博 士 ( 医 学 ) 村 上 壮 一
学 位 論 文 題 名
Caveolin‑l overexpress10nlSaf・aVOurableprognOStiC faCtorforpatientSWitheXtrahepatiCbileduCtCarCinoma ( 肝 外 胆 管 癌 に お い てCaveolin・1の 強 発 現 は 予 後 良 好 因 子 で あ る)
学位論文内容の要旨
緒言
肝外胆 管癌 は比 較的 緩徐 に進行する癌であるにも関わらず、その初期においては所見に 乏 しく診 断の 時点 で周 囲組 織へ浸潤あるいは転移し、根治手術可能な症例は少ない。また 根 治手術 可能 な場 合で も、 術中術後の合併症の発生率は比較的高い。このため手術が患者 に とって 真に 有益 であ る群 を選ぶことが重要である。近年腫瘍の分子生物学的性質を調べ る ことに より これ らの 群を 見いだし、さらには治療に応用しようとする研究が広くなされ ているが、肝外胆管癌においては切除される症例が少ない ため、その分子生物学的解析は ほとんど行われていない。
caveolinー1は細胞膜のraftに豊富に含まれてしゝるcaveolaeを構成する主成分で、22kDa の 蛋白で ある 。近 年細 胞内 シグナル伝達分子と相互に作用したり、抑制したりすることが 明らかになり、発癌あるいは癌の進行への関わりが注目されている。in vitroの研究では、
caveolin‑lは腫瘍増殖性シグナル伝達分子の発現で抑制され、またcaveolin―1を細胞株内 で強制発現させたものでは細胞の増殖を抑制するなど、癌抑市|J遺伝子であることを示唆す る報告が多くなされている。一方、前立腺癌、食道癌についての検討ではcaveolin−1の高 発 現 が 予 後 不 良 因 子 で あ る と 報告 さ れ 、in vitroの 報 告 との 間に 矛盾 が生 じて いる 。 本論文では、肝外胆管癌組織におけるcaveolin−1の発現と患者の臨床病理学的因子との 関 連を中 心に 検討 した 。そ の結果、前立腺癌、食道癌における報告と異なりcaveolin‑l高 発 現群は 予後 良好 であ り、in vitroの報 告に 矛盾 せず 癌抑 制的に 働く こと が示 され た。
方法
1992年から1999年ま でに 根治 切除 させ た肝 外胆 管癌60例 (男 性46例 、女 性14例)を対 象 にし た。症 例は44歳 から81歳で、平均年齢は66.2歳であった。組織におけるcaveolin‑l の 発現 は、パ ラフ ィン 包埋 切片 に抗caveolin‑l抗 体を1次抗体とした免疫染色を行い評価 した。染色された癌細胞が50u/0以上のものを陽性群、50u/o未満のものを陰性群とし、臨床 病 理学 的因子 、お よび 予後 との 相関 を検 討し た。 臨床 病理 学的 因子と の相 関はX2検定も し くはFisher検定 、予 後と の相 関はKaplanーMeier法におけるLog rank検定、また単変量 解析及び多変量解析をCox比例ハザードモデルにより検討した。
結果
caveolin‑lは60例中23例で陽性 であった 。臨床病 理学的因 子との相関では、caveolin‑l は 年 齢 とTNM分類 に お ける 病 理 学的T因 子 にお い て 負の 相 関を 認 め た。Kaplan‑Meier法 に よる 生 存 曲線 の 分析 で は 、陽 性 群 と陰性群 の5年生存 率はそれ ぞれ50.5%、12.4%であ り、Log‑rank検定において陽性群は陰性群に対し有意に予後良好であった(P〓0.0051)。Cox 比例ハ ザードモ デルを用 いた単変 量解析で は、caveolin‑lの発 現は予後と正の相関を認め た 。 ま た 臨 床病 理 学 的因 子 の うちTNM分類 に お ける 病 理学 的N因 子 、神 経 周囲 浸 潤 、脈 管浸潤 と負の相 関を認め た。これ らによる 多変量解 析でも、caveolin‑lは予後と有意に正 の 相関 を 示 し、 病 理学 的N因 子 、脈 管 浸潤 と と もに 独 立 予後 規 定因 子で あること か認め られた。
考察
最近の 研究ではcaveolinファミリ ーは細胞 膜のcaveolaeにお いて特定 のシグナル伝達分 子(Src‑Iike kinases,H‑ras,eNOS,G蛋白など)を編成し濃縮させる足場蛋白であることが示 されて いる。caveolin‑ltま 様々なシ グナルカスケードにおいて構成する分子を阻害する。
また逆 にいくっ かの発癌 性カスケ ードにお けるシグ ナル伝達は 、caveolin‑l遺伝子の発現 を転写 レベルで 抑制する 。caveolin‑lの発現 は、発癌 性に形質 転換された細胞株や多くの 癌細胞 株におい て低下あるレゞはほとんど認められないが、これらの細胞株にcaveolin‑lを 発 現さ せ る と細胞 の増殖は 抑制される 。さらにNIH‑3T3細胞株に おいてcaveolin‑lア ンチ センス でcaveolin−1蛋白 を減少さ せると、 細胞株は形質転換され腫瘍性に増殖する。これ ら の報 告 は 、caveolin―1が 腫 瘍抑 制 性 な働 き を持 つ 蛋 白で あ るこ と を示 唆してい る。
しかし 臨床にお いて得ら れた腫瘍 組織にお ける研究 では、これ らに矛盾する報告が散見 される 。前立腺 癌と食道 癌におい てはcaveolin‑lの腫 瘍での発 現が予後不良因子であると 結論さ れ、caveolin‑lはむ しろ腫瘍 増殖的因 子ではな いかと考 察されている。本論文での 肝外胆 管癌の報 告は、これらの報告とは対立的で、caveolin‑lが腫瘍抑制的であるという、
これま でになさ れたin vitroでの報告に一致している。肝外胆管癌におけるcaveolin‑lの発 現とpTあ るいはり ンバ管浸 潤との負 の相関は 、caveolin‑lにより 腫瘍増殖が抑制されてい ること を示唆し ている。 またcaveolin‑l高発 現群は予 後良好で あり、caveolin‑lが腫瘍抑 制的因 子である ことを支 持してい る。これ らの矛盾 する報告を まとめる と、caveolin‑lの 機能は画一的なものでtまなく、癌の組織学的起源により異なるのではないかと考えられる。
caveolin‑lの働き が腫瘍起 源により 異なる要 因として 、食道癌 においては性ホルモンが 強 く 関 与 し て い る 可能 性 が 示唆 さ れて い る 。ま た 乳癌 に お いて はmutationを起 こ し た caveolin‑lの働き は、従来 のcaveolin‑lの性質 と異なり 腫瘍増殖 性であることが報告され ている 。mutationを起こ したcaveolin‑lもmutationを 起こして いないcaveolin‑lも従来の 抗体で は同様に 染色され る。前立 腺癌や食 道癌にお けるcaveolin‑lがmutationを起こした もので あり、caveolin‑lが 腫瘍増殖 的に働い ていると すれば、 これらの矛盾は解決される が、今後の検討課題である。
本論文 では、肝 外胆管癌 におけるcaveolin‑lの発現と 、臨床病 理学的因子との相関につ いて検 討した。 本研究の 結果より 、caveolin‑lは肝外 胆管癌に おいて、予後良好因子であ ることが示された。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Caveolin‑l overexpresslonlSaf・ aVOurableprognOStiC faCtorforpatientSWitheXtrahepatiCbileduCtCarCinoma ( 肝 外 胆 管 癌 に お い てCaveolin・1の 強 発 現 は 予 後良 好 因 子 で あ る )
肝癌 胆管 癌は 比較 的緩 徐に 進行 する 癌に も関 わらず ,根 治手 術が 可能な症例は少 な い. 近年 腫瘍 の分 子生 物学 的性 質を 調べ ,診 断治療 に応 用し よう とする研究が広 く なさ れて いる が, 肝癌 胆管 癌に おい ては 根治 切除さ れる 症例 が少 なく分子生物学 的 解析 の報 告は 多く ない .本 研究 では 肝外 胆管 癌の予 後を 規定 する 分子生物学的因 子 とし てCaveolin‑lに注 目し ,切 除標 本におけるCaveoin‑l蛋白の発現を検討し,予 後との相関を明らかにすることを目的とした.
対 象 は1992年 よ り1999年 に 手 術 さ れ た 肝 外胆 管癌 のう ち治 癒切 除で あっ た60例 で , 年 齢 は44歳 か ら81歳 , 追 跡 期 間 の 中 央 値は28.8力月 であ った .切 除標 本の う ち 腫瘍 の最 大割 面を 用い ,抗Caveolin‑lウサギポリク口ーナル抗体を1次抗体とし,
SAB法 に て 染 色 した .染 色度 の判 定は, およ そ1000個 の染 色さ れた 腫瘍 細胞 をカ ウ ン ト し ,50% 以 上が 染色 され るも のを 陽性 とし た, 予後 因子 との相 関に はX二乗 検 定もしくはFisher検定,生存曲線にはLaplan‑Meier法を用い,2群の比較にはlog−rank 検 定 を 行 っ た . 生存 分析 にお ける 単変 量解 析, 多変 量解 析に はCox比例 ハザ ード モ デルを用い,Wald検定を行った.
結 果 と し てICaveolin‑l陽 性例 は23例 ,陰 性例 は37例で あっ た. 近傍 の正 常胆 管 細 胞 で はCaveolin‑lの 発 現 を 認 め な か っ た . 臨 床 病 理 学 的 因 子 と の 相関 で は , Caveolin‑lの強発現と,年齢,病理学的腫瘍浸達度との間に負の相関を認めた,また り ンノ ヾ管 侵襲との間に負に相関する傾向を認めた.Kaplan‑Meyer法による生存曲線 の 分析 では ,Caveolin‑l強発 現群 が弱 発現群に対し,有意に予後良好であった.Cox 比 例ハ ザー ドモデルを用いた生存分析では,単変量解析でCaveolin‑l,病理学的リン バ 節転 移, 静脈 侵襲 ,神 経周 囲浸 潤に おい て有 意差を 認め た. これ らを多変量解析
敬 寛 之
雅紘 木村 藤 吉今 加 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
したところ,Caveolin‑lは良好な,病理学的リンバ節転移,静脈侵襲は不良な独立予 後規定因子であった,
以上の結果から,肝外胆管癌におけるCaveolin‑lの機能は基礎研究に矛盾せず腫 瘍増殖に対し抑制的である可能性が考えられた.また,Caveolinー1の強発現は肝外胆 管 癌 に お い て 良 好 な 予 後 規 定 因 子 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た . 口頭発表において、今村教授よりCaveoLin‑lの発現度と悪性度の相関の有無I再 発形式との相関,他臓器でCaveolin‑lが予後不良因子であり本研究の結果と解離す ることに対する意義についての質問があった.次いで加藤教授より,肝外胆管癌の 分子生物学的マーカ一中のCaveolin‑lの位置づけ,本研究で神経浸潤が独立予後規 定因子から外れることに対する質問があった.また吉木教授より,原発巣と転移巣 におけるCaveolin‑lの発現の違いについての検討の有無,炎症によるCaveolin‑lの 発現への影響についての質問があった.聴衆よりは秋田教授より,腫瘍抑制的機能 を持つCaveolin‑lが正常において発現せず癌においては発現している結果に対する 考察,炎症の影響にづぃての質問があったがそれぞれについて申請者はおおむね妥 当な回答をした.
肝外胆管癌においてCaveolin‑lが良好な予後規定因子であることを明らかにし,
Caveolin‑lの肝外胆管癌組織における働きが基礎研究結果に矛盾せず腫瘍抑制的であ る可能性を示唆した本研究の意義は大きく、審査員一同協議の結果、本論文は博士
(医学)の学位授与に値するものと判定した.