夫婦間顕在的葛藤が青年期の子どもの精神的健康に
及ぼす影響に関する研究 -日本と中国の比較を通し
て-著者
張 新荷
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301甲第16707号
URL
http://hdl.handle.net/10097/64278
平 成
2 7 年 度 ( 2 0 1 5 年 度 ) 課 程 博 士 学 位 論 文
夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 青 年 期 の 子 ど も の
精 神 的 健 康 に 及 ぼ す 影 響 に 関 す る 研 究
― 日 本 と 中 国 の 比 較 を 通 し て ―
要 旨 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 青 年 期 の 子 ど も の 精 神 的 健 康 に 及 ぼ す 影 響 に 関 す る 研 究 ― 日 本 と 中 国 の 比 較 を 通 し て ― 本 研 究 の 目 的 は , 日 本 と 中 国 に お い て 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 青 年 期 の 子 ど も の 精 神 的 健 康 に 及 ぼ す 影 響 を 明 ら か に す る こ と で あ っ た 。 子 ど も の 精 神 的 健 康 に 影 響 を 与 え る プ ロ セ ス に つ い て , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 親 の 養 育 行 動 や 家 族 機 能 な ど を 媒 介 す る 間 接 的 プ ロ セ ス や , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に さ ら さ れ る こ と が 直 接 影 響 を 与 え る 直 接 的 プ ロ セ ス が 指 摘 さ れ て い る (C u m m i n g s e t a l . , 2 0 0 0 )。 日 本 と 中 国 に お い て , 前 者 の 間 接 的 プ ロ セ ス に 関 し て は 数 多 く の 研 究 が な さ れ て き た が , 後 者 の 直 接 的 プ ロ セ ス に つ い て の 研 究 は 不 十 分 で あ る 。 ま た , 後 者 の 直 接 的 プ ロ セ ス に 関 し て , 情 緒 安 定 性 仮 説 (D a v i s & C u m m i n g s , 1 9 9 4 ) や 認 知 状 況 的 枠 組 み (G r y c h & F i n c h a m , 1 9 9 0 ) の 有 用 性 , つ ま り 認 知 ・ 情 動 ・ 行 動 か ら 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 子 ど も の 主 観 的 体 験 を 捉 え る 必 要 性 が 述 べ ら れ て い る 。 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 下 に お け る 青 年 期 の 子 ど も の 精 神 的 健 康 の メ カ ニ ズ ム が 定 か で は な い た め , 本 研 究 で は 青 年 期 の 中 期 に あ た る 日 本 と 中 国 の 高 校 生 を 対 象 に , 直 接 的 ・ 間 接 的 の 2 通 り の プ ロ セ ス 及 び 認 知 ・ 情 動 ・ 行 動 の 3 つ の 側 面 を 統 合 す る 視 点 か ら そ の メ カ ニ ズ ム を 解 明 す る こ と と し た 。直 接 的 プ ロ セ ス に つ い て は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 反 応 を 取 り 上 げ , 間 接 的 プ ロ セ ス で は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 後 の 子 ど も の 親 行 動 知 覚 を 取 り 入 れ た 。 青 年 の 精 神 的 健 康 の 指 標 に は , 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 を 用 い た 。 本 研 究 の 目 的 を 達 成 す る た め に , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 反 応 , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 後 の 子 ど も の 親 行 動 知 覚 と 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 と の 関 連 を 検 討 し た 。 第 1 部 の 問 題 と 目 的 は , 第 1 章 と 第 2 章 か ら な る 。 第 1 章 で は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 の 定 義 を 述 べ た 上 で , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に さ ら さ れ る
子 ど も の 精 神 的 健 康 に 関 す る 理 論 や 先 行 研 究 を 整 理 し , 問 題 点 を 示 し た 。 第 2 章 で は , 本 研 究 の 目 的 と 各 実 証 研 究 の 意 義 を 提 示 し た 。 第 2 部 の 実 証 研 究 は ,第 3 章 か ら 第 7 章 で 構 成 さ れ る 。第 3 章(【 研 究 Ⅰ 】)で は ,夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 認 知・情 動 ・ 行 動 反 応 尺 度 を 作 成 し , 日 本 と 中 国 で の 因 子 不 変 性 を 検 証 し た 上 で , 各 因 子 の 得 点 を 比 較 し た 。 そ の 結 果 , 日 中 と も に 同 様 な 因 子 構 造 が 確 認 さ れ た 。 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に さ ら さ れ た 時 , 日 本 の 高 校 生 は 中 国 の 高 校 生 よ り , 自 分 が 落 ち 着 い て い ら れ る と い う 認 知 が 強 く , 葛 藤 場 面 を 回 避 す る 傾 向 が 強 か っ た 。 一 方 で , 中 国 の 高 校 生 は , た と え 両 親 間 の 葛 藤 が 最 終 的 に 解 決 す る と 判 断 し て も , 親 と 自 分 の こ と を 心 配 し , 情 緒 的 反 応 が 強 く , 葛 藤 場 面 に 介 入 す る 傾 向 が 強 い こ と が 示 さ れ た 。 第 4 章 (【 研 究 Ⅱ 】) で は 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 行 動 反 応 に 焦 点 を 当 て , そ の 背 景 に あ る 子 ど も の 認 知 ・ 情 動 反 応 を 把 握 す る た め に ,認 知・情 動 反 応 と 行 動 反 応 の 関 連 を 日 中 で 検 討 し た 。 そ の 結 果 , 両 国 の 共 通 点 と し て , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に お か れ た 時 , 積 極 的 に 介 入 的 行 動 を 取 る ほ ど , 両 親 間 の 葛 藤 が 解 決 で き る と い う 認 知 と 抑 う つ ・ 不 安 の 情 動 が よ り 強 か っ た 。 一 方 で , 積 極 的 に 回 避 的 行 動 を 取 る ほ ど , 自 分 へ の 心 配 や 自 分 が 落 ち 着 い て い ら れ る と い う 認 知 が よ り 強 い こ と が 示 さ れ た 。 両 国 の 相 違 点 と し て , 中 国 の 高 校 生 の み に お い て , 積 極 的 に 回 避 的 行 動 を 取 る ほ ど , 抑 う つ ・ 不 安 の 情 動 や 両 親 間 の 葛 藤 が 解 決 で き る と い う 認 知 が 弱 い こ と が 明 ら か に な っ た 。 第 5 章 (【 研 究 Ⅲ 】) で は , 子 ど も が 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に さ ら さ れ た 時 , 親 子 関 係 が 子 ど も の 反 応 に 与 え る 影 響 を 日 中 で 検 討 し た 。 日 中 と も に 見 ら れ た 結 果 と し て , 父 子 関 係 か つ 母 子 関 係 が 良 好 で あ る ほ ど , 両 親 間 の 葛 藤 が 解 決 で き る と 認 識 し , 介 入 的 行 動 を 取 る 傾 向 が 強 い こ と が 示 さ れ た 。 中 国 の 高 校 生 の み に 見 ら れ た の は , 父 子 関 係 か つ 母 子 関 係 が 良 好 で あ る ほ ど , 回 避 的 行 動 を 取 ら な い 傾 向 が 強 い こ と で あ っ た 。 そ の 一 方 , 日 本 の 高 校 生 の み に 見 ら れ た の は , 父 子 関 係 か つ 母 子 関 係 が 良 好 で あ る ほ ど , 抑 う つ ・ 不 安 が 強 い こ と , ま た , 父 子 関 係 が 良 好 で あ る ほ ど , 親 の 葛 藤 解 決 認 知 が 強 く , 抑 う つ ・ 不 安 が 弱 い こ と
で あ っ た 。 第 6 章 (【 研 究 Ⅳ 】), 第 7 章 (【 研 究 Ⅴ 】) で は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 反 応 , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 後 の 子 ど も の 親 行 動 知 覚 と 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 の 関 連 を 検 討 し た 。 こ れ は , 直 接 的 ・ 間 接 的 の 2 通 り の プ ロ セ ス を 統 合 す る 観 点 か ら , 日 本 と 中 国 に お け る 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 青 年 期 の 子 ど も の 精 神 的 健 康 に 影 響 を 及 ぼ す メ カ ニ ズ ム を 明 ら か に す る た め で あ っ た 。 そ の 結 果 , 日 本 と 中 国 と も に , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 は 子 ど も の 反 応 や 親 の 養 育 行 動 を 通 し て 青 年 の 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 に 影 響 を 及 ぼ す と 示 さ れ た 。 日 本 に お い て は , 自 分 の 状 況 を 心 配 し , 自 分 が 脅 か さ れ る よ う な 自 分 に 関 す る 恐 れ 認 知 , 情 動 反 応 , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 後 の 母 の 温 か さ ・ 信 頼 , 中 国 に お い て は , 自 分 に 関 す る 恐 れ 認 知 , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 後 の 父 の 温 か さ ・ 信 頼 が 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 と 関 連 す る こ と が 示 さ れ た 。 第 3 部 の 討 論 は , 第 8 章 と 第 9 章 か ら な る 。 第 8 章 で は , 第 2 部 の 実 証 研 究 か ら , 日 中 の 高 校 生 の 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 反 応 の 特 徴 に つ い て , 心 理 的 ス ト レ ス モ デ ル や 事 象 が 起 こ っ た 時 の 説 明 ス タ イ ル の 観 点 か ら 考 察 し た 。 ま た , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 反 応 , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 後 の 子 ど も の 親 行 動 知 覚 と 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 の 関 連 に つ い て , 両 国 に お け る 感 情 表 出 や 親 子 関 係 の 特 徴 に 基 づ い て 考 察 を 行 っ た 。 第 9 章 で は , 測 定 尺 度 , 性 差 の 検 討 や メ カ ニ ズ ム の 精 緻 化 か ら 今 後 の 課 題 と 展 開 の 可 能 性 に つ い て 記 述 し た 。 加 え て , 本 研 究 で 得 ら れ た 結 果 に 基 づ き , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 を 減 ら す 視 点 で は な く , た と え 葛 藤 が 起 き て も , 子 ど も は ど う す れ ば 自 分 自 身 を 能 動 的 に 守 れ る か , ま た 親 ・ 援 助 者 は ど う す れ ば 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も に 与 え る ネ ガ テ ィ ブ な 影 響 を 低 減 で き る か に 関 す る 臨 床 的 示 唆 を 提 示 し た 。
目 次 序 文 . . . 1 第 1 部 問 題 と 目 的 . . . 4 第 1 章 先 行 研 究 の 概 観 と 問 題 点 の 整 理 . . . 5 第 1 節 夫 婦 間 葛 藤 と 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 . . . 6 第 2 節 家 族 シ ス テ ム の 中 の 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 . . . 9 第 3 節 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も に 影 響 を 及 ぼ す メ カ ニ ズ ム . . . 1 3 第 4 節 子 ど も の 視 点 か ら 捉 え る 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 関 す る 尺 度 . . . 2 0 第 5 節 青 年 の 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 . . . 2 3 第 6 節 日 本 と 中 国 を 比 較 す る 必 要 性 . . . 2 6 第 2 章 本 研 究 の 目 的 と 実 証 研 究 の 構 成 . . . 3 0 第 1 節 本 研 究 の 目 的 と 実 証 研 究 の 構 成 . . . 3 1 第 2 節 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 認 知 ・ 情 動 ・ 行 動 反 応 尺 度 の 作 成 ― 場 面 想 定 法 を 用 い て . . . . 3 5 第 3 節 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 認 知 ・ 情 動 反 応 と 行 動 反 応 の 関 連 . . . 3 9 第 4 節 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 反 応 に 影 響 を 与 え る 要 因 ― 親 子 関 係 を 中 心 に . . . 4 1 第 5 節 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 反 応 と 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 ― 直 接 的 プ ロ セ ス の 検 討 . . . 4 4
第 6 節 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 後 の 子 ど も の 親 行 動 知 覚 と 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 ― 間 接 的 プ ロ セ ス の 検 討 も 加 え て . . . 4 8 第 2 部 実 証 研 究 . . . 5 2 第 3 章 【 研 究 Ⅰ 】 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 認 知 ・ 情 動 ・ 行 動 反 応 尺 度 の 作 成 . . . 5 3 第 1 節 目 的 . . . 5 4 第 2 節 方 法 . . . 5 4 第 3 節 結 果 . . . 5 9 第 4 節 考 察 . . . 7 8 第 4 章 【 研 究 Ⅱ 】 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 認 知 ・ 情 動 反 応 と 行 動 反 応 の 関 連 . . . 8 3 第 1 節 目 的 . . . 8 4 第 2 節 方 法 . . . 8 4 第 3 節 結 果 . . . 8 6 第 4 節 考 察 . . . 8 8 第 5 章 【 研 究 Ⅲ 】 親 子 関 係 と 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 反 応 の 関 連 . . . 9 3 第 1 節 目 的 . . . 9 4 第 2 節 方 法 . . . 9 4 第 3 節 結 果 . . . 9 8 第 4 節 考 察 . . . 1 0 3
第 6 章 【 研 究 Ⅳ 】 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 反 応 と 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 の 関 連 . . . 1 0 8 第 1 節 目 的 . . . 1 0 9 第 2 節 方 法 . . . 1 0 9 第 3 節 結 果 . . . 1 1 3 第 4 節 考 察 . . . 1 2 1 第 7 章 【 研 究 Ⅴ 】 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 青 年 の 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 に 影 響 を 及 ぼ す プ ロ セ ス の 統 合 . . . 1 2 5 第 1 節 目 的 . . . 1 2 6 第 2 節 方 法 . . . 1 2 6 第 3 節 結 果 . . . 1 2 8 第 4 節 考 察 . . . 1 3 9 第 3 部 討 論 . . . 1 4 5 第 8 章 総 合 考 察 . . . 1 4 6 第 1 節 本 研 究 の 目 的 . . . 1 4 7 第 2 節 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 青 年 期 の 子 ど も の 反 応 に つ い て . . . 1 4 9 第 3 節 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 青 年 の 精 神 的 健 康 に 影 響 を 及 ぼ す メ カ ニ ズ ム . . . 1 5 4 第 9 章 本 研 究 の 課 題 と 意 義 . . . 1 5 9 第 1 節 今 後 の 課 題 と 展 開 . . . 1 6 0
第 2 節 本 研 究 の 意 義 . . . 1 6 3 第 3 節 臨 床 的 示 唆 . . . 1 6 6 引 用 文 献 . . . 1 7 0 付 記 . . . 1 8 6 謝 辞 . . . 1 8 8 資 料 . . . 1 9 2
1 序 文 平 成 2 5 年 度 に , 全 国 2 0 7 か 所 の 児 童 相 談 所 が 1 年 間 で 対 応 し た 児 童 虐 待 相 談 件 数 は 7 3 , 7 6 5 件 ( 速 報 値 ) で , こ れ ま で で 最 多 の 件 数 と な っ て い る ( 厚 生 労 働 省 , 2 0 1 4 )。 児 童 虐 待 は 4 種 類 に 分 類 さ れ , 子 ど も の 目 の 前 で 家 族 に 対 し て 暴 力 を ふ る う こ と ( ド メ ス テ ィ ッ ク ・ バ イ オ レ ン ス :D V ) は そ の う ち の 心 理 的 虐 待 に 含 ま れ る ( 厚 生 労 働 省 ,2 0 1 5 )。 内 閣 府 男 女 共 同 参 画 局 (2 0 0 6 ) の 調 査 で は , 配 偶 者 か ら の 暴 力 被 害 を 受 け た こ と の あ る 人 ( 全 体 の 3 割 ) の う ち , 約 3 割 が 被 害 に つ い て 子 ど も も 認 識 し て い た と 回 答 し て い る 。 つ ま り 全 体 の 1 割 程 度 の 子 ど も が 何 ら か の 形 で 夫 婦 間 の 暴 力 に さ ら さ れ て い た こ と に な る 。 し か し ,日 本 に お け る 心 理 的 虐 待 へ の 関 心 は ,1 9 8 0 年 代 の 欧 米 の 状 況 に す ら 達 し て お ら ず , 非 常 に 低 い ( 池 , 2 0 0 6 )。 夫 婦 間 葛 藤 や 夫 婦 間 暴 力 の 問 題 に 関 し て 日 本 で こ れ ま で 重 視 さ れ て き た こ と は , 夫 婦 関 係 や 被 害 者 で あ る 女 性 ・ 妻 へ の 影 響 で あ り , 心 理 的 虐 待 と し て の 子 ど も へ の 影 響 に つ い て の 研 究 は あ ま り 注 目 さ れ て こ な か っ た 。 家 族 を 1 つ の シ ス テ ム と し て 見 な す 場 合 , 夫 婦 間 葛 藤 , 特 に 子 ど も に も 認 識 さ れ て い る 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も に 影 響 を 与 え る 可 能 性 が 十 分 あ り , 子 ど も の 精 神 的 健 康 を 考 え る 上 で 考 慮 す べ き 要 因 だ と 考 え ら れ る 。 夫 婦 中 心 主 義 と 言 わ れ る 欧 米 で は , 夫 婦 の 関 係 が 子 ど も に 影 響 を 与 え る と い う 指 摘 が , ま ず , 心 理 療 法 に 携 わ る 臨 床 家 か ら 報 告 さ れ 始 め た(M i n u c h i n , 1 9 7 4; 山 根 常 男 ,1 9 8 4 )。そ し て , そ う し た 知 見 を 検 証 す る た め に , 主 に 欧 米 に お い て , 実 証 的 な 研 究 が 行 わ れ て き た 。 こ れ ま で の 研 究 の 傾 向 と し て 特 に 乳 幼 児 期 あ る い は 児 童 期 の 子 ど も が い る 家 庭 を 対 象 と す る も の が 多 い (D a v i s & C u m m i n g s , 1 9 9 4 )。 し か し , 青 年 期 以 降 の 子 ど も を 対 象 と し た 研 究 も 存 在 し , そ こ で は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 と 青 年
2 の 内 在 化 型・外 在 化 型 問 題1が 関 連 す る こ と が 明 ら か に さ れ て い る (G r y c h , R a y n o r & F o s c o , 2 0 0 4 )。 ま た , 日 本 の 研 究 者 も 青 年 期 に 両 親 間 の 葛 藤 に さ ら さ れ る こ と は , 子 ど も の 心 理 的 適 応 や 将 来 へ の 展 望 に 否 定 的 な 影 響 を 及 ぼ す 可 能 性 が あ る と 指 摘 し て い る ( 宇 都 宮 ,2 0 0 5 )。 こ の よ う に , 両 親 間 の 葛 藤 は , 子 ど も の 発 達 段 階 に 関 わ ら ず , 一 貫 し て ネ ガ テ ィ ブ な 影 響 を も た ら す こ と が 報 告 さ れ て い る 。 本 研 究 で は 議 論 の 蓄 積 が 少 な い 青 年 期 の 子 ど も を 対 象 に , 子 ど も が 両 親 間 の 葛 藤 と ど の よ う に 関 わ り , 葛 藤 か ら ど の よ う な 影 響 を 受 け る か を 検 討 す る 。 若 島 ・ 花 田 ・ 駒 場 ・ 斉 藤 ・ 松 崎 ・ 小 林 ・ 宇 佐 美 ( 2 0 1 0 ) に よ る と , 日 本 と 中 国 は 同 じ 東 ア ジ ア に 位 置 す る 国 で あ り な が ら , 家 族 関 係 と 子 ど も の 心 理 的 適 応 と の 関 連 に 異 な る 特 徴 が あ る 。 ま た ,日 本 と 中 国 の 婚 姻 率 や 離 婚 率 2か ら 見 る と ,人 口 統 計 資 料 集 (2 0 1 4 ) で は , 2 0 1 2 年 の 婚 姻 率 に つ い て 日 本 が 5 . 3( / 1 0 0 0 人 ) で あ り , 中 国 が 9 . 6 ( / 1 0 0 0 人 ) で あ る の に 対 し , 離 婚 率 に つ い て 日 本 が 1 . 9 ( / 1 0 0 0 人 ) で あ り , 中 国 が 1 . 8 ( / 1 0 0 0 人 ) で あ る 。 つ ま り , 両 国 の 結 婚 率 の 差 に 対 し , 離 婚 率 が 変 わ ら な い こ と に な る 。 中 国 で は 一 人 っ 子 政 策 の た め , 唯 一 の 子 ど も に 直 接 暴 力 を ふ る う こ と が 少 な い 一 方 , た と え 夫 婦 間 の 問 題 が あ っ て も 子 ど も の た め に 我 慢 し て 離 婚 を 選 ば な い 親 が 多 く い る と 考 え ら れ る 。 こ の よ う な 現 状 か ら , 中 国 で は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も に 心 理 的 虐 待 と し て 害 を 及 ぼ す 可 能 性 が 高 い こ と が 推 察 さ れ る 。 さ ら に , 日 本 と 中 国 は と も に 少 子 高 齢 化 の 急 速 な 進 展 や 両 親 と 子 ど も だ け の 核 家 族 の 増 加 に よ り , 子 ど も が 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に さ ら さ れ て い る 時 , 親 戚 や き ょ う だ い の サ 1 D a v i s o n & N e a l e ( 1 9 9 4 ) は 幼 児 期 後 半 か ら 青 年 期 ま で の 子 ど も の 状 態 を 外 在 化 型 問 題 (e x t e r n a l i z i n g p r o b l e m ) と 内 在 化 型 問 題 (i n t e r n a l i z i n g p r o b l e m ) の 2 つ に 大 別 し て い る 。 外 在 化 型 問 題 (e x t e r n a l i z i n g p r o b l e m ) は , 注 意 欠 陥 ・ 多 動 傾 向 , 反 社 会 的 ・ 攻 撃 的 な 問 題 行 動 な ど を 指 し ,内 在 化 型 問 題(i n t e r n a l i z i n g p r o b l e m )は , 過 度 の 不 安 や 恐 怖 ,心 身 症 状 ,抑 う つ な ど の 神 経 症 的 問 題 な ど を 指 す 。 2こ こ で 婚 姻 率 及 び 離 婚 率 は ,人 口 千 人 当 た り の そ れ ぞ れ の 件 数 で あ る 。
3 ポ ー ト が 得 ら れ ず 1 人 で 抱 え 込 む 傾 向 が あ る と 予 想 さ れ る 。 国 の 違 い に よ る 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も に 与 え る 影 響 の 差 異 と 国 を 超 え た 一 般 的 特 徴 を 実 証 的 な 方 法 で 明 ら か に す る 必 要 性 が 考 え ら れ る 。 こ こ ま で 述 べ た よ う に , 夫 婦 間 葛 藤 と 青 年 期 の 子 ど も の 精 神 的 健 康 の 関 連 は 注 目 す べ き 領 域 で あ る と 言 え る 。 本 研 究 で は , 青 年 期 の 中 期 に あ た る 日 本 と 中 国 の 高 校 生 を 対 象 に , 子 ど も に 認 識 さ れ て い る 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 注 目 し て , 青 年 の 精 神 的 健 康 に 及 ぼ す 影 響 を 検 討 し て い く 。
4
第
1 部
5
第
1 章
6 第 1 節 夫 婦 間 葛 藤 と 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 大 渕 (2 0 0 2 ) に よ れ ば , ど の よ う な 関 係 に お い て も 対 人 葛 藤 は 起 こ り 得 る も の で あ る も の の , 特 に 親 密 な 関 係 に お い て は 対 人 葛 藤 が 多 く 生 起 す る と さ れ て い る 。 ま た , 藤 田 ( 2 0 0 9 ) は , 夫 婦 は ,あ ら ゆ る 人 間 関 係 の な か で も ,最 も 葛 藤 が 生 じ や す く , 葛 藤 に よ り 容 易 に 関 係 が こ じ れ や す い と 述 べ て い る 。こ こ か ら , 日 頃 か ら 多 く の 時 間 を 共 有 す る 夫 婦 に お い て は , 葛 藤 が 頻 繁 に 起 こ り 得 る と 考 え ら れ る 。 そ も そ も , 夫 婦 間 葛 藤 と は 何 な の だ ろ う か ? 夫 婦 間 葛 藤 の 定 義 は 対 人 葛 藤 か ら 援 用 さ れ る 場 合 が 多 い 。 対 人 葛 藤 に 関 す る 研 究 が 蓄 積 さ れ , こ れ ま で さ ま ざ ま な 研 究 者 に よ っ て 定 義 が な さ れ て き て い る が , 顕 在 的 葛 藤 と 潜 在 的 葛 藤 の 両 方 を 葛 藤 と し て 捉 え る 立 場 と , 顕 在 的 葛 藤 の み を 葛 藤 と し て 捉 え る 立 場 が 見 ら れ る 。 当 事 者 が 双 方 と も に 対 立 が あ る こ と を 認 識 し て い る 状 態 は 顕 在 的 葛 藤 と 呼 ば れ る 。 こ れ に 対 し て , 潜 在 的 葛 藤 と は , 当 事 者 の 一 方 が 心 の 中 で 不 満 を 持 ち , 相 手 は 対 立 が あ る こ と に 気 づ か な い よ う な 状 態 で あ る ( 大 渕 ,2 0 1 5 )。 大 渕 ( 1 9 9 2 ) は , 日 本 人 と ア メ リ カ の 大 学 生 を 対 象 に 葛 藤 解 決 に つ い て 検 討 を 行 い ,日 本 人 学 生 で は 葛 藤 の 3 分 の 2 に お い て 潜 在 化 を 選 ん だ が , 反 対 に , ア メ リ カ の 学 生 は 葛 藤 の 4 分 の 3 に お い て 顕 在 化 を 選 ん だ と 示 し て い る 。 こ の 研 究 を 受 け て , 日 本 人 と 英 語 圏 の 外 国 人 を 対 象 に し て 同 文 化 葛 藤 と 異 文 化 葛 藤 の 解 決 方 略 を 検 討 し た 大 渕 ・ 菅 原 ・Ty l e r ・ L i n d ( 1 9 9 5 ) は , 多 様 な 方 略 を 用 い た 葛 藤 を 対 象 者 に 報 告 さ せ る た め ,葛 藤 経 験 を 「 人 と 表 立 っ て 対 立 し た 経 験 」 と 定 義 し ,葛 藤 に は 不 満 に 思 っ た だ け で 表 に は 出 さ な い 潜 在 的 葛 藤 も あ る と し つ つ も , 表 面 化 し た 顕 在 的 葛 藤 の み を 取 り 上 げ て い る 。 夫 婦 間 葛 藤 の 定 義 と し て , 東 海 林 ( 2 0 1 3 ) は , 夫 婦 間 葛 藤 を 「 個 人 の 行 動 , 感 情 , 思 考 の 過 程 が , 配 偶 者 に よ っ て 妨 害 さ れ て い る 状 態 」 と 定 義 し て い る 。 川 島 (2 0 1 3 ) は , 夫 婦 間 葛 藤 を
7 「 夫 婦 の 間 に 何 ら か の 心 理 的 ( 認 知 的 ・ 情 緒 的 ) 対 立 の あ る 状 態 」 と 定 義 し て い る 。 ま た , 川 島 (2 0 1 3 ) は こ の 定 義 に 基 づ い て ,「Ya h o o ! 知 恵 袋 」 に 見 る 夫 婦 間 葛 藤 の 実 態 を 顕 在 的 ・ 潜 在 的 側 面 か ら 検 討 し ,夫 婦 間 葛 藤 の 方 略 に つ い て 整 理 し た と こ ろ , 話 し 合 い ・ 口 げ ん か , 暴 力 , 関 係 性 攻 撃 ( 無 視 ) な ど 観 察 可 能 な も の も あ れ ば , 内 面 に 不 満 を 抱 え て い て も 我 慢 し た り , 何 事 も な か っ た よ う に 振 る 舞 っ た り す る 観 察 可 能 で は な い も の も あ る 。 こ れ ら の 知 見 は , 夫 婦 間 葛 藤 を 認 知 ・ 情 緒 な ど 個 人 の 内 的 反 応 が 個 人 間 で 対 立 す る 状 態 を 指 し て お り , 表 出 さ れ た 行 動 上 の 対 立 で あ る 顕 在 的 葛 藤 だ け で な く , 外 に 現 れ な い 潜 在 的 葛 藤 も 含 め て 夫 婦 間 葛 藤 を 捉 え る 立 場 で あ る 。 欧 米 に お け る 夫 婦 間 葛 藤(m a r i t a l c o n f l i c t )の 定 義 に つ い て , B u e h l e r, K r i s h n a k u m a r, S t o n e , A n t h o n y, P e m b e r t o n , G e r a r d & B a r b e r ( 1 9 9 8 ) は , 夫 婦 間 葛 藤 ( m a r i t a l c o n f l i c t ) を 「 高 レ ベ ル の 不 一 致 が 存 在 し , 配 偶 者 に 対 す る 軽 視 や 言 葉 の 乱 用 が 見 ら れ る 夫 婦 間 の 緊 張 的 で 敵 対 的 な 相 互 作 用 」と 定 義 し て い る 。 ま た , C u m m i n g s ( 1 9 9 8 ) は , 夫 婦 間 葛 藤 ( m a r i t a l c o n f l i c t ) を「 ポ ジ テ ィ ブ で あ っ た か ,ネ ガ テ ィ ブ で あ っ た か に 関 わ ら ず , 夫 婦 間 の 意 見 の 対 立 が 存 在 す る あ ら ゆ る 相 互 作 用 」 と 定 義 し て い る 。 こ れ ら の 定 義 は , 夫 婦 間 葛 藤 (m a r i t a l c o n f l i c t ) を 夫 婦 間 の 相 互 作 用 だ と 捉 え , 表 面 化 し た 顕 在 的 葛 藤 の み を 取 り 上 げ た 立 場 で あ る 。 欧 米 に お い て の 夫 婦 間 葛 藤 (m a r i t a l c o n f l i c t ) の 定 義 は 日 本 で 使 わ れ て い る 夫 婦 間 葛 藤 の 意 味 合 い よ り 範 囲 が 狭 く , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に よ り 近 い と 考 え ら れ る 。 ま た , 日 本 と 中 国 に お け る 夫 婦 間 葛 藤 と 子 ど も の 精 神 的 健 康 に 関 す る 実 証 研 究 は , 欧 米 の 知 見 を 参 考 に す る も の が 多 い た め , 夫 婦 間 葛 藤 が 表 面 化 し た 顕 在 的 葛 藤 を 指 す 場 合 が 多 い 。 K i t z m a n n ( 2 0 0 3 ) は , 夫 婦 間 葛 藤 ( m a r i t a l c o n f l i c t ) が 子 ど も の 友 人 関 係 に 与 え る 影 響 を 検 討 す る 際 , 両 親 が 報 告 し た 夫 婦 間 葛 藤 (m a r i t a l c o n f l i c t ) よ り , 子 ど も に よ る 報 告 の 有 用 性
8 が よ り 高 い と 指 摘 し て い る 。 こ の こ と か ら , 子 ど も に 気 づ か れ て い る 夫 婦 間 葛 藤 は 気 づ か れ て い な い も の よ り , 精 神 的 健 康 に つ な が る と 考 え ら れ る 。 ま た , 潜 在 的 葛 藤 に 対 し て , 子 ど も は そ れ が 存 在 す る か 存 在 し な い か わ か ら な い 可 能 性 も あ る 。 以 上 の 内 容 を 踏 ま え , 子 ど も を 対 象 と す る 本 研 究 で は , 夫 婦 間 葛 藤 の 領 域 で 数 多 く の 研 究 が 蓄 積 さ れ て き た 欧 米 と 一 致 す る 視 点 で ,両 親 の 表 面 化 し た 顕 在 的 葛 藤 に 注 目 し て 検 討 を 進 め る 。 以 下 よ り , 夫 婦 間 葛 藤 と 区 別 し , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 を 使 用 し て い く 。
9 第 2 節 家 族 シ ス テ ム の 中 の 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 こ れ ま で , 日 本 に お い て 夫 婦 間 葛 藤 に 関 す る 研 究 に は , 夫 婦 間 の 問 題 と し て 二 者 関 係 に 焦 点 を 当 て , 葛 藤 生 起 場 面 の 夫 婦 間 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン , 夫 婦 間 葛 藤 解 決 方 略 な ど を 検 討 す る も の が あ る ( 岩 藤 ,2 0 0 9 ; 川 島 , 2 0 1 3 ; 東 海 林 , 2 0 0 9 )。 し か し , 家 族 シ ス テ ム 論 の 視 点 に 立 て ば , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 は た だ 夫 婦 の 問 題 と い う だ け で な く , 子 ど も も ま た シ ス テ ム の 成 員 と し て 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 か ら 影 響 を 受 け , ま た 両 親 の 問 題 に 影 響 を 及 ぼ す こ と が 考 え ら れ る 。そ こ で ,夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 を 「 父 ― 母 ― 子 」 と い う 成 員 か ら な る シ ス テ ム 内 で の 「 父 ― 母 」 特 定 の 関 係 内 の 葛 藤 と し て 理 解 す る 必 要 が あ る だ ろ う 。 第 1 項 家 族 シ ス テ ム 論 の 視 点 家 族 は 青 年 の 心 理 社 会 的 発 達 を 支 え る 最 も 重 要 な 社 会 的 文 脈 の 1 つ で あ る と 言 わ れ て い る ( G r o t e v a n t , 1 9 9 7 )。 家 族 と い う も の は , 相 互 交 流 パ タ ー ン を 通 じ て 作 用 す る 1 つ の シ ス テ ム を 構 成 す る ( 板 倉 ,2 0 1 3 )。 長 谷 川 ( 1 9 8 7 ) は , 家 族 シ ス テ ム に お い て は 「 全 体 性 」,「 自 己 制 御 性 」,「 自 己 変 換 性 」 と い う 3 つ の 特 性 が あ る こ と を 論 じ て い る 。 ま ず , シ ス テ ム は 部 分 の 総 和 以 上 の も の と し て 存 在 す る た め , 部 分 だ け を 見 て も 分 か ら な い も の で あ り( 全 体 性 ),安 定 を 保 つ た め に シ ス テ ム 自 体 が 逸 脱 を 減 ら そ う と す る ( 自 己 制 御 性 )。 そ し て , 自 己 制 御 で は バ ラ ン ス が 保 て な く な る と , シ ス テ ム は 自 ら を 維 持 す る た め に シ ス テ ム 自 体 を 変 化 さ せ る( 自 己 変 換 性 )。 す な わ ち , 家 族 シ ス テ ム 論 に お い て は , 家 族 あ る い は 家 族 成 員 の う ち の 1 人 が , 情 報 か ら 切 り 離 さ れ て 独 立 し て 存 在 し て い る の で は な く , 上 位 シ ス テ ム と 下 位 シ ス テ ム の 間 , あ る い は シ ス テ ム 内 に お い て 複 雑 な 相 互 作 用 が な さ れ て い る と 考 え , シ ス テ ム は 1 つ の 意 味 を 持 っ た ま と ま り で あ る と 見 な す ( 森 川 , 2 0 1 5 )。 家 族 関 係 は 夫 婦 関 係 , 親 子 関 係 , き ょ う だ い 関 係 な ど の よ う に メ ン バ ー 間 の 2 者 関 係 の
10 単 位 で 切 り 取 っ て 理 解 す る こ と も 可 能 で あ る が , シ ス テ ム 全 体 の 中 で そ れ ら の 関 係 ( サ ブ シ ス テ ム ) を 位 置 づ け , そ の 全 体 的 な 意 味 を 理 解 す る こ と が 重 視 さ れ る 。 ま た ,夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 と 家 族 シ ス テ ム に つ い て ,飛 田( 1 9 9 7 ) は , 多 く の 研 究 は 葛 藤 を 経 験 し て い る 個 人 と そ の 葛 藤 を 引 き 起 こ し て い る 他 者 と い う 2 者 間 の 関 係 だ け に 焦 点 を 当 て て き た が , 家 族 関 係 に お け る 葛 藤 も 「 父 ― 母 ― 子 」 と い う 成 員 か ら な る シ ス テ ム 内 に お け る 特 定 の 関 係 内 の 葛 藤 と し て 理 解 さ れ る 必 要 が あ る と し て い る 。 ま た , 大 坊 (2 0 0 4 ) は 2 者 間 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 対 し て 第 三 者 は 当 事 者 で は な い か ら と い っ て た だ 成 り 行 き を 見 て い る 傍 観 者 で い る こ と は で き ず , そ の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 行 動 に 影 響 を 受 け , か つ そ の 場 を 共 有 す る 者 と し て 2 者 間 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 行 動 に 影 響 を 及 ぼ し て い る と し て い る 。 臨 床 場 面 に お い て も 関 連 す る 知 見 が あ る 。 例 え ば , 家 族 療 法 家 の M i n u c h i n( 1 9 7 4 ) は , 子 ど も が 両 親 と の 三 角 関 係 化 3に 巻 き 込 ま れ る の は , 両 親 間 の 葛 藤 を 解 決 し よ う と し て 努 力 す る こ と や , そ の 葛 藤 か ら 生 ず る 緊 張 を 緩 和 し た い と 考 え る か ら で あ る と 三 角 関 係 化 に つ い て 説 明 し て い る 。 ま た , 両 親 間 の 葛 藤 に 巻 き 込 ま れ て 三 角 関 係 化 す る こ と は , 思 春 期 や 青 年 期 の 子 ど も に と っ て は 危 険 因 子 で あ る と 述 べ て い る 。 特 に 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 生 じ る 時 ,子 ど も が 巻 き 込 ま れ る 可 能 性 が 高 い と 考 え ら れ る 。 し た が っ て , 家 族 シ ス テ ム 論 の 視 点 か ら , 子 ど も , ま た , 親 子 サ ブ シ ス テ ム は 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 な ど 夫 婦 サ ブ シ ス テ ム の 問 題 か ら 切 り 離 さ れ る こ と が で き な い と 考 え ら れ る 。 第 2 項 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 と 青 年 期 の 子 ど も 幼 児 期 ・ 児 童 期 の 子 ど も を 対 象 と す る 先 行 研 究 で は , 夫 婦 間 3三 角 関 係 化 と は ,二 者 で 構 成 さ れ る 感 情 シ ス テ ム は 不 安 定 に な り ,第 三 者 を 引 き 込 み 三 者 で シ ス テ ム を 構 成 す る こ と で あ る 。 例 え ば , 妻 が 夫 に 対 す る 苦 情 を 子 ど も に 言 う な ど が 挙 げ ら れ る 。
11 顕 在 的 葛 藤 と 子 ど も の 精 神 的 健 康 の 関 連 が 様 々 な 側 面 か ら 実 証 さ れ て い る 。 例 え ば , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 の 深 刻 さ と 子 ど も の 外 在 化 型 ・ 内 在 化 型 問 題 と の 短 期 ・ 長 期 的 な 関 連 が 示 さ れ て い る ( C u m m i n g s , D a v i e s & C a m p b e l l , 2 0 0 0 )。 ま た , B u e h l e r, L a n g e & F r a n c k( 2 0 0 7 ) の 縦 断 的 研 究 に よ れ ば , 1 年 目 の 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 2 年 目 の 子 ど も の 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 認 知 と 情 動 を 媒 介 し て 3 年 目 の 外 在 化 型 ・ 内 在 化 型 問 題 と 関 連 す る こ と が 示 さ れ て い る 。 さ ら に , 攻 撃 的 な 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 と 子 ど も の 自 尊 心 の 低 下 や 外 在 化 型 ・ 内 在 化 型 問 題 と の 関 連 が 示 さ れ て い る ( O ' B r i e n , B a h a d u r, G e e , B a l t o & E r b e r, 1 9 9 7 )。 日 本 に お い て も , 前 島 ・ 小 口 (2 0 0 1 ) は , 子 ど も が 父 母 の 関 係 に 不 和 が あ る と 感 じ る こ と が 子 ど も の 自 尊 心 や 攻 撃 性 に 影 響 を 与 え , さ ら に 親 子 関 係 の 不 和 に つ な が る こ と に 言 及 し て い る 。 一 方 で , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 の 肯 定 的 側 面 も 明 ら か と な っ て い る 。K u r d e k( 1 9 9 5 ) は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 解 決 方 略 に , 同 意 , 妥 協 , ユ ー モ ア の よ う な 建 設 的 な も の と 対 決 , 後 退 , 防 衛 の よ う な 破 壊 的 な も の が あ る と 指 摘 し て い る 。 ま た , 葛 藤 状 態 に お け る 夫 婦 間 で の 建 設 的 な 話 し 合 い は , 子 ど も が 適 切 に 対 人 関 係 の 困 難 さ に 対 処 す る 方 法 を 学 習 す る 機 会 と な り , 必 ず し も 子 ど も に と っ て 否 定 的 な 影 響 を 及 ぼ す も の で は な い と さ れ て い る ( C u m m i n g s & Wi l s o n , 1 9 9 9 ; E a s t e r b r o o k s , C u m m i n g s & E m d e , 1 9 9 4 )。 さ ら に , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に さ ら さ れ る こ と の み が 子 ど も の 発 達 や メ ン タ ル ヘ ル ス に 影 響 を 与 え る と い う こ と で は な く , 葛 藤 の 量 ( 例 え ば , 頻 繁 で あ る , 長 期 に わ た る , な ど ), 葛 藤 の 質 ( 例 え ば ,深 刻 で あ る ,暴 力 を 伴 う ,解 決 不 可 能 で あ る ,な ど ) と そ れ ら に つ い て の 子 ど も の 認 知 や 情 動 が 子 ど も の 外 在 化 型 ・ 内 在 化 型 問 題 に 影 響 を 与 え る と 指 摘 さ れ て い る ( C u m m i n g s e t a l . , 2 0 0 0 )。 子 ど も が 青 年 期 に 入 る と , 単 に 両 親 を 父 母 と し て 評 価 す る だ
12 け で な く , 夫 婦 関 係 や 夫 婦 の 不 和 な ど 両 親 の 夫 婦 と し て の あ り 方 に つ い て も 敏 感 に 感 じ 取 る よ う に な る ( D a v i s , D u m e n c i & Wi n d l e , 1 9 9 9 )。 ま た , 藤 田 ( 2 0 0 9 ) は , 幼 い 頃 , 葛 藤 場 面 に 多 く 居 合 わ せ る ほ ど , 子 ど も た ち は 両 親 の 機 嫌 に 敏 感 に な り 情 動 的 に 混 乱 す る 可 能 性 が 高 く な り , そ の よ う な 子 ど も た ち は , 年 齢 が 高 く な っ て も 同 じ よ う に 反 応 す る 傾 向 が 強 か っ た と 指 摘 し て い る 。 さ ら に ,K a r l t e r ( 1 9 8 9 , カ ル タ ー , E ., 北 川 玲 訳 ,2 0 0 9 ) は , 中 学 ・ 高 校 に 在 学 す る 青 年 期 の 子 ど も た ち は 両 親 の 関 係 に つ い て は 敏 感 で あ り , 両 親 間 の 不 和 や 離 婚 後 の 争 い ご と な ど に よ っ て 非 常 に 感 情 を か き 乱 さ れ る た め に , あ る 者 は 暴 力 的 に な り ,ま た あ る 者 は 抑 う つ 的 に 反 応 す る と 述 べ て い る 。 青 年 期 の 子 ど も を 対 象 と す る 実 証 研 究 が 少 な い 中 で も , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 と 青 年 の 精 神 的 健 康 と の 関 連 が 示 さ れ て い る こ と か ら , 青 年 期 の 子 ど も を 対 象 に , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 及 ぼ す 影 響 及 び そ の メ カ ニ ズ ム を 明 ら か に す る 必 要 性 が あ る だ ろ う 。
13 第 3 節 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も に 影 響 を 及 ぼ す メ カ ニ ズ ム C u m m i n g s e t a l . ( 2 0 0 0 ) に よ れ ば , 夫 婦 関 係 が 子 ど も の 発 達 や メ ン タ ル ヘ ル ス に 及 ぼ す 影 響 に は 2 通 り の プ ロ セ ス が あ る 。 1 つ は 夫 婦 関 係 が 親 の 養 育 行 動 や 家 族 機 能 を 媒 介 し て 間 接 的 に 子 ど も の 発 達 や メ ン タ ル ヘ ル ス に 影 響 を 与 え る と い う も の で あ り , も う 1 つ は 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 直 接 的 に 子 ど も の 発 達 や メ ン タ ル ヘ ル ス に 影 響 を 与 え る と い う も の で あ る 。 例 え ば , F a u b e r, F o r e h a n d , T h o m a s & Wi e r s o n ( 1 9 9 0 ) は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 の 発 生 に よ り , 子 ど も に 対 し て 拒 否 的 な 態 度 で 接 す る と い っ た 養 育 行 動 を 介 し て , 子 ど も の 内 在 化 型 ・ 外 在 化 型 問 題 の 双 方 に 影 響 を 与 え る 一 方 , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が , 直 接 的 に は 子 ど も の 外 在 化 型 問 題 の み に 影 響 を 与 え る こ と を 示 し て い る 。 前 者 を 家 族 シ ス テ ム 理 論 の 観 点 か ら 見 れ ば , 夫 婦 サ ブ シ ス テ ム の 問 題 が 親 子 サ ブ シ ス テ ム や 家 族 シ ス テ ム に 影 響 を 与 え る こ と で 子 ど も の 精 神 的 健 康 に つ な が っ て い る と 考 え ら れ る 。 日 本 と 中 国 に お い て は , こ の プ ロ セ ス に 関 し て 数 多 く の 研 究 が な さ れ て き た 。 一 方 で , 欧 米 に お い て は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 直 接 的 に 子 ど も の 発 達 や メ ン タ ル ヘ ル ス に 影 響 を 与 え る と い う 点 に 関 す る 研 究 が 盛 ん で あ る が , 日 本 と 中 国 に お い て は ほ と ん ど な さ れ て い な い 。 近 年 , 日 本 に お い て , よ う や く そ の よ う な 研 究 の 萌 芽 が 見 ら れ る も の の( 柏 木 ,2 0 0 8 ),ま だ 十 分 と は い え な い 。 本 節 で は こ の 2 通 り の プ ロ セ ス の 詳 細 を ま と め て い く 。 第 1 項 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も に 影 響 を 及 ぼ す 間 接 的 プ ロ セ ス 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も に 影 響 を 及 ぼ す 間 接 的 プ ロ セ ス の 先 行 研 究 を 概 観 す る 際 , 夫 婦 関 係 と 親 子 関 係 の 関 連 性 に 対 す る 2 つ の 理 論 が 参 考 に な る 。 1 つ 目 は 夫 婦 関 係 と 親 子 関 係 が 正 の 相 関 を 示 す “ ス ピ ル オ ー バ ー 仮 説 ”,2 つ 目 は 夫 婦 関 係 と 親 子 関 係 が 負 の 相 関 を 示 す “ 補 償 仮 説 ” で あ る (E n g f e r, 1 9 8 8 )。
14 “ ス ピ ル オ ー バ ー 仮 説 ” の 先 行 研 究 に つ い て ,1 9 9 0 年 代 の 研 究 で は ,F a u b e r e t a l . ( 1 9 9 0 ) は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 否 定 的 な 養 育 行 動 を 媒 介 し て 子 ど も の 内 在 化 型 ・ 外 在 化 型 問 題 と 関 連 す る こ と を 示 し て い る 。 そ の 反 面 , L u t z k e , Wo l c h i k & B r a v e r (1 9 9 6 ) は , 親 子 関 係 の 高 い 質 は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も の 心 理 的 適 応 問 題 に 与 え る 影 響 を 緩 和 す る 役 割 が あ る こ と を 明 ら か に し て い る 。2 0 0 0 年 以 降 の 研 究 に お い て も ,夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 は , 親 子 間 の 敵 意 , 親 子 間 葛 藤 , 否 定 的 な 養 育 行 動 , 親 子 の 愛 着 と 親 子 関 係 の 悪 化 を 媒 介 し て 子 ど も の 精 神 的 健 康 に 影 響 を 与 え る こ と が 示 さ れ て い る ( E l - S h e i k h & E l m o r e - S t a t o n , 2 0 0 4 ; G e r a r d , K r i s h n a k u m a r & B u e h l e r, 2 0 0 6 ; K a c z y n s k i , L i n d a h l , M a l i k & L a u r e n c e a u , 2 0 0 6 ; S t o c k e r, R i c h m o n d , L o w, A l e x a n d e r & E l i a s , 2 0 0 3 )。 日 本 に お い て も ,“ ス ピ ル オ ー バ ー 仮 説 ” に 関 す る 研 究 が 見 ら れ , 例 え ば , 菅 原 ・ 八 木 下 ・ 詫 摩 ・ 小 泉 ・ 瀬 地 山 ・ 菅 原 ・ 北 村 (2 0 0 2 ) は , 夫 婦 間 の 愛 情 関 係 が 家 族 機 能 を 媒 介 と し て 子 ど も の 抑 う つ 傾 向 と 関 連 す る か を 検 討 し た 結 果 , 両 親 間 の 愛 情 の 強 固 さ と 家 族 機 能 の 良 好 さ と が , ま た 家 族 機 能 の 良 好 さ と 子 ど も の 抑 う つ 傾 向 と が 関 連 す る こ と を 明 ら か に し て い る 。 “ 補 償 仮 説 ”に つ い て ,B e l s k y, Yo u n g b l a d e , R o v i n e & Vo l l i n g (1 9 9 1 ) は , 夫 婦 関 係 の 悪 さ と 母 親 の 子 ど も へ の 関 わ り の 頻 度 と の 間 に 関 連 が あ る こ と を 示 し て い る 。 こ の よ う な 補 償 仮 説 は 家 族 シ ス テ ム 理 論 に お け る 「 三 角 関 係 化 」 の 概 念 と 類 似 し て い る 。 こ の 三 角 関 係 化 は 2 者 の 緊 張 状 態 を 和 ら げ る が , 意 味 の あ る 問 題 解 決 を 阻 止 す る ( 若 島 ・ 佐 藤 ・ 三 澤 ,2 0 0 2 )。 L i n d a h l , C l e m e n t s & M a r k m a n ( 1 9 9 7 ) の 縦 断 的 調 査 に よ れ ば , 葛 藤 の 頻 度 が 多 い 夫 婦 は , 世 代 交 差 的 な 親 子 同 盟 や , 夫 婦 の 問 題 に 関 す る 話 し 合 い に 子 ど も が 巻 き 込 ま れ る こ と が 多 い 。 ま た ,B e l l , B e l l & N a k a t a ( 2 0 0 1 ) は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も を 巻 き 込 ん だ 三 角 関 係 化 を 生 成 す る こ と を 示 唆 し て お り , さ ら に は 日
15 米 に お い て 三 角 関 係 化 の プ ロ セ ス が 類 似 す る こ と を 明 ら か に し て い る 。臨 床 現 場 に お い て も ,家 族 療 法 家 の M i n u c h i n( 1 9 7 4 ) は , 子 ど も が 両 親 間 の 葛 藤 に 巻 き 込 ま れ る の は , 葛 藤 を 解 決 し よ う と し て 努 力 す る こ と や , 葛 藤 か ら 生 ず る 緊 張 を 緩 和 し た い と 考 え る か ら で あ る と 三 角 関 係 化 に つ い て 説 明 し て い る 。 一 方 , 板 倉 (2 0 1 2 ) は ,“ ス ピ ル オ ー バ ー 仮 説 ” や “ 補 償 仮 説 ” の 観 点 か ら 青 年 期 の 親 子 関 係 と 父 母 関 係 の 関 連 性 に つ い て 検 討 し て い る 。 そ の 結 果 , 父 母 の 結 び つ き と 父 子 の 結 び つ き と の 間 に 有 意 な 正 の 相 関 が 示 さ れ て い る 。 一 方 , 父 母 の 結 び つ き と 母 子 の 結 び つ き と の 間 に 有 意 な 相 関 は 示 さ れ な か っ た 。 加 え て , 父 母 の 結 び つ き の 低 群 は , 高 群 と 比 較 し て 青 年 の 父 親 に 対 す る イ メ ー ジ や , 母 親 の 夫 に 対 す る イ メ ー ジ が と も に 否 定 的 で あ る こ と が 示 さ れ て い る 。 こ の こ と か ら , 父 母 関 係 と 父 子 関 係 は “ ス ピ ル オ ー バ ー 仮 説 ” を 支 持 す る 一 方 で , 父 母 関 係 と 母 子 関 係 は “ 補 償 仮 説 ” を 支 持 す る こ と が 示 唆 さ れ て い る 。 こ の よ う に , 父 母 関 係 ― 母 子 関 係 と 父 母 関 係 ― 父 子 関 係 で は 関 連 の メ カ ニ ズ ム が 異 な る た め , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も に 影 響 を 及 ぼ す 間 接 的 プ ロ セ ス に つ い て も 父 子 や 母 子 別 々 に 検 討 す る 必 要 性 が 考 え ら れ る 。 第 2 項 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も に 影 響 を 及 ぼ す 直 接 的 プ ロ セ ス 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 直 接 的 に 子 ど も の 精 神 的 健 康 に 影 響 を 与 え る と い う プ ロ セ ス に 関 し て , こ れ ま で 注 目 さ れ て い る 理 論 に は , G r y c h & F i n c h a m ( 1 9 9 0 ) の 認 知 状 況 的 枠 組 み (c o g n i t i v e - c o n t e x t u a l f r a m e w o r k ) と , D a v i s & C u m m i n g s (1 9 9 4 ) の 情 緒 安 定 性 仮 説 ( e m o t i o n a l s e c u r i t y h y p o t h e s i s ) が あ る 。
16 (1 ) 認 知 状 況 的 枠 組 み ( G r y c h & F i n c h a m , 1 9 9 0 ) G r y c h & F i n c h a m ( 1 9 9 0 ) は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 子 ど も の 認 知 に 焦 点 を 当 て て お り , 認 知 状 況 的 枠 組 み を 提 唱 し て い る ( 図 1 - 1 )。 G r y c h & F i n c h a m( 1 9 9 0 ) は 子 ど も を 受 動 的 な 存 在 で は な く , 活 動 的 な 主 体 と 見 な し , 子 ど も が 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 を ど の よ う に 認 知 ・ 理 解 す る か に よ っ て , 子 ど も の 精 神 的 健 康 の 問 題 が 異 な る と 考 え て い る 。認 知 状 況 的 枠 組 み(G r y c h & F i n c h a m , 1 9 9 0 ) で は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に さ ら さ れ る 子 ど も の 認 知 的 評 価 に は 2 つ の 段 階 が あ り , そ れ ぞ れ 一 次 処 理 (p r i m a r y p r o c e s s i n g ) と 二 次 処 理 ( s e c o n d a r y p r o c e s s i n g ) と 呼 ば れ る 。 一 次 処 理 で は , 子 ど も は 葛 藤 の 性 質 ( 肯 定 的 / 否 定 的 な ど ),自 分 に 与 え る 脅 威 感 ,自 分 と の 関 連 性 に つ い て 評 価 す る 。 子 ど も が 葛 藤 に つ い て , 否 定 的 と 評 価 し な い , あ る い は 重 要 で あ る と 考 え な い 場 合 , 注 意 が 葛 藤 か ら 離 れ る 。 一 方 で , 子 ど も が 葛 藤 に つ い て , 否 定 的 で あ り , ま た 自 分 と 関 連 し て い る と 判 断 す れ ば , 二 次 処 理 が 生 じ る 。 二 次 処 理 で は , 子 ど も は 原 因 帰 属 ( c a u s a l a t t r i b u t i o n s ), 責 任 帰 属 ( a t t r i b u t i o n s o f r e s p o n s i b i l i t y ),非 難( b l a m e ),効 力 期 待( e f f i c a c y e x p e c t a t i o n ) な ど に 関 し て 評 価 す る 。 そ の 後 , 子 ど も は 一 次 処 理 と 二 次 処 理 を 行 っ た 上 で , 情 緒 的 反 応 を 示 し , ま た 認 知 的 評 価 と 情 緒 的 反 応 に よ っ て , 対 処 行 動 を 行 う 。 さ ら に , 子 ど も の 対 処 行 動 は 両 親 の 葛 藤 に 影 響 を 与 え る 。 一 次 処 理 と 二 次 処 理 に 影 響 を 及 ぼ す 葛 藤 の 要 因 と し て , 葛 藤 の 強 度 (i n t e n s i t y ), 内 容 ( c o n t e n t ), 持 続 時 間 ( d u r a t i o n ) と 解 決 ( r e s o l u t i o n ) な ど が 挙 げ ら れ て い る 。 一 次 処 理 と 二 次 処 理 に 影 響 を 与 え る 文 脈 の 要 因 と し て , 過 去 の 葛 藤 の 経 験 (p r e v i o u s e x p e r i e n c e w i t h c o n f l i c t ), 認 知 さ れ た 情 緒 的 雰 囲 気 ( p e r c e i v e d e m o t i o n a l c l i m a t e ), 気 質 ( t e m p e r a m e n t ), ジ ェ ン ダ ー ( g e n d e r ), 葛 藤 の 経 過 の 予 測 ( e x p e c t a t i o n s f o r t h e c o u r s e o f c o n f l i c t ), 現 在 の 気 分
17 (c u r r e n t m o o d ) な ど が 挙 げ ら れ て い る 。 認 知 状 況 的 枠 組 み (G r y c h & F i n c h a m , 1 9 9 0 ) で は , 情 緒 的 反 応 や 対 処 行 動 よ り も 認 知 的 評 価 に 焦 点 を 当 て , 子 ど も の 認 知 的 評 価 と し て は 葛 藤 の 深 刻 さ ( c o n f l i c t p r o p e r t y ), 恐 れ (p e r c e i v e d t h r e a t ), 自 己 非 難 ( s e l f - b l a m e ) が 主 に 取 り 扱 わ れ て い る 。こ れ ら の 要 因 が 子 ど も の 内 在 化 型 • 外 在 化 型 問 題 と 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 と の 関 連 の 媒 介 メ カ ニ ズ ム で あ る と 主 張 さ れ て い る (G r y c h & F i n c h a m , 1 9 9 3 ; G r y c h , S e i d & F i n c h a m , 1 9 9 2 )。 図 1 - 1 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 子 ど も の 認 知 状 況 的 枠 組 み ( G r y c h & F i n c h a m , 1 9 9 0 ) (2 ) 情 緒 安 定 性 仮 説 ( D a v i s & C u m m i n g s , 1 9 9 4 ) D a v i s & C u m m i n g s ( 1 9 9 4 ) は , B o w l b y の 愛 着 理 論 と 認 知 一 次 処 理 情 緒 的 反 応 文 脈 過 去 か ら : 葛 藤 の 経 験 認 知 さ れ た 情 緒 的 雰 囲 気 気 質 ジ ェ ン ダ ー 今 現 在 : 葛 藤 の 経 過 の 予 測 気 分 葛 藤 の 要 因 強 度 内 容 持 続 時 間 解 決 二 次 処 理 対 処 行 動
18 状 況 的 枠 組 み (G r y c h & F i n c h a m , 1 9 9 0 ) に 基 づ き , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も や 家 族 の 情 緒 安 定 性 (e m o t i o n a l s e c u r i t y ) を 脅 か す こ と に よ っ て 子 ど も の 精 神 的 健 康 に 影 響 を 及 ぼ す と い う 媒 介 メ カ ニ ズ ム を 主 張 し て い る 。 具 体 的 に は , 子 ど も が 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に さ ら さ れ て い る 時 の 情 動 反 応 , 介 入 的 ・ 回 避 的 行 動 を 情 緒 的 安 定 性 の 指 標 と し , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 と 子 ど も の 内 在 化 型 ・ 外 在 化 型 問 題 と の 関 連 に つ い て 検 討 を 行 っ て い る 。 ま ず 情 動 反 応 に つ い て , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に さ ら さ れ る こ と が 子 ど も の 警 戒 , 不 安 , 怒 り な ど の ネ ガ テ ィ ブ な 情 緒 的 反 応 を 喚 起 し , 情 緒 の 統 制 と 表 出 に 影 響 を 与 え る 。 そ し て , 行 動 反 応 に つ い て , ネ ガ テ ィ ブ な 情 緒 的 反 応 を 軽 減 す る た め に ,子 ど も は 自 分 か ら 葛 藤 へ の 暴 露 を 調 整 す る 。 子 ど も の 中 に は , 両 親 間 の 葛 藤 に 巻 き 込 ま れ て 必 死 に 葛 藤 を 止 め よ う と す る 者 も い れ ば , 背 負 い き れ な い プ レ ッ シ ャ ー か ら , 回 避 を 選 択 す る 者 も い る 。 こ の よ う な 経 験 が 繰 り 返 さ れ る と , 子 ど も の 情 動 ・ 行 動 反 応 が 固 定 さ れ , 父 母 関 係 に 対 し て ネ ガ テ ィ ブ な 表 象 が 形 成 さ れ , 精 神 的 健 康 の 問 題 に つ な が る と 考 え ら れ る 。 C u m m i n g s , S c h e r m e r h o r n , D a v i e s , G o e k e - M o r e y & C u m m i n g s ( 2 0 0 6 ) は こ の 仮 説 に 基 づ き 2 年 間 の 縦 断 的 研 究 を 行 い , 情 緒 安 定 性 の 不 全 が 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 と 子 ど も の 内 在 化 型・外 在 化 型 問 題 と の 関 連 の 媒 介 変 数 で あ る こ と を 示 し て い る 。 (3 ) 両 理 論 の 有 用 性 一 方 ,Tu r n e r & B a r r e t( 1 9 9 8 ) は 情 緒 安 定 性 仮 説 ( D a v i s & C u m m i n g s , 1 9 9 4 ) と 認 知 状 況 的 枠 組 み ( G r y c h & F i n c h a m , 1 9 9 0 ) の 両 者 が 子 ど も の 精 神 的 健 康 を 説 明 す る プ ロ セ ス に お い て 重 要 で あ る と 主 張 し , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 子 ど も の 認 知 と 子 ど も の 両 親 に 対 す る 情 緒 的 安 定 性( 葛 藤 の 際 の 情 動 反 応 , 介 入 的 ・ 回 避 的 行 動 ) が そ れ ぞ れ 独 自 に 子 ど も の 精 神 的 健 康 と 関 連 す る と 指 摘 し て い る 。 ま た ,S i f f e r t & S c h w a r z( 2 0 11 ) も
19 情 緒 安 定 性 仮 説 (D a v i s & C u m m i n g s , 1 9 9 4 ) と 認 知 状 況 的 枠 組 み (G r y c h & F i n c h a m , 1 9 9 0 ) が 互 い に 補 い 合 い , ど ち ら も 有 用 な 理 論 で あ る と 述 べ て い る 。 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も に 影 響 を 及 ぼ す 直 接 的 プ ロ セ ス に お い て , 認 知 反 応 の み な ら ず , 情 動 反 応 と 行 動 反 応 も 含 め て 検 討 す る こ と は 重 要 だ と 言 え る 。 以 上 よ り , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 子 ど も に 影 響 を 及 ぼ す プ ロ セ ス に つ い て , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 親 の 養 育 行 動 や 家 族 機 能 な ど を 媒 介 し て 間 接 的 に 子 ど も の 精 神 的 健 康 に 影 響 を 与 え る プ ロ セ ス と , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に さ ら さ れ る こ と が 直 接 的 に 子 ど も の 精 神 的 健 康 に 影 響 を 与 え る プ ロ セ ス と の 両 方 か ら 検 討 す る 研 究 は 少 な い 。 ま た , 後 者 の 直 接 的 プ ロ セ ス に 関 し て , 情 緒 安 定 性 仮 説 (D a v i s & C u m m i n g s , 1 9 9 4 ) や 認 知 状 況 的 枠 組 み ( G r y c h & F i n c h a m , 1 9 9 0 ) の 両 方 の 有 用 性 が 指 摘 さ れ て い る に も 関 わ ら ず , 認 知 ・ 情 動 ・ 行 動 の 三 つ の 側 面 か ら 子 ど も の 主 観 的 体 験 を 検 討 す る 研 究 が 見 当 た ら な い と い う 課 題 も 残 っ て い る 。
20 第 4 節 子 ど も の 視 点 か ら 捉 え る 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 関 す る 尺 度 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 と 子 ど も の 精 神 的 健 康 に 関 す る 研 究 で は 質 問 紙 法 と 観 察 法 が 利 用 さ れ て い る 。 し か し , 観 察 法 の 制 限 が 多 い た め 質 問 紙 が 主 に 用 い ら れ , そ れ は 両 親 に よ る 報 告 と 子 ど も に よ る 報 告 に 分 け ら れ る( 杨 ,2 0 11 )。G r y c h & F i n c h a m( 1 9 9 3 ) は , 実 際 の 夫 婦 関 係 よ り も 子 ど も の 目 に 映 る 夫 婦 関 係 の 方 が , 子 ど も の 発 達 に と っ て 重 要 な 意 味 を も つ と 指 摘 し て い る 。 近 年 の 欧 米 に お け る 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 と 子 ど も の 精 神 的 健 康 と の 関 連 に 関 す る 先 行 研 究 を 概 観 す る と , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に つ い て の 子 ど も の 個 人 的 体 験 を 重 視 す る も の が 多 く な っ て い る ( D a v i s & C u m m i n g s , 1 9 9 4 ; G r y c h & F i n c h a m , 1 9 9 0 ; K i t z m a n n , 2 0 0 3 )。 こ の よ う に , 子 ど も か ら 両 親 間 の 葛 藤 を 評 価 す る と い う 文 脈 で , 最 も よ く 用 い ら れ , か つ 信 頼 性 と 妥 当 性 が 検 証 さ れ て い る も の に ,G r y c h e t a l .( 1 9 9 2 )に よ る C h i l d r e n ’s P e r c e p t i o n o f I n t e r p a r e n t a l C o n f l i c t( 以 降 ,C P I C )と い う 尺 度 が あ る 。C P I C は 子 ど も 自 身 が 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 を ど う 認 知 し て い る か を 測 定 す る 尺 度 で あ る 。 下 位 尺 度 と し て , 葛 藤 の 次 元 を 表 す 頻 度 (f r e q u e n c y ), 強 度 ( i n t e n s i t y ), 葛 藤 解 決 ( r e s o l u t i o n ) と , 子 ど も の 葛 藤 に 対 す る 反 応 あ る い は 解 釈 を 表 す 恐 れ (t h r e a t ), 対 処 効 力 感 ( c o p i n g e f f i c a c y ), 内 容 ( c o n t e n t ), 自 己 非 難 (s e l f - b l a m e ), 安 定 性 ( s t a b i l i t y ), 葛 藤 に よ る ス ト レ ス 理 解 に 重 要 と 思 わ れ る 三 角 関 係 ( t r i a n g u l a t i o n ), が 想 定 さ れ , そ れ ぞ れ 4 項 目 か ら 7 項 目 で 構 成 さ れ る 。 G r y c h e t a l . ( 1 9 9 2 ) は “ そ の と お り ” か ら “ ち が う ” の 3 件 法 で 評 定 さ せ , 下 位 尺 度 合 計 得 点 を 用 い て 因 子 分 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 ,3 因 子 を 抽 出 し , 葛 藤 の 深 刻 さ 因 子 に は 頻 度 と 強 度 と 葛 藤 解 決 , 恐 れ 因 子 に は 恐 れ と 対 処 効 力 感 , 自 己 非 難 に は 内 容 と 自 己 非 難 が 含 ま れ る と し て い る 。 し か し , こ れ ら の 下 位 尺 度 の み で も 4 2 項 目 と
21 多 く , 内 容 的 に 重 複 し た 項 目 も あ る 。 こ の C P I C は 当 初 , 学 童 期 の 子 ど も を 対 象 と し て 検 討 さ れ て き た が , そ の 後 大 学 生 を 対 象 と し た 研 究 に も 適 用 で き る こ と が 示 さ れ て い る (B i c k h a m & F i e s e , 1 9 9 7 )。 ま た ,O ' B r i e n , M a r g o l i n & J o h n ( 1 9 9 5 ) は , 幼 児 や 児 童 に 対 し て , 両 親 間 の 葛 藤 に 対 す る 対 処 行 動 を 測 定 す る 児 童 用 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 対 処 行 動 ・ イ ン タ ビ ュ ー ( C h i l d r e n ’s M a r i t a l C o n f l i c t S t r a t e g i e s I n t e r v i e w ) の 標 準 化 を 試 み た 。 O ’ B r i e n e t a l . ( 1 9 9 5 ) の 面 接 で は , 幼 児 や 児 童 の 言 動 を 1 0 の 対 処 行 動 に コ ー ド 化 ・ 記 録 を し て い る 。1 0 の 対 処 行 動 と は , 葛 藤 か ら 逃 げ よ う と す る 行 動 (a v o i d ), 自 分 を 落 ち 着 か せ よ う と し た り , 気 を 紛 ら わ せ よ う と し た り し て , 自 分 を 頼 り に す る 行 動 ( s e l f - r e l y ), 友 人 や き ょ う だ い に 助 け を 求 め る 行 動 ( s e e k p e e r / s i b l i n g s ), 大 人 に 仲 裁 を 求 め る 行 動 ( s e e k a u t h o r i t y ), け ん か を 止 め る よ う に 言 う ( v e r b a l i n t e r v e n t i o n ), 自 分 を 責 め る ( s e l f - b l a m e ), 体 を 張 っ て け ん か を 止 め る ( p h y s i c a l i n t e r v e n t i o n ), け ん か の 理 由 を 両 親 に 尋 ね る 行 動 ( q u e s t i o n p a r e n t ), 泣 い た り , 感 情 を 表 に 出 し た り す る 行 動 ( e x p r e s s f e e l i n g s ), 何 も し な い ( h e l p l e s s ) で あ る 。 さ ら に , D a v i e s , F o r m a n , R a s i & S t e v e n s ( 2 0 0 2 ) は , 情 緒 安 定 性 仮 説 (D a v i s & C u m m i n g s , 1 9 9 4 ) に 基 づ き 父 母 関 係 安 定 性 尺 度 (S e c u r i t y i n t h e I n t e r p a r e n t a l S u b s y s t e m S c a l e ; S I S S c a l e ) を 作 成 し た 。 こ の 尺 度 に は 7 因 子 が 含 ま れ る 。 そ れ は ,情 動 反 応(e m o t i o n a l r e a c t i v i t y ),行 動 の 失 調( b e h a v i o r a l d y s r e g u l a t i o n ), 介 入 ( i n v o l v e m e n t ), 回 避 ( i n v o l v e m e n t ), 建 設 的 な 家 族 の 表 象 (c o n s t r u c t i v e f a m i l y r e p r e s e n t a t i o n s ), 破 壊 的 な 家 族 の 表 象 (d e s t r u c t i v e f a m i l y r e p r e s e n t a t i o n s ), 葛 藤 の ス ピ ル オ ー バ ー の 表 象 ( c o n f l i c t s p i l l o v e r r e p r e s e n t a t i o n s ) で あ り , 3 7 項 目 を そ れ ぞ れ 4 件 法 で 測 定 す る 。
22 子 ど も の 視 点 か ら 見 た 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 関 す る 既 存 の 尺 度 に は 次 の 2 つ の 問 題 が 考 え ら れ る 。 第 一 に , こ れ ら の 尺 度 は 欧 米 人 を 対 象 に 作 ら れ た 尺 度 で あ る 。 日 本 と 中 国 で は , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 子 ど も の 認 知 反 応 を 測 る 尺 度 と し て C P I C の 翻 訳 や 検 討 に 関 す る 研 究 が 存 在 す る が ( 池 ・ 俞 ,2 0 0 8 ; 川 島 ・ 眞 榮 城 ・ 菅 原 ・ 酒 井 ・ 伊 藤 ,2 0 0 8 ; 森 光 ・ 高 橋 , 2 0 0 7 ; 山 本 ・ 伊 藤 , 2 0 1 2 ; 赵 ・ 莫 , 2 0 0 6 ; ), 子 ど も の 情 動 ・ 行 動 反 応 に 関 す る 検 討 が 少 な く , 測 定 す る 尺 度 の 翻 訳 も な さ れ て い な い の が 現 状 で あ る 。 第 二 に , こ れ ま で の 研 究 で は , 子 ど も に 実 際 の 両 親 間 の 葛 藤 に つ い て 報 告 を 求 め て き た が , そ れ に よ っ て 子 ど も に 心 理 的 な 負 担 を か け る 可 能 性 が あ る 。 前 述 し た よ う に , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に さ ら さ れ る こ と が 心 理 的 虐 待 に な り 得 る た め , こ の よ う な 体 験 の あ る 子 ど も に 対 し て 実 際 の 葛 藤 場 面 を 思 い 出 し て も ら う と , 二 次 被 害 に な る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。
23 第 5 節 青 年 の 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 こ の 節 で は , 青 年 の 心 理 的 ス ト レ ス に 言 及 す る 。 古 屋 ・ 佐 々 木 ・ 音 山 ・ 坂 田 (2 0 0 7 ) の 高 校 生 の 心 理 社 会 的 ス ト レ ッ サ ー に 関 す る 研 究 で は ,“ 家 族 間 で も め ご と が あ っ た り ,家 族 内 の 仲 が 良 く な い こ と ” や “ 自 分 の こ と で 家 族 が も め た り , ぐ ち を 言 わ れ た こ と ” な ど が 家 庭 ス ト レ ッ サ ー と し て 挙 げ ら れ て い る 。 そ の た め , 子 ど も に と っ て 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に さ ら さ れ る こ と は ス ト レ ッ サ ー で あ り , 心 理 的 ス ト レ ス モ デ ル の 適 用 が 可 能 だ と 考 え ら れ る 。 ま た , 本 章 の 第 3 節 で 述 べ た よ う に , 先 行 研 究 で は 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 に 対 す る 子 ど も の 認 知 的 評 価 や 対 処 行 動 の 重 要 性 が 紹 介 さ れ て お り , ス ト レ ス 研 究 に お け る 理 論 体 系 や 構 成 概 念 が 浸 透 し て い る 。 L a z a r u s & F o l k m a n ( 1 9 8 4 ) は , 「 心 理 的 ス ト レ ス モ デ ル 」 と 呼 ば れ る , 心 理 社 会 的 ス ト レ ス の 認 知 的 評 価 ・ 対 処 行 動 理 論 を 提 唱 し , 今 日 の 心 理 的 ス ト レ ス 研 究 の 理 論 的 基 礎 を 構 築 し た 。 L a z a r u s & F o l k m a n ( 1 9 8 4 ) に よ れ ば , ス ト レ ス は 日 常 生 活 で 遭 遇 す る 外 的 な 刺 激 (s t r e s s o r : ス ト レ ッ サ ー ) に 対 し て , そ の 刺 激 自 体 が ど の 程 度 脅 威 で 負 担 と な る も の で あ る か と い う 個 人 の 判 断 過 程( 一 次 評 価 ), 及 び ,脅 威 場 面 に 対 し て 直 接 的 な 反 応 が で き る か ど う か と い う 判 断 過 程 ( 二 次 評 価 ) と い う 2 つ の 認 知 的 評 価(a p p r a i s a l : ア プ レ イ ザ ル )を 経 て 生 じ る 。さ ら に , こ う し た 判 断 過 程 の 結 果 に 基 づ い て , ス ト レ ッ サ ー に 対 す る 何 ら か の 対 処 行 動 ( c o p i n g : コ ー ピ ン グ ) が 発 動 さ れ る 。 対 処 行 動 を 行 っ た 結 果 , ス ト レ ッ サ ー が 低 減 さ れ れ ば 不 快 な 心 理 的 反 応 ( p s y c h o l o g i c a l s t r e s s r e a c t i o n : 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 ) が 生 じ る こ と は な い が , 対 処 行 動 が ス ト レ ッ サ ー の 低 減 に ふ さ わ し い も の で な け れ ば 不 快 な 心 理 的 反 応 が 生 じ て し ま う 。 L a z a r u s が 提 唱 し た 心 理 的 ス ト レ ス モ デ ル で は , 認 知 的 評 価 や 対 処 行 動 と い っ た , ス ト レ ッ サ ー と そ れ に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る 反 応 の 媒 介 要 因 を 想 定 し て い る 点 に 特 徴 が あ る 。
24 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 に つ い て ,ス ト レ ッ サ ー に さ ら さ れ る と , 短 期 的 に は 不 安 , 怒 り , 抑 う つ な ど の 情 動 変 化 , 及 び 心 拍 数 の 増 加 な ど の 生 理 的 な 変 化 が 生 じ る 。 長 期 的 に は , 認 知 ・ 行 動 的 変 化 , 身 体 的 症 状 , 社 会 的 機 能 の 低 下 な ど の 二 次 反 応 も 見 ら れ る 。認 知 ・ 行 動 的 変 化 に は ,自 信 喪 失 ,思 考 力 の 低 下 ,無 気 力 , 引 き こ も り な ど が 含 ま れ る 。 身 体 的 症 状 は , 生 体 の ホ メ オ ス タ シ ス 4を 調 節 し て い る 自 律 神 経 系 ,内 分 泌 系 ,免 疫 系 の 機 能 が 低 下 す る こ と に よ っ て 生 じ る さ ま ざ ま な ス ト レ ス 関 連 性 疾 患 を 意 味 し て い る 。 社 会 的 機 能 の 低 下 で は , 社 会 的 に 不 適 応 な 状 態 に 至 っ た り , 生 活 の 質 ( Q O L : q u a l i t y o f l i f e ) が 低 下 し た り , 社 会 的 生 活 を 営 む 上 で 何 ら か の 障 害 が 生 じ た り す る 。こ の よ う に , ス ト レ ス 反 応 の 概 念 は 幅 広 い 意 味 で 用 い ら れ , そ の よ う な 意 味 に お い て , 心 理 ・ 社 会 的 ス ト レ ス 研 究 で は , ス ト レ ス 反 応 の 総 称 と し て 精 神 的 健 康 と い う 用 語 を 用 い る 傾 向 が 強 い ( 加 藤 , 2 0 0 8 )。 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 に つ い て は , 情 動 を 中 核 と す る 研 究 が な さ れ て き た 。例 え ば ,坂 野 ・ 嶋 田 ・ 三 浦 ・ 森 ・ 小 田 ・ 猿 渡(1 9 9 4 ) は , 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 に 関 す る 先 行 研 究 を 踏 ま え , い ず れ の 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 尺 度 に お い て も 「 無 気 力 反 応 」,「 不 機 嫌 ・ 怒 り 」,「 抑 う つ ・ 不 安 」 の 各 因 子 が 抽 出 さ れ て い る 。 こ れ ら の 反 応 は 年 齢 や 発 達 段 階 に 関 わ ら ず 表 出 さ れ る , 一 般 的 な 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 で あ る と 指 摘 し て い る 。 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 を 測 定 す る 質 問 紙 と し て , P S R S ( P s y c h o l o g i c a l S t r e s s R e s p o n s e S c a l e; 新 名 ・ 坂 田 ・ 矢 冨 ・ 本 間 ,1 9 9 0 ),P O M S( P r o f i l e o f M o o d S t a t e s;横 山・荒 記 ,1 9 9 4 ),S R S - 1 8( S t r e s s R e s p o n s e S c a l e - 1 8; 鈴 木 ・ 嶋 田 ・ 三 浦 ・ 片 柳 ・ 右 馬 楚 ・ 坂 野 ,1 9 9 7 ) な ど が , 日 本 で 開 発 さ れ て い る 。 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 に 含 ま れ る 情 動 反 応 の 不 安 と 夫 婦 関 係 の 4生 体 の ホ メ オ ス タ シ ス と は ,生 体 内 の 環 境 を 常 に 一 定 に 保 と う と す る 機 能 。
25 関 連 に つ い て 見 て い き た い 。山 崎(2 0 0 5 )は ,青 年 期 を 前 期( 中 学 生 ), 中 期 ( 高 校 生 ), 後 期 ( 大 学 生 ) に 分 け て 青 年 期 の 不 安 の 変 化 を 検 討 し , 性 別 を 問 わ ず , 状 態 不 安 , 特 性 不 安 と も に 高 校 生 で 極 め て 高 い 値 を 示 す こ と を 明 ら か に し て い る 。 ま た , 青 年 の 不 安 は 両 親 の 夫 婦 関 係 や 家 庭 環 境 な ど の 家 族 の 要 因 と 密 接 に 関 連 し て い る と 指 摘 さ れ て い る 。こ れ を 裏 付 け る 研 究 と し て , 宇 都 宮 ( 2 0 0 5 ) は , 両 親 の 結 婚 生 活 に 対 す る コ ミ ッ ト メ ン ト の 認 知 と 女 子 青 年 の 不 安 と の 関 連 性 を 検 討 し , 両 親 の 「 存 在 の 全 的 受 容 ・ 代 替 性 」 を 高 く 認 知 し て い る 娘 ほ ど 不 安 は 弱 ま り ,「 社 会 的 圧 力 ・ 無 力 感 」 が 高 い 娘 ほ ど 不 安 は 強 ま る こ と を 明 ら か に し て い る 。 さ ら に , 鈴 山 ・ 徳 田 (2 0 0 9 ) は , 夫 婦 関 係 が 家 族 シ ス テ ム の 機 能 状 態 を 媒 介 と し て 間 接 的 に 青 年 の 不 安 ・ 身 体 症 状 に 影 響 を 及 ぼ す こ と を 示 し て い る 。 以 上 か ら , 夫 婦 間 顕 在 的 葛 藤 が 青 年 期 の 子 ど も の 精 神 的 健 康 に 及 ぼ す 影 響 を 検 討 す る 際 , 心 理 的 ス ト レ ス モ デ ル の 知 見 を 参 考 に す る こ と が で き , 精 神 的 健 康 を 表 す 変 数 と し て 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 を 取 り 上 げ る こ と が 適 切 だ と 考 え ら れ る 。