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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 宮 坂 知 宏

     学位 論文 題 名

Molecular analysis of mutant and wild‑type tau deposited in the brain affected by the FTDP‑17 R406W mutation .

(R406W 変異をもつ前頭側頭型痴呆患者脳に蓄積する野生型,

     変異型夕ウの分子解析)

学位論文内容の要旨

  神経原線維変化(neurofibrillarv tangle:NFT)はアルツハイマー病など多くの神経変 性疾患 において 、神経細 胞内に 形成され る不溶性の構造物である。NFTの脳内分布が神 経細胞 脱落の部 位と一致 するこ とから、NFTと神経細胞死の間に密接な関係があると考 えら れ て いる 。NFTは 、 超 徴形 態 的 には2本の より合 わさった 線維(paired helical filament:PHF)からなり 、サル コシルな どに対 し不溶性 を示す。PHFの 生化学的 解析 により、その主要な構成成分は、微小管結合蛋白のーつであるタウが異常にりン酸化され たもの であるこ とが明ら かとな っている 。これらのことから、夕ウの不溶化、PHF形成 を 伴 う 異 常 が 神 経 細 胞 死 を 引 き 起 こ す 重 要 な 経 路 で あ る と 考 え ら れ て い る 。     Frontotemporal dementia and parkinsonism linked to chromosome 17 (FTDP―17) は、常染色体優性遺伝を示す疾患であり、特徴的な病理学的変化として神経細胞の脱落と、

神経 細 胞 内、 ときに グリア細 胞内にNFT形成 が見ら れる。近 年、これ らのFTDPー17家 系でタウ遺伝子上に多くの種類のェクソン型、イント口ン型変異が発見され、夕ウと神経 細胞死の関係を解明する上で鍵を握る疾患として注目されている。エクソン型変異のほと んどは 、夕ウの 微小管結合領域およびその近傍に位置し、in vitroでの解析からその一 部は、 夕ウの微 小管重合能に影響を与えると考えられている。FTDP−17の患者ではその 変異型の違いにより様々な臨床症状、病理像を示すことが知られている。エクソン型変異 の中 で もR406W変異 は 発 症が50歳代 後 半 と遅 く 、 痴呆 の 進 行も 十 数年 かかるこ とが 知られ ており、 遅延型変 異と考 えられて いる。また、R406W変異脳では、アルツハイマ ー 病 脳 と 同 様に 、 多 数のNFTが 存 在 す る。 こ れ まで の 研 究か らR406W変異 は タ ウの 微小管 重合能に は影響は 与えず 、PHF形 成能も野生型と同等であると考えられている。

また、 培養細胞 を用いた 系では 、R406W夕 ウは野生型に比べ、リン酸化されにくいこと が報 告 さ れて いる。 しかし実 際の患 者脳にお けるR406W夕ウの 性質、 動態につ いては 不明で あり、こ の変異の細胞死への影響については明らかではない。そこでわれわれは R406W脳 より得ら れた可 溶性画分 、サルコ シル不溶性画分中の野生型、変異型夕ウの存 在比、およびそのりン酸化状態について、夕ンバク化学的、免疫化学的手法を用い解析し た。

  2例 のR406W脳 ( 症 例1:70歳 、 男 性 : 症 例2:71歳 、 女 性 ) は オ ラ ン ダ ブ レ インバンクより供与された。死後時間はともに約5時間半であった。両症例とも、生前高 度の 痴 呆 を呈 してお り、夕ウ 遺伝子 上にR406W変異が あること が確認 されてい る。は じめに 、合成ベ プチドを 抗原と して野生 型夕ウ、R406W変異夕ウを特異的に認識する抗 体を 作 製 した 。 こ れ ら抗 野 生 型、 抗406W変 異型 抗 体 を用 い 、R406W脳よ り調製し た サルコシル不溶性画分を、ウェスタンブ口ット法により解析した。その結果、サルコシル

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不溶性画分には野 生型、変異型夕ウがほぼ等量比で存在していることが明らかになった。

この結果をさらに 確認するため、夕ンパク化学的手法を用いて解析をおこなった。これま で に 、 私はR406W変異 型夕 ウと 野生 型夕 ウは 逆相 ク□ マト グラ フイ ー (RP―HPLC)で 分 離 可 能で ある こと を見 出し てい た。R406W患者 脳よ りPHF中に 含ま れる 不溶 性夕 ウ (PHF夕 ウ) を精 製し 、脱 リン 酸化 後RP―HPLCで展 開す ると 、野 生型 、変 異型 夕ウ と 思われるピークが ほぽ等量得られた。さらにこれらのピークをりシルェンドベプチダーゼ (AP1) で 消 化 しRPーHPLCで 展 開 し たと ころ 、406番目 のア ミノ 酸を 含む 野生 型、 変 異 型夕 ウ由来のべブチ ドがほば等量得られることが明らかになった。っぎに、R406W患 者脳における野生 型、変異型夕ウの局在を、免疫組織学的手法により検討した。それぞれ のタウを認識する 抗体をアフイニティー精製し、二種類の螢光色素で直接ラペルした。

R406Wの バラフィン包埋切片をこれらの抗体で二重 染色し、共焦点レーザー走査螢光顕 微 鏡下 で観察したとこ ろ、野生型、変異型夕ウは同一のNFTに共存していることが明ら か とな った 。以 上の 結果 より 、R406W脳 では 野生 型、 変異 型夕 ウはともに不溶性画分 (PHF画分)に蓄積 し、それらの比はほぼ1:1であることが明らかとなった。っづぃて、

可溶性画分のタウ について同様に検討したところ、野生型、変異型夕ウの量に明確な差は 認 め ら れ な か っ た 。 ま た 、 そ れ ぞ れのmRNAの発 現量 を、 定量 的RTーPCR法を 用い て 検討したところ、 明確な差は認められなかった。

  次い でR406W脳 にお ける タウ のり ン酸 化に つい て検 討し た。 夕ウはりン酸化される と、電気泳動上の 移動度が遅くなることが知られている。可溶性画分のタウについて、脱 リン酸化後ウェス タンブ口ットをおこなったところ、野生型夕ウは脱リン酸化による明確 なパンドのシフ卜 が認められた。これに対し、変異型夕ウはこの様なバンドのシフ卜は認 められなかった。 このことから、可溶性画分中では変異型夕ウは野生型夕ウに比べ、リン 酸 化さ れにくいことが 明らかとなった。っづいて、R406W脳不溶性画分中に蓄積する野 生 型、 変異 型夕 ウの りン 酸化 状態 について検討し た。PHFーtauを精製後、RP―HPLCを 用いて野生型と変 異型タウを分離し、数種の抗リン酸化夕ウ抗体を用いたウェスタンブ口 ッ トを おこ なっ た。 その 結果 、R406W脳 に沈 着す る変 異型 夕ウ は、野生型と同様に高 度にりン酸化され ていることが明らかとなった。

  本 研 究 に よ りR406W変 異 脳 で は 野 生 型 、 変 異 型 の タ ウ が ほ ぽ1:1の 比 でNFTに 組 み込 まれていること が明らかになった。このことから、R406W変異夕ウは野生型とほ ば同等の蓄積速度 であるか、あるいは野生型、変異型夕ウが特異的な1:1の複合体を形 成 し、 それ が単 位に なりPHFが 形成 され る可 能性 が考 えら れる 。また、可溶性画分で は りン 酸化 され にく いR406W変 異夕 ウが 、不 溶性 画分 中で は高 度にりン酸化されてい る こと は、R406W変異脳における神経細胞死の過程 に、強いりン酸化の亢進状態が関与 していることを示 唆している。

  と こ ろ で 、FTDP―17の 中 で こ のR406W変 異 と 対 比 さ れ る も の と し てP301L変 異 が 知ら れている。P301L変異は臨床上早期に発症し 、進行も速いことから、促進型変異 と いえ る。 このP301L変異 脳を もち いて 、同 様に 特異 的抗 体を 用いた解析を行ない、

P301L脳 では変異型夕ウのみが蓄積しているという 結果を得ている。このような変異に よるタウ蓄積様式 の違いを明らかにすることは、各変異の細胞死に対する影響、および FTDP− 17家 系 間 の 多 様 性 を 理 解 す る 上 で 重 要 で あ る と 思 わ れ る 。

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学位論文審査の要旨

主 査   教 授   田 代 邦 雄 副 査   教 授   長 嶋 和 郎 副 査   教 授   石 橋 輝 雄

     学 位 論 文 題 名

IVIolecular analysis of mutant and wild‑type tau deposited in the brain a 抂 eCtedbytheFTDP ・ 17R406Wmutation .      ( R406W 変 異 をも つ 前頭 側 頭型 痴 呆 患者 脳 に蓄 積 する 野 生型 ,      変 異 型 夕 ウ の 分 子 解 析 )

  Frontotemporal dementia and parkinsonism linked to chromosome 17 (FTDP − 17) は、常染色体優性遺伝形質を示す神経変性疾患であり、その脳に はneurofibrillary tangle (NFT) な どのタウ封入体が認められる。FTDP ― 17 の中から 、夕ウ遺伝 子上に多く の種類のエクソン型、イント口ン型変異 が発見されており、夕ウの機能異常と封入体形成、および神経細胞死の関係 を解明する上で鍵を握る疾患と・して注目されている。中でもP301L 、R406W 変 異 は 臨 床 上 特 徴 的 な 表 現 型 を有 す るも の とさ れ てい る 。 本研 究 では FTDP ←17 変異夕ウの不容化、蓄積への関与について解明する目的で、R406W 、 P301L 変異 脳より得られた可溶性画分、サルコシル不溶性画分中の野生型、

変異型夕ウの存在、およびそのりン酸化状態について、夕ンパク化学的、免 疫化学的手法を用い解析した。

   はじめに合成ベプチドを抗原として野生型夕ウ、変異型夕ウを特異的に認 識する抗体を作製した。これらの抗体を用い、ウエスタンブ口ット法により 解析した 結果、R406W 脳より調製したサルコシル不溶性画分には野生型、変 異型夕ウがほぼ等量で存在していた。さらに共焦点レーザー走査顕微鏡を用 いた螢光 二重染色法による解析の結果、野生型、変異型夕ウは同一のNFT に 共存して いた。以上より、R406W 脳では野生型、変異型夕ウはともに不溶性 画分 (PHF 画 分) に 蓄積 し 、そ れ らの比はほ ぼ1 :1 である という結諭 を得 た。次い でR406W 脳に おけるタウ のりン酸化 について解 析したとこ ろ、可 溶性画分のタウでは変異型夕ウは野生型夕ウに比べ、リン酸化されにくいこ とを明ら かとした。さらに、R406W 脳に沈着する変異型夕ウのりン酸化につ いて検討したところ、野生型と同様、高度にりン酸化されていることを明ら かとした。

   また、P301L 変異脳についても同様に、特異的抗体を用いた検討を行った。

その結果 、P301L 脳より得られたサルコシル不溶性画分では、変異型夕ウの みが蓄積していた。また、免疫組織化学的解析の結果、変異夕ウのみがタウ 封入体に 存在していた。さらに、P301L 脳の可溶性画分について検討したと ころ、変異夕ウが選択的に減少していた。これに対し、野生型、変異型夕ウ

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のmRNA 発現量に差は認められなかった。

   以上の結果より、R406W 変異夕ウは野生型とほぽ同等の蓄積速度であるか、

あ るいは野生型、変異型夕ウが特異的な1 :1 の複合体を形成し、それが単 位 にな りPHF が 形成さ れる 可能 性が考えられた。また、可溶性画分ではり ン 酸化 されに くい R406W 変 異夕 ウが、不溶性画分中では高度にりン酸化さ れているという結果から、R406W 変異脳における神経細胞死の過程に、強い り ン酸 化の亢 進状 態が 関与し てい ることが示唆された。さらにP301L 脳で は、変異型夕ウは野生型に比べ、積極的に蓄積することが示唆された。また、

可 溶性 画分に おけ るP301L 変異 夕ウの減少は何らかの原因による選択的分 解であると考えられた。これらの結果をもとに、夕ウの変異型による蓄積過 程の違い、および臨床症状との関係について論じた。

   公開 発表に 際し 、副 査の石 橋教 授からR406W 変異夕ウのりン酸化低下の 意 義について、可溶性、および不溶性夕ウの量変動の相関について、他の FTDP 一17 変異脳におけるタウ蓄積様式をもとにした分類について、逆相クロ マトグラフイーによるタウの分離法について、FTDP ―17 変異脳における野生 型のみの蓄積の可能性について質問があった。副査の長嶋教授からはR406W 変異脳における野生型夕ウの蓄積機序について、各変異夕ウin vit ro での 繊維形成能について、夕ウのノックアウ卜マウス、FTDP ―17 変異夕ウのトラ ンスジ工二ックマウスについてのこれまでの知見について質問があった。主 査の田代教授からは日本での家系の報告例、および今後の新規家系の同定の 可 能性について、R406W 、 P301L 変異の臨床像の違いを規定する原因につい ての質問があった。これらの質問に対し、申請者は自身のこれまでの研究成 果や文献情報をもとに概ね妥当な回答を行った。

   この論文は、FTDP ―17 患者脳における野生型、変異型夕ウの存在比を求め る こと により 、2 つの 変異 型 (R406W 、P301L) におけるタウ蓄積様式の違い を明確にしたことで高く評価され、今後、これらの解析を発展させ、アルツ ハイマー病をはじめとする、多くのタウオバチーの解明につながる知見を得 ることが期待される。

   審査員一同は、これらの成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位

を受けるのに十分な資格を有するものと判定した。

参照

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