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マウス嗅神経回路形成におけるKirrel3陽性僧房細胞の機能解析

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Academic year: 2021

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審査の結果の要旨

氏名 額尓敦夫

高等動物の脳は、多数の神経細胞からなる複雑かつ精巧に組織された神経回路によって感 覚入力の価値付けを行い、適切な出力行動の判断を行う。この情報判断の根幹をなす神経回 路がどのように形成されるのかという問題は、神経科学における最も重要な課題の一つであ る。マウス嗅覚系における神経回路形成の分子メカニズムに関しては、嗅覚受容体 (olfactory receptor : OR)遺伝子の単離以降、分子生物学的な手法が導入され、精力的に研

究が進められている。匂い受容を担うOR 遺伝子はマウスゲノム中においては約 1000 種類存在し、個々の嗅細胞は多数存在するOR 遺伝子の中からたった一種類のみを選択 して発現する。また同一のOR を発現した嗅細胞の軸索は、発生の過程で互いに収斂し 嗅球の特定の糸球へと投射する。従って、嗅球上においてはOR の数に相当する糸球か らなる二次元上の糸球マップが形成される。ここ十数年に及ぶ研究により、一次嗅覚系、 すなわち嗅上皮から嗅球への回路構築メカニズムは概ね明らかにされた。それに対し、 嗅球から先、二次嗅覚系の神経回路形成メカニズムに関しては殆ど明らかとされていな い。 学位申請者のエルドンフは、この嗅覚系の二次嗅覚神経の投射機構に関して、特定の 細胞接着分子の特徴的な発現パターンを見出し、さらにその機能解析を行った。本論文 は、大きく3 つの章からなる。まずイントロダクションとしてマウス嗅覚系の概要を説 明した後、軸索選別分子の発現及び機能解析へと進む。そして最後に、結論と今後の展 望が述べられている。 嗅球に存在する二次神経細胞である僧帽細胞は一次嗅覚神経からの情報を嗅皮質へ と連絡する。嗅皮質は、複数の亜領域に分けられ、1つの僧帽細胞が枝分かれをするこ とによって単一の糸球体からの入力を複数の亜領域へと伝達する。一次嗅覚系では、発 現する嗅覚受容体の種類が嗅細胞のサブタイプのマーカーとなり、そのサブタイプごと の投射様式を観察することを通じて、多くの理解が進んできた。申請者は、この概念を 発展させ、まず僧帽細胞における多数の遺伝子の発現パターンを解析することを通じて、 細胞接着分子である kirrel3が一部の細胞集団でのみ発現するということを見出した。ま た、一次嗅細胞からの入力がない変異マウスを用いて、kirrel3の発現は外部入力に依存 しない、予め遺伝的に決定されたメカニズムによって規定されるということを明らかと した。さらには、遺伝学的手法により kirrel3を発現する僧帽細胞の軸索を可視化し、 kirrel3陽性細胞の軸索が嗅皮質の特定の亜領域にのみ投射すること、そして kirrel3の欠 損実験によって、kirrel3分子自体が特定の亜領域への投射に重要であることを突き止め た。 今回の研究には2つの新しい発見がある。一つ目は、僧帽細胞は遺伝的に均一な集団

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2 ではなく遺伝子発現によって規定されるサブタイプが存在すること、もう一つは僧帽細 胞の軸索投射様式も均一ではなく、特定のサブタイプに従った亜領域への特異的投射が 存在することを示唆した点である。これは、既存の蛍光色素を用いた実験では明らかに することが出来なかった僧帽細胞の回路形成メカニズムを明らかにすることが出来た 最初の知見であり、今後このような戦略に基づいた研究を通して二次神経細胞の神経回 路形成原理、さらには高次領域の匂い情報伝達のメカニズムの理解が一層深まるものと 期待される。 本論文では kirrel3という単一の分子に着目した解析に留まっているが、僧帽細胞にお ける遺伝的サブタイプに着目した投射解析の有効性を初めて示したという点において 先駆的な研究であり、学位申請者の業績は博士(医科学)の称号を受けるにふさわしい と審査委員全員が判断した。 なお、本論文は、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出 者の寄与が充分であると判断する。 したがって、博士(医科学)の学位を授与できると認める。

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