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Vol. 55 No. 3, 音声言語医学 55: ,2014 原 著 歌唱者の音声障害に対する音声治療の効果 1) 金子真美 平野 1) 滋 楯谷 1) 一郎 倉智 2) 雅子 城本 3) 修 榊原 4) 健一 伊藤 1) 壽一 要約 : 一般人の音声障害に関す

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音声言語医学 55:201 ─ 208,2014 

原  著

歌唱者の音声障害に対する音声治療の効果

金子 真美1)  平野  滋1)  楯谷 一郎1)  倉智 雅子2) 城本  修3)  榊原 健一4)  伊藤 壽一1) 要 約:一般人の音声障害に関する音声治療については多くの報告があり,高いエビデンス レベルのものもある.しかし歌唱者の音声障害に対する音声治療については国内外で報告は少 なく,現時点で確立された手技もない.今回われわれは歌唱者の音声障害に対し音声治療を行 い,症状に一定の改善を認めた.対象は声帯結節,声帯瘢痕,声帯萎縮,過緊張性発声障害の いずれかと診断され,音声治療を施行した歌唱者 9 例(男性 5 例,女性 4 例,平均年齢 53.3 歳) である.口腔前部の共鳴を意識した音声治療を施行し,効果を GRBAS,ストロボスコピー, 空気力学的検査,音響分析,自覚的評価,フォルマント周波数解析で評価した.治療後,音声 の改善は個人差があるものの全例で認められ,MPT や VHI-10,GRBAS で有意差が認められた. また,歌唱フォルマントもより強調されるようになった.歌唱者の音声障害に対する音声治療 は一定の効果が期待できると考えられた. 検索用語:歌唱者,音声障害,音声治療,口腔前部の共鳴,歌唱フォルマント

Efficacy of Voice Therapy for Singers with Dysphonia

Mami Kaneko1), Shigeru Hirano1), Ichiro Tateya1), Masako Fujiu-Kurachi2), Osamu Shiromoto3),

Ken-Ichi Sakakibara4) and Juichi Ito1)

Abstract: Over the years, numerous articles have appeared concerning voice therapy for

the treatment of dysphonia in non-singers, including some with evidence-based medicine. However, evidence for voice therapy for singers has largely been lacking.Here we report nine singers with vocal fold nodules, vocal fold scarring, vocal fold atrophy or hyperfunctional dysphonia whose disorders were successfully treated by voice therapy.

The nine patients (5 men and 4 women; mean age, 53.3 years) underwent voice therapy

京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科1):〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町 54

新潟リハビリテーション大学大学院リハビリテーション研究科2):〒958-0053 新潟県村上市山の上 2-16

県立広島大学保健福祉学部コミュニケーション障害学科3):〒723-0053 広島県三原市学園町 1-1

北海道医療大学心理科学部言語聴覚療法学科4):〒002-8072 札幌市北区あいの里 2 条 5 丁目

1) Department of Otolaryngology Head & Neck Surgery, Graduate School of Medicine, Kyoto University: 54, Kawahara-cho,

Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto 606-8507, Japan

2) Department of Eating Disorders and Dysphagia, Niigata University of Rehabilitation Graduate School: 2-16, Kaminoyama,

Murakami, Niigata 958-0053, Japan

3) Department of Communication Sciences and Disorders, Faculty of Health and Welfare, Prefectural University of Hiroshima:

1-1, Gakuenmachi, Mihara, Hiroshima 723-0053, Japan

4) Department of Communication Disorders, Health Sciences University of Hokkaido: 2-jo 5-chome, Ainosato, Kita-ku, Sapporo,

Hokkaido 002-8072, Japan

(2)

は じ め に

一般人の音声障害に関する音声治療についてはこれ まで多くの報告がなされ,手技によっては高いエビデ

ンスレベルのものもある.レベルⅠでは,Stemple ら1)

や Roy ら2)の Vocal Function Exercises(VFE)や,

Nelson ら3) の Lessac-Madsen Resonant Voice

Therapy(RVT),Bassiouny4)の accent method が報

告されている5) しかし歌唱者の音声障害に対する音声治療について は国内外で報告は少ない.声の安静6)や喉頭のリラク ゼーションと声の衛生7)などが報告されているが,現 時点で確立された手技もなく,さまざまな音声治療法 が試みられている. 一方,歌唱者の非音声障害に対する音声治療の効果 の報告は散見される.Sabol らは音声障害のない歌手 に対して VFE を 4 週間施行した結果,平均呼気流率 や最長発声持続時間で改善が見られ,喉頭効率が向上 したと報告している8).また Guzman らは音声障害の ない歌手に対し VFE を行い,VFE が声の質を改善す るウォーミングアップとして効果があると述べてい る9)

現在,歌唱者を含む professional voice user の音声 障害に対する音声治療として,アメリカではまずてい ねいな問診と声の衛生指導を行ったうえで,呼吸・発 声・共鳴のバランスがとれた発声方法,つまり腹式呼 吸を活かした口腔前部の共鳴“forward focus”を用 い喉頭の緊張を緩和させるトレーニングが推奨されて いる10).われわれも歌唱者の音声障害に対し口腔前部 の共鳴を意識した音声治療を行っているが,今回その 治療効果について報告する. 方   法 1 .対象 2010 年 10 月から 2013 年 5 月までに当科を受診し, 声帯結節,声帯瘢痕,声帯萎縮,過緊張性発声障害の いずれかと診断され,音声治療を実施した歌唱者 9 例 (男性 5 例,女性 4 例,平均年齢は 53.3 歳)である. なお歌唱者とは,歌うことを職業としている者や週 1 回以上コーラスに参加している者とした.歌のジャン ルは,クラシック 1 名,ポップス 1 名,rhythm and blues 1 名,ロック 1 名,詩吟 2 名,コーラス 3 名であっ た.疾患の内訳は,声帯結節 2 名,声帯瘢痕 2 名,声 帯萎縮 3 名,過緊張性発声障害 2 名であった. 各症例の喉頭所見は,声帯結節 2 名は,両症例とも 両側声帯膜様部中央に無茎性の小隆起を認めた.その うち 1 例のストロボスコピー所見を図 1a に示す.発 声時に声門間隙が生じ,粘膜波動も減弱していた.声 帯瘢痕 2 名は,1 例は両側に,もう 1 例は一側に声帯 瘢痕を認め,両者とも粘膜波動の減弱・振動振幅の減 少を認めた.声帯萎縮 3 名は,全症例とも粘膜波動の 減弱・振動振幅の減少が生じ発声時に声門間隙を認め た.過緊張性発声障害 2 名は,両症例とも声門上部が 絞扼し高音域での持続発声は困難であった. 2 .方法 1 )音声治療手技 口腔前部の共鳴を意識した発声を中心とした音声治 療を 2~7 ヵ月(平均 4 ヵ月)施行した.口腔前部の 共 鳴 を 意 識 し た 発 声 は, チ ュ ー ブ 発 声,Vocal Function Exercises(VFE),Lessac-Madsen Resonant Voice Therapy(RVT) を 中 心 に 行 っ た. これらの手技は声道の共鳴を高め,喉頭の緊張を緩和

し発声効率を高めると考えられている11-13)

2 )評価方法

本研究では,音声治療前後の効果を聴覚心理的評価 consisting of forward focus, such as semi-occluded vocal tract therapies, vocal function

exercises (VFE) and resonant voice therapy (RVT). The effectiveness of the treatment was assessed by GRBAS, stroboscopic examinations, aerodynamic assessment, acoustic and formant analysis, and voice handicap index (VHI)-10 performed before and after voice therapy. All patients showed improvement of voice. Significant improvements were shown in maximum phonation time, GRBAS and VHI-10.One of the major changes in the singers was a more prominent formant cluster.

These results indicate that voice therapy consisting of forward focus can help improve vocal function in singers with dysphonia.

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(GRBAS 尺度),ストロボスコピー検査,空気力学的 検 査( 最 長 発 声 持 続 時 間(maximum phonation time:MPT), 平 均 呼 気 流 率(mean flow rate: MFR),音響分析(周波数ゆらぎ(pitch perturbation quotient:PPQ), 振 幅 ゆ ら ぎ(amplitude perturbation quotient:APQ), 雑 音 成 分(noise to harmonic ratio:NHR)),声の強さ(Intensity),自 覚的評価(voice handicap index(VHI)-10),フォル マント周波数解析により行った.GRBAS 尺度,スト ロボスコピー検査,空気力学的検査,音響分析,声の 強さ,フォルマント周波数解析はすべて無関位発声で 評価した.フォルマント周波数とは,喉頭原音が声道 共鳴により特定の周波数帯域で増幅される周波数のこ とをいう.このうち第 3~5 フォルマントのエネルギー が 3000 Hz 付近に集中し歌唱フォルマントができれ ば,響く声となる14).そこで本研究において,声道で の共鳴効果を評価するために歌唱フォルマントにも着 目し音声治療効果を検証することとした.

ス ト ロ ボ ス コ ピ ー は Digital Video Stroboscopy System, Model 9295 (KayPentax)を用いた.空気力 学的検査(MPT,MFR),声の強さは PA-500(永島 医科器械(株))を用いた.音響分析(PPQ,APQ, NHR) は Multi-Dimensional Voice Program(Model 5105; KayPentax)を用いた. フォルマント周波数解析は音声録聞見 for Windows (http://www.cd4power.jp/onsei/)で実施した.音声 録聞見は音声の編集や基本周波数,パワー,フォルマ ント解析,音声合成などが可能なソフトである.フォ ルマント周波数解析は,パソコンにインストールした 音声録聞見に,音響分析実施時にマイクから Multi-Dimensional Voice Program に取り込んだ音声データ ([a:] 無関位発声)を読み込む.サンプリングレートは 44.1 kHz で行う.そのなかから定常発声を抽出しサ ウンドスペクトログラム分析を行う.Window type: hanning,Window Length:Wide の 条 件 で 行 っ た. 歌唱フォルマントを評価するために,3000 Hz に最も 近い F3,F4 の位置の変化と,F3-F4 間の距離を測定 した.音声録聞見では自覚的評価(voice handicap index(VHI)-10) は 田 口 ら の も の を 用 いた15) GRBAS 尺度は経験のある音声外科医と言語聴覚士の 各 1 名ずつで評価した.本来は GRBAS 尺度を疾患ご とに評価することが適切と考えられるが,本研究では 各疾患の症例数が少ない.そこで聴覚的印象による声 の重症度と各音声機能検査の相互関係を見るために, GRBAS 5 項目を合算し各評価者の平均値で比較し た16) 3 )統計 MPT,MFR,Intensity,PPQ,APQ,NHR, F3-F4 の 距 離 差 は 両 側 t 検 定 で 行 っ た.VHI-10, GRBAS は Wilcoxon 符号化順位検定で行った.いず れの場合も P<0.05 のとき,有意差があると判定した. GRBAS 尺度の音声外科医と言語聴覚士の値の相関 は,スピアマンの順位相関行列で求めた. 結   果 1 .内視鏡所見 声帯結節 2 名は両症例とも結節は消失もしくは縮小 した.そのうち 1 例のストロボスコピー所見を図 1b に示す.結節は消失し発声時の声門閉鎖が可能となり, 粘膜波動も増大した.声帯瘢痕 2 名は両症例とも粘膜 波動・振動振幅が増大し声門閉鎖が可能となった.声 帯萎縮 3 名は全症例とも粘膜波動・振動振幅が増大し 声門閉鎖が可能となった.過緊張性発声障害 2 名は両 症例とも声門上部の絞扼が改善され高音域の持続発声 も可能となった. 2 .聴覚心理的評価・自覚的評価 聴覚心理的評価(GRBAS 尺度)は,音声外科医と 言語聴覚士おのおのの GRBAS 5 項目合算値の平均を 比較した.音声外科医と言語聴覚士の各値の相関係数 は治療前後とも r=0.8 と高い相関関係があった.治 療前の GRBAS 5 項目合算値の平均は 7.9,治療後は 5.8 と減少し有意な改善が見られた(P=0.01)(図 2). VHI-10 では,治療前の平均値は 14.9 点,治療後は 6.6 点と減少し有意な改善が見られた(P=0.02)(図 2). 3 .空気力学的検査・声の強さ MPT では,音声治療前の平均値は 14 秒,音声治 療後は 21.4 秒と延長し有意な改善が見られた(P= 0.03).MFR では,治療前の平均値は 147.3 ml/sec, 治療後は 164.7 ml/sec とやや増大しているが正常値 内であった(P=0.14).声の強さでは,治療前の平均 値は 73.2 dB,治療後は 75.1 dB と増大している(P= 0.51)(図 3). 4 .音響分析 周波数ゆらぎ(PPQ)では,治療前の平均値は 0.43%, 治療後は 0.48% とやや増大しているがいずれも正常値 内である(P=0.4).振幅ゆらぎ(APQ)では,治療 前の平均値は 1.27%,治療後は 1.57% とやや増大して いるがいずれも正常値内である(P=0.47).雑音成分 (NHR)では,治療前の平均値は 0.12%,治療後は 0.11% とやや増大しているがいずれも正常値内である(P=

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図 1a 声帯結節症例の音声治療前の喉頭所見 吸気時,両側声帯膜様部中央に無茎性の小隆起を認めた(矢印).発声時に声門間隙が生じ,粘膜波動も減弱していた. R L L R 吸気時 吸気時 R L L R 吸気時 吸気時 図 1b 同症例の音声治療後の喉頭所見 声帯結節は消失し(矢印),発声時の声門閉鎖が可能となり,粘膜波動も増大した. 図 6  症例 6 のサウンドスペクトログラムを示す.音声治療前,第 3 フォルマントは 2778.6 Hz,第 4 フォルマントは 4183.7 Hz, F3-F4 間距離は 1405.1 Hz であった.音声治療後,第 3 フォ ルマントは 2840.3 Hz,第 4 フォルマントは 3752 Hz となり, F3-F4 間距離は 911.7 Hz に短縮した. Spectrum(dB) 110 100 90 80 70 60 50 40 0k 1k 2k F3 F3 F4 F4 3k 4k 5k(Hz) (Hz) Spectrum(dB) 110 100 90 80 70 60 50 40 0k 1k 2k 3k 4k 5k 音声治療前 音声治療後

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0.62)(図 4). 音声治療前後の第 3,第 4 フォルマントの位置の変 化を症例ごとに表 1 に示す.音声治療後は全体的に 3000 Hz 付近に集中する傾向となった.F3-F4 間距離 の平均値は,治療前 338.9 Hz,治療後 213.8 Hz と短 縮し(P=0.06),F3-F4 間距離は短縮傾向にあった(図 5).例として症例 6 のサウンドスペクトログラムを図 6 に示す.音声治療前,第 3 フォルマントは 2778.6 Hz,第 4 フォルマントは 4183.7 Hz,F3-F4 間距離は 1405.1 Hz であった.音声治療後,第 3 フォルマント は 2840.3 Hz,第 4 フォルマントは 3752 Hz となり, F3-F4 間距離は 911.7 Hz に短縮した. これらの結果をまとめると,音声治療後 MPT, GRBAS,VHI-10 は有意に改善が見られた.第 3,第 図 2  音声治療後,GRBAS と VHI-10 は有意に改善した (P=0.01)(P=0.02).*P<0.05 音声治療前 4 5 6 7 8 * 9 10 0 5 10 15 20 25 (点) 音声治療後 GRBAS VHI-10 音声治療前 音声治療後 図 3  音声治療後,MPT は有意に延長した(P=0.03).平均呼気流率,声の強さでは音声治療後 有意差が認められなかったが,治療前後とも正常値内であった. 音声治療前 5 10 15 20 25 * 30 35 (秒) (cc/s) 50 100 150 200 250 音声治療後 MPT 平均呼気流率 声の強さ 音声治療前 音声治療後 (dB) 65 70 75 80 85 音声治療前 音声治療後 図 4  PPQ,APQ,NHR は音声治療後有意差は認められなかったが,治療前後とも正常値内 であった. 音声治療前 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 (%) (%) 0 0.5 1 2 2.5 1.5 3 音声治療後 PPQ APQ NHR 音声治療前 音声治療後 0.05 0.07 0.09 0.11 0.13 0.15 音声治療前 音声治療後

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4 フォルマントの位置は 3000 Hz 付近に集中する傾向 となり,F3-F4 間距離は短縮傾向にあった. 考   察 呼気流が声帯振動を引き起こし,声門でつくられた 喉頭原音は,声門上の喉頭・咽頭・口腔・鼻腔といっ た空間で共鳴し,音色や響きを形成する.このように 音がつくられる仕組みは,喉頭原音(ソース)が声道 で共鳴というフィルタ作用によって加工される過程と 考えられ,ソース・フィルタ理論といわれている14) 共鳴機能に着眼した報告は古くから存在し11,17),現 在では CT や Electroglottography(EGG),そして音 響分析等を併用し総合的に評価する報告が増えてい る18-21).歌唱フォルマント等の音響特徴については, オペラを中心とした洋楽歌唱だけでなく,中国のオペ ラ歌唱22)や男性コーラス者23),邦楽歌唱24,25)におい ても存在することが報告されている. 国 内 外 で 共 鳴 機 能 の 改 善 を 図 る 音 声 治 療 手 技 (チューブ発声,トリル,VFE,RVT 等)は一般人(非 歌唱者)の音声障害に対して広く行われている.しか し歌唱者の音声障害に対する同手技の効果については まだ報告はない. 本研究では,全例ともチューブ発声もしくは VFE の“no:” の 発 声 か ら 開 始 し た. こ れ ら は semi-occluded vocal tracts(狭めのある声道)と呼ばれ, この発声状態では以下のような現象が起こっていると 考えられている.腹圧を高めて口をすぼめた状態で軟 起声を出すと喉頭入口部の狭めが起こる12-14).喉頭入 口部を狭めることによって喉頭原音と声道共鳴の相互 作用が高まり,発声効率が向上し,平均声門流量が適 正化される.その結果,声帯は過内転の状態が緩和さ れ,発声閾値圧が低下し14),より発声しやすい声にな るといわれている9,26) 本研究において,平均呼気流率は音声治療前後とも 正常値内であったが,MPT は治療後有意に延長した. semi-occluded vocal tracts により平均声門流量が適 正化された可能性も考えられる.さらに VHI-10 や GBRAS で有意に改善が見られたのは,発声効率が向 上し楽に発声できるようになった可能性も考えられ る.

Titze らは,VFE の発声で用いられる“no:”の発声, つまり口唇を狭め,下咽頭を広げ,喉頭入口部を狭く した形は発声効率を最も高められるため,音声治療を 始めるには望ましい形としている.この状態で声が出 ると顔全体が振動する感覚,つまり口腔前部の共鳴 “forward focus”が出てくると述べている26).よって 本研究においても,発声時に口唇や鼻梁,前額部といっ た部位での振動を触知し口腔前部の共鳴を確認した. 表 1 症例 性別 年齢 疾患 音声治療前 音声治療後 F3 F4 F4-F3 F3 F4 F4-F3 1 男性 79 声帯萎縮 2967.2 3489.2 522 2744.8 3311.5 566.7 2 女性 20 過緊張性発声障害 3281.2 4163 881.8 3308 3972.2 664.2 3 女性 63 声帯結節 3363.7 4190 826.3 3155.7 4125 969.3 4 男性 28 過緊張性発声障害 2758.8 3299.4 540.6 3141.2 3630.2 489 5 男性 63 声帯瘢痕 3047.3 4306 1258.7 2679.4 3830 1150.6 6 男性 64 声帯萎縮 2778.6 4183.7 1405.1 2840.3 3752 911.7 7 女性 25 声帯結節 4050.5 5319 1268.5 3293.3 4019 725.7 8 女性 67 声帯瘢痕 2984.4 4149.4 1165 3159.2 3886.8 727.6 9 男性 71 声帯萎縮 2927.3 3411.1 483.8 2781 3272.4 491.4 音声治療前後の [a:] 無関位発声時第 3,第 4 フォルマント(F3,F4)の位置の変化と F3-F4 間距離を症例ごとに示す.音声治療後は全体的に 3000 Hz 付近に集中する傾向となった. 図 5  音声治療前後の F3-F4 間距離の平均値を示す.治療前 は 338.9 Hz であったが治療後は 213.8 Hz と短縮し(P= 0.06),F3-F4 間距離は短縮傾向となった. 音声治療前 500 700 900 1100 1300 (Hz) 音声治療後 F3‒F4 間距離

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いったん semi-occluded vocal tracts の声が獲得で きれば,そのせばめを広くしたり狭くしたりする訓練 を重ねるなかで,口腔前部で効率良く出せている効果 が声道の後方へも移行できるように調整されていく. そして他の母音や子音でもその効果が反映されるよう になり,RVT はこの効果を利用しているとも考えら れている26,27) Sundberg は,喉頭を下げて発声したとき,下咽頭 の断面積が広がって喉頭入口部との断面積比が 6:1 以上になったときに喉頭原音と声道共鳴の相互作用が 高まり,その結果第 3・第 4 フォルマントの間に特別 なスペクトル包絡のピーク(いわゆる“歌唱フォルマ ント”)が生成されると報告している11,28).また Titze らの研究では,口腔前部が共鳴し喉頭入口部が狭まっ た発声時,歌唱フォルマント(F3-F5)が生成される ことが確認された14) 一方,Guzman らは男性クラシック歌手に対しスト ロー/チューブ発声を行った結果,[a:] 無関位発声時に CT 上で喉頭の下垂,下咽頭の面積の拡大,そして下 咽頭と喉頭入口部の断面積比の拡大が確認された.歌 唱フォルマントもより強調され,声の聴覚的印象も改 善された.ストロー/チューブ発声により喉頭の緊張 が緩和し,共鳴機能の改善も図れていることが示唆さ れた9).われわれの研究でも音声治療後に第 3,第 4 フォ ルマントの位置は 3000 Hz 付近に集中する傾向とな り,また第 3,第 4 フォルマント間距離は短縮傾向に あった.かつ GRBAS も有意に改善し,Guzman らと 同傾向の結果が得られた.本研究では第 3,4 フォル マント間距離の短縮傾向と MPT の有意な延長との相 関は示さなかった.しかし MPT と GRBAS,VHI-10 の有意な改善と,歌唱フォルマントがより強調される ようになったことから,平均声門流量が適正化され, 喉頭の緊張が緩和し発声効率が改善された可能性が考 えられる.よって,歌唱者の音声障害に対し口腔前部 の共鳴手技が有効であったと考えられる. ただ,今回はチューブ発声以外にも VFE や RVT も併用している.チューブ発声時は声道の状態をある 程度一定に保つことは可能だが,VFE や RVT では 声道の状態は変化し共鳴状態も変化しうる.そのため, VFE や RVT で特徴的な共鳴をしていたかどうかは 定かではない.今後の課題として,VFE,RVT も含 めた口腔前部共鳴の指示時の発声中の声道形状につい て明らかにすることが必要と考えられる.具体的には, 発声時の喉頭の高さ,口腔での狭めの程度,下咽頭と 喉頭入口部の断面積比,EGG を用いた喉頭インピー ダンスの評価・検証等が必要になってくると考えられ る.また一般的に,非歌唱者は歌唱者に比し口腔前部 を共鳴させた発声を習得するのに訓練を重ね時間を要 すことが多く,歌唱者におけるほどの効果が得られる かどうかは不定である.また,歌唱者と非歌唱者の音 声治療効果を同一条件で比較すること自体,困難が予 想される.よって今回は歌唱者の音声障害に対し,口 腔前部の共鳴を意識した音声治療の効果を検討した. 今後は非歌唱者に対する音声治療の効果をも比較・検 証していく必要があると考えられる. ま と め 歌唱者の音声障害に対する音声治療について報告し た.口腔前部の共鳴を中心とした音声治療により,主 観的,空気力学的,自覚的評価で有意に改善が見られ, 歌唱フォルマントもより強調されるようになった.歌 唱者の音声障害に対し口腔前部の共鳴手技が有効で あった可能性が示唆された.歌唱者の音声障害に対す る音声治療は,一定の効果が期待できると考えられた. 本論文の要旨は第 58 回日本音声言語医学会(2013 年 10 月, 高知県)にて口演した. 文   献

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別刷請求先:〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町 54       京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・       頭頸部外科

図 1a 声帯結節症例の音声治療前の喉頭所見 吸気時,両側声帯膜様部中央に無茎性の小隆起を認めた(矢印).発声時に声門間隙が生じ,粘膜波動も減弱していた.RL LR吸気時 吸気時 R L LR吸気時 吸気時 図 1b 同症例の音声治療後の喉頭所見 声帯結節は消失し(矢印),発声時の声門閉鎖が可能となり,粘膜波動も増大した. 図 6   症例 6 のサウンドスペクトログラムを示す.音声治療前,第 3 フォルマントは 2778.6 Hz,第 4 フォルマントは 4183.7 Hz, F3-F4 間距離は 140

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