博 士 ( 医 学 ) 上 村 明 学位論 文題名
Intracellular Distribution of rvIacrophage IVIigration Inhibitory Factor Predicts the PrognoslS OfPatientSWithAdenOCarCinomaoftheLung . ( マ ク ロ フ ァ ー ジ 遊 走 阻 止 因 子 の 細 胞 内 分 布 が 肺腺癌 患者の予後を規定す る)
学位論文内容の要旨
I研究目的
マクロファージ遊走阻止因子(macrophage migration inhibitory factor; MIF)は発見当初活性 化Tリ ン パ 球 の み か ら 産 生 さ れ る サ イ ト カ イ ン で 、マ ク ロ ファ ー ジ の機 能 を 調 節す る 液 性 因 子 と 考 え ら れ て き た 。 し か し 、MIFの 遺 伝 子や 蛋 白 質の 構 造 が解 析 さ れ たこ と や 、 本 因 子 がマ ク ロ ファ ー ジ や肺 胞 上 皮細 胞 な ど でも 発 現するこ とが明 らかにな るに伴い 、新 た な 機 能が 次 々 と報 告 さ れて き た 。炎 症 や 免 疫に 関 し ては 、lVflFはエ ン ド 卜キ シンシ ョ ッ ク を 増悪 さ せ 、ま た グ ルコ コ ル チコ イ ド の 機能 を 制御する ことに より炎症 や免疫反 応を 助 長 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 一 方 、MIFは 増 殖の 盛 ん な皮 膚 上 皮基 底 細 胞 層や 腫 瘍 組 織 ( 前 立腺 癌 、 乳癌 、 大 腸癌 な ど )で 強 く 発 現し 、 細胞分化 ・増殖 にも関与 すること が示 唆されてきた。
現 在 、MIFの 腫 瘍 細 胞 へ の 作 用 に つ い て は 相 反 す る 報 告 が な さ れ て い る 。 即 ち 、MIF は マ ク ロ フ ァ ー ジ か ら 産生 さ れ るTNF‑& やIL‑1ロ の細 胞 障 害作 用 を 促 進し 、 腫 瘍の 増 殖 を 抑 制 す る が 、 ― 方 で 腫 瘍 細 胞 か ら 産 生 さ れ るMIFは 腫 瘍血 管 の 新生 を 促 し 、腫 瘍 の 浸 潤 や 転 移 を 促 進 す る こ と も 知 ら れ て い る 。 こ の よ うにMIFの 腫 瘍 組織 に お け る作 用 の 詳 細 に つ い て は 不 明 な 点 が 多 い 。 本 研 究 で は 肺 腺 癌 組 織 に お け るMIFの 蛋 白 質 とmRNAの 発現を解析し、予後との関係について検討した。
‖対象と方法
組 織 中 で のlVflF蛋 白 質 の 発 現 は 免 疫 組 織 化 学 染 色法 に て 検討 し た 。 対象 は1975年 か ら1995年 の 間 に 北 海 道 大 学 医 学 部 附 属 病 院 で 切 除 さ れ た 肺 腺 癌74例 ( 男 性33例、 女 性 41例 、 平 均 年 齢61歳 ) か ら 得 ら れ た 腫 瘍 切 片 を 使 用 し た 。 術 後 病 理 学 的TNM分 類 で は stage134例 、stage 118例、stage IIIa 32例で あった。 正常組 織として 、同時 に切除さ れた 非 癌 組 織を 用 い た。 ホ ル マリ ン 固 定、 バ ラ フ アン 包 埋切片を 用いて 、―次抗 体として 抗ヒ トMIFポ リ ク ロ ー ナ ル 抗 体 を 使 用 し 、DAKO CSA Systemで 免 疫 細 織 化 学 染 色 を行 っ た 。 染色陽性細胞の割合を測定し、200h未満をnegative staining(−)、20u/o以上50u/o未満をweakly positive stalrung(士)、500h以上をstrongly positive staining(十冫とした。MIFの発現程度と臨 床 病 理 学 的 特 性 と の 関 係 を カ イ 二 乗 検 定 で 解 析 し た。 ま たMIFの 免疫 染 色 性 の強 弱 を 指
標に 、Kaplan−Meier法 で予 後曲 線を 描き 、Wilcoxon testに て検 定を行った 。lVflFのmRNA の発現はin situ hybridizationで検討した。4U/oバラホルムアルデヒド処理、パラフィン包埋 し た 切 除 後 の 肺 腺 癌 組 織 を 用 い 、 プ ロ ― ブ と し て ジ ゴ キ シ ゲ ニ ン 標 識RNAを 使 用 し た 。 III結果
免 疫 組 織 化 学 染 色 法 に よ り 、 正 常 肺 組 織 で は 気 管 上 皮 、 肺胞 上皮 、肺 動脈 の血 管平 滑 筋 でMIF蛋 白 質 の 発 現 が 認 め ら れ た 。 肺 腺 癌 組 織 で は 正 常 肺 の 肺 胞 上 皮 よ り も 腫 瘍 細 胞 にお いてMIF蛋 白質 が強 く発 現し てい た。 伽situ hybridizationに ついて、正常肺組織では 肺 胞 上 皮 細 胞 や 血 管 内 皮 細 胞 、 肺 胞 内 マ ク ロ フ ァ ― ジ でMIF mRNAの 発 現 を 認 め た 。 肺 腺 癌 組 織 で は 正 常 肺 の 肺 胞 上 皮 細 胞 に 比 ぺ て 、 腫 瘍 細 胞 で び ま ん 性 に 強 くM[F mRNAの 発 現 を 認 め 、 腫 瘍 細 胞 自 身 が MIFを 産 生 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。 次 に 、MIF蛋 白 質 の 細 胞 質 と 核 に お け る 細 胞 内 分 布 の 発 現 を 免 疫 組 織 化 学 染 色 に よ り 検 討 し た 。 正 常 肺 組 織 の 気 管 上 皮 細 胞 で は 、MIF蛋 白 は 細 胞 質 と 核 で 認 め ら れ 、 そ の 発 現は 細胞 質で はstrongly posltlve、 核で はw制dyp彌1tlveであった。また、肺腺癌組織の大 部分 にお いてMIF蛋 白質 は細 胞質 でび まん 性に強く発現していた。―方、59例 (79.7%)の 肺腺癌において腫瘍細胞の核でMIF蛋白質の発現を認めた。43例(58.1ワ0)はs鰤glyp髄1tlve、 16例(21.6%)はwe刹ッp彌itiveであったが、15例(20.2ワ。)では核での発現を認めなかった。
核 で のMIF蛋 白 質 の 発 現 をnegative群 とwe樹yま た はsu・onglypositive群 の2群 に 分 け、臨床病理学的特性との関係を検討した が、年齢においてのみ有意差を認めた(間.02)。
同 様 の2群 に お い てKaplan―Meier法 で 生 存 曲 線 を 描 出 し た とこ ろ、 核で の発 現が 認め ら れな かっ た患 者群 の5年 生存 率は32ワ 。、 発現 が認 めら れ た群 では47ワDと、 発現カ煽jめら れなかった患者群が有意に生存期間の短縮を認めた(Pニ0.04)。
IV考察
前 立 腺 癌 や 乳 癌 、 結 腸 癌 な ど の 腫 瘍 組 織 でMIFが 強 く 発 現 し て い る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 本 研 究 で は 、 免 疫 組 織 化 学染 色法 およ び加5ぬhyb轟dizぬOn法 によ り、 肺腺 癌に お い て 他 の 腫 瘍 組 織 と 同 様 にMIFの 蛋 白 質 やmRNAの 発 現 が 増 強 し て い る こ と を 明 ら か に し た 。 興 味 深 い こ と に 、 肺 腺 癌 組 織 に お け るMIF蛋 白 質 は 細 胞 質 だ け で な く 、 核 に も そ の発 現を 認め た。 さら に核 に 発現 を認 めな い腫 瘍を もつ 患者 群(2Q2%)は核で発現してい る 患 者 群 に 比 し て 、 有 意 に 予 後 が 短 縮 し て い た 。 従 っ てMIFの 細 胞 内 分 布 が 肺 腺 癌 患 者 の予後決定に重要であることが考えられる。
本 研 究 は 、MIFの 細 胞 内 局 在 に 着 目 し 、 細 胞 内 局 在 の 差 異 と 肺 腺 癌 患 者 の 予 後 と の 関 係 を 検 討 し た 初 め て の 報 告 で あ る 。 こ れ ま でMIFの 腫 瘍 に お け る 機 能 と 役 割 に つ い て は 明 確 な 結 諭 が 得 ら れ て い な い 。MIFは マ ク ロ フ ァ ー ジ 由 来 の 様 々 な サ イ ト カ イ ン を 通 し て 腫 瘍 の 増 殖 を 抑 制 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 ― 方 、 抗MIF抗 体 は 腫 瘍 細 胞 の 増 殖 や 血 管 新 生 を 抑 制 す る こ と か ら 、MIFは 腫 瘍 の 増 殖 を 促 進 す る 方 向 に 働 く 。 従 っ て 、MIFは 腫 瘍 細 胞 の 増 殖 や 血 管 新 生 を 促 進 す る と 考 え ら れ る 。 こ れ ら の 結 果 は 、MIFが そ の 蛋 白 の 細 胞内 局在 に依 存し て、 異な る 作用 を果 たす 可能 性を 示唆 して いる 。以 上の こと から 、 MIFの 細 胞 内 局 在 と 肺 腺 癌 患 者 の 予 後 を 比 較 し た 今 回 の 臨 床 病 理 学 的 研 究 は 癌 に お け る MIFの 生 物 学 的 作 用 の 解 明 へ の 重 要 な 糸 口 に な る と 思 わ れ る 。今 後、 肺腺 癌組 織で のMIF の 定 量化 や細 胞内 分布 の解 析か ら 、肺 腺癌 患者 の予 後を 検討 する こと がそ の治 療方 針の 確 立に役立っものと思われる。
V結語
MIFは 肺 腺 癌 細 胞 の 細 胞 質 お よ び 核 に 局 在 し 、 そ の 細 胞 内 分 布 は 肺 腺 癌 患 者 の 予 後 を 規定する。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査 教 授 西 村 正 治 副 査 教 授 加 藤 紘 之 副 査 教 授 細 川 眞 澄 男
学位論文題名
工ntracellular Distribution of rvIacrophage IN/Iigration 工 nhibitory Factor Predicts the Prognosis of Patients with Adenocarcinoma of the Lung . ( マ ク ロ フ ァ ー ジ 遊 走 阻 止 因 子 の 細 胞 内 分 布 が `肺腺癌患者の予後を規定する)
マクロファージ遊走阻止因子(macrophage mi gr ati on inhi bit oryf act or;Ml鬥 は 炎症性サイトカインであり、グルココルチコイド誘因性免疫調節因子としても知ら れ てい る。 また 、腫瘍 細胞 の増 殖においてはMIFの促進的もしくは抑制的作用が報告 さ れていて、現在のところその正確な役割は不明である。そこで申請者は肺腺癌組織 に お け るMIFの 蛋 白 やmRNAの 発 現 と そ の 細 胞 内 局 在 を 検 討 し 、 予 後との 関係 を明 らかにした。
原発 性肺 腺癌 患者74人( 病理 学的ステ―ジは1,I|,llla)から外科的に切除され た 肺 腺 癌 組 織 切 片 で 免 疫 組 織 学 的 解 析 を 行 っ た 。 さ ら にMIFのmRNAの 発 現 はin situ hybridizationを用 いて 検討 した 。MIFの発 現度 とそ の細 胞内 局在に 応じ て肺 腺 癌 患 者の 予後 が評 価し 、Kaplan‑Meier法で 予後 曲線 を描 出し て、Wilcoxon test で検定を行った。
MIFのmRNAと 蛋 白 は 正 常 肺 組 織 に お い て 気 管 上 皮 や 肺 胞 上 皮 、 血管平 滑筋 、肺 胞 内 マ ク ロ フ ァ ー ジ に 発 現 し て い た 。肺 腺 癌 組 織 で はMIFのmRNAと蛋白 の両 方が 正 常気 管上 皮よ りも強 く発 現し ており、腫瘍細胞自身がMIFを産生していることが明 ら かに なっ た。MIFの 細胞 内局 在に 注目 した ところ 、肺 腺癌 組織の大部分おいてMIF 蛋白は腫瘍細胞の細胞質でびまん性に強く発現していた。59例(79170/。)の肺腺癌に おいて核でMIF蛋白の発現を認めたが、15例(20.2。/。)では核での発現を認めなかっ た 。核 でのMIF蛋 白の 発現 度に 応じ て、 陰性 群と陽 性群 の2群に分け、Kaplan‑Meier 法 で予 後曲 線を 描出し 、Wilcoxon testで検 定を行 った 。核 での発現度が陰性群の5 年 生 存 率 は32% 、 陽 性 群 で は47% と 、陰 性 群 の 患 者 がP値0.04と 有意に 生存 期間 の短縮を認めた。
結論 とし てMIFは肺 腺癌 患者 の細胞質および核に存在し、その核内における存在の 有無は肺腺癌患者の予後を規定することが考えられた。
MIF