架空環状取引と錯誤
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(2) 横浜国際経済法学第15巻第3号(2007年3月). の売却はなされなかった。. Xは,本件取引が,AないしB→Y→X→Z→Cへと順次転売する非環状の 実需取引(目的物が実際に移転する取引)であると誤認して介入したが,実. 質はZ→Y→X→Zへと順次転売される環状取引であり,実際には本件商品 の納品・引渡が全く行われない架空の環状取引であった。. Xは,Yに対し,本件原告購入契約に基づき売買代金として合計7億4464 万9556円を支払った。Xは平成8年8月頃までは,本件原告販売契約により Zに商品を転売して,Zから受け取った手形の決:済を受けて5億7716万1763 円を回収していた。その間,Xは本件取引があまりに大量な取引にもかかわ らずクレームがないこと等から,本件商品が実際に動いているかどうかに疑. 問を抱き,平成8年5月頃から12月までにY担当者からAからCへの商品送 り状やCの商品受領書等の書類の提出を受けていた。その後,Zが倒産し た。. (2)当事者の主張は以下の通りである。. Xは,以下の三点を主張した。. ①Xは,平成9年i2月19日,Yに対し,本件商品の引渡が全く行われてい ないことを理由に,債務不履行により本件売買契約を解除するとの意思表 示をした。. ②Y担当者はZ代表者と共謀の上,Zに資金援助(金融の便宜)を与える ために,架空の商品(本件商品)につき,Z→Y→X→Zと順次売買する 環状取引を行うことを企図し,真実は伝票書類を上記売買当事者間で送付. するのみで,実際の商品の納品・引渡が全く行われない架空の環状取引 (以下「本件架空循環取引」という。)であるにもかかわらず,Xに対して. これを秘匿し,Y→X→Zぺの非環状の実需取引であるかのように装って. Xを誤信させ,Zに信用力を与えるためにXに間に入ってもらうよう申し 向けて本件原告購入契約を締結させた。Y担当者は本件取引が架空環状取. 引であったことを知りながらXを欺岡した。Xは,平成9年12月19日, Y 116.
(3) 架空環状取引と錯誤. の詐欺を理由に本件売買を取り消すとの意思表示をした。. ③本件取引は,真実はZ→Y→Xと順次売買する環状取引で,しかも伝票 書類を上記売買当事者間で送付するのみで,実際の商品の納品・引渡が全. く行われない架空取引であるにもかかわらず,XはY担当者及びZ代表者 の説明により,本件取引がY→X→Z→Cと順次転売される非環状の実需 取引であると誤信して,本件原告購入契約に基づきYから本件商品を購入 し続けたものである。本件架空環状取引を続けた場合,Zは早晩破たんに 至ることが必至であり,その場合に損害を被るのはXである。従って,’X がそのような取引であることを知っていれば,取引に応ずるはずはなく,. Xには要素の錯誤があるといえるから,本件原告購入契約は無効である。 Yは,およそ以下のように争った。. ①Xの契約解除は信義則上許されない。. ②YはXに売却した商品がZに転売されていることを知らなかった。また, X・Y間では商品の引渡が予定されていなかったので,架空環状取引であ つたとしても詐欺行為にはならない。. ③非環状取引であるかどうかは,単なる動機の錯誤である。また,実需取 引であるかどうかもXY間の取引は伝票上の操作で決済を行う介入取引で あったのだから要素の錯誤になり得ない。. ④XはZの経営状況をチェックしており,本件取引が環状取引であること を発見するのは容易であること,X自身が本件取引の継続を望み放置した. こと及びCの受領書を確認せずZの御支払明細書に従って支払を続けたこ と等の事情からすれば,Xには重過失がある。. (3)XはYに対し,選択的に,本件原告購入契約解除による原状回復請求権又 は本件原告購入契約の詐欺取消若しくは錯誤無効による不当利得返還請求権. に基づき,前記支払済み代金7億4464万9556円及びこれに対する支払請求 の日の翌日である平成9年12月20日から支払済みまで商事法定利率年6分の 割合による遅延損害金の支払を求めた。. 117.
(4) 横浜国際経済法学第15巻第3号(2007年3月). H 判旨(第一事件について一部認容,第二,第三事件について請 求棄却). 「本件取引は,本件商品の製造元とされるAないしBからZが仕入れて,同 社からY,YからX, XからZへと順次転売され,最終的にZからCに売却され るというもので,商品は製造元からCに直送されることが予定されていた。し. かし,実際には本件商品はCに売却納品されてはいなかった。したがって,Z からY,YからX, XからZへの伝票上の操作のみによる取引・決済がなされて いたにすぎないことになる。本件取引は,このような架空の(実際に商品の納 入を伴わない伝票上だけの)環状取引であった(略)。」. 本件取引は,Zの資金繰りの便宜のために行われたもので, Z代表者により. 仕組まれたものであり,「Xは,『YがZに建築資材等を販売する取引につき,. Xに間に入ってもらってZに信用力を与えてもらい,XがYから商品を仕入れ てこれをZに販売する取引を始めたい。』と言われて,YからX, XからZ.への. 非環状の実需取引(実際に商品がZないしその転売先であるCに納品される取 引)であると信じて,本件取引の一環をなす本件原告購入契約及び本件原告販 売契約を締結したものである(中略)。したがって,Xには,本件取引に加わ るに当たって錯誤があったことは明らかである。」. 「また,本件取引が後に判明したようにYにおいて12パーセントものマー ジンを取得している架空の(実際に商品の納入を伴わない伝票上だけの)環状. 取引であれば,到底正常な取引とはいえず,Zは取引の度に多額のマージン分 の損失を被り続けることになって,早晩破たんに至る可能性が高い。そしてZ が破たんしたときには,Xが, Zからの売掛金の回収が不能となって多額の損. 失を被るおそれがあるから,Xにとって極めて危険性の高い取引といえ, Xが そのことを知っていれば到底取引に応じるはずがないものである。現にYも本 訴において,架空の環状取引であることは知らなかったので取引を始めたと主. 張しており,XY間では,本件取引が非環状の実需取引であることを当然の前 118.
(5) 架空環状取引と錯誤. 提として,本件原告購入契約が締結されたといえる。したがって,Xの上記錯 誤は要素の錯誤である。」. なお,Y担当者は少なくとも本件取引が環状取引であることを知っていたと. 認められる。その理由はおよそ以下のとおりである。①X担当者,Y担当者,. Z代表者の鼎談において,YとZの取引にXが介入するという話があったと考 えるのが合理的であること。②本件取引がZからCへの実需取引ならば,Zが Yに12%乃至6.3%もの高額なマージンを支払ってまでもYを介在させる理由 はないこと。③Y担当者はZから当月に購入した商品について代金を全額支払 ながら,その一部のみをXに納品して代金を受け取るという分割納品,分割請. 求を反復継続している。このような操作を継続したのは,ZがXから商品を買 い戻すことを前提にして,Zの資金繰りの便を図ることにあったと考えるのが. 合理的であること。④XがYに対して発行した本件取引の注文書には「直送先 Z」などの記載があること。⑤Y担当者は,ZがXに送信した注文書の宛名欄に 「X」,品物欄に本件商品名を記入していること。⑥Xの担当者は,Yからの当 月度分の納品書及び請求書とZからの当月度分の御支払明細書の品名・数量・. 単価・合計金額を必ず照合し,食い違いがあるときはY担当者及びZ代表者と 三者協議をし,訂正を行っていたこと。⑦XがZの資金繰り援助のために支払 調整を行ったこと。⑧Xが本件取引が実需取引であるかに疑問を抱き,Yにそ の証拠書類の提出を求めた際にYの提出した書面が偽造されたものであったこ. と及びY担当者がXに対して仕入先はA及びBであると説明したこと,である。. 以上によれば,Xの重過失につきYの主張するような事実があってもXの重 過失を基礎付けることはできず,Yの重過失の主張は理由がない。. 「そうすると,Xが不当利得としてYに請求し得る金額は, XがYに支払っ. た売買代金額7億4464万9556円から上記のZから支払を受けた売買代金額5億 7716万1763円を控除した1億6748万7793円となる。」. 119.
(6) 横浜国際経済法学第15巻第3号(2007年3月). 川 介入取引 (1)介入取引の概要 本判決を検討するに際して環状取引及び介入取引をまとめることから始め る。まず,ここでは介入取引についてその概要をまとめておくこととする。 この理由は,概して環状取引は介入取引の一種であるとされるためである1)。. ①定 義 「介入取引」という用語は法律用語ではない2)。また,その意味は多義 的で呼称も様々である3)。さらに,その内容も各取引によって異なるので,. 法律上の正確な概念規定を成すことは困難だとされる4>。しかし,差し当. たって本稿では用語としては「介入取引」を用いることとし,介入取引を 裁判例に倣い以下のように定義づける5)。即ち,介入取引とは「すでに成. 立した売買契約の売主と買主との間に,主に売主の要請で一流商社が介入 し,商品は当初の売買契約どおり売主から直接買主に引き渡すが,取引の 形態としては,商社が売主から売買の目的となった商品をいったん買い上 げてこれを買主に転売する形式をとるもの」である。. 例えば,介入者(以下,商社を念頭に置かれたい。)が売主と買主との 間の取引に入り込み,売主一買主間の直接契約(直契約)を,売主一介入 者間,介入面一買主問との二つの契約に分離し(または売主一介入者一壷 主の三面契約とし),それぞれの契約当事者となることである6)。. このような介入取引を行う三当事者のメリットとしては,次のようこと が挙げられる。即ち,売主としては,買主の手形よりも支払期日が早くし かも割引を受けやすい一流商社の手形を取得して資金繰りの便宜を得るこ とができる7>。介入商社としては,労せずして口銭を得ることができ,(売. 買契約への介入は)売上実績の向上にもなる8)。また,買主としては,分 割払いによる信用売買の便宜を得るこができる9)。. ②介入姿勢 120.
(7) 架空環:状取引と錯誤. 介入者の介入の仕方には2パターンある。即ち「積極介入」と「消極介 入」である。「積極介入」とは,介入者が自ら積極的・自発的に売主一子 平間の取引に介入することをいい,「消極介入」とは,あらかじめ売主一 買主間において事実上契約の成立をみながら,もっぱら売主(稀に買主) からの介入の要請に基づいて,介入者が売主一買主問の取引に介入するこ とをいう10)。. 「積極介入」の場合には,売買契約の当事者の信用力に不安のない場合 が多いとされるが,「消極介入」の場合には信用力の乏しい売主を中心と. して成立する売買であるだけに,後述する架空売買(特に,商社が目的商 品が存在すると誤信し,結果的に目的商品の不存在に気づくケース)に結 びつくケースが多いとされる11>. ③ 介入取引の種類. 介入の種類には「売買・請負介入」と「金融介入」があるとされる。売 主一買主問の取引を基本取引とし,その種類と介入者介入後の売主一介入 者間,介入者一買主間の取引の種類に分けて考える。. まず,基本取引には二種類ある。第一に,売買・請負またその両者の性 質をもつといわれる製作物供給契約である。第二に,売買形式などに仮託 した金融取引(手形貸付契約,融通手形契約)である。この場合は,実際 に目的物が伴うケースと,伴わないケースがある(いわゆる架空売買)。. 続いて,以上のような基本取引に介入者が介入した場合,それが売買や 請負などの非金融取引か金融取引かで微妙な差異が生じる。即ち,基本取 引が金融取引の場合には介入者介入後も金融取引の性質を有するが,基本 取引が売買や請負の場合には,介入者介入後の取引が売買・請負などの非 金融取引のままの場合もあれば,金融取引に変わる場合もある。その判断 基準はもっぱら介入者の介大目的ひいては各当事者の意思の解釈によるべ きであるとされる12)。また,金融介入かそうでないかの区別は容易ではな. いから,原則として介入取引である以上はそれを金融介入と推定して契約 121.
(8) 横浜国際経済法学第15巻第3号(2007年3月). 条項,契約の趣旨や経緯に注意して個別的に判断せざるを得ないとも言わ れている13)。. ④介入取引の機能 介入者の果たす機能は広い意味での金融であるとされる14)15>。その中で. 特に指摘されるのが,金融機能である16)。例えば,上述の裁判例の定義に. よれば介入者は主として売主のために介入することになるが,この場合, 売主は形式的には直接の買主である介入者から代金相当額を受領すること になり,介入者が信用力・資金力のある大手商社であれば,売主は買主か ら支払いを受ける場合より優良な決済条件を獲得するζとができ,資金繰 りを円滑にすることが可能となる17)。. この機能が故に,介入取引は広義の信用供与取引の一形態と位置付けら れている18)。信用供与取引とは,売買等の取引に伴って,信用供与機能が 取引に組み込まれているものであるとされる19)。. ⑤問題点 上述のように売主一買主問の契約に介入する介入者の機能というのは, 主として売主(稀に買主)の金融のためであると言える。問題が顕在化す るのは,売主あるいは買主が倒産してしまう場合である。例えば,買主が 倒産した場合に,介入者は買主から代金債権を回収できなくなる20)。また,. 売主が倒産し買主への引渡がなされないために,買主が介入者に対して引 渡不履行を理由に代金支払いを拒否した場合にも,介入者は代金債権を回 収できなくなる。つまり,売主または買主が信用不安に陥ったためにその 履行に支障が生じた場合,すでに売主に対して代金支払を行った介入者に その危険を負担させるのが妥当かどうかという点が問題であるとされる21)。. また,その際には目的物が不存在であることが多く22),裁判例における紛. 争は,売主ないし買主が倒産し,且つ,目的商品の引渡欠鉄に関するもの が多い23>。. ⑥裁判例及び学説 122.
(9) 架空環状取引と錯誤. 裁判例によれば,売主から買主への目的物の引渡がない場合,介入者の 引渡不履行を理由とする買主による契約の解除権の行使を否定している24)。. それぞれの事例に共通する特徴として,当事者が選択した法形式(売買) を維持し,介入者に引渡義務を認めながらも,信義則を根拠として買主の. 解除権の行使を制限するということが挙げられる。また,目的物の引渡欠 鉄を理由に買主が介入者からの代金支払い請求を拒否した場合にも,それ を否定している25)。判断の基準としては,例えば,買主が目的物を実際に. は受け取ってないにもかかわらず受領書を介入者に発行するなど,介入者 の信頼を惹起させる行為が考慮されているようである26)。. これに関連して,学説では,介入取引の法的構成についてさまざまな議 論がなされている27)。学説の見解は大別して二つに分かれる。第一に,裁. 判例のように,介入取引が実質的には金融目的であることを認めつつも,. 介入者は売買という法形式を選択して売上実績向上を図ろうとする以上 は,原則的には売主としての責任を免れないとの立場を維持し28),信義則. に基づく買主の主張制限により利害調整を図る構成を支持する見解である 29)。第二に,法形式は売買であるとしても,その実体に鑑み,当事者の意 思解釈に応じた法的構成を示唆する見解である30)。これは論者により様々. な構成可能性が指摘されているが,介入取引の金融的側面を重視した見解 であると言える31)。. IV 環状取引 ① 定 義 介入取引が売主→介入者→買主という当事者関係の流れを持つ取引であ. ることは既に述べた。他方,環状取引とは,売主(A)→介入者(B)→ 介入者(C)・… →売主(A)と順次転売して収束する取引である。 裁判例によれば,「最初の売主が自らの資金繰りや帳簿上の在庫調整等の 123.
(10) 横浜国際経済法学第15巻第3号(2007年3月). ため,複数の商社等を順次介入させた上,最終的には自らが買主となって, 介入取引の円環が形成される」取引のことである32)。そこにおいて取引さ. れる商品は,特定物か種類物かは問われず,その存在すら問題とならない とされる(架空環状取引)33>。目的物が存在する場合でも,目的物となる 商品が初めから動くことはなく,その点が介入取引との差異だとされる34)。. また,石油業界では「業転取引」と呼ばれる取引形態があり35),こちらは 介入取引を含まない純然たる環状取引である場合がある36)。. ②裁判例37). 環状取引では何が問題になっており,それに対してどのような解決が図 られているかを明らかにするため,裁判例を考察することから出発する。. ④大阪地裁昭和59年9月27日判時1174号105頁 Xは株式会社,Yは商社であり,AとBは取引通念上一体視すべき会 1社である。本件取引は,Aの代取がXの約束手形を得て割引を受け資金. 繰りの窮状を切り抜ける目的でBグループから始まってBグループに終 わる商品の裏付けのない伝票上の売買取引にXYを介入させる架空の環 状取引であった(B→X→Y→B)。XはBが倒産したため, Yに対し未 払い売買代金及びそのために取得した約束手形の手形金の支払を請求し た。Yは商品の引渡がなかったことを理由に契約解除を主張した。. 裁判所は介入取引につき以下のように述べる。即ち,中間者が代金請 求の対価として,①売主から買主に対し目的物の現実の引渡がなされた 場合で,中間者が直接買主の元に赴き受領を確認するか,買主が目的物 を受領した意思表示を中間者になした場合,②売主から買主に対し,目 的物の現実の引渡がされず,占有改定により,以前の売主が買主の占有 代理人として占有しており,買主から目的物を受領した旨の意思表示が 中間者になされた場合,目的物の引渡の要件を充たしたことになる。こ れは,中間者が間に複数人いたとしても,各中間者は,最終買主の目的 物受領の意思表示さえ受ければ,自己につき前記引渡の要件を充たした 124.
(11) 架空環状取引と錯誤 ことになる。. 次いで,環状取引については,中間者が代金請求の対価として,「各. 中間者(XY)においてその関与している取引が売主に始まって売主な いしこれと同視しうる者によって終わるものであること,すなわち,環 状に収束するものであることを認識している場合においては,その環状 の各取引に関与する各当事者のすべてが各取引に伴うべき目的物の現実 の引渡を実際にはまったく行わないことを承知したうえで,最終買主の 受領の意思表示によってその引渡を完了したものと擬iすることを了承し. あっているものということができるから,各中間者が右の事情を認識し つつ売主・最初の中間者(X),志下間者(X)・後の中間者(Y),酒中. 間者(Y)・最終買主(実質は売主)間で各売買契約を締結し,かつそ の環状売買取引に関して最終買主が中間者に目的物受領の意思表示をし たときに,すべての当事者間で目的物の引渡が完了したのと同視しうる. ものとみてよいといえる。」として,結局「Yとしても,本件各取引の 過程においてXとの間で本件各取引の目的物の現実の受渡をすることな どまったく予定せず,買主の受領書による目的物の受領の確認によって 本件各取引に伴う目的物の移動(占有移転)はすべて完了するものとみ なしていたものであるということができるから,いまさら,すでに買主 によって受領が確認されている本件各取引の目的物について,Yにおい て,Xからその引渡のなかったことを理由として本件各契約の解除を主 張し,あるいは売買代金支払に?き引渡との同時西行を主張することは, 信義則に反してゆるされないものというべきである。」と判示した。. ③大阪地判昭和60年1月24日判タ552号194頁 XがYに対し,売掛代金を請求したが,YはXに対する別の売掛代金 を自働債権として相殺を主張した。ところで,右自働債権は,A→Y→ X→Aへと順次売買される環状取引(本件では,三角取引としている。). の一環であるY−X間の売買契約に基づくものであった。Xは,本件環 125.
(12) 横浜国際経済法学第15巻第3号(2007年3月). 状取引における商品がAから動いておらず,しかもこのことを知らなか つたので指図による占有移転に承諾を与えてはいないこと(即ち,Xは. Y→X→Aの実需取引だと思っていた。),本件環状取引の実質はYのA に対する融資であり,Xに取引の実態を伝える信義則上の義務があった のに黙秘したのは不作為の詐欺であると主張した。. 裁判所は,「Xは,本件商品の授受には直接関与することなく,また 本件商品の占有移転の方法についても特段の関心を有さず,…最終的. にAが本件商品を占有下におさめることができさえずれば,YとXとの 売買においても,本件商品の引渡があったものとする意思であったと推 回することができ」,本件においては「Xは,X, Y問の指図による占有 移転に対し黙示の承諾を与えたものということができる。」。ところで,. 環状取引では現実に商品が当事者間を移動することが省かれ,一連の書 類の授受によって観念的に商品が循環したと言える。書類の授受がある. 以上「現実に商品の移動がなく,終始Aの下に存したとしても,究極に おいてはAが本件商品の引渡をうけたものといわなければならない。」。. また,繊維業界では,本件のような環状取引が暗黙裡にしばしば行われ. ており,Aの信用を決定的に疑わしめるものではなく,YもAの信用不 安を抱きながら,ことさらにXを取引に引き込んだものではないこと等 を認定してYには信義則上の告知義務があるとまではいえない,と判示 した。. ◎ 東京地判平成元年1月30日判タ714号201頁 Xに取引口座をもっているYは,A及びBから依頼され, A・BからX への石油製品の売買に介入することになった。YはXの受領書を得て,. A・Bへの売買代金を支払った。この介入取引は,C→A(B)→Y→X →D→Cという流れの環状取引の一部であった。目的物の現実の引渡は なされていない。Xは売買目的物の引渡がないことなどを理由に売買代 金の支払を拒絶し,債務不存在の訴えを提起した。 126.
(13) 架空環状取引と錯誤. 裁判所は,Xは本件売買契約の目的物が引き渡されなくとも売買契約. に基づく債務ゐ履行を求められることを事前に承諾していたとして, 「目的物の引渡しが最初の売り主と最後の買い主の間で行われ,中間の 取引業者が直接これに関与しない仕組みの石油の業者間取引において, 買い主の方で目的物の受領証をこのような中間の売り主に交付したにも. かかわらず,売り主に対して,後日売買の目的物の不存在あるいは目的 物の引渡しを受けていないことを主張するならば,石油の売買取引を円 滑に行うことは困難となるであろうことは,見やすい道理である。」と. してXの目的物不存在を理由とする売買無効の主張は信義誠実の原則に 反するとした。. ⑪東京地判平成2年5月22日等時1388号58頁 XはYに対し白灯油の買受を申し込み,Yはこれを承諾し,売買契約. が成立した。本件売買は,A→B→X→Y→C→D→E→F→Aと順次目 的物が売買される環状取引(業転取引)の一部であった。Aは,右取引 が円環を形成する通知(オーダー整理の通知)を各当事者にしなかった。. Yは本件売買が環状取引の一部であるとの認識はなかった。XはAが倒 産したので,その関係でYに対する支払を中止した。XはYに対し,本 件売買代金債務が存在しないことの確認を求め,Yは反訴においてXに 対し本件売買代金の支払を請求した。. 裁判所は,X−Y間の売買契約の成立を認めたうえで,「元発注者で あるAが最終売主にもなって右取引が円環を形成した時点で,Aが最終 売主として元発注者に対し負担する目的物引渡債務は混同により消滅す. るに至るから,XY間を含む円環を形成する総ての当事者間で目的物の 引渡を了したのと同視しうる状態になったものと解することができる。」. と判示し,Xが主張したところの,物流の存在が前提とされていたにも かかわらず目的物が不存在であるが故の当然無効及び野禽物が存在する と誤信したことによる錯誤の抗弁等を証拠不足として退けた。. 127.
(14) 横浜国際経済法学第15巻第3号(2007年3月). ㊥東京地判平成2年8月28日金判873号36頁 XはAから注文を受けた重油等をYから購入する売買契約を締結した。. 目的物は,A→B→Cへと順次売却されたが, Yは当該重油等をCから. 仕入れており,最終的にはC→Y→X→A→B→Cと順次売買される環 状取引になった(C取引)。しかし,X−Y間の契約締結時にはY及びA はこのことを知らなかった。また,Bの資金繰りのためにB→C→Y→ X→A→Bと順次環状に売買契約が締結された(B取引)。XはC取引に ついて錯誤,契約の解除及び同時履行の抗弁等を主張し,B取引につい て同時履行の抗弁などを主張した。 裁判所は,C取引につき, Xの錯誤の主張について, Xが通常の売買. であると誤信したというが,この点はYも同じであって,売買契約の成 立時点では,売買契約の成立に必要な要件は具備しており,したがって. Xの意思とも合致していたはずであり,石油業界の業転取引では,結果. 的に環状取引となることは通常ありうることだから要素の錯誤ではな い。また,業転取引の中間当事者は,少なくとも経済的にも法的にも目 的物の現実の引渡を重要視していないはずであるから,引渡義務は円環. が形成された時点で消滅するので,YにXに対する引渡義務があること を前提とした解除の主張は採用できないと判示した。. B取引の同時履行の抗弁につき,この環状取引の各当事者は,売買契 約上の目的物は存在しないことを相互に了解しており,本来の意味では 売買契約とは言い難いが,契約自由の原則から各当事者が欲した意図ど おりの法的効果は許容せざるをえないので,各当事者には目的物の引渡 義務はなく,それ故に,代金の支払いとの同時履行の抗弁も生じる余地. がない。C取引の同時履行の抗弁については,円環を形成した時点で中 間者の引渡義務も消滅し,形式上は代金支払いとの同時履行の抗弁権が 失われるが,環状取引では,中間者は本来目的物の現実の引渡を重要視 しない上に,「最後の売買契約で目的物の引渡履行がなされたと同じ経 128.
(15) 架空環状取引と錯誤. 済的法律的状態が成立しているのであるから,」その後に,中間者に対 して当該抗弁権を認めて保護すべき実質的な理由はいと判示した。. ㊦東京地判平成5年3月22日丁丁845号261頁 XはYに対し,X−Y問の売買代金の支払のためにYが振り出した約 束手形と利息の支払を求めたのに対し,YはXに対して同契約の錯誤無 効ないし解除を主張して支払済みの代金の返還と法定利息の支払を求め. た。本件売買はF→X→Y→S→Fへと順次売買される環状取引であっ た。Yは, X−Y間の売買は架空環状取引の一部であり,目的物の存在 ないし流通は売買の要素であるとして錯誤無効を主張し,またXの目的. 物未引渡を理由に売買契約の解除を主張した。これに対しXは,Yの介 入は実質は消費貸借及び委託に基づく第三者弁済契約であるから,目的 物の存在・流通は要素の錯誤とならず,仮にYに錯誤があっても長年の 問Yは一度も商品の納入の有無を確認したことがない等の事実からすれ ばYには重過失がある旨主張した。また環状取引が完成した時点で引渡 義務は消滅するか,又は履行済みであり,そうでなくとも解除は信義則 違反であると主張した。. 裁判所は,Yが本件売買が環状取引の一環であると知っていたと認め ることは困難といわざるを得ないが,「Y自身は目的物の流通になんら 関与す為ものではなく,単に金融取引に過ぎないという認識を有してい. たものと認められるから,Xとの間の本件売買の内容において実際との 相違は何ら認められない。」。Yの錯誤は動機の錯誤に過ぎないし,仮に 実際には目的物が流通していないと知っていたとしてもそれだけの理由. で本件売買をなさなかったと認めることは困難であるとし,解除の主張 については,「XY問の継続的取引にあたってYは本件仮設材の目的物の 流通に何ら関与するものではなく右流通を特段重視していたとは認めら. れないこと,Yの認識としていわゆる介入売買を行うものであり金融取 引としての意義しか有していないかったこと等の事情に鑑みれば,Yが. 129.
(16) 横浜国際経済法学第15巻第3号(2007年3月置. Xに対し,本件仮設北画の引渡しを求め,その不履行を理由に本件売買 を解除するのは,信義誠実の原則に反し許されないものというべきであ る。」と判示した。. ◎ 大阪高裁平成10年2月13日判時1688号142頁38). XはYに対し,繊維生地の売買代金及び遅延損害金の支払を求めた。. 本件売買契約は,A→X→Y→B→Aと順次商品を売却する環状取引の 一部であった。第一審は,Yが本件売買契約は環状取引の一部であるこ. とは知らなかったとして,Yが商品の引渡がないことを主張することは 信義則に反するとは言えないとした。X控訴。 裁判所は,環状取引においては,「取引を計画する最:初の売主の目的 ・が資金繰りや帳簿上の在庫調整であるところがら,取引の参加者が合意. の上で,商品の受渡しを省略して,伝票等の授受のみで取引を行い,最 初の売主と最後の買主が一致して円環が形成されたときに受渡しがすべ て完了したものとする処理を行うことがあるとされているが,取引の目 的が右のようなものである上に,取引を計画した最初の売主が買主とな り,商品の現実の受渡しの必要性が乏しいことからすれば,,環状取引で あることを知って取引に参加する者の問で1ま,明示的に凄うでないと. しても黙示的に右のような処理をする旨の合意をするのがむしろ一般で あると考えられる。」とし,本件売買契約は環状取引の一部であると認. め,本件売買契約におけるYの態度は環状取引であるということを知ら ない者の態度としては極めて不自然であること等を指摘し,Yは本件売 買契約が商品の受渡を省略して伝票の授受だけで行うことを少なくとも 黙示的に承認,承諾していたとし,「本件売買契約が成立している以上,. Yは,Xに対し,商品の引渡を求めたり,その引渡のないことを理由と して売買契約を解除することはできず,また,商品の現実の引渡が予定 されていない以上,商品の存在は契約の要素であるとはいえないから, 本件契約が錯誤により無効であるともいえない。」と判示した。 130.
(17) 架空環状取引と錯誤. ③ 裁判例の整理. 一般に環状取引で問題が生じる場面は,取引の円環をなす当事者の一部 (主として第一売主であり最終買主)に倒産などの信用不安が生じ,その 煽りを食う当事者がリスクを次買主あるいは前売主に転嫁しようとすると. いう場合である。例えば,A→B→C→D→Aの環状取引で, Aに信用不 安が生じた場合,Cとしては売買代金をDから回収しようと考える。他方,. DとしてはAからの売買代金の回収が不可能になるので,Cとの契約関係 を解消しようとする。. 裁判例おいては,第一に,当事者の選択した売買という法形式を起点と し39),中間者の目的物引渡義務について判断されている。そこでは,環状. 取引においては目的物の引渡は最初の売主と最終買主が一致して円環が形 成された時点ですべて完了するとか(④⑭[C取引]⑥)40>,混同により. 消滅するとされる(⑪)。また,合意があれば書面の交付により引渡が完 了するとか(③)41),目的物の引渡を省略して履行を完了することができ. るとされる(◎)。その他,目的物の引渡義務のない売買であると言われ ることもある幽(㊨[B取引])。このように,引渡義務に関する判断は様々. であるが,いずれも通常の売買の場合とは異なって,実際の物流がなくて も,引渡がなされたものとみなされるか,あるいは引渡義務が緩和されて いるといえる。. 第二に,中間者の主張が認められない場合としては,中間者が目的物の. 不存在を知っていたか,その存在を重視していなかったことが判断の基準 とされているように思われる。④⑧◎③⑪ではそのことが明示されている. し,⑪⑥でもそのことは看取される。また,中間者が実際には目的物を受 け取っていないのにも拘らず,受領書を前売主に発行したような場合にも, 当該中間者の主張は認められない42)。この場合も目的物の存在を重視して いなかった場合と考えてよかろう。. 要するに,裁判例においては売買という法形式は維持しながら架空環状. 131.
(18) 横浜国際経済法学第15巻第3号(2007年3月). 取引の実質的には融資たる側面を考慮し43),架空環状取引において善意で. ある者,即ち目的物の流通(ないし存在)に関して信をなす者を救済する 傾向にあると思われる。. V 本判決の検討 まず,これまで錯誤が争われた事例は⑪⑤⑪⑥であるが,いずれも錯誤の主 張は認められていない。⑪では証拠不足とされ,⑪では業転取引の特殊性が考. 慮され,Xの錯誤は要素の錯誤ではないとされている。㊦ではYの錯誤は動機 錯誤であるし,仮にYが目的物不存在を知っていたとしても,契約を締結しな かったとはいえないとされ,⑥ではYは目的物が不存在であることを黙示に承 諾しており,目的物不存在は契約の要素とはいえないとされている。上記の⑤ ㊦⑥では錯誤者が目的物不存在を知っていたか,その存在を重視しておらず, それで以って「要素の錯誤」であることが否定されていると言える。. 翻って本判決を見てみると,Xの錯誤認定につき以下のことが考慮されてい る。即ち,①Xは,本件取引が非環状の実需取引だと信じて,本件原告購入契 約及び本件原告販売契約を締結したこと。②本件取引がYが高額のマージンを 取得する架空環状取引であれば,Zは早晩破綻し, Xは多額の損失を被る恐れ. があったのであり,XY間では本件取引が非環状の実需取引であることが当然 の前提とされていたこと。①がXの陥った錯誤だとされ,②によりそれが「要 素の錯誤」であると認められている。. 従来の裁判例と本判決を比較すると,従来の裁判例では目的物の不存在を知 っていたか,その存在を重視していなかった場合には,中間者の錯誤の主張が. 否定されてきた。それに対して本件では,中間者であるXは実需取引であると 信じており,そのための証拠書類をYに提出させるなどし,目的物の存在を重 視していたことが伺える。また,従来の裁判例によれば単に目的物の不存在を. 知らなかっただけでは要素の錯誤とは認められないとされている(⑥)。それ 132.
(19) 架空環状取引と錯誤. に対して本判決では,実需取弓1でなかった場合のXのリスク負担を考慮して, 実需取引であると信じたことはXY間の取引の「当然の前提」であると評価し,. 要素の錯誤牽認めている。即ち,XY間の取引は, Xに錯誤がなければ同人が 契約を締結しなかったであろうほど危険性(多額の損失を被るおそれ)が高く,. それ故そのような危険のない取引であることが「当然の前提」とされたことを. 以って,Xの錯誤が要素の錯誤であると認められたと言えよう。このように考 えると,本判決は架空環状取引において中間者の錯誤無効の主張が認められる ための一定の基準を示したといえよう44)。. 本判決について「本判決の錯誤の評価からは,同じく与信取引であるクレジ ット契約での,空クレジットの購入者の保証人の錯誤無効を認めた最近の最高. 裁判決(最判平14・7・11裁判集二〇六号七〇七頁,判時一八〇五号五六頁, 判ター一〇九号一二九頁,金法一六六七号九〇頁,金判一一五九号三頁)の考 え方との連続性が看取しうる」という指摘もあり45),今後このような空クレジ. ットないし空リースを含め信用供与取引という体系の中で架空環状取引を論じ ていくことが必要であると思われる46)。. 1) 覆面座談会「これがつけ商売・介入取引”の実態だ(中)」NBL301号(1984年)19頁,高. 任和夫「商社における介入取引の実態と対策」NBL600号(1996年)57頁。東京地判平成2 年5月22日判時1388号58頁の匿名コメント59頁。 2)森井英雄「商社における介入取引の分析」NBL42号(1973年)20頁。 3)、片岡義広「つけ売買」『判例信用供与取引法』(経済法令研究会,1984年)763頁。介入取引 は,「つけ売買」,「つけ商売」,「介入売買」,「つなぎ売買」,「金融商い」,「帳合い取引」な. どとも呼ばれるが,後述するように介入取引は,売買などの典型契約のみを含むものではな く,金融取引もその範囲に含まれ得る。. 因みに,「つけ」「介入」という呼称については語源が諸説あるようだが,「つけ」とは「帳 合だけをつける」から,「介入」とは既にできあがった当事者の契約に単純に介入するとい う日常用語としての介入の意味であるとされているようである(覆面座談会「これがつけ商 売・介入取引”の実態だ(上)」NBL300号(1984年)53頁。)。 4) 片岡前掲脚注3,764頁。. 5)大阪地判昭和47年3月27日判例時報684号76頁。この裁判例が介入取引のリーディングケ ースとされる(例えば,片岡前掲脚注3,764頁,松永美由紀「いわゆる介入取引の法的ア’ 133.
(20) 横浜国際経済法学第15巻第3号(2007年3月) ブローチに関する一考察」企業法学4号(1995年)145頁。)。但し,ここでは「介入取引」 ではなく,「つけ商売」と言われている。 6). この場合の取引は主に売買契約及び請負契約である(森井前掲脚注2,20頁。)。但し,実際 には売買の方が圧倒的に多いようである(覆面座談会(上)57頁。)。. 7). 大阪地判昭和47年3月27論判時684号80頁。. 8). 森井前掲脚注2,23頁。. 9). 買主の要請で商社が介入する場合もある。例えば,売主・買主間の売買契約で売買代金の支 払いが一括とされている場合に,買主が期限の猶予を欲して商社に介入を求めるというよう なケースである(片岡前掲脚注3,774頁)。. 10)森井前掲脚注2,20∼21頁。 11)森井英雄「つけ売買の仕組み」『判例リース・クレジット取引法』(金融財政事情研究会, 1986年)282頁。. 12)森井前掲脚注2,21∼22頁。 13)片岡前掲脚注3,765頁。. 14)阪本清「いわゆる“介入取引(つけ売買)”について一わずかなマージンで危険を背負わぬ よう一」『ケーススタディ債権管理[新訂版]』(商事法務研究会,2000年)28頁。ここでは, a)純粋の金融,b)保証(信用リスク吸収機能), c)伝票作成整理, d)与信枠オーバーの 回避,e)取引先限定の回避が挙げられている。. 15)多くの場合介入者である商社は,「買契約と売契約を同時に成立させ,在庫も持たずに取引 リスクの少ない売買をその業務の中心とするから」,その金融機能は取引成立の重要な要素 となっているので,「どの商社取引も多かれ少なかれ金融取引としての性格を持つ。」という. (柏木昇「介入取引の法的性質」別冊ジュリスト164号(2002年),121頁)。この場合,売 買・請負介入であっても金融機能を有すると考えられる。 16)片岡前掲脚注3,770頁。ここでいう,金融機i能は上記脚注14で触れたa)に相当する。 17)松永前掲脚注5,148頁。. 18)吉原省三/片岡義広「序:信用供与取引関係判例体系化の試み」『判例信用供与取引法』(経. 済法令研究会,1984年)3頁。ここで信用供与取引とされているものは,介入取引の他にク レジット取引,クレジットカード取引,所有権留保付きの割賦販売,ローン提携販売及びフ ァイナンスリースである。 19)信用供与とは,「必ずしも法律的に金銭消費貸借を意味するものとは限らず,経済的に見て, 信用供与の機能を有する場合を含む」ものであるという。(吉原/片岡前掲脚注18,3頁。)。. 20)但し,売主が連帯保証をするなどの特約がある場合は売主に対して請求できるとされる。 21)武川幸嗣「晶出」私法判例リマークス24号(2002年)52頁。. 22)大阪地雷昭和47年3月27日判例時報684号76頁,那覇地判昭和50年7月9日判時864号104 頁,福岡高那覇支判昭和52年1月21日言葉864号96頁他。 23)森井前掲脚注11,280頁。. 24)那覇地判昭和50年7月9日出時864号104頁,福岡高那覇支判昭和52年1月21日判時864号 96頁,新潟地判昭和53年8月25日判タ372号104頁,東京高判昭和54年4月17日判時930号 134.
(21) 架空環状取引と錯誤 72頁他。. 25)東京地判昭和56年7月30日NBL300号66頁。 26)実務では,このような紛争を解決するめには,売主からの納品書だけでなく,買主からの受 領書をしっかり取ってくることが指摘されている。ただ,この場合でも受領書が虚偽のもの であったりするが,とにかく受領書を取ってくることが紛争解決の手がかりとなる旨が指摘 されている(覆面座談会(中)26頁以下。)。. 27)結論については裁判例に賛成するものが多いようである。 28)商社としては介入取引の法的構成として売買方式以外にもいくつかの方法があるとされる。 即ち,金銭消費貸借契約,ファイナンス・リース,ファクタリング(実質売主と実質買主問 で長期分割払いの契約を締結させ,実質売主から売掛債権を買い取るという方式)である。 金銭消費貸借契約を選択した場合,金融機能という目的に法形式が近いので,当事者の経済. 目的を達成しやすい。しかし,売上高に寄与しないし,これを反復継続すれば貸金業法の登 録も必要になる恐れがあるほか場合によっては,定款目的との関係も問題になる。ファイナ ンス・リースを選択した場合,ユーザーが賃借料を税務上損金処理できる可能性があるが, 売上高に寄与しないし,特約をしなければ貸主としての責任を排除できない。このような選 択肢があるにもかかわらず,当事者が売買という法形式を選んだ以上,その合意を尊重すべ きであるという(柏木前掲脚注15,121頁)。 29)柏木前掲脚注15,121頁。. 30)森井前掲脚注11,286∼290頁,三浦雅雄「『つけ売買』』に関する裁判例の分析」NBL300号 (1984年)60頁,堀龍見「リース契約と介入取引」ジュリスト.824号く1984年)90頁,片岡 前掲脚注3,773∼777頁,長尾治助「割賦販売」『新版注釈民法(14)』(有斐閣,1993年). 115∼116頁,松永前掲脚注5,160∼161頁。三浦説は,介入取引において商社が通常の売 買と同様に商品引渡義務を負うという前提に疑問を呈する。介入取引においては,介入取引 に関与した売主一二主一商社らの法律行為の解釈が問題になり,「当該の法律行為によって 当事者の達しようとした経済的または社会的目的を捉え,法律行為の全内容をこの目的に適 合するように解釈することが,法律行為解釈の第一の標準」であると’いう我妻博士の論を引 用し(我妻栄『新訂民法総則』(岩波書店,1965年)250頁),商社の介入目的に従って,三 点間の関係を規律することがもっとも当事者の意思に適っているという(三浦前掲脚注30, 60頁)。. 31)例えば,森井説及び松永説は,売主一買主間の売買契約に商社が売主ないし買主に金融の便 宜を図るために介入する場合には,三当事者の介入取引の法的構成として売主一買主間の売 買契約と商社一売主間の(通常は手形を用いた)金融取引契約との混合であると考える(森. 井前掲脚注11,286頁,松永前掲脚注5,160頁)。つまり,売主一買主間に実体的な存在を 認め,目的物は売主から買主へ直接引渡される。同時に売主は融資金として商社が振出交付 した手形を受領し,この返済手段として売主が買主に対して有する売買代金債権を充当する と構成する。買主から商社に対してなされる弁済は実質は第三者弁済となるが,買主一商社. 間には形式上は売買契約という直接的な法律関係が存在するため,これを免責的債務引受契 約に基づく弁済とする。そして,商社としては売主による買主の債務に関する連帯保証等の 135.
(22) 横浜国際経済法学第15巻第3号(2007年3月) 特約がない限り,買主に債務不履行や倒産等が生じた場合にはこのリスクを負うことになる という (松永前掲脚注5,160頁)。. 32)大阪高裁平成10年2月13日判時1688号142頁。 33)稲田和也「環状取引をめぐる法的問題」判タ960号(1998年)62頁。ただ,稲田氏は,必ず しも環状取引を介入取引の一形態とは考えず,環状取引の各当事者の意図や構成する個々の 売買取引の実態に着目した上で,その性格を判断すべきとする(同65頁。)。. 34)栗原由紀子「面面」成城法学69号(2002年)348頁。 35)「我国には,石油の元売り会社(自社,子会社又は提携会社が石油精製設備を持ち,そこで 精製された石油を販売する会社)が一二社ほどあり,石油製品の販売経路は原則として元売 り会社ごとに系列化され,元売り会社との特約店が石油製品を販売している。しかし,元売 り会社によっては自社系列で販売する商品を自社の精製設備で賄いきれず商品が不足し,他 方,自社が精製した商品を自社系列の販売経路で販売しきれず商品が余る元売り会社もある。. このため,元売り会社間や別系列に属する小売店間で商品を融通し合ったり,元売り会社が 別系列の特約店から商品を購入したりする必要が生じるが,この場合,元売り会社間あるい は特約店問で直接取引がされず,商社や業転業者と呼ばれる仲介業者が間に入り,同一目的 物に関する売買契約が連続する転売の形をとることがある。このような取引を業者間転売取. 引,略して業転取引」であるとされる(東京地謡平成4年7月30日論功1477号65頁)。 36)例えば,東京論判平成4年7月30日判時1477号65頁。 37)環状取引の裁判例の分析については,稲田前掲脚注33,武川前掲脚注21,栗原前掲脚注34, 藤原正則「画論」私法判例リマークス30号(2005年)46頁の先行研究がある。. 38)本件の下級審である大阪地判平成8年9月2日判時1599号114耳の扁球は,以下の通りであ るみ. 本判決は一般論として,環状取引において,実際には売買の目的物が現実に引き渡されるこ. とがなく,各種書面の交付によって引渡がされたものとされるのが通常であるとしても, 「売買という法形式を取る以上,売主は買主に対して当該目的物を引き渡すべき義務を負う ことはいうまでもない。」もっとも,当事者が環状取引であることを知った上で,「単に書面 の交付等をもって目的物の引渡とみなす旨の合意があると認められる場合には,当該目的物 を現実に引き渡さなくても,右引渡義務を履行したことになる」といえる。また,環状取引 であると知らなかったとしても,「実際には,目的物の引渡を確認していないのに,引渡を 受けたものとして,目的物の受領書等を売主に交付し,そのため,売主において以後買主が 目的物の引渡を受けていないことを主張しないものと信頼し,それを前提として,その前売 主に対して代金を支払うなどの新たな行為を行った場合」又は,環状の売買がすべて締結さ れれば,個別の契約に基づく引渡義務が当然に消滅するものではないが,「全当事者の間で 目的物が順次引き渡されたのと同一の結果が実現した場合などには,信義則上目的物の引渡. がないことを主張し得ない」としながらも「Yにとって受取書の交付はさほどの意味を持た ないと考えられる上,本件商品(三)及び(四)の引渡について依然として利害と関心を有 している場合であり,Xは,本件商品(三)及び(四)の受取書の交付を受けているものの, それによって引渡が完了したと信じて代金支払などの何らかの新たな行為をしたという関係 136.
(23) 架空環状取引と錯誤. にもないのであるから,Yが,本件商品(三)及び(四)の受取書を交付したことから,そ の引渡がないことを信義則上主張し得ないとするには十分でない」と判示した。 39)裁判例は一定の疑義を抱きながらも,目的物不存在の売買であっても当事者が売買と合意し. ていれば,契約自由の原則によりの認められるという (東京地判平成2年8月28日金判873 号36頁)。また,取引が円環することで以って無効となるとは言えないとする(東京地判昭. 和54年4月16日判時945号110頁)。 40)当事者が環状取引であると認識していれば,明示的あるいは黙示的にそのような合意があっ. たとするのが一般的だとされる(大阪高裁平成10年2月13日判時1688号142頁)。. 41)大阪地判平成8年9月2日判時1599号114頁。 42)東京地裁平成10年10月13日判タ1006号212頁。またこのことを示唆するものとして大阪地 判平成8年9月2日判時1599号114頁。 43)判例の動向としては,法形式上の売買を重視する見解から金融取引という側面を考慮して流. れになっているという(武川前掲脚注21,53頁。栗原前掲脚注34,356頁以下)。そのよう. な事例として,請負の事例ではあるが,名古屋地判平成12年5月31日判時1740号71頁,同 判決の控訴審である名古屋高志平成12年12月7日金判1121号28頁が挙げられる。 44)藤原教授は,本件取引が実需取引であるというXの誤信が契約内容として表示されているの で,「XがYとの売買契約により負担する債務の内容は,契約内容となっている」のだから,. Xの誤信は契約の要素となると評価し得るというが(藤原前掲脚注37,48頁),Xの表示が 契約内容になっているというのなら,錯誤ではなく債務不履行の問題となるのではないだろ うか。. 45)藤原前掲脚注37,48頁。空クレジットの最高裁判決(最判平成14年7月11日裁判集205号 707頁)の射程が,架空環状取引にも及ぶ可能性を指摘するものとして,新堂明子「判研」 北大法学論集55巻2号(2004年)315頁。また,空リース,空クレジット等を不正常な信用 供与であるとして,その保証契約の錯誤無効を検討するものとして,宮本健蔵「不正常な信 二三取引と保証契約の錯誤無効」『財産法諸問題の考察一小林一俊博士古希記念論集』(酒井 書店,2004年)219頁。. 46)信用供与取引の体系化を試みるものとして,吉原/片岡前掲脚注18。. 137.
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