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低酸素応答転写因子HIF-1αによる乳がん幹細胞の機能制御機構の解明

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Academic year: 2021

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(1)

低酸素応答転写因子HIF-1αによる乳がん幹細胞の

機能制御機構の解明

著者

白石 章

発行年

2017

学位授与大学

筑波大学 (University of Tsukuba)

学位授与年度

2016

報告番号

12102甲第8245号

URL

http://hdl.handle.net/2241/00147906

(2)

-

氏 名

白石 章

学 位 の 種 類

EA

博士(医学)

A

学 位 記 番 号

EA

博甲第 8245 号

A

学 位 授 与 年 月

EA

平成 29 年 3 月 24 日

A

学位授与の要件

EA

学位規則第4条第1項該当

A

審 査 研 究 科

EA

人間総合科学研究科

A

学 位 論 文 題 目

EA

低酸素応答転写因子 HIF-1αによる乳がん幹細胞の機能

制御機構の解明

A

EA

筑波大学教授

医学博士 野口 雅之

EA

筑波大学准教授

博士(医学) 小原 直

EA

筑波大学准教授

博士(医学)

鶴嶋 英夫

A

EA

筑波大学助教

博士(医学) 新開 泰弘

論文の内容の要旨

白石章氏の博士学位論文は、低酸素応答転写因子HIF-1αが乳がん幹細胞の機能制御に関与することを 検討したものである。その要旨は以下のとおりである。 (背景・目的) 乳がんを含む様々ながん種で、がんの再発や遠隔転移の原因とされるがん幹細胞の存在が示唆されて いる。乳がんにおいて、がん幹細胞を同定するマーカーが複数報告されているが、いずれのマーカーも がん幹細胞の表現型を捉えるには不十分であり、新たなマーカーもしくはマーカーの組み合わせでがん 幹細胞をより正確に捉える必要がある。新たなマーカーとしてアルデヒド脱水素酵素 (Aldehyde dehydrogenase: ALDH) 活性が着目されており、ALDH 活性を持つがん細胞は自己複製能、腫瘍形成能、 転移能の能力が高く、がん幹細胞様の性質を有している。しかし、ALDH 活性を持つがん幹細胞がどの ようにがん進展に働いているのかは未だ十分に解析されていない。著者らは、血管内皮前駆細胞におい て ALDH 活性の有無により細胞の性質及び低酸素応答性が変わることを明らかにしている。また、病理 学的解析により、低酸素状態が正常乳房組織には見られず、乳がん組織のみで検出されることが報告さ れている。これらを踏まえて、著者は乳がん細胞でも、ALDH 活性と低酸素応答性に関連があるのでは ないかと推測し、低酸素における ALDH 活性を持つ乳がん幹細胞によるがん進行のメカニズムと、乳が ん幹細胞における ALDH 活性の制御メカニズムの 2 点の検討を行なっている。 (材料・方法) 本研究では、筑波大学附属病院、乳腺・甲状腺・内分泌外科にて治療を受けた乳がん患者のうちイン フォームドコンセントに同意を頂いた患者から採取した悪性胸水より分離した乳がん細胞 (本研究では、 胸水由来乳がん細胞とする) を使用している。これらの細胞について Aldefluor アッセイを用い、ALDH

活性を持つ乳がん細胞 (Aldefluorpos細胞) と ALDH 活性を持たない乳がん細胞 (Aldefluorneg細胞) を分

(3)

-

ALDH 活性の制御メカニズムを解析するために、クロマチン免疫沈降法を用いて ALDH1A1 プロモータ ーと HIF の相互作用を検討している。

(結果)

著者は単離された胸水由来乳がん細胞から分離した Aldefluorpos細胞は、Aldefluorneg細胞に比べて、自

己複製能、転移能、腫瘍形成能いずれも高いことを示した。Aldefluorpos細胞と Aldefluorneg細胞で細胞形

態に違いが見られたことから接着因子が解析され、Aldefluorpos細胞で上皮マーカーである E-cadherin が

発現低下し、間葉マーカーである Vimentin の発現が上昇していることを発見した。このことから、

Aldefluorpos細胞で上皮間葉転換 (Epithelial-Mesenchymal Transition: EMT) が誘導されている可能性が示

唆されたので、EMT 誘導因子の発現を解析し、Aldefluorpos細胞において EMT 誘導転写因子 Snail や Slug

の発現が亢進していることを示した。著者は低酸素条件にて、Aldefluorpos細胞で HIF-1αが高発現してい

ただけでなく、HIF-1αが Snail と Slug の発現を直接制御していることも明らかにした。これらの結果を

受けて、Aldefluorpos細胞での HIF-1α発現抑制や Aldefluorneg細胞の HIF-1α強制発現実験が行われ、HIF-1α

の発現を抑えることで Aldefluorpos細胞が持つがん幹細胞の性質が著しく低下したのに対し、HIF-1αを強

制発現させることで、Aldefluorneg細胞ががん幹細胞様の性質を獲得することが示された。また、これら

の現象に対応するように、EMT 誘導因子 Snail と Slug、及び接着因子 E-cadherin と Vimentin の発現量が 変化していることもあわせて示された。

著者は、次に、クロマチン免疫沈降法により、ALDH 活性を制御する ALDH1A1 遺伝子と HIF-1αの

間に相互作用があることを明らかにした。さらに、Aldefluorpos細胞と Aldefluorneg細胞それぞれを低

酸素条件 (1% O2 72 時間) で培養すると、Aldefluorneg細胞群の中で Aldefluorpos細胞の割合が顕著に増加

していることを示した。 (結論)

著者は Aldefluorpos細胞において HIF-1 αタンパクが発現上昇し、Snail と Slug の発現亢進と E-cadherin

の発現低下が起こることを明らかにし、HIF-1αにより誘導された EMT が Aldefluorpos細胞の性質に強く

関与していることを示唆した。また、クロマチン免疫沈降法により、HIF-1αタンパクが ALDH1A1 プロ モーターと相互作用することを証明し、HIF-1 αが ALDH 活性を直接制御している可能性を示唆した。

さらに、低酸素刺激により、Aldefluorneg細胞から Aldefluorpos細胞へのトランスフォーメーションが見ら

れたことから、著者は腫瘍内の低酸素は乳がん細胞の細胞運命に作用する可能性があると結論している。

審査の結果の要旨

(批評)

著者はヒト乳がん組織において、ALDH 活性が乳がん幹細胞を単離するマーカーとして有用であるこ とを示し、HIF-1αが乳がん幹細胞において ALDH 活性を制御する重要な因子であることも明らかにした。

さらに、HIF-1αが Aldefluorneg細胞から Aldefluorpos細胞へスイッチする重要な制御因子であることも示

した。現在、HIF-1 α阻害剤の開発が進行し、腫瘍の縮小や転移の抑制等に効果があることが報告されて いるが、本研究は HIF-1 α阻害剤による乳がん治療の分子機序の解明に寄与する重要な研究である。

平成 29 年 2 月 2 日、学位論文審査委員会において、審査委員全員出席のもと論文について説明を求 め、関連事項について質疑応答を行い、最終試験を行った。その結果、審査委員全員が合格と判定した。 よって、著者は博士(医学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと認める。

参照

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