博 士 ( 医 学 ) 古 沢 純
学 位 論 文 題 名
Distinct epigenetic profiling in head and neck squan10uSCellCarCinonlaStenlCe11S
.(頭頚部 扁平上皮癌幹細胞における特異的なエピジェネテイック ・プロフんイリング)
学位論文内容の要旨
【背 景と 目的 】癌 細胞 中の 小集 団で ある 癌 幹細胞は、自己 複製能と多分化能を持ち、
発癌 、再 発、 転移 、薬 剤耐 性に 寄与 して い るという癌幹細 胞説が、徐カに注目を浴び てい る。 癌幹 細胞 説で は、 現在 の化 学療 法 は分化した癌細 胞のみを標的としているた め、 化学 療法 後に 癌幹 細胞 が再 び癌 を形 成 し、再発や薬剤 耐性が生じているとしてい る。 癌幹 細胞 は、 乳癌 、前 立腺 癌な どで 同 定されており、 頭頸部扁平上皮癌でも2007 年 に
Prince
ら に より 、頭 頸部 癌組 織よ り分 離さ れたCD44
陽 性細 胞の み腫 瘍形 成能 を 認め たと 報告 した 。一 方、 癌細 胞で のエ ピ ジェ ネテ ィッ クな 変化 とし て、CpGアイラ ンド の過 剰メ チル 化に よる 癌抑 制遺 伝子 不 活化 や、CpG
アイ ラン ドの 脱 メチル化によ る 癌 遺 伝 子 活 性 化 が 報 告 さ れ て い る 。 ま た 、正 常ヒ トES細胞 にお いて 、DNAメチ ル 化は 分化 への 誘導 に不 可欠 であ る。 そこ で 我々は、癌幹細 胞に特異的に活性化、また は不 活性 化さ れて いる 遺伝 子を 網羅 的に 検 索し、癌治療の 標的とすることが可能であ れ ば 、 頭 頸 部 癌 治 療 に お け るbreak‑through
に な り う る と 考 え た 。【材 料と 方法 】5種 類の 頭頸 部扁 平上 皮癌 細胞 株(HEp‑2、MDA1986、SA‑20B、rp409、
TU‑167)
を 用 い た 。 そ れ ぞ れ の 細 胞 株 は 、 癌幹 細胞 のマ ー カー であ るCD44抗 体で 処 理 後 、 フ ロ ー サ イ ト メ ト リ ー を 用 い て 細 胞 表 面 のCD44
発 現 に よ りCD44hi (CD44
高 発 現 細 胞 群 ) とCD4410w (CD44
低 発 現 細 胞 群 ) に 選 別 し た 。 選 別 後 は 速や かにRNA
とDNA
抽 出 、 ま た は 血vitro
ア ッ セ イ を 行 っ た 。 各 細 胞 群 か らRNA
抽 出 後 、cDNA
を 合 成 し 、 リ ア ル タ イ ムPCR
を 行 っ た 。 リ ア ル タ イ ムPCR
で は 、CD44
、BMIl (BMIl p01yCO
ユ且brin冨丘ngeronC0gene)、TERT(telomera8ereVer8etranSCriptaSe)、ABCG2 鰌LTP‐bin出ngCaS8etteSub゛fanlilyG】且em.b・er2)、Gh83(tran8Criptionf・aCtorGLI
・simdar3)の 遺伝 子発 現を 調べ た。 薬 剤耐 性試 験で は、 各細 胞群 を3種類の抗癌 剤( ドセ タキ セル 、シ スプ ラチ ン、5
.FU)で 処理し、3日 問培養した。処理後はそれ ぞ れ の 生 存 能 の 計測 を行 った 。各 細胞 群か らDNA抽出 後、14
,956
の 遺伝 子を カバ ー し て い る28
,544
のCpG
サ イ ト を 標 的 にDNA
メ チ ル 化 の 網 羅 的 解 析 を 行 っ た 。 そ の 方法 は、 メチ ル化 部位 、ま たは 非メ チル 化 部位 と結 合す る2種類 のプ ロ ーブを用いて ハイ ブリ ダイ ゼー ショ ンを 行い 、そ れぞ れ のプローブから の螢光を同定し、各細胞群 のDNA
メ チ ル 化 の 値 を 計 測 し た 。 最 後 に 、 こ のDNA
メ チ ル 化 解 析 の 結 果 を検 証す る た め 、 制 限 酵 素 断片 長多 型法 (RELP法 )を 用い て、 プロ モ ータ ーの 過剰 メチ ル化 を 解 析 し た 。 薬 剤 耐性 試験 では2
要因 の分 散分 析(tw0
‐factorANOVり 、遺 伝子 発現 の 比較 には スチ ュー デン トのt
検定 を用 いた 。メ チル 化解 析で は、 工uum血aBeadStudiosoftWare
を 用 い た 。 以 上 に よ り 選 択 さ れ た 遺伝 子に より 、5種 類の 細胞 株がCD44bi
の 細 胞 群 とCD4410W
の 細 胞 群 に 正 し く 分 類 さ れ る か を ク ラ ス タ ー 解 析 とheatmap generation
で確認した。【 結 果 】 フ ロ ー サイ トメ トリ ーで
CD44
の発 現を 評価 し、CD44
を 高発 現す る上 位10% ー80 ‑の細胞群を癌幹細胞(
CD44hi)
、CD44
を低発現する下位10
%の細胞群を非癌幹細胞(CD44law)
として5種類の細胞株から分離した。各細胞群に対して、リアルタイムPCR
で 幹 細 胞 マ ー カ ー で あ る4
個 の 遺 伝 子(CD44
、BMI‑1
、TERT
、ABCG2)
に つ いて発現解析を行った。TU‑167
を除いた4種の細胞株で、CD4410wと比較してCD44hi が、有意に幹細胞マーカー遺伝子の発現亢進を認めた。CD44hiとCD4410wの薬剤耐性 試験を行った結果、すべての細胞株において、CD44hiはCD4410wより有意に薬剤耐性 を 認めた。DNA
メチル化 の網羅的 解析の結果、CD4410wと比較してCD44hiに17
個の 脱 メチル化遺伝子と9
個の過剰メチル化遺伝子を同定した。17個のCD44hiで脱メチ ル化された遺伝子の発現は、SQ‑20Bを除いて(p:
ニニ0.3)、CD44lowとの間に有意差(p く.05)
を認めた。9
個のCD4;4kで過剰メチル化された遺伝子の発現は、TU‑167を除 いて(舮O.7
)、CD4410wとの間に有意差を認めた。17個のCD44hiで脱メチル化され た遺伝子と9個のCD44hi
で過剰メチル化された遺伝子にっいて、クラスター解析を行 った結果、全ての細胞株のCD44hi
とCD4410w
は、異なる群を形成した。5種類の細胞 株 のCD44hiとCD4410w
にっ いて、リ アルタイ ムPCR
を用い てGlis3の発現レベルを 解析した。Glis3は、細胞の分化に関与しており、癌幹細胞では分化を抑制し幹細胞と しての特徴を維持するために、この遺伝子の発現が抑制されていると考えられている。そ の結果、TU‑167を除くすべての細胞株で、CD4410wと比較してCD44hiにおいて、
Glis3
の発現が有意に抑制されていた。また、減少したGlis3
の発現は、Glis3
の過剰 メチル化と相関していた。また、RELP法を用いてプロモーターの過剰メチル化の確 認 を 行 った と ころ 、CD4410w
と比 較 してCD44hi
にCPO (carboxypeptidase O)
とHCCS (holocytochromec synthase)
の過剰メチル化を認めた。これらの結果は、DNA メチル化の網羅的解析の結果と一致した。【 考察】本研究では
DNA
メチル化の網羅的解析を行い、頭頚部扁平上皮癌細胞株のCD4410w
と比較して、CD44hiで有意に脱メチル化された17個の遺伝子と過剰メチル 化された9個の遺伝子を同定した。さらにこの結果を検証するため、リアルタイムPCR
を 用 い てGlis3の発 現 レベ ル を 解析 し 、RELP
法 を 用 いてCPO
とHCCS
の プ ロモー ターの過剰メチル化を解析した。その結果、DNAメチル化の網羅的解析と同様の結果 を得た。頭頸部扁平上皮癌幹細胞におけるこれら26個の遺伝子の正確な役割は未だ明 らかではないが、Glis3といった、既に幹細胞との関連が報告されている遺伝子も含ま れていた。これらの遺伝子を同定することは、頭頚部扁平上皮癌幹細胞を根絶するた めの分子標的になる可能性がある。本研究は、癌幹細胞のエピジェネティックな制御 に対する理解を深め、頭頸部扁平上皮癌幹細胞を標的とした革新的な治療の発展に、貴重な情報を寄与すると考えた。
【 結論】頭頸部扁平上皮癌幹細胞において、17個の脱メチル化遺伝子と
9
個の過剰 メチル化遺伝子からなる独特なエピジェネティック・プロファイルを認めた。これらの 遺伝子は、癌幹細胞の幹細胞としての性質や多能性を維持するのに極めて重要と考え られ、頭頸部癌幹細胞を根絶することを目的とした癌治療の新たな分子標的治療の標 的になる可能性がある。―81 ‑
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
学 位 論 文 題 名
Distinct epigenetic profiling in head and neck squamous cell carcinoma stem cells.
(頭頚部扁平上皮癌幹細胞における特異的なエピジェネテイック・プロフんイリング)
頭 頸 部 癌 治療 に お け る 課題 と し て 、 切 除不 可 能 な 原 発巣 と 頸部 リンバ 節転移 巣、化 学療 法 に耐 性 を 持 っ た 病変 、 遠 隔 転 移巣 に 対 す る 対処 が 挙 げ ら れる 。こ れら の課題 を解決 するた め に、 癌 幹 細 胞 説 とエ ピ ジ ェ ネ ティ ッ ク ・ チ ェン ジ に 注 目 し、 分子 生物 学的ア プロー チを用 い て研 究 を 行 っ た 。癌 幹 細 胞 説 によ れ ば 、 癌 細胞 中 の 小 集 団で ある 癌幹 細胞は 、自己 複製能 と 多分 化 能 、 腫 瘍 形成 能 を 持 ち 、発 癌 、 再 発 、転 移 、 薬 剤 耐性 に寄 与し ている とされ ている 。 一 方 、 エ ピ ジ ェ ネ テ イ ッ ク ・ チ ェ ン ジ に はDNAの メ チ ル 化が 含 ま れ 、 正常 ヒ ト 胚 性 幹細 胞 にお レ ゝ て 、DNAメ チ ル 化は 分 化 へ の 誘導 に 不 可 欠 で ある と さ れ て いる 。 そ こ で 、他 の大 多 数の 癌 細 胞 と 比 較し て 、 癌 幹 細胞 に 特 異 的 な遺 伝 子 を 網 羅的 に検 索し 、癌治 療の標 的とす る こと が 可 能 で あ れば 、 頭 頚 部 癌治 療 に お け るブ レ ー ク ・ スル ーに なり うると 考えた 。本研 究 では 、 頭 頸 部 扁 平上 皮 癌 幹 細 胞に 特 異 的 な 遺伝 子 の 同 定 を試 みた もの である 。フロ ーサイ ト メ ト リ ー を 用 い ゝ て 、CD44の 発 現 に よ り5種 類 の 頭 頸部 扁 平 上 皮 癌細 胞 株 よ り 癌 幹細 胞 群 (CD44高 発 現 細 胞 群 ) と 非 癌 幹 細 胞 群(CD44低 発 現 群 ) を 選 別 回 収 し た 。 選 別 後 は 速 や か にRNAとDNAを 抽 出 、 ま た は 面 ガ む 。 ア ッ セ イ を 行 っ た 。 各 細 胞 株 の 癌 幹 細 胞 群 と 非 癌 幹 細 胞 群 の 間 で 、 リ ア ル タ イ ムPCRを 用 い て 幹 細 胞 に 特 異 的 な 遺 伝 子 で あ るCD44、 BMI‑1 (BIVf[l polycomb ring finger oncogene)、TERT (telomerase reverse transcriptase)、 ABCG2 (ATP‑binding cassette subーfamilyGmember2) の 発 現 比較 を 行 っ た 。ま た 、 抗 癌剤 ( ド セ タ キ セル 、 シ ス プ ラチ ン 、 フ ル オ口 ウ ラ シ ル )へ の感 受性 の比較 試験を 行った 。 その 結 果 、 癌 幹 細胞群 で有意 に幹細 胞に特 異的 な遺伝 子の発 現亢進 、抗 癌剤へ の耐性 を認め 、 癌 幹 細 胞 群 の 癌 幹 細 胞 と し て の 特 徴 を 証 明 し た 。 次 に 、In血 虹umHumanMe伽yla廿0n27 BeadChipキ ッ ト を 用 し ゝ てDNAメ チ ル 化 の 網羅 的 解 析 を 行っ た 。 そ の 結果 、 非 癌 幹 細胞 群 と 比 較 し て 、 癌 幹 細 胞 群 で17個 の 脱 ヌ チ ル 化さ れ た 遺 伝 子と9個 の ヌ チル 化 さ れ た 遺伝 子 を 同 定 し た 。 こ の26個 の 遺 伝子 に つ い て 、ク ラ ス タ ー 解 析を 行 っ た 結 果、 全 て の 細 胞株 の 癌 幹 細 胞 群 と 非 癌 幹 細 胞 を 明 確 に 区 別 す る こ と が で き た 。 さ ら に 、 リ ア ル タ イ ムPCR、 RELP( 制 限 酵 素 断 片 長 多 型) 法 を 用 い てヌ チ ル 化 解 析の 結 果 を 検 証し た と こ ろ 、 結果 の 一 致 が 認 め ら れ た 。頭 頸 部 扁 平 上 皮癌 幹 細 胞 に おい て 、 こ れ ら26個 の 遺 伝子 の 正 確 な 役割 は 未だ 明 ら か で は なし ゝ が 、Glis3(transcriptionfactorGu ̄similar3) やGOSR1(Gol西SNAP receptorcomplexmember1) と い っ た 、 既 に 幹 細 胞 と の 関 連 が 報告 さ れ て い る 遺伝 子 も 含 まれ て し ゝ た 。 今後こ れらの 遺伝子 の役割 を同 定する ことは 、頭頸 部扁 平上皮 癌幹細 胞を根 絶 する た め の 重 要 な分 子 標 的 に なる 可 能 性 が ある 。 本 研 究 は、 頭頸 部肩 平上皮 癌幹細 胞のエ ピ ジェ ネ テ ィ ッ ク な制 御 に 対 す る理 解 を 深 め 、頭 頸 部 扁 平 上皮 癌幹 細胞 を標的 とした 革新的 な 治療の 発展に 貴重 な情報 を提供 すると 考えら れた 。
口 頭 発 表 後 、 副 査 ・ 櫻 木 範明 教 授 か ら 本研 究 で 同 定 し た26個 の 遺伝 子 の 癌 関 連 性、 頭 頚 部 扁 平 上 皮 癌 幹 細胞 の マ ー カ ー とし て のCD44の 妥 当 性等 に 関 し て 質問 が あ っ た 。 次い で 、
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俊 明
樹 諭
弘 範
博
田 木
土 田
秋 櫻
白 福
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
副査・自土博樹 教授からbeta‑valueの取り 扱い等に関する質問がなされた。副査・福田諭 教 授か ら癌 幹細 胞の 同定においてCD44以外の癌幹細胞マーカー の組み合わせ、組織検体 で のCD44に よる 免疫 組織染色等に 関して質問があった。最後に 、主査・秋田弘俊教授か ら特異な結果を 示した細胞株TU‑167につい て、今後の研究の展望、臨床への応用に関して 質問があった。 いずれの質問に対しても、申請者は自身の研究結果や文献的考察に基づいて 適切に回答した。
この論文は、 癌幹細胞説に基づいた頭頚部扁平上皮癌幹細胞に関連した特異的な遺伝子を 明らかにした点で高く評価され、今後の癌研究と治療への応用につながることが期待される。
審査員一同は 、これらの成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充 分な資格を有するものと判定した。
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