• 検索結果がありません。

東北大学遺伝生態研究センター通信 No. 30

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "東北大学遺伝生態研究センター通信 No. 30"

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

東北大学遺伝生態研究センター通信 No. 30

著者

東北大学遺伝生態研究センター

発行年

1995-11

(2)

遺伝生態研究センター通信 No.30

泉九九苧

A@遺碩砕畑

IG〔

1995. ll.日0.30 岳■

遺伝生態について(適応生態の立場から)

東北大学・遺伝生態研究センター 菅     洋 1.なぜ植物なのか 植物と動物の最も大きな違いは、後者は文字ど おり動く物であるという点であろう。植物は光合 成と根を通しての水、養分吸収により無機物から 有機物を合成する能力を備えたため、動物のよう に動き回って生命維持のエネルギー源を探す必要 がないのである。一方、植物はこの固着性の故に 環境の変化を直接受けることになり生存のために は、環境の変化をシグナルとして体制、形態、生 理をドラステックに変えて環境変化に対応するた めの表現型可塑性を具備する必要があった。また 植物は、この環境変化のシグナルを積極的にライ 遺伝生態について フ・サイクルの制御に使用するような進化を遂げ てきた。 我々はこの環境変化のシグナルを受け止め、植 物に可塑的変化を引き起こすまでの制御機構にお ける植物ホルモンの役割を探究してきた。その制 御機構を遺伝的支配にまでさかのぼって探究する ことは、優れた遺伝生態の研究課題であり、いわ ば生理学、生態学、遺伝学の基盤の上に成立する 典型的な学際領域の科学である遺伝生態の特徴を 貝現するのである。 2.なぜ地球外環境なのか 我々はまた、最近地球型生物がその進化過程に 吹 東北大学・遺伝生態研究センター 菅   洋 1 "光誘導型"、 "非光誘導型"稲ごま菓枯れ病菌Bipolaris oryzaeの自然界における分布と マイコクローム系による胞子形成光調節反応の変異 一 一一 東北大学・遺伝生態研究センター 熊谷  忠 3 環境ストレス耐性植物・微生物の作出と遺伝子発現 一一東北大学・遺伝生態研究センター 亀谷 寿昭 6 環境要因と形質発現 東北大学・遺伝生態研究センター 大瀧  保  7 短日植物アサガオの長日開花とフェニールプロパノイド代謝一一一  一一一京都大学・農学部 篠崎 貞輝 11

(3)

遺伝生態研究センター通信 No.30 おいてなじみ深かった1 Gの重力の束縛から離れ た地球外環境における生育の問題を、遺伝生態の 全く新しい研究分野として取り上げている。常に 1 Gの重力が存在する地球環境下でこの問題を研 究するにはどうすればよいのだろうか。 その回答は、遺伝子発現が異常な突然変異体の 利用である。 地球外環境の問題を設定することは、視点を変 えればこのかけがえのない地球環境を鏡に映した 別の視点から眺めてみるという、新しい試みでも あるのである。一度「不思議の国のアリス」になっ てみようという発想でもある。 生命は海で発生したと言われ、海で進化の過程 を歩みだした生物が陸上に活動範囲を拡大するに は、水中の浮力が消滅するので、空中で重力に抗 して生物構造を維持するために動物では骨格構造 を作り、植物は固い細胞壁を作りまた根を土中に 張ってその地上構造を維持し、一方それは水と養 分を吸収する機能をも具備してきた。このような 進化を遂げてきた植物が、微少重力環境下でどの ような行動をとるかば、極めて興味深い研究課題 である。 このように、微少重力環境の宇宙基地を利用し て植物の重力反応を研究し、あるいはそのような 地球外環境における植物生産の基礎を構築するの が第一義的研究命題なのである。 3.適応生態の立場からの遺伝生態 我々は、環境変化に対応する植物の多くの場面 を取り上げてきた。植物の生活が水中から陸上に と進化してくる過程で、克服しなければならなかっ た最も大きな問題には、乾燥への適応と重力に抗 しての体制的適応があった。我々は現在、この二 つの問題の遺伝的基礎の探究に着手している。植 物の根が栄養や水分を求めて生長し屈曲する現象 すなわち屈水性の存在を確立し、現在その遺伝子 的基礎の解明に着手している。また、重力反応に ついても突然変異系統を有効に利用することによ り、遺伝子的解明に着手している。これらは、適 80㊦㊤⑳㊤◎㊤¢㊤OQ 応生態を、遺伝子的基礎に立って解明しようとす る遺伝生態学の一分野の確立に寄与するであろう。 一方、すでに陸上の重力環境に適応した植物が、 逆に水中への適応を余儀なくさせられる場合があ り、その最も良い例は東南アジアの大河流域や河 口デルタ地域に適応した浮稲の場合であろう。そ の著しい例では、雨期の水深の増加が一日当たり 最大25cmにも達するので、そこに栽培される稲は その水深増加に追いっいて生長しないと生存でき ない。水没という物理的ストレスに遭遇した浮稲 の生長のメカニズムについて、我々はこれを遺伝 生態の一つのモデル系として捕らえ、その機作を 追及してきた。その結果、水没に反応しての浮稲 の伸長は、エチレンに対する反応とジベレリンの プール型から活性型への転換を含めたジベレリン の生長部位での増加などを通して説明できる段階 に達し、更にその遺伝的支配にまで解析を進めた。 これは、ホルモン生理学と生態学との興味ある結 合と言うことが可能で、優れた遺伝生態の課題と なったのである。 もう一つ取り上げている問題は、深撒きされた 植物がその生長点組織を地上に押し上げ、生態系 の中で生存を確立するために備えている適応戦略 である。系統発生的に異なった植物がこの問題に どのように対応しているかを、種々のイネ科植物 を用いて研究を進めている。ここでもこの戦略に 関わるエチレンなどの植物ホルモンの役割との関 連を追及することにより、個別の生理学と遺伝学、 生態学との接点において生ずる遺伝生態tf)優れた モデル系を確立できるのである。この研究課題か らは、環境ストレス、特に乾燥ストレス耐性作物 育成の基礎としての視点を構築することも可能で、 実際その視点をも導入して研究を展開中である。 このように、我々はいくつかのモデル系や課題 を設定して、適応生態の立場から遺伝生態の課題 にどのように接近できるかを考え、そのいくつか の分野で成果を上げてきている。 ■巴

(4)

遺伝生態研究センター通信 No.30 ◎㊤㊦OQQ◎㊤中郷

''光誘導型〝 、 〟非光誘導型"稲ごま葉枯れ病菌B/'polaris oryzaeの

自然界における分布とマイコクローム系による胞子形成光調節反応の変異

東北大学・遺伝生態研究センター 熊 谷   忠 ′ー\ ′一、 当研究センターが掲げている「遺伝生態の目指す ものは何か」については、つい最近発行された通信 のNo.29号(服部氏)、 IGEシリーズ「遺伝生態の 諸問題」に異なった立場からの意見と研究が報告さ れているので参照されたい。当然、筆者も奮闘して いるわけである。ここでは、筆者達のグループが進 めているプロジェクトのうち、院生の木原君(特別 研究員(DCl))と石川さん(MC2)が進めて いる「イネごま葉枯れ病菌の胞子形成光調節反応に 関する遺伝生態研究」のプロットを紹介する。これ までのマイコクローム系については、特定の単離菌 を対象とした光調節反応の生理生化学的研究が行わ れてきた。自然界にはどの位マイコクローム系が分 布しているのか、 "光誘導型"と"非光誘導型"の どちらが自然界で優先型なのか、菌類はどのように して生活スタイルの切り換えに光を利用してきたの か、その起源は何なのかといった課題は殆ど手が付 けられて来なかった。 マイコクローム系による胞子形成光調節反応 葉緑素を有さない菌類の生活にとっても光は重 要な役割を果たす。胞子形成における明反応と暗 反応の必要性から、菌類は次の3つのグループに 分けられる。 グループ1 :連続暗黒下では分生子柄も胞子も 形成されず、栄養菌糸のみの生長を行う。菌糸が 光を受けると、胞子形成の前段階である分生子柄 の形成が誘起され(光誘導相)、引き続いて暗黒 に置かれると胞子が形成される。この暗期反応の 進行は光によって阻害され、胞子形成は抑制され る(光阻害相)。このように、このグループの菌 では、連続明あるいは暗条件では胞子は形成され ず、明暗のサイクルの下でのみ胞子は形成される。 グループ2 :分生子柄の形成の誘導にはとくに 光を必要としないが、その後の胞子形成に至る過 程は光阻害を受ける。従って、連続明条件では胞 子が形成されないが、連続暗黒あるいは明暗の下 で胞子が形成される。 グループ3 :分生子柄の形成の誘導には光を必 要とするが、その後の胞子形成過程は光阻害を受 けない。つまり、連続暗条件では胞子が形成され ず、連続明条件あるいは明暗の下で胞子は形成さ れる。 このうち、分生子柄の形成の誘導に光を必要と するグループ1と3を"光誘導型"、光を必要と しないグループ2を"非光誘導型"とよぶ。筆者 達は、グループ1に属するAlternaria chichorii,

A. solani, A tomato, Bipolaris oryzae,

Botrytis cinereaなどの不完全菌の胞子形成は、 青色光と近紫外光による括抗反応(Myco-chrome系)によって調節されることを見出し、 これまで、種々の生理学生化学的研究を行ってき た1・ 2)。これらの不完全菌は、連続暗黒下では栄 養菌糸のみの生長を行い、胞子を形成しない。と ころが、栄養菌糸が秒∼分の長さの近紫外光を受 けると、胞子形成の前段階である分生子柄の形成 が誘起され、その後暗黒に置かれると分生子柄が 形成される。さらに、引き続いて暗黒に置かれる と分生胞子が形成される。ところが、分生子柄形 成誘導のための近紫外光の効果は青色光照射によっ て打ち消され、胞子は形成されなくなる。また、 分生子柄形成誘導後、引き続く暗期下で一定の成 熟段階に達した分生子柄は青色光を受けると先端 が尖った細長い気中菌糸に脱分化し、胞子は形成 されなくなる。この青色光による胞子形成阻害効 果は同時に照射される近紫外光によって打ち消さ

(5)

遺伝生態研究センター通信 Na30 れ、再び、胞子が形成されるようになる。このよ うに、これら不完全菌類の胞子形成は、栄養菌糸 から分生子柄が形成誘導される発育段階と、一定 の成熟段階に達した分生子柄から分生胞子の形成 が誘導される発育段階の2つにおいて、相反する 方向に働くUV-B光とBlue/UV-A光による光反 応(マイコクローム系による光調節反応)によっ て調節される(図)0 ``光誘導型〝 、 "非光誘導型〝 Bl'po/aris oryzaeの 自然界における分布 東北地方の各地、宮崎市、松江市近郊の水田で 栽培されているイネの葉のごま葉枯れ病斑を採集 し、多数のB. oryzaeと思われる菌を単離し、種々 の明暗条件の下で胞子を形成させ、単胞子分離を 行い、数回継代培養を繰り返した。こうして得ら れた単離菌のコロニーの菌叢、菌糸や胞子の形状、 イネの生薬に対する病原性および特異的なごま葉 枯れ病斑の形状に基づいて同定を行い、約350菌 株のB. oryzaeを得た。さらに、これら菌株の18 Photoinduced sporulators Non-photoinduced Vegetative hyphae sporulators(() vegetative 'hyphae Non-photoinduced sporuJators(JJ) Conjdia ◎㊤◎缶⑳88㊤◎脚 S rDNA、および18Sと28rDNAの問に位置 する5.8S rDNAと5.8S rDNAの両側に局在 するイントロン領域(i TS-5.8S-I TS)の RF L P、およびPCRで増幅したATCC (American type culture collection) 38853の

18S r DNAをプローブとしたSouthern

hybri-dizationによるRF L P分析を行い,種々の Fusarium, Alternaria, Cochliobolusなどとの

遠縁関係の系統樹を作製した結果、これら単離菌 はATCC株と全く同じ位置に局在し、この点で もBipolaris oryzaeであることが確認された3)0 これら単離菌を種々の光条件下で生育させ、胞 子形成の光調節反応を調べた結果、 95%以上が光 誘導型に属すること、光誘導型でも菌によって光 \J 感受性が異なることが判明した。さらに、非光誘 導型のうち、従来知られていた栄養菌糸からの分 生子柄形成の誘導は光調節を受けないが、分生糸 柄からの胞子形成はマイコクローム系により光調 節される非光誘導型Ⅰとは異なった、明暗条件に 関係なく胞子を作る、すなわち、 2つの発育段階 without BLUE\ Conidiophore 塵』蜘 V一昏 Conidia 夢句 Aerial hyphae

Fungi be一onging to thJ's type produce conidia regardless of light or dark.

マイコクE3 -ム系による胞子形成の光調節反応からみた

Bipolaris oryzaeの生態型( l G EシリーズよLJ) UVIB :紫外線UVIB Blue :青色光  Dark :暗反応

(6)

遺伝生態研究センター通信 No.30 ㊦㊤㊦㊤◎9⑳㊤㊦㊤◎9 5iii SiiiiZ で全く光調節が見られない非光誘導型Ⅱ菌の存在 が判明した。 光誘導型と非光誘導型の分化 Bipolari.S (旧Helminthosporium)一は不完全 菌の仲間であり通常有性世代を有さない。しかし、 交雑により子嚢殻を形成した菌株の存在も報告さ れており、これらは子嚢菌の仲間として登録され、 Cochliobolus miyabeanusあるいはCphiobolus gramineousと名付けられている。これらのmati-ng型のうち-型が欠落▲し易く、継代培養(おお よそ3代)を続けるうちに子嚢形成能は脱落する。 これらの菌をカルチャーコレクションから手に入 れることはできるが、子嚢形成能は失っている。 我々も、試行錯誤の結果、光誘導型F 6株と非 光誘導型ⅠのD6株あるいはⅡのD9株を交雑す ることによって子嚢殻を形成させることに成功し た。得られた各子嚢胞子を単離し、培養したとこ ろ、コ'。ニーは親株と同様、あるいは、両親株の 混ざった形状を示した。また、約50の10merのプ ライマーを用いたPCR-RAPD分析を行';た 結果、親株が5つのプライマーで異なったパター ンを示すこと、後代菌株は親株と同様か、もしく は両親株の中間を示すことが判った。このように、 明らかに遺伝子レベルで交雑が行われていること が判る。有性世代を作らせることができることは 大変魅力的であり、今後の研究に利用することを 考えているが、多核で交雑能力を失い易いという 問題もある。 F6とD6あるいはD9を交雑した結果、いず れの場合も光誘導型と非光誘導型はおおよそ1 : 1の割合で分離することが判った。また、 F6Ⅹ D 6からは両親株である光誘導型と非光誘導型Ⅰ が作られ、光誘導型Ⅱは作られなかったが、 F6 ⅩD 9からは光誘導型と非光誘導型Ⅱの他に非光 誘導型Ⅰも作られることが判った。この結果は、 胞子形成の誘導が光によって調節される因子と光 に依存しない因子(これが優性)であると仮定す ることによって説明される(詳細は省略)。一方、 2つの組み合せで作られた光誘導型に属する後代 菌株の近紫外光による胞子形成の誘導効果の程度 を調べた結果、光誘導型の親F 6に比べ光依存胞 子形成能が著しく増加したものと減少した株が存 在することも判った。光誘導型に非光誘導型の胞 子形成誘導因子が導入されたり、その逆が起こる と、胞子形成の光誘導効果が影響されることで理 論的には説明されるが、現在、検討中である。 約3年にわたって日本の各地から分離した約 300以上の菌株のマイコクローム系による胞子形 成光調節反応を調べてきたが、 95%以上の菌が "光誘導型"に属することが判った。これまで、 もっぱら、室内実験しか行ってこなかった筆者に とってマイコクローム系が自然界でこれほど広範 に存在することを知ることは驚くべきことであっ た。云うまでもなく、自然界ではBipolaris菌株 間でいろいろな手段で遺伝情報の交換をやり合っ ているに違いない。ここでは、たまたま、異なっ た分化型に属する菌の交雑によって胞子形成の光 誘導反応が変異し、光誘導型と非光誘導型が約1 : 1に分離することを知った。非光誘導型菌がもっ と多く見出されても良いと思われる。自然界にお いてどのように非光誘導型菌が欠落していくのか 大変興味が持たれることである。この課題以外に、 現在、イネをはじめ植物の生活、生態に環境紫外 線や高濃度二酸化炭素はどのような影響を及ぼす のかと云った研究も展開しているが、フィールド ワークの重要性を遅ればせながら実感している昨 今である。 参考文献 1 ) T. Kumagai(1978)Photochem. Photobio1., 27: 371 2 ) T. Kumagai(1988)Photochem. Photobio1., 47: 889

3 ) J. Kihara and T. Kumagai(1994)Physiol. Plant.,

(7)

遺伝生態研究センター通信 No.30 脚eie脚eX)

環境ストレス耐性植物・微生物の作出と遺伝子発現

-遺伝子生態部門一研究の成果と今後の展望など-東北大学・遺伝生態研究センター 亀 谷 寿 昭 本研究部門では「バイオテクノロジーにより遺伝 子を改変した生物(植物、微生物)がどのような遺 伝子発現をするのか、自然条件下でどのような行動 をするのか」を研究課題とした。本研究課題を追究 するにあたり、植物を対象とする研究分野では、 1) 環境ストレス耐性植物の作出法の検討と開発、 2) 作出した植物の遺伝子発現の研究、に取り組むこと を基本方針とした。また、微生物を対象とする研究 分野では、 3)遺伝子改変微生物の生態とその利用 による病害防除、を具体的課題とした。 1)環境ストレス耐性植物の作出について:突然 変異の誘発、細胞融合、外来遺伝子の導入法を検討 した。この中で、興味ある成果の一つは、受精直後 の花を突然変異誘発剤で処理することにより、高頻 度でクロロフィル突然変異が出現することが判明し たことである。この方法で得られた種子から、イネ、 トウモロコシの5一メチルトリプトファン耐性株を 選抜、育成した。これまでのアミノ酸アナログ耐性 に関する研究は、発酵工学の分野において、アミノ 酸生産のための微生物育種の一環として行われてき た。植物において最も多く研究されたのは、細胞培 養による耐性株の選抜である。その中でも、トリプ リファンのアナログである5-メチルトリプトファ ン(5MT)耐性株の研究が多い。しかしながら、 これらの耐性細胞株から再生個体を得ることが困難 であること、また、耐性の突然変異個体が育成され なかったこともあり、個体レベルの特性の研究はな かった。本研究で育成された5MT耐性のイネ、ト ウモロコシは対応するトリプトファンを過剰に種子 内に蓄し、耐性形質は優性の単一核遺伝子に支配さ れていることが明らかとなった。これらの素材は、 今後、耐性機構の解明と穀類の品質改良に役立っこ とが期待される。また、本突然変異誘発法は、細胞 培養法、形質転換法と併用することにより、他のス トレス耐性植物の作出に有効となろう。 2)体細胞雑種及びトランスジェニック植物の遺

伝子発現について:雑種選抜法を開発し、細胞融合

によって種々の体細胞雑種を育成した。特に、単子 葉植物(イネ:上記の5MT耐性株)と双子葉植物 (ニンジン:当研究部門で、トウモロコシのT型細 胞質雄性不稔のミトコンドリアDNAの特異断片と 相同な断片が確認され、塩基配列がシークエンスさ れたもの)における初めての成功は、これまでの細 胞融合による体細胞雑種植物の育成例では超遠縁問 の組み合わせであり、厳しい雑種選抜条件を設定す ることにより、遠縁間雑種の作出が可能であること を示している。また、正常植物個体の属問細胞融合 (キャベツとダイコン)から細胞質雄性不稔のキャ ベツ(葉緑体はダイコン)が育成された。この個体 の雄性不稔性は、自然条件下及び後代において安定 であり、また両親のミトコンドリアDNAの組換え が起こっていることがわかった。さらに、細胞融合 におけるトランスジェニック植物(タバコ)のカナ マイシン耐性遺伝子(NPTⅡ)の発現について検 討した。カナマイシン耐性(核支配)、アルビノ (核支配)、ストレプトマイシン耐性(葉緑体支配) の3つのマーカーをもっタバコとニンジン(細胞質 雄性不稔株)の細胞融合を行った。体細胞雑種はカ ナマイシン耐性とクロロフィル形成能によって選抜 したところ、形態的にニンジンに酷似した植物体が 得られた。これらの種々の特性を調査したところ、 染色体数は両親のものの和(66)より少ない23-32 であり、染色体の脱落現象が起こっていることが示 されたが、カナマイシンに対して耐性であった。ス トレプトマイシン耐性はセグレゲーションを起こし 感受性のものもあり、タバコ葉緑体が排除されたこ

(8)

遺伝生態研究センター通信 No.30 09◎◎⑳㊤脚⑳㊤ ′ 、 /`一、 とが示された。核DNAを分析したところ、全ての 植物体にNPTⅡ遺伝子が存在していることがわかっ た。以上の結果から、得られた植物はタバコとニン ジンの科問体細胞雑種であり、トランスジェニック タバコのNPTⅡ遺伝子が保持され、発乱している ことが明らか′となった。これまでは、科間体細胞雑 種植物の作出例はなかったが、本研究によってその 雑種性を遺伝子レベルで証明することができた。ま た、本実験のように、厳しい雑種選抜条件(カナマ イシン培地、 Ⅹ線照射)を用いることにより、遠縁 間雑種育成が可能であると考えられる。現に、種々 の遠縁薗雑種植物体が育成されており、異種植物の ゲノム間の親和性の判定及び特定ゲノムの改変など 植物細胞融合研究の新しい展開が期待される。 3)遺伝子改変微生物の生態とその利用による病 害防除:野菜類の難防除病害である軟腐病菌の生産 するバクテリオシンに着目し、生物的防除法の確立 をめざした研究を進めてきた。これまでに、軟腐病 菌の非病原性変異菌を作出し、本菌の-クサイ葉面 及び根圏における生態の基礎研究と同時に、ハクサ イ軟腐病の防除試験を行った結果、その有効性が認 められた。軟腐病菌の非病原性変異菌は、わが国で 開発された、細菌病に対する微生物農薬の第1号と して登録の準備が進んでいる。今後、さらに有望な 生物防除資材の探索、バクテリオシン生産遺伝子の 単離と植物への導入による抵抗性植物の育成及びそ の生態的特性の解明が望まれる。

環境要 因 と 形質発現

生態生理研究部門の研究の現状と展望 東北大学・遺伝生態研究センター 大 瀧  煤 1.はじめに: 「生態生理研究部門」では、主として菌類や藻 類などの微生物を使用し、これら微生物が光や重 力などの外的環境要因に対してどのように応答反 応するか、その仕組みはなにか、そしてこれら応 答反応に関与する遺伝子は環境要因によってどの ように制御され、また発現してくるのかなど、究 極的には遺伝子のレベルで明らかにしようとして いる。そもそも生態系とは、大型の植物や動物だ けでなく、菌類や藻類、そして細菌やウイルスに 至るまで、全ての生物の相互関係の上に成り立っ ている。自分の意志で自由に移動できる動物と異 なって、一般に植物や菌類などは環境が不適切に なっても、そこからすぐには逃れられない。した がって、これらの植物や菌類では、常により適し ている環境条件の方へ子孫を送り込む仕組みや、 環境条件が適切になった時期を逃さずに子孫を作 り出す仕組みが発達している。これらの仕組みは、 屈性や傾性、遊走子や配偶子などの遊泳、そして 形態形成や生殖などの現象として捉えられるが、 これらの現象の蓄積が現在の生態系を形成し、ま た将来の生態系を形成するものと思われる。 我々は、これら環境要因によって引き起こされ る現象を、生態系を形成する起因子として捉え、 その反応様式や発現の仕組みを明らかにすること によって、現在の生態系の成り立ちを理解するだ けでなく、将来の環境の変化によってもたらされ る生態系の変化をも予測し、またその対応に資す ることを目的にして研究を行っている。 2.研究材料としてのヒゲカビ: 上記目的の研究を行うにあたって、これまで我々 は接合菌類に属するヒゲカビ(PhycoTnyCeS)を 主として使用して研究を行ってきた。その理由と して 1)生長が速く、胞子は約16時間後に発芽して 菌糸を生じ、約2日後には菌糸上に分化した胞子

(9)

遺伝生態研究センター通信 No.30 嚢柄から再び胞子を大量に回収することができる。 したがって、これら胞子を種々の突然変異誘発剤 で処理することによって、比較的容易に多くの突 然変異体を得ることが可能である。実際に、故 Max Delbrtickと彼の共同研究者によって約 1,500株の変異体が単離されており、現在我々が その系統維持を行っている。培養も比較的簡単で ある。 2)ヒゲカビは隔壁のない糸状菌類で、比較的 単純な構造体であるが、 10cm以上にも伸長する大 型の胞子嚢柄、 2-3mmしか伸長しない矯性の胞 子嚢柄、胞子嚢柄先端における胞子嚢、そして胞 子の形成と種々の形態形成を行う。これらはいず れも光などの環境要因によって著しい影響を受け る。また、このカビには2っの接合型が存在し、 有性生殖の際に観られる接合器官形成も非常に顕 著で、環境要因によって大きな影響を受ける。 3)大型の胞子葉柄は再生力が強く、種々の顕 微操作も可能である。さらに光や重力に鋭敏に反 応して屈性を示し、またそれらの突然変異体が多 く単離されていることから、 「刺激受容一刺激伝 達一応答反応」のいわゆる刺激伝達系の解析に好 都合である。 4)ヒゲカビは多量の、しかも比較的純粋なβ-カロチンを合成し、また細胞壁はキチンやキトサ ンを含んでいる。その意味で有用な菌類であると 同時に、病原性などの報告もなく、実験上の取扱 いが容易である。 3.従来の研究: 我々は遺伝生態研究センターに改組されて以来、 次のような研究を主として行ってきた。外的環境 要因としては、特に光や重力に注目し、実験結果 に関してはできるだけ理論的考察を行い、より普 遍的な法則の確立を目指してきた。また、観察す る現象としては、動物に比較して植物や菌類では 解析の遅れている「行動反応」に先ず注目した。 1)胞子嚢柄の光屈性の解析: ヒゲカどの胞子嚢柄は単細胞性で多核体である が、一方向から照射された光(青色光)に対して、 ヽrl…lJ■l 鋭敏な正の屈性を示す。これまで我々は多くの光 屈性異常突然変異体を使用し、我々の開発した接 き木法によってあらゆる組合せのヘテロカリオン を作製し、それらの遺伝解析を行った。その結果、 光屈性に関与する7個以上の遺伝子の存在を明ら かにした。さらに、生長域が野生型とは異なって、 しだいに肥大するようなミズクマカビ型変異体が 負の屈性を示すこと、そしてこの負の光屈性が胞 子嚢柄の直径の増大に起因することを明らかにし た。これらの結果を基に、我々はこのカどの光屈 性の方向性は胞子嚢柄の光源側と反光源側とで受 ける最大光強度の比によって決定されると考えた。 すなわち、野生株の胞子嚢柄では、生長域は半透 明であるため、一方向から胞子嚢柄に入射した光 は、細胞のレンズ作用のために反光源側に収束し、 そこでより大きな伸長生長が起こり、結果として 胞子嚢柄は光源側に屈曲すると考えた。そして生 長域の肥大したミズタマカビ型変異体では、入射 光の細胞内通過距離が増大し、吸収される光の量 が増加するために、反光源側に達する光の量が減 少し、その結果光源側と反光源側との間の最大光 強度の比が逆転し、胞子嚢柄は反光源側に屈曲す るものと考えた。この考えを理論的にまた実験的 に証明した結果、これまで未解決であった、胞子 嚢柄の最大光屈曲角度が胞子嚢柄の直径や細胞内 容物の量に依存する現象なども説明可能になった。 2)胞子嚢柄の重力屈性の解析: ヒゲカどの胞子嚢柄は重力刺激に反応して、地 面から立ち上がる、いわゆる負の屈性を示すが、 その速度は屈曲角度が大きくなるにつれて減少す る。一方、重力刺激に速い速度で反応する変異体 では、屈曲開始までの潜伏期も短く、また短時間 で屈曲を完成する。我々はこれら両株の生長様式 や光屈性などを比較し、その結果から胞子嚢柄は おそら,(屈曲角度(a)に依存した′、異なった大 きさの重力刺激(g・cosα)を受けるものと仮 定し、さらに重力屈性速度を規制するパラメーター として、胞子嚢柄の生長速度、胞子嚢柄の上端と 下端側との偏差生長比、そして胞子嚢柄の直径を

(10)

遺伝生態研究センター通信 No30 脚◎○○脚紳 /-仮定した。これらのパラメーターを組み込み、胞 子嚢柄の重力屈性の辛デル化を試みたが、その結 果上記の変異体では、野生株に比較して、偏差生 長比が数倍高い変異体であることが明らかになっ た。このモデルは、他の植物に対しても適用でき るものと期待される。 3)胞子嚢柄の回転運動: 我々はこれまで、ミズクマカビ型変異体の胞子 嚢柄において、肥大生長が伸長生長を上回った時 点で、反時計方向に回転を逆転する現象を見出だ し、その解析を行ってきた。この現象は胞子嚢柄 の伸長方向の変化に伴う細胞壁微細繊維の配向の 変化に起因すると考えられる。すなわち、微細繊 維の動きのベクトル成分の方向が回転運動の方向 を決定する。この考えをやはり肥大生長をするヒ ゲカどの近縁種であるミズクマカビ(Pilobolus) の胞子嚢柄に適用して観察した結果、このカビで もやはり回転運動を行っていることが明らかになっ た。恐らくヒゲカビと同じ作用機作が働いている ものと推察される。 4)糸状酵母における光屈性: ヒゲカビにおける光屈性の解析手法を基に、糸 状酵母であるSporoboloTnyCeSの光屈性の有無を 調べた結果、個々の表面菌糸および空中菌糸、ま た束状になった空中菌糸も共に正の光屈性を鋭敏 に示すことを発見した。これらはいずれも青色光 で引き起こされたが、これはいわゆる酵母におけ る光屈性の最初の発見であると思われる。 5)キチン合成酵素遺伝子の単離と解析: ヒゲカどの細胞壁の主たる成分はキチンとキト サンである。これら成分を合成する酵素の挙動は、 このカどの外的刺激反応と密接に関係している。 我々はPCR法を用いて増幅・クローニングした キチン合成酵素遺伝子断片をプローブとして、ミ ニライブラリーから約3.3kbのゲノミッククロー ンを得て、そのシークエンスなどを解析した。こ の遺伝子が他のカビで最近報告されている遺伝子 と、構造的にまた機能的にどのような類似性があ るのか、ヒゲカどの系統発生を知る上でも興味あ る問題である。 4.今後の研究と抱負: 上記の研究課題は、主として環境要因に対する 菌類の行動反応に関するものである。確かにこれ らの反応は、個々には微々たる行動ではあるが、 長い年月のスパンで見れば、菌体の移動や胞子の 散布等を通して、これら菌頬の生態系の形成には 効力を発し、さらには全体的な生態系の形成に少 なからぬ役割を演じてきたと思われる。 一方、有性生殖は遺伝子組換えを伴い、それが 環境要因によって制御されているとすれば、これ もまたこれら菌頬の生態系形成に大きな要素になっ てきたと思われる。我々は長い間、このヒゲカど の有性生殖の問題と取り組んできたが、 1995年度 のCOE (卓越する研究拠点)構想計画の下に、 より集中的にこの研究を行うことになった。この 計画を遺伝生態研究センターにおける我々の第二 段階の研究と位置づけ、さらに国内外の研究者と の連携の下に、この分野での世界の中心的な役割 を担っている。主たる研究課題には、次のような ものがある。 1 )接合反応異常変異体の解析: ヒゲカビにおいては、カロチン合成欠損株や胞 子嚢柄形成欠損株など接合反応の不完全な変異体 が多数存在するが、これら変異体の遺伝学的およ び生理学的解析を行い、カロチンや性フェロモン であるトリスポリン酸、そしてミトコンドリアと の関係を調べている。その結果、接合反応にはフェ ロモンの作用の他に、細胞間の認識機構が働いて いる可能性、さらにミトコンドリア遺伝子が関与 している可能性などが示唆された。 2 )接合器官の細胞間構造の観察: 接合反応は、特に後半の反応過程においては、 両接合型細胞の密接な接触の下に行われる。もし この反応過程に細胞認識の機構が働いているとす れば、その認識を効率よく遂行するために、細胞 の接着面にどのような構造体上の特異性が観られ るか、細胞認識機構の本質を探るために現在電子 顕微鏡等を使用して接合器官の構造解析を行って

(11)

遺伝生態研究センター通信 No.30 ヒゲカどの接合: (+)と(-)の両接合型の間で形成 された若い前配偶子嚢(A)と完成した接合胞子(B)0 スケールはそれぞれ50umと0.5mm。 いる。 3)性フェロモンの機能の解析: トリスポリン酸は接合反応の初期過程には作用 していることは明白ではあるが、後半の過程にも 関与しているかどうかは不明である。トリスポリ ン酸およびその前駆体を合成あるいは抽出して、 種々の接合異常変異体を使用しながら、この点を 明らかにする。トリスポリン酸は、ヒゲカビのみ ならず多くの接合菌類に共通な性フェロモンとい われる。それにも拘らずどのような仕組みで属問 交雑が阻止されているのか、この間題も本研究で 解決できるものと期待される。 4)接合反応に及ぼす環境要因の影響: 接合反応は光の存在によって阻害されるが、我々 は国立岡崎共同研究機構の大型スペクトログラフ を用いて、作用スペクトルを調べた結果、主とし て近紫外光と青色光に阻害効果があり、さらに接 合の発生段階によって、その有効光の波長が微妙 ◎㊤㊦㊤㊦㊤㊦㊤⑳㊤◎㊤ に異なることを見出だした。この接合反応が複合 した反応過程から成り立っていることを示唆する ものと思われる。 5)遺伝子レベルでの解析: 接合反応のみならず無性世代の行動に関する反 応においても、環境要因がどのような作用機作で これら反応に関与する遺伝子の発現を制御してい るのか、これを遺伝子のレベルで明らかにするた めに我々は種々の試みを行っている。その場合、 より適切な突然変異体の単離や簡単で効率的な形 質転換体作製法の開発が必要条件である。これま でも我々は、これらに関していくつかの開発を行っ てきたが、さらに効率的な方法の開発が要求され るようになった。我々はヒゲカどの持っ有用な特 、J 性を活かしてその開発を試みているが、もし成功 すればこのカどの遺伝子レベルでの研究はさらに 進展するものと期待される。 5.結語: 菌類や藻類などのいわゆる微生物は、環境要因 の変化を全身で感受し、全身で反応すると言って も過言ではない。確かに種々の刺激に対する最も 感受性の高い部位は多くの場合定まってはいるも のの、このような微小生物においては、身体の都 城の生死は個体の生死に直結する場合が多い。そ れだけに、これら微生物においては不適切な療境 に対する防御機構が発達し、また次世代への夢を 託する機構が発達していると考えられる。したがっ て、無性世代および有性世代を通した環境要因に 対す るヒゲカどの反応p解析は、他の植物や微生 物の解析にも大きく貢献するものと期待される。 さらにこれらの結果と理論を基に、我々は第3段 階の研究として、実際にこれらの菌類が環境要因 の変化に対してどのようにその生態を変えていく のか、モデル実験を行ってみたいと考えている。 この上/うな解析が成功すれば、未来に予想される、 あるいは開拓された環境における生態系の成り立 ちを予測する場合に、極めて有用な情報が提供で きるものと期待している。ノ ・J

(12)

遺伝生態研究センター通信 No.30 ⑳90㊤◎㊤◎㊤

短日植物アサガオの長日開花とフェニールプロパノイド代謝

Eiii はじめに アサガオ(Pharbitis nil)は典型的な短日植 物として花成誘導の研究に広く用いられ、開花ホ ルモンの探索がなされてきたが、未だにその実体 は全く不明のままであり、また花成誘導にどのよ うな代謝が関与しているかも明らかでない。一方、 短日植物であるが連続光下でも表1に示したよう に貧栄養、強光、低温、根の伸長抑制、 CCC、 アンモニアなど種々の処理により花芽誘導が可能 である。しかもその反応性は品種間で異なってお り、花成誘導のメカニズムの解析に格好の材料で ある。 花成誘導物質探索の方法には生物検定法と比較 生化学的方法があるが、 Lemnaで行われている ような生物検定による方法はアサガオでは極めて 困難(exogerneousな物質による花芽誘導が殆 ど不可能)である。 そこで、我々はこれらの諸条件下の花成誘導に 表1 アサガオの短、長日開花と品種間差 京都大学・農学部 篠 崎 真 輝 関与する代謝を明らかにするために、種々の抽出 物のHPLCによる広範なパターン分析を行い、 (1)花芽形成に先立ち増加し、 (2)その物質の増加量 と花芽数の増加がパラレルであり、 (3)その物質の 増加を阻害剤等で阻害すると花芽形成もパラレル に阻害され、 (4)阻害剤は花成誘導期のみ有効で花 芽分化期に与えても無効であり、 (5)品種間の反応 性の差をその物質の消長で説明できるという5つ の原則(花成誘導物質探索の5原則)を充たすピー クの探索と同定を行ってきた。その結果、貧栄養、 強光、低温で育てられた植物の子葉の2 %酢酸抽 出物の中から上記5原則を充たす物質がいくつか 明らかになり、花成との関連や生理的役割が解明 されつつある。本稿ではその研究の概要について 述べたい。 箕栄養と強光による花芽誘導とフェニ-ルプロパ ノイド代謝 アサガオのVioletは20℃、 5,0001ux連続光下で Treatment G& 也2 f柳ニWDカ芳 6 彦V襷 Shortday16-hdarkX1 偖ネ ネ ツ ツ イイイ 12-hdarkX1 Low-temperatUre14days 6days 調 High-irradiancelnduction 調 PromotionofLTfl. 偖ネ ツイ lnhJ'bitionofSDfl. 調イイ Poornutrilion 調 lnhibitionofrootelongation 調 ∝appfication 頂 「 Ammoniumion(tapwater) 白イ +:花芽形成 -:花芽形成せず -辛:阻害 貧栄養(水道水)で16日以上培 養すると花芽を形成し、貧栄養 での培養期間が長くなるにつれ て花芽数が増加する。 (図2 a)0 また23-25℃、 15,0001ux以上の 強光下(培地は中山培地)で12 日育てても花芽を形成する。 (図2 b)0 これに対してKidachiとTend anは両条件下で花芽を形成しな い。両条件下で育てた植物の子 葉の2 %酢酸加熱抽出物のHP LCによるパターン分析の結果、 上記5原則を充たす3つのピー クが見出された。 MS、 NMR

(13)

遺伝生態研究センター通信 No.30

i 抑イi

4・0・p・CoUかLrllqtJLJZk JLEtd

fL (.C一Ju血JLl亡Jdd CbIErtqEttdC JLEId rCC^) 二二T=:「\ == CJLLkk JL亡Id 1 anlt2^a^〓t2IatJ 6  5   4  3   2   1 (三二6JB∈)lualuOOV9U SLaA0ニー〇'ON 20 lU 0 8     4 (◆トPlBOrt卦Eb-⑳◎㊦◎㊥㊤◎9鍋㊦◎ Frn川亡■dd      3・0・ Fmlo ! k7tJJOk JLdd m^) 図1 アサガオのフェニールプロパノイドの代謝経路 0   4   8  12 16 20 24

Days cultured in poor nutrition

b 「「上山 40 20 こ6]6r[)lualuO30OUPut2 o  望 0 3 6 9 12 15 1821v ≡ Days exposed to high-fluence rate

図2 アサガオの箕栄養(a)と強光(b)による花芽誘導とフェ ニールプロパノイド含量の変化 などで構造決定したところ、クロロゲン酸 (CGA)、その前駆物質のパラクマロイルキナ酸 (CQA)、リグナンの一種であるピノレジノール の配糖体(PRG)であった(図1)。これらの 物質は図2 a、 bに示すようにいずれも花芽形成 に先立ち増加する。 これらのフェニールプロパノイドの増加に先立 ち、この代謝系のgate enzymeであるPALの 活性化が見られる(図1、図2a). pALの阻 害剤であるAOAを与えるとフェニールプロパノ イドの増加と花芽形成が平行的に阻害される。さ らに貧栄養、強光下で花芽を形成しないKidachi では両条件下でPALの活性化が見られず、これ らのフェニールプロパノイドも増加しない。 低温による花芽誘導とフェニールプロパノイド代 謝 アサガオは15℃以下にすると連続光下で花芽を 形成する(表1)。貧栄養、強光による花成誘導 と違って、 Violet、Kidachi、 Tendanの3品種 とも花芽を形成する。しかし、低温に対する感受 性は品種間で異なっており、花成誘導に必要な低 温処琴日数はKidachiで6日、 Tehdanで8日、 Violetは10日である。 低温処理に伴う代謝変動をHP L Cで調べたと ころ、 2 %酢酸抽出物中に前記5原則を充たすピー クが見っかり、構造決定したところ3-0-フェ \_ノ 夢塾

(14)

遺伝生態研究センター通信 No.30 ◎㊤◎㊤㊦㊤◎¢◎㊤OQ /ー\ / \ ルロイルキナ酸(FQA)であることが判明した (図1)。低温処理下では貧栄養、強光下で見られ たCGA、 PRGは殆ど増加せず、 FQAが花芽 形成に先立ち増加する。低温感受性の高いKida-chiではその含量がVioletより早く増加する。貧 栄養の場合と違ってPALの活性化はVioletと Kidachiの両品種で見られる。 PALにはいくつ かのアイソザイムが知られており、両条件下で活 性化されるPALは異なったPALであると思わ れる。また傷害などで活性化されるPALは一時 的であるのに対して、両条件下で活性化されるP ALは長時間にわたり高い活性が維持されている。 強光による低温開花の促進とアスコルビン酸 低温処理前に強光を照射すると花成誘導に必要 な低温処理目数が著しく短縮される。例えば、 23 ℃、 25,0001uxで3日間育てた後、低温処理する と、 Kidachiでは2日、 Violetでは3日の低温で 花芽を形成するようになる。この強光処理中に作 られる物質の探索をHPLCを用いて行ったとこ ろ、 2%酢酸抽出物中に光強度とパラレルに増加 するピーク(260nmで測定)を見出した。この物 質は極めて不安定であったのでその同定に長時間 を要したが、最近アスコルビン酸であることが判っ た。アサガオでは通常の培養条件(20-25℃、 5,0001ux)ではアスコルビン酸は殆ど検出されな いが、照度が高くなるに伴い その含量が増加し、光飽和点 を超えてなお増加、熱線カッ トフィルターを用いると100, 0001uxまでも増加が続き、 1 mg/g.fr.wtにも達する。弱 光から低温に移してもFQA の増加に先立ちアスコルビン 酸の増加が見られる。アスコ ルビン酸の含量の増加とパラ レルに形成される花芽数も増 加する。アスコルビン酸が強 光とか低温という明反応と暗 反応のアンバランスを生ずる ような条件下で増加してくることから、一義的に はアンチオキシダントとして機能していると思わ れる。一方、アスコルビン酸はフェニールプロパ ノイド代謝系にも関与しており、パラクマリン酸 からコーヒー酸の生成を触媒するパラクマリン酸-3-ヒドロキシラーゼのコファクターとして働い ている(図1)。事実、強光下ではコーヒー酸の 生成が促進され、その結果、低温トでのFQAも 早まる。アスコルビン酸の合成を阻害すると強光 による低温開花の促進も阻害される。投与された アスコルビン酸による低温開花の促進はアスコル ビン酸がpH3.5以下でないと吸収されず、そのよ うな条件で低温処理すると植物が枯れてしまうの で観察できない。 フェニールプロパノイドの生理的役割 これまで述べてきたようにアサガオの貧栄養、 強光、低温による長日開花はフェニールプロパノ イド代謝と関連している。このようなフェニール プロパノイドはどのような作用を通して花芽形成 に関与しているのであるか?CGA、 PRG、 F QAは植物に投与してもすぐに分解されて生体内 のレベルを上げることが困難で、花芽を誘導する ことができない。 CGAはIAAオキシダーゼの 阻害剤として知られているが、我々が現在もっと も注目しているのはPRGのもつホスホジェステ 表2 アサガオの長日開花と糖、フェニールプロパノイド、ポリアミン含量

ateria1 膝&V FヨV蹌 sugarsphenylprOpanOidsPOlyamineFlOver cGAPRGFQAput

Vi01et Xidachi V⊥01et 披

PN 頂 ネ ツク ネ ネ ツイイメイイイイイイ N PN 調イイ EIL 頂 ネ ツイイイメイイ Kidachi 友トツ 十十十+ Ⅴ土01et Kidachi 乃ツヤ貞B +++一一+++十十+ LIL-LT 調イオ イイイイ ZIL-LT 偖ツク ネ耳耳 ネ ツク ネ ネ ツ LL-LT 偖ネ ツオ メク ネ ネ ツ

(15)

遺伝生態研究センター通信 No.30 ラーゼ(PDE)阻害活性である。 PDEは生体内のC-AMPのレベルを制御し ている。 PDEの阻害剤であるパパベリンは貧栄 養、強光、低温による花芽形成を促進する。高等 植物におけるC-AMPの存在はあまり明確では ないが、現在、アサガオにおけるP D EやC-AMPの存在を確認中である。 まとめ これまで示してきたように短日植物であるアサ ガオが連続光下でも種々の処理により花芽を形成 し、その花成がフェニールプロパノイド代謝と密 接に関連していた。しかし、長日開花のすべてが フェニールプロパノイド代謝と関連しているので はない。例えば、 Kidachiの根の伸長抑制による 花成ではフェニールプロパノイド代謝に何の動き も見られない。また暗処理中にも何ら変化しない。 さらに、フェニールプロパノイド代謝以外にも 重要な働きを果たしている代謝がある。糖代謝で ある。高いC/N ratioは花成に好都合であると いうことはよく言われていることであるが、表2 に示したように貧栄養、強光、低温による開花は 必ず非常に高い糖含量を伴っている。増加する糖

はsucrose、 glucose、 fructoseであり、ものに

よっては非誘導条件の植物の200倍に達すること もある。しかし、糖含量が高くなるだけでは花芽 を形成しないことはKidachiを貧栄養や強光で育 てた場合の結果から明らかである(表2)。花芽 形成は高い糖含量(必要条件)とCGA、 PRG かFQA (十分条件)が同時に充たされた場合の みに見られる。また、貧栄養下での花成ではポリ アミンも興味ある挙動をしている。ポリアミンの 一種であるプトレシン(Put)を貧栄養で育てた Kidachi (Put含量が低い)に与えると花芽を誘 導し、一方Violetでは与えなくても花成誘導時に は高い含量を維持している。 このように花成を誘導する因子は多様であり、 また、それに伴う代謝も非常に複雑であるが、実 験材料や分析手段(例えばHPLC)の有効利用 により花成誘導のメカニズムを明らかにして行き たいと思っている。 ヽズlヽメl… 引用文献

1) Hlral. N. et al.(1993) Plant Cell Physiol, 34 :

1039-1044

2) Hlrai. N. et al.(1994) Plant Cell Phys101. 35 :

691 -651

3) Hlral. N. et al.(1995) Plant Cell PhyslOl. 36 :

291-297

4) Hlral. N. et al.(1995) Plant Cell Physiol. in

preSS

5) ShlnOZakl. M.(1972) Plant Cell Phys101. 13 : 391 -393

6) Shinozaki. M. et. al (1982) Plant Cell Physiol. 23 : 473-477

7) Shinozaki. M. et. al (1988) Plant Cell PhyslOl. 29 : 605-609

8) Shinozaki. M. et. al (1988) Plant Cell Physiol. 29 : 611-614

9) Shinozaki. M. et. al (1994) Plant Cell Physiol. 35 : 807-810

10) Tsukamoto. H. et. al (1984) Chem. Pharm. Bull.

32 : 2730-2735

ll) Wada. N. et. al(1994) Plant Cell. Physiol. 35 : 469-472

編集後記

今回は、遺伝生態研究センターの教授の方々に現 在進めている研究の紹介を含め、遺伝生態という研 究分野に関する意見をまとめていただきました。な お、センター通信に寄せられた論文への意見、遺伝 生態にかかわる研究の紹介、書評などをお寄せくだ さい。また、センター通信だけでなく、IGEシリー ズ、 NewsletterおよびISK Seriesも刊行しており ますので、ご利用ください。 東北大学遺伝生態研究センター通信Na30 平成7年(1995年) 11月 編集・発行 東北大学遺伝生態研究センター 〒980-77仙台市青葉区片平二丁目1 - 1 TEL 022-217-5706 (共同利用掛) FAX 022-263-9845 0研究センター通信の題字は、元東北大学長 石臣「名香雄先生の自筆です。 ・・・'i茅. は、東北大学遺伝生態研究センターの rG-6 シンボルマークです〇

・ IGE、 Institute of Genetic Ecologyの略称です。

参照

関連したドキュメント

︵人 事︶ ﹁第二十一巻 第十號  三四九 第百二十九號 一九.. ︵會 皆︶ ︵震 告︶

︵原著及實鹸︶ 第ご 十巻   第⊥T一號   ご一山ハ一ご 第百十入號 一七.. ︵原著及三三︶

 約13ケ月前突然顔面二急

: The stereological and statistical properties of entrained air voids in concrete : A mathematical basis for air void system characterization, Materials Science of Concrete VI

Utoki not only has important information about the Jodo Shin sect of Buddhism in the Edo period but also various stories that Shuko recorded that should capture the interest

弥陀 は︑今 に相 ひ別 るる説 の如くは︑七 々日泰山王 の本地︑阿弥.. の讃 嘆を致す者なり︒

︵漫 録㌧ 第十λ⁝櫓  麓伊九⁝號   二山ハご一

scientific Rep・rt・n the Investigati・ns・f the Imperial Cancer Research F・1923 Ref,(癌第十九年第二冊)。  19)金子・島.中村,一側兎耳「タ