に おける各ヘリシティの組み合わせh44ごと微分ルミノシティ分布を⽰す。実際の実験条件におけ るルミノシティを計算するためには、表 3.1 に⽰した電⼦ビームとレーザー光の条件を考慮した 計算が必要となる。そのために、電⼦ビームとレーザー光の相互作⽤のための数値計算プログラ ム、CAIN2.35 を⽤いて計算を⾏った[8]。CAIN は⾼エネルギー電⼦や陽電⼦、光⼦の相互作⽤

を計算する数値計算プログラムである。具体的には、レーザー光や電⼦ビームのパラメータをも とに、レーザー電⼦コンプトン散乱、相互作⽤点における電⼦ビームの相互作⽤による輻射、対

⽣成を⾮線形量⼦電磁気学を考慮して計算する。また、計算過程に⽣じた、光⼦、電⼦それぞれ の衝突に関するルミノシティを計算する。

(12)

図 3.4 光⼦-光⼦衝突の微分ルミノシティ分布

光⼦-光⼦衝突のルミノシティの指標として、図 3.4 の分布を衝突エネルギーで積分した、積分 ルミノシティLwlwXx44,188を以下のように定義する。表 3.2 はその値を衝突する光⼦のヘリシティ毎に まとめたものである。

𝐿}~}•€zz,{||= •𝑑𝐿zz,{||

𝑑𝜔zz (𝜔zz)𝑑𝜔zz (3-15)

表 3.2 積分ルミノシティ

zz 𝐿zz,{}~}•€|| [ /cm2/ s]

(+,+) 1.868×1028

(−,+) 2.163×1028

(+,−) 2.167×1028

(−, −) 2.517×1028

Σ (合計) 8.715×1028

光⼦-光⼦衝突型加速器は、レーザー偏極を変えることにより、衝突する光⼦のヘリシティを制 御できるため、量⼦電磁⼒学におけるその効果を調べる事が出来る。

(13)

3.6 相互作⽤領域と検出器

図 3.5 に本研究で想定している光⼦-光⼦衝突型加速器の相互作⽤領域及び検出器のビーム軸 に沿った断⾯図を⽰す。

図 3.5 相互作⽤領域及び検出器のビーム軸に沿った断⾯図

本計画では、電⼦ビームを 3 つの永久磁⽯を⽤いてビームを相互作⽤点に収束させる計画で ある。相互作⽤点より 0.4 mm ⼿前のコンプトン散乱点でレーザー光と電⼦ビームを正⾯衝突さ せて⾼エネルギー光⼦を⽣成する。レーザー光は、相互作⽤点から 80mm ⼿前に設置された放 物鏡によって電⼦ビーム上に集光される。磁⽯の内径と外径はそれぞれ 3 mm、50 mm であり、

衝突点に⼀番近い磁⽯は相互作⽤点から 100 mm ⼿前に配置されている。検出器にはシンチレ ーション検出器を⽤いた熱量測定システム(カロリメーター)を⽤いる。シンチレーション検出器 は、図 3.6 に⽰すように、内側の断⾯積が 1.52 cm×1.52 cm、厚み 1 cm のプラスチックシンチ レータの裏に厚さ 6 cm の台形状の CsI 結晶を組み合わせた構成である。

図 3.6 シンチレーション検出器の構成

CsI 1.52cm

6cm 1cm

1.52cm

1.52cm

0.4mm 0.4mm

scintillator

349.6mm

149.9mm permanent magnet 100mm

80mm

Laser

e- beam e- beam

Laser

(14)

シンチレーション検出器は、ビーム軸に沿って円筒状に配置され、ビームの進⾏軸に沿って 23 個、ビームの進⾏軸と垂直な⾯に 62 個、合計 1426 個である。図 3.7、図 3.8 に⽰す様にビーム 軸からシンチレータ表⾯までの距離 R は、プラスチックシンチレータ表⾯の⼀辺を w、ビーム 軸に対する 1 つのシンチレーション検出器の持つ⾓度広がりをθとすると、幾何的考察より次 式で求まる。

𝑅 = 𝑤 2𝑡𝑎𝑛𝜃

2 (3-16)

ここで、w = 15.2 mm、θ = "2Œ" rad より R ≈149.9 mm である。

図 3.7 検出器のビーム軸に垂直な断⾯ 図 3.8 R,θ,w の関係

R θ R w

Rtan(θ/2) w = 2Rtan(θ/2)

(15)

4 実光⼦弾性散乱の観測可能性の検証 1-シミュレーション

4.1 ⾼エネルギー光⼦の⽣成

本研究では、まず初めにコンプトン散乱後、相互作⽤点の電⼦及び光⼦のエネルギー分布を表 3.1 に⽰すパラメータを基に CAINver.2.35 を⽤いて計算した。実験は、重⼼系エネルギー 1~2MeV での光⼦-光⼦衝突実験を想定しているため、レーザーコンプトン散乱後の光⼦は 0.5~1MeV のエネルギーが必要である。

図 4.1 光⼦のエネルギー分布(コンプトン散乱後)

図 4.1 はコンプトン散乱後の光⼦のエネルギー分布である。図 4.1 中のピークのエネルギーは約 0.65MeV で、⾮線形効果を考慮した 1 光⼦吸収の場合、式(3-9)の散乱光⼦の最⼤エネルギーと ほぼ⼀致する。また、ピークより⾼いエネルギー領域にも分布しているのは、多光⼦吸収による 影響である。図 4.1 は、本研究で想定しているレーザー及び電⼦ビームのパラメータで、重⼼系 エネルギー1~2MeV を実現するために必要な光⼦エネルギーを得ることが出来ることを⽰す。

図 4.2 電⼦のエネルギー分布(コンプトン散乱後)

(16)

図 4.2 はコンプトン散乱後の電⼦のエネルギー分布である。⼊射電⼦のエネルギー200MeV か ら散乱光⼦のエネルギーを引いたエネルギーを持つ。図 4.2 中の⼆重のピークで、200MeV のピ ークはコンプトン散乱点で光⼦と相互作⽤せずエネルギー損失しなかった電⼦によるピークで、

他⽅のピークは図 4.1 中のピークエネルギー0.65MeV に対応したピークである。また、約 197MeV 程度のところまで分布の広がりを持つのは、電⼦バンチとレーザーパルスが衝突した 際の多重散乱が影響しているためである。

図 4.3 光⼦のエネルギー分布(相互作⽤点)

図 4.3 は相互作⽤点における光⼦のエネルギー分布である。相互作⽤点の光⼦は、図 4.1 に⽰す コンプトン散乱後の散乱光⼦より数が増えている。逆コンプトン散乱を起こした後、電⼦ビーム は除去されずに⾼エネルギー光⼦とともに相互作⽤点に向かう。相互作⽤点では光⼦-光⼦衝突 の他に、光⼦-電⼦や電⼦-電⼦衝突が起こる。相互作⽤点において、電⼦バンチが交差すると、

バンチ周辺の強い電磁場による輻射が起こる。この輻射は beamstrahlung と呼ばれ、相互作⽤点 における光⼦を増⼤させる。図 4.3 の分布はこの beamstrahlung による光⼦の寄与を含んでい る。

(17)

4.2 信号事象の⽣成法

CAIN によって⽣成した光⼦分布を⽤いてシミュレーション研究を⾏うための擬似事象を⽣

成する。擬似事象を⽣成するには、事象のエネルギー分布、⾓分布が必要である。そのため、

微分散乱断⾯積をω44、h44の関数として求め、また、ルミノシティをω44、α44、h44の関数と して求める。ここで、ω44は衝突する 2 光⼦の重⼼系エネルギー、h44 = (+,+)、(−,+)、

(+,−)、(−, −)は⼆つの光⼦のヘリシティの組み合わせ、α44778J78L

8•78L は衝突する 2 光⼦のエネ ルギーの⾮対称性を表す。事象の⾓分布はこれらの畳み込みで求めることができ、単位時間あ たりの事象数 N は、極⾓ θ の関数として次式のようになる。

dN44,188

dθ (ω44, α44) = dσ44,188

dθ (ω44)dL44,188

4444, α44)dω44 (4-1)

微分ルミノシティ e’e”88,“88

88 は、表 3.1 のパラメータを基に CAINver.2.35 を⽤いて計算し、微 分断⾯積 e•88,“88e– は⽂献[3,4]を元に計算した。

4.3 背景事象

本研究では、γγ→γγの背景事象過程として以下の背景事象を考慮した。各プロセスの概要を以 下に簡略に述べる。

γγ→e+e- (Breit-Wheeler process)

光⼦と光⼦の衝突によって陽電⼦-電⼦対が⽣成される過程である。

γγ→γγ過程と同様に実光⼦衝突による直接的な観測はなされていない。

γγ→e+e-γ (Breit-Wheeler process + final state radiation)

Breit-Wheeler processによって⽣成された陽電⼦もしくは電⼦が光⼦を放出する過程である。

γγ→e+e-γγ (Breit-Wheeler process + final state radiation)

Breit-Wheeler processによって⽣成された陽電⼦及び電⼦両⽅が光⼦を放出する過程である。

e-γ→e-γ(Compton Scattering)

逆コンプトン散乱された⾼エネルギー光⼦と電⼦ビームのコンプトン散乱である。

(18)

e-γ→e+e-e-(trident process)

⾼エネルギー光⼦と電⼦ビームによる 3 粒⼦⽣成過程である。

e-e-→e-e-(Moller Scattering)

双⽅向から⾶んでくる電⼦ビーム中の電⼦と電⼦の衝突による散乱過程である。

4.4 事象の⽣成

本研究において、背景事象過程の散乱断⾯積計算及び事象⽣成には、WHIZARD[9]を⽤いた。

WHIZARD とは、素粒⼦相互作⽤による散乱断⾯積の計算及び擬似事象⽣成のためのプログラ ムである。事象⽣成に必要な光⼦-光⼦、光⼦-電⼦、電⼦-電⼦の組み合わせのルミノシティ分布 は WHIZARD に内蔵されている CIRCE2 というプログラムを介して実装した。

光⼦-光⼦衝突のルミノシティはエネルギー分布を持っており、またヘリシティにも依存する。

全事象を計算するために、有効断⾯積は次式のように定義した。

𝜎˜™™≡ 1

𝐿}~}•€š› œ • 𝜎{•ž

{•ž

(𝜔š›)𝑑𝐿š›,{•ž

𝑑𝜔š› (𝜔š›)𝑑𝜔š› (4-2)

LwlwXxŸ は、各ヘリシティの組み合わせ hŸ の積分ルミノシティLwlwXx1¡¢ の和として次のように計算され

る。

𝐿}~}•€š› ≡ œ •𝑑𝐿š›,{•ž

𝑑𝜔š› (𝜔š›)𝑑𝜔š›

{•ž

(4-3)

ここで、i,j は粒⼦の種類、すなわち⾼エネルギー光⼦または電⼦を表している。

γγ→γγ 過程を除くすべての過程の散乱断⾯積は、終状態の粒⼦が少なくとも⼀つが検出器の

⾓度許容範囲に収まるように⾓度分布に対して(|cosθ|<0.8944)の制限を課して計算した。散乱 断⾯積の計算後、各過程の事象を⽣成した。表 4.1 に計算された各過程の散乱断⾯積と⽣成事象 数を⽰す。

(19)

表 4.1 各過程の散乱断⾯積と⽣成事象数

過程 有効断⾯積 σ5££ (μb) ⽣成事象数

γγ→γγ 0.77 2.0×105

γγ→e+e- 2.6×104 2.1×106

γγ→e+e-γ 6.5×102 1.1×106

γγ→e+e-γγ 1.2×101 2.0×105

e-γ→e-γ 1.3×103 2.0×105

e-γ→e+e-e- 3.2×103 1.1×106

e-e-→e-e- 2.9×101 2.0×105

4.5 検出器シミュレーション

信号事象及び背景事象を⽣成した後、⽣成した事象に対して検出器がどのような信号を⽰す かという検出器の応答を Geant4[10]⽤いて計算する。Geant4 とは、粒⼦と物質の相互作⽤や物 質中の粒⼦の⾶跡の追跡、検出器の構成、応答等を計算するソフトウェアパッケージ(Toolkit)で ある。

検出器モデルを Geant4 に実装し、各粒⼦がヒットした検出器の位置と検出器におけるエネル ギー損失を計算する。Geant4 の段階では、検出器のエネルギー分解能は考慮されていない。そ のため、プラスチックシンチレーターと CsI シンチレーターを⽤いた検出器の典型的な分解能 を考慮して、シミュレーションの値に変動を与える。プラスチックシンチレーター及び CsI シン チレータの分解能はそれぞれ e•7 = I7(¦5§)T.T¥^ e•7 = I7(¦5§)T.T"[ としている。

これらのシミュレーションを⾏った後、さらなる解析をする為にシンチレーション検出器に おけるエネルギー損失を⽤いて各粒⼦の運動量ベクトルpiを次式のように定義する。

𝐩š= 𝐸š𝐫š (4-4)

ここで、EŸはプラスチックもしくは CsI シンチレータでのエネルギー損失、𝐫Ÿは各シンチレータ の最も内側表⾯での位置ベクトルである。

(20)

4.6 ジェットクラスタリング

式(4-4)で定義した運動量ベクトルpiは、事象の終状態の粒⼦を表しているとは限らない。例 えば、γγ→γγ過程で散乱された粒⼦が次の図 4.4 のようにして検出されることを考える。

図 4.4 散乱粒⼦の検出例 (γγ→γγ過程)

図 4.4 において散乱粒⼦は緑の線で表している。γγ→γγ過程は光⼦同⼠の弾性散乱なので終状態 の粒⼦数も 2 粒⼦であるが、図 4.4 のように計 4 つのシンチレータにヒットしてしまうと運動 量ベクトルpiの定義より終状態の粒⼦数が 4 粒⼦になってしまい、イベントの終状態の粒⼦の 正しい情報を得られていない。よって、イベントの最終状態の粒⼦の情報を得るためには、検出 器から得られる情報から定義された運動量ベクトル piなどを⽤いて終状態の粒⼦を再構成する 必要がある。本研究では粒⼦の再構成をするために式(4-4)の運動量ベクトルpiを⽤いてジェッ トクラスタリングを⾏った。

ジェットクラスタリングとは、検出器で得られた情報を元に物理的な粒⼦のエネルギー、運動 量を再構成する⼿法である。本研究では、Durham アルゴリズム[11,12]を⽤いて強制 2 ジェッ トクラスタリングすることによりジェットP1,P2を再構成した。(P1,P2P1の⽅がエネルギーが

⾼くなる様に定義している。)

scintillator

(21)

Durham アルゴリズムを⽤いた強制 2 ジェットクラスタリングとは、次の⼿順でクラスタリン グを⾏うものである。

1. 粒⼦間距離yŸ を次式の様に定義する。

𝑦š› = 2𝑚𝑖𝑛(𝐸š", 𝐸")(1 − 𝑐𝑜𝑠𝜃š›)

𝑄" (4-5)

ここでyŸ は粒⼦iと粒⼦jの粒⼦間距離、EŸは粒⼦iのエネルギー、θŸ は粒⼦間の⾓度、Q はジェットの候補となる粒⼦のエネルギー和である。

2. ジェットの候補となる全粒⼦の組み合わせに対して粒⼦間距離yŸ を計算する。

3. y9³wという値を⽤いて、yŸ ≤ y9³wを満たす 2 つの粒⼦i , jを 4 元運動量の和の運動量を持つ 1 つの擬似粒⼦に置き換える。

4. y9³wの値を変えながら 2 ジェットになるまで 3.を繰り返す。

ジェットクラスタリングの計算には fastjet[13]を⽤いた。

さらに、再構成したジェットP1,P2が事象の終状態の 2 粒⼦に対応していると仮定し、次の量を 定義する。

𝐸š≡ |𝑷š| : 終状態の粒⼦のエネルギー

𝐸 = ∑ 𝐸š : 各事象のエネルギー

𝑐𝑜𝑠𝜃·

𝜃•¸€ : 𝜃•¸€≡ 𝜋 − 𝑷H∠𝑷" (acollinearity angle) 終状態の 2 粒⼦のなす⾓度

𝜃•¸» : 𝜃•¸» ≡ 𝜋 − 𝑷H¼∠𝑷"¼ (acoplanarity angle) 終状態の 2 粒⼦をxy 平⾯(ビーム軸と垂直 な平⾯)に射影した際の 2 粒⼦のなす⾓度

𝐸š»½¸ : 終状態の粒⼦がプラスチックシンチレータで損失したエネルギー

各過程について、定義した量の分布を図 4.5~図 4.13 に⽰す。

(図 4.5~図 4.13 の事象数は各過程 10 万の擬似事象を⽤いている。)

(22)

図 4.5 𝐸Hの分布

図 4.6 𝐸"の分布

図 4.7 Eの分布

(23)

図 4.8 𝑐𝑜𝑠𝜃·の分布

図 4.9 𝑐𝑜𝑠𝜃·Lの分布

図 4.10 𝜃•¸€の分布

(24)

図 4.11 𝜃•¸»の分布

図 4.12 𝐸H»½¸の分布

図 4.13 𝐸"»½¸の分布

本研究では、これら 9 つの量を特徴量として BDT を⽤いて事象選別の最適化を⾏う。

(25)

5 実光⼦弾性散乱の観測可能性の検証 2-解析,結果

5.1 BDT

本研究では事象選別の最適化を⾏うために ROOT[14]の多変数解析ツールキット(TMVA : Toolkit for Multi-Variable Analysis)のBDT(Boosted Decision Tree)を⽤いて信号事象、背景事象の分 類を⾏う。認識対象がいくつかの概念に分類できるときに認識対象のもつ特徴を⽤いてある特 定の概念に分類する処理のことをクラス分類といい、このときの概念をクラスという。通常、ク ラス分類をする認識対象には複数の特徴(特徴量) xiや分類する為の明確な境界がある。特徴xi 定量的に表すものとして特徴ベクトルx = (x1,x2,…,xn)を考えると、特徴ベクトルで張られる特徴 空間において、同じクラスに属するものは特徴空間である領域に集中する。このある領域に集中 したものはクラスタと呼ばれる。

決定⽊(Decision Tree)とは、ある特徴量xiの値に対して、信号事象と背景事象を最適に分類す る閾値を決定して分類する⽅法で、BDTとはこの決定⽊をBoostingという⼿法を⽤いて性能を 向上させたものである[15]。図 5.1 にBDTによる信号事象と背景事象の分類の概念図を⽰す。

図 5.1 BDTによる分類の概念図

図 5.1 中のRoot nodeは分類する信号事象と背景事象が混ざった初期状態である。BDTによる信 号事象と背景事象の分類は、まず初めに、⽣成した事象の⼀部を訓練データとして使⽤し、ある 特徴量x1の値に対して、信号事象と背景事象を最適に分類する閾値 c1を決定する。そして分類 した先でまた別の特徴量x2の値に対して最適に分類する閾値 c2を決定する。これを特徴量xn

(n =1,2,…)に対して⾏い、図 5.1 のような信号事象と背景事象を分類するモデルを構成する。そ して、この構成したモデルに訓練データとして使⽤しなかった残りの事象を解析⽤データとし

S:

B:

(26)

て⼊⼒し、それぞれの事象に対して信号事象らしさ、背景事象らしさを−1~1 で数値化する。

本論⽂では、この信号事象らしさ、背景事象らしさを表す数値をBDT valueと呼ぶ。BDT value は 1 に近いほど信号事象近く、−1 に近いほど背景事象に近い。

5.2 事前選別

本研究において、信号事象の有効断⾯積は背景事象の有効断⾯積より数桁⼩さいため、検出さ れる事象は信号事象に対して背景事象が多くを占める。検出される事象の分類をする前に、事前 選択として、以下の条件を満たさないものを背景事象とみなして排除した。

• 𝐸 < 2.5𝑀𝑒𝑉

信号事象は、本研究の想定では0.5~1MeVのエネルギーを持つ光⼦同⼠の光⼦-光⼦弾性散 乱によって起こるため、各信号事象の全エネルギーEはE < 2.5MeVを満たすと考えられる。

図 4.7 より、信号事象のEは2.5𝑀𝑒𝑉よりも⼩さい値に集中しているため、Eが2.5𝑀𝑒𝑉より も⼤きい事象は、背景事象と⾒なす。

• 𝐸H»½¸= 𝐸"»½¸= 0

信号事象の終状態は光⼦であり、プラスチックシンチレーターでのエネルギー損失はない。

⼀⽅、終状態が荷電粒⼦であればプラスチックシンチレーターでエネルギーを損失する。

𝐸H»½¸= 𝐸"»½¸= 0 の条件を満たさない事象は終状態荷電粒⼦を含んでいると考えられるた

め、背景事象と⾒なす。

• 𝜃•¸»< 0.15

信号事象は、同程度のエネルギーの光⼦同⼠の衝突で光⼦同⼠が逆⽅向に近い⽅向に散乱 し、𝜃•¸»の値が⼩さくなる。図 4.11 より信号事象の𝜃•¸»は約 0.15 より⼩さい値に集中して いるため𝜃•¸»< 0.15を満たさない事象を背景事象と⾒なす。

事前選別を⾏った後、さらにBDTを⽤いて残った事象の選別の最適化を⾏う。

(27)

5.3 事象選別と解析

事前選別を⾏った後、残った事象の選別の最適化を⾏うために、BDT の分類モデルを構成す る。分類モデルを構成するために⽤いる訓練データ数は、各過程で 10 万事象の擬似事象を⽤い る。BDT の分類モデルを構成した後、各過程で⽣成した擬似事象の内、訓練データに使⽤しな かった残り全ての擬似事象に対してBDT valueを計算した。図 5.2 に信号事象と全背景事象に対

するBDT valueの分布を⽰す。

図 5.2 BDT valueの分布

図 5.2 において、事象数は、⼀年間 (107s)の実験で想定される事象数を⽤いている。

次に、事象の選別を⾏うために、信号事象と背景事象で⽣き残った事象について統計的有意性 sigを次のように定義した。

𝑠𝑖𝑔 ≡ 𝑁È

I𝑁È+ 𝑁É (5-1)

図 5.3 にBDT valueの関数として計算した統計的有意性sigを⽰す。誤差は擬似事象の統計誤差 である。

図 5.3 統計的有意性sig

(28)

図 5.3 において統計的有意性sigBDT valueの値が0.215で最も⾼くなる。

計算した統計的有意性sigより、sigの値が最も⾼くなるように事象の選別を⾏った。

BDT value = 0.215の場合の信号事象と背景事象について予想される各事象の数を表 5.1 に⽰す。

表 5.1 信号事象と背景事象について予想される各事象の数 (⼀年間~107s の運転)

過程 ⼀年間あたりの事象数

γγ→γγ γγ→e+e-

665.1 ± 3.4 2173 ± 310

γγ→e+e-γ 11.0 ± 4.9

γγ→e+e-γγ 3.8 ± 1.3

e-γ→e-γ < 55

e-γ→e+e-e- 43.2 ± 21.6

e-e-→e-e- < 1.2

背景事象の合計 2231±316

表 5.1 の事象数より統計的有意性sigは次のように推定される。

𝑠𝑖𝑔 = 12.36 ± 0.68 誤差は擬似事象の統計誤差によるものである。

γγ→γγ過程による事象の観測に対する統計的有意性sigは、99.8%信頼区間(p=0.001)において、

以下のような値をとる。

10.13 < 𝑠𝑖𝑔 < 14.58

結果として、⼀年間の運転の後で0.999の確率で約10σを超えることが予測され、発⾒というレ ベルを⼤きく超えて実光⼦弾性散乱による事象を測定出来る可能性があると結論付けられる。

(29)

6 結論

本研究は、中国科学院⾼能物理研究所(IHEP)で計画されている光⼦-光⼦衝突型加速器を想定 し、信号と背景事象の⽣成数や⾓分布及び検出器モデルを考慮し、⾼エネルギー光⼦の⽣成から 相互作⽤領域での光⼦-光⼦衝突、検出器で検出されるまでの⼀連の事象の数値シミュレーショ ンを⾏った。さらに、測定データを⽤いた特徴量の抽出、機械学習の⼀種である BDT を⽤いた 事象選別の最適化を⾏うことで、光⼦-光⼦弾性散乱事象の観測に対する統計的有意性を評価し た。

初めに、⾼エネルギー電⼦や陽電⼦、光⼦の相互作⽤を計算する数値計算プログラムである CAIN を⽤いて逆コンプトン散乱後の光⼦及び電⼦のエネルギーを計算する事により、想定して いるパラメータで重⼼系エネルギー1~2MeV を実現するために必要な光⼦エネルギーを得るこ とが出来る事を⽰した。次に、実光⼦弾性散乱の観測可能性を定量的に評価するため、信号事象 と背景事象の擬似事象を⽣成し、検出器シミュレーション及びジェットクラスタリングによる 事象の再構成を⾏った。さらに、再構成されたジェットを⽤いて 9 つの量(特徴量)を定義し、信 号事象と背景事象を分類するため、機械学習の⼀種である BDT を⽤いて事象選別の最適化を⾏

い、光⼦-光⼦弾性散乱事象の観測に対する統計的有意性を計算した。事象の選別は、統計的有 意性 sig の値が最も⾼くなるように⾏った。

結果として、BDT を⽤いた解析において、統計的有意性 sig は sig = 12.36 ± 0.68となり、光

⼦-光⼦弾性散乱事象が⼀年間の運転の後で 0.999 の確率で約 10σを超える有意差で観測出来る 可能性があることが⽰された。

(30)

参考⽂献

1. C. Bamber , et al. Phys. Rev. D 60. 092004 (1999) 2. ATLAS Collaboration, Nat. Phys. 13, 852-858 (2017) 3. B.De Tollis, Nuovo Cimento. 32, 757 (1964)

4. B.De Tollis, Nuovo Cimento. 32, 1182 (1965) 5. T.Takahashi , et al. arXiv:1807.00101 (2018)

6. T.Inada , et al. Phys. Rev. Lett. B 732 356-359 (2014) 7. SPring-8 http://www.spring8.or.jp/ja/

8. CAIN. Version 2.35 http://ilc.kek.jp/~yokoya/CAIN/cain235/

9. WHIZARD http://whizard.hepforge.org 10. Geant4 http://geant4.web.cern.ch

11. S. Catani, Y.L. Dokshitzer, M. Olsson, G. Turnock, B.R. Webber, Phys. Lett. B 269, 432 (1991) 12. M.Cacciari, arXiv:hep-ph/0607071 (2006)

13. Fastjet http://fastjet.fr

14. ROOT Data Analysis Framework http://root.cern.ch 15. 坂田麻侑 広島大学理学部物理科学科卒業論文 (2016)

(31)

謝辞

本論⽂を執筆するにあたりお世話になった多くの⽅々に感謝の意を表します。特に、指導教員 である⾼橋徹准教授には、研究を⾏うにあたって丁寧な指導と幾つもの助⾔を賜わりました。本 論⽂をまとめることが出来たのも丁寧な添削指導のおかげです。深く感謝いたします。また、同 研究室の飯沼昌隆助教には、理解の浅い点について数多くの助⾔を賜わりました。深く感謝いた します。同研究室の先輩や同期の皆様とは、物理の議論だけでなく何気ない⽇常会話を通して楽 しい時間を過ごすことができました。ありがとうございました。そして、⾼校時代の師である林

⽥さんにも深く感謝いたします。当時、幾つもの相談に乗ってくださったおかげで今の私があり ます。

最後に、地元から遠く離れた⼤学に通わせてくれた両親、様々な援助をしてくれた姉⼆⼈に⼼

より感謝いたします。

表 3.1  想定しているレーザー光及び電⼦ビームのパラメータ  レーザー光  電⼦ビーム  レーザー波⻑  (μm)  1.054  電⼦ビームエネルギー(MeV)  200  集光点でのレーザーウエスト径  (μm)  5  衝突点でのビームサイズ(μm)  2  レイリー範囲  (μm)  298  衝突点でのβ関数  (μm)  626  レーザーパルスエネルギー  (J)  2  電⼦バンチ電荷(nC)  2  レーザーパルス⻑  (ps)  600  電⼦バンチ⻑  (mm)  0.6  繰返し
図 3.4  光⼦-光⼦衝突の微分ルミノシティ分布  光⼦-光⼦衝突のルミノシティの指標として、図 3.4 の分布を衝突エネルギーで積分した、積分 ルミノシティL wlwXx 44,1 88 を以下のように定義する。表 3.2 はその値を衝突する光⼦のヘリシティ毎に まとめたものである。
図 4.2 はコンプトン散乱後の電⼦のエネルギー分布である。⼊射電⼦のエネルギー200MeV か ら散乱光⼦のエネルギーを引いたエネルギーを持つ。図 4.2 中の⼆重のピークで、200MeV のピ ークはコンプトン散乱点で光⼦と相互作⽤せずエネルギー損失しなかった電⼦によるピークで、 他⽅のピークは図 4.1 中のピークエネルギー0.65MeV に対応したピークである。また、約 197MeV 程度のところまで分布の広がりを持つのは、電⼦バンチとレーザーパルスが衝突した 際の多重散乱が影響しているためである。
表 4.1  各過程の散乱断⾯積と⽣成事象数  過程  有効断⾯積  σ 5££   (μb)  ⽣成事象数  γγ→γγ  0.77  2.0×10 5 γγ→e + e - 2.6×10 4 2.1×10 6 γγ→e + e - γ  6.5×10 2 1.1×10 6 γγ→e + e - γγ  1.2×10 1 2.0×10 5 e - γ→e - γ  1.3×10 3 2.0×10 5 e - γ→e + e - e - 3.2×10 3 1.1×10 6 e - e - →e - e -
+5

参照

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