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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 上 村    明      学位論 文題名

Intracellular Distribution of rvIacrophage IVIigration     Inhibitory Factor Predicts the PrognoslS     OfPatientSWithAdenOCarCinomaoftheLung .      ( マ ク ロ フ ァ ー ジ 遊 走 阻 止 因 子 の 細 胞 内 分 布 が      肺腺癌 患者の予後を規定す る)

学位論文内容の要旨

    I研究目的

  マクロファージ遊走阻止因子(macrophage migration inhibitory factor; MIF)は発見当初活性 化Tリ ン パ 球 の み か ら 産 生 さ れ る サ イ ト カ イ ン で 、マ ク ロ ファ ー ジ の機 能 を 調 節す る 液 性 因 子 と 考 え ら れ て き た 。 し か し 、MIFの 遺 伝 子や 蛋 白 質の 構 造 が解 析 さ れ たこ と や 、 本 因 子 がマ ク ロ ファ ー ジ や肺 胞 上 皮細 胞 な ど でも 発 現するこ とが明 らかにな るに伴い 、新 た な 機 能が 次 々 と報 告 さ れて き た 。炎 症 や 免 疫に 関 し ては 、lVflFはエ ン ド 卜キ シンシ ョ ッ ク を 増悪 さ せ 、ま た グ ルコ コ ル チコ イ ド の 機能 を 制御する ことに より炎症 や免疫反 応を 助 長 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 一 方 、MIFは 増 殖の 盛 ん な皮 膚 上 皮基 底 細 胞 層や 腫 瘍 組 織 ( 前 立腺 癌 、 乳癌 、 大 腸癌 な ど )で 強 く 発 現し 、 細胞分化 ・増殖 にも関与 すること が示 唆されてきた。

  現 在 、MIFの 腫 瘍 細 胞 へ の 作 用 に つ い て は 相 反 す る 報 告 が な さ れ て い る 。 即 ち 、MIF は マ ク ロ フ ァ ー ジ か ら 産生 さ れ るTNF‑& やIL‑1ロ の細 胞 障 害作 用 を 促 進し 、 腫 瘍の 増 殖 を 抑 制 す る が 、 ― 方 で 腫 瘍 細 胞 か ら 産 生 さ れ るMIFは 腫 瘍血 管 の 新生 を 促 し 、腫 瘍 の 浸 潤 や 転 移 を 促 進 す る こ と も 知 ら れ て い る 。 こ の よ うにMIFの 腫 瘍 組織 に お け る作 用 の 詳 細 に つ い て は 不 明 な 点 が 多 い 。 本 研 究 で は 肺 腺 癌 組 織 に お け るMIFの 蛋 白 質 とmRNAの 発現を解析し、予後との関係について検討した。

    ‖対象と方法

  組 織 中 で のlVflF蛋 白 質 の 発 現 は 免 疫 組 織 化 学 染 色法 に て 検討 し た 。 対象 は1975年 か ら1995年 の 間 に 北 海 道 大 学 医 学 部 附 属 病 院 で 切 除 さ れ た 肺 腺 癌74例 ( 男 性33例、 女 性 41例 、 平 均 年 齢61歳 ) か ら 得 ら れ た 腫 瘍 切 片 を 使 用 し た 。 術 後 病 理 学 的TNM分 類 で は stage134例 、stage 118例、stage IIIa 32例で あった。 正常組 織として 、同時 に切除さ れた 非 癌 組 織を 用 い た。 ホ ル マリ ン 固 定、 バ ラ フ アン 包 埋切片を 用いて 、―次抗 体として 抗ヒ トMIFポ リ ク ロ ー ナ ル 抗 体 を 使 用 し 、DAKO CSA Systemで 免 疫 細 織 化 学 染 色 を行 っ た 。 染色陽性細胞の割合を測定し、200h未満をnegative staining(−)、20u/o以上50u/o未満をweakly positive stalrung(士)、500h以上をstrongly positive staining(十冫とした。MIFの発現程度と臨 床 病 理 学 的 特 性 と の 関 係 を カ イ 二 乗 検 定 で 解 析 し た。 ま たMIFの 免疫 染 色 性 の強 弱 を 指

(2)

標に 、Kaplan−Meier法 で予 後曲 線を 描き 、Wilcoxon testに て検 定を行った 。lVflFのmRNA の発現はin situ hybridizationで検討した。4U/oバラホルムアルデヒド処理、パラフィン包埋 し た 切 除 後 の 肺 腺 癌 組 織 を 用 い 、 プ ロ ― ブ と し て ジ ゴ キ シ ゲ ニ ン 標 識RNAを 使 用 し た 。     III結果

  免 疫 組 織 化 学 染 色 法 に よ り 、 正 常 肺 組 織 で は 気 管 上 皮 、 肺胞 上皮 、肺 動脈 の血 管平 滑 筋 でMIF蛋 白 質 の 発 現 が 認 め ら れ た 。 肺 腺 癌 組 織 で は 正 常 肺 の 肺 胞 上 皮 よ り も 腫 瘍 細 胞 にお いてMIF蛋 白質 が強 く発 現し てい た。 伽situ hybridizationに ついて、正常肺組織では 肺 胞 上 皮 細 胞 や 血 管 内 皮 細 胞 、 肺 胞 内 マ ク ロ フ ァ ― ジ でMIF mRNAの 発 現 を 認 め た 。 肺 腺 癌 組 織 で は 正 常 肺 の 肺 胞 上 皮 細 胞 に 比 ぺ て 、 腫 瘍 細 胞 で び ま ん 性 に 強 くM[F mRNAの 発 現 を 認 め 、 腫 瘍 細 胞 自 身 が MIFを 産 生 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。   次 に 、MIF蛋 白 質 の 細 胞 質 と 核 に お け る 細 胞 内 分 布 の 発 現 を 免 疫 組 織 化 学 染 色 に よ り 検 討 し た 。 正 常 肺 組 織 の 気 管 上 皮 細 胞 で は 、MIF蛋 白 は 細 胞 質 と 核 で 認 め ら れ 、 そ の 発 現は 細胞 質で はstrongly posltlve、 核で はw制dyp彌1tlveであった。また、肺腺癌組織の大 部分 にお いてMIF蛋 白質 は細 胞質 でび まん 性に強く発現していた。―方、59例 (79.7%)の 肺腺癌において腫瘍細胞の核でMIF蛋白質の発現を認めた。43例(58.1ワ0)はs鰤glyp髄1tlve、 16例(21.6%)はwe刹ッp彌itiveであったが、15例(20.2ワ。)では核での発現を認めなかった。

  核 で のMIF蛋 白 質 の 発 現 をnegative群 とwe樹yま た はsu・onglypositive群 の2群 に 分 け、臨床病理学的特性との関係を検討した が、年齢においてのみ有意差を認めた(間.02)。

同 様 の2群 に お い てKaplan―Meier法 で 生 存 曲 線 を 描 出 し た とこ ろ、 核で の発 現が 認め ら れな かっ た患 者群 の5年 生存 率は32ワ 。、 発現 が認 めら れ た群 では47ワDと、 発現カ煽jめら れなかった患者群が有意に生存期間の短縮を認めた(Pニ0.04)。

    IV考察

  前 立 腺 癌 や 乳 癌 、 結 腸 癌 な ど の 腫 瘍 組 織 でMIFが 強 く 発 現 し て い る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 本 研 究 で は 、 免 疫 組 織 化 学染 色法 およ び加5ぬhyb轟dizぬOn法 によ り、 肺腺 癌に お い て 他 の 腫 瘍 組 織 と 同 様 にMIFの 蛋 白 質 やmRNAの 発 現 が 増 強 し て い る こ と を 明 ら か に し た 。 興 味 深 い こ と に 、 肺 腺 癌 組 織 に お け るMIF蛋 白 質 は 細 胞 質 だ け で な く 、 核 に も そ の発 現を 認め た。 さら に核 に 発現 を認 めな い腫 瘍を もつ 患者 群(2Q2%)は核で発現してい る 患 者 群 に 比 し て 、 有 意 に 予 後 が 短 縮 し て い た 。 従 っ てMIFの 細 胞 内 分 布 が 肺 腺 癌 患 者 の予後決定に重要であることが考えられる。

  本 研 究 は 、MIFの 細 胞 内 局 在 に 着 目 し 、 細 胞 内 局 在 の 差 異 と 肺 腺 癌 患 者 の 予 後 と の 関 係 を 検 討 し た 初 め て の 報 告 で あ る 。 こ れ ま でMIFの 腫 瘍 に お け る 機 能 と 役 割 に つ い て は 明 確 な 結 諭 が 得 ら れ て い な い 。MIFは マ ク ロ フ ァ ー ジ 由 来 の 様 々 な サ イ ト カ イ ン を 通 し て 腫 瘍 の 増 殖 を 抑 制 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 ― 方 、 抗MIF抗 体 は 腫 瘍 細 胞 の 増 殖 や 血 管 新 生 を 抑 制 す る こ と か ら 、MIFは 腫 瘍 の 増 殖 を 促 進 す る 方 向 に 働 く 。 従 っ て 、MIFは 腫 瘍 細 胞 の 増 殖 や 血 管 新 生 を 促 進 す る と 考 え ら れ る 。 こ れ ら の 結 果 は 、MIFが そ の 蛋 白 の 細 胞内 局在 に依 存し て、 異な る 作用 を果 たす 可能 性を 示唆 して いる 。以 上の こと から 、 MIFの 細 胞 内 局 在 と 肺 腺 癌 患 者 の 予 後 を 比 較 し た 今 回 の 臨 床 病 理 学 的 研 究 は 癌 に お け る MIFの 生 物 学 的 作 用 の 解 明 へ の 重 要 な 糸 口 に な る と 思 わ れ る 。今 後、 肺腺 癌組 織で のMIF の 定 量化 や細 胞内 分布 の解 析か ら 、肺 腺癌 患者 の予 後を 検討 する こと がそ の治 療方 針の 確 立に役立っものと思われる。

    V結語

  MIFは 肺 腺 癌 細 胞 の 細 胞 質 お よ び 核 に 局 在 し 、 そ の 細 胞 内 分 布 は 肺 腺 癌 患 者 の 予 後 を 規定する。

(3)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査    教 授    西 村 正 治 副 査    教 授    加 藤 紘 之 副 査    教 授    細 川 眞 澄 男

     学位論文題名

工ntracellular Distribution of rvIacrophage IN/Iigration      工 nhibitory Factor Predicts the Prognosis     of Patients with Adenocarcinoma of the Lung .      ( マ ク ロ フ ァ ー ジ 遊 走 阻 止 因 子 の 細 胞 内 分 布 が      `肺腺癌患者の予後を規定する)

  マクロファージ遊走阻止因子(macrophage  mi gr ati on  inhi bit oryf act or;Ml鬥 は 炎症性サイトカインであり、グルココルチコイド誘因性免疫調節因子としても知ら れ てい る。 また 、腫瘍 細胞 の増 殖においてはMIFの促進的もしくは抑制的作用が報告 さ れていて、現在のところその正確な役割は不明である。そこで申請者は肺腺癌組織 に お け るMIFの 蛋 白 やmRNAの 発 現 と そ の 細 胞 内 局 在 を 検 討 し 、 予 後との 関係 を明 らかにした。

  原発 性肺 腺癌 患者74人( 病理 学的ステ―ジは1,I|,llla)から外科的に切除され た 肺 腺 癌 組 織 切 片 で 免 疫 組 織 学 的 解 析 を 行 っ た 。 さ ら にMIFのmRNAの 発 現 はin situ hybridizationを用 いて 検討 した 。MIFの発 現度 とそ の細 胞内 局在に 応じ て肺 腺 癌 患 者の 予後 が評 価し 、Kaplan‑Meier法で 予後 曲線 を描 出し て、Wilcoxon test で検定を行った。

  MIFのmRNAと 蛋 白 は 正 常 肺 組 織 に お い て 気 管 上 皮 や 肺 胞 上 皮 、 血管平 滑筋 、肺 胞 内 マ ク ロ フ ァ ー ジ に 発 現 し て い た 。肺 腺 癌 組 織 で はMIFのmRNAと蛋白 の両 方が 正 常気 管上 皮よ りも強 く発 現し ており、腫瘍細胞自身がMIFを産生していることが明 ら かに なっ た。MIFの 細胞 内局 在に 注目 した ところ 、肺 腺癌 組織の大部分おいてMIF 蛋白は腫瘍細胞の細胞質でびまん性に強く発現していた。59例(79170/。)の肺腺癌に おいて核でMIF蛋白の発現を認めたが、15例(20.2。/。)では核での発現を認めなかっ た 。核 でのMIF蛋 白の 発現 度に 応じ て、 陰性 群と陽 性群 の2群に分け、Kaplan‑Meier 法 で予 後曲 線を 描出し 、Wilcoxon testで検 定を行 った 。核 での発現度が陰性群の5 年 生 存 率 は32% 、 陽 性 群 で は47% と 、陰 性 群 の 患 者 がP値0.04と 有意に 生存 期間 の短縮を認めた。

  結論 とし てMIFは肺 腺癌 患者 の細胞質および核に存在し、その核内における存在の 有無は肺腺癌患者の予後を規定することが考えられた。

(4)

  MIF

が 腫 瘍 に対 して 促進 的あ るい は抑 制的に 作用 する こと がい われ てい るが 、肺 腺癌 にお いて

MIF

は蛋 白の細 胞内 局在に依存して、異なる作用を果たす可能性が示唆 され る。 今後 、肺 腺癌 組織 での

MIF

の定量化や細胞内分布の解析から、肺腺癌患者の 予 後 を 検 討 す る こ と が そ の 治 療 方 針 の 確 立 に 役 立 っ も の と 思 わ れ る 。

  

審 査にあたり、副査加藤教授より免疫染色方法の客観性についての質問があった。

申請 者は今回の免疫染色は増幅法を使用しており、わずかの発現でも認識できる。ま

た、 染色にむらが出ることがあるが、問質や癌細胞の辺縁は除き、中心部は染色の均

一性 は保持されていたと回答した。次に癌細胞の核で発現していないことに関する生

物 学 的 意 義 につい て質 問が あっ た。 最近 はMIF のcell cycle との 関連 が報 告さ れて

お り 、

cell cycle

の異 常が

MIF

の核 での 発現を 低下 させ 、予 後の 悪化 を起 こし てい

るこ とも 推測 され ると 回答 した 。次にMIF の核内分布の差は肺腺癌患者において独立

した 予後因子に成りうるかについて質問があった。今回の臨床病理学的検討では年齢

以外 に有意な差はなく、予後因子になる可能性があると回答した。次に副査細川教授

から は、MIF のどの機能が肺癌患者の予後に関与しているかという質問があった。MIF

は細 胞内外に存在していて、細胞内では細胞質と核に局在しいる。その各々の存在部

位で 作用 に違 いが あり 、核 内に おけるMIF の機能(例えば転写調節など)が予後悪化

に関 係していることが推測されると回答した。最後に主査西村教授からは、肺腺癌以

外に 肺扁平上皮癌などで免疫染色等の検討したかについて質問があった。肺扁平上皮

癌で 免疫染色を行い、細胞質で発現を認めたが、細胞内分布など詳しい検討はしてい

ない と回答した。次に細胞質と核内の染色態度は関連していたかについての質問があ

っ た 。 細 胞 内 と 核 内 の 染 色 態 度 は 関 連 し て い な い と 回 答 し た 。

  

審 査員 一同 は本 研究 を、 肺腺 癌におけるMIF の役割について検討した研究として高

く評価し、申請者が博士,(医学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと判定

した。

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