©
ノ ー ト
試験紙法による尿タンパク質定性検査における
pH
変化による測定誤差
鈴 木 優 治
11 緒 言
試験紙法による尿タンパク質定性検査はスクリーニング 法として臨床的に広く行われている.試験紙法は pH 指示 薬であるテトラブロムフェノールブルーのタンパク誤差に よるタンパク質の発色に基づく色素結合法である1)2).試 験紙法は濃縮された物質が高濃度で存在する尿試料に試験 紙を直接浸漬するために妨害物質による影響を受けやす い3)4).タンパク誤差によるタンパク質の発色は発色試薬 中の色素濃度5),緩衝液の濃度6)及び種類7)8),試料中の共 存陰イオン濃度9)により変化するほか,著しく pH に依存 するため5)~7)10),色素結合法によるタンパク質の分析では pHを一定に保持することが正確な測定に不可欠である. 試験紙検出系 pH は pH 3.0 に設定されているが1)2),生 理学変動範囲が pH 4.6~7.8 の尿に試験紙を浸漬した場 合,尿試料によっては試験紙検出系 pH はアルカリ側に移 動し,偽陽性反応が引き起こされることが知られている1) ~3)11)12).また,試験紙法による尿タンパク質定性検査に おいて,同一の検査成績を示す尿試料であっても尿タンパ かい ク質定量値は広範囲に分布し2)12)~16),定量検査成績と乖 離する尿試料が存在し,試験紙検出系 pH 上昇の関与を示 唆すると考えられる検討結果が報告されている.本論文で は,試験紙検出系 pH の上昇が尿タンパク質定性検査にお いて引き起こす測定誤差の特性について,タンパク誤差の 化学平衡に基づく計算9)及びブロムフェノールブルー (BPB)を用いた実験により定量的に検討した結果を報告 する.2 実 験 方 法
2・1 試 薬 試薬は和光純薬から購入した製品を用いて調製した. 緩衝液 : 0.1 mol L-1クエン酸溶液と 0.2 mol L-1リン酸 水 素 二 ナ ト リ ウ ム 溶 液 を 混 合 し て 調 製 し た.pH は Hitachi-Horiba M8 pHメーターにより測定した. 1 mmol L-1 BPB溶液 : ブロムフェノールブルー 0.670 g 1埼玉県立大学保健医療福祉学部健康開発学科 : 343-8540 埼玉 県越谷市三野宮 820 をエタノール 10 mL でよく溶解し,水を加えて全量を 1000 mLとした. 発色試薬 : pH 3.0 の緩衝液 400 mL 及び 1 mmol L-1 BPB溶液 100 mL を取り,水を加えて全量を 1000 mL と した. 4 g L-1ヒト血清アルブミン溶液 : ヒト血清アルブミン (HSA)400 mg を取り,水に溶解して全量を 100 mL とし た. 2・2 測定操作 試験溶液は HSA 溶液 1.0 mL に発色試薬 4.0 mL を加え, 25℃,10 分間反応させた.吸光度は空試験溶液及び水を 対照として 600 nm で測定した.空試験溶液は水 1.0 mL に発色試薬 4.0 mL を加えて調製した.検出系 pH のずれ (ΔpH) の 影 響 は pH が pH 3.00 か ら 0.20,0.40,0.60, 0.80,1.00 だけ高値にずらした発色試薬を調製し,この発 色試薬によりヒト血清アルブミンを発色させて検討した. 発色試薬 pH のずれは尿に発色試薬を加えたときに引き起 こされたと考え,この pH のずれを ΔpH と見なした. 吸光度の測定は日立臨床検査用分光光度計 7011 で測定 した. 2・3 尿タンパク質の定量及び定性 尿タンパク質の定量はビウレット法17)及び BPB 改良 法18)により行った.検量物質には,ヒト血清アルブミンを 用いた.また,尿タンパク質定性はウロペーパー ’栄研’ HAG-2(栄研化学)により行った. 2・4 化学平衡に基づく発色に関する計算 検出系 pH のずれがタンパク質の発色に及ぼす影響に関 する計算は先の報告9)に従って下記のように行った. 2・4・1 タンパク誤差の反応様式 (a)色素の解離反応 HD H++ D− [H+][D−] = K D [HD]++ − [PM] P M PM [P+][M−] = KPM (e)尿共存陰イオンと正荷電タンパク質との反応 ++ − [PY] P Y PY [P+][Y −] = K PY 2・4・2 色素タンパク質複合体(発色体)濃度の計算 (KDKPD[H+]+KDKPDKHM)[PD]2-([H+]2+KHM[H+] +KPYCY[H+]2+KHMKPYCY[H+]+KHMKPMCM[H+] + + +KD[H ]+KDKHM+KDKPYCY[H ]+KDKHMKPYCY + +KDKHMKPMCM+KDKPDCD[H ]+KDKPDKHMCD + +KDKPDCP[H ]+KDKPDKHMCP)[PD] + +KDKPDCDCP[H ]+KDKPDKHMCDCP=0 ( 1 ) た だ し,CP=αCX=CX/{1+(KW/Kb[H+])+(KaKW/ Kb[H+]2)}.[PD] : 色素タンパク質複合体濃度(mol L-1), KD: 色素の解離定数,KPD : 色素タンパク質複合体生成反 応の平衡定数,KHM : 緩衝液の共役酸の解離定数,KPM : 緩衝液の共役塩基と正荷電タンパク質との反応の平衡定 数,KPY : 試料中の共存陰イオンと正荷電タンパク質との 反応の平衡定数,CD: 色素濃度(mol L-1),CP: 正荷電 タンパク質濃度(mol L-1),C M: 緩衝液濃度(mol L-1), CY: 試料中の共存陰イオン濃度(mol L-1),CX: 全タン パク質濃度(mol L-1),α : 正荷電タンパク質の解離度, KW: 水のイオン積,Ka: タンパク質の酸性側鎖の解離定 数,Kb: タンパク質の塩基性側鎖の解離定数. 2・4・3 吸光度の計算 K D EZ = EP − EB =εD n −[H ]+ K D [PD] ( 2 ) + ~0.08 mol L ,CX=2.32 ×10 ~1.16 ×10 mol L , C Y=0.01 mol L-1,K W=10-14,K a=10-8,K b=10-2, εD=5 ×104 L mol-1 cm-1,n =0.9. 2・5 検出系 pH が変化したときの発色強度の表示 HSAと BPB との発色反応において,検出系 pH のずれ (ΔpH)はタンパク質試料を含む試験溶液中だけで起こ り,空試験溶液中では起こらない.したがって,検出系 pHがずれたときの発色は次のように pH 3.0 における発 色強度を 100 とした相対発色強度(R)で表した. E − E R = Y B ×100 EX − EB ただし,EX : pH 3.0における試験溶液の吸光度(対照 : 水),EY: pHがずれたときの試験溶液の吸光度(対照 : 水),EB : pH 3.0における空試験溶液の吸光度(対照 : 水).
3 結 果
試験紙法の測定原理であるタンパク誤差によるタンパク 質の発色は著しい pH 依存性を示す.この現象は pH が発 色体を生成する解離型色素陰イオン濃度及び正荷電タンパ ク質濃度を変化させることに起因することがタンパク誤差 の化学平衡から明らかにされている5)~7).尿タンパク質定 性試験紙法は反応条件として pH 3.0 が選定されているが, 尿 pH の生理学的変動範囲はおおむね pH 4~8 であるた め,試験紙を尿に浸漬したときに試験紙検出系 pH は尿中 物質により pH 3.0 からアルカリ側にずれる可能性がある. そこで,尿により試験紙検出系 pH が pH 3.0 から 0~1.5 程度のずれを示すと仮定し,pH とタンパク質の相対発色 強度との関係について計算及び実験により検討した. 3・1 計算から得られた特性 式( 1 )から明かなように,反応で生成する発色体であ る色素タンパク質複合体量は pH,色素濃度,緩衝液濃度Fig. 1 (A) Relationship between the color
develop-ment and the pH (calculated result)
The absorbance was calculated by subtracting the absorbance of the reagent blank at pH 3.0 from the absorbance of the test solution at arbitrary pH. Calculation conditions : pKD=3.98, KPD=107, KPM= 102, K
HM=10-3, K b=10-2, K a=10-8, C X=1.16 × 10-5 mol L-1, C D=4 ×10-5 mol L-1, CM=0.02 mol L-1, C Y=0.01 mol L-1, εD=5 ×104 L mol-1 cm-1, n
=0.9
Fig. 1 (B) Relationship between the relative color intensity and the pH change (ΔpH) when the protein concentration varies (calculated result)
Calculation conditions : C X=2.32 ×10-6 mol L-1 (○), CX=5.80 ×10-6 mol L-1(△), CX=1.16 ×10-5 mol L-1(□). The relative color intensity was calcu-lated as follows. R={(E Y-E B)/(E X-E B)} ×100. EX : Absorbance of the test solution at pH 3.0 (against water), EY : Absorbance of the test solution at arbitrary pH (against water), E B : Absorbance of the reagent blank at pH 3.0 (against water)
及びタンパク質濃度に依存する.そこで,検出系 pH のず れ(ΔpH)と相対発色強度との関係はこれらの変量を変 化させて検討した.
Fig. 1(A)は,試験溶液 pH を 3.0~4.4 まで変化させ
Fig. 1 (C) Relationship between the relative color intensity and the pH change when the dye concentra-tion varies (calculated result).
Calculation conditions : CD=2 ×10-5 mol L-1(○), C D=4 ×10-5 mol L-1(△), C D=8 ×10-5 mol L-1 (□) たときの pH と発色強度との関係を示している.試験溶液 pHだけが上昇するとき,発色強度は試験溶液 pH が高く なるに従って見掛け上増加し,試験溶液 pH の上昇が正誤 差を引き起こすことを示している. Fig. 1(B)は,タンパク質濃度を 3 段階で変えたとき の試験溶液 pH のずれと相対発色強度との関係を示してい る.相対発色強度は ΔpH が大きくなるに従って増加する. しかし,その増加度はタンパク質濃度が低いほうが大き く,ΔpH=1.0 で比較すると,タンパク質濃度が 1.16 × 10-5 mol L-1のときには 2.4 倍であるが,タンパク質濃度 が 2.32 ×10-6 mol L-1に低下すると 9.9 倍まで増加する. Fig. 1(C)は,試薬中の色素濃度を 3 段階で変えたと きの試験溶液 pH のずれと相対発色強度との関係を示して いる.相対発色強度は ΔpH が大きくなるに従って増加す る.しかし,その増加度は色素濃度が高いほうが大きく, ΔpH=1.0 で比較すると,色素濃度が 0.02 mmol L-1のと きには 1.6 倍であるが,色素濃度が 0.08 mmol L-1に高ま ると 4.2 倍まで増加する. Fig. 1(D)は,試薬中の緩衝液濃度を 3 段階で変えた ときの pH と相対発色強度との関係を示している.相対発 色強度は ΔpH が大きくなるに従って増加する.しかし, その増加度は緩衝液濃度が高いほうが大きく,ΔpH=1.0 で比較すると,緩衝液濃度が 0.02 mol L-1のときには 2.4 倍であるが,緩衝液濃度が 0.08 mol L-1に高まると 2.6 倍 に増加する. このように試験溶液 pH のずれはタンパク質の発色を見 掛け上増加させる.しかも,その増加度は試薬中の色素濃 度及び緩衝液濃度,試料中のタンパク質濃度により変化 し,特に色素濃度及びタンパク質濃度による影響は著しく
Fig. 1 (D) Relationship between the relative color intensity and the pH change when the buffer concen-tration varies (calculated result)
0.02 mol L-1(○), C M Calculation conditions : C M=
=0.04 mol L-1(△), C
M=0.08 mol L-1(□)
Fig. 2 (A) Relationship between the color develop-ment and the pH in the reaction of BPB and HSA The absorbance was calculated by subtracting the absorbance of the reagent blank at pH 3.0 from the absorbance of the test solution at arbitrary pH. HSA concentration was 2 g L-1. The buffer volume and the dye concentration in the color reagent were 20 v/v%, and 5 ×10-5 mol L-1, respectively.
大きいと推測された. 3・2 実験から得られた特性 Fig. 2(A)は,試験溶液 pH を 3.0~4.4 まで変化させ たときの pH と HSA の発色強度との関係を示している. 試験溶液 pH だけが上昇したとき,発色強度は試験溶液 pHが高くなるに従って増加し,試験溶液 pH の上昇は正 誤差を引き起こすことが示された. Fig. 2(B)は,タンパク質濃度を 3 段階で変えたとき
Fig. 2 (B) Relationship between the pH change and the relative color intensity in the reaction of BPB and HSA when the protein concentration varied
The dye concentration and the buffer volume in color reagent were 10 ×10-5 mol L-1 and 20 v/v%, respec-tively. ○ : 0.4 g L-1 HSA ; △ : 2 g L-1 HSA ; □ : 4 g L-1 HSA
Fig. 2 (C) Relationship between the pH change and the relative color intensity in the reaction of BPB and HSA when the dye concentration in the color reagent varied
The HSA concentration was 0.4 g L-1 The buffer volume in the color reagent was 20 v/v%.. 2 ×10-5 mol L-1 BPB (○); 5 ×10-5 mol L-1 BPB (△); 10 × 10-5 mol L-1 BPB (□) の試験溶液 pH のずれと相対発色強度との関係を示してい る.相対発色強度は ΔpH が大きくなるに従って増加した. しかし,その増加度はタンパク質濃度が低いほうが大き く,ΔpH=1.0 において比較すると,HSA 濃度が 4 g L-1 では 1.2 倍であったが,HSA 濃度が 0.4 g L-1に低下する と 4.2 倍まで増加した. Fig. 2(C)は,試薬中の色素濃度を 3 段階で変えたと きの試験溶液 pH のずれと相対発色強度との関係を示して
Fig. 2 (D) Relationship between the pH change and
the relative color intensity in the reaction of BPB and HSA when the buffer volume in the color reagent var-ied
The dye concentration in the color reagent and the HSA concentration were 10 ×10-5 mol L-1 and 0.4 g L-1, respectively. buffer 20 v/v% (○); buffer 40 v/v% (△); buffer 80 v/v% (□)
Fig. 3 (A) Correlation between the urine protein concentration obtained by the biuret method (x) and the improved BPB method (y)
いる.相対発色強度は ΔpH が大きくなるに従って増加し た.しかし,その増加度は色素濃度が高いほうが大きく, ΔpH=1.0 において比較すると,色素濃度が 0.02 mmol L-1では 1.3 倍であったが,色素濃度が 0.1 mmol L-1に高 まると 4.2 倍まで増加した. Fig. 2(D)は,試薬中の緩衝液濃度を 3 段階で変えた ときの試験溶液 pH のずれと相対発色強度との関係を示し ている.相対発色強度は ΔpH が大きくなるに従って増加 した.しかし,その増加度は緩衝液濃度が高いほうが大き く,ΔpH=1.0において比較すると,緩衝液濃度が20 v/v% では 4.2 倍であったが,緩衝液濃度が 80 v/v% に高まると
Fig. 3 (B) Relationship between the urine protein concentration by the biuret method and the ratio (y/x) of the urine protein concentrations obtained by the biuret method and the improved BPB method
5.9倍まで増加した. 以上のように試験溶液 pH のずれは発色を見掛け上増加 させた.しかも,その増加度は試薬中の色素濃度及び緩衝 液濃度,試料中のタンパク質濃度により異なり,特に色素 濃度及びタンパク質濃度による影響が大きかった. 3・3 尿試料における特性 前述の計算及び HSA を用いた実験で得られた,試料中 のタンパク質濃度が低いほど相対発色強度が大きくなると いう結果が実試料の測定においても見られるかどうかを確 認するため,ビウレット法及び BPB 改良法により測定し た患者尿 229 例の尿タンパク質定量値を解析した.Fig. 3 (A)は,ビウレット法(x)と BPB 改良法(y)との相関 関係を示しており,両測定法の測定平均値には有意差が, 測定値にはばらつきが認められた.このばらつきの特性を 明らかにするため,両測定法の定量値比(y/x)とタンパ ク質濃度(ビウレット法定量値)との関係について検討 し,その結果を Fig. 3(B)に示した.定量値比はタンパ ク質濃度が高い領域では 1 に近似する値となったが,タン パク質濃度が低くなるに従って著しく増加した.ビウレッ ト法はタンパク質の種類による発色強度差が小さく,また 尿タンパク質を沈殿分離後に発色させるために原理的には 尿 pH に影響されないことを踏まえると,低タンパク質濃 度領域では BPB 改良法の相対発色強度が大きくなり,定 量値は見掛け上高くなったものと考えられる.すなわち, タンパク質濃度が低くなるほど定量値比が大きくなってい ることは,この現象が原理的に尿 pH の影響を受けやすい BPB改良法検出系 pH のずれに起因する現象であることを 示すものと考えられる. これらの尿検体を試験紙法により分析した定性検査成績
Fig. 4 Relationship between the pH change of the buffer solution by adding urine sample and the urine pH
The pH change was measured by adding 5 mL of urine to 20 mL of the buffer solution of pH 3.0, using a Hitachi Horiba M8 pH meter. The urine pH was measured by the UROPAPER ”Eiken” HAG-2 (Eiken Chemical Co., Ltd., Tokyo, Japan).
と定量値との関係は次のようになった.定性検査の判定基 準である-,±,+,2+,3+,4+になった検体のうち, 定量値が各判定基準におけるタンパク質の表示濃度を超え た検体の割合はビウレット法では,-が 24.3(25/103)%, ± が 18.5(10/54)%, + が 93.1(27/29)%,2+ が 60.9 (14/23)%,3+が 85.7(6/7)%,4+が 0(0/9)% であり, BPB改 良 法 で は, - が 92.2(95/103)%, ± が 75.9 (41/54)%,+が 100(29/29)%,2+が 69.6(16/23)%, 3+が 71.4(5/7)%,4+が 11.1(1/9)% であった.この ように,両測定法による定量値は定性検査成績が-~±の 検体では一致度が著しく低く,+~4+の検体では一致度 が高かった.また,定性検査成績が±の検体 54 例中には, ビウレット法による定量値が-の表示濃度領域にある検体 が 34 例(63%)見られた.更に,+の検体 29 例中には, ビウレット法による定量値が±の表示濃度領域にある検体 が 3 例(10.3%)見られた.この現象は試験紙法の検出系 pHのずれにより検体のタンパク質濃度が-及び±領域に あるものの発色が見掛け上増加し,判定が-から±に,及 び±から+にずれたものと考えられる.なお,本測定で用 いた試験紙法の判定基準である-,±,+,2+,3+, 4+におけるタンパク質の表示濃度はそれぞれ 100 mg L-1 未 満,100 ~200 mg L-1,300 mg L-1,1000 mg L-1, 3000 mg L-1,10000 mg L-1であった. Fig. 4は,BPB 改良法発色試薬中の緩衝液 20 mL に pH の 異なるタンパク質尿 5 mL を添加し,pH メーターで測定 した緩衝液 pH のずれと尿試験紙法(ウロペーパー ’栄研’ HAG-2)により測定した尿 pH との関係を示している.尿 分析試料からの物質の分離,精製などの前処理が行われる ことは少ない.すなわち,検出反応は測定目的物質以外の 物質の共存下で行われることから,共存物質の反応への関 与について把握することは正確な測定を実施する上で重要 である.尿試料の特徴は物質濃度が高く,しかもその生理 学的変動範囲が広いことである.尿 pH はクエン酸塩,リ ン酸塩,尿酸,アンモニアなど,種々の酸や塩基によりお おむね pH 4~8 の範囲で変化する.このような酸や塩基 が存在する尿に試験紙を浸漬した場合,試験紙検出系 pH は設定条件の pH 3.0 からアルカリ側にずれる可能性があ る.アルカリ性尿においては,試験紙法では偽陽性反応が 起こりやすいことが知られているが,検出系 pH のずれの 大きさと偽陽性反応の大きさとの関係についての定量的な 議論はなされていない. 前述のように,試験紙検出系 pH のずれの大きさと相対 発色強度との関係について行った計算及び実験から得られ た結果は一致し,検出系 pH のずれにより生じる測定誤差 の特性は pH,色素濃度,緩衝液濃度及びタンパク質濃度 と密接に関係することが明らかになった.市販の試験紙法 では種々の酸や塩基の存在下で検出系 pH を一定に保ち, しかも高濃度のタンパク質も検出できるように条件設定さ れていることから,試験紙中には高濃度の色素が処方され ているものと考えられる.色素濃度が 0.04 mmol L-1,検 出系 pH に ΔpH=1.0 のずれが 生じたとして測定誤差を 見積もると,次のような特性が見られると推測される.す なわち,相対発色強度は高タンパク質濃度(1.16 ×10-5 mol L-1)においては 2.4 倍の上昇であるが,低タンパク 質濃度(2.32 ×10-6 mol L-1)においては 9.9 倍まで上昇 し,検出系 pH のずれの影響は低タンパク質濃度領域にお いてより大きくなる.実験では,色素濃度が0.1 mmol L-1, 検出系 pH に ΔpH=1.0 のずれが生じたときには,相対発 色強度は高タンパク質濃度の 4 g L-1 HSA溶液では 1.2 倍 の 4.8 g L-1 HSA溶液に相当する発色であったが,低タン パク質濃度の 0.4 g L-1 HSA溶液では 4.2 倍の 1.68 g L-1 HSA溶液に相当する発色に達した.このように,尿中の 酸や塩基により検出系 pH が上昇した場合,測定値は見掛
けの増加を示す.このことはタンパク質濃度が同じ試料で あっても,検出系 pH のずれの大きさの違いにより測定結 果が異なることを意味する.すなわち,この検出系 pH の ずれは報告されている試験紙法による定性検査成績と定量 検査成績の一部に見られる,乖離に関与する要因の一つと 考えられる. Fig. 4に示した緩衝液にタンパク質尿を加えたときの pH変化の結果から,尿により検出系 pH にずれが起こる ことは明らかである.その際に生じる検出系 pH のずれの 大きさは尿 pH の上昇とともに増加する傾向を示すことか ら,試験紙法では尿 pH が高いほど検出系 pH のずれは起 こりやすく,測定誤差が大きくなると推測される.また, タンパク質濃度が低いほど検出系 pH のずれによる発色へ の影響が大きくなることから,タンパク質が陰性(-), あるいは痕跡(±)の試料においては,わずかな検出系 pHのずれでも陽性(+以上)試料と判定される偽陽性出 現の可能性は高い.このことに加えて検出系 pH のずれの 影響は色素濃度が高いほど大きくなるので,タンパク質が 陰性~痕跡(-~±)の尿試料のタンパク質検出における 信頼性を高めるためには,試験紙中の色素含有量を少なく することが重要と考えられる.実験で示したように,検出 系 pH のずれが ΔpH=1.0 とすると,0.4 g L-1 HSA溶液 の相対発色強度は高色素濃度(0.1 mmol L-1)では 4.2 倍 まで達したが,低色素濃度(0.02 mmol L-1)では 1.3 倍 に縮小した.この結果が試験紙法による測定にも当てはま ると仮定すると,試験紙法において+と判定されると考え られる 0.4 g L-1 HSAの相対発色強度は,低色素濃度での 測定であれば 0.4 ×1.3=0.52 g L-1のタンパク質濃度に相 当するものとなり,+と判定されることが期待されるが, 高色素濃度での測定では,0.4 ×4.2=1.68 g L-1に相当す るものとなり,2+~3+に判定される可能性が高い. このような検出系 pH のずれによる測定への影響は実試 料においても発生していることがビウレット法及び BPB 改良法による定量値と試験紙法の検査成績との比較から示 唆される.すなわち,試験紙法の判定が-及び±の尿試料 において,BPB 改良法定量値がビウレット法定量値より も高めに測定され,しかも試験紙法による判定が±及び+ の尿試料中に-の判定基準の濃度領域にビウレット法定量 値を有するものが含まれていたことは,実試料においても 検出系 pH のずれが起こり,これにより測定誤差が発生し ていることを支持するものと判断される. 試験紙法による尿タンパク質定性検査では,タンパク質 は通常検出限界以下の陰性であり,陽性の場合には異常と 判定されることから,陰性と陽性を明瞭りょうに識別することが 臨床的には極めて重要である.色素濃度の減少はタンパク 質の検出感度の低下につながるが5),低濃度タンパク質の 検出は,色素含有量の少ない試薬を用いて行うことが偽陽 性出現の抑制に有効であり,低濃度タンパク質の検出にお ける信頼性を向上させるための対応策の一つになると考え られる.
(
2007年 5 月,第 68 回分析 化学討論会おいて一部発表)
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