特発性間質性肺炎に合併した大細胞癌の一剖検例
県立中央病院病理科 平賀寛孝 小山敏雄 木村聖子 同 呼吸器内科 大久保修一 後藤慎一 竹村尚志 後藤慎一 要旨 症例は74歳の女性。平成4年8月頃より咳鰍、喀疾出現し、近医受 診するも軽快せず、労作時呼吸困難出現したため当院受議胸部レ線 上左無気肺と右下肺野の線状網状影指摘され、当院精査目的で入院と なった。臨床症状、画像所見より間質性肺炎が疑われ、経気管支肺生 検にて間質性肺炎と診断された。左無気肺の原因として内視鏡的に肺 癌が疑われるものの、著明な気管支内粘液栓のために、確定診断まで に3度の経気管支肺生検を必要とした。入院後ステロイドパルス療法、 ETP単剤による化学療法、さらに放射線治療を施行したが、骨髄抑制、 肺炎、DICを合併し、193病日死亡した。剖検にて、特発性間質性肺 炎と大細胞癌の合併と考えられ、興味深い症例と思われた。 Key Word:特発性間質性肺炎、大細胞癌、剖検例 はじめに 特発性間質性肺炎には、肺癌の 合併する頻度が高いとされてい るが、なかでも扁平上皮癌、腺 癌の頻度が高いとされている1) ∼6)。今回我々は、特発性間質 性肺炎に合併した大細胞癌の1 剖検例を経験したので、報告す る。 症例 患者:74歳、女性、主婦。 主訴:労作時呼吸困難。 家族歴:姉膀胱癌、高血圧。 既往歴:左白内障。 嗜好:喫煙指数50、酒・ (一)、ペット飼育歴・なし現病歴:平成4年8月頃よ
り咳噺、喀疾など感冒様症状出 現.近医受診するも軽快せず、 夜間喘息様症状が出現するよう になった。さらに歩行時の呼吸 困難出現したため当院受診し、 胸部レ線上異常陰影を指摘され、 入院となった。 入院時現症: 身長 147cm、体重 53kg、 体温 36.3℃。 血圧 118/62mmHg、 脈拍 84/min整。 左肺呼吸音減弱、心音異常なし。 貧血・黄疸なし、チァノーゼな し、顎下および鎖骨上窩リンパ 節触知。腹部および神経学的所 見異常なし。 入院時検査所見(表1): 血液生化学検査ではZTT.TTT の上昇、CRPの上昇、血沈の元 進を認めた。動脈血ガス分析で は、過換気を伴った低酸素血症 を示した。腫瘍マーカーは正常 範囲内であった。気管支肺胞洗 浄液では、CD4/CD8比は1.84 一10一で、リンパ球比率は50%であっ た。 胸部単純X線(図1): 気管の左方偏位および横隔膜の 挙上を伴う左無気肺を認めた。 さらに、左主気管支の途絶がみ られた。右下肺野には、線状網 状陰影を認めた。
胸部CT像(図2):
左主気管支の途絶が認められ、 さらに右肺底区外層胸膜直下を 中心に、小輪状網状影を認めた。 病理所見: 左B8からの経気管支肺生検の 病理像では、Azan染色にて胞 隔の線維化と肥厚、さらにリン パ球の浸潤を認め間質性肺炎と 診断した。 入院後経過(表2): 入院後、左無気肺の原因精査の ため、入院第2病日に気管支鏡 検査を施行。左主気管支、気管 分岐部より4cmに白色塊と、 その奥の黄白色の腫瘤による左 主気管支の完全閉塞を認めた。 内視鏡的には肺癌が強く疑われ たものの、確定診断がなかなか つかず、3回目の気管支鏡検査 で”低分化扁平上皮癌”と診断された。臨床診断では、TNM分
類でT3N2MO StagelllAの肺癌 およびIIPと診断された。肺癌 治療開始前に、IIPの活動性を 評価し、気管支肺胞洗浄液より 活動性ありと判断し、49病日 および70病日にソルメドロール193日間でパルス療法を施
行した。98病日よりエトポシ ド5 Omgによる内服治療を開始し、さらに113病日より放射
線治療も開始した。154病日
よりエトポシド501ngによる2 度目の化字療法を施行した、 164病日、骨髄抑制、肺炎、さらにDICを合併し、193病
日に死亡した。 病理解剖学的所見: 右肺では重量の増加があり、外 側面表面には硬化像が見られた (図3)。右肺の割面像では、 肺胞道の拡張と、そこに滲出物 の充満を認めた。また、葉間胸膜に接して径1cmの左肺癌の
転移を認めた(図4)。右肺下 葉の割面像ではHoney・c。mb Lungが認められた(図5)。 右肺上葉の病理組織像では、肺 胞入口輪を中心に、硝子膜形成を認めた(図6)。Azan染色
では、硝子膜は青染せず、これ が新しいものであることが分か り、IIPの急性増悪に対応する 所見と考えられた。 左肺の外側面では、胸膜の著 しい線維性肥厚を認めた(図 7)。左肺の割面像では、上葉 に原発巣があり、肺門部リンパ 節に転移を認め、また下葉を中 心に気管支に粘液栓を認めた (図8)。原発巣の拡大像では、 原発巣にB1+2bの枝が入り込ん でいた(図9)。病理組織像で は、大型で、核小体明瞭な、一 部多核の腫瘍細胞が認められた (図10)。腺腔形成や粘液は 見られず、また角化傾向や細胞 間橋もなく、大細胞癌と診断さ れた。左肺の線維化の著しい部分の病理像では、Azan染色で
青く染まる線維化像を認めた (図11)。左肺の線維化像は、 右肺よりも高度であった。 左肺下葉の割面像では、気管支 には粘液栓が詰まっており、下 葉が無気肺となっていた(図 ⊥2)。また、上葉の気管支も 一11一同様で、肺癌の確定診断に苦労 したことを、裏付けていた。 以上、左肺の所見をまとめると 図13のようになる。 なお、この肺癌は対側肺のほか に歯肉、胃、空腸、副腎、脾臓 などに転移を認めた。 考察 HPに合併する肺癌の頻度は、 およそ10−40%と報告に差 があるものの、いずれも対照群 とは有意差が認められている 1)2}4)5)5}。逆に、肺癌にIIPを合併 する頻度は数%と報告されてお りe、両者の関連は密接である。 IIPに合併する肺癌は、末梢型 が多いとされており1}∼6}、本症 の大細胞癌も、末梢型であった。 また、一般には中枢型が多いと される扁平上皮癌も、IIPに合 併したものでは末梢型のものの 方が、多いと報告されている 4i5)。肺内の線維化の程度が、 癌側のほうに強く、左右差が認 められたが、これはRadiation のみならず、癌性リンパ管症も 影響していると思われた。 まとめ 1.IIPに合併した大細胞癌のユ 剖検例を経験した。2著明な癌 性リンパ管症と、放射線治療の ために癌側では線維化の程度が 強かった。3.IIPには肺癌の合 併頻度が高く、その診断、治療 には十分な注意を払う必要があ ると思われた。 文献 1)米田良蔵:肺線維症に合併する 肺癌症例について.厚生省特定疾 患・肺線維症調査研究班昭和52 年度報告書1978.p17 2}清水英男:特発性間質性肺炎に 合併した肺癌の病理学的瑚究一 特に蜂窩肺との関係について一 日胸疾会誌1985,83:873.881 3) Kawai,T.,Yakumaru, K.,SttzUki、 M.andKageyama, K.:Diffuse ioヒerstitial pneumonia and lttng cancer. Acta PatholJpn 1987,37:11−19 4)岡野宏谷本晋一,中田紘一郎他: 特発性間質性肺炎の肺癌合併.日 胸1989,48:189・197 5)松下央:特発性間質性肺炎と肺 癌.臨床と病理1993,11二172・182 6)近藤有好:特発性間質性肺炎(IIP) と肺癌合併例の臨床的検討間質 性肺疾患研究会討議1992,46:24・ 33 図1,胸部単純X線(H4.10.16) 図2、胸部CT像〔H4.1020) 一12一
衰1 入蕨㎜硯 CBC WBC RBC 恥 HCt 問t Biochernis匠y 怜 Alb zrT m T・C“ TG UN UA Cr ㎝ GPT LDH AIp Clu, ESR(1hr) T姐コαr曲 CEA CAIYg SCC NSE 8100 加m1 339 ×1ぴ!㎜, IL6 Stdl 33.8 % 26.3 Xlor’㎜, 82 Sidl 35 Sidl 26、5 KU 20.l MU 189 ㎎/dl 113 m砂dl t22 mg/d1 7,5 mgrdl α8 mStdl 20 仰 14 uβ 404 u刀 242 UA 5・64 mbldl 134 ロm 4.2 11 2」5 10 叩加1 u加1 nstmi ngtml BGA(㎜aめ pH ・no, hcq ㎞y㎞onぬt BALF VC %VC FEVI違 fEVts%SDio T,C,C. 7.460 67.3 TorT 33.8 Torr 1670 ml 77.9 % lno ml so.3 % 42.e % 5.6xlol ONcuhm2JrmohiSON ias) OKT4κ)K口 u山}Uy珀 pm任泌 su86「 ㏄c.bl画 S㎞[ eee,blα対 1.84 (一) (h) ( ) (一) 表2 入院後経過 cRP 」DHtooo u’ oo o ロ コも づ XICVmmコ W■e se imm.1 ㌧ラ.、⇔ 、o e too rad畑〔ion BFS A A A A A A 図4.右肺割面像.びまん性に問質性肺炎がみられ、
左肺創面像:Sド2に経約2em大の原発巣を みる{矢印1。肺門リンパ節転移もみられる. 図11 左肺に薯明な線維化像をみる tAlan,×100) 図5 硝子膜形成旧E.×10③ 「パ ベ∨已 膓