博 士 ( 歯 学 ) 船 岡 孝 誠
学 位 論 文 題 名
High‑risk HPV‑positive human cancer cell lines show different sensitivity to cisplatin‑induced apoptosis correlated with the p21waf'/cipl level
(ヒトパ ピローマ ウイルス(HPV)感染細胞 株のシスプ ラチンに対する感受性と p21wafl/ciplの発現と の相関に ついて)
(緒言)
学位論文内容の要旨
ヒト細 胞では、日 常的に紫 外線や化 学物質な どとの接触により、遺伝子変異が 生じ ているに もかかわ らず、がん が多発し ない理由 のーっと してがん 抑制遺伝子 の 存 在が 示 唆 されてい る。すな わち、正 常細胞にDNA損 傷が起き ると、が ん抑制 遺伝子である転写因子p53の転写が活性化され、これによりp21〜lrlaptの転写が活性 化されることが明らかにされている。p21〜flClplは細胞周期のGl期での停止、すなわ
ちGl arrestを誘導すると言われているほか、apoptosisと呼ばれる細胞死の誘導にも 関与すると言われている。
一 方、 ヒ トバ ピ ロ ーマ ウ イル ス(HPV)は ヒ ト上 皮 細胞 を 形質転 換させる ウイ ル ス で 、70種 以 上の 型 が 発見 さ れ てい る 。な か で も16型お よ び18型 はI‑Ligh‑
riskタイブと言われており、ウイルスタンノヾクであるE6タンバクが、p53夕ンバク を分解 し不活化 すること が細胞の 不死化や がん化に関与すると言われている。し かしHPV感染細胞 におけるp53の発現の 有無や発 現機構に 関しての詳 細は明ら かに
さ れて い な い。
ま た 、 抗がん剤 であるシス ブラチン はガン細 胞のDNAに架 橋結合し 、p53の転写 を 亢進 さ せ細胞 増殖の停止 や細胞死 を誘導す ることが 示されて いる。し かしなが
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ら 、 症 例に よ ルシ ス プ ラチンの 感受性に差 が認めら れること について は、その 詳細は明らかにされていない。
以 上 の よ う な 背 景 か ら 今 回 、High‑risk typeで あ る16型 あ る い は18型 の HPVの 感 染 が 確 認 さ れ て い る ヒ ト が ん 細 胞 株 を 用 い て 、16型 と18型 で の シ スプラチ ンに対す る感受性の 差異につ いて検索 し、これ らの細胞 におけるp53 とp21 m母 ̄の発現機構および発現量と.シスブラチン感受性との間の関連を明らか にする目的で実験を行った。
(材料およ゛び方法)
細 胞 株 は 、HPV18型 陽 性 細 胞 で あ るKBお よ び HeLaとHPV16型 陽 性 細 胞 のSiHaおよびCasぬ を用いた 。シスプラ チン処理 の条件は 、感受性 実験では培地
にシスプラチンを0,0.1,0.25,0.5,0.75 hLg/mlの濃度となるように添加し、7日間静 置し培養した。その他の実験では0,5,12.5 }‑tg/m1となるように調整した培地で2 4時間培養し実験に用いた。
シスプ ラチンに 対する各 細胞株の 感受性実験 は、それぞれのシスプラテン濃 度での 生細胞の コ口ニー 数を計数 し、無処 理細胞のコ ロニー数にたいする百分 率( %)を算出した。シスブラチン処理による細胞周期の停止とapoptotic cell deathの 誘 導 を検 討する目 的でフロ ーサイト メトリー による検 索を、ま たmRNA の発現を見るためにnorthem blottingおよびmsitu hybridizationによる検索を行つ た 。 さら に 、p53及びp21 iiobi蛋白の発 現を免疫 染色法を 用いて検 索した。
(結果およぴ考察)
感受性実験
HPV18型 陽 性 細 胞 のKBお よ びHeLaで は、 低 濃 度の 段 階で す で にコ ロ ニ 一数 の 著 しい 減 少が 認 め られ た のに 対 し 、HPV16型陽 性 細胞 で は コロ ニ 一数の 減 少 は18型 陽 性細 胞 に比 ぺ て 軽度 で あっ た 。 本実験条 件での各 細胞株のシ スプ
ラチンの50%致死濃度 g/ml)は、それぞれKB 0.17,Heh0.19,SiHa0.53,QLski1.0 以 上 で 、HPV18型 陽 性 細 胞 は 、16型 陽 性 細 胞 よ ル シ ス プ ラ チン に 対 して よ り
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高い感受性を示した。
シ ス プラ チ ン に よ るGl arrestおよ ぴapoptosisの 誘導
シスプラチン処理により、KB細胞では著しいapoptotic cell deathの誘導が認めら れたのに対し,Caski細胞ではapoptotic cell deathの誘導はほとんど認められず、感受 性実験の結果とapoptotic cell deathの誘導との間に関連が認められた。しかしなが ら、 感受 性実 験でKJ3細 胞と 類似した結果を示したHeLa細胞では、apoptotic cell deathの誘導はKB細胞に比べて少なく、Gl arrestの誘導が顕著であった。これらの こ と から 、シ スプ ラチ ンは 細胞 死の 誘導と 細胞 増殖 の抑 制と ぃう2つの 経路 で作 用している可能性が示唆された。
p53およびp21 IfIだャ ̄のmRNAの発現
次にp53およびp21 rLap ̄のmRNAの発現をnorthem blottingにて検索したところ、全 ての 細胞株 にお いて 、無 処理 細胞 です でにp53およびp21〜n辟 ̄のmRNAの発現が認 め られ 、 シ ス プ ラ チ ン 処 理 に よ る 転 写 亢 進 が 認め られ た。 特に 、18型陽 性細胞 であ るKBお よびHeLaでは 、16型陽 性細 胞であるSiHaおよび〔ニaskiに比べてp53お よびp21の発現がより顕著であった。また、HeLaおよびSiHa細胞でのp21〜tUap ̄のin situ hybridizationの結果を見ると、HeLa細胞においては無処理細胞ではほとんど陽 性反 応が認 めら れな いの に対 し、 シス プラ チン 処理 細胞 では 、陽性 反応が多数認 めら れた。 一方SiHa細胞 では 、シ スプ ラチ ン処 理に より 若干 の陽性 反応が認めら れる にすぎ ず、HeLa細胞 に比 べて 陽性 反応 は明 らか に微 弱で あった 。なお、KB細 胞はHeLaと、Caski細胞はSiHa細胞と類似した結果を示した。
p53およびp21wIn,Cip ̄タンバクの発現
HeLa細胞では無処理細胞においてすでにp53およぴp21 rUap ̄の発現が認められ、
こ れ は シ ス プ ラ チ ン 処 理 に よ り さ ら に 増 強 され て い た。 また 、シ スプ ラチ ン 処理細胞においてapoptotic ceU deathを形態的に示唆する細胞に特に強い陽性反 応 が 認 め ら れ た 。 こ れ に 対 し 、SiHa細 胞 で は無 処 理 細胞 およ びシ スブ ラチ ン 処 理 細 胞 の い ず れ に お い て も 、 陽 性 反 応 は ほ と ん ど 認 め ら れ な か っ た。 な
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お、KI3細胞はHeLa細胞と、Caski細胞はSiHa細胞と類似した結果を示した。
(結 語)
1. 実験 に用 いた 全て の細胞 は、いずれもシスプラチンに感受性を示したが 16型HPV感 染 細 胞 と18型HPV感 染 細 胞 と の 間 に は シ ス ブ ラ チ ン に 対 す る 感 受 性 の 差 が 認 め られ 、18型 感 染 細 胞 の方 がよ り高 い感 受性を 示
した。
2.シス プラ チン によ るApoptotic cell deathおよびGl anestの誘導は18型感 染 細 胞 で よ り 顕 著 で あ り 、 感 受 性 実 験 と の 関 連 が 認 め ら れ た 。 3. p53お よ びp21¨dlnplのmRNAの 発 現 は16型 お よ ぴ18型 の 両 型 で 認 め ら れたが、18型でより顕著であった。
4.こ れ ま でHPV感 染 細 胞 に おい てはp53タン バク は分 解され てい るも のと 考 え ら れ て い た が 、 今 回 の 実験 では16型 陽性 細胞 ではほ とん ど発 現が 見 ら れ な か っ た のに 対 し 、18型 陽 性 細 胞 で は 著 明 に 発 現 し て い た 。 ま た、p21 dlpp ̄夕ンバクも16型陽性細胞ではほとんど認められなかったの に対し、18型陽性細胞では著明に認められた。
こ れ ら の こ と か ら 、16型HPV感 染 細 胞 と18型HPV感 染 細 胞 に お け る シ ス プ ラ チ ン に 対 す る 感 受 性 の 差 には 、p53を介 したp21の発現 量の 違い によ る apoptotccelldeamおよびG1arrestの誘導の差が深く関与しているものと思われ ,丶
た。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
High‑risk HPV‑positive human cancer celllines show different sensitivity to cisplatin‑induced apoptosis correlated with the p21waf'/cipl level
( ヒトパピ ローマウイ ルス(HPV)感染 細胞株の シスプラチンに対する感受性と p21wafl/ciplの 発現との 相関につい て)
審 査 は、 審 査 員全 員の出 席のもとに 、申請者 に対し、 口頭試問 により、 提出論 文の内容とそれに関連した学科目について行われた。
口 腔 領域 の 悪 性腫 瘍に用 いられてい る主要な 抗癌剤で あるシス プラチン に対す る 感受 性 は、 症 例 により 著るしい差 のあるこ とが知ら れている が、その 理由は明 ら かで は ない 。 本 研究は 、腫瘍のシ スプラチ ンに対す る感受性 の差異が どのよう な 機序 に よる も の かを 明 らか に す る目 的 で、 野 生 型p53を 有 し、 か つHPV16型な い しHPV18型 の 感 染が 確 認さ れ て いる ヒ ト がん 細 胞株をシ スプラチ ンで処理 し、
これらの細胞におけるp53とp21Wa11′Cip.の発現機構ならびに発現量とシスプラチン に対する感受性との関連を検討したものである。
HPV16型 陽 性 細 胞 と し てSiHa細 胞 とCaski細 胞 、18型 陽 性 細 胞と し てKB細 胞 とHeLa細 胞 を 用 い 、 ま ず 、 シ ス プラ チ ン 濃度0〜0.75ug/mlの培 地 で各 細 胞 を 培 養し 、 いず れ の 細胞に おいてもシ スプラチ ン濃度依 存性にコ 口二一数 が滅少す る こ と を 確 認 し た 。 コ 口 ニ 一 数 の 減 少はHPV18型 陽 性細 胞 のKBお よびHeLa細 胞 で特に 顕著であり 、また本 実験条件 下での各 細胞のシ スプラチ ン50%致死濃度(u g/ml) は 、KB:O.17,HeLa:0.19, SiHa:0.53,Caski:l.0以上と 、HPV18型陽性 細胞は16型陽性細胞に比べて感受性が高いことを示した。
次 に 、シ ス プ ラチ ン処理 による細胞 周期の停 止とアポ トーシス の誘導を 検討す る 目的 で 、シ ス プ ラチン 存在下で培 養した各 細胞をフ 口一サイ 卜メトリ ーで検索 し 、シ ス プラ チ ン 処理 に より 、HPV18型 陽 性細 胞 、特にKB細 胞では著 しいアポ ト ー シス の 誘導 が 認 めら れ たの に 対 しIHPV16型陽 性 細 胞で は 誘 導は 軽 微で 、 特 に
則 璋
男
靖
継
塚 宮
邊
戸 雨
渡
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
Caski細胞 では ほと んど みられ ず、 感受 性実 験の 結果 とア ポト ーシ スの 誘導 との 間 に関 連が ある こと を明 らか にし た。 ー方 、感 受性実験でKB細胞と類似した結果 を 示 し たHeLa細 胞 で は 、KB細 胞 に 比 べ て ア ポ ト ー シ ス の 誘 導 は 少 な く 、G1 arrestの誘 導が 顕著 であ るこ とを 明ら かに レ、 シスプラチンは腫瘍細胞に対して 細 胞死 の誘 導と 細胞 増殖 の抑 制と いう2つの 経路 で作 用し 、そ の割 合は 腫瘍 細胞 の種類によって異なっている可能性があることを示した。
次に、p53およびp21 Wat1′C,plmRNAの発現をみるためにNorthern blottingによ る検索を行い、全ての細胞株において、無処理段階ですでにp53およびp21Watl/Cip' のmRNAが 発 現 し て お り 、 か つ シス プラ チン 処理 で転 写が 亢進 する こと 、な らび にこのp53およびp21 War1′C.lplmRNAの発現は、18型陽性細胞でより顕著であるこ と を明 らか にし た。 また 、insituhybridizationにお いて 、.18型 陽性 細胞 では 残 存す る細 胞の 多く に明 らか な陽 性反 応が 認め られたのに対し、16型陽性細胞で は 陽性 反応 は微 弱な ことを示した。さらに、p53およびp21waf1′c川夕ンパクの発 現 を免 疫染 色法 を用 いて 検索 し、18型 陽性 細胞 では、無処理段階ですでに発現し ていたp53およびp21waf1′cりが、シスプラチン処理によりさらに増強され、かつシ ス プラ チン 処理 細胞 にお いて 陽性 反応 は形 態的 にアポトーシスを示唆する細胞に 特 に強 く認 めら れた のに 対し て、16型 陽性 細胞 では、シスプラチン処理の有無に か か わ ら ず 、 陽 性 反 応 は ほ と ん ど 認 め ら れ な い こ と を 明 ら か に し た 。 本研 究の 結果 は、 これ までHPV感 染細 胞で は分 解さ れて いる もの と考 えら れて い たp53夕 ンパ クが 、18型陽性 細胞 にお いて は著 明に 発現 して いる こと を明 らか にし、かつp21waf1′c川夕ンパクも著明に存在することを明らかにした。さらに、
16型陽 性細 胞と18型 陽性 細胞 にお いて 、シ スプ ラチン感受性ならびにシスプラチ ン 処理 によ るア ポ卜 一シスならびにG1arrestの誘導は、p53およびp21waf1′c川の mRNAの 発現 とそ の増 強、 なら びにp53お よびp21waf1′c川 夕ン パク の発 現の 増強 と 密 接 に 関 連 し て い る こ と 示 し 、16型HPV感 染 細 胞 と18型HPV感 染 細 胞 と に お け るシ スプ ラチ ン感 受性の差は、p53を介したp21¨aIt矧p1夕ンパクの発現量の違 い に よ る ア ポ ト ー シ ス な ら び にG1arrestの 誘導 の差 異が 深く 関与 して いる こと 明らかにした。
論文 の審 査に あた って 、論 文申 請者 によ る研 究の要旨の説明後、本研究ならび に 関連 する 研究 につ いて 、主 査お よび 副査 より 質問が行われた。いずれの質問に つ いて も、 論文 申請 者か ら明 快な 回答 が得 られ 、また将来の研究の方向性につい て も具 体的 に示 され た。 本研 究は 、HPV感染 がん 細胞 のシ スプ ラチ ン感 受性 の差 が 、p53を 介し たp21¨州 。p1夕ン パク の発 現量 の違いによることを明らかにした こ とが 高く 評価 され た。 本研 究の 業績 は、 口腔 外科の分野はもとより、関連領域 にも寄与するところ大であり、博士(歯学)の学位授与に値するものと認められた。