第1章 はじめに インターネットは,今や世界最大規模の情報インフラと言っても過言で はない。そのインターネットの仕組みを簡単に述べると,コンテンツ提供 者がアップロードしたデジタル・データをサーバー・コンピューターが保 存し,そのデジタル・データを求めるアクセス・ユーザーに対して,それ を自動送信するというものである。この仕組みによると,例えば,他人の 著作物であるにもかかわらず,無断でデジタル化されたその著作物をコン テンツ提供者がアップロードした場合でも,その著作物はアクセス・ユー ザーに対して自動送信されうる。つまり,アップロードという一つの行為 で,世界中に著作物が配信されうることから,著作権侵害も同様に,世界 中で発生する可能性があると言えよう(以下,このような形態の著作権侵 害を,インターネットを通じた隔地的な著作権侵害と呼ぶ)。 (1) インターネ 論 説
インターネットを通じた隔地的な
著作権侵害の準拠法に関する一考察
山
口
敦
子
(1) 本稿において,隔地的な著作権侵害に「インターネットを通じた」と 前置きがあるのは,他の通信手段から生ずる隔地的な著作権侵害と区別す るためである。つまり,本稿の考察の対象として,放送等の通信手段によ る侵害については念頭に入れていない。なぜなら,確かに両伝達手段は, 「公衆に対して同時に送信されるという形態と公衆からの求めに応じて送 信されるという形態は,受信の態様は異なるが,相対として多数の者が受 信するということに変わりはない(高橋和之,松井茂記『インターネットットと関係する他の著作権問題も近時問題視されているが, (2) それではここ で問題とするインターネットを通じた隔地的な著作権侵害については,ど のような法的処理がなされるのだろうか。 まず,インターネットを通じた隔地的な著作権侵害に限定されない,渉 外的な著作権侵害全般については,以下のような解決方法が考えられよう。 すなわち,渉外的な私法生活関係が生じた場合,それに関する統一実質法 があれば,それによることになる。しかし,著作権に関する条約はいくつ か存在するものの,それらは著作権に関する全ての事項を規定したもので はないため,完全な統一実質法とは言えない。よって,このような侵害が 生じた場合,統一実質法による解決は得られないということになろう。 次に,統一実質法は存在しないけれども,統一国際私法が存在するので あれば,その統一国際私法によることになる。これに関しては,「文学的 及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(Berne Convention for the Protection of Literary and Artistic Works)」
(3) の5条2項を準拠法規定と解 イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 隔 地 的 な 著 作 権 侵 害 の 準 拠 法 に 関 す る 一 考 察 と法[第3版]』(2004年,有斐閣)240−241頁)」。しかし,インタラクテ ィブ送信(公衆からの求めに応じて行う送信)か否かという相違は,侵害 地の予測可能性と密接に関係する事項であるため,これを軽視すべきでは ないと思われるからである。また,誰が発信者(送信者)かという問題, すなわちインターネット通信は一般市民もその主体となりうるが,放送の 場合は通常放送機関が主体となることから,この点においても,準拠法規 定を検討する上で,重要な考慮事項になるのではないかと思われる。よっ て,インターネットによる侵害と放送等の通信手段による侵害とを同じフ ィールドで考えることに未だ疑問があるため,本稿での私の主張は,イン ターネットを通じた隔地的な著作権侵害に限定するものとする。 (2) 本稿では扱わないが,その他のインターネット上での著作権問題とし て,例えばファイル・シェアリングに関する問題やハイパー・リンクの扱 い方,サーバーの法的責任の問題等も問題視されている。 (3) 以下,ベルヌ条約とあるものは,1975年に我が国が批准したパリ改正 条約を指している。
するか否かで議論の分かれる所であるが,現在,同規定を,保護国法を準 拠法とする準拠法規定と解する立場が多数説とされている。 (4) すなわちこの 立場に立つと,ベルヌ条約5条2項を遵守する必要のある国においては, 統一国際私法が存在すると言えよう。 反対に,ベルヌ条約5条2項を準拠法規定と解さない場合,統一国際私 法が存在しないということになろう。この場合の渉外的な著作権侵害問題 を解決する方法としては,属地主義の原則, (5) 及び各国の国際私法を直接あ るいは条理によって適用するという方法が考えられよう。このうち後者の 方法については,我が国の場合,法の適用に関する通則法(以下,通則法) を直接あるいは条理によって適用することになるが,それがうまく機能し ない場合は,著作権ないし知的財産権に関する侵害規定の立法も,視野に 入れる必要があるということになろう。 以上,インターネットを通じた著作権侵害を含めた,渉外的な著作権侵 害全般に関する準拠法問題の解決方法について記した。しかし,いずれの 解決方法も有力に主張されるため, (6) まず,これらの解決方法のうちどれが 論 説 (4) 松岡博,私法判例リマークス29(2004〈下)138頁。この立場を「一 般的な理解」とするものもある(駒田泰土「インターネットによる著作権 侵害の準拠法」,木棚照一編著『国際知的財産侵害訴訟の基礎理論』(2003 年,経済産業調査会)303頁)。申美穂「国際的な知的財産権侵害事件にお ける抵触理論について(一)」法学論叢154巻2号(2003年11月)78頁。 (5) 属地主義の原則とは,著作権の効力は属地的に制限される等を理由に, 保護国法を準拠法とする原則である。詳述は,後述注(14)(34)及びそれぞ れの本稿本文。また,ベルヌ条約5条2項は,属地主義の原則を定めたも のとする見解もある(本稿第2章 2−2 参照)。 (6) 上記解決方法のうち,ベルヌ条約5条2項を準拠法(保護国法)規定 と解しそれを適用する立場,及び属地主義の原則に基づく場合は,結果的 に「保護国法」を準拠法として適用する点で共通する。その両見解の準拠 法である「保護国法」が著作権に関する抵触規定として一般的とされる (詳述は後述注(10)及びその本文)。
渉外的な著作権侵害全般に関する準拠法問題の解決方法として適切かとい うことについて検討する必要があろう(第2章)。 そして,その検討により導かれた準拠法問題の解決方法に基づき,それ が指定する準拠法 (7) を「インターネットを通じた隔地的な著作権侵害」に適 用した場合も,適切な結果が得られるかどうかということについてさらに 考察する必要があろう。なぜなら,インターネットは他の通信手段とは異 なる特殊な性質を有するため,侵害の態様の点でも他の通信手段と異なり 得ると思われるからである。つまり,インターネットはアクセス・ユーザ ーの求めに対して情報が送信されるインタラクティブ送信であるため,著 作物の受信地(侵害地)は結果的にアクセス・ユーザーが決定することに なる(さらにその侵害地は,複数となる場合もあり得よう)。したがって, このことから生ずること,例えば侵害者の受信地(侵害地)に対する予見 性の低さ等を,準拠法規定に反映させる必要があると思われる(第3章, 第6章小括)。 上記の考察から,本稿では「インターネットを通じた隔地的な著作権侵 害」に対応した準拠法規定の必要性を認識し(第3章), (8) その準拠法規定 の提案を試みる。その準拠法提案にさきがけて,本稿では,アメリカ法律 協会 (the American Law Institute) の “Intellectual Property : Principles イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 隔 地 的 な 著 作 権 侵 害 の 準 拠 法 に 関 す る 一 考 察 (7) ベルヌ条約5条2項を準拠法(保護国法)規定と解する立場に基づく 場合は保護国法,属地主義の原則に基づく場合も保護国法,我が国の国際 私法を直接ないし条理で適用する場合は不法行為規定がそれに該当する。 (8) 「インターネットを通じた著作権侵害」の準拠法規定を提案するに際 して,本文に記した「渉外的な著作権侵害全般に関する準拠法問題の解決 方法」のうち,特にベルヌ条約5条2項を準拠法(保護国法)規定と解す る立場,及び属地主義の原則は,準拠法規定の新たなる提案と抵触するの ではないかという懸念があるかもしれないが,これに関しては第3章で考 察する。
Governing Jurisdiction, Choice of Law, and Judgments in Transnational Dis-putes” の最終草案(2007年3月30日), 及び Mireille van Eechoud の著書 “Choice of Law in Copyright and Related Rights : Alternatives to the Lex Protectionis” の著作権侵害に関する準拠法提案を比較考察する (第4, 5,6章 (9) )。両案はこれまでの準拠法提案にはない様々な特徴を有してお り,これらを比較することで得られる情報は,非常に有益なものだと思わ れる。よってそれらの比較考察で得られた視座から,「インターネットを 通じた隔地的な著作権侵害」に対応した準拠法規定の私見の提案を述べ, 本稿を締めくくることにする。 論 説
(9) The American Law Institute, “Intellectual Property : Principles Governing Jurisdiction, Choice of Law, and Judgments in Transnational Disputes”, Proposed Final Draft (March 30, 2007), (available at http://www.ali.org/doc/ 2007_intellectualproperty.pdf). Mireille van Eechoud, Choice of Law in Copyright and Related Rights : Alternative to the Lex Protectionis, Information Law Series-12 (Kluwer Law International, 2003).
両案は,「インターネットを通じた隔地的な著作権侵害(知的財産侵害)」 に配慮した準拠法規定を提案しているため,ここからもこの問題の準拠法 規定の必要性が伺えよう。なお,ローマⅡにおいても,知的財産侵害に関 する準拠法規定が草案されているが(8条),これは保護国法を準拠法と するもので(8条1項),当事者自治の原則の適用(14条)を認めていな い(8条3項)。つまり,従来からの見解が維持されているため,本稿の 検討の対象としていない。ローマⅡについては,“Common Position (EC) No 22/2006 adopted by the Council on 25 September 2006 with a view to adopting Regulation (EC) No .../... of the European Parliament and of the Council of ... on the law applicable to non-contractual obligations (ROME II)”, Official Journal C 289 E, 28/11/2006, pp. 6883. (available at http://eur-lex. europa.eu/LexUriServ/site/en/oj /2006/ce289/ce28920061128en00680083.pdf) を参照した。
なお,本稿では考察の対象を「インターネットを通じた隔地的な著作権 侵害」に限定しているが,ALI 原則及び Mireille van Eechoud の提案では, 他の通信手段により隔地的な著作権侵害もその対象としている。
第2章 保護国法の根拠 第1章で述べた通り,渉外的な著作権問題を世界的な統一実質法で解決 できない現状においては,国際私法が,その問題を解決するに当たり大き な役割を果たすと言えよう。 その著作権に関する抵触法規定については,「その領域について保護が 要求される国の法(保護国法)」を準拠法とする見解が一般的に主張され ている。 (10) そしてこの保護国法を準拠法とする根拠について,第4章以降で 比較検討する Mireille van Eechoud は以下の三点を挙げている。すなわち, ベルヌ条約又はその他の国際的な著作権条約に規定されている内国民待 遇の原則,著作権の属地性(属地主義の原則),ベルヌ条約5条2項, 及びその類似の条項の三つである。 (11) このような説明は van Eechoud だけではなく,他の論者でも見られ イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 隔 地 的 な 著 作 権 侵 害 の 準 拠 法 に 関 す る 一 考 察
(10) van Eechoud, supra note 9, p. 95, 105. 我が国においても,著作権を含 む知的財産の準拠法について,それは属地主義の原則(前掲注(5)及び後 述注(13)(14)とその本稿本文を参照)によって決定されるということを一 般的な解釈とし,論を進めている見解が幾つか見られた(駒田・前掲注 (4)293頁,江口順一,茶園茂樹「国際取引と知的財産」松岡博編『現代 国際取引法講義』(法律文化社,2003年)188頁(但し,これに関して「意 見の一致を見る」と記載されている),木棚照一「知的財産侵害訴訟にお ける準拠法」,木棚照一編著『国際知的財産侵害訴訟の基礎理論』(2003年, 経済産業調査会)280頁,茶園成樹「インターネットによる国際的な著作 権侵害の準拠法」国際税制研究3号(1999年)79頁)。前掲注(5)で述べた 通り,属地主義の原則とは保護国法を準拠法として主張するものである。 また,前章で述べた通り,ベルヌ条約5条2項を準拠法(保護国法)規定 と解する見解が多数説とされている。つまり根拠は異なるが,我が国にお いても,著作権に関する抵触規定として保護国法が一般的であると解する ことは,適切だと思われる。
る。 (12) そこで本章では,上記分類に基づき,保護国法の根拠をどこに求める のが適切かということについて検討する。そうすることにより,ベルヌ条 約5条2項を準拠法規定と解することは適切かどうかということ,ひいて は渉外的な著作権侵害に関する準拠法問題の解決方法として前章で挙げた 方法のいずれが適切かということについても明らかになろう。 まず,保護国法の根拠として説明されるに関しては,内国民待遇の原 則は外人法上の原則であることから,これを保護国法(準拠法)の根拠と することは現在,一般的に否定されており,妥当ではないとされる (13) (私も これを概ね支持し,よって本稿では取り上げない)。は,著作権の属地 性を根拠とする,すなわち実質法上の属地主義(権利の効力の範囲)の帰 結として保護国法を準拠法とする見解で,これは属地主義の原則と言われ ている。 (14) は,ベルヌ条約5条2項及びその他の類似条項の「the laws of the country where protection is claimed(保護が要求される同盟国の法令)」 という文言に,保護国法の根拠を求める見解である。この文言の解釈につ いては,特にベルヌ条約5条2項を中心に論じられている。ベルヌ条約5 論 説 (12) 木棚照一「知的財産法の統一と国際私法」国際私法年報第3号(2001 年)173−201頁。金彦叔『知的財産権と国際私法』知的財産研究叢書7 (信山社,2006年)。駒田・前掲注(4)293−310頁。駒田泰土「ベルヌ条約 と著作者の権利に関する国際私法上の原則」国際法外交雑誌第98巻第4号 (1999年10月)41−67頁。申・前掲注(4)61−96頁。 (13) 木棚・前掲注(10)281頁,木棚・前掲注(12)188頁,駒田・前掲注(12) 55頁,申・前掲注(4)77頁。なお,この見解について,前掲注(12)の金彦 叔『知的財産権と国際私法』知的財産研究叢書7(信山社,2006年)57− 59頁で詳しく考察されている。このベルヌ条約5条2項以外に保護国法を 規定する他の条文について,これらも抵触規定と解しうるのかという問題 については,別稿をもって論じたい。 (14) 金・前掲注(12)68頁。駒田・前掲注(4)293頁。茶園・前掲注(10) 79 頁。
条2項の解釈としては,従来,主として四つの立場が主張されてきた。す なわち,①法廷地実質法説,②法廷地国際私法説,③保護国法説,④ベル ヌ条約には準拠法規定は存在しないとする説である。 (15) 上記の見解は,こ のうち,③の保護国法説,つまりベルヌ条約5条2項を,保護国法を準拠 法とする準拠法規定と解する立場から導き出されよう。 以上,保護国法の根拠として主張されるものを列挙したが,以下では の属地主義の原則及びのベルヌ条約5条2項について詳しく考察する。 2−1 ベルヌ条約5条2項の解釈Ⅰ まず,ベルヌ条約5条2項について考察する。そのベルヌ条約5条2項, 特に問題となる後段を以下に記す。 「したがって,保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に 保障される救済の方法は,この条約の規定によるほか,専ら,保護が 要求される同盟国の法令の定めるところによる。」
“Consequently, apart from the provisions of this Convention, the ex-tent of protection, as well as the means of redress afforded to the author to protect his rights, shall be governed exclusively by the laws of the country where protection is claimed.”
ベルヌ条約5条2項の解釈については,既述の通り,四つに分類されうる。 すなわち,① “the country where protection is claimed” を「法廷地」と 文字通りに解する法廷地実質法説, (16) ②法廷地実質法説と同様,上記文言に イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 隔 地 的 な 著 作 権 侵 害 の 準 拠 法 に 関 す る 一 考 察 (15) ①②③の名称について,道垣内正人「国境を越えた知的財産権の保護 をめぐる諸問題」ジュリスト1227号(2002年7月)55−56頁を参考にした。 (16) 道垣内・前掲注(15)55頁。駒田・前掲注(12)51頁。
ついては「法廷地」と解するが,法廷地の実質法だけではなく,国際私法 も含まれると解する法廷地国際私法説, (17) ③保護国法説, (18) ④ベルヌ条約には 準拠法規定は存在しないとする説 (19) である。 このうち,③の保護国法説が多数説とされている。 (20) この保護国法説とは, 論 説 (17) 道垣内・前掲注(15)56頁。駒田・前掲注(12)62頁。 (18) 道垣内・前掲注(15)56頁。松岡・前掲注(4)139頁。 (19) ベルヌ条約は明確な準拠法規定を有さないとするものとして,James J. Fawcett, and Paul Torremans, Intellectual Property and Private International Law (Oxford, Clarendon Press, 1998), p. 472。また,ベルヌ条約5条2項 を 準 拠 法 規 定 と 解 す る こ と に 否 定 的 な 態 度 を 示 す も の と し て , Sam Ricketson, and Jane C. Ginsburg, International copyright and neighbouring rights : the Berne Convention and beyond, 2nd ed, (Oxford University Press, 2006), pp. 12291300(後述注(38)参照のこと)。同条同項は準拠法規定で はないと明確に主張するものとして,van Eechoud, supra note 9, p. 95。ち なみに,van Eechoud がベルヌ条約5条2項を準拠法規定と解さないのは, ベルヌ条約の歴史的経緯及び,同規定を準拠法と解することによる弊害を 理由としている。この理由のうち,特に歴史的経緯に関して,簡単に紹介 する。 まず,ベルヌ条約の発展が,法規分類説からサヴィニー型国際私法への 転換期と一致していたため,仮に現5条2項(ベルリン改正時は4条)が 準拠法規定であったとしても,それはサヴィニー型国際私法ではなく,20 世紀,特にイタリア,フランスで支配的であったローマ学派であろうと van Eechoud は述べている(id., p. 92)。
さらに,van Eechoud は,ベルヌ条約は準拠法規定を目的として創設さ れた条約ではない理由についても二つ挙げている。一つは,当時,著作権 は私法に属すかは不確定であったため(私法ではなく公法に属すと考える 者もいた),外国人著作者の著作物に対して,19世紀中頃に台頭し始めた 一般的な平等条項に基づく保証はなされなかったという事実から,著作権 の二国間条約や最終的にはベルヌ条約創設の道へと開かれたと述べている (id., pp. 9293)。もう一つは,ベルヌ条約創設当初から,そもそも著作 権の統一が国際的な著作権保護の発展の中でも中心的なテーマであった 【そのため,ベルヌ条約は準拠法規定の創設を目的とした条約ではない: 筆者注】とする(id., p. 93)。
同規定の “the laws of the country where protection is claimed”(「保護が 要求される国の法」)を,“the laws of the country for which protection is claimed”(「その領域において保護が要求される国の法」)と読み替え, (21) そ れを準拠法(保護国法)と解する見解である。そして既述の通りこの保護 国法説から,ベルヌ条約5条2項に保護国法の根拠を求めるという,本章 のはじめに述べたの見解が導き出されよう。 それではこの四つの解釈のうち,いずれの見解がより適切か。 現在,著作権関係を完全に網羅するような世界で統一された実質法は存 在しない以上,まず国際私法に解決を委ねることになろう。その国際私法 の規律対象である国際的私法生活関係については,判決の国際的調和の達 成のために各国の国際私法を統一するのが望ましい。 (22) とすると,渉外的な 著作権関係も国際私法の適用対象であり,なおかつ著作権は渉外性の高い 権利と位置付けられると思われることから, (23) 渉外的な著作権関係に関して イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 隔 地 的 な 著 作 権 侵 害 の 準 拠 法 に 関 す る 一 考 察 (20) 前掲注(4)。 (21) この読み替えに関して,江口=茶園・前掲注(10)189頁。Lucas, “Private International Law Aspects of the Protection of Works and of the Subject Matter of Related Rights Transmitted Over Digital Networks”, WIPO/PIL / 01 / 1 Prov., 2000, para 34, p. 9, (available at http://www.wipo.int/ edocs/mdocs/mdocs/en/wipo_pil_01/wipo_pil_01_1_prov.doc). ALI, supra note 9, p. 199. Ricketson, and Ginsburg, supra note 19, p. 1299. van Eechoud, supra note 9, p. 108. van Eechoud がベルヌ条約5条2項を準拠法規定と解さな い理由の一つとして,この点を指摘している(ibid)。 (22) 松岡博編『国際関係私法入門』(有斐閣,2007年)6頁。 (23) 著作権は特に以下のような性質を有するため,少なくともベルヌ同盟 国内においては,その統一を要すると言えるかもしれない。すなわち,ベ ルヌ条約の保護を受ける著作者(ベルヌ条約3条1,2項)が,同条約の 保護の対象となる著作物を創作した場合,その創作と同時に,著作者は同 盟国と同数の著作権を取得する。そしてその著作物は各同盟国において, 内国民待遇の原則 (同条約5条1項), 無方式主義及び権利独立の原則
もできる限り,国際私法上の統一を達成することが望ましいと言えよう。 (24) その際,どのような方法を採りうるであろうか。 ベルヌ条約(5条2項)を遵守する必要のある国は,既述のベルヌ条約 同盟国163カ国(2007年12月現在)に加え,ベルヌ同盟国ではないが「知 的所有権の貿易関係の側面に関する協定(以下,TRIPS 協定)」 (25) に加盟し ている国が12カ国 (26) ある。つまり,これらを合わせた175カ国 (27) が,ベルヌ条 論 説 (同条約5条2項)に基づき保護される。つまり,このような保護を受け られるのはベルヌ同盟国内だけであって,ベルヌ条約で保護されるのと同 じ著作物であっても,ベルヌ同盟国以外の国ではその国の法の定め次第で, 保護及び著作権を享受し得ない場合もある(但し,他の条約(例えば万国 著作権条約)により保護される場合はこの限りではない)。そのため,少 なくともベルヌ同盟国内における国際私法上の統一を要すると言えるので はないかと思われる。 (24) このような見解を支持するものとして,松岡・前掲注(4)139頁。ま た,「ベルヌ条約も著作権に関するすべての事項についてルールの統一を したわけでなく,いくつかの問題については国際私法による準拠法決定と いうセカンド・ベストの方法に処理を委ねている」とし,その例としてベ ルヌ条約5条2項を挙げている見解もある(道垣内正人「著作権に関する 国際私法的処理における単位法律関係と連結点:審議中の WIPO 視聴覚 的実演条約案における準拠法条項について」知財管理51巻3号(2001年) 433,435頁)。 (25) WTO 設立協定の付属書の一つが TRIPS 協定で,設立協定と一体の ものである。TRIPS 協定加盟国はベルヌ条約パリ改正条約1条から21条, 及び付属書の規定を遵守しなければならない(TRIPS 協定9条)。ただし TRIPS 協定の場合ベルヌ条約6条の2の著作者人格権については保護の 義務を負わない。 (26) ベルヌ条約及び「著作権に関する世界知的所有権機関条約(以下, WCT)」に加盟していない TRIPS 協定加盟国の12ヵ国中,カンボジアは 万国著作権条約に加盟しているが,残り11ヶ国は万国著作権条約にも加盟 していない。なお,台湾を1国として数えていない。また,香港とマカオ は中国が締結している著作権関係条約が適用されているため,TRIPS 協 定の加盟国数に入れていない(2007年5月末の資料に基づく)。
約5条2項を適用する必要性を潜在的に有していると言えよう。 (28) したがっ て,「法解釈の基本の一つとして,条文の文言にはできるだけ意味のある ものとしての役割を与えるように解釈すべきである」とも言われることか ら, (29) ベルヌ条約5条2項を準拠法規定と解することで,国際私法上の統一 を達成しうるのであれば,それは一つの手段として非常に有効ではないだ ろうか。他方でそれとは別に,例えば著作権に関する準拠法条約を締結す る方法も考えられるが,ベルヌ条約ほどの締約国数を募ることは難しいの ではないかと思われる。したがって,国際私法上の統一の必要性を鑑みる と,ベルヌ条約5条2項を準拠法規定と解することは,国際私法の統一を 達成し得るという点で有益な方法と言えるのではないだろうか。 このことを踏まえて,ベルヌ条約5条2項に関する各解釈を見る。する と,上記②の法廷地国際私法説や④の説は,各国の国際私法により渉外的 な著作権関係が解決されることになる。既述の通り,判決の国際的調和の 必要性から国際私法の統一を達成することが望ましいため,それを達成し 得ない②④の見解を支持することは出来ない。 (30) イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 隔 地 的 な 著 作 権 侵 害 の 準 拠 法 に 関 す る 一 考 察 (27) WCT についてもベルヌ条約遵守条項があるが,ベルヌ条約及び TRIPS 協定に加盟せず,WCT のみに加盟している国は存在しないため, 175カ国にプラスされない。 (28) 準拠法規定と解するか否かに直接影響するかはわからないが,以下の ような点も指摘しておきたい。すなわち,ベルヌ条約に基づき保護が受け られる著作者について,ベルヌ条約3条1項で規定されているが,同条 号によると,非同盟国の国民であってもベルヌ同盟国で発行するか,ある いは非同盟国と同盟国で同時に発行された場合であればベルヌ条約により 著作物が保護される(但し,制限規定としてベルヌ条約6条を参照のこと)。 (29) 道垣内正人「著作権法をめぐる準拠法及び国際裁判管轄」コピライト 472号(2000年8月)15頁。 (30) なお,本稿の議論を先取りすることになるが,②の法廷地国際私法説 を提唱する駒田准教授は,「このような利用形態【「インターネット送信」 を指すものと思われる:筆者注】がより本流となっていく将来においては,
他方,①の法廷地実質法説と③の保護国法説は,同規定を準拠法規定と 解する点でそれを達成することができよう。しかし,法廷地法を準拠法と することは著作権に限らず,法廷地漁りや法律回避の点から否定されてい る。 (31) この点から,①の法廷地実質法説は適切ではないと思われる。したが ってベルヌ条約5条2項の解釈については,国際私法上の統一を達成し, なおかつ国際的な私法秩序を維持しようとする国際私法の目的を成し遂げ うる, (32) ③の保護国法説が適切だと思われる。そのため,この保護国法説か ら,本稿の最初で述べたの見解,すなわちベルヌ条約5条2項に保護国 法の根拠があるとする見解については,その妥当性がまずは確認できると 思われる。 論 説 ベルヌ条約の規定のうちに抵触法的な意味を読取ることは,むしろ,右の ような新しい著作権問題に関する国際私法の発展(適切な抵触規定の形成) を阻害する結果となるように思われる」と主張する(駒田・前掲注(12)60 頁,駒田・後述注(67)も参照のこと)。 確かに本稿でも考察するように,「保護国法」という準拠法は「インタ ーネットを通じた(隔地的な)著作権侵害」に馴染まないように思われる。 しかし,第3章で考察及び提案する方法を用いれば,ベルヌ条約5条2項 を準拠法規定と解することで国際私法の統一を維持しながらも,国際私法 の発展を阻害しない準拠法規定の提案は可能だと思われる。このため,③ の保護国法説は否定されえないと思われる。 ④のベルヌ条約には準拠法規定は存在しないとする説(少なくとも前掲 注(20)で掲げたもの)は,国際私法の統一という観点からについての主張 は,私の調べた限り,見当たらなかった。 (31) 道垣内・前掲注(15)55頁。駒田・前掲注(12)55頁。 (32) 法廷地実質法説について,「この見解に従えば,どこが法廷地になっ てくるかによって適用される実質法が違ってくるので,準拠法を定めてど こでも同じ実質法を適用することによって国際的な私法秩序を維持しよう とする国際私法の目的は達成することができず……」との記述がある(道 垣内・前掲注(15)55頁)。
2−2 ベルヌ条約5条2項の解釈Ⅱ:属地主義の原則 保護国法の根拠として,残るの見解,すなわち著作権の属地性を根拠 に保護国法を準拠法とする見解(以下,属地主義の原則)がある。 この属地主義の原則とは (33) ,「著作権の効力(ないし著作権法の適用範囲) は,一国の領域内に限定されるのであり,外国の著作権が内国において侵 害されることはないという命題である。ここには,著作物の国内における 利用に対して保護を与えるのは,その国の法でしかありえないという命題 が含まれている。つまり,著作権については利用行為地法【保護国法:筆 者注】が適用される」と一般的に説明される。 (34) このように説明される属地 主義の原則とは,著作権の効力に着目し,権利の効力の範囲(すなわち, 実質法上の属地主義) (35) から法の適用範囲に発想を転換し,そこから,保護 イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 隔 地 的 な 著 作 権 侵 害 の 準 拠 法 に 関 す る 一 考 察 (33) なお,近時,(ベルヌ条約に根拠を求めるかは別にして)そもそもこ の属地主義の原則を準拠法規定として認めない立場も有力だとされている (駒田・前掲注(4)301頁)。 (34) 駒田・前掲注(4)293頁。他の論者も同じような定義を用いている。 例えば,「知的財産権の属地主義は【属地主義の原則と同義,単に効力が 属地的に制限されるという意味のみならず,知的財産権の係わる問題は保 護が求められる国(保護国法)によって規律されるとする抵触法上の原則 (保護国法主義)をも含むものであると解されてきた。……保護国法とは, ふつうその領域について保護が要求される国の法,具体的には利用行為な いし侵害行為が行われた地の法であると説明され,知的財産権が関係する ほとんどの問題に適用されると考えられている」(申・前掲注(4)80頁)。 また,「著作権を含む知的財産の準拠法は,属地主義の原則によって決定 されると解されている。この原則は,一般的な理解によれば,ある国で付 与された知的財産権は,その国の領域内においてのみ効力が認められると いう実質法上の原則(「属地的効力主義」本稿の「実質法上の属地主義」 と同義:筆者注),及びそのような権利の成立,効力,消滅等は原則とし て権利付与国,より正確にいえばその領域内において権利の保護が要求さ れる国の法 (保護国法)によるという抵触法上の原則(「保護国法主義」 という)を意味する」とある(茶園・前掲注(10)79頁)。
国法という準拠法を導き出す原則と解し得るのではないかと思われる。つ まり,属地主義の原則は,実質法上の属地主義から準拠法ないし連結点 (保護国法)を導き出す原則と言い換えうるのではないだろうか。 しかし,連結点となる概念自体は,国際私法独自に決定される必要があ ると考えられる。 (36) とすると,実質法上の概念から保護国法を導き出す属地 主義の原則は,これに反するものということになるのではないだろうか。 そうすると,属地主義の原則は国際私法独自の概念に基づくものではない ことから,保護国法の根拠とはなり得ないということになろう。 (37) ところで,既述のように,実質法上の属地主義に保護国法の根拠を求め る見解を一般的に属地主義の原則と解されてきたが,論者によってはこの 属地主義の原則の根拠を,ベルヌ条約5条2項に求めるもの(すなわち, 属地主義の原則とベルヌ条約5条2項の解釈としての保護国法説(本文の ③)の両方に属するような見解)もある。この見解についてより詳しく 述べると,例えば「保護国法主義は,属地的効力主義【本稿の「実質法上 の属地主義」と同義:筆者注】の当然の帰結といえる」とし,「保護国法 主義は,その条約上の根拠を,「……ベルヌ条約」5条2項に求めること ができる」とするものである。 (38) 論 説 (35) 「権利の効力の範囲」すなわち,権利の効力が一国の領域内に制限さ れることを,一般的に実質法上の属地主義と解されている(申・前掲注 (4)80頁,茶園・前掲注(10)79頁)。 (36) 松岡・前掲注(22)38−39頁。 (37) 法の適用範囲から著作権侵害に関する準拠法規定を導き出すことにつ いて,第3章 3−3 及び第6章 6−1−1 も参照されたい。
(38) 茶園・前掲注(10)79−80頁。Ricketson and Ginsburg, supra note 19, p. 319 fn. 289 (5条2項は形式上,抵触法規定ではないが,実際,5条2項 は一般的に属地主義の原則の適用を導いている……)。また,別の見解で は,「……ベルヌ条約においては,条約上の内国民待遇の規定と権利の属 地的独立性を規定した5条2項1文により実質法上の属地主義がもたらさ
しかし,このようにベルヌ条約5条2項に属地主義の原則の根拠を求め ることも,また適切ではないと思われる。なぜなら,属地主義の原則が意 味する保護国法とベルヌ条約5条2項の保護国法は性質が異なると思われ るからである。 つまり,既述の通り,属地主義の原則は保護国法を準拠法とするとして も,それは法の適用範囲(実質法上の属地主義)から導き出された原則だ と思われる。他方,ベルヌ条約5条2項に定められていると解する保護国 法は,同規定が定めた単位法律関係の連結点(最密接関係地)を意味する のではないかと思われる。なぜなら,若干の例外はあるものの,基本的に は,単位法律関係ごとに連結点を定めるサヴィニー型国際私法が各国で採 用されている現状において, (39) ベルヌ条約5条2項を準拠法規定と解する際, それをサヴィニー型国際私法と解することは自然なことであり,なおかつ 適切だと思われるからである (40) (また次節で考察するように,単位法律関係 イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 隔 地 的 な 著 作 権 侵 害 の 準 拠 法 に 関 す る 一 考 察 れるとみるのが妥当であると思われる。かかる規定に基づく実質法上の属 地主義から保護国法への連結という抵触法上の属地主義が導かれると考え られる。この点をベルヌ条約の場合,保護国法への連結という抵触法上の 属地主義を具体的に定めている5条2項によりもっと明確にしている。同 条約5条2項2文の規定は,実質法上の属地主義の根拠であるよりは,抵 触法上の属地主義の実質的根拠であるように思われる」とするものがある (金・前掲注(12)68頁)。なお,この見解については,実質法上の属地主 義に関してもベルヌ条約に根拠を求めている点でこれまで述べてきた属地 主義の原則とは異なるが,しかし実質法上の属地主義の帰結として保護国 法を導き,さらにその根拠をベルヌ条約5条2項に求めている点で共通す る。 (39) 道垣内・前掲注(29)11頁。なお,また英米においても,法典化はなさ れなかったが,発想の仕方としてサヴィニー型国際私法を採用されている と続けて述べられている(同掲)。 (40) なお,現に同規定の規定振りから,サヴィニー型国際私法と解するの が適切だとする見解がある(道垣内・前掲注(29)14頁)。
及び準拠法が同規定に定められていると解することができると思われる)。 周知の通り,サヴィニー型の国際私法とは,単位法律関係ごとに連結点 (最密接関係地)を定める国際私法上の概念である。つまり,ベルヌ条約 5条2項に定められているとする保護国法は,同条同項が適用の対象とす る法律関係の最密接関係地法であるとすると,法の適用範囲から準拠法を 導き出す属地主義の原則はベルヌ条約5条2項と,性質上,相容れないと いうことになるのではないだろうか。したがって,属地主義の原則とベル ヌ条約5条2項を準拠法(保護国法)規定と解する説(本文の③)は, 結果的に「保護国法」を準拠法として適用する点で共通するとしても,両 見解は同条同項において,共存し得ないと思われる。 以上より,保護国法の根拠を属地主義の原則に求めること,及びその属 地主義の原則の根拠をベルヌ条約5条2項に求めることは難しいのではな いかと思われる。よって,本節及び前節の考察から,保護国法の根拠はベ ルヌ条約5条2項を準拠法(保護国法)規定と解する立場(本文の③の 保護国法説)を支持したい。 2−3 ベルヌ条約5条2項の解釈Ⅲ:単位法律関係 ではベルヌ条約5条2項はどのような内容の準拠法規定か。同規定がサ ヴィニー型の準拠法規定であるとすると,そこには単位法律関係及び準拠 法が規定されているはずである。そこで本節では単位法律関係を,次節で は準拠法について考察する。 まず,ベルヌ条約5条2項の「保護の範囲及び著作者の権利を保全する ため著作者に保障される救済の方法」を,同規定が定める単位法律関係と 読むことができると言われている。 (41) 例えば,その単位法律関係とされる 論 説 (41) 道垣内・前掲注(29)14頁。
「保護の範囲」とは「著作権侵害において問題となる保護の範囲等」, 「著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法」とは「損 害賠償,差止め,その他どのような救済がどの程度与えられるべきかとい う実体問題を意味する」とする見解がある。 (42) また,「保護の範囲」と「救 済の方法」について,「著作者の権利の成否,存続及び内容に関する問題 から,侵害に対する法的救済,制裁及び司法手続に関する問題」と解する 見解もある。 (43) さらに,「保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作 者に保障される救済の方法」は,同規定により保護国法が適用される例示 的列挙であると示唆する見解もある。 (44) このように「保護の範囲及び著作者 の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法」という文言につい ては定まった解釈があるわけではない。 私見としては,「保護の範囲」とは著作権の内容を意味するものと思わ れることから,「著作権の存立,範囲,存続期間等の問題」を対象として いると解するのが適切だと思われる。また,「著作者の権利を保全するた め著作者に保障される救済の方法」については,「著作権侵害に対する救 済の方法」を意味するものと思われる。但し,本稿第4章で詳しく述べる が,著作権侵害の成立には,「著作権の存立,範囲,存続期間等の問題」 が密接に関係することから,「保護の範囲及び著作者の権利を保全するた め著作者に保障される救済の方法」という文言で,「著作権侵害」を適用 の対象としていると解するのが適切ではないかと思われる。 (45) したがって,ベルヌ条約5条2項の「保護の範囲及び著作者の権利を保 イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 隔 地 的 な 著 作 権 侵 害 の 準 拠 法 に 関 す る 一 考 察 (42) 道垣内・前掲注(15)56−57頁。 (43) 駒田・前掲注(12)62頁。但し,駒田准教授は,法廷地国際私法説を提 唱している。 (44) 松岡・前掲注(4)139頁。 (45) 著作権の存続期間については,ベルヌ条約7条8項とも関係する。そ のためこの問題とこの規定との関係については,別稿をもって論じたい。
全するため著作者に保障される救済の方法」が適用の対象としている法律 関係とは,「著作権の存立,範囲,存続期間等の著作権の内容に関する問 題」及び「著作権侵害」と解するのが妥当だと思われる。 (46) なお,このよう な解釈は,上記の見解に反するものではないであろう。 2−4 保護国法の解釈 次に,ベルヌ条約5条2項が定める準拠法について述べる。多数説とさ れる保護国法説の立場に立つと, (47) 既述の通り,ベルヌ条約5条2項の定め る準拠法は “the laws of the country where protection is claimed”(「保護 が要求される国の法」)であり,これは “the laws of the country for which protection is claimed”(「その領域において保護が要求される国の法」(lex protectionis))と読み替えることになる。そして,同規定をサヴィニー型 国際私法と解するならば,この保護国法が前節で述べた単位法律関係の最 密接関係地法ということになろう。 保護国法の解釈として,例えば保護国とは,著作物が使用又は利用さ 論 説 (46) 我が国の判例では,著作権侵害に基づく損害賠償請求については,不 法行為と法性決定している(損害賠償請求をベルヌ条約5条2項の「著作 者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法」に含めるか否か という問題については,拙稿「著作権及び著作者人格権の侵害に関する準 拠法:ベルヌ条約5条項,6条の 2,項を中心に(東京地裁平成16 年5月31日判決)」法と政治第58巻第3・4号(2008年1月)106113頁)。 すなわち,これに基づくと,この問題に適用されるのはベルヌ条約5条2 項ではなく,我が国の法の適用に関する通則法の不法行為規定ということ になる。この規定が著作権侵害(インターネットを通じた著作権侵害のよ うな隔地的な著作権侵害を含む)に適用することは可能であるか,またそ の適用の結果は妥当であるかということについては,第6章の小括で述べ る。 (47) 前掲注(4)。
れる国を指すというもの,
(48)
著作物が法域内に単に存在している国を指す というもの,
(49)
そして lex loci delicti(日本の文献では,侵害行為地法)を 指すもの
(50)
がある。このような解釈はすでに周知のものであると思われるが, 論者によって上記の解釈を単独で用いたり,あるいは併用したりするなど 異なる場合がある。ただその中でも,及びを併用する「使用又は利 用行為地法,侵害行為地法(lex loci delicti)」という解釈が一般的だとさ れている。 (51) 私も,この解釈が最も適切だと思われる。その理由は,以下の イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 隔 地 的 な 著 作 権 侵 害 の 準 拠 法 に 関 す る 一 考 察
(48) Elizabeth Adeney, The Moral Rights of Authors and Performers : An Inter-national and Comparative Analysis, 6th ed. (Oxford University Press, 2006), p. 634. (本稿の考察対象ではないが)著作者人格権侵害の場合,著作物に 対する使用又は利用行為がなくても侵害が発生する恐れがあることを, Adeney は指摘している(id. p. 634)。Fawcett, and Paul Torremans, supra note 19, p. 467. van Eechoud, supra note 9, p. 178. 作花文雄『詳解 著作 権法 [第3版] (ぎょうせい,2005年)658頁。
(49) Adeney, supra note 48, p. 634. 東京高裁平成13年5月30日判決,「…… 物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様の理由により,著作権 という物権類似の支配関係の変動については,保護国の法令が準拠法とな るものと解するのが相当である」との判旨より,所在地法と保護国法を同 等に解している点で,この見解に属するのではないかと思われる。 (50) Adeney, supra note 48, p. 635. Lucas, supra note 21, para 79, p. 17.
Richard Fentiman, “Choice of Law and Intellectual Property”, Josef Drexl and Annette Kur ed., IIC Studies in Industrial Property and Copyright Law−Inter national Property and Private International Law−Heading for the Future, Vol. 24, (Hart Publishing 2005), p. 130. 高桑昭=江頭憲二郎編『国際取引法[第 2版]』(青林書院,1993年)317頁(河野愛)。 (51) 高杉直「著作権の譲渡契約及び著作権移転の準拠法」ジュリスト1269 号(2004年6月)287頁。なお,この見解を採る論者として,松岡・前掲 注(4)139頁,申美穂「国際的な知的財産権侵害事件における抵触法理論 について(二)・完」法学論叢154巻3号(2003年12月)97頁。江口=茶園 ・前掲注(10)185頁。また,Ulmer も保護国法を「使用又は利用行為地法, 侵害行為地法」と解する見解を採っている(木棚照一『国際工業所有権法 の研究』 (日本評論社, 1989年7月)184頁)。 ちなみに, 道垣内教授は保
通りである。 すなわち前節で述べた同規定の単位法律関係の解釈に基づくと,ベルヌ 条約5条2項は「著作権侵害」及び「著作権の存立,範囲,存続期間等の 著作権の内容に関する問題」について,最密接関係地である保護国法を適 用することを指示する規定と言い換えうるであろう。つまり,「保護国法」 は上記両問題,すなわち,「著作権侵害」及び「著作権の存立,範囲,存 続期間等の著作権の内容に関する問題」に適する解釈である必要があろう。 とすると,著作物に対する使用又は利用行為が,必ずしも侵害行為に当 たるとは限らないため,はを包含するが,はを包含しない可能性 がある。また,著作権侵害が発生していない時に,著作権の存立,範囲, 及び存続期間等を知るために保護国法を適用する場合,の解釈だけでは, 保護国を導き出せないことになる。したがって,「保護国法」の解釈には, の両方が必要だと思われることから,「使用又は利用行為地法,侵害 行為地法(lex loci delicti)」と解するのが適切だと思われる。
なお,に関しては,以下のような記述がある。すなわち,「権利その ものは有体性を持たず,このような有体性のない権利については所在地は 一般的には決定できないといわざるを得ない。ただ,その権利性が露わに なるのは観念的存在としての権利という「力」を行使すべきときである。 …著作権において一番権利性が明確に現れるのは,侵害行為のあったとこ ろであろう。そして,そういう意味でその地を権利の所在地と擬制するこ とは可能であろう」。 (52) この引用にあるように,権利という「力」を行使す るときに,権利性が露わになるとすれば,侵害行為だけでなく利用行為が 論 説 護国法を「利用行為地法」としているが,著作権侵害がなされた国も含ま れるとしている(道垣内・前掲注(29)14頁)。 (52) 佐藤やよひ「サルバドール・ダリ事件」コピライト514号(2004年2 月)30頁。
発生したときにもそれが明確に現れるのではないだろうか。とすると, はの両方の意味を内在していると考えられるかもしれない。しかし, の「著作物が法域内に単に存在している国」という解釈では,実際,ど の地が保護国に該当するのかを判断することは困難だと思われる。このた め,その地を具体的に示しうる及びのような解釈の方が適切だと思わ れる。 以上,渉外的な著作権侵害に関する準拠法問題の解決方法として前章で は幾つか挙げたが,その解決方法としては本章での考察の通り,ベルヌ条 約5条2項を準拠法(保護国法)と解し,それを統一国際私法として適用 するのが適切だと思われる。そして,同条同項は「著作権の存立,範囲, 存続期間等の著作権の内容に関する問題」及び「著作権侵害」について, 最密接関係地法である「保護国法」を適用するよう指示した規定と解し, その「保護国法」に関しては,様々な解釈が存在するが,それを「使用又 は利用行為地法,侵害行為地法(lex loci delicti)」と解するのが妥当だと 思われる。よって,以上のような解釈を前提に論を進めたい。 第3章 ベルヌ条約の特別の取極としての準拠法提案 前章において,渉外的な著作権侵害に関する準拠法問題の解決方法とし て,ベルヌ条約5条2項を著作権侵害の準拠法(保護国法)規定と解する 立場が妥当であるということについて述べた。そこで次に,「インターネ ットを通じた隔地的な著作権侵害」にベルヌ条約5条2項が準拠法として 定めているとする「保護国法」,すなわち「使用又は利用行為地法,侵害 行為地法(lex loci delicti)」を適用した場合,適切な結果が得られるかど うかということについて検討する。というのも,インターネット通信はイ ンタラクティブ送信であるため,それが有する性質ゆえに,保護国という イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 隔 地 的 な 著 作 権 侵 害 の 準 拠 法 に 関 す る 一 考 察
連結点では適切な準拠法を導き出しえないのではないかという疑問がある からである。 したがって本章では,インターネットによらない隔地的な著作権侵害と の比較を通して,何故,インターネットを通じた隔地的な著作権侵害につ いてはベルヌ条約5条2項が準拠法規定としてうまく機能しないのかを明 確にしたい。 そしてその比較考察を受けて,インターネットを通じた隔地的な著作権 侵害については,ベルヌ条約5条2項とは別に,保護国法を準拠法としな い準拠法規定の必要性を提唱したい。その際,どのような方法で提案する のが適切か,また,そのような提案はベルヌ条約に反さないかという疑問 が生じ得る。これに関して本章では,ベルヌ条約5条2項を準拠法規定と 解することにより達成し得た国際私法上の統一に配慮した方法(提案)を 採ることにより,これらの疑問を解消したい。 3−1 保護国法の限界:インターネットによらない著作権侵害を例に 以下は,インターネットによらない著作権侵害の例である。 【インターネットによらない著作権侵害】 X,Yは共にA国に居住している。YはA国で,Xの著作物(小説) を無断で印刷し本にして(複製行為),それをA国から飛行機でB国 及びC国に輸送しXの許諾を得ることなく頒布した。 この場合,二種類の著作権侵害が発生している。すなわち,複製行為に より生じた著作権侵害(複製権侵害)及び頒布行為により生じた著作権侵 害である。 (53) 前者の侵害については複製行為がA国で全て完了しているため, 侵害行為地はA国となり,A国法が保護国法となろう。他方後者の侵害に 論 説
ついては,A国で頒布行為が開始し,その行為が終了した及びそれに伴う 結果(損害)が発生したのはB国及びC国であることから,これは保護国 と解しうる地が複数国に存在する隔地的な著作権侵害と考えられよう。 (54) し たがってこの後者の侵害に注目し,この場合,問題となっている隔地的な 著作権侵害の保護国法を,如何にして決定すべきかを検討する。 まず第2章で述べた通り,ベルヌ条約5条2項の「保護国法」は侵害の 場合,侵害行為地法(lex loci delicti)を意味すること,
(55) また著作権侵害は 不法行為の一態様であることから,著作権侵害の準拠法を検討する際,不 法行為の概念を参考にすることができるのではないかと思われる。 (56) すなわ イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 隔 地 的 な 著 作 権 侵 害 の 準 拠 法 に 関 す る 一 考 察 (53) この侵害は,我が国の著作権法では113条に該当するであろう。 (54) 例は異なるが,van Eechoud もこのようなタイプの侵害を multi-local
tort あ る い は multiple tort と み な し う る と し て い る (van Eechoud, supranote 9, p. 216)。
(55) 第2章で述べた通り,保護国法(lex protectionis)は lex loci delicti と 同義であると解されている。lex loci delicti は「不法行為地法」と訳される が , こ の よ う に 訳 す 場 合 は , 隔 地 的 不 法 行 為 の 概 念 を 保 護 国 法 ( lex protectionis)に当てはめることができると思われる。すなわち,隔地的不 法行為の場合,不法行為地は行為地法及び結果発生地法の両方を意味する ことから,その両方を保護国法にも当てはめることが出来るのではないか と思われる。 しかし,我が国では保護国法の同義として用いられるのは「侵害行為地 法」である。この侵害行為地法とは,隔地的不法行為で言う所の「行為地 法」のみを指しているのだろうか。確かに「利用行為」を行った地の法と いう意味で保護国法を解することから,その観点から言えば,「侵害行為」 を行った地の法とも解せなくはないであろう。 し か し , 仮 に こ の よ う な 立 場 が あ る と し て も , 私 は 保 護 国 法 ( lex protectionis)を lex loci delicti,すなわち不法行為地法を意味するものと解 し,隔地的不法行為の行為地法及び結果発生地法の両方の概念がここに含 まれるものと解するのが適切ではないかと思われる。
(56) 勿論,著作権侵害特有の性質から,不法行為と完全に一致させること は出来ない場合もあるため,それに関しては留意する必要があろう。
ち,ここでは隔地的不法行為の概念を隔地的な著作権侵害に当てはめて考 えることにする。 隔地的不法行為における不法行為地の決定については,加害者が損害を 発生させる原因となる行動をした場所を不法行為地とする行為地(行動地) 法説と,加害行為の結果や損害が発生した地を不法行為地とする結果(損 害)発生地法説との二つの考え方がある。 (57) つまり,隔地的不法行為におけ る不法行為地法(lex loci delicti)には,行為地法と結果発生地法の両方の 意味が含まれることから,隔地的な著作権侵害におけるlex loci delicti,す なわち保護国法も,行為地法と結果発生地法の両方を意味すると解するこ とが出来よう。 この概念を,上記の頒布行為により生じた著作権侵害の例に当てはめる と,行為地法がA国法,結果発生地法がB国法及びC国法ということにな る。ただ周知の通り,国際私法上,単位法律関係について事件と最も密接 な連結点を定める必要がある。 (58) では,行為地法と結果発生地法のいずれが 準拠法として適切か。 この場合,結果発生地法が準拠法として適切だと思われる。その理由と して,まずYは頌布を行う際,その頌布地の法に従う必要があること,そ して(前記理由と重複するが)Yは結果発生地を予見することができたこ と,さらにB国及びC国でXの権利行使の実現可能性が害され,なおかつ 財産的損害が発生したことが挙げられよう。他方,行為地法を準拠法とす ると,保護レベルの高い国の著作権法の適用を回避するために,著作権利 論 説 (57) 松岡・前掲注(22)169頁。
(58) van Eechoudも頒布行為による multi-local tort に関して,行為地と結 果発生地で選択されねばならないであろうと述べている(van Eechoud, supra note 9, p. 216)。但し,van Eechoud はこれに関する結論は述べてい ない。
用者は意図的に保護レベルの低い国(著作権天国)で利用行為を開始する かもしれない。そのため,このような法律回避を招く恐れのある行為地法 は,準拠法として適切とは言えないように思われる。したがって,隔地的 な著作権侵害における保護国法は行為地法と結果発生地法の両方を意味し うるが,このような理由から結果発生地法を準拠法とするのが適切だと思 われる。 (59) 以上より,インターネットによらない隔地的な著作権侵害については, 保護国と解し得る地が複数国に存在するとしても,既存の隔地的不法行為 の概念を保護国法に取り込むことによって,このように,ベルヌ条約5条 2項の準拠法である保護国法を機能させることが出来るのではないかと思 われる。 3−2 保護国法の限界:インターネットを通じた著作権侵害を例に では,同じ隔地的な著作権侵害でもインターネットによるものであれば どうであろうか。以下は,その例である。 【インターネットを通じた著作権侵害】 A国に居住するYが,B国に居住するXの著作物を,A国におい イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 隔 地 的 な 著 作 権 侵 害 の 準 拠 法 に 関 す る 一 考 察 (59) 例えば上記のような例の場合,Yの一つの頒布行為によってB国及び C国で著作物が頒布されたというよりはむしろ,別個の頒布行為で侵害が それぞれ発生したと見るのが適切ではないかと思われる。確かに,B国及 びC国で頒布されるのは,複製権を侵害した同じ著作物ではあるが,その 頒布に際して,それを一つの頒布行為で行ったと擬制するのは難しいよう に思われる。したがって,一つの頒布行為でB国及びC国で生じたと解す るのではなく,別個の頒布行為から著作権侵害が発生したとし,結果発生 地法であるB国法及びC国法をそれぞれの国で発生した侵害に適用するの が適切だと思われる。なお,後述注(62)も参照されたい。
て無断でデジタル化し,C国のサーバーを利用するウェブサイトにア ップロードした。そしてサーバーは Z1(D国居住)と Z2(E国居住) によるウェブサイトへのアクセスを受けて,を自動送信し,それ をZ1,Z2 が受信した。 これはYが違法に複製した著作物をアップロードしたことにより,複数 国でXの著作権が侵害された,隔地的な著作権侵害の例である。 (60) ベルヌ条 約5条2項を著作権侵害の準拠法規定と解する立場に立つと,このような 隔地的な著作権侵害も一種の著作権侵害であることから,同規定の保護国 法が準拠法として適用されることになろう。よって隔地的な著作権侵害の 場合,前節で述べた通り,保護国法は行為地と結果発生地の両方を意味す ると解しうると思われることから,これらを上記の例にも当てはめて,い ずれが準拠法として適切かを考察する。 行為地とは,既述の通り,加害者が損害を発生させる原因となる行動を した場所であるから,著作物の送信行為を行った地(送信あるいは発信地 国) (61) がそれに当たることとなろう。上記の例の場合,侵害者Yのアップロ ード行為がそれに当たると思われる。つまり行為地である送信地国は,A 論 説 (60) これは,我が国の著作権法では公衆送信権侵害ということになろう (著作権法23条)。WCT では8条にこれが規定されている(WCT の締約 国は64カ国:http://www.wipo.int/treaties)。公衆送信が自動公衆送信の場 合,すなわちインターネットはこれに該当するが,この場合現実に送信す る時点より前の,著作物を利用可能な状態にする行為(つまり,ネットワ ーク上へのアップロード行為)にも権利が及ぶ(斉藤博『著作権法[第3 版]』(有斐閣,2007年)173頁)。いずれにせよ,どの支分権が侵害に該当 するかは,準拠法国の著作権法が決定する問題である。 (61) インターネットや衛星を通じた侵害について論じられる際,行為地は 送信(あるいは発信)地国,結果発生地は受信地国という言葉が用いられ ている。
国ということになろう。なお,より広く送信行為を捉えるとすると,サー バーからの自動送信行為もそれに当たるかもしれない。つまり,サーバー の所在地が行為地ないし送信地国ということも考えられよう。よって,C 国も送信地国と言えるかもしれない。 他方,結果発生地とは,著作物を受信した地(受信地国)に当たるであ ろう。なぜなら著作権とは,著作物の財産的利益を保護するために著作者 が有する権利であるため,著作物が送信されることにより財産的利益が侵 害されるのは,著作物の受信地に当たると考えられるからである。よって, 結果発生地である受信地国はD国とE国の両方ということになろう。この ように,インターネットを通じた隔地的な著作権侵害とは,保護国と解し うる地が複数存在することを意味するものと思われる。 (62) 以上の通り,インターネットを通じた隔地的な著作権侵害の場合,保護 国法は,行為地法である送信地国法,結果発生地法である受信地国法の両 方を指し得ることになる。しかし前節でも述べたように,国際私法上,単 位法律関係について事件と最も密接な連結点を定める必要がある。とする と,この両者のいずれかを選択する必要があるということになろう。 送信地国法を準拠法とすると,著作権利用者(侵害者)は,保護レベル の高い国の法の適用を回避するために,意図的に保護レベルの低い国(著 イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 隔 地 的 な 著 作 権 侵 害 の 準 拠 法 に 関 す る 一 考 察 (62) 前掲注(59)で述べたインターネットによらない著作権侵害の場合,一 つの頒布行為ではなく,別個の頒布行為で侵害が生じたと解するのが適切 ではないかと述べた。だが,インターネットによる侵害の場合,これはま さにたった一つのアップロード行為により複数地で侵害が生ずる(可能性 がある)ことから,一つの行為により複数地で発生した著作権侵害を一括 して,つまり一つの著作権侵害として対応をするのが適切ではないかと思 われる。勿論,権利所有者(原告)が訴える際には,全ての受信地国の著 作権についてではなく,その中から選択することもあると思われる。つま り,別個の著作権侵害としても訴えることは可能であるが,観念上,本来 は一つの著作権侵害と捉えるのが適切だと思われる。
作権天国)へ移転ないし(サーバーの所在地を送信地国とする場合) (63) 選択 することが考えられることから,一般的にそれを準拠法とすることは否定 される。 (64) 他方,受信地国法を準拠法とすることについては,現在この考え 方が有力になってきていると見る見解もないわけではない。 (65) また,受信地 国法の場合,実質的には(財産的)損害を受けた著作権の保護国の法を適 用することになるため,適切な適用の結果及び救済が得られるとも言える かもしれない。しかし結果発生地(受信地国)を連結点とすると,インタ ーネットという通信手段がインタラクティブ送信である以上,アクセス・ ユーザーの意思で受信地が決定されるため,著作権侵害者は受信地国を予 測できない場合が考えられる。そのような場合,侵害者はその受信地国の 法を予め遵守したくても,その機会が与えられないことになろう。そのた め,このような事情があるにもかかわらず,受信地として予測できない国 の法を準拠法として適用することは,法的安定性上,問題ではないだろう か。また実際問題,受信地国がかなりの数に上った場合,それら全てを適 用することは非常に煩雑であり,準拠法として実用性を欠くとも言うこと ができるかもしれない。 (66) とすると,送信地国法,受信地国法のいずれをと 論 説 (63) van Eechoud もサーバーの所在地は偶発的なこともあるとして,それ は最密接関係地を導き得ないと述べている(van Eechoud, supra note 9, p. 217)。 (64) 駒田・前掲注(4)298頁。 (65) 田村善之『著作権法概説[第2版]』(有斐閣,2001年11月)568頁。 Lucas は「最も異論のない解決方法とは,損害全体を救済するため には送信国法を適用すること,そして各々の受信国で被った損害を救済す るためには,送信者は各々の受信国について侵害の発生を合理的に予見す ることができたか(あるいは予見すべきであったか)ということを条件に, 様々な受信国法を配分的に適用することである」とする(Lucas, supra note 21, para 101, p.22)。 (66) 適用の煩雑性を理由に,準拠法が左右されるのは適切ではないとの指