理学療法に必要な生理学教育 525 理学療法士が患者を前にして真っ先に考えることは,「自分 がこの患者になにをしてあげられるか?」ということであろ う。国家資格をもつ医療専門職として,患者の訴えを客観的に 捉え,誠意と責任をもって評価と治療の計画を立てる必要があ る。医療専門職の責任とは,単に当事者が誠心誠意患者に尽く そうと決心しても果たせるものではなく,行われる医療行為と その結果に対する説明責任が常に問われるものである。また, 科学的根拠に裏づけされた高度な臨床技術を要求される理学療 法は,人体の構造と機能を熟知し,その病態生理学に精通した 者のみがなせる業である。 生理学は,医師をはじめとして理学療法士を含むすべての医 療従事者にとって,ヒトを理解し,ヒトの機能とその障害を理 解するうえでもっとも重要な基礎知識である。我々の日常生活 活動を例にとって考えてみると生理学の重要性を具体的に理解 しやすい。朝目が覚めるということは,睡眠から覚醒に至る一 連の神経活動,身体活動であり,ベッドから起き上がり服を着 替えて洗面をすることは,意思の発動と学習された運動系の神 経・筋活動を必要とする。食事をとれば,味覚・嗅覚が動員さ れ咀嚼・嚥下と消化・吸収・排泄機能が働き,呼吸・循環・代 謝系を動員して筋収縮に必要なエネルギーを身体各所に送りだ す。学習・記憶し,考え,感覚情報を整理し,ヒトは運動に必 要な神経系の活動を制御することによって,外界に生きている ことの証を表現できるのである。生理学は学問体系から考え て,「医師のための」,「看護師のための」,「理学療法士のため の」といった修飾語をつけるべきではない。生理学を各専門職 の立場からどのように利用するかが問われるべきである。そう した観点から,「理学療法教育の一環として生理学をどう学ば せるか」に焦点を絞って考えてみたい。 *「生命現象はいろいろな姿で現れるが,結局は,内部環境 の恒常性を保つという唯一の目的しかもっていない」 −クロード ベルナール− *「生体は置かれた環境の変化に対し,生体内部の状態をで きるだけ近い以前の状態に保持しようとする作用」 −ウォルター キャノン− 理学療法士が現場で必ず目にする臨床検査結果を例にとって 考えてみると,どの検査の正常値の範囲もきわめて狭いもので あることに気づく。血液の水素イオン濃度(pH)は 7.35 ∼ 7.45, 酸素飽和度(SaO2)は 94 ∼ 97%,核心温度(深部温度)は 35.5 ∼ 37.5℃の範囲(生活環境温度変化の± 1.5%に相当)など, 生命を維持するためのレンジは高い精度で調節されている。ホ メオスターシス(生体恒常機能)により,我々のからだがこの ような状態に維持されていることを十分理解して理学療法を開 始しなければならない。 生理学は理学療法教育の中でヒトの生命活動と直結した呼 吸・循環・代謝機能を理解させる。また,精神活動を含む神 経・筋生理では,ヒトの思考や睡眠,喜怒哀楽から,運動調 節,自律神経活動全般にわたる広範囲な知識を学ばなければな らない。講義で得た知識だけでは患者を前にしてほとんど役立 たない。生理学が実学である以上,実習,演習を通じて直接自 分のからだから学ぶチャンスを提供することが重要である。し かし,大綱化されたカリキュラムの中で,半数以上の養成施設 では明確に生理学実習の時間を確保できていないのが現実であ る。生理学実習の重要性は国家試験では問えない。臨床現場で はじめて実感するものである。 生理学の知識が十分でないと臨床で困ることがたくさんある。 1.全身調整能の低下によるリスクを排除できない 2.加齢・老化・障がいによる適応能力低下に対処できない 3.臨床記録を正しく読めない 4.医師の指示を正しく治療に反映できない 5.正常値と比較して病態生理を理解できない 6.インフォームドコンセントに必要な説明ができない 7.治療目標の策定が曖昧になる 8.治療計画が正しく立てられない 9.治療の質と量を正確に決定できない 10.臨床研究の質を担保できない 筆者は昭和 42 年に当時東京都北多摩郡清瀬町(現在は東京 都清瀬市)にあった,旧国立療養所東京病院附属リハビリテー ション学院に,理学療法学部 1 年生として入学した。生理学講 義は 1 年次通年授業として,ニューヨーク州立大学医学部から 帰国したばかりの,日本大学医学部助教授(当時),石川友衛 先生が担当されていた。先生は神戸大学医学部卒業後,大阪大 学工学部に編入され,医学研究における電気工学の知識と技術 を修得された。厚さ約 10 cm の「Textbook of Physiology and 理学療法学 第 40 巻第 8 号 525 ∼ 528 頁(2013 年)
理学療法に必要な生理学教育
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藤 原 孝 之
**海外招聘講演
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Educational Consideration of Physiology for Physical Therapy
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郡山健康科学専門学校
(〒 963‒8834 福島県郡山市図景 2‒9‒3)
Takayuki Fujiwara, PT, MD, PhD, DE: Koriyama Institute of Health Sciences
キーワード:生理学教育,生理学実習,基礎科目
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理学療法学 第 40 巻第 8 号 526 Biophysics」を教科書として,いきなり細胞膜電位とナトリウ ムポンプの話をされた。パニック状態の学生をよそに授業は 淡々と続けられ,復習しようにも一行ごとに医学英和辞典と格 闘する毎日であった。生理学実習は 2 年前期に実施され,毎週 違ったテーマで 10 項目,8 名の班が 5 週間で一巡りするよう に計画されていた。これを 2 回行うとすべての班が 10 項目を 終了する。生理学実習の日には 5 名の教員が各班を指導し,項 目によっては午後 1 時からはじまった実習は深夜にまでおよ び,その間,指導教員は常に学生とともに実習室に留まってい た。ケージから脱走した猫を捕獲網で追いかける学生,カエル の坐骨神経筋標本や八木式還流器に取りつけた心臓の収縮を記 録するために,鼻の穴まで真っ黒にしながらキモグラフィオン の記録用紙にキシレンを燃やして煤を塗りつける学生の姿が思 い起こされる。記録された筋や心臓の収縮曲線は,膠を煮詰め た固定液で固定した。毎週繰り広げられる学生同士のディス カッションを経験し,10 項目すべてのレポートを作成するこ ろには,自然科学,生理学の重要さが学生の肌で感じられるよ うになっていた。はたして,現在,このような実習の展開が可 能かどうかは別として,45 年前の生理学・生理学実習が理学 療法を学びはじめた学生に与えたインパクトの大きさは計り知 れないものがある。学生の自主的サークルとして,解剖生理 研究会(SAP, Society of Study for Anatomy and Physiology) が創られ,たくさんの部員が夜遅くまで課題別に勉強会を開 き,その成果を一冊の冊子にまとめた。「γ 系の目覚め(Waking Gamma)」がそれである。鉄筆で書いた原紙をガリ版で印刷し た粗末な体裁であったが,とにかくがむしゃらに勉強し,わか らないことがあればどこまでも調べて教員に質問した。いろい ろなかたちで 40 年以上理学療法士養成教育に関わってきたが, 現在ある自分の原点は,清瀬における生理学教育にあることだ けは明確に認識している。卒業後の進路に悩んでいるとき,当 時学院長だった砂原茂一先生から日本大学医学部長宛てに書い ていただいた,「理学療法士・作業療法士教育課程における生 理学教育に関わる教員養成依頼書」により,自身のライフワー クとして理学療法学科,作業療法学科の学生教育に,生理学と いう立場から関わることを決心した。 ここでは,45 年前に国立療養所東京病院附属リハビリテー ション学院で行われていた生理学実習の項目を挙げて,各項目 が理学療法士の養成に持つ意義について検討したい。また,こ れらが現在の養成校で実習項目として実施できたら,学生に とってどれほどの教育効果が期待できるか考えてみたい。実習 項目は以下のとおりである。すべてを考察することは紙面の都 合上できないので,このうちのいくつかを例に,実習の目的と 実習を通じて学生に期待する内容についてまとめてみる。 生理学実習項目 1)ネコを用いた除脳固縮(α 固縮と γ 固縮)の観察 2)坐骨神経標本を用いた神経伝導速度の測定 3)容積導体中の神経の活動電位 4)坐骨神経筋標本を用いた骨格筋の収縮曲線の観察 5)ウサギを用いた循環動態の観察 6)八木式還流法による心収縮の観察 7)ヒト心電図の観察 8)肺機能検査と呼吸曲線 9)血液の観察 10)誘発筋電図(M波,H波,F波)の観察 1.ネコを用いた除脳固縮(α 固縮と γ 固縮)の観察
1898 年,Sherrington1)が除脳固縮(Decerebrate rigidity) という現象をはじめて記載した。温血動物の大脳半球を上丘と 下丘の間で切除したとき現れる,特有の姿勢パターン2)のこ とである(図 1)。この Sherrington の論文は,現時点におい ても神経生理学の原点を示すものとされており,筋緊張の調節 と姿勢反射を理解するうえでもっとも基本となる。この実習で は,特別な測定器具は用いないので,数量的データはなにも残 らない。「眼で見て,触って,動かしてみる」ことによりそれ をいかに客観的に記載するかが問われる。 ①捕獲箱の中でネコを麻酔し,速やかに手術台に固定 ②気管挿管手術とエーテル麻酔 ③頭皮切開,開頭,左右内頸動脈の確保 ④内頸動脈止血による虚血性固縮の観察 ⑤丘間切除,除脳 ⑥除脳固縮標本の観察 ⑦延髄・脊髄標本の作製 この間に実験動物は相当量の出血が予測され,それを補充す るため,温血動物用リンゲルを腹腔内に注入すること,出血部 位の徹底した止血処置,および低体温による全身状態の悪化を 予防する保温・加温処置が必要である。本格的な観察はここか らはじまる。 学生は,実習前に筋緊張,姿勢反射,抗重力筋,γ -bias,脊 髄興奮準位,促通と抑制,EPSP と IPSP,ces と cis(central excitatory state & central inhibitory state),覚醒レベルなど の用語について,その定義と使い方を予習してくる必要があ る。その基本情報がないと教員との質疑応答が成立しない。 もっとも単純な単シナプス反射は,受容器,求心性線維,中枢 (前角細胞),遠心性線維,効果器(筋)の 5 要素から構築され ている。しかし,この単純な反射でさえ断位の如何によって, その表れ方が異なってくる。同一の反射を目標にしたとき,そ れが,麻酔標本,除脳標本,脊髄標本でいかに異なるかを観察 図 1 除脳固縮の観察
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理学療法に必要な生理学教育 527 すれば,その反射が脊髄,延髄,脳幹でいかに統合されている かを知ることができる。すなわち,ここで観察される固縮は, 除脳操作の刺激によって発現するものではなく,上位から離断 された下位中枢の,機能解放によるものだと知ることができ る。ここで,理学療法士が臨床で遭遇する痙縮,固縮,固痙縮 の機序とγ 系の亢進状態を理解し,その状態を自分の目で見て, 触って,動かしてみることによる体験が可能になるのである。 特に,陽性支持反応,ジャックナイフ現象,対称性・非対称性 緊張性頸反射,逃避反射の感触は,学生にとって一生涯忘れな い財産になる。錘体路,錐体外路障害の症例に接したとき,神 経学的検査の精度が飛躍的に高まることで,評価と治療計画の 質が保障されることは想像に難くない。 2.八木式還流法による心収縮の観察 近年,臓器移植,特に心臓移植が国内外で話題になっている。 ドナーから摘出された心臓は当然のことながら,死亡かまたは 脳死判定が確定した心臓である。体外に取りだした心臓は,心 臓が本来もっている自動能により,しばらくの間循環を絶った 状態でも収縮している。いい換えれば,体外に取りだしても勝 手に動いているのである。本邦ではまだ症例はそれほど多くな いが,欧米,特に米国,豪州では年間何千例もの心臓移植が行 われており,当然ながら,心移植後の理学療法も盛んに処方さ れている。さらに,心臓のみでなく,心肺同時移植も多数報告 されている。きわめて単純な装置を使った八木式還流法による 剖出心臓の観察3)(図 2)は,心臓自体のもつ自動能と,神経 支配,循環を絶たれた状態での一定時間の心臓の収縮を体験す る。薬物や電気刺激による収縮形態の変化を客観的に記録し, 収縮回数と収縮の大きさを比較することにより,心収縮のメカ ニズムと心臓の機能を理解する。 ①麻酔したカエルを背臥位にして固定板にピンで固定する ② 腹部の皮膚をピンセットでつまみ左右前肢の付け根まで三角 形に切り開く ③胸骨の正中部にはさみを入れ除去する ④心臓を剖出し心膜を切り開く ⑤ 心房,心室,大動脈弓,左右動脈幹,左右前大静脈の位置を 確認する ⑥ 左動脈幹を分岐部まで剥離し分岐部を結紮,そこから近位の 動脈幹を 1/3 切開する ⑦右動脈幹を結紮,これより末梢で動脈を切断する ⑧右大静脈を結紮,切除する ⑨肺を左右に反転し肺動脈と肺静脈を結紮,切除する ⑩ 肺尖部を指で反転すると肺静脈の基部に拍動する静脈洞を確 認する ⑪ 一番太い後大静脈に糸を通して半結びし,それを残し他を結 紮,切除する ⑫ ①と⑪で残した動脈と静脈に,冷血用リンゲル液を満たした 還流器のカニューレを挿入し結紮する ⑬動脈を結紮した糸をもち上げ抹消部を切り離す ⑭心臓を体外に取りだし,コルク部分をスタンドに固定する ⑮ 煤を塗りつけたキモグラフィオンに心尖部を取りつけ,収縮 曲線を記録する これで標本の作製は完了する。ここから以下の観察を行うこ ととなる。 1)心筋の収縮と不応期 ① カニューレ内部のリンゲル液の量を増減させ拍動数および拍 動の大きさを比較し,差が認められる場合はその理由を考 える ② 吸引電極を用いて心室に心室の収縮相を変えて電気刺激を加 え,通常のリズム以外の期外収縮と代償性休止を観察する 2)心筋の自動性 ①リンゲル液の温度を測定し,心拍リズムを計測する ② 静脈洞と心房の境界を結紮(Stannius の第 1 結紮)し,静 脈洞は拍動を続けるが心房以下は拍動を停止することを観察 する ③ この状態で心房または心室を直接電気刺激しその部位の収縮 を観察する ④ 時間経過とともに心房と心室が再び拍動しはじめることを確 認する心房と心室の間で結紮(Stannius の第 2 結紮)し,心 室拍動が確認されたらそのリズムを計測する ⑤ さらに心室の上 1/3 で結紮 Stannius の第 3 結紮)し,心尖 部の状態を観察する ⑥以上の結果から心臓の自動性を考察する 3)心臓の収縮に及ぼす ion の作用 ① Ca イオンを除いたリンゲル液に置き換え拍動様式,拍動数, 拍動高の変化を観察する ② 通常のリンゲル液で洗浄後,0.85%の CaCl 液をピペットで 少量ずつ加え(2 ml)その変化を観察する ③ 心停止したら直ちに通常のリンゲル液に置き換え,拍動が元 に戻ったらさらに除 K イオンリンゲルに置き換える ④ 0.82% KCl で同様の観察を行う ⑤除 Na イオン溶液でも同様の観察を行う ⑥ 以上の結果から Ca,K,Na の各イオンが心収縮に及ぼす作 図 2 八木式還流法による心収縮の観察 リンゲル液 貯留槽 支持 ブロック 動脈 カニューレ 静脈洞 大動脈 心房 心室
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理学療法学 第 40 巻第 8 号 528 用について考察する 3.誘発筋電図(M波,H波,F波)の観察 筋の活動電位を記録したものが筋電図であり,臨床診断で電 気生理学的検査法として広く利用されている。脊髄の興奮性を 間接的に評価する目的で,H波,M波,F波の観察を行う。ヒ トの末梢神経を経皮的に電気刺激すると,刺激後応答時間の異 なるふたつの活動電位が記録できる。早く現れるものをM波, 遅く現れるものをH波という。正常安静時では脛骨神経の電気 刺激で下腿三頭筋から誘発される。M波は運動神経線維が直接 刺激され,そのインパルスによって誘発される筋電図で,応答 時間は 4 ∼ 6 ms である。H波は伸張反射経路によって誘発さ れる。脛骨神経を膝窩表面で電気刺激して,下腿三頭筋の内側 頭と概則頭の境界部から末梢側に中心電極間距離 3 cm で塗布 した電極からM波とH波を記録する。骨格筋の随意収縮や姿勢 に影響されるので,計測中は可及的に姿勢を一定に保つことが 要求される。刺激強度の変化による波形の変化と閾値の変化を 観察し,姿勢,運動,各種反射活動によるH波の変化を記録す る4)(図 3)。 ① 定電流刺激又は定電圧刺激用のアイソレータを用いて膝窩部 を電気刺激する。強度は最大 50 mA 又は 200 V とし,刺激 幅は 0.6 ∼ 1.0 ms で固定,サンプリング周波数 2 ∼ 5 KHz, 掃引速度 50 ms/FS,加算回数は 16 ∼ 32 回とする ② H波閾値,M波閾値,M≒H,M波の現れないH波最大,H 波最大,M波最大の各刺激強度を記録し作図する ③ 姿勢,上肢の運動,対側下肢の運動,頸部の屈曲・伸展・回 旋などの条件によるH波閾値の変化を観察する ④ 小指球に脳波用皿電極を塗布し,尺骨神経刺激でM波とF波 を観察する 本実習では,ヒトの運動に関わる神経伝達や筋収縮を電気現 象として捉え,脊髄興奮準位をH波を通じて間接的に定量解析 する手法を学ぶ。併せて,脊髄内で起こっているきわめて不安 定な興奮性の変化が,ヒトの動きを制御していることを知る機 会になる。また,興奮の時間的加重と空間的加重の概念も学習 する。上肢から誘発されるF波は下肢におけるH波と性格が違 う。F波は脊髄後根を切断しても誘発されることから,その発 生機序は脊髄運動ニューロンの逆行性により発射し,上行性も 下行性も同一線維内で賦活されると考えられる。そのためには 脊髄内にどのような神経回路が存在するか考える。 応用科学としての理学療法は,疾病や障がいによって修飾さ れたり損なわれた機能を,以前の状態に近づける目的で行われ る。理学療法士はヒトの生理機能を正しく理解し,臨床場面で のリスクを最大限排除しなければならない。生理学は,適応能 力が低下した弱者に最適な治療を提供するための準備として, 理学療法士が身に着けるべき知識と技術を裏づける根拠となる。 もう一度,専門基礎教育における生理学の重要性と,学生に とって「使える生理学・生理学実習」とはなにかを,教育現場 で再検討する時期である。形骸的な教科書中心の座学で終わら せない,生理学教育の新しい改革を提案したい。また,基礎・ 臨床研究で得たエビデンスが理学療法の社会的評価を高め,診 療報酬点数の策定に大きく寄与してきたことは周知の事実であ る。10 年後,20 年後の理学療法の職域を確保,拡大するため には,理学療法士自身の生理学的思考がどうしても必要になる。 この報告が,理学療法士にとって生理学を身近な学問として 親しみ,先人たちが準備してくれた知的財産を増殖させる培地 になれば幸いである。 文 献
1) Sherrington CS: Decerebrate rigidity and refl ex coordination of movements. J. Physiol. 1898; 22: 319.
2) Physiology and biophysics 20th ed. I:Transection of the spinal cord pp. 1‒13, Brain stem control of posture and orientation in space. 1978, pp. 14‒52. 3) 日本大学医学部第一生理学教室(編):生理学実習書,心臓摘出標 本.南江堂,東京,1983,pp. 32‒36. 4) 藤原孝之,石川友衛:神経筋促通手技中のH波の変化.総合リハ ビリテーション.1982; 10: 1009‒1014. 図 3 基準化した電気刺激強度(T)で脛骨神経を刺激す ると,下腿三頭筋(sural m.)の表面からM波とH 波が観察される.前脛骨筋(tibial m.)の表面から も減衰した波形が記録できる.刺激強度を変化させ, 波形の大きさをプロットしたもの(藤原原図).
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