長崎大学工学部研究報告 第27巻 第48号 平成9年1月
活断層のずれによる地表面温度上昇の理論的及び実験的検討
後 藤 悪之輔 * ・ 全 柄 徳 * 西 川 麗 **
ATheoreticalandExperimentalStudyonGroundSurface TemperatureRiseduetoActiveFaultSlip
by
KeinosukeGOTOH*,ByungdngJUN*andUraraNISHIKAWA**
Thispaperdiscussesthepossibilityofearthquakepredictionbyobservlng andmonitbringthe temperatureoftheactivefaults. Thisismainlybasedontheideathatwhenanymassiscompressed theenergyrestoredintheparticleswillbereleasedontheform ofheat. Inordertoconfirm thisidea, unconfinedcompressionttestswereperformedwiththesurfacetemperatureofallthespecimens measured. Investigationofthisideawasdonebyuslngtheconceptofthermaltheory.
1.は じ め に
阪神 ・淡路大震災前後 のLANDSAT熱画像 を解析 した結果1),震災後 のデータに活断層分布 とほぼ同位 置で温度上昇が見受 けられた.2つの物体間 に摩擦が 生 じた とき,摩擦力 を介 して摩擦熱が発生す る. この 摩擦 の原理 を踏 まえれ ば,LANDSAT熟画像で得 ら れた温度上昇箇所 は,活断層のずれに伴 う発熱である と考 えられ る. この裏付 けとして岩石の一軸圧縮試験 を行い,破壊の過程で岩石の表面温度 を測定 した2)・3).
試験結果か ら, ほとん どの岩石で破壊 に伴 い温度上 昇が伺 えた.阪神 ・淡路大震災の震央近 くに存在す る 野島断層 は,主 に花園岩で形成 されているが,特 に, 同質の岩石 においては著 しく発熱す る結果 となった.
この結果か ら,活断層のずれにより温度が上昇するこ とは十分言 える.すなわち, この温度上昇 を経時的 に 観測 してい くことで,人工衛星か らの地震予知の可能 性 を発想 した.
そこで,本研究では,活断層のずれ による温度上昇 を理論的及び実験的に検討 した結果 について報告す る.
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2.活断層 における摩擦熱の熟上昇の理論式
活断層では地震の度 に,活断層 を形成する岩石のせ ん断破壊 により摩擦熱が発生 し,摩擦熱の発生 は断続 的 ない し間欠的で ある. この摩擦熱 のメカニズム に よって発生す る熱の理論的評価 を以下 に示す4)・5).モデ ルは図‑1に示す ような平面状 の断層で考 える.
モデルは平面状 ということか ら,すべ りがひ とつの
図‑1 活断層のモデル化
平成8年10月28日受理
*社会開発工学科 (DepartmentofCivilEngineering)
**大学院修士課程社会開発工学専攻 (GraduateStudent,DepartmentofCivilEngineering)
78 後藤恵之輔 ・全 柄徳 ・西川 麗 面 に限定 され る ことになる.す なわ ち,一次元で ある
ので,断層面 にお ける熱伝導方程式 は,次式 の ように 表 され る.
pcP(塔 一昔 )‑‑H(I,i) (1) ただ しβ‥密度,G ‥比熱,K‑蕊 ‑‥熱拡散率,K:
熱伝導率,H(I,i):せ ん断力 に よる熱発生比 一次元 モデルで ある ことか ら,次式が導かれ る.
H(I.,i.)‑8(X。)6fu′(i.) (2) ここで;速度関数 は
u,(to)‑% (3)
β :せ ん断波速度,〟 :せ ん断係数 の ように表 され る.
式 (1)につ いて グ リー ン関数, デル タ関数 を用 いれ ば,次式 とな る.
(慮
一 昔)
G(I,i)‑8(a,i)式(4)を積分 して
・(x・t)‑一志 N G(I‑x,・t‑t′)
×H(x′,t′)dr′dt'
い まグ リー ン関数, デルタ関数 はそれぞれ G(I,i)‑/妥 /雷 eiuxe‑iwtg(vp) 8(I,i)
‑ /
雷 eiur
/雷 e‑iwtと表 され るた め,式(5)は次式 となる.
/ 妥 /
普 ef(ur‑W"(‑‑ 2+ iw)g(〟,ぴ )‑ / 雷/ 雷e 糾 3‑wf,
式(6)を解 いて,
G ( 〟 , 紺 ) ‑ ∫ : 告J : 雷e i (
‑ , Kレ2+ iu)(4)
(5)
(6)
(7)
右辺 について は,ステ ップ関数 ♂(t)が関係 して,次式 が得 られ る.
e(i)e‑NU2t
式(8)を用 いて式(7)を解 くことによ り
G(I,i)‑一志 e一品o(i)
(8)
(9)
モ デルが一 次元 で ある ことと,せ ん断が破壊 に平行 であ る ことか ら,熱伝導条件 は 0である.初期条件 は 次式 に示す ようであ る.
T‑0,H‑0 (t<0)
条件式(10)を用 いて式(5)か ら T(I,i)‑
(10)
L
t/
:00exp l
‑i# ]撃 碧 drodto (ll)を得 る.
すべ り変位量 は D‑& tl
〃 (12)
で表 わ され,式(3),(12)を式(ll)に代入 して,次式が 得 られ る.
T(I,i)‑
L t l e x
pl・6f
2pCp府
∬2
×
4k(i‑i.)
] ′ 1
、告 dto (13)D :すべ り変位量, tl :すべ り継続時間
ここで断層面近傍 の温度 を求 め るため,∬‑0,才‑ tlとすれ ば,
拝 読 碧
妄L t l 去 d t o
(14)とな る.上式ですべ り速度 U‑D/tlとおいて式(14)を 解 けば,温度 Tは次式 と得 られ る.
‑a ill/2
(15) 式(15)か ら,地震 の際の断層面 のすべ りによって上 昇す る温度 の大 きさ(T)は,断層面 にかか るせ ん断応 力(ef),すべ り速度(U),すべ りの継続時間(tl)に依存 す る ことが分 か る.
阪神 ・淡路大震災 にお ける野 島断層 の場合 について 考 えてみ る.花 尚岩質地殻(p‑2.7g/cm3,C9‑8A*
106erg/g・OC,k‑1.1*10‑2cm2/sec)と仮定 し,Cf‑
1kbar,U‑100‑200cm/sec,t1‑1‑2sec6)として式 (15)に代入 すれ ば,24000oC発熱 す る こととな る.ただ し,式(15)は Ofがすべ りの間 は不変 で あ る とい う仮 定 の もとに得 られ てu る.実際 には,断層面 の応力降 下 な どを考慮 す る必要が ある. また, この場合 の発熱 は瞬時の もので あ るため,数秒後 には もとの温度 に戻
活断層のずれ による地表面温度上昇の理論的及 び実験的検討 る.
3.破壊速度 を変化 させた一軸圧縮試験 3. 1 試験 日的
前述 した熱上昇 の理論式のパ ラメーターで もあるす べ り速度(U)に着 目し,温度上昇 にどの ような影響が あるか実験的に検討 した.
3. 2 試験片
長崎県島原市の現場で採取 した砂岩 を使用 した.杏 径5cm,高 さ7cmの円柱 に成形 した後,‑軸圧縮 をか けた. この とき,試験片 はその大 きさにより岩石の強 度が変わ ることを避 けるため,極力同 じ大 きさにした.
3. 3 試験方法
岩石の一軸圧縮試験 を行 った.表‑1に示す ように試 験中の載荷速度 を変化 させ,載荷 中にサーマルカメラ で試験片の表面温度 を測定 した.
3. 4 試験結果
図‑2(a)〜 (d)は試験結果で,載荷速度 による発生 温度 の比較 を示 した ものである.試験片表面の上方か らポイン ト1‑ポイン ト5まで測定 し,各々のポイン トでの平均値 を折れ線 グラフとして図示 している.▽
印が遅い速度(No.X‑1)で行 った試験片,○印が速い 速度(No.X‑2)による結果 を示す.
図‑2(a)にN0.1の砂岩 の速度 による比較 図 を示 す.載荷重7tfあた りで多少逆転 はしているが,全般的 にNo.1‑2(載荷速度1.70kgf/cm2/sec)の方が,各荷重 において発生温度が上回っている.
図‑2(b)にN0.2の比較図を示す.0.1‑0.3oCの差 で,常 にNo.2‑2(載荷速度1.70kgf/cm2/sec)の発生温 度が高い.
図‑2(C)にN0.3の比較図を示す.No.3‑1(載荷速 度0.85kgf/cm2/sec),No.3‑2(同1.70kgf/cm2/sec)で ほ とん ど変わ りがな く,終始同様 の温度上昇である.
表‑1 載荷速度
速度 速度
(kgf/cm2/sec) (kgf/cm2/sec) No.X‑1 No.X‑2 No:1 0.42 1.70 No.2 0.42 1.70 No.3 0̲85 1.70 No.4 0.85 1.70
79 図‑2(d)にN0.4の比較図を示す.荷重3tfと荷重 20tf付近 でNo.4‑1(載荷速度0.85kgf/cm2/sec)の方 が温度が高 くなるが,全体的に見ればNo.4‑2(載荷速
25.3 25.2 25.1
′■ヽ L′ 2O 5 讃 24.9 24.8 24.7
25.7 25.6 25.5
′、 巳 25.4 也蛸 25.3 25.2 25.1
25.9 25.8 S}
^ 25・7 ヽ■.■′ 讃 2516
25.5 25.4
26 25.9 a 25・8 0ヽ‑′ 世 25.7 蛸
25.6 25.5
0 5 10 15 20 25 30 荷重 (t)
(a)No.1
5'J
0 5 10 15 20 25 30 荷重 (t)
(b)No.2
0 5 10 15 20 25 30 荷重 (t)
(C)No.3
0 5 10 15 20 25 30 荷重 (t)
(d)No.4 図‑2 発生温度の比較
80 後藤悪之輔 ・全 柄徳 ・西川 麗 度1.70kgf/cm2/sec)の方が発生温度 は上 回ってい る.
3. 5 考察
今回 は4回試験 を行 った.その うちのN0.3を除 き 他3回の試験結果か ら,載荷速度が速 い程発生温度 は 高い値 を得 ることが推察 され る.
N0.2とN0.4を比較すれば,N0.2の方が遅 い速 度で得 られた発生温度,温度上昇率 と,速 い速度 で得 られた もの との差が大 きい.これ は,N0.4の載荷速度 の遅い速度 と速 い速度 との差が0.85kgf/cm2/secに対 し,N0.2の方 は1.28kgf/cm2/secと,N0.2の速度差 の方が大 きいためで あると考 えられ る(秦‑1参照).
前述 した熟上昇の理論式 (式(16)参照)と関連 させて 考察すれば,すべ り速度(U)が式 の分子 にあることか ら,すべ り速度が大 きい値 をとれ ば, それ に準 じて温 度 は高 い値 を示す.温度 とすべ り速度 は比例関係 であ る.す なわち,試験 で得 られた結果 は,熟上昇の理論 式 と一致す る.
4.ま と め
LANDSAT熱画像 を,阪神 ・淡路大震災 の前後 で比 較 し検討 した結果,活断層分布 と同 じ位置 で温度が上 昇 していることを発見 した. この ことか ら,活断層が せん断破壊 を起 こし,摩擦 により熟が発生 したのでは ないか と推定 した. この推定 を裏付 ける岩石の一軸圧 縮試験 を行 った結果,岩石 は破壊 に伴 い発熱す ること が判明 した.
実験 的 に摩擦 によって熟が発生す ることは言 えたの で,本文 では熱上昇 の理論式か ら検 討す ることに至 っ た.活断層 のずれ による摩擦熱 の発生 を,McKenzie&
Bruneによる熟上昇 の理論式か ら明 らか にした. さら に,理論式のパ ラメーターで もあるすべ り速度 に着 目 した. そ こで,3.で述べた ように載荷速度 を変化 さ せ,一軸圧縮試験 を行 ったのである. この とき,破壊 過程での温度 を測定 した.
8割 の試験 で,載荷速度 の速 い試験片の方が,温度 上昇率が大 きい値 を示 した. また,速度 の差が大 きい 程,上昇率の差 も大 きい結果 となった.すべ り速度の パ ラメーターが熟上昇理論式の分子 にあることか らも
この ことは言 える.
以上 の結果か ら,活断層で は破壊 による摩擦熱が発 生す る. また, この熟の大 きさは,断層面 にかか るせ ん断応力,すべ り速度,すべ りの継続時間に関係す る.
そ こで,一軸圧縮試験 の温度測定 データの比較 か ら, 理論 どお りすべ り速度が大 きな値 ほ ど,得 られ る発生 熟 は大 き くなることを明 らか にした.
LANDSAT熟画像 の解析 を行 った時 に発見 した地 震後 の熱上昇箇所 は,活 断層で あると考 えられ る. こ の ことによ り,人工衛星 データを用いて活断層 を経時 的 に観測 してい けば,地震予知が可能 である と思われ る.
謝辞 :秋 田大学鉱 山学部 の福留高明教授並びに,本学 大学院海洋生産科学研究科の前間英一郎氏 には,数値 解析 について助言 をいただ き,本学持下輝雄技官 には, 試験実施 に多大の協力 をいただいた. ここに記 して深 甚 の謝意 を表す る次第で\ある.
参 考 文 献
1)後藤悪之輔 :宇宙か らの地震予知,土 と基礎,Vol. 44,No.456,地盤工学会,pp.25‑28,1996.1. 2)後藤意之輔他 :サーマルカメラによる岩石の破壊
に伴 う温度測定, 自然災害科学研究西部地 区部会 報 ・論文集,第20号,pp.133‑141,1996.3 3)後藤恵之輔他 :地表面温度観測 による地震予知 の
実験的検討, 日本 リモー トセ ンシング学会九州支 部平成7・8年度研究発表会論文集,pp.15‑21, 1996.7
4)D.McKenzie&∫.N.Brune:MeltingonFault PlanesDuring Large Earthquakes,Geophys. Jour.Roy.astr.Soc.,Vol.29,pp.65‑78,1972.
5)福留高明 :熱源 としてみた活断層,秋 田大学鉱 山 学部地下資源研究施設報告,第49号,pp.33‑40, 1984.3.
6)原 口 強 :兵庫県南部地震 に伴 って出現 した地震 断層,地盤か ら見た阪神 ・淡路大震災緊急報告会 資料,pp.20‑39,1996.3