研究ノート
酸化ストレスによる皮膚障害を抑制する精油の探索と機能解析
小林奈保子
1,下田実可子
1,清 水 綾 音
1,川 原 正 博
1,田中健一郎
*
1Exploration of essential oils that suppress oxidative stress-induced
skin disorder and their protective mechanisms
Abstract
The skin is composed of the epidermis(keratinocytes), dermis(fibroblasts), and subcutaneous tissue and protects internal organs and regulates body temperature. Melanocytes, which produce melanin, are localized in the basal layer of the epidermis. Exposure to ultraviolet(UV)radiation causes excessive melanin production as well as decreased collagen production in fibroblasts and skin damage(keratinocyte cell death). Repeated exposure to UV radiation results in accu-mulated skin damage, causing “photoaging,” which is characterized by freckles and wrinkles. This study aimed to con-duct global screening to identify essential oils that can suppress oxidative stress-induced skin disorder. Lavender oil showed multiple protective effects, including keratinocyte protection and increased collagen production in fibroblasts. Moreover, inhibition of melanin production and increased collagen production in fibroblasts were observed for Jasmine Abs. Antioxidant effects might mediate these protective effects. Hence, further analysis is necessary to identify the essen-tial oil that is superior in suppressing oxidative stress-induced skin disorder.
Key words: oxidative stress, skin disorder, antioxidant, keratinocyte, melanin
1.
は じ め に
皮膚はケラチノサイトからなる「表皮」,コラーゲ ンやエラスチンなどの細胞外基質(Extracellular ma-trix: ECM)とそれらを産生するファイブロブラスト から構成される「真皮」,脂肪細胞などから構成され る「皮下組織」の3層構造をしている1)。皮膚は生体 内部の保護や体温調節等,さまざまな役割を果たして いる。また,表皮最下層の基底層には色素細胞である メラノサイトが局在しており,メラノサイトではメラ ニンが産生される。皮膚の機能は加齢による生体機能 の変化がストレスとなり低下する。さらに身体の最も 外側に位置する臓器であるため,さまざまな外部環境 (紫外線,気温,湿度など)の変化がストレスとなり, 機能低下に大きく影響する2), 3)。 外部環境の中でも紫外線(ultraviolet: UV)は最も 主要な因子である。UVは細胞内でさまざまな活性酸 素種を発生させることによりDNA損傷を誘発し,細 胞死の原因となり,最終的に皮膚障害を引き起こすこ とが知られている4), 5)。また,皮膚がUVに曝される と,ケラチノサイトはαMSH(melanocyte-stimulating hormone), ET-1(endothelin-1), SCF(stem cellfac-tor)などの種々のホルモンやサイトカインを放出し, これらの因子を受容したメラノサイトは活性化する。 メラニン合成の過程においては,チロシナーゼが律速 酵素として働いている6), 7)。チロシナーゼの発現や活 性が上昇することにより,メラニンは過剰に合成され る。さらに,老化によってターンオーバーが停滞する と過剰に産生されたメラニンは皮膚に沈着する8), 9)。 また,ファイブロブラストがUVに暴露されると, ファイブロブラストにおいても酸化ストレス依存のコ ラーゲン産生が低下することが報告されている10)。 一方,皮膚の最も外側に存在するケラチノサイトでは UV依存のDNA損傷が誘発されると,直ちにDNA 修復機能が働き,皮膚の機能低下を防いでいる11)。 しかし,皮膚がUVに繰り返し暴露されると,DNA 損傷が蓄積し,「光老化」とよばれる皮膚の老化現象 が引き起こされる。光老化の主な特徴はシミやシワの 形成であり,これは美容上,重大な問題として考えら れている12), 13)。 光老化を防ぐために,メラノサイトでのメラニン 産生を抑制する作用を持つ,美白化粧品が注目されて おり,ヤロー精油やシナモンカッシア精油が,メラ ニン産生を抑制する事が報告されている14), 15)。ま
Nahoko KOBAYASHI1, Mikako SHIMODA1, Ayane SHIMIZU1, Masahiro KAWAHARA1, Ken-ichiro TANAKA*1
1. 武蔵野大学薬学部・生命分析化学研究室/Department of Bio-Analytical Chemistry, Faculty of Pharmacy, Musashino University 受付日:2019年10月31日,受理日:2020年10月21日
た,Chrysanthemum boreale Makino精 油 やArtemisia Montana精油が,ケラチノサイトの増殖を促進すると 報告されているが16), 17),ケラチノサイトの保護作用 に関する詳細な解析や,ファイブロブラストでのコ ラーゲン産生低下を回復させる精油に関する解析は行 われていない。そこで,本研究では,光老化を抑制す る精油を,ケラチノサイトの保護作用,メラニン産生 抑制,ファイブロブラストでのコラーゲン産生低下の 回復の3項目に着目して解析した。
2.
方
法
2.1 試薬,および細胞 すべての精油は,株式会社生活の木より購入した (ベンゾイン精油は,エタノール抽出による25%のも ので,ローズAbs.,ジャスミンAbs.はヘキサン抽出 によるもの)。また,すべての精油を100%エタノー ルに溶解し,培地中のエタノール濃度が1%となるよ うにした。尚,使用した39種類の精油は,表1に記 載している。DMEM High glucose培地は富士フイル ム和光純薬株式会社より購入し,ウシ胎児血清(FBS) はBioWest社より購入した。不死化ヒト表皮角化細胞 (HaCaT細胞)はコスモ・バイオ株式会社より購入し, マウスメラノーマ細胞(B16細胞)および正常ヒト皮 膚線維芽細胞(NB1RGB細胞)は理化学研究所バイオ リソースセンターより入手した。尚,酸化ストレス依 存のケラチノサイト細胞死の保護作用,メラニン産生 抑制作用,コラーゲン産生低下の回復作用には,それ ぞれHaCaT細胞,B16細胞,NB1RGB細胞を用いた。 表1. 使用した精油 名称 学名 抽出部位 1級 カモマイル・ローマン(カモマイルR) Anthemis nobilis 花 クラリセージ Salvia sclarea 全草 グレープフルーツ Citrus paradisi 果皮 サンダルウッド Santalum album 心材 マジョラム Origanum majorana 全草 ネロリ Citrus aurantium 花 フランキンセンス Boswellia carterii 樹脂 ベルガモット Citrus bergamia 果皮 レモングラス Cymbopogon flexuosus 全草 ダマスクローズ Rosa damascena 花 ベンゾイン Styrax tonkinensis 樹脂 ブラックペッパー Piper nigrum 果実 カモマイル・ジャーマン(カモマイルG) Matricaria chamomilla 花 ジャスミンAbs. Jasminum officinale 花メリッサ Melissa officinalis 花・葉
ミルラ Commiphora myrrha 樹脂
パチュリ Pogostemon cablin 葉
ローズAbs. Rosa damascena 花
サイプレス Cupressus sempervirens 葉・枝 ベチバー Vetiveria zizanoides 根 2級 イランイラン Cananga odorata 花 オレンジスイート Citrus sinensis 果皮 ジュニパー Juniperus communis 果実 ゼラニウム Pelargonium graveolens 全草 ティートゥリー Melaleuca alternifolia 葉 ペパーミント Mentha piperita 全草 ユーカリ Eucalyptus globulus 葉・枝 ラベンダー Lavandula officinalis 花・葉 レモン Citrus limon 果皮 ローズマリー Rosmarinus officinalis 花・葉 和精油 コウヤマキ Sciadopitys verticillata 葉・枝 クロモジ Lindera umbellata 葉・枝 ユズ Citrus junos 果皮 クスノキ Cinnamomum camphora 木部 シソ Perilla frutescens 葉 スギ(木部) Cryptomeria japonica 木部 ハッカ Mentha arvensis 全草 ヒノキ Chamaecyparis obtusa 木部 モミ Abies sachalinensis 葉・枝
2.2 ケラチノサイトを保護する精油の探索(HaCaT
細胞を用いた実験)
2.2.1 細胞保護作用の検討
HaCaT細 胞 をDMEM High glucose(FBS 10%)培 地を用いて,96 well plateに0.5×104 cells/wellで培養
した。24時間後,各種精油(0, 2, 10, 50 ppm(培地中 の最終濃度))を添加し,直後にメナジオン(6 µM), 過 酸 化 水 素(300 µM)を 添 加 し た。メ ナ ジ オ ン は DMSOに溶解し(培地中DMSO濃度は1%),過酸化 水 素 は 超 純 水 で 希 釈 し た。24時 間 後,ATP定 量 (Celltiter-Glo法),ミトコンドリア活性(WST法)に より生存細胞数を測定した。 2.2.2 活性酸素の測定
HaCaT細 胞 をDMEM High glucose(FBS 10%)培 地 を 用 い て,蛍 光96 well plateに0.5×104 cells/well
で培養した。24時間後,活性酸素測定試薬(2′,7′- Dichlorodihydrofluorescin diacetate(DCFH-DA, 100 µM))を添加後,各種精油(0, 2.5, 5, 10 ppm)を添加 し,直後に過酸化水素(300 µM)を添加した。1時間 後,蛍光プレートリーダーで活性酸素により酸化され たDCFHを測定した(ex 485 nm, em 535 nm)。 2.3 メラニン産生を抑制する精油の探索(B16細 胞を用いた実験) 2.3.1 精油の毒性検討
B16細胞をDMEM High glucose(FBS 10%)培地を 用いて,96 well plateに2.0×104 cells/wellで培養した。 24時間後,各種精油(0, 2, 10, 50 ppm)を添加した。 24時間後,ミトコンドリア活性(WST法)により生 存細胞数を測定した。その結果,すべての精油におい て,生存細胞数をほとんど低下させなかった10 ppm の濃度を用いて以下の検討を実施した。 2.3.2 メラニン測定
B16細胞をDMEM High glucose(FBS 10%)培地を 用いて,6 well plateに5.0×105 cells/wellで培養した。 24時 間 後,各 種 精 油(10 ppm)を 添 加 し,直 後 に 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX: 100 µM)を添加 し た。48時 間 後,B16細 胞 を1M NaOHで溶 解 し, 405 nmの吸光度を測定することでメラニン産生を解 析した。 2.3.3 チロシナーゼ,microphthalmia-associated transcription factor(MITF)発現
B16細胞をDMEM High glucose(FBS 10%)培地を 用いて,6 well plateに5.0×105 cells/wellで培養した。 24時 間 後,各 種 精 油(10 ppm)を 添 加 し,直 後 に
IBMX(100 µM)を添加した。24時間後,B16細胞を
回収し,RNAを抽出し,cDNAを合成した。IBMX
依存のチロシナーゼ,およびMITF発現亢進に対する 精油の効果をリアルタイムRT-PCR法を用いて解析 した。また,GAPDH遺伝子を内部標準として用いた。 2.4 コラーゲン産生低下を回復する精油の探索 (NB1RGB細胞を用いた実験) 2.4.1 精油の毒性検討
NB1RGB細胞に,DMEM High glucose(FBS 10%) 培地を用いて,96 well plateに2.0×104 cells/wellで培
養した。24時間後,各種精油(0, 2, 10, 50 ppm)を添 加した。24時間後,ミトコンドリア活性(WST法) により生存細胞数を測定した。その結果,すべての精 油において,生存細胞数をほとんど低下させなかった 10 ppmの濃度を用いて以下の検討を実施した。 2.4.2 コラーゲン産生低下の回復
NB1RGB細 胞 をDMEM High glucose(FBS 10%) 培地を用いて,6 well plateに5.0×105 cells/wellで培
養した。24時間後,各種精油(10 ppm)を添加し, 直後に過酸化水素(200 µM)を添加した。8時間後, NB1RGB細胞を回収し,RNAを抽出し,cDNAを合成 した。過酸化水素依存のコラーゲン,およびHSP47 遺伝子発現低下に対する精油の効果をリアルタイム RT-PCR法を用いて解析した。また,GAPDH遺伝子 を内部標準として用いた。 2.4.3 活性酸素の測定
NB1RGB細 胞 をDMEM High glucose(FBS 10%) 培地を用いて,蛍光96 well plateに0.5×104 cells/well
で培養した。24時間後,DCFH-DA(100 µM)を添加 後,各種精油(0, 2.5, 5, 10 ppm)を添加し,直後に過 酸化水素(50 µM)を添加した。1時間後,蛍光プレー トリーダーで活性酸素により酸化されたDCFHを測 定した(ex 485 nm, em 535 nm)。
3.
統
計
すべてのデータは平均値±標準誤差で記載してい る。SPSSソフトウェア(Version24)のDunnett法を 使用して,有意差検定を行った。また,p<0.05の時, 統計学的に有意差があると判定した。4.
結果,および考察
4.1 ケラチノサイトを保護する精油の探索 HaCaT細胞にメナジオン(0∼16 µM)を添加した ところ,濃度依存的にHaCaT細胞の生存率が低下し た(図1A, n=4)。そこで,メナジオン(6 µM)依存 の細胞傷害に対する各種精油の効果を検討した。マジョラム精油,フランキンセンス精油,メリッサ精 油,ローズAbs.,カモマイル・ローマン精油(カモマ イルR),ラベンダー精油,ローズマリー精油,サイ プレス精油,スギ精油がメナジオン依存の細胞生存率 低下を5%以上回復したので(表2, n=4),ケラチノ サイトを保護する精油の候補として選出した。 メナジオン単独処理による細胞死にバラツキが生じ たため(メナジオンの水に対する溶解性が悪いためバ ラツキが生じやすい),選出した候補の精油を用いて, 過酸化水素依存の細胞死に対する効果を検討した。そ の結果,マジョラム精油,フランキンセンス精油, ローズAbs.,ラベンダー精油が過酸化水素依存の細 図1. 酸化ストレスによるケラチノサイトの生存率低下を回復する精油の探索
胞生存率低下を10%以上回復させることを見いだし た(図1B & 1C, n=4)。そこで,これらの精油の抗酸 化作用を解析したところ,これらの精油はいずれも過 酸化水素依存の活性酸素の増加を有意に抑制した(図 1D, n=4∼6)。 以上の結果から,マジョラム精油,フランキンセン ス精油,ローズAbs.,ラベンダー精油の4種類の精油 は酸化ストレスを抑制する作用を介して,ケラチノサ イトを保護する可能性が示唆された。紫外線による光 老化は酸化ストレス依存の皮膚障害を介することが報 告されているので,これらの精油は皮膚の光老化を抑 制することができる可能性が示唆された。一方,いく つかの精油に関してはメナジオンによる細胞死を促進 したものがある。これらの精油を皮膚に塗布した場合 には,ケラチノサイト細胞死が過剰に誘発され皮膚障 害を増強してしまうおそれがあるので注意する必要が ある。最終候補の4種類の中でもフランキンセンス精 油は高濃度(50 ppm)で細胞毒性の増強が見られてい るので(表2),実際の使用を想定した場合,その点は 注意する必要がある。 4.2 メラニン産生を抑制する精油の探索 B16細胞にIBMX(0∼200 µM)を添加したところ, 濃度依存的にメラニン産生が促進した(図2A, n=3)。 そこで,IBMX(100 µM)依存のメラニン産生に対す る各種精油の効果を検討した。ジャスミンAbs.,レ モングラス精油,カモマイル・ジャーマン精油(カモ マイルG),サンダルウッド精油,パチュリ精油,ベ チバー精油,ローズAbs.がIBMX依存のメラニン産 生を顕著に抑制したので(表3, n=3),メラニン産生 表2. 酸化ストレスによるケラチノサイトの生存率低下を回復する精油の探索 精油濃度(ppm) 細胞生存率低下の回復率(%) 2 ppm 10 ppm 50 ppm カモマイルR 7.0±6.6 Δ 2.3±1.7 Δ 22.1±1.8 クラリセージ 3.2±2.8 0.0±1.9 Δ 34.7±3.6 グレープフルーツ Δ 2.5±1.9 Δ 9.7±2.3 Δ 51.3±1.5 サンダルウッド Δ 10.3±2.8 Δ 31.5±0.5 Δ 34.5±0.2 マジョラム 1.8±3.0 9.6±1.8 * 2.9±3.0 ネロリ Δ 4.0±0.6 Δ 13.2±1.5 Δ 38.2±1.2 フランキンセンス 10.9±1.7 ** 7.5±2.8 Δ 36.0±4.2 ベルガモット 4.3±1.3 2.8±2.4 Δ 5.8±2.1 レモングラス Δ 1.6±2.4 Δ 11.2±2.3 Δ 15.2±1.9 ダマスクローズ Δ 1.9±3.1 Δ 0.4±3.0 Δ 26.9±2.8 ベンゾイン Δ 19.7±2.2 Δ 50.9±0.8 Δ 69.7±0.3 ブラックペッパー Δ 6.5±6.0 Δ 29.4±10.7 Δ 51.8±0.7 カモマイルG 3.6±4.6 Δ 4.6±2.1 Δ 66.0±0.5 ジャスミンAbs. Δ 6.8±1.8 Δ 6.1±6.6 Δ 30.1±1.4 メリッサ 5.9±2.2 Δ 4.6±1.9 Δ 17.3±0.8 ミルラ Δ 14.2±2.5 Δ 48.5±1.1 Δ 48.9±0.9 パチュリ 0.2±1.7 Δ 31.7±0.1 Δ 29.3±0.2 ローズAbs. 8.1±3.6 * 14.5±1.9 ** Δ 2.5±2.8 サイプレス 15.3±1.7 ** 7.1±5.2 Δ 44.9±0.3 ベチバー Δ 2.6±3.2 Δ 35.5±1.0 Δ 56.4±0.3 イランイラン Δ 23.6±3.3 Δ 52.6±0.3 Δ 54.4±0.4 オレンジスイート Δ 0.9±0.9 Δ 4.5±0.9 Δ 21.8±0.3 ジュニパー Δ 2.9±2.4 Δ 12.7±3.4 Δ 48.1±2.0 ゼラニウム 2.1±4.1 Δ 19.3±3.3 Δ 35.0±1.2 ティートゥリー 2.4±3.0 Δ 3.6±2.7 Δ 27.9±4.3 ペパーミント Δ 5.2±0.8 Δ 4.7±2.3 Δ 3.2±1.7 ユーカリ 3.2±4.3 0.3±3.3 Δ 2.4±2.5 ラベンダー 7.2±1.3 * 8.3±1.5 ** 11.0±1.3 ** レモン Δ 2.9±0.8 Δ 3.2±2.2 Δ 48.1±2.0 ローズマリー Δ 8.1±2.9 5.0±3.6 Δ 5.7±2.7 コウヤマキ Δ 0.9±2.0 Δ 12.1±2.5 Δ 47.3±0.3 クロモジ Δ 3.1±3.5 Δ 8.1±2.9 Δ 38.4±1.0 ユズ Δ 2.3±1.5 Δ 4.7±2.4 Δ 36.6±4.3 クスノキ Δ 3.3±1.9 1.2±3.3 Δ 23.7±3.3 シソ Δ 6.4±2.2 Δ 20.5±2.2 Δ 41.1±0.2 スギ(木部) 11.3±1.7 7.9±2.8 Δ 35.6±4.2 ハッカ Δ 7.9±1.8 Δ 9.0±4.0 Δ 27.4±4.2 ヒノキ 4.3±6.6 Δ 41.0±1.9 Δ 43.1±0.2 モミ Δ 6.3±1.7 Δ 18.2±2.1 Δ 45.5±0.3
を抑制する精油の候補として選出した。 次に,これらの精油を用いて,IBMX(100 µM)依 存のメラニン産生に対する効果の再現性を検討した。 その結果,ジャスミンAbs.,カモマイル・ジャーマ ン精油(カモマイルG),サンダルウッド精油,パチュ リ精油,ベチバー精油がIBMX依存のメラニン産生 をIBMX単独処置時と比較して10%以上抑制した(図 2B, n=3)。そこで,これらの精油を用いて,メラニ ン産生の律速酵素であるチロシナーゼ発現に着目し解 析を行った。IBMX依存的にチロシナーゼ発現が増加 したが,サンダルウッド精油,ベチバー精油がその発 現増加を有意に抑制した。一方,ジャスミンAbs., パチュリ精油,カモマイル・ジャーマン精油(カモマ イルG)では有意差が認められなかったが抑制傾向は 見られた(図2C, n=3)。また,MITF発現に関しても チロシナーゼと同様の傾向が見られた(図2D, n=3)。 以上の結果から,サンダルウッド精油,ベチバー精 油はチロシナーゼ発現を低下させることでメラニン産 生を抑制すると考えている。他の精油についてもチロ シナーゼ発現の抑制傾向が認められたので,同様の経 路を介してメラニン産生を抑制する可能性も考えられ る。一方,これらの精油が,チロシナーゼ発現低下作 用とは異なる機構(発現低下ではなくチロシナーゼ活 性を阻害する等)でメラニン産生を低下させる可能性 も考えられる。本研究において,紫外線依存のメラニ ン産生に対する精油の効果は解析することができな かったが,重要な解析であるため,今後の検討課題と したい。 4.3 コラーゲン産生低下を回復する精油の探索 NB1RGB細胞に過酸化水素(0∼300 µM)を添加し たところ,コラーゲン1A1遺伝子の発現が低下した 表3. メラニン産生を抑制する精油,及びコラーゲン産生低下を回復する精油の探索 メラニン産生の抑制率(%) コラーゲン産生低下の回復率(%) カモマイルR 3.1±0.9 Δ 7.9±0.5 クラリセージ 2.1±0.2 1.2±1.9 グレープフルーツ Δ 1.7±0.9 Δ 12.1±0.3 サンダルウッド 61.4±0.5 ** Δ 3.6±1.9 マジョラム 5.2±0.8 ** Δ 3.9±1.0 ネロリ 18.9±0.9 ** 6.8±0.6 フランキンセンス 22.1±0.8 ** Δ 3.4±0.8 ベルガモット 19.9±1.0 ** 4.0±0.9 レモングラス 35.4±0.3 ** 13.2±0.1 ** ダマスクローズ 10.5±0.4 ** Δ 14.1±1.2 ベンゾイン 13.4±0.6 ** 12.4±2.3 ** ブラックペッパー 5.6±0.5 24.1±1.8 ** カモマイルG 24.8±0.9 ** 0.7±0.2 ジャスミンAbs. 32.4±0.6 ** 12.6±1.9 ** メリッサ 14.3±0.6 ** Δ 4.4±1.2 ミルラ 9.6±0.4 ** Δ 5.4±0.3 パチュリ 0.2±1.7 0.2±1.5 ローズAbs. 23.1±0.7 ** 5.4±0.1 * サイプレス 21.4±0.1 ** Δ 1.4±0.1 ベチバー 40.0±1.1 ** Δ 0.7±0.2 イランイラン Δ 2.1±0.7 Δ 4.1±0.2 オレンジスイート Δ 3.2±1.2 Δ 7.1±1.0 ジュニパー Δ 4.8±0.3 Δ 0.3±0.8 ゼラニウム Δ 0.6±0.2 Δ 4.7±1.5 ティートゥリー 6.6±1.8 10.2±0.7 * ペパーミント Δ 14.1±0.8 Δ 4.1±3.5 ユーカリ Δ 36.5±1.6 Δ 3.7±2.2 ラベンダー 0.0±0.5 10.9±1.4 * レモン Δ 17.6±0.3 3.6±1.3 ローズマリー 2.3±0.4 11.1±3.2 * コウヤマキ 8.6±0.3 ** 4.7±2.1 クロモジ 6.2±1.6 8.9±3.7 ** ユズ 1.1±1.8 2.0±2.6 クスノキ 3.1±1.3 82.8±0.3 ** シソ 13.8±1.0 ** 2.8±1.3 スギ(木部) 21.3±0.9 ** Δ 0.6±0.2 ハッカ 10.3±1.1 ** 11.2±0.6 ** ヒノキ 10.6±1.2 ** 11.6 ± 1.7 ** モミ 2.9 ± 0.4 8.7 ± 0.4 **
(図3A, n=3)。そこで,過酸化水素(200 µM)依存の コラーゲン産生低下に対する各種精油の効果を検討し た。レモングラス精油,ブラックペッパー精油,ジャ スミンAbs.,ベンゾイン精油(25%希釈),ローズマ リー精油,ティートゥリー精油,ラベンダー精油,ク スノキ精油,ハッカ精油,ヒノキ精油が過酸化水素依 存のコラーゲン産生低下を過酸化水素単独系より 10%以上回復したので(表3, n=3),コラーゲン産生 低下を回復する精油の候補として選出した。 そこで,これらの精油の抗酸化作用を解析したとこ ろ,レモングラス精油,ブラックペッパー精油,ロー ズマリー精油が過酸化水素依存の活性酸素の増加を有 意に抑制した。また,ジャスミンAbs.,ティートゥ リー精油,ラベンダー精油においても,活性酸素の増 加を抑制する傾向が見られた(図3B, n=4)。HSP47 はコラーゲン特異的シャペロンであり,コラーゲン発 現と相関することが知られている。そこで,リアルタ イムRT-PCR法でHSP47発現を解析した結果,過酸 化水素処理によりHSP47発現が低下したが,レモン グラス精油の共処置時のみ回復効果が認められた(図 3C, n=3)。 以上の結果から,レモングラス精油,ブラックペッ パ ー精 油,ジ ャ ス ミ ンAbs.,ロ ー ズ マ リ ー 精 油, ティートゥリー精油,ラベンダー精油は酸化ストレス を抑制する作用を介して,コラーゲン産生低下を回復 させる可能性が示唆された。また,上述の解析によ り,レモングラス精油はHSP47発現レベルを回復さ せることで,コラーゲン発現を回復させることが示唆 された。一方,その他の精油については,HSP47発 現レベルに影響を与えなかったので,異なる機構を介 する可能性が示唆された。
5.
今後の展望
以上のすべての結果から,ラベンダー精油とジャス 図2. メラニン産生を抑制する精油の探索ミンAbs.は,皮膚の光老化に対して複数の保護作用 を有することが確認された。具体的には,ラベンダー 精油に関しては,ケラチノサイト保護とコラーゲン産 生低下の回復,ジャスミンAbs.に関しては,メラニ ン産生抑制とコラーゲン産生低下の回復という保護作 用が見られた。この観点を踏まえて考察すると,ラベ ンダー精油とジャスミンAbs.を皮膚の光老化を抑制 する最適な精油として提案したい。しかしながら,本 研究においてはこれらの精油がどのような機構を介し て保護作用を発揮するかについての詳細な機構は解析 できなかった。前にも述べたが,チロシナーゼ発現・ MITF発現を有意に抑制せず,メラニン産生のみを抑 制した精油がいくつか見られた。また,線維芽細胞に おけるコラーゲン産生低下の回復については,レモン グラス精油のみがHSP47発現低下を回復させて有効 性を発揮する可能性が示唆されたが,その他の精油に ついては詳細なメカニズムを明らかにできていない。 これらの点については,今後の検討課題としたい。 一方,皮膚の光老化は各々により進行の程度や症状 が異なる。たとえば,日焼けして黒くなるということ を最も気にされる方も存在するが,肌荒れを気にされ る方も存在する。このようなケースでは,本研究結果 を元にそれぞれの症状に合わせて,最適な精油を選択 して頂くのが良いのではないだろうか。また,本研究 では検討できなかったが,ケラチノサイト保護作用, メラニン産生抑制作用,コラーゲン産生低下の回復作 用を持つ精油を3種類混合し,その有効性や細胞毒性 を検討することも重要である。実際,クリームやオイ ルなどに混合して精油を使用する際には,1種類であ る必要はなく,数種類の成分が混合されて使用されて いる。これらの観点も踏まえ,今後さらなる検討を実 施したい。 謝 辞 本研究は,公益社団法人日本アロマ環境協会・ 2017年度研究費助成制度による研究助成を受け,実 施しました。多大なるご支援を賜りましたことを深く 感謝申し上げます。 ●引用文献
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【要 旨】 皮膚は表皮(ケラチノサイト),真皮(ファイブロブラスト),皮下組織から構成されており,生体内部の保護や体温調節など の役割を果たしている。また,表皮最下層の基底層にはメラニンを産生するメラノサイトが局在している。一方,紫外線(UV) などの刺激に曝されると,皮膚障害(ケラチノサイトでの細胞死)・メラノサイトでの過剰なメラニン産生・ファイブロブラス トでのコラーゲン産生低下が起こる。このように,皮膚がUVに繰り返し曝露されると,酸化ストレスによる障害が蓄積し,シ ミ・シワを特徴とする「光老化」が引き起こされる。そこで,本研究では,酸化ストレスによる皮膚障害を抑制する精油を網羅 的スクリーニングにより発見することを目的として実施した。その結果,ラベンダー精油がケラチノサイト保護とコラーゲン産 生低下の回復,ジャスミンAbs.がメラニン産生抑制とコラーゲン産生低下の回復という複数の保護作用を持つことを見いだし た。また,これらの保護作用は抗酸化作用を介する可能性が示唆された。今後さらなる解析を行い,酸化ストレスによる皮膚障 害を抑制する最適な精油を提案したい。 キーワード:酸化ストレス,皮膚障害,抗酸化,ケラチノサイト,メラニン 連絡先:田中健一郎 武蔵野大学薬学部・薬学研究所・生命分析化学研究室 〒202‒8585東京都西東京市新町1‒1‒20 TEL: 042‒468‒9335 E-mail: [email protected]