博 士 (歯 学 ) 澁 川 続 代 子 学 位 論 文 題 名
二段階口蓋形成術を施行した片側完全唇顎口蓋裂児における 咬合関係の評価
学位論文内容の要旨
目的
北海 道大 学病 院高 次口 腔医 療セ ンタ ー( 以下 ,当セ ンタ ー)では,1995年か らHotz床を 用い た術 前顎 矯正 治療 と二 段階 口蓋 形成術 を組 み合わせた治療プ口 ト コー ルに よる ロ唇 口蓋 裂治 療を 実施 して きた .本プ ロト コールで治療を行っ た 片側 完全 唇顎 口蓋 裂の 咬合 関係 を前 向き 評価 し,当 セン ターの治療成績をこ れまでに報告された国内外の他施設成績と比較検討した・
対象
1995年7月か ら2006年9月ま でに 出生 し, 当セ ンター に登 録された片側唇顎口 蓋裂の一次治療症例は44例であった.これらの中で,正期産,Simonart s band症 例を除く完全裂,合併異常なしの3つの基準をすべて満たす症例は33例であった.
そ の後 ,1例は 転居 のため 通院 が中 断し ,1例は 多数歯 齲蝕 により咬合評価不能 と 判断 され たた めに 除外 され て, 最終 的に31例 (男児15例 ,女児16例)の連続 症例を対象とした.Hotz床の装着開始時週齢は平均4週(範囲1〜9週)であった.
ロ 唇形成術は当院形成外科の熟練した術者3名が平均4.7か月(範囲3〜6か月)に 行 った.二段階口蓋形成術の初回手術は,初期の4例ではPerko法,その後の27例 で はFMow変 法に より 施行 され た. 当セ ンター の熟 練し た術 者1名が 平均1.8歳
(範囲1.4〜2.1歳)で行った.平均5.2歳(範囲4.9〜6.3歳)で模型採得を行い評
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価 資料 とし た. なお ,模 型採 得時 以前には,全ての症例で歯科矯正治療,顎裂 部骨移植術および咽頭弁移植術は実施していなかった.
方法
1. 5‑year‑olds indexによる評価
評価 者全員が一同に会して事前に十分なcaibrぬonを行った.基準模型を参照 しながら上下顎の乳歯列模型の咬合状態をくめup1:eXcellent,(弧up2:good,
( 加up3: 鋤r,Group4:poor,Group5:veヴpoorの5段階に分類し,それぞれ1
〜5の スコアを与えた.模型評価は,口唇口蓋裂治療に十分な経験を積んでいる 4名 の 評 価 者 ( う ち2名 は 外 部 者 ) に よ り , 日 を 分 け て2回 実 施 さ れ た . 2.Hudd刪Bodenhamindexによる評価
個々 の歯 の水 平的 被蓋 関係 の程 度を5段階 に分 けて ―3〜 十1のスコアを与え た . 評 価 は , ロ 唇 口蓋 裂治 療に 十分 な経 験を 積ん でい る2名 の評 価者 (う ち1 名は外部者)により日を分けて2回実施された・
3.統計解析
5‐year・01ds indeXとHuddaIt凪odenhamindexの評価における評価者内および評 価者間の一致度について重み付きカッパー値で検定した.また,5‐yeむolds indeX とHuddart凪odenhamindexとの相関関係はSpean弧anの順位相関係数(p)を用いて 算出した.
結果
1.評価者内および評価者間一致度
重み付きカッバー値による評価基準を表1に示す.5―yearlolds.indexにおける 評価者内一致度は0.89から0.95で Verygood であり,評価者間一致度はO.63か らO.89で Veヴgood から Good であった.また,Hudda州BodenhamindeXにお ける評価者内一致度はO.77とO.79で Good であり,評価者間一致度はO.65と
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0.73で Good"で あった.
2. 5‑year‑olds ̄indexによる評価結果
当 セ ン 夕 一 に お け る 全31症 例 に お け る ス コ ア の 平 均 値 は2.94で あ り , ス コ ア 1と2は , そ れ ぞ れ5.7% と1713% で 併 せ て23.0% , ス コ ア3は56.5% , ス コ ア 4と5は ,そ れぞ れ18.6% と2.0%で 併せ て20.6% であ った .
こ れ ま で に 報 告 さ れ た 国 内 外 の 他 施 設 結 果 と の 比 較 を 行 っ た . 当 セ ン タ ー , 大 阪 府 立 母 子 保 健 総 合 医 療 セ ン タ ー 口 腔 外 科 ( 以 下 : 大 阪 ) , 九 州 病 院 口 唇 口 蓋 裂 ク リ ニ ッ ク ( 以 下 : 九 州 ) の 国 内3施 設 の 平 均 ス コ ア は , ほ ば 同 様 の 値 で あ っ た . 当 セ ン タ ー と 比 べ て , 大 阪 , 九 州 と もに スコ ア分 布の ばら っき が 高い 傾向 があ る.
大 阪 で は ス コ ア1+2の 割 合 は 国 内3施 設 の 中 で 最 も 高 く , 当 セ ン タ ー と 比 べ 九 州 で も ス コ ア1+2の 割 合 は 高 い 傾 向 が あ っ た . し か し , ス コ ア3を 含 め て ス コ ア1+2+3の 占 め る 割 合 と し て み る と ,3施 設 の 中 で 当 セ ン タ ー が 最 も 高 い 傾 向 を 示 し て い た . 大 阪 , 九 州 で は と も に 将 来 的 に 顎 矯 正 手 術 が 必 要 に な る と 見 込 ま れ る ス コ ア4+5は 約30% を 占 め , 当 セ ン タ ー よ り も 高 か っ た . 一 方 , 欧 州 に お け る 多 施 設 比 較 研 究Euroclefi proect参 加 施 設 の 結 果 は , 当 セ ン タ ー を 含 め た 国 内 3施 設 と 比 べ て , ス コ ア1十2の 割 合 が 非 常 に 高 く , ス コ ア4十5の 症 例 の 割 合 は 非 常に 低か った .
3.HuddamB0denhamindexによ る評 価結 果
当 セ ン タ ー に お け る 全31症 例 のtotalス コ ア は ‐6.6で あ っ た .majorsegment の スコ アは −1.2,minorsegmentのス コアは‐1.8であり,両segment部と,も被蓋は 良 好で あっ たが ,1cisorのス コア は‐3.7で乳 前歯 部の 反 対咬 合が多く認められた.
国 内3施 設 の 結 果 と 比 較 す る と ,totmス コ ア は 大 き い 順 に 大 阪 , 当 セ ン タ ー 九 州 で ,incisorは 大 阪 , 九 州 , 当 セ ン タ ー で あ っ た .minorsegmentな ら び に 両 segmentの 和は ,当 セン ター が 最も 大き かっ た.
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4. 5‑year‑olds.indexとHuddarUBodenham indexと の 相 関 結 果
当 セ ン タ ー に お け る 全31症 例 の 5‑year‑olds indexとHuddarUBodenham index と の 相 関 を み る と ,Spearmanの 順 位 相 関 係 数(p)はtotalで‑0.74(PくO.Ol) で あ り , incisorで は‑0.77(Pく0.01) ,maorSegmentで は ‐O.23(P冫O.05) ,ITlinorSegmロlt で は ‐0137(O.01くPくO.05) で あ っ た .totmとincisorで は 強 い 相 関 関 係 が 認 め ら れ た が ,majorsegmentとminorsegmentで は 相 関 関 係 は 弱 か っ た .
結 論
1. 本 プ 口 ト コ ー ル に よ る 治 療 で は , 矯 正 治 療 に て 改 善 が 見 込 ま れ る と さ れ る 症 例 の 割 合 は 約 80% を 占 め , 他 の 国 内2施 設 に 比 べ て 将 来 的 に 顎 矯 正 手 術 が 必 要 に な る と 見 込 ま れ る 症 例 の 割 合 は 最 も 低 く , 上 顎 のconapseは 小 さ い 傾 向 が あ っ た .
2. 当 セ ン タ ー を 含 む 国 内 3施 設 と 欧 州4施 設 と の 比 較 で は , 欧 州4施 設 に お い て 矯 正 治 療 を 要 し な い , も し く は 要 し た と し て も 簡 単 な 矯 正 治 療 で 咬 合 状 態 が 改 善 す る と 見 込 ま れ る 症 例 の 割 合 は 高 く , 将 来 的 に 顎 矯 正 手 術 が 必 要 に な る と 見 込 ま れ る 症 例 の 割 合 は 低 か っ た . こ れ は 手 術 方 法 の 違 い に よ る 結 果 と い う よ り は 人 種 差 に よ る と 考 え ら れ , 国 際 標 準 の 評 価 法 と さ れ る5‐yearIolds indeXは 異 人 種 間 の 比 較 に は 問 題 の あ る 可 能 性 が 推 測 さ れ た ・
3. 当 セ ン タ ー を 含 む 国 内3施 設 間 な ら び に 欧 州4施 設 間 で5‐yea卜01ds indexに 大 き な 差 は み ら れ な か っ た こ と か ら , 習 熟 度 の 高 い 術 者 が 適 切 な プ ロ ト コ ー ル に し た が い 治 療 す れ ば , 口 蓋 閉 鎖 の 時 期 や 術 式 が 異 な っ て も 比 較 的 良 好 な 結 果 が 得 ら れ る の で は な い か と 考 え ら れ た .
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学位論文審査の要旨 主査 副査
副査
教授 教授 准教授
鄭 北川 三古谷
学 位 論 文 題 名
漢忠 善政 忠
二段階口蓋形成術を施行した片側完全唇顎口蓋裂児における 咬合関係の評価
審査 は、上記 担当者に よる申請者に対する提出論文と関連事項についての 口頭 試問によ り執り行 われた。 審査を行った論文の概要は以下の通りである。
口唇 口蓋裂治 療において 、一次治 療の時期 や術式、 術者の習熟度は正常構音の 獲得 や顎発育 の経過に大 きな影響 を与える 。これま で多種多様な一次治療が提 唱さ れ、それ らの有用性 について 多くの議 論がなさ れてきたが、いまだ有用な 治療 法の確立 には至って いない。1990年代、北 欧諸国と英国が中心となって組 織さ れたEurocleft projectが始動した。このproj ectにおいて咬合関係をみる こと によって 一次治療の 顎発育へ の影響を 早期に予 測しうる評価法として採用 されたもののーっが5‑year‑olds indexである。この方法はやや概観的であるこ とか ら、これ を補う他の 評価法と してHuddart/Bodenham indexが用いられる。
北海 道大学病 院高次口腔 医療セン ター(以 下,当セ ンター)では,1995年か らHotz床 を用いた 術前顎矯正 治療と二 段階口蓋 形成術を組み合わせた治療プロ トコ ールによ るロ唇口蓋 裂治療を 実施して きた.本 プロトコールで治療を行っ た片 側完全唇 顎口蓋裂の 咬合関係 を上に述 べたニつ の方法で前向き評価し,当 セン ターの治 療成績をこ れまでに 報告され た国内外 の他施設成績と比較検討し た.
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1995年7月か ら2006年9月ま での 片側唇顎口蓋裂の一次治療症例31例(男児15 例,女児16例)を対象とした.平均5.2歳(範囲4.9〜6.3歳)で模型採得を行い 評価資料とした.
4人の 評価 者が ニつ の評 価法 を用 いて31名 の咬合 関係 を評 価し た。評価者内お よび 評価 者間 一致度 は良 好で あっ た。当センターの治療では,矯正治療にて改 善が 見込 まれ るとさ れる 症例 の割 合は約80%を占め,他の国内2施設に比べて将 来的 に顎 矯正 手術が 必要 にな ると 見込まれる症例の割合は最も低かった。当セ ン タ ー を含 む 国 内3施 設 と 欧 州4施 設 と の 比 較 では ,欧 州4施 設に おい て矯 正 治療 を要 しな い,も しく は要 した としても簡単な矯正治療で咬合状態が改善す ると 見込 まれ る症例 の割 合は 高く ,将来的に顎矯正手術が必要になると見込ま れる 症例 の割 合は低 かっ た. これ は手術方法の違いによる結果というよりは人 種差によると考えられ,国際標準の評価法とされる5‑year‑olds indexは異人種 間の比較には問題のある可能性が推測された・
論 文審 査に あた って は、 申請 者に よる 学位論文要旨についての説明後、担当者 に より 研究 内容および関連事項についての質問を行った。主な質問事項は、1) 評 価者 はそ れぞ れの 評価 法を どの よう に修 得し たか、2) 統計 解析 法について
、3) 九州 大学 と大 阪母子 セン ター のデ ータはどのように得られたか、4)二段 階 法 はpush back法 と 比較 して 構音 とい う点 では どう なのか 、5)Pe rko法と Furlow法の 術式 の違 いは など であ った 。これらの質問に対しては申請者から適 切 かつ 明快 な回 答お よび 説明 が得 られ 、研究の立案と遂行ならびに結果の収集 と その 評価 につ いて 、申 請者 が十 分な 能カを有していることが確認された。本 研 究は 、当 セン ター の片 側唇 顎口 蓋裂 の治療成績を共通の評価法を用いて国内 外 の施 設と はじ めて 比較 した もの であ り、今後の唇顎口蓋裂治療のグローバル ス タン ダー ド確 立へ の第 一歩 とい える 業績であることが高く評価された。申請 者 は、 関連 分野 にも 幅広 い学 識を 有し 発展的研究にも意欲的であり、今後の研 究 につ いて の将 来性 も期 待さ れる 。本 研究業績は口腔外科領域に寄与すること 大 で あ り 、 博 士 ( 歯 学 ) の 学 位 に 値 す る も の と 認 め ら れ た 。
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