Module 15.1
急性腎障害
Acute Kidney Injury
キーメッセージ
・ 重症患者における AKIは多臓器障害を伴っているこ とが多い。
・ AKI患者はしばしば Protein Energy Wasting (PEW)を引き起こし、PEWはそれ自体が予後不良 因子である。そのため、RCTに基づくエビデンスは ないが、静脈栄養や経腸栄養を用いた栄養サポート がしばしば必要となる。 ・ AKIの有無にかかわらず栄養サポートの主要な目標 は同じである。 ・ 腎代替療法を行っている AKI患者では少なくとも 1.5g/kg/日のタンパクと30kcal/kg以下の非タ ンパクエネルギーまたは、1.3×基礎代謝エネルギー (Harris-Benedict式で計算)を投与する。また、 エネルギーの30-35%は脂質で投与する。腎代替療 法に伴うタンパクやアミノ酸の喪失を補うため、タンパ ク投与は0.2g/kg/日程度追加すべきである。 ・ AKI患者であっても、経腸栄養法が優先される。しか しながら、特に胃腸障害のある場合は、静脈栄養もし ばしば用いられる。 ・ AKI患者は、腎機能障害があり、腎代替療法が頻繁 に必要となるため、高血糖、高中性脂肪血症、体液過 剰、電解質異常、酸塩基異常などをきたしやすい。 ・ AKIはさまざまな状態があるため、どのような栄養サ ポートを行うべきかをしばしば再評価する必要がある。
1.はじめに
入院患者に発症する急性腎障害(Acute Kidney Injury;以下、AKIと略)は、ICU重症患者に特によく 見られる病態で、不良な予後に直結するといわれている。 AKIの病態は腎機能が突然かつ急速に増悪することが 特徴で、その発生頻度は、ICU患者の10-30%とされる。 ICU患者の救命率の向上に伴い、この10年間に AKIの 患者は約4倍と急激に増えてきた。従ってAKIが単独で 発生することは稀で、多くは多臓器不全症候群の一病態*Topic 15 Nutritional support in renal diseases
特集:ESPEN-LLLに学ぶ(続編)
Topic 15 腎疾患における栄養サポート*
keywords:
急性腎障害(AKI)、慢性腎臓病(CKD)、Protein Energy Wasting(PEW)
三木誓雄1) Chikao MIKI 濵田康弘2) Yasuhiro HAMADA Module15.1:Enrico Fiaccadori
Module15.2:Vladimir Teplan Module15.3:Cano Noël Module15.4:Daniel Teta
◆伊賀市立上野総合市民病院 外科1) 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部疾患治療栄養学2) Department of Surgery, City General Hospital IGA1)
Department of Therapeutic Nutrition, Institute of Health Bioscience, The University of Tokushima Graduate School2)
として発症し、AKIの合併により在院日数は2倍になり、 在院死亡率は4倍に上昇する(図1)。また AKIでは、腎1) における恒常性維持機能の障害に伴い、持続的に増悪 する代謝異常をきたすが、腎代替療法の付加により、さ らに栄養療法が複雑になる。
2.AKI患者の栄養状態
AKIの患者は代謝異常に基づく栄養不良をきたしや すいが、その栄養評価自体極めて困難である。従来の 栄養パラメーターは、AKIそのものや、さらにその基礎 疾患により修飾されることが多く、最も一般的な栄養指 標である体重さえも体水分量増加で指標として用いるこ とが困難となる。最近 AKIの栄養不良を定義するため Protein Energy Wasting (以下、PEWと略)という 概念が用いられている。PEWはタンパク質とエネルギー 源が枯渇している状態と定義され、AKIでも慢性腎臓 病(Chronic Kidney Disease; CKD)も起こりうる、 一種の代謝ストレスである。現在のところ単独で PEW を診断できるパラメーターがないので、4つのカテゴリー を組み合わせ(生化学的指標、体重減少、筋肉喪失、摂 取エネルギー・タンパク量の低下)て、総合的に診断され る(表1)。2) 最近、ヨーロッパ臨床栄養・代謝学会(以下、ESPEN と略)、米国静脈経腸栄養学会(A.S.P.E.N.)では腎不 全患者の PEWに対する栄養療法のガイドラインを設定 し、啓蒙に務めている。腎疾患におけるPEWの診断指 標は表1に示すように数多くあるが2)、患者個人の栄養状 態を含め、栄養療法の効果を継続的に評価できる有用 な方法はない。また Subjective Global Assessment (SGA)による評価で Class Cと診断され PEWに至る と、院内死亡率は60%に達し、Class Bの30%、Class Aの20%に比較して有意に高いことが報告されている3) (図2)。AKIにおける PEWの原因として以下の7要因 が挙げられている。すなわち1)不適切な栄養摂取、2)サ イトカインストームによる全身性炎症反応症候群、3)尿 毒症、4)内分泌異常(インスリン抵抗性の増大、異化ホ ルモンの過剰分泌、同化ホルモンの産生低下)、5)タンパ ク分解酵素の発現、6)代謝性アシドーシス、7)腎代替 療法に伴う栄養素の喪失などである。さらに、AKIは 敗血症、外傷、火傷などの重篤な病態に伴うことが多い ことから、これらの要因が複合して PEWに至っている ことが多い4)。 表1 AKIにおけるPEW診断の臨床指標3.AKIにおける栄養素および栄養基質代謝
腎における恒常性、代謝機能の喪失に伴い、AKIで はエネルギー代謝が破綻すると考えられている。また、 最終的に腎のみならず、肝、骨格筋、脂肪組織における 代謝異常もきたすので、全身の異化が高度になり栄養補 給の重要性はより高くなる。 3.1.グルコース AKIにおけるグルコース代謝はしばしば異常をきたし 人工栄養の継続を困難にする。高血糖とインスリン抵抗 性の増大が共通の病態であり不良な予後と関連するとさ れる。糖代謝異常としては、肝ではグリコーゲン分解の 促進、糖新生の亢進、糖・アミノ酸酸化の抑制がもたら される。一方、急性相タンパクの産生が亢進しアルブミン の産生が抑制される。腎では糖新生が抑制され、グルタ ミン利用が亢進する。 3.2.タンパク質 タンパク質の異化亢進が AKIの特徴的な変化である。 窒素バランスが負になり骨格筋が喪失し除脂肪体重が 減少する。骨格筋に対してはインスリン依存性の糖酸化 抑制、乳酸・アラニン産生の亢進が生じ、タンパク合成 が低下し、その結果異化が亢進する。また、アルブミン 合成の抑制、急性相タンパク産生の亢進、BCAA酸化 の抑制、尿素合成の亢進が惹起される(図3)。4) 図2 PEWはAKI患者の高い在院死亡率と関連している 図3 重症基礎疾患とAKIは相乗的に異化反応を誘導する3.3.脂肪 血中の中性脂肪、VLDLのレベルが上昇し、コレステ ロール、HDL、LDLのレベルは低下する。脂肪組織に 対してはインスリン依存性の糖酸化抑制、乳酸産生の亢 進、脂肪酸放出の亢進などを惹起する。また、中性脂肪 の水解によるグリセロールの産生の亢進、脂肪酸の放出 の亢進が起こる4)。経静脈的な脂肪乳剤の投与に関して は、中性脂肪の血中クリアランスは低下しているが、脂肪 酸の酸化そのものは維持されている。さらに腎代替療法 はアミノ酸、タンパク質を喪失させ栄養状態に大きな影 響を与える。特に分子量の小さいアミノ酸は1回の透析 で10-20g喪失すると言われ、持続的腎代替療法では投 与されたアミノ酸の10-15%が失われる5)〜12)。敗血症患 者に用いるエンドトキシン吸着カラムでも、24時間で 6-14gのアルブミンが失われる13)。
4.AKIで必要な栄養素
4.1.三大栄養素 必要な栄養は AKIの病態そのものより、むしろ急性 期基礎疾患の重症度、栄養状態、慢性期合併疾患の病 態に依存する。一般に AKIにおけるタンパク異化率は 1.4-1.8g/kg/日であるとされ14)〜16)さらに AKIにおける 安静時熱量消費量(以下、REEと略)は、27 kcal/kg/ 日で他の ICU患者の REEと同程度に亢進していると 報告されている17)。Maciasらは AKI患者において投与 エネルギー、タンパク量と窒素バランスとの関係を評価 し、エネルギー窒素比、エネルギー投与量から換算して 窒素バランスが最適になる1日投与量は、25-30kcal/kg 及び1.5g/kg/タンパクであるとした18)(図4)。また Fiaccadoriらは AKIの患者で高カロリー輸液を用いて 投与エネルギーを増加させ窒素バランスをさらに正にす ることが可能かどうか試みたが、30kcal/kgを40kcal/ kgに増やしても窒素バランスに変化はなく、エネルギー を単に増加させることに意味がないとした19)。むしろ AKI患者に対する高カロリー輸液の問題点として、輸液 量の増加、インスリン必要量の増加、高血糖などの問題 が指摘されている19)。アミノ酸、タンパクの投与を増やす 試みもなされているが、かえって窒素バランスが負になる、 高尿素窒素血症をきたし、より高頻度の透析が必要にな る、臨床成績の向上に全く寄与しなかったという結果の 報告が相次いだ20)21)。さらに間接熱量計を用いたエネル ギー代謝の研究でAKIでは糖質よりも脂質の酸化が優 位になっていることが明らかとなった22)。以上を基に ESPENが策定したガイドラインでは、腎代替療法を施 行しているAKIの患者に対して、補給すべき必要な栄 養はタンパクとして最低量1.5g/kg/日で、それに腎代替 療法で喪失する0.2g/kg/日を付加するとなっている。 さらに1日投与エネルギーとしては25-30kcal/kg/日を 超えないものとし、非タンパクエネルギーの3分の2を糖 質に、3分の1を脂肪とすべきとしている23)(図5)。 4.2.微量栄養素 微量元素、ビタミンに関して AKIの患者にどれだけ 必要かは明らかではない。しかしながら微量元素、ビタ ミンに関してはほとんどが AKI及び持続的腎代替療法 により体内量が減少するが、通常量の経静脈投与量で 不足分を充分に賄うことが出来るとも考えられている。 水溶性ビタミンは体外循環で失われるが、ビタミン Cに 図4 エネルギー摂取量、タンパク摂取量が窒素バランスに 相互的に及ぼす影響 図5 ESPENガイドライン関しては最大限150-200mgを投与すれば充分である。 AKIをきたした重症患者においては、低ナトリウム血症、 高ナトリウム血症、高カリウム血症、高リン血症、代謝性 アシドーシスといったものを合併しやすく十分に注意を 払うことが必要である。 人工的栄養に関しては未だ十分なエビデンスは示され ていないが、AKIに対する経腸栄養の安全性や静脈栄 養との組み合わせの有用性は指摘されている24)25)。腎代 替療法を継続することにより良い栄養補給が可能になる と考えられており、実際、連日透析療法により処方栄養 量の90%程度が実際に投与できるようになる26)。
5.AKIに対する栄養サポートの目的
AKIに対する栄養サポートの第一の目的は異化をき たしている重症患者に対する栄養サポートと同じである。 すなわち PEWを予防するためにエネルギーとタンパク 質を供給すること、除脂肪体重と栄養状態を維持するこ と、さらなる代謝異常を防ぐこと、免疫能を高め死亡率を 下げることである。6.PEW、栄養サポートと臨床成績
栄養状態は AKIの主要な予後規定因子である。高度 の PEWは不良な予後に直結する。AKIにおける栄養サ ポートの効果を示した研究の多くは経静脈栄養によるも のである。AKIにおける負の窒素バランスは不良な予後 と直結しているが、経静脈栄養を受けている場合に比較 して経腸栄養を受けている患者の方が、予後が良いとさ れている。また、アミノ酸の投与が腎機能の回 復に役立つ可能性がある。7.AKIにおける栄養療法の適応と
補給経路
AKIにおける栄養療法の適応は他の重症 疾患とほぼ同じである。投与経路に関しては 消化管の機能により決定される。腎不全によ り消化管の運動機能が障害されることがある が経腸栄養が消化管合併症の予防になるとい うエビデンスはない。経腸栄養自体による合 併症はたいした問題ではないが、一般的に用 いられる栄養剤ではタンパク質が不足しがち であり、その意味でアミノ酸の補充が必要である。経腸 栄養と静脈栄養を組み合わせることがより効果的になる かもしれない。8.栄養サポートのための病態別栄養剤
標準的な栄養剤は AKIを有する重症患者の大多数 に適していると言えるが、慢性腎臓病患者に対しては病 態別栄養剤が必要とされる。AKIでは代謝異常が多岐 にわたり、特定の栄養剤を用いることは困難であるが、 必要窒素量を満たすため経静脈的なアミノ酸投与が必 要な場合がある。9.AKIにおける栄養サポートの選択
AKIの患者の多くはPEWを既に有していることが多 い。したがって、AKIの患者に対する経静脈あるいは経 腸栄養は有用である。栄養サポートの最も重要な目的は、 腎機能が正常な重症患者に対するものと同じである。す なわち、適切な栄養を供給すること、PEWと関連する代 謝異常を防ぐこと、創傷治癒と組織修復を促進すること、 免疫能をサポートすること、回復を助け死亡率を下げるこ とである。腎代替療法を受けているAKI患者は1.5g/ kg/日のタンパク質に代替療法で失われる0.2g/kg/日 のタンパク質を補填する。投与エネルギーは30kcal/kg/ 日、あるいは1.3×BEEを超えないものとし、30-35%は 脂質とする。投与方法は図6に示す通り決定する。 (三木誓雄) 図6 AKI患者に対する栄養サポートのフローチャート参考文献
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Module 15.2
慢性腎臓病ステージ3-4に対する
栄養療法
Nutrition Support in CKD 3-4
キーメッセージ ・ 十分な栄養スクリーニングとモニタリングは CKD における長期予後に影響を与える。 ・ 不十分な栄養ケア、主に代謝性アシドーシスによる代謝 異常、ホルモン異常、慢性炎症および重度タンパク尿に 伴う栄養素の喪失が低栄養の主要因と考えられる。 ・ 上記以外の低栄養を引き起こす因子としては低い社 会的地位、貧困、歯科疾患、消化障害などがあるかも しれない。 ・ PEWは体重減少、20kg/m2未満の BMI、筋肉量 の減少、アルブミンやトランスフェリンの低下を引き 起こし、これらはすべて CKDにおける疾病率や死 亡率に影響を与える。 ・ PEW、慢性炎症、代謝異常は動脈硬化を促進する (MIA症候群)。 ・ 不十分な食事摂取によると考えられる軽度低栄養患 者に対しては、まず栄養カウンセリング、栄養サプリ メントを試すべきである。 ・ 重度低栄養患者に対しては、栄養カウンセリングに加 えて経管栄養が必要となるかもしれない。 ・ 食事摂取が20kcal/kg/日以下で重症感染症や 外科手術といったストレス下にある。重度低栄養患 者には毎日の栄養サポートが必要となる。また、可能 であれば、静脈栄養より経腸栄養を優先する。1.はじめに
腎疾患は低栄養の原因になり、栄養状態と栄養サポー トの有無が QOL、生存率、病状の進行に影響を与える。 慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease;以下、CKD と略)における低栄養の原因としては、食事摂取量の減 少、代謝異常、代謝性アシドーシス、MIA症候群、ホル モン異常、インスリン抵抗性の亢進、消化器疾患の合併 などがあげられる。栄養療法の戦略は以下の代謝異常 に基づいて決められる。すなわちインスリン抵抗性、血 中脂質クリアランス、代謝性アシドーシス、低カルシウム 血症、高リン血症、二次性副甲状腺機能亢進症、ビタミン D活性化障害、高カリウム血症、腎性貧血、全身性炎症 反応、タンパク異化の亢進などである。2.CKD患者における栄養療法の目的
CKD患者における栄養療法の目的は、低栄養を避け ること、代謝異常を減少させること、腎障害の進行を遅 らせることである。3.CKDにおける栄養評価
CKDにおける栄養障害・PEWは単なる飢餓と異なり、 まず筋タンパク、内臓タンパクの喪失に始まり、最終的に 脂肪組織の喪失に終わる。PEWは低栄養状態での透 析導入の要因となるので、栄養学的欠乏状態を早期に発 見する必要がある。一つのパラメーターでは全身の栄養 状態を評価することは困難なので、複数のパラメーター を結合させて評価する必要がある。 3.1.CKDにおける栄養状態の評価 栄養士による過去3日間の食事摂取調査が推奨され ている。客観的な評価も確立されている。血中 BUN値、 尿中 UN値から評価できるタンパク質異化率、リンの食 事摂取量に相関する。 3.2.身体計測 CKDでは、体組織測定値は栄養と無関係の因子に影 響を受けやすく、評価には慎重に行う必要がある。 3.2.1.体重 体重は水分バランスの影響を受けるものの、短期間の 変化は水分バランスの変化を、長期間の変化は体組成の 変化を測定するのに有用である。したがって、定期的な 体重測定を続けることは臨床的に意義がある。 3.2.2.皮下脂肪厚と上腕筋周囲長 浮腫や水分量の変化がなければ、皮下脂肪厚は全身 の脂肪量と相関する。同様に上腕筋周囲長は全身のタン パク量と除脂肪体重の良い指標となる。いずれも定期的 な測定による経時的な変化を評価する。3.3.血中タンパク質 血中のタンパク質は肝における産生量を反映する。血清 アルブミン値は腎疾患患者の予後指標とされているが、そ の一方で体水分量に左右されるので注意が必要である。 また、血中半減期が9日と短いトランスフェリンも PEMの マーカーとして用られている。同様にレチノール結合タン パク、プレアルブミンも栄養指標として有用である。コリン エステラーゼ、フィブロネクチン、IGF-1も栄養指標となる が、ルーチンに測定されているものではない。 3.4.他の生化学検査 血中クレアチニンは比較的筋肉量に相関しているとは いえ、クレアチニン/身長係数は CKDでは低下する。血 中尿素窒素、カリウム、リンは食事摂取量、タンパク質量を 反映し、血中コレステロールは PEWの指標となり、尿中3 メチルヒスチジンは筋肉量、タンパク質異化率と相関する。 3.5.免疫能 免疫能はしばしば腎不全で低下する。CKDでは、C3、 C3a、Clqが低下する。総リンパ球数も低下し、好中球の 機能も損なわれる。 3.6.窒素バランス 窒素バランスは正確に測定すれば非常に有用である が、多大な時間を要するためあまり用いられない。 3.7.アミノ酸分画 CKDのアミノ酸パターンは特徴的であるが、アミノ酸 投与により部分的に修飾される。 3.8.体組成 生体インピーダンス法による総水分量、細胞内水分量、 除脂肪体重の測定や、DEXAによる骨組織、軟部組織 の測定が広く用いられている。
4. CKDにおけるPEWの発生頻度
PEWは CKD ステージ4-5の患者により多く認めら れ、透析開始時には30-40%が PEWの状態に至るとさ れる。PEWの存在は QOL、罹患率、死亡率に悪影響を 及ぼす。CKDの各ステージにおける PEWの発症率は ステージ1-4では28-48%であるが、ステージ5になると 75%まで上昇する1)2)(図1)。また、GFRの低下とともに 減少するエネルギー摂取量により、多くの栄養指標も悪 化する3)。CKDにおけるPEWの原因には以下のものが 図1 PEWの発症率はステージ1-4 では28-48%であるが、ステージ5になると75%まで上昇するESRD
Stage 5
kidney failureあげられる。すなわち消化器症状に伴 う食事摂取量の低下、タンパク尿に伴 う栄養素の喪失、全身性炎症反応の 亢進、インスリン抵抗性・副甲状腺ホ ルモン(PTH)上昇・エリスロポエチン 欠乏などのホルモン異常、貧困などの 社会的要因などである。また、糸球体 濾過量(以下、GFRと略)の低下とタン パク質摂取量の低下が相関し、炎症性 サイトカインが食欲増進、減退のバラ ンスを乱していることも明らかとなって いる(図2)。4) PEWは炎症、尿毒素、栄養状態低 下が複合的に連鎖した病態であり、タ ンパク質の摂取量低下とアミノ酸酸化 の亢進に伴うタンパク質異化の亢進、 合成の低下に基づく病態である1)5)(図 3)。また細胞レベルでは筋肉の増殖を 抑制するMyostatinの血中レベルが 増加し、成長因子であるIGF-1のレベ ルが低下し、それにより筋タンパクの異 化が亢進し合成が抑制されている4)。
5.PEWが罹患率、死亡率、
腎機能に与える影響
5.1.PEWが罹患率、死亡率に 与える影響 PEWは不良な予後と関連している が、予後不良の原因は複合しており、 栄養関連の原因を単独として特定する ことは困難である。保存期 CKD患者 ではアルブミン値が低いほど全死亡率 が高くなり、アルブミン値が25g/L以 下では正常の患者の2-2.5倍に危険率 が上昇する2)(図4)。PEWの診断は血中マーカーレベル、 体組成、筋肉量、食事摂取量の4 カテゴリーのうち3 カ テゴリーで異常がある場合に診断される(表1)。また、 CKD患者の栄養状態の評価には以下のものが有用とさ れる。すなわち食事聞き取り調査、体重・皮下脂肪厚・ 上腕筋周囲長の測定、血中タンパクの測定、クレアチニ ン・尿素動態の測定などである。臨床で用いることので きる器械としては BIA、DEXAなどがあり、研究レベ ルでは窒素平衡、ニュートロン活性分析、筋生検、MRI、 アイソトープなどがある。一日尿中窒素排泄量から食事 摂取に含まれるタンパク量も類推できる6)。 図2 炎症はCKDS患者の食欲増進、減退のバランス不良に影響を与える重要な 因子である 図3 筋タンパクの喪失はタンパク質の摂取量低下とアミノ酸酸化の亢進に伴う タンパク質異化の亢進、合成の低下に基づく病態である。表1 PEWの診断は血中マーカーレベル、体組成、筋肉量、食事摂取量の4カテゴリーのうち3カテゴリーで異常が一つ でも見つかった場合に診断される
図4 透析を受けていないCKD患者ではアルブミン値が低いほど全死亡率が高くなり、アルブミン値が25g/L以下では 正常の患者の2-2.5倍に危険率が上昇する
5.2.PEWが腎機能に与える影響 PEWは腎の酸・塩基除去能を阻害し、腎血流量、 GFR、尿濃縮能を低下させる。
6.低栄養をもたらす原因
6.1.CKDにおける二種類の低栄養 PEWの病因は複合している。その主たる原因として は食事摂取量の低下、脂質、糖代謝異常、アミノ酸分画 異常、ホルモンの異常、栄養素の喪失と代謝性アシドー シスなどが上げられる。重症 CKD患者では PEWの主 たる原因は慢性炎症であり、炎症の軽減が治療の目標と なる。 6.2.低栄養の重要な原因は不適切な 栄養摂取である CKD患者の多くはエネルギーバランス が負になっている。35kcal/kg/日の推奨 量に対し、25-30kcal/kg/日の摂取量に なっていることが多い。同様にタンパク以 外の栄養素も不足している。代謝性アシ ドーシスはタンパク崩壊、アミノ酸酸化を 助長し、ユビキチンが媒介するタンパク崩 壊を促進し、インスリン活性と糖利用を阻 害するのでアシドーシスを補正することに より、窒素バランスが改善する。7.CKDにおける栄養管理
古くからある CKDの主たる保存的治療 はタンパク制限食である。タンパク質摂取 制限により尿素窒素、窒素老廃物、リン、カ リウムなどの蓄積が減少する。CKD患者 の栄養管理の目的は PEWの予防と治療、 筋タンパク崩壊の予防、副甲状腺機能亢進 症の予防、アシドーシスの補正、尿毒症時 の代謝異常の是正であり、栄養治療により 理想的な体組成を維持し、QOLを高め CKDの進行が制御出来ねばならない。8.CKD3-5の患者の保存的栄養療法
8.1.低タンパク食 8.1.1.従来の低タンパク食低タンパク食(low protein diet; 以下、LPDと略)は CKDステージ 3-4の主たる栄養療法である。しかしな がら充分なエネルギー補給のないタンパク制限は PEW の原因になる(図5)。CKDステージ 3-4患者のタンパク 摂取制限の合理性は、制限により代謝適応が生じ、アミ ノ酸酸化、タンパク合成の低下とともにタンパク異化も低 下することにある(図6)。通常行われているLPDでは一 日尿中タンパク量が1.5g以下の場合は理想体重あたり、 0.6-0.8g タンパク/kgとし、1.5gを超える場合は同量の 図5 低タンパク食(LPD)はCKDステージ 3-4の主たる栄養療法である。しかし ながら充分なカロリー補給の無いタンパク制限はPEWの原因になる 図6 ステージ3-4のCKD患者のタンパク摂取制限の合理性は制限により代謝 適応が生じ、アミノ酸酸化、タンパク合成の低下とともにタンパク異化も 低下することに示される
タンパク量を補填すべきである。LPDによりBUNは 25mmol/L以下にコントロールでき、リンの摂取量も 800mg/日へ減少させることが出来る。血中アルブミン が3.0g/dL以下に減少する場合はタンパク摂取量を増 やす。ケトアミノ酸の投与が有効な場合もある。 8.1.2.超低タンパク食 より進行した CKDステージ 4-5の患者では超低タン パク食(very low protein diet; 以下、VLPDと略)に 必須アミノ酸を含むケトアミノ酸を加える。実際の処方 ではタンパク食(0.3g タンパク/kg/日)に必須アミノ酸 を含むケトアミノ酸(0.4g タンパク/kg/日)を加えてタ ンパク質総量が0.7g/kg/日とすれば充分であり、ケトア ミノ酸により血中尿素窒素は低下する。ロイシン、イソロ イシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、 スレオニン、リジン、ヒスチジンが VLPDに加えられる。 適切なエネルギー投与があれば VLPDでも窒素バラン スは保たれる。 8.2.エネルギー必要量 LPD、VLPDの栄養学的有用性は適切なエネルギー 摂取に基づく。35-45kcal/kg/日程度の高いエネル ギー摂取は LPDにおいても窒素バランスを改善させる。 投与エネルギーのうち脂肪が占める割合が30%以下、ま たは飽和脂肪酸10%以下が推奨される。 8.3.栄養士の役割 栄養療法の成功は臨床医と栄養士の協力に基づく。 栄養状態や栄養摂取量を綿密にモニターし、管理された LPDは CKDの初期段階の治療法として有効である。 ただし、栄養状態が良好に維持できない場合は、躊躇な く透析療法を考慮せねばならない。
9.栄養療法の腎不全の進行に対する有効性
CKDにおけるLPDの恩恵は GFRの低下を少なくす ること、透析療法の開始を遅らせること、高尿素窒素血 症の症状を改善すること、インスリン抵抗性と酸化ストレ スを減らすこと、血中リン値を低下させること、タンパク尿 を減らすことなどである。実際0.3g/kg/日のVLPDは 6ヶ月間で有意に尿中アルブミン排泄を減少させる7)。 様々な臨床研究でも LPDが透析を必要とする末期腎不 全に至る危険性を31%、死亡率を32%減らすことが示さ れている7)。しかしながらタンパク摂取制限が腎機能の 悪化を遅らせるエビデンスは確立されていない。実験的 研究では LPDが糖尿病性腎症におけるタンパク尿を減 少させることが示されており、また、より腎不全が初期の 段階であるほど LPDが有効であることも示されている。 しかしながら他の要因として腎症の進行に影響を与える ことが明らかなのは、高血圧、タンパク尿、高リポプロテ イン血症、高血糖、カルシウム・リン代謝異常であり8)、タ ンパク制限食がこれらの要因を介して腎症の進行に影 響を与えている可能性はある。また CKDの患者で LPDの意義があるのは PEWが経過中なく、重症疾患 の合併がなく、充分なエネルギーが摂取されている場合 とされている。10.保存的治療を受けているCKDの
栄養療法のガイドライン
10.1.エネルギーとタンパク質 タンパクに関しては動物性よりも植物性の方が血中リ ン値は低く、腎におけるリンの排泄を促進するFGF23 の値を低下させる9)。 CKDステージ 1(正常腎機能) タンパク制限はないが、1-1.2g/kg/日以下とし、エネ ルギーは35kcal/kg/日までとし、肥 満の場 合 25-30kcal/kg/日とする。 CKDステージ 2(GFRが60-70mL/min以上) タンパク摂取量は0.8-1.0g/kg/日、植物性タンパクと 食物繊維を充分に摂取し、エネルギーは35kcal/kg/ 日までとし、肥満の場合25-30kcal/kg/日とする。 CKDステージ 3(GFRが30-60) タンパク摂取量は0.8g/kg/日、植物性タンパクと食物 繊維を充分に摂取し、エネルギーは35kcal/kg/日ま でとし、肥満の場合25-30kcal/kg/日とする。CKDステージ 4(GFR 15-30) タンパク摂取量は0.6g/kg/日、あ るいは0.5-0.6g/kg/日にケトアミノ 酸(100mg/kg/日)を加えたもの、 動物性・植物性タンパクは1対1とし、 喪 失 分 を補う。エ ネル ギ ー は 35kcal/kg/日とする。 CKDステージ 5(GFRが15以下) タンパク摂取量は0.28-0.30g/kg/ 日にケトアミノ酸を加えたもの、動物 性・植物性タンパクは1対1とし、喪失 分を補う。エネルギーは35kcal/kg/ 日とする10)。 10.2.リン 食事に含まれるリンの量が多いほど予後が不良になる ことも示されている。標準一日投与量は5-10mg/kg/日 とする。 10.3.カルシウム 標準一日投与量は1.5-2.0g/日が推奨されている。 10.4.ビタミン 10.4.1.水溶性ビタミン 長期的に見て LPD、VLPDは水溶性ビタミン不足をも たらしやすい。B1、B2、ピリドキシンが低下しやすく、C もさらに低下しやすく100mg/日の摂取が必要である。 10.4.2.脂溶性ビタミン A、E、Kの補充は推奨されていない。活性型 Dは不 足するので、1,25-(OH)2、D3の補充が推奨されている。 10.5.鉄 透析患者では鉄分が不足しやすいので、補充が必要 である。 10.6.微量元素 微量元素の摂取量は少なくなりがちであるが、持続的 な投与は推奨されない。
11.静脈あるいは経腸栄養
保存的な治療を受けている CKDでは経静脈栄養を 必要とする場合はほとんどなく、経腸栄養が困難な時の み適応となる。あくまで経口摂取が困難な時、初期段階、 短期間に限られる。高度の PEWを呈する CKDに対し ては、まず経口サプリメント、経管栄養、経静脈栄養を考 慮するが、どれを選択するかは、低栄養の程度、自発的 な摂取量、患者のコンプライアンスに応じて決める(図7)。まとめ
1)PEWは CKDの特に進行症例でよく認められる。 2)PEWは臨床成績を悪くする。 3)LPD、VLPDが有効であるのは PEWがなく、エネ ルギー摂取量が適切で、定期的に栄養状態が評価され ている場合である。 (三木誓雄) 図7 高度PEWを有するCKDに対する栄養療法の選択参考文献
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10) Cano NJ, Aparicio M, Brunori G, et al. ESPEN Guidelines on Parenteral Nutrition: adult renal failure. Clin Nutr 28(4): 401-14, 2009.
LLL- Module 15.3
血液透析患者における栄養サポート
Nutrition support in
hemodialysis(HD) patients
キーメッセージ ・ 維持血液透析患者においては十分な栄養モニタリン グがきわめて重要である。 ・ 維持血液透析患者の約25%に低栄養状態、すなわち protein energy wasting (PEW)がみら れる。
・ 不十分な食事摂取、アシドーシスをはじめとした栄養
代謝異常、炎症、ホルモン異常、透析治療が低栄養の 主な原因と考えられる。
・ PEWは「body mass index (BMI)<20」、
「10%以上の体重減少 /6ヶ月」、「血清アルブミン <3.5g/dL」、「血清プレアルブミン<30mg/dL」 により診断される。 ・ 栄養サポート(経口補助食品の使用が優先される)に より栄養状態の改善が可能である。 ・ 栄養サポートにより栄養状態を改善させることがで きれば疾病率および死亡率を減らすことができる。 ・ 不十分な食事摂取に起因すると考えられる軽度低栄 養患者に対して、栄養カウンセリングや必要であれば 経口補助食品は試みる価値がある。 ・ 自発的栄養摂取が20kcal/kg/日以上ある重度 低栄養患者に対しては、栄養カウンセリングおよび 経口補助食品の使用を行うべきである。経口補助食 品のコンプライアンスの悪い患者に対しては透析中 の静脈栄養である intradialytic parenteral nutrition(IDPN)を試してみる。また、上記によっ ても栄養状態が改善しない場合は経腸栄養が必要 となるかもしれない。 ・ 自発的栄養摂取が20kcal/kg/日未満やストレス 下にある重度低栄養患者に対しては、毎日の栄養サ ポートが必須である。この際、腸管が安全に使用でき る場合は静脈栄養より経腸栄養を優先して行うべき である。
1.はじめに
維持血液透析(以下、HDと略)患者においてはその程 度はさまざまながら、20〜 70%くらいの頻度で低栄養を きたしている。また、ヨーロッパおよび米国の観察研究に よれば約25%の患者が重度の低栄養状態をきたしている ことがわかっている1)。低栄養は維持 HD患者における疾 病率、死亡率を規定する独立した因子であり、低栄養透 析患者の年間死亡率は25-30%と推定される。高 BMI 患者において疾病リスク、死亡リスクが低くなる、いわゆる 「reverse epidemiology」は栄養状態が予後に影響を及 ぼす重要な因子であることを間接的に示している(図1)2)。2.血液透析患者におけるPEWの原因
不十分な食事摂取、アシドーシスをはじめとした栄養 代謝異常、炎症、ホルモン異常、透析治療が低栄養を引 き起こす主な原因と考えられる。 2.1.栄養摂取量の減少 エネルギーバランスに影響を与えている主なものは食 事摂取量低下である。食事摂取量低下の主な原因は図 2に示すとおりであるが、実際のところHD患者の食思 不振の原因はよくわかっていない。 2.2.栄養代謝変化 2.2.1.アミノ酸とタンパク代謝 腎臓はアミノ酸代謝に重要な働きをしている。腎臓は 動脈血からグルタミン、プロリン、シトルリン、フェニルア 図1 維持血液透析患者におけるBMIと死亡リスクに関する特殊性ラニンを吸収し、セリン、チロシン、アルギニン、タウリン、 ロイシン、リジン、スレオニンを放出する。腎不全になると この交換が障害され、血漿アミノ酸分画異常が生じる。 HD患者においてはメチオニン、セリン以外の必須アミノ 酸が相対的に減少し、シトルリンとアスパラギン酸が増 加する。チロシンとヒスチジンは腎不全においては必須 アミノ酸と考えられる。 健常者ではタンパク摂取後、肝臓は約70%のアミノ酸 をタンパク合成(25%)および尿素産生(45%)のために 肝内に保持する。重要なことは、肝静脈から放出される アミノ酸(摂取されたアミノ酸の約30%に相当)は、必須 アミノ酸、特に分岐鎖アミノ酸が豊富であることである。 腎不全になると、タンパク摂取後、肝臓におけるアミノ酸 吸収は減少し、肝臓からの必須アミノ酸が豊富なアミノ 酸放出が起こらなくなる。この肝臓におけるアミノ酸代 謝の異常も腎不全でみられる血漿アミノ酸分画異常に寄 与している。 HD患者は体タンパクおよび筋タンパクの代謝回転が 亢進している。このようなタンパク代謝回転の亢進はタン パク摂取が不十分である場合や、炎症によるストレスや アシドーシスがある場合、タンパク貯蔵が少ないことを意 味している。 アシドーシスは細胞質のATP-ユビキチン依存性タン パク分解システムを介して、筋タンパク分解と不可逆的な 分岐鎖アミノ酸異化をコルチゾール依存性に亢進する。 腎での重炭酸産生のためにアンモニウムラジカルを供給 することによる筋タンパク分解は代謝性アシドーシ スに対する生理的反応である。しかしながら、腎不 全になると慢性的なアシドーシスが除脂肪体重減少 を引き起こす。さらにアシドーシスはインスリン抵抗 性、副甲状腺機能亢進症、成長因子の機能障害の原 因とも関係している。糖尿病も筋肉量低下、血清アル ブミン、プレアルブミン値の低下に反映されるタンパ ク質栄養障害の原因である。また、全身の炎症も血 液透析患者のタンパク異化に関係している。透析に 関係するしないにかかわらず全身の炎症は HD患 者の約50%に報告されており3)、その頻度は重度低 栄養患者においてより高い。 2.2.2.エネルギー代謝 多くの研究において HD患者における安静時エネル ギー消費量(以下、REEと略)は健常者とほぼ同じであ ると報告されている。また、これまでの研究結果から HD患者においては、REEは健常者と変わりないが、透 析治療、炎症、重症二次性副甲状腺機能亢進症により総 エネルギー消費量(TEE)が増加すると結論付けられる。 インスリン抵抗性は慢性腎臓病(以下、CKDと略)の 特徴のひとつであるが、その機序は十分にわかっていな い。尿毒素やグルコース調節ホルモン(インスリン、グルカ ゴン、アドレナリン)の腎臓での代謝障害が考えられ、ア シドーシスもインスリン抵抗性の原因となる。さらに最近、 インスリン感受性が全身炎症と負の相関があり、血漿グ レリンが正の相関をすることが非糖尿病HD患者におい て示され、インスリン感受性の維持にグレリンの潜在的 役割が示唆される。CKD患者におけるインスリン抵抗 性はグリコーゲン合成といった非酸化グルコース代謝に 関与している。すなわち、ほんの12時間の絶食でも透析 患者では REEの2/3が脂肪酸化により供給される(健 常人では50%)。 別の重要な特徴は低血糖の原因にもなるということで ある。血糖維持機構は、CKDにおいて、腎での糖新生 が消失することと、状況によっては肝臓での血糖維持能 力が減少することにより障害される。糖尿病薬のクリア ランスが減ることも低血糖を誘発する。これらの血糖コ ントロールの異常は透析時における高濃度糖液投与後 に頻発する低血糖の説明となるかもしれない。 図2 維持血液透析患者におけるPEWの病因
HD患者において高中性脂肪血症がしばしばみられ る。高中性脂肪血症は主にリポタンパクリパーゼ、肝性リ パーゼ、レシチンコレステロールアシル転移酵素の活性 低下による脂肪粒子代謝回転の低下を反映しており、 HD患者では、外因性の長鎖トリグリセリドが減少する。 必須脂肪酸欠乏も HD患者で報告されているが、カルニ チン欠乏の役割についてはいまだ結論が出ていない。
3.維持透析患者における栄養評価
protein energy wasting(以下、PEWと略)は予後 に影響をおよぼすので、維持 HD患者の栄養状態は定 期的に評価するべきである。最近定義された PEWとい う用語は図3に示す診断基準により診断される4)。大きく 4つのカテゴリーがあり、1項目でも該当するカテゴリーが 3つ以上ある場合は、PEWと診断される。 3.1.臨床的評価 食事摂取量調査は潜在的な栄養摂取不足を見つけ、 是正するために年に2回は実施すべきである。ドライウェ イトの低下は予後不良に関連するため、他の慢性疾患同 様、BMIは長期的な生存率と正相関することが示され ておりBMIは毎月計算すべきである。 3.2.血清蛋白 血清アルブミン、プレアルブミン(トランスサイレチン) ともに炎症、肝機能、脱水、年齢、性別などの栄養以外の 要因の影響を受けるにもかかわらず、透析患者において はこれらの血清タンパクはタンパク摂取や栄養状態を反 映することが報告されている1)4)。血清アルブミンとトラン スサイレチンは透析前に測定すべきである。血清アルブ ミンは標準化タンパク出現率(normalized protein nitrogen appearance;以下、nPNAと略)、除脂肪体重、 血清コレステロール、プレアルブミンと相関し1)、生存率の 独立したマーカーとされている。血清トランスサイレチン はトランスサイレチン-レチノール結合タンパク複合体代 謝と関係しており、その血清濃度は腎不全で上昇する。 すなわち、血清トランスサイレチンは腎機能が安定してい る場合にのみ栄養マーカーとして使用できる。維持 HD 患者においては、トランスサイレチンは栄養状態と栄養 介入効果における信頼できるマーカーであり、血清トラン スサイレチン30mg/dL未満は、血清アルブミンとは独立 して死亡リスクの強力な予後予測因子となる。 3.3.尿素およびクレアチニン関連パラメーター 透析前の血清尿素窒素は栄養状態を反映する。安定 した患者において透析前後の血清尿素窒素値から nPNAが計算できる。nPNAは週の真ん中のデータで 計算すべきであるが、除脂肪体重、血清アルブミン、トラ ンスサイレチンと相関する。適正な nPNAは1.2-1.4g/ kg/日であり、nPNAが1を切ると入院率や死亡率が増 加する。透析前のクレアチニンは筋肉量のマーカーのひ とつである。 3.4.体成分分析 生体インピーダンス法(BIA)は維持 HD患者 における体成分分析において有用である。二重エ ネルギーX線吸収測定法(DEXA)は体成分分析 の参照法であるが、DEXAのもっとも大きな限界 は細胞内水分と細胞外水分を分けて評価すること ができない点である。この限界は多周波 BIAを用 いることで解決できるかもしれない。ただし、BIA や DEXAを用いた体組成のフォローアップは体水 分が安定している状態で行われるべきである。 図3 PEWの診断基準
不安定で栄養リスクのある患者はより短い期間でモニ ターする必要があるかもしれない。重度な低栄養は 「BMI<20」、「10%以上の体重減少/6ヶ月」、「血清アル ブミン<3.5g/dL」、「血清プレアルブミン<30mg/dL」 で診断する4)。
4. 必要栄養量
4.1.エネルギー必要量 エネルギー必要量は図5に示したとおりである。多く の研究結果が、22-24kcal/kg/日と少ないエネルギー 摂取が体脂肪減少と負の窒素バランスにより低栄養を引 き起こすことを報告している。推奨される1日エネルギー 必要量は年齢、性別、活動度にあわせて30-40kcal/kg/ 日の間で変化する。エネルギー供給は糖代謝異常と脂質 クリアランス異常を考慮すべきであり、血漿遊離カルニチ ンが減少しているときは、0.5-1g/日のカルニチン投与が 推奨される。 4.2.タンパク必要量 十分なエネルギー摂取がなされている場合、健常人の タンパク必要量の中央値は良質なタンパク0.65g/kg/日 であり、推奨1日摂取量は0.83g/kg/日である。ゼロまた は正の窒素バランスを達成するために HD患者では0.9-1.0g/kg/日でよいにもかかわらず、NKF、ESPEN、 EDTAでは1.1-1.4g/kg/日の摂取が必要であると推奨 されている(図5)。リン摂取は10-15mg/kg/日に制限 されるべきである。リンとタンパクは10-13mgリン/g タ ンパクという関係が成り立つので、多くの十分なタンパク 摂取を行っているHD患者は、血清リン値の上昇を防ぐ ためリン吸着剤が必要である。腎疾患専門の栄養士はリ ン含有の少ないものの選択に有用である。腎不全用のア ミノ酸組成が有用であるという確立した臨床データは存 在せず、通常のアミノ酸組成が一般的に用いられる。 4.3.ビタミン、微量元素必要量 透析により喪失するため、水溶性ビタミンは以下の通り 補充されるべきである:葉酸(1mg/日、ビタミン B(10-6 20mg/日)、ビタミン C(30-60mg/日)。ビタミン Dは血 清カルシウム、リン、副甲状腺ホルモンにより投与、調節 すべきである。感染、外科手術、多量のグルコース投与は 3.5.栄養状態のモニター 栄養パラメーターのフォローアップは栄養介入が必要 な低栄養状態を見つけるために必須である。図4にヨー ロッパ臨床栄養・代謝学会(ESPEN)、米国腎臓財団 (NKF)、ヨーロッパガイドライン(EBPG)によるHD患 者の栄養 follow-upのガイドラインのサマリーを示す5)〜7)。 図5 維持血液透析患者における推奨栄養量(エネルギー、タンパク) 図6 維持血液透析患者における推奨栄養量(ビタミン、微量元素) 図4 維持血液透析患者における栄養モニタリングチアミンの必要量が増えるかもしれない。また、通常の HDでは著明な微量元素の喪失はないが、場合によって は亜鉛(15mg/日)、セレン(50-70 μg/日)の投与が有益 かもしれない。ビタミン、ミネラル必要量は図6に示した。
5.栄養サポートの方法
5.1.栄養カウンセリング 栄養サポートの第1段階として、食事摂取量を調査、調 節し、経口補助食品を調整することで栄養状態の改善 を図るため定期的な(年2回)栄養士の介入必要性が示 唆されている。 5.2.経口補助食品 さまざまな経口補助食品(以下、ONSと略)が HD患 者に試されている。通常、200-600kcal、タンパク8-25g タンパクのものが用いられる。ONSの最適な摂取タイミ ングは通常の食事摂取量の低下を避け、夜間飢餓の時 間を短くすることを考慮し朝食後1時間、昼食後1時間、 深夜(9:00、14:00、22:00)が推奨される。5.3. Intradialytic parenteral nutrition (IDPN) 透析中経静脈栄養補給療法(以下、IDPNと略)とは 週3回の透析中に行う静脈栄養であり、栄養パラメーター を改善することが示されている。IDPNは以下のような 投与が推奨される。a) 4時間の透析中、一定量で投与。 b) 最初の1週間で8mL/kg/IDPN(体重60kgの患者 で500mL)から徐々に増やし、最大16mL/kg/IDPN (1000mL/HD)を超えない。c) 限外濾過を調節しなが ら行う。d) 限外濾過によるNaの喪失を考慮し IDPN 輸液1Lあたり75mmolの Naを加えるようにする。 また、HDはタンパク合成に関与する血漿アミノ酸濃 度を減少させる。アミノ酸の透析中投与は血漿アミノ酸 濃度の減少およびタンパク合成低下を防ぐことができる ことも報告されている。糖代謝、脂質代謝ともに HD患 者では障害されており、高濃度糖液の使用はインスリン 抵抗性、耐糖能異常、透析後の低血糖リスクのために制 限すべきである。一方で、外因性脂質のクリアランスは 減少しているにもかかわらず、脂質は透析患者において 有用なエネルギー源である。 5.4.ONSとIDPNの選択 ONSと IDPNいずれも補えるのは7-8kcal/kg/日 と0.3-0.4gタンパク/kg/日のみである。そのため、ONS と IDPNの適応は自発的な経口摂取が20kcal/kg/日 と0.8gタンパク/kg/日の患者が対象となる。ONSと IDPNのどちらを選択するかについては安価で簡便であ るという理由からまずは ONSを考慮すべきと思われる。 また、臨床研究の結果から ONSに加えて IDPNを行う ことは栄養パラメーターもアウトカムも改善しないため、 IDPNの適応は ONSが施行困難な低栄養維持 HD患 者となる。 5.5.経管栄養 自発的な経口摂取が20kcal/kg/日と0.8g タンパク/ kg/日に満たないことに起因する低栄養患者の場合は、 推奨栄養摂取量を確保するために日々の栄養サポートが 必要である。エビデンスはほとんどないが、経腸栄養が 静脈栄養より推奨される。経腸栄養は HD患者において も安全に必要栄養量を投与できる。また、経腸栄養の期 間が1ヶ月を超える場合は、PEGがよく用いられる。
6.栄養サポートの選択
図7に栄養評価による低栄養のマネージメントのため のデシジョンツリーを示した。以下の3つが要点となる。 ・ 自発的食事摂取不足による軽度低栄養の血液透析患 者においては、栄養カウンセリング、必要であれば ONSを処方する。 ・ 自発的経口摂取が20kcal/kg/日以上ある重度低栄 養患者においては、栄養カウンセリングとONSが処方 されるべきである。ONSが困難である患者には IDPNを行う。ONSまたは IDPNにより栄養状態の 改善ができない場合は、経管栄養が必要となるかもし れない。 ・ 自発的経口摂取が20kcal/kg/日未満またはストレス 下にある重度低栄養患者においては、ONSと IDPN は十分な栄養補充にはならず、推奨されない。静脈栄 養よりも経腸栄養を用いた日々の栄養サポートが必要 である。TPNは ENができないまたは不十分な場合 に行う。 (濵田康弘)参考文献
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LLL- Module 15.4
腹膜透析患者における栄養サポート
Nutrition support
in peritoneal dialysis patients
キーメッセージ
・ Protein Energy Wasting(PEW)は腹膜透 析(PD)患者の約30-40%に認められる。 ・ PEWを伴った PD患者は予後不良である。 ・ PD患者の低栄養の原因には血液透析(HD)患者と 同じく不十分な食事摂取、栄養代謝異常、炎症、ホル モンの異常といったものがある。 ・ PD療法に特有な食欲低下、腹膜液を介したタンパク 喪失、PD液からの過剰な糖負荷といった因子も PD患者の栄養状態に影響する。 ・ HD患者に比べて、PD患者の体組成は、体液過剰、 脂肪量の増加といった特徴がある。また HD患者に みられるような痩せはみられない。
・ PEWは body mass index(BMI)、体重減少、血
清アルブミン値、血清プレアルブミンにより診断される。
・ 栄養サポート、アミノ酸含有腹膜透析液(amino
acid-based intra-peritoneal parenteral nutrition(AA-IPPN))と経口補助食品(ONS) は栄養状態を改善することができる。 ・ 不十分な食事摂取に起因すると考えられる軽度低栄 養患者には、栄養カウンセリングと必要であれば AA-IPPNをまず試してみる価値がある。PD患者 においては ONSの使用が効果的というエビデンス はほとんどなく、ONSを使用した場合は、継続して 摂取できるかどうかがポイントとなる。 ・ 重度低栄養をきたしている患者で、自発的摂取が 20kcal/kg/日以上ある場合は、栄養カウンセリ ングと AA-IPPNを行うべきである。これらによっ ても栄養状態が改善しない場合は経腸栄養が必要 となるかもしれない。 ・ 重度低栄養をきたしている患者で、自発的摂取が 20kcal/kg/日未満の場合またはストレス下にあ る場合は、日々の栄養サポートが必要である。腸が 使用できる場合は、静脈栄養よりも経腸栄養が好ま れる。