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穴 沢

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経 済 学 研 究 37‑3 北 海 道 大 学 1987. 12 

マレーシアにおける日系輪出指向企業

穴 沢 農

序

マレーシア1)における日系製造業企業(子会 社及び合弁企業)はその指向する市場をもとに 現 地 市 場 指 向 企 業 と 輸 出 指 向 企 業 に 大 別 さ れ る。前者にはマレーシアの輸入代替工業化によ る既存の輸出市場の喪失を回避する形で進出し た企業及び新たにマレージア市場を開拓する目 的で進出した企業が含まれる。後者は当初から 日本及び第3国への輸出を目的として進出した 企業である。

一般にわが国の直接投資や日系多田籍企業に 関する研究は,特定国(地域)の全産業又は特 定産業のグローパノレな活動を対象としたものが 多いが,現地市場指向企業と輸出指向企業とは 指向する市場が大きく異なるのみならず,戦略 上の違いから派生する種々の相違点を有するた め, 日系製造業企業を上記2種類に分類したう えでの研究もまた有益で、あると考えられる230

本論文ではマレーシアという特定の環境に進 1)マレーシアは1957年に英国より独立。圏土はマレ 一半島(西マレーシア)とカリマンタン島北部の サパ,サラワク(東マレーシア)よりなり,総面 積は約33万回。 1984年の人口は1,527万人。人口 の83%が集中する西マレーシアでの人種構成はマ レー系(ブミプトラ)56.3%.中園系32.9%.イ ンド系10.1%であった。開国は典型的な多人種国 家と言われ,政治面ではマレー系(ブミプトラ) が,経揖面で寸土中国系住民が優位にある。 1984年 の1人当り関民総生産は約2.000ド、ノレであった。

2)在マレーシア尽系製造業企業をこの観点から分析 した研究には次のものがある。池間誠「日本の対 マレーシア直接投資一輸出指向型対現地帯場指向 型JIi一橋論叢』第76巻第2号 (1976年8月〉。

出した日系製造業企業のうち輸出指向企業を取 り上げ,これらの行動の実態を明らかにすると 共にその特徴を浮き彫りにすることを試みる。

そ の 際 , 資 料 の 制 約 が あ り 充 分 と は 言 え な い が,可能な限り輸出指向企業と現地市場指向企 業との差異を明らかにしたし、。また,必要に応 じて欧米系輸出指向企業との対比をも行なうも のとする。

なお,輸出指向企業も木材加工のようにマレ ー シ ア の 資 源 を 加 工 し 輸 出 す る 企 業 と 自 出 貿 易地区 (FreeTrade Zone, 以 下 FTZとす る)に進出している FTZ企業等に分類される が,本論文は筆者のマレーシア留学中, 1983年

11月から翌年3月にかけて行なった FTZsで の調査を基礎としているため,対象は FTZ企 業に限定する。

以 下 に お い て ま ず 日 本 の 対 マ レ ー シ ア 直 接 投 資 を 概 観 し 1 I で は マ レ ー シ ア の FTZs

設立の背景となった同国の輸出指向工業化戦略 と FTZsの全体像に言及する。 Eに お い て は 日系 FTZ企業の実態を明らかにし,さらにW

においてマレーシア政府の打ち出す種々の政策 とこれらに対する日系 FTZ企 業 の 対 応 を 見 る。

なお, この場を借りて,調査に御協力頂いた 企業,一年間のマレーシア留学のための奨学金 を提供して頂いた菌際ロータリー財団,そして,

マ ラ ヤ 大 学 政 経 学 部 大 学 院 で 御 指 導 頂 い た

Gregory Thong教授ならびに Chee Peng  Lim準教授に謝辞を述べたい。

(2)

30 (368)  経 済 学 研 究 37世3 国1‑1 日本の対マレーシア直接投資

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I 日本の対マレーシア直接投資 わが国の対マレーシア甚接投資の累計は大蔵 省の資料によれば1984年度末で879件, 10億4

千 6百万ドノレに達しており, これは件数におい ては対アジア3)誼接投資の 8.1%を占め,金額 においては5.8%を占めていた。また,この金額 は日本の対アジア霞接投資の中ではインドネシ ア,香港, シンガポール,韓国に次いで第5位 に位置し, t世界の中でも第16i立であった。図1

‑1はわが国の対マレーシア直接投資を時系列 で見たものであるが,件数においては1973年と

83年にピークがあり,金額では1973年と80年に どークがあり, 83‑84年にかけても増加してい た。このうち1980年には件数が少ないにもかか 3)大蔵省「財政金融統計月報Jにおける分類では,

アジアはブルネイ,スリランカ,香港,インド,

インドネシア,韓国,マレーシア,フィリピン,

シンガポール,台湾,タイ,中間,その他からな り,中近東は含まれなし、。

わらず金額が急増したが, これは化学プラント に対する大規模な投資による。

次に製造業部門に限定して見ると, 日本から の直接投資は1984年度末累計で466件, 7億5千9

百万ドルで、あった。これは件数で、対マレーシア 直接投資全体の53.0%,金額で72.6%に相当し た。また, これは件数において対アジア製造業 直接投資の8.3%,金額において10.8%を占め ていた。件数においてはアジアの中で台湾,韓 国, シンガポール,インドネシア,タイに次い で第 6位,金額ではインドネシア,シンガポー ノレ,韓国に次いで第4位の位置にあった。また,

世界の中でも件数は第8位,金額では第7位で あった。

産業別にみると,表1‑1にあるように,わ が国の誼接投資は1984年度末累計で,件数では 電機が91件で第1位,次いで木材・パルプ (71

件), 鉄 e非鉄 (52件),繊維 (47件),化学 (46

件)の11買であった。一方,金額においては化学

(3)

31 (369)  マレーシアにおける日系輸出指向企業 穴 沢

12  1987. 

日本の対マレーシア製造業霞接投資

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マレーシアは基本的には工業化促進のため,

外 資 の 進 出 を 歓 迎 す る と い う 姿 勢 を と っ て お りペ 事実,製造業部門における外国企業5)の 比重は, fi&下額向にはあるが依然として高く,

1981年では生産額の39.6%,労働力の25.8%が 外国企業によって占められていたの。 同閣は製 造業への甚接投資を助長するためパイオニア・

ステータス企業に対する免税7) その他,投資 税額控除等々のインセンティブめを供与してい (1億8千万トソレ),鉄・非鉄(1億3千8百 万

トソレ),繊維(1億3千7百万ドノレ),電機 (9千 4百万トソレ)が上位を占めた。

時系列で見ると, 1972年度末累計では木材・

4) Chee Peng Lim and Lee Poh Ping,Japanese  Direct Investment in Malaysia, with Special  Reference  to  Japanese  Joint  Ventures," 

Sekiguchi Sueo ed., ASEAN‑] apan Relations  Investment, Singapore : Institute of Southeast  Asian Studies, 1983. p. 62. 

5 )マレーシア政府の基準では,外国会業とは外聞人 の出資が50%を超えている企業をさす。

6)  Department of Statistics, Malaysia, Census  oll¥1Janulacturing  Industries  1981, Kuala  Lumpur : Malaysian Government, 1983, p. 64.  7)  1958年の創始産業法 (Pioneer Industry  Or‑

dinance)及び1968年の投資奨励法(lnvestment Incentive Act)において,政府は創始産業に投 資する企業,すなわちパイオニア・ステータス企 業に対しその投資額に基づき 2‑5年間法人税 (40%)及び開発税 (5%)を免除するとした。

さらにこれら企業は①政府の指定する開発地域へ の進出,②優先品目の生産,③50%以上の国産品 使用,のうち1つを満たすことにより 1年づっ最 高3年まで免税期間を延長しうる。

8)投資税額控除の他に雇用促進免税制度,指定地域 パルプが件数,金額において第1位であり,資

源加工型の直長投資が多かったことが窺えるO

また, この時点で電機が件数,金額で第2位に あ っ た 。 こ れ は 後 述 す る よ う に 日 系 FTZ企 業のうち電機産業に属するものが70年代初に多 く進出したことを一部反映している。 1976年度 末では件数は依然として木材・パルプが,金額 では繊維が第1位となっている。 1972年一76年 では識経と電機での進展が見られた。また, こ の間の繊維の金額の伸びは主にFTZsへの投資 に起因するo1982年度末では件数は木材・パノレ プが,金額では化学が第1位であった。化学の 金額の急増は前述のように大型化学プラントへ の投資による。また, 1976年一82年を通じても 繊維,電機の伸びが堅調であった。 1984年度末 では前述の通りであるが, 1982年一84年にかけ て は 鉄 ・ 非 鉄 , 輸 送 機 で 金 額 の 急 増 が み ら れ これは重工業公社との合弁による製鉄所建 設と向じく重工業公社との合弁による乗用車と 二輪車への投資に伴なうものであるO

の間も電機の直接投資は堅調であった。

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るが,他方では,現行の新経済政策9)に基づき,

外資の出資比率規制や人種別雇用等の規制をも 実施している。

日本の対マレーシア製造業直接投資は1957年 の繊維の合弁事業に始まるが, 60年代末までは 免税制度,減価償却割増し能度,輸出奨励制度等 がある。

9) 1971年に1990年を目標に打ち出された新経済政策 (New Economic  Policy)の2大自擦は貧困の 撲誠と社会の再編であるが,これに付隠して人種 間の株式所有比率の是正,各産業の雇用における 人種の偏荘是正等の具体策が含まれる。新経済政 策は基本的にはマレ一系住畏(ブミプトラ)の経 済的地位の向上を目指すものであるO

あまり活発でなく, 69年までは計46件の合弁事 業があったにすぎない10)。 し か し 1970年末に おいてわが国はすでにシンガポーノレ,英国,米 国に次ぐ第4の投資閣であった。 70年代にはい ると,前述のように投資は活発化し 70年代央 には投資額累計でシンガポーノレに次いで、第2位 となり現在に至っている。また, 1984‑86年に かけては日本の産接投資がシンガポールのそれ 10)  Chee Peng Lim and Lee Poh Ping, Jaρanese 

Direct Invesfment  in  Malaysia, Tokyo : 1n.  stitute of Developing Economies, 1979.  (森 健訳~"レーシアに対する日本の直接投資』アジ ア経済研究所, 1979年, p.  5.) 

(5)

33 (371)  マレーシアにおける日系輸出指向企業 穴沢

12  1987. 

マレーシアにおける日系製造業 企業の産業別分布及び従業員数

11社当り 従業員数

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13)他閣では輸出加工IR(Export Processing Zone)  と呼ばれる場合もある。マレーシアの FTZsに ついては以下に詳しし、。

Chee Peng Lim and Lim Chui Choo,Zon己S

of  Prosperity,"  Malaysian  Business, crぜか vember. 1980). 

Mrinal Datta‑Chaudhuri,The Role of Free  Trade Zones in  Employment  Creation  and  Industrial Growth in  Malaysia,"  Lee Eddy  ed., Export Processing Zones and lndustrial  Employment  in  Asia, Bangkok: ILO‑AR‑

TEP, 1984. 

MaexRudy,Employment and Multinationals  in Asian Export Processing Zones," Bangkok  ILO‑ARTEP, Working Paper No. 26, 1983.  Warr Peter G. ,Malay戸r冷si匂a's Indωusはtria叫1En‑

claves : Benefits and Cosはts丸"The DeveloPing  Economies, Vol.  25, No. 1 (March 1987).  Anazawa  Makoto,Free  Trade  Zones  in  Malaysia," HOKUDAI ECONOMIC PAPE‑

RS, Vol.  15, 1985‑86. 

藤森英男「マレーシアの自由貿易地域」藤森英男 編『アジア諸罰の輪出加工区』アジア経済研究 所, 1978年,所収。

14)アジア諸国の輸入代醤工業化及び輸出指向工業化 については以下を参照のこと。

鈴木長年編『アジアの経済発展と輸出指向工業 イ凶アジア経済評究所, 1974年。

渡辺利夫『開発経済学研究』東洋経清新報社,

1978年。

村上敦『開発経済学Jダイヤモンド社, 1971年。 Lee Eddy ed. , EXlうort‑LedIndustrialization  and  Development, Bangkok  ILO‑ARTEP, 

1981. 

15)輪出控除,加速的減価償却,海外での服売促進の ための控諒が設けられた。

出所:日本叉易振興会 Fマレーシアにおける日系進出

企業の現勢jJ1986年, p.  18. 

、 .

暦 年 で は ト ッ プ に 立 っ て い る11)。 マ レ ー シ ア 側 の 資 料 で は1984年末で日本の対‑

マ レ ー シ ア 製 造 業 投 資 残 高 は 表1‑2にあるよ うに10億6千750万 リ ン ギ12)に 達 し て お り , 全 外 国 投 資 の22.1%を 占 め て い た 。 産 業 別 で は 輸 送 機 器 , 繊 維 品 , 非 金 属 鉱 物 製 品 , 電 気 ・ 電 子 機 器 , 基 礎 金 属 製 品 , 木 製 品 , 機 械 で 日 本 が 第

1の投資簡であった。

また, 日本貿易振興会の調査によれば, 1985  年 時 点 で の 自 系 製 造 業 企 業 の 産 業73U分 布 及 び 従 業 員 数 は 表1‑3の と お り で あ っ た 。 企 業 数 は 147社で電子・電気機器, 鉄・非鉄, 石 油 ・ 化 学 で 多 く , 従 業 員 総 数 は 約5万 人 に 達 し , 同 年 の マ レ ー シ ア 製 造 業 部 門 の5.8%を 占 め て い たO 産 業 別 で は 電 子 ・ 電 気 機 器 と 繊 維 で 従 業 員 数 が 多く,これらに輸送機,鉄・非鉄が続いていた。

II 

一 般 に FTZS13)は 低 開 発 国 に お い て は 輸 出 指向工業化の一方策として設立されるが, ここ ではまず, FTZs設 立 の 背 景 と な っ た マ レ ー シ ア の 輪 出 指 向 工 業 化 戦 略 に つ い て 述 べ , 次 い で 本 論 文 の 分 析 対 象 で あ る FTZ企 業 の 立 地 す る

FTZsの全体像を概観する。

マ レ ー シ ア の 工 業 化 戦 略 も 基 本 的 に は 輸 入 代 替 工 業 化 と 輸 出 指 向 工 業 化 に 大 別 さ れ る が14)

1970年代に入り, 1957年 の 独 立 以 降 継 続 さ れ て 来 た 輸 入 代 替 工 業 化 か ら 輪 出 指 向 工 業 化 へ と そ の 重 点 が 移 行 し た 。 こ れ に 先 立 ち1968年 の 投 資 奨 励 法 に お い て 輸 出 指 向 企 業 に 対 す る イ ン セ ン テ ィ ブ が 初 め て 導 入 さ れ た15)。

マ レ ー シ ア の 輸 出 指 向 工 業 化 と 自 由 貿 易 地 区

を上まわり,

11)以上は主に日本貿易振興会『海外市場白書J各年 号によった。

12)リンギ (ringgit)はマレーシアの通貨単位。

1984年の時点では1リンギ=97円。

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