博士(獣医学)ムレンガ・アルノヾート
学位論文題名
A STUDY TOWARDS DEVELOPh/IENT OFATICK VACCINE
(ダニワクチン開発に関する研究)
学位論文内容の要旨
動物寄生性の各種病原体のべクターとなるマダニを免疫学的な方法で防除し ようとする試み、すなわち抗ダニワクチン開発は、薬剤使用に代わるべクター コント口ール法として有望であると、されている。本研究はダニの侵襲に対する ワクチン開発を目的としてフタトゲチマダ二(llaemaphysalis longicornis) ・ ウサギモデルを使用し、候補となる分子の探索と精製、遺伝子解析を行った。
ダニの吸血時に宿主体内に分泌される分子に関する報告は今までほとんどな されていなかった。そこで、本研究においてはフタトゲチマダニの分泌性分子 を
2種類 同 定 し、 そ の性 状 を明 ら かに し た。 ま ず、 分 子量84 kDa の分 子
(p84)を精製しアミノ酸配列の一部を解析した結果、本分子はトリプシン様分 子であり、ダ二吸血で感作したウサギに即時型過敏反応を誘導する活性を持つ ことが明らかとなった。一方、ダ二感作ウサギの血清抗体に強く認識される分 子量
29kDaの分子
(p29)はセヌント物質の形成に関与する細胞外マ卜リックス 様分子であることが遺伝子ク口ーニングの結果明らかにされた。セメント物質 はダ二唾液腺から分泌される複数の蛋白質から成り、ダニの吸血部位への固着 に重要な役割を果たすことが知られている。大腸菌で発現させた組換え
p29を 用いてウサギを免疫しダニを吸血させたところ、飽血時の成ダ二重量の減少や 幼ダニおよび若ダニの死亡(死亡率はそれぞれ40 %および56 %)が観察され、
ダ ニ に 対 す る ワ ク チ ン 効 果 が あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。
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ワクチン開発の観点から考えると、ダニに存在する分子は、ダ二吸血時に宿
主体内に分泌される暴露型と分泌されない非暴露型に分類される。非暴露型抗
原による免疫は一般に暴露型抗原よりもワクチン効果が強く発揮されると考え
られている。すなわち、ダニと宿主間で進化してきた宿主寄生体関係から、生
体反応と暴露型抗原との間では免疫学的バランスが成立しており、暴露型抗原
による防御免疫誘導能は十分でないと考えられてきた。しかし、今回組換えp29
を用いた免疫実験から、暴露型抗原である
p29によって強い抗ダ二免疫が誘導
されることが明らかにできた。本研究で得られた成績および他の研究にて示さ
れている成績から、
1種類の抗原を用いたワクチンによるダ二排除は完全ではな
いと考えられる。これに加え、未成熟および成熟ダニは宿主免疫反応に対して
それぞれ異なる感受性を示すことから、数種の抗原をカクテルとして用いたワ
クチンがより有効であると考えられたため、さらに標的分子の探索を進めた。
ダニワクチンの標的抗原として蛋白質分解酵素の有用性が多くの研究者によっ て指摘されてきたにも関わらず、その解析はあまり行われてこなかった。本研 究において、分子生物学的手法を用いてH. 10ngjcorms のセリンプ□テアーゼお よびシステインプ□テアーゼ遺伝子をク口ーニングしその構造解析を行った。
すなわち、各蛋白質分解酵素の活性中心部に保存されているアミノ酸配列を基 にプライマーを設計し、polymerase chain reaction (PCR) により遺伝子の一 部を増幅、クローニングした。さらに得られたPCR 産物の塩基配列を決定後、
各遺伝子に特異的なプライマーを設計し5 および3 rapid amplification of
cDNA ends(RACE)法を 用い て全 長cDNA をク ロー ニング し、 遺伝 子全 長の 塩基配列を決定した。ク口ーニングした2 種のセリンプ口テアーゼ遺伝子(
HLSG‑1
および‑2) は、それぞれ分子量37.7 および
31.2kDaのポリベプチド鎖 をコードしていた。また、2 種のシステインプ口テアーゼ遺伝子(HLCG‑I お よび‑2) はそれぞれ
33.7および37.OkDa のポりペプチド鎖をコードしていた。
HLSG‑1
および.2 を大腸菌で発現させ、家兎免疫血清を作製し、免疫ブ口ット 法によルダニ乳剤と反応させたところ、予想される分子量の位置にバンドが検 出された。このことから、ク口ーニングした遺伝子産物がダニで発現されてい ることが確認された。また、前者は唾液腺、後者は中腸で発現されていること が示唆された。しかし、HLS G‑l あるいは・2 免疫によるワクチン効果は認めら れなかった。
本研究はダニに対するワクチン開発に重要かつ基礎的な情報を提供するもの
である。ウサギにおける組換え
p29を用いたワクチン試験により、唾液腺抗原
による免疫がダ二排除に有効であることが示された。今後そのワクチン効果を
増強するため、免疫方法や他の抗原分子の添加など検討する必要があろう。ま
た、蛋白質分解酵素クローニングに関する研究は、ダニワクチンとして効果が
期待できる抗原を分子生物学的アプ口ーチにより得ることが可能であることを
示している。今後、得られた蛋白質分解酵素がダニ体内のどの部位で発現して
おり、いかなる生物学的活性を担っているのか明らかにする必要がある。
学位論文審査の要旨 主査 教授 小沼 操 副査 教授 神谷正男 副査 教授 高島郁夫 副査 助教授 杉本千尋
学 位 論 文 題 名
A STUDY TOWARDS DEVELOPIN/IENT OFATICK VACCINE
( ダ ニ ワ クチ ン 開発 に関 する 研究 )
動物 寄生 性の 各種 病原 体のベクターとなるマダニを免 疫学的な方法で防除しよう と する 試み 、す なわ ち抗 ダニワクチン開発は、薬剤に代 わるベクターコント口ール 法として有望視されている。本研究はフ夕卜ゲチマダ二(llaemaphysalis longicornis)
― ウサ ギの 系を 使用 し、 候補 とな る蛋 白質 の探 索と 精製 、 遺伝 子解 析を 行っ た。
まずフタトゲチマダニの分泌性蛋白質を2種類同定し、その性状を明ら かにした。
一 っ は 分 子 量84kDaの 分 子(p84)で あ り 、 精 製 し ア ミ ノ 配 列の 一部 を解 析し た結 果 、p84はト リプ シン 様蛋 白質 であ り、 ダ二 吸血 で感 作したウサギに即 時型過敏反 応 を誘 導し た。 もう ーっ は、 ダ 二感 作ウ サギ の血 清抗 体に 強く 認識 され る分 子量 29kDaの 分 子(p29)で あ る 。p29は遺 伝子 クロ ーニ ング の結 果か ら、 セメ ン卜 物質 の 形成 に関 与す る細 胞外 マト リックス様蛋白質であることが明らかにな った。セヌ ン ト物 質は ダニ 唾液 腺か ら分 泌される複数の蛋白質から成り、ダニの吸 血部位への 固 着に 重要 な役 割を 果た すこ と が知 られ てい る。 大腸 菌で発現させた組換えp29を 用 いて ウサ ギを 免疫 しダ ニを 吸血させたところ、飽血時の成ダ二重量の 減少や幼ダ 二 及び 若ダ ニの 死亡 (死 亡率 はそれぞれ40%および56%)が観察され、 ダニに対す る ワク チン 効果 があ るこ とが 明 らか とな った 。
ダ ニワ クチ ンの 標的 抗原 としてこれまで蛋白質分解酵素 の有用性が示唆されてい る 。 そこ で次 にダ ニの セリ ンプ口テアーゼおよびシステイ ンプ口テアーゼ遺伝子を ク 口 ーニ ング し、 その 構造 解析 を行 った 。ク 口ー ニン グした2種類のセリンプロテ ア ー ゼ 遺 伝 子(HLSG‐1お よ び‑2)は 、 そ れ ぞ れ 分 子 量37.7およ び31.2kDaのポ リ ペ プチド鎖をコードしていた。 また、2種のシステインプ口 テアーゼ遺伝子(HLSG.1 お よ び‑2)は それ ぞれ33.7およ び37.OkDaのポリベプチド鎖 をコードしていた。HLSG
・1およ び‑2を大 腸菌 で発 現さ せ 、ウ サギ 免疫 血清 を作製 し、免疫ブロット法によ ル ダ ニ乳 剤と 反応 させ たと ころ、予想される分子量の位置 にバンドが検出された。
こ のことから、ク口ーニングした遺伝子がダニで発現され ていることが確認された。
し か し 、H LSG‑Iあ る い は ‐2免 疫 に よ る ワ ク チ ン 効 果 は 認 め ら れ な か っ た 。
本研究はダニに対するワクチン開発に重要かつ基礎的な情報を提供するものであ る。よって審査員一同は、Mulenga Albert氏が博士(獣医学)の学位を受けるのに 十分な資格を有するものと認めた。