アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向
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(2) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). し か し、 合 衆 国 が、1971 年 に 立法 し た 内国国 際販売会社(domestic international sales corporation: DISC)準則が、当時の GATT の下で違法な補 助金であるという認定を受けてから「GATT/WTO との 30 年論争」に、敗北 し続けたことから、主にヨーロッパ諸国が採用している、外国の子会社を通 じて稼得する能動的所得からの配当を免除する制度(以下 exemption 制度 3)と いう)への移行案が、国際課税改革の選択肢として、にわかに浮かび上がっ た。以後現在に至るまで、ブッシュ、クリントン、ブッシュ Jr, 及びオバマ 各政権の下で国際課税分野における税制改革論議においては、本稿における exemption 制度が常に提案される選択肢の中心をなしてきた。 その後、合衆国における国際課税の改革論議は、純粋 worldwide 制度を支 持する立場と、OECD 加盟国の過半を超える諸国が採用している exemption 制度への移行を支持する立場とが相対峙する論議となり、現在でもなお続け られている。現行 worldwide 制度の下では、特に合衆国ベースの多国籍企 業 4)(U.S. based multinational company、以下 US MNC という)による経済的 意思決定に各種の深刻な歪みを生じさせており、なんらかの改革が急務である という点については合意が形成されている。しかし、両方の支持者の間には合 意に至らない論点がいくつか残されている 5)。その論点の中でも、exemption 制度への移行が、本来合衆国に帰属すべき所得の国外移転を現行以上に加速 することはないのかという論点は、合衆国内の投資、生産及び雇用に対して 直接影響を与える重要な問題である。これまで、所得移転が行われているこ とを示す多くの実証的研究が発表されてきた。しかし、どのようなメカニズ ムの下でこのような所得移転が行われているかについては、これまで明らかに されてこなかった。合衆国連邦議会の指示の下で、上下両院合同租税委員会 (joint committee on taxation、以下 JCT という)のスタッフが事例研究を行い、 2010 年 7 月 22 日に開催された合衆国連邦議会下院歳入委員会(Committee on Ways and Means)での公聴会に向けて、Ⅱ章に述べる報告書を提出した。本 書の目的は、当該報告書を通じて、合衆国多国籍企業(以下、US MNC という) 22.
(3) アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向. による所得移転のメカニズムを明らかにした上で、合衆国での国際課税改革論 議に資することである。 2009 年に、我が国及び英国が共に本稿で言う exemption 制度への移行に踏 み切った現在、worldwide 制度を採用している合衆国は孤立しており 6)、ある 意味の岐路(crossroad)に立っているという 7)。これまで国際課税の分野で指 導的役割を果たしてきた合衆国における国際課税の改革論議の行方を知る上に おいても、我が国制度の将来の課題を見出すためにも、本事例研究についての 知見を蓄積することは、極めて有益であると考える。第Ⅰ章では、現在の合衆 国の国際課税改革論議に至るまでの背景を、第Ⅱ章では、事例研究結果である 本報告書の内容を、第Ⅲ章では、本報告書で明らかになった所得移転メカニズ ムと現行法令との関係を分析した上で、第Ⅳ章では、合衆国の国際課税改革論 議の方向性に強く影響を与えていると考えられる有力な論文について考察した うえで、現在論議されている選択肢を実施するための課題についての私見を述 べる。 なお、本稿における合衆国納税者の主体は合衆国ベースの多国籍企業であ り、特にことわりのない限り法人による事業所得に対する国際課税の文脈で述 べる。また、本稿においては、アメリカ合衆国の「内国歳入法」及び「連邦財 務省規則」を引用するが、それぞれ「歳入法」及び「財務省規則」によって表 記する。. Ⅰ 背景 合衆国は、これまで国際課税に係る租税政策の指導原理を CEN 原則に依 拠し、worldwide 制度を堅持してきた。しかし、前述の GATT/WTO とのい わゆる 30 年論争 8)に起因して合衆国がこれまで考えもしなかった exemption 制度への移行案がにわかに浮かび上がった 9)。以後現在に至るまで、 ブッシュ、 クリントン、ブッシュ Jr. の各政権の下での国際課税分野における税制改革 23.
(4) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). 論議においては、exemption 制度が常に提案される選択肢の中心をなしてき た 10)。 しかし、2000 年に入り複数の論者から、多くの欠点を抱えた現行の連邦租 税法のままで exemption 制度へ移行することに対する反論又は疑問が提起さ れた 11)。ブッシュ Jr. 政権最後の年である 2008 年の JCT スタッフ報告書では、 exemption 制度と課税繰延を認めない純粋 worldwide 制度を意味する完全合 算制度 12) (full inclusion system)とを併記する形で提案しながらも、exemption 制度の下では、外国で稼得する収益の配当送還については経済的効率性を改善 しうるとしても、投資先立地に関する様々な決定に関して経済的効率性が改善 されるかを評価するには、さらに分析が必要であると結論付けている、と考え られる 13)。 その後、 オバマ政権へ移行後、2009 年 3 月 25 日にオバマ大統領令(executive order)に よ り、P. Volker を 議長 と す る 大統領経済再生諮問会議(President’ s Economic Recovery Advisory Board、以下 PERAB という)が組織され 14)、 2010 年 8 月 27 日にその報告書がオバマ大統領に提出された 15)。国際課税の領 域では四つの選択肢が提示されたが、そこで柱となっているのは、 (1)現行 法人税率のままで exemption 制度に移行すること 16)及び(2)法人税率を現行 35%から 28%に引き下げた上で課税繰延を認めない純粋 worldwide 制度へ回 帰することであった 17)。 最近、2011 年 5 月 24 日 に 開催 さ れ た 合衆国連邦議会下院歳入委員会及 び 2011 年 9 月 8 日 に 開催 さ れ た 同議会上院財政委員会(Senate Committee on Finance)における公聴会において、それぞれ、JCT スタッフによる報告書が 提出されたが、合衆国下院歳入委員会での公聴会に対する JCT スタッフ報告 書では、抜本的国際課税改革の選択肢として、exemption 制度へ移行する案と 純粋 worldwide 制度たる完全合算制度(full inclusion system)を実施する案を 選択肢として提示した 18)。 し か し そ の 後 も 引 き 続 き、exemption 制度 と 課税繰延 を 排除 す る 純粋 24.
(5) アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向. worldwide 制度とを真っ向から対立させる議論が継続されている 19)。前述の二 つの選択肢が対立する論点は複数ある 20)が、中でもその論議の方向性に大き な影響を与えると筆者が考える論点が、現行制度の下で多くの論者が指摘して いる合衆国から国外への所得移転の問題であり、exemption 制度への移行に伴 い当該所得移転がさらに加速され、ひいては合衆国課税ベースまで浸食される ことへの懸念である。1990 年初頭から最近にいたるまで、合衆国ベースの多 国籍企業(U.S. based multinational company、以下 US MNC と い う)が、現 行制度の下で所得を海外に移転していることを強く示唆する数多くの実証研究 結果が報告されてきた 21)。しかし、 多くの論者によるこれまでの実証研究では、 具体的にどのようなメカニズムを使って所得の国外への移転が行われ、そのた めに、現行法のどのような準則が利用されているかについては明らかにはされ てこなかった。 2010 年 7 月 22 日 に 開催 さ れ た 合衆国連邦議会下院歳入委員会 が、移転価 格問題に関する公聴会を開いた。当該公聴会のために JCT スタッフが「所 得移転 の 可能性 と 移転価格 に 関 す る 現行法及 び 背景( Present Law and Background Related to Possible Income Shifting and Transfer Pricing) 」 (以下、 本報告書という)を公表した 22)。 本報告書はその序文において: 「以降の本報告書で要約されるように、いくつかの研究が、合衆国ベース及 び外国ベースの MNC が低税率の課税管轄への所得移転を可能にしていること を示唆し、移転価格準則の適用に欠陥のあることを指摘してきた。それらはき わめて示唆に富む研究ではあるが、どのようなメカニズムによって所得が移転 されているかについてはほとんど言及されてこなかった。合衆国連邦議会下院 歳入委員会の大多数のメンバーが、公開されている情報に基づいて所得移転を 可能ならしめる事業構造(business structure)及び移転価格準則の適用上の 欠点を指摘できる事例研究を、JCT スタッフに対して求めた。JCT スタッフ は、公開情報だけから判明できることだけでは不十分であり、事業運営とタッ 25.
(6) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). クス・プラニングとの間の相互関係が、どのように納税者の全世界レベルで の低い平均税率の結果をもたらし得るかを説明するためには、特定の納税者 の公開情報のみならず非公開情報をも分析する必要があるという結論に達し た 23)。 」 そこで、JCT スタッフが、歳入法で授権されている権限 24)に基づいて必要 と考える情報を JCT スタッフが選定した US MNC 6 社に提出を求め、それら の情報を分析した結果が本報告書である。本報告書は、所得移転のメカニズム 及び所得を移転するために利用されている移転価格税制その他の準則の弱点を 初めて明らかにしたといえ、わが国でも注目されている 25)が、次章でその概 要を述べる。. Ⅱ 本報告書の概要 本報告書では、US MNC 6 社を選定し、現行法の下で行われている所得移 転のメカニズムを、初めてしかもかなりの程度浮き彫りにした。 なお、本報告書の内容を述べるときには、その該当頁をカッコ内に記載する。. 1.本報告書の構成 本報告書 は 下記 の よ う に 4 章構成 に なって お り、本書 の 末尾 に 用語集 (glossary)が付されており、本報告書で使用されている用語を定義している。 序論 Ⅰ 事業再編 Ⅱ 過去及び現行法令 A.関連当事者間の無形資産移転に対する移転価格設定 B.Subpart F C.実体分類(entity classification) D.歳入法 936 条(合衆国属地に係る準則:筆者注) 26.
(7) アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向. Ⅲ 6 社の合衆国ベース MNC と合衆国課税ベースに関する事例研究 Alpha 社、Bravo 社、Charlie 社、Delta 社、Echo 社、Foxtrot 社 の 各事例 Ⅳ 分析 A.概観 B.低い外国税率 C.移転価格 D.Subpart F リスクの操作. 2.事例の選定方法及び選定結果 JCT スタッフは、合衆国及び外国の両方で重要な事業及び売上を有する 100 社を超える公開法人により提出された公開資料を検討した。1999 年から複数 年の間に少なくとも一回の平均税率 26)が 25%未満であると株主に報告した法 人の中から、別々の産業に属する 6 社の事例を選択した。なお、その選択は 異なる産業から行われたが、US MNC からランダムに選択したものではない。 従って、以下の分析結果は、US MNC が、その事業をどのように組織し或い は租税債務をどのように計上しているかの一般的な記述ではない。個々の事業 には、それぞれの過去の投資判断及び将来の投資計画に基づく事実関係があ り、多くの点で特有なものである(本報告書 51 頁) 。しかし、100 社の中から 選択された 6 社ではあるが、それでも後に述べるように各社の事業組織、その 運営及びタックス・プラニングにおいて共通点を有しており、それらの共通点 は US MNC の間で広く妥当している可能性がある 27)。 選択された 6 社について、合衆国に計上された売上高と対応する平均税引前 利益の関係を表 1 に示すが、全世界売上に占める平均合衆国売上の割合に比し 全世界税引前利益に占める平均合衆国税引前利益の割合が総じて低く、異常に 低い納税者もある。. 27.
(8) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). 〔表 1〕 全世界税引前利益 に 全世界売上に占める合衆国 し め る 合衆国税引前 売上の割合(%) 利益の割合(%). 納税者. 属する産業. Alpha社. 消費財の生産・販売. 60%. 30%未満. Bravo社. 工業技術財の生産及 び販売・サービス. 50%. 33%. Charlie社. 工業財. 60%超. 10%. Delta社. 技術ベースの消費財 の生産・販売. 45%~55%. 10%. Echo社. 技術ベースの消費財 の生産・販売. 60%超. 25% 調査期間中50 % か ら 25%に減少. Foxtrot社. 消費財の生産・販売. 概ね50%. 2%. JCT Staff, Testimony of the Staff of the Joint Committee on Taxation Before the House Committee on Ways and Means Hearing on Transfer Pricing Issues, JCX-38-10,July 22, 2010, at 3,5より筆者が作成。. 合衆国が全世界所得課税を採用しながら能動的な外国事業所得に課税繰延を 許していることは、外国でより多くの外国事業所得を計上しようとする誘因を US MNC に与えているばかりではなく、外国子会社に留保された利益に対す る「合衆国の一般に承認された会計原則(以下、US GAAP という) 」上の取 扱いが当該誘因と重要な関係がある 28)。前述のように、1990 年代の初頭から 現在に至るまで、多くの論者が、合衆国外の所得移転の可能性についての実証 的研究成果を発表してきた 29)。特に最近の GAO 報告書によって当該所得移転 の蓋然性が明らかになってきていた 30)。. 3.組織構造の基本形としての外国プリンシパル・モデル 選択された事例の間には海外への所得移転の原因となり得る共通要素がある (本報告書 9-10 頁) 。 ① 全世界事業の内、収益性の高い部分を低い税率の外国課税管轄 31)に集 28.
(9) アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向. 中させ、日常的(routine)で低収益の機能 32)を合衆国を含む高税率 の課税管轄に集中させる。 ② 継続する無形資産の開発の責任及びその成果の所有を、法人税の法定 税率が低いか、または、地域の租税当局と移転価格に係る事前協議 (advanced pricing agreement)を締結するにあたって租税法令上の 優遇を享受できることの結果として平均的税率が相対的に低くなるよ うに外国課税管轄に集中させる。 ③ 事業の主要機能を果たす主導者本人ともいえる外国プリンシパル 33) (foreign principal)機能を法人税率が低い課税管轄に置き、定常的で 低収益の機能を法人税率が高い課税管轄に置く。 これらの関係を示したのが図 1 である。 〔図〔図 1〕 1〕 プリンシパル・モデル プリンシパル・モデル 合衆国親会社 ・支援サービス及び販売活動 ・リスクを限定、低い収益率. 外国プリンシパル ・知的財産権の保有、リスクと責任を集中 ・高い収益率. リスクを限定された販売. 契約製造. (低税率又は高税率の課税管轄). (低税率又は高税率の課税管轄). ・販売活動. ・製造活動. ・リスクを限定、低い収益率. ・リスクを限定、低い収益率. JCT Staff, Testimony of the Staff of the Joint Committee on Taxation Before the House Committee on Ways and Means Hearing on Transfer Pricing Issues, JCX-3810,July 22, 2010, at 6より筆者が作成。 29.
(10) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). これらの結果、より少ない課税ベースには高い税率が課され、より多くの課 税ベースには低い税率が課せられることになる。これらの要素は、共通して 6 社の納税者が構築した事業再編 34)を通じて構築された事業構造に含まれてい るが、各要素の関係は図 1 に表されている。. 4.選定された事例を概観してみる 本報告書における各納税者の分析結果から、筆者は、納税者の特徴を比較す る〔図 2-1〕 、 〔図 2-2〕を作成した。そこから、各納税者の持つ共通の特徴がく み取れると考え、筆者からみたキィーとなる要素を下記に述べる。なお、本報 告書に示される数値は、納税者間の比較の便宜のため、統一的に全世界売上高 を 1000 億ドルと仮定し、その他の数値を対応的に調整したものである 35)。 (1)全世界売上高と全世界売上高に占める合衆国売上高の割合(%表示)は、 〔表Ⅰ〕に表した通りであるが、概ね全世界売上高の 50%超が合衆国顧客への 売上によるものである。 (2)株主に報告される財務諸表上、全世界税引前利益に占める合衆国税引前利 益の割合(%表示)も、 〔表Ⅰ〕に表した通りであるが、合衆国租税に服すべ き所得に対応する税引前利益の割合が、上記(1)に割合に比べて極めて低い ことがわかる。 (3)研究開発活動のほとんどは合衆国で行われており、合衆国課税の下で費用 控除及び研究開発に係る税額控除 36)の恩典を享受している。しかし、合衆国 で開発された知的財産権は、ライセンス契約又は費用分担取極めを通じて、企 業グループ内の外国プリンシパル実体に移転又はライセンスされており、その 移転の対価としてのバイ・イン支払 37) (buy-in payment)又は使用料が適正か どうかが問題となる。 (4)多額の利益が海外に留保されている。各事例の当該留保金額の規模は、 300 億ドルから 800 億ドルと様々であるが、いずれも外国で稼得された巨額の 利益が、合衆国の残余税に服することなく永久に課税繰延 38)され留保されて 30.
(11) アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向. いる 39)。 (5)全世界の平均税率 40)については、純粋な全世界所得課税の下で 35%とな るべきであるが 20%未満、事例によっては 10%未満という例もあり、いわゆ るタックス・プラニングを通じて当該平均税率の引き下げが行われている。 (6) (無形資産を経済的に所有しリスクを集中することにより高い利益率を割 り当てられる)プリンシパルである CFC の所在地域は、税率がゼロ若しくは 合衆国に比し著しく低い地域又は政府との間で税率の引下げ交渉が可能であ る、ケイマン諸島、中国を中心としたアジア地域、スイス及びオランダに所在 する。 (7)プリンシパルの支配下にある製造及び販売の機能を担う CFC の多くは、 プリンシパルと同一地域に所在し、後に述べる同一設立国例外の適用を享受す るか、アイルランド、香港、シンガポール、スイス又はオランダに所在させ、 かつ、check-the-box 準則による選択を通じたハイブリッド実体 41)であり、か つ、合衆国連邦租税法上は無視される実体(disregarded entity、以下 DRE と いう)を組成し、その結果合衆国課税の視界から完全に消えている。 組織再編とタックス・プラニングを組合わせることを通じて、合衆国の全世 界所得課税に服しながらも、外国での租税負担を劇的に減少させて稼得した税 引後利益を合衆国課税から事実上切り離し、外国に留保させているメカニズム のかなりの部分が明らかになったといえる。 しかし、本事例研究においてもそれ以上踏み込めていない領域もある。第一 に、 (現物出資やランセンス等を通じた)価値ある無形資産 42)の移転に対して 適正な移転価格が設定されているかの論点である。本事例研究においては、Ⅲ C. に述べるように(独立企業間取引には見られないような)ライセンス契約 と販売契約やバック・オフィス業務に係る役務提供の取極めなどを組合わせる MNC 特有の取引構成と情報の非対称性により、踏み込めなかった問題であろ う。第二に、 (合衆国を含む)高税率の課税管轄に負債を置き、その資金を低 税率の課税管轄に資本注入し、そこでの運用で得た利益を合衆国に配当送還す 31.
(12) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). ることなく合衆国外に留保すれば劇的に実効税率を引下げることができる 43)。 この点については、本報告書は直接言及していない。 本報告書では、本事例研究により解明できたメカニズムと現行法令との関係 を分析しているが、その要点を次章に述べる。 〔表 2-1〕 �����. �����. �������. �������. ������� �������. �������. �������. �������. �������. ���. ���. �����. ������������. ������ ���������. �������������. �������������������. �����. ������. �����. ���������������������� �������������������. �����. ���. ���. ����. ������. ����. �������. �������. �������. ������. ���. �����. ������. ������. ������. �� ���������. ���� ���������. ������. �������. �������. ���. �������� �����������. ����������������� ������������������. ��� ���������. ����� ���������. ��� �������������. ��������� ������������������. ��� ��������� ���� ���������. ��� �������������. ������ ���������. ��������. ������. ����������� ���������. ����. ������� �������� ����������. ��� �������������. �����. ������� ���������������� ����� ���������������. �������� ������ ���������� ������������ ���������� ������. �����������. �����������������. ������� �����. 32.
(13) ����� ������������������������� ����������������. アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向. �� 2�2������. 〔表 2-2〕 �����. ������� ���������������� ����� ���������������. ������������������� ���������������������� ������������������� �������� ������ ���������� ������������ ���������� ������ �������. �� ���. ��� �. ��������. ������� ����� ����� �������. ������� �������. ��������� �����. �������. �������. ������. �����. ���. ����������. �������������. ������������� �����. ������. ������. ������. ���. ���. ��. ����������������. ������. ����. �����. �������. �������. �������. ������. ���. �����. ������. ������. ������. ������ ������ � �������� �����. ������ ����������. ��� �������. �������� �����������. �������. ����������������� ������������������. ���� ���������. ������ ���������. ����� ���������. ��������� ������������������. ���� ���������. ������ ��������� ��� �������������. ����� ��������� ���� ���������. ��������. ���������� ������. ���������� ������. ����. ��� �������������. ������� �������� ���������. �����������. �����������������. �������������� �����������. Ⅲ 現行法令と所得移転メカニズムに対する分析 A.概観 本報告書では、事例研究に選ばれた納税者に共通する特徴について分析を加 えることにより、どの特徴が納税者の平均全世界税率を可能ならしめているの 33.
(14) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). か、またそれはどのように合衆国の租税準則(最近行われた準則の改正も含 む。 )と相互に関係するのかを明らかにしようとしている。また、事業再編に より構築されたプリンシパル・モデルと低い平均税率との関係、移転価格及び subpart F リスクの回避のそれぞれについて分析をしている。. B.低い外国税率 (1)全世界平均税率の引下げ 納税者は、低税率の課税管轄にプリンシパルを有する構造を構築し、無形資 産の所有又はその実施権を当該低税率の課税管轄に移動させ、契約製造業者や リスク限定の販売者を利用することにより高税率の課税管轄における利益を最 小化するか、または、低税率の課税管轄に所在する無形資産を利用して高税率 の課税管轄から控除可能となる使用料を支払うことにより、全世界平均税率を 引下げるようにコントロール(manage)している。 ( 本報告書 103-105 頁) 本報告書が特に注目しているのが、バミューダにプリンシパル実体を有する Bravo 社及び Foxtrot 社である。Bravo 社のバミューダ・プリンシパルは、ス イスに設立した実体が所有する無体財産権(intangible property right)の対象 となる製品の製造及び販売の機能がその利益源となっている。合衆国連邦租税 法上 check-the-box を通じて DRE を選択しているスイス実体、オランダ実体 及びその他の DRE を選択している CFC はいずれも、バミューダに設立され た実体の下部に組織されている。その結果、当該 DRE を含むバミューダ実体 の本事例研究期間中の平均税率は 4%にも満たない。 Foxtrot 社のバミューダ・プリンシパルは、合衆国外にて製品製造及び販売 の責任を有し、製造は香港に設立した実体を通して行い、多数の Foxtrot 社の CFC である販売業者を通して合衆国外に販売している。DRE を選択している オランダ実体(プリンシパル的機能を合わせ有している。 ) 、香港実体及びその 他の DRE は、バミューダに設立されたプリンシパル実体の下部に組織されて いる。当該 DRE を含むバミューダ実体の本事例研究期間中の平均税率は 10% 34.
(15) アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向. であった。 (本報告書 107 頁) (2)課税繰延と株主に報告される財務諸表上のメリット 高税率の課税管轄から低税率の課税管轄への所得を移転すれば MNC の税引 後の利益は増える。さらに、US MNC は、US GAAP の下で株主に開示する 財務諸表上で、合衆国への配当送還時に課される残余税の認識を遅らせること ができる。事例研究の各納税者は、多額の未送還利益を永久に外国で再投資す る方針を財務諸表上で開示することにより、未送還利益に係る残余税を財務諸 表に全く反映していない 44)。 (本報告書 5 頁脚注⑧) (3)無形資産の所在 納税者が低税率の課税管轄に事業利益を計上するための鍵となるのは、低税 率の課税管轄に無形資産を位置づけることである。そして、費用分担取極め及 びバイ・イン支払又はライセンス契約を通じて、外国関係者に無形資産の所有 権又は使用権を移転するか若しくは無形資産を現物出資することである。ここ でいう無形資産には、製品、製造ノウハウ、特許、販売無形資産、商標及び商 号、顧客との関係、経験豊かな従業員及びのれんが含まれる 45)。 いずれ事例においても、納税者は、製品開発、製品スペックの設定、製造工 程の開発及び改良、マーケティング、特許申請、許認可の申請、商標名の開発、 顧客関係の開発及びその他の無形資産の創設に重要な部分を合衆国内で行い、 合衆国連邦租税法上で控除の権利(さらに研究開発費税額控除の権利 46))を 享受しながら、当該無形資産の使用権を低税率の課税管轄に所在する関係者に 移転又はランセンスされている。 当該無形資産の所有者である合衆国企業に製品を販売するときには、当該製 品に係る無形資産の使用権に対する対価を支払う代わりに、当該所有者に補償 する意図で当該製品の移転価格を低く設定する場合すら見られる。 (本報告書 105-106 頁) 35.
(16) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). (4)高税率の課税管轄における利益を制限する 一般的に、顧客が所在する場所で販売及び顧客サービス活動を行う必要があ る、製品を最終的に使用される場所に搬送することが困難である又は費用が掛 りすぎる場合もあり、納税者が高税率の課税管轄を完全に避ける形でその事業 を構成することはできない。しかしそのような場合でも、事業再編を通じて リスクが限定された販売業者(limited-risk distributor)や契約製造(contract manufacturing)又は委託製造業者(toll manufacturing)を利用することによ り高税率の課税管轄で行われる事業のリスクを限定しながら、利益を最小化す ることができる。 加えて、低税率の課税管轄への支払が生じる高税率の課税管轄で、控除可能 な使用料その他の支払が生じるように取引を構成することによっても、高税率 の課税管轄における利益を制限することができる 47)。オランダ政府その他の 課税管轄は、その結果多額の税収上の損失があっても、その損失は企業による 投資に対する誘引策のためのコストとしての価値があると考えている。 (本報 告書 108 頁). C.移転価格 サプライ・チェーン 48)を構成する個々の実体に利益を配分するために、移 転価格が設定される。本事例研究の各事例には、US MNC が合衆国内で開発 した無形資産を、合衆国外で製品の製造に使用する取引が含まれている。各事 例は、合衆国外で製造する製品の多くを合衆国内で販売しており、事例によっ ては、国を跨ぐ関連当事者間での販売、役務提供及び製造取極めを含む物品・ サービスの移転取引が含まれている。取引ごとの移転価格の算定は、当該取引 に特有な事実関係に基づいて行わなければならないが、他方では、各当事者へ のシステム利益純額の配分金額を考慮に入れながら、総合的に評価されている 場合がある。 合衆国は、そのほとんどの通商相手国と同様に、合衆国内での研究開発投資 36.
(17) アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向. を誘因するために、研究開発コストの即時費用控除(及び研究開発費の税額控 除 49))を認めている。しかしその見返りとして、当該研究開発投資の結果か ら生じる所得から徴収される合衆国租税の形で、リターンを期待している。し かし納税者が移転価格を過小に設定し、適切な対価無しに当該研究開発の成果 としての利益が合衆国外に移転されれば、合衆国は期待するリターンは得られ なくなる。 特にユニークな無形資産はその評価が困難である。その結果、使用料の支 払、ライセンス・フィー及びバイ・イン支払が適正におこなわれているかの評 価は、納税者及び IRS の双方にとって困難となる。 第一に、ユニークな無形資産を開発する納税者が当該無形資産を第三者に移 転することが仮にあったとしてもそれは稀であり、その結果、どのような条件 の下で当該無形資産の arm’s length 基準による移転価格が設定されたかを判断 することが困難となる。また例え、arm’s length 基準を適用するための比較可 能な取引が示された場合であっても、納税者側の事実関係と提示される比較可 能取引の事実関係との違いに関する内部知識を保有しているのは、当該納税者 だけである。かかる情報の非対称性が納税者にとって有利に働く。 第二に、非関連当事者間の取引に当然伴うであろう経済的リスクの真正なる 移転は、一般に関連当事者間の移転では生じない。移転価格準則の重要な側面 は、企業グループ内での個別の会社は、租税法上別個独立に存在するという観 念である。したがって、 (同一企業グループ内の取引であるから)まったくリ スクが当該企業グループに残らない場合であっても、リスクを負う客観的能力 を有する当該企業グループの構成員に、契約を通じてリスクを自由に割り当て ることができる。 (本報告書 110 頁) (1)費用分担取極め 長年にわたって、事業再編活動の中心をなす要素となってきたのは、費用 分担取極めであった。1966 年に、関連当事者間の費用分担取極めに係る広範 37.
(18) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). な 準則 を 財務省 は 提案 し た(Prop. Treas. Reg. §1.482-2(d) (4) ) 。追って、 1986 年 の 租税改革法(Tax Reform Act of 1986)立法時 の 合衆国連邦議会下 院の報告書は、費用分担取極めの下での結果が所得相応性基準 50)と整合して いる限り、 「研究開発を目的とする一定の真正な費用分担取極めを納税者が利 用することを、合衆国連邦議会は妨げようとするものではない(H.R.Rep. No. 841,99th Cong. Sess.Ⅱ-638(1986) ) 。 」と述べていた。しかし 2000 年代に入って、 費用分担取極めについての納税者と課税庁との間の紛争についての報道 51)が あ い つ ぎ、Veritas Software Corp. et al. v. Commissioner, Xilinx, Inc. v. Commissioner 等の裁判 52)が生じ、いずれも納税者勝訴の判決が出された。 (本報告書 111 頁) (2)ライセンス 個々の事例研究では、無形資産を合衆国外で使用するために移転する方法 は、費用分担取り決めが支配的ではなく、むしろほとんどの場合は、合衆国で 開発された無形資産を外国子会社にランセンスしている。国を越える製造ライ センスについては、外国製造者が支払う使用料の額(又は率)が、対象となる 無形資産の所有者に適切に補償されているかが重要な問題となる。しかしなが ら、本事例研究に選ばれた納税者が示しているように、ライセンス契約が単独 で締結されるケースは極めて稀であり、合衆国親会社から外国子会社への製 造・販売ランセンス契約に当該外国子会社から合衆国親会社に対する販売契約 を組合わせ、さらに、合衆国親会社が外国子会社へコスト・プラスベースで管 理業務やバック・オフィス業務に係る役務提供する取極めを組合わせている。 したがって、このような国を超えるライセンスについては、サプライ・チェー ンに対して各当事者が提供した資源による貢献及び各当事者に割り当てられた リスクに対して適切に補償するよう、利益が各当事者に十分に配分されている かどうかが、移転価格準則上の問題となる。しかし、この分析は課税庁にとっ て困難であり、前述の情報の非対称性によってはさらに困難となる 53)。 (本報 告書 115-116 頁) 38.
(19) アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向. D.subpart F 準則リスクの操作 本事例研究で選択された各納税者は、外国で稼得する所得に subpart F 準 則 54)が適用され、合衆国親会社の手元で当期に課税されることを回避するよ うに操作している。subpart F 準則適用を回避するための主要なポイントは、 ①すべての企業グループ内の使用料等の支払に関して、外国人的持株会社所得 (foreign personal holding company income)の適用を回避すること、②企業グ ループ内の売買に関して、外国基地会社販売所得(foreign base company sales income)の適用を回避することの 2 点である (1)外国人的持株会社所得の適用回避 外国子会社の利益を当期に親会社の手元で課税する subpar F 所得の一つの 類型は外国人的持株会社所得であり、原則として①配当、利子、賃料及び退職 年金、②前記①の所得を生じさせる資産の売買又は交換による純利得等、③商 品取引から生じる純利得、④一定の外国為替取引から生じる純利得、⑤利子と 同等の所得、⑥想定元本取引から生じる所得、⑦配当の代わりに行われる支払、 ⑧人的役務提供契約による収入、により構成される 55)。 本事例研究の納税者の多くに共通する基本構造は、第一に、外国プリンシパ ルが無形資産を所有又は支配しながら、納税者の製品の製造及び販売の役割を も担う構造である。第二に、外国プリンシパルが、無形資産の権利を所有又は 支配しながら当該権利を別の外国実体にライセンス(又はサブライセンス)す る役割を担う構造である。これらの外国プリンシパルが稼得する所得は、本来 ならば、subpart F 準則の下で外国人的持株会社所得を構成するべきであるが、 check-the-box の 選択 56)及 び CFC 透過準則 57)の 適用 に よって、合衆国租税上 は、企業グループ内での関係 DRE の間の支払及び関係 CFC の間の使用料の 支払が無視され、その結果 subpart F 準則による外国人的持株会社の下でのテ ストまでも免れている 58)。 (本報告書 122-123 頁). 39.
(20) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). (2)外国基地会社販売所得の適用回避 外国子会社の利益を当期に親会社の手元で課税する subpar F 所得のもう一 つの類型は外国基地会社販売所得であり、 (利得、手数料その他の形式に関わ らず)関連者から(又は関連者に代わって)取得する動産を第三者に販売する、 又は、第三者より取得する動産を関連者に(又は関連者に代わって)販売する 所得であって: a.取得する動産(又は関連者のために販売する財産の場合は、販売する 動産)が、 当該 CFC の設立国外で製造、 生産、 生育又は採取されるとき、 かつ、 b.取得する(又は関連者に代わって取得する)動産が、当該 CFC 設立 国外で使用、消費又は処分のために販売されるものをいう 59)。 当該外国基地会社所得 の 適用除外規定 と し て(1)製造業適用除外 60)、 (2) 支店ルール 61)が財務省規則で規定されている。製造業適用除外の適用要件と しては、実質的変換テスト 62)及び実質的活動テスト 63)が規定されているが、 2008 年に実質的貢献テスト 64)が追加された。製造業適用除外の適用可否につ いての裁判例としては、Bausch & Lomb, Inc. v. Commissioner 事件 65)があり、租 税裁判所は、2 つの CFC が行ったサングラスの組み立ては、実質的活動テス トを満たしているとして、納税者を勝訴ならしめた。 支店ルールについては、CFC がその設立国外に所在する支店等を通じて購 入、販売又は製造活動を行う場合に適用される。CFC の設立国における実効 税率と支店設置国における実効税率との差に着目して、合衆国租税法上、一 定の場合は支店としての取扱を否定し、CFC とは別個の法人として取扱う 66)。 (本報告書 37-40 頁) 最近 に お け る 合衆国 の 国際課税改革論議 で は、課税繰延 の な い 純粋 worldwide 制度への回帰と exemption 制度への移行という、真逆で両極にある 選択肢が対峙している。所得移転の実例を明らかにした本報告書が、両極に対 峙する選択肢の評価に重要な影響を与えると考えられる。次章において、それ 40.
(21) アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向. ぞれの選択肢を支持する立場についてのこれまでの支配的論説と、これまでと は違った観点から各選択肢を評価する論説を述べた上で、各選択肢を実施する ための課題を明らかにしながら、国際課税改革論議の方法性を探っていきたい。. Ⅳ 合衆国の国際課税改革論議の方向 本章では、本報告書の内容からは離れるが、これまで合衆国の国際課税改革 論議において、純粋 worldwide 制度の堅持を支持する説と exemption 制度へ の移行を支持する説とがいかなる論点で対立してきたかを振り返った上で、そ れぞれの選択肢を実行するための課題について考察する。. 1.課税繰延のない純粋 worldwide 制度への回帰を支持する立場 現行 worldwide 制度の下での租税制度が、MNC の経済的意思決定の歪みを 生じさせているとして一般に指摘されている論点は、外国子会社を通じて稼得 する能動的所得に対する課税繰延である。 (日本に次いで)世界で二番目に高 い法定税率を課している現行合衆国課税 67)の下では、合衆国への配当送還を 延期することにより残余税を回避することができる。US MNC は、FTC 限度 額の余裕額に合わせて本国に送還する配当額を操作して外国で稼得した利益に 対する実効税率を引下げている 68)。しかし歴史的に見ると、これまで合衆国 連邦議会が、合衆国企業の投資先国での競争力を維持するために課税繰延を容 認してきたとも考えられる 69)。そこから、課税繰延を認めない純粋 worldwide 制度に回帰すべきであるという主張がなりたつ。 Fleming/Peroni/Shay は、欠点を多く抱えた現行 worldwide 制度とよく設計 された exemption 制度とを比較して、exemption 制度を提案する議論は馬鹿げ ている。現行 worldwide 制度の欠点を修正することが先決であり、また、直 すことができる、と繰り返し述べてきた 70)。 Kleinbard は、これまでの他の論者による考察とは異なり、現実の国際課税 41.
(22) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). の世界が、既に無国籍所得(stateless income)に染まった世界と直面している との観点から両選択肢に対する評価を行い 71)、課税繰延のない純粋 worldwide 制度への回帰を支持すべきであると主張する。ここで無国籍所得とは、第三者 を含むような外部から供給された資本又は活動の場所を移動させることなく、 MNC 企業グループ内で課税所得を高課税の源泉国から低課税の課税管轄に移 動させようとする MNC の企業行動の結果生じる事象を無国籍所得の生成と定 義した 72)。各国が、特に無形資産から生じる所得に対する有効なソース・ルー ルを共同で開発することに失敗していることから、無国籍所得が花を咲かせ た 73)。数少ない低税率の課税管轄である、バーミューダ、ケイマン諸島及び スイス等が、合衆国企業の実効税率引下げの役割を果たしている 74)。無国籍 所得を生じさせるタックス・プラニングを通じて、巨額の利益(最近の見積も りでは約 1 兆 4 千億ドル以上)が合衆国外で留保されており、現行制度のまま では永久に合衆国課税を免れることになると指摘する 75)。課税繰延及び FTC における彼我流用を許している現行 worldwide 制度は、exemption 制度の代 用品(ersatz)に他ならない 76)。ほとんどの論者は、合衆国現行制度のままで は持続不能であることは合理的に明らかであると指摘している 77)。地理的概 念としての所得源泉地を定義している世界的規範が人為的なものであることも よく知られた問題であり、その解決策は現在なお明らかにされてはいない 78)。 そこで、純粋 worldwide 制度へ回帰すれば、US MNC による合衆国課税ベー スを引き剥がすような挑戦的(aggressive)な移転価格による圧力を大幅に減 らすことができる。次いで、荒々しい無国籍所得に対応でき、現行法の下で自 由に行われている租税裁定を排除できる 79)。ただし、純粋 worldwide 制度の 弱点は、法人居住地という人為的な定義に依拠している点にあり、合衆国から 合衆国法人の大量出国がたちどころに生じることはないとしても、長期的リス クは否定できない 80。また、実務的な問題としては、現行法人税率 35%の大幅 な引下げを伴わない純粋 worldwide 制度の実施は考えにくい 81)。結論として は、CEN を促進する 82)完全合算制度を支持している。 42.
(23) アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向. 2.Exemption 制度への移行を支持する立場 exemption 制度への移行案に大きな影響を与えたのは、Grubert/Mutti によ る論文である 83)。外国子会社からの配当を免税にする制度に移行すれば、現 行 FDI 制度の下で、彼我流用(cross Crediting)を通じて事実上合衆国課税を 免れている使用料及び利子等に係る所得が全額課税対象になるので、現行制度 の下に比べてむしろ税収は増加すると述べた 84)。さらに、合衆国内で発生す る利子や本部費用を含む管理費のうち、免税となる配当に配賦されるべき費用 の控除を否定すべきであることを指摘した 85)。 次 に exemption 制度 へ の 移行 を 提案 し た の は Desai/Hines Jr. で あ る。 Desai/Hines Jr. は、合衆国多国籍企業による投資形態を分析した上で、伝統 的な評価基準である中立性の基準(CEN/CIN)に代わるものとして、事業 および事業用資産の所有者を強調する新たな評価基準として資本所有中立性 (capital ownership neutrality、以下 CON という)を提案した 86)。ここで CON とは、事業上最も高い生産性を発揮できる者が当該事業の資本を所有すべきで あり、そこでは資本所有者の居住地国の税制が、その所有に対して影響を与え てはならないということを基本理念としている 87)。Desai/Hines Jr. は、CON を成立させる国際課税制度は、事実上、統一的な exemption 制度に移行すべ きであると結論付ける 88)。 法人居住地の選択可能性の観点から両選択肢の評価を行い、exemption 制度 への移行を支持する論文が発表された。Shaviro は、合衆国現行租税法の下で、 合衆国法人居住地 89) (corporate residence)の選択可能性(tax electivity)が増 大すれば、法人居住地に基礎をおく worldwide 制度を骨抜きにしてしまう恐 れがあるという視点から、合衆国国際課税改革の政策論議にこれまでとは違っ た光を当てた 90)。そして、法人居住地の選択可能性が高まれば、worldwide 制 度は実行不可能となるかもしれないと考えた 91)。既存の合衆国法人について は、2004 年に導入されたインバージョン対策準則により、かなりの程度身動 きがとれない状況にある 92)。したがって、合衆国法人に対する worldwide 制 43.
(24) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). 度の主要な目的を達成するためには、新設法人に対して、法人居住地の選択に 制限が加えることが鍵となるべき分野であり続ける 93)。もし、分配及び効率 の側面から考察される worldwide 制度の論拠がもともと脆弱であるのであれ ば 94)、穏やかな選択可能性の高まりであっても、情勢が一気に崩れ worldwide 制度を不利な状況に追い込むことが考えられる。したがって、法人居住地選択 可能性に対する対応策としては、worldwide 制度の下で厳格な法人居住地ルー ル 95)を導入するか、exemption 制度への移行を検討すべきである。Shaviro は、 worldwide 制度と exemption 制度とが対立する論争に対して、今すぐ決着をつ けようとはしていないが、あくまでも次善の策(second best)として、ソース・ ルールを厳格なものに変更したうえで exemption 制度への移行を提案してい る 96)。. 3.それぞれの選択肢を実行するための課題 (1)純粋 worldwide 制度の回帰するための課題 純粋 worldwide 制度については、厳格な法人居住地ルールが定義できるか という課題 97)の他に、世界でも実施例がないというリスクはある。これまで 純粋 worldwide 制度についてあまり詳細な制度設計には議論が未だ至ってい ない 98)。これまで若干議論された方式としては、株式公開企業については外 国子会社も含めた連結納税制度、非公開企業については path-through 方式、 または、subpart F の拡大が提案されている 99)。純粋 worldwide 制度の下で法 人税率の適切な水準への引下げを伴えば、移転価格や無国籍所得に対する圧力 は大幅に弱まるであろう。所得移転や無国籍所得を作り出すため行われてきた タックス・プラニングが無意味になるからである。又、純粋 worldwide 制度 の下で、合衆国法人が稼得する全世界所得が合衆国課税に服すこととなれば、 手に負えないほど複雑になった 100)といわれる subpart F を中心に間違いなく 簡素化は図れそうである。しかも、合衆国による片務的努力によって達成出来 そうである。 44.
(25) アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向. なお、法人課税の法定税率については、2009 年における OECD 加盟国の法 定税率の中間値が 28%であること、PERAB からオバマ大統領宛てにの報告 書 101)では、最近の合衆国連邦財務省のデータによれば、合衆国の法人セクター の新規投資に対する限界実効税率が 29% 102)であることを根拠に、提案された 課税繰延のない純粋 worldwide 制度への回帰案では、法人税率を租税負担中 立が図れる 28%にまで引下げる必要があると報告した。追って本年 2 月に、オ バマ政権と連邦財務省が連名で、 「事業課税改革に対する大統領の骨組み 103)」 では法人税率を 28%に引下げると発表している 104)。 (2)exemption 制度への移行のための課題 合衆国法人課税の法定税率より著しく低い法定税率を採用する(又は著しく 有利な租税措置の適用を地域の政府と協議ができる)課税管轄が存在する以 上、本事例研究が示す所得移転とその結果としての合衆国課税ベース浸食の リスクは深刻な問題となろう。よって、 「exemption 制度へ移行するためには、 合衆国の通商相手国の間で、論証可能な程度に水も漏らさぬ(demonstrably watertight)ソ―ス・ルールがなければ、移転価格及び無国籍所得の両面から の攻撃を受けやすい 105)。 」しかし、 「US MNC によるグローバルな事業経営を 前提に考えると、地理的な概念としてのソース・ルールにはもともと弱点があ ることは多くの論者から指摘されている 106)」 。移転価格準則の強化は欠かせな いが、US MNC が、外国で稼得する所得に対する実効税率を引下げるために、 プリンシパル構造を生成する事業再編を行い、ユニークな無形資産を排他的に 企業グループ内で使用し、可能な限り企業グループ外との取引費用を排除しな がらシナジー効果を最大限に発揮しようとする。その結果生じる比較対象取 引のない MNC の企業グル―プ内取引が障害になる 107)。歴史的に受動的所得 に対する課税繰延対策税制であった subpart F 準則を、厳格なタックス・ヘイ ヴン対策税制へと変質させることも必須であろう 108)。check-the-box を通した DRE の取扱に対する制限も必要となろう 109)。さらに、高税率の課税管轄(含 45.
(26) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). む合衆国)における過重な債務を制限する過小資本(thin capitalization)規制 の強化は必須となる 110)。最後に、これまで外国税額控除限度額の計算のため の費用配賦の準則を、免税となる所得に配賦可能な費用の控除を否定する準則 に変質させる必要がある。どれをとっても、簡素化の側面が犠牲になる 111)。 exemption 制度 は、ブッシュ Jr. 政権下 の 2004 年 AJCA で、時限立法 に よ る exemption 制度が実施されている 112)。そのために今でも US MNC は、国 際的競争力を維持・改善するために当該時限立法の再現又は恒久的制度として の exemption 制度への移行を待ち望んでいる 113)。しかし、AJCA 立法当時の 合衆国連邦議会は、AJCA はあくまでも経済を刺激するための一時的措置であ り、将来における再現を否定していた 114)。オバマ政権下の連邦財務省は、一 貫して、包括的な国際租税改革が必要であると報じている 115)。したがって、 現政権は exemption 制度への移行に対しては消極的であると思える 116)。. 結語 外国直接投資 に 対 す る 国際課税制度 に 係 る 選択肢 に つ い て は、伝統的 に は CEN に 依拠 す る 純粋 worldwide 制度 と CIN な い し は CON に 依拠 す る exemption 制度との対立軸で議論されてきた。 しかし、第二次世界大戦後、自国通貨の外貨との交換に対する規制が緩和さ れ、資本の移動が自由となり、グローバル経済の進展と交通及び通信手段の発 展ともに、MNC が国際経済の主役となり、MNC の経済活動をどの課税管轄 に移動させるかまでも自由となる。全世界ベースで稼得する利益をどの国に配 分するかが実務的にもますます困難になっているだけではなく、伝統的な独立 企業原則の下での arm’s length 基準では決しきれなくなってきている。例えば、 US MNC が合衆国内で開発したユニークな価値ある無形資産から得られる超 過収益をどのように配分するは、極めて困難な問題である。 このような状況の中で、合衆国では純粋 worldwide 制度と exemption 制度 46.
(27) アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向. とが対峙しているが、worldwide 制度が基礎をおく法人居住地には Shaviro 及 び Kleinbard が共に指摘する弱点があり、一方、exemption 制度が基礎を置く 所得・控除の源泉地には、Kleinbard が指摘する移転価格への圧力及び無国籍 所得の問題等数々の弱点がある。今後の論議の展開について注目したい。 前述のように最近のデータによると、合衆国に配当送還されないで外国に累 積された利益は 1 兆 4000 億ドルにもおよぶ 117)。このままでは、合衆国連邦財 務省は当該累積利益に対応する残余税および当該残余税に係る資金運用利益を 失い続けることになる。何らかの抜本的な国際課税改革が急がれていることは 間違いない。 1)中 立 性 の 原 則 は、R. Musgrave に よ り 提唱 さ れ、 資 本 輸 出 中 立 性(capital export neutrality: CEN) 、 資本輸入中立性(capital import neutrality: CIN)及び国家中立性(nation neutrality: NN) か ら な る。See, Richard A. Musgrave, Criteria For Foreign Tax Credit in Taxation and Operations Abroad, Symposium conducted by the Tax Institute, at 84-86(1959) 。 後に、P. Musgrave が、CEN を合衆国の国際課税の指導理念として位置付けることを提 案 し た。See, Peggy. Musgrave, Taxation of Foreign Investment Income: An Economic Analysis, Johns Hopkins Press, at 5-36( 1963 ) ; Peggy. Musgrave,Unites States Taxation of Foreign Investment Income: Issue and Agreement, Harvard law School International Tax Program, at 108-121 and 140-151(1969) 2)金子宏『租税法(第 16 版) 』437-438 頁(2011 年) 。なお、そこで生じる二重課税は、外 国税額控除法(外国政府に納付した法人税の税額を自国の法人税の税額から控除する。 ) により排除される。 3)国外所得免税法若しくは属地主義課税法を表わす territorial と本稿における特定の所得 である外国で稼得される能動的事業所得を免税にする exemption との区別については、 Lawrence Lokken の 区別 に し た がった。See, Lawrence Lokken, Territorial Taxation: Why Some U.S. Multinationals may be less than enthusiastic about the Idea( and some Ideas they really dislike) , 59 SMU L.aw Review 751(2006) , at 4[hereinafter cites as Lokken 2006] . 4)第二次世界大戦以降急激に発展したグローバル市場における多国籍企業の事業形態につ いては、Richard E. Caves, Multinational enterprise and economic analysis, at 3-24(1982) 。 なお、 その翻訳として、R.E. ケイビス、 岡本康雄他訳『他国籍企業と経済分析』 (1992 年)がある。 5)両方の支持者の間で合意に至っていない論点とは、 (1) 競争力の定義とその評価方法、 (2) 47.
(28) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). 外国直接投資(foreign direct investment、 以下 FDI という)は、 国内投資に代替するのか、 それとも国内投資を補足するのか、 (3)exemption 制度への移行は投資地選択の歪みを従 来以上の助長させるのか、 (4)国際課税制度の国際的調和の必要性はあるのか、の四点 である。これらの論点については、北川博英「米国経済再生大統領諮問会議による国際 課税改革報告書を読む」横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号 59 頁、78 - 81 頁(2011 年 9 月) で報告した。 6)OECD 加盟国 34 ケ国のうち、territorial 制度又は本稿に言う exemption 制度を採用する 加盟国は 26 カ国(2009 年に exemption 制度に移行した我が国及び英国を含む。 )であり、 worldwide 制度を採用している加盟国は 8 カ国(合衆国以外では、チリ、ギリシア、アイ ルランド、イスラエル、韓国、メキシコ及びポーランド)となっている。See, infra note 18, JCT 2011A, at 72. 7)Barbara Angus, Tom Neubig, Eric Solomon and Mark Weinberger, The U.S. International Tax System At a Crossroads, Tax Notes 53 , April 5, 2010, at 53-59(2010). 本 項 の 共 同 著 者 はすべて合衆国連邦財務省租税政策部門(Office of Tax Policy)出身者である。See also, Barbara Angus, The U.S. International Tax System At a Crossroads, 58 Tax Notes International 251(Apr. 19,2010). 8)GATT/WTO との 30 年論争の経過については、北川博英、前掲 5)61 頁にて報告した。 9)Michael Graetz は、Michael Graetz and Paul W. Oosterhuis, Structuring an Exemption System For Foreign Income of U.S. Corporations, 54 National Tax Journal 771, at 772(2001) [hereinafter cited as Graetz / Oosterhuis 2001]において、 つぎのように述べている。 「1918 年に外国税額控除制度が立法されてから、合衆国は worldwide 制度から exemption 制度 に移行することを真剣に検討したことは無かった。しかし、2000 年に合衆国連邦議会は、 FSC に対する租税特別措置を WTO が承認しないことを阻止することが不成功となった ことがはっきりしたときに、外国事業所得に対する合衆国租税の免除を、 (租税特別措置 ではなく:筆者注)通常の制度として性格づけた。 (WTO 加盟国間の、筆者注)外国通 商条約の下での(輸出補助金:筆者注)の問題によって、合衆国は、外国税額控除を伴 う worldwide 制度から exemption 制度への移行の検討を余儀なくされた。 」 10) 時系列的に述べると、1992 年の連邦財務省による「個人・法人課税統合に関する合衆国 連邦財務省案」 (U.S. Treasury, A Recommendation for Integration of the Individual and Corporate Tax System(1992)では、国内課税の制度的問題点を解決するための文脈における提案で はあったが、配当免税方式を推奨した(186-197 頁) 。配当免税方式を初めて国際課税の分 野で実際に採用したのは ,American Jobs Creation Act of 2004(2004 AJCA)であり、時 限立法により、一定の条件を満たす外国子会社(CFC)からの配当の 85%を免税にした (歳入法 965 条) 。2004 年 2 月 26 日付けで、 合衆国連邦議会上下両院合同租税委員会(Joint 48.
(29) アメリカ合衆国の多国籍企業による国外への所得移転に係る事例研究と国際課税改革の方向. Committee on Taxation)主席 ス タッフ で あ る G. Yin よ り 合衆国上院財政委員会議長 (Chairman of U.S. Committee on Finance)宛 て の 書簡 を 付 し た、JCT, Options to Improve Tax Compliance and Reform Tax Expenditures(2005) [hereinafter cited as JCT 2005]に て、 JCT スタッフによる租税ギャップ(tax gap)を縮小する提案をしたが、国際課税分野で 提案されたのは、 (a)法人居住地決定準則の改定(178-181 頁) 、 (b)租税回避を減少させ るための実体(entity)分類準則の変更(182-185 頁) 、 (c)外国事業所得に係る配当免税 (dividend exemption)制度の採用(186-197 頁)であるが、合衆国連邦議会の場で国際課 税の文脈で初めて worldwide 制度から exemption 制度への移行が提案されたと考えられ る。2005 年 の 合衆国連邦議会上下両院合同経済委員会(U.S. Joint Economic Committee) への報告書では、特に合衆国多国籍企業が territorial 制度を採用している外国の多国籍企 業との競争において租税競争力の面で劣後しているという文脈で、提案された選択肢は、 (1)territorial 制度への移行(10-11 頁) 、 (2)消費ベース課税及び支出税(expensing)へ の移行(11-12 頁) 、 (3)個人・法人所得課税の統合による一回だけの課税制度(12-14 頁) であった、U.S. Joint Economic Committee, Reforming the U.S. Corporate Tax System to Increase Tax Competitiveness(2005) 。ブッシュ Jr. 大統領は 2005 年に超党派(bipartisan)による大 統領諮問パネル(President Advisory Panel)を設置し、 「簡素・公正・成長」を満足させ る提案を求めた。2005 年 11 月に大統領パネル報告書が提出された、Simple, Fair and ProGrowth: Proposals to Fix American’s Tax System(2005) [hereinafter cited as Advisory Panel 2005]。そこでは、簡易所得税案(Simplified Income Tax Plan、以下 SIT プランという。 ) 及び成長投資税案(Growth and Investment Plan、以下 GIT プランという。 )という二つ の提案が併記された極めて広範な提案であり、国際課税の文脈では SIT プランにおいて、 合衆国法人の被支配外国会社(controlled foreign corporation、以下 CFC という)が稼得 する能動的所得からの配当及び外国支店の利益について、exemption 制度への移行が提案 された(102-105 頁) 。本大統領諮問パネル報告書については我が国でも注目されたが、先 行研究として、本庄資『アメリカの租税政策』189 頁(税務経理協会、2007 年)松田直樹 「米国の租税制度改革の選択肢と方向性―大統領諮問委員会報告書の国際課税制度改革案 の位置づけ―」190 頁(租税研究 704 号、2008 年) 、浅妻章如「国外所得免税(又は仕向 地課税)移行論についてのアメリカの議論の紹介と考察」フィナンシャル・レビュー通 巻 84 号 152 頁(2006) 、 浅妻章如、 「海外子会社(からの配当)についての課税・非課税と、 実現主義・時価主義の問題」フィナンシャル・レビュー通巻 94 号 ,97 頁(2009 年)がある。 2007 年 7 月 26 日に、当時のポールソン財務長官の指示により、合衆国連邦財務省の主催 による各関係の識者の出席を求めた会議が開かれた。当該会議の結果が連邦財務省によ る報告書 , Office of Tax Policy, US Treasury, Approach to Improve the Competitiveness of the U.S. Business Tax System for the 21st Century(2007)が提出された。そこでは、国内課税について は、事業活動税(business activity tax、以下 BAT という。 )という消費ベースによる課 49.
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