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生徒一人一人の自己を高める授業 : 方略を自己選択・自己決定する力を基盤として

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Academic year: 2021

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(1)Title. 生徒一人一人の自己を高める授業 : 方略を自己選択・自己決定する力を 基盤として. Author(s). 清水, 拓海; 古城, 瞳; 加藤, 琢也; 梅﨑, 誠; 土屋, 和彦; 横田, 雅 美; 厚谷, 摩紀; 越橋, 規芳; 松倉, 泰介; 三笠, 加奈子; 北村, 博幸. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 67(1): 149-157. Issue Date. 2016-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/8000. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.1. 平 成 28 年 8 月 August, 2016. 生徒一人一人の自己を高める授業 ― 方略を自己選択・自己決定する力を基盤として ―. 清水 拓海*・古城 瞳*・加藤 琢也*・梅﨑 誠*・土屋 和彦*・横田 雅美* 厚谷 摩紀*・越橋 規芳*・松倉 泰介*・三笠加奈子*・北村 博幸** *. 北海道教育大学附属特別支援学校. **. 北海道教育大学函館校障害児臨床教室. Instruction to Enhance Oneself for Students ― Based on Self-Selection and Self-Determination of Strategies ―. SHIMIZU Takumi*, KOJO Hitomi*, KATO Takuya*, UMEZAKI Makoto*, TSUTIYA Kazuhiko*, YOKOTA Masami*, ATSUYA Maki*, ETSUHASHI Kiyoshi*, MATSUKURA Taisuke*, MIKASA Kanako* and KITAMURA Hiroyuki** * **. Special Needs School, Hokkaido University of Education University. Department of Special Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本研究は,北海道教育大学附属特別支援学校高等部の生徒を対象に,作業学習において自己 選択,自己決定する力を高める授業のあり方を検討することを目的とした。 本研究では,本校高等部の学部目標である「健康で豊かな生活をし,自分らしく仲間ととも に活動する生徒」を基盤として,これまで取り組んできた「人間関係の形成」についての研究 との相互作用を探りながら「自己を高める授業」について焦点を当てた。具体的には授業の中 に,他者とかかわり合いながら,自分や仲間の行動を振り返って自己評価する場面と,自己選 択・自己決定する場面を設定することで,自己教育力や自己調整力を高めて,自己や他者の理 解を深めることができるかを検証した。その結果,自己選択・自己決定後の行動に顕著な変容 が見られた。. Ⅰ はじめに 平成21年3月に告示された学習指導要領では,. 自立活動の従来の区分に「人間関係の形成」が加 わり,新たに6つの区分26項目に整理された。こ れを受け,特別支援学校や特別支援学級では,人. 149.

(3) 清水 拓海・古城 瞳・加藤 琢也・梅﨑 誠・土屋 和彦・横田 雅美・厚谷 摩紀・越橋 規芳・松倉 泰介・三笠加奈子・北村 博幸. 間関係の形成を目指した授業の在り方について明. 定した概念である。これは「自己教育力」と「自. らかにし, それを実践することが求められてきた。. 己調整力」を合わせた力を指し,「自分の良さを. 近年,本校の児童生徒の実態は,広汎性発達障. 生かし,思いと活動を調整して行動する力」と定. 害の児童生徒の在籍が70%を超えている状況や,. 義した。. 障がいの多様化に伴い,対人関係やコミュニケー. 自立活動の時間における指導と領域・教科を合. ション等に課題をもつ児童生徒が増えている傾向. わせた指導,及び本校の教育課程に位置づけられ. にある。その中で,本校生徒の学校卒業後に寄せ. る「くらし しごと よか」にかかわる学習場面. られる相談内容には,対人関係のトラブルに関す. において,「自らをコーディネートする力」を高. ることが多く見受けられる(北海道教育大学附属. めるための授業の内容及び支援の方法について検. 特別支援学校,2009)。卒業後の変化の多い社会. 討を行うこととした。. や進路先の様々な年代の人たちとのかかわり合い. 特に,高等部では学部目標である「健康で豊か. の中で,地域で生活していくための課題が表面化. な生活をし,自分らしく仲間とともに活動する生. してきたと言える。. 徒」を基盤として,これまで取り組んできた「人. この様な状況を踏まえ,本校ではこれまで, 「他. 間関係の形成」についての研究との相互作用を探. 者とのかかわり合いの中で自己が育つ授業づく. りながら「自己を高める授業」について焦点をあ. り」という研究主題を設定し,児童生徒の自己理. て,卒業後の社会生活を見据えた支援の確立を目. 解について定義し,研究を進めてきた(北海道教. 指した実践研究に取り組んだ。高等部の研究仮説. 育大学附属特別支援学校,2010:北海道教育大学. を「人とのかかわり合いの中で,自分や仲間の経. 附属特別支援学校,2011:北村ら,2013)。その. 験を基に,より良い方略を自己決定できるような. 結果,社会にかかわっていく力については,授業. 授業を設定することで,生徒は仲間の中で自分の. の中に設定した対人マナーや対人スキルについて. 考えをもって活動しながら,授業のねらいに迫っ. の指導の成果だけではなく,対人関係を育むため. ていけるだろう。」と設定した。具体的には,生. の自然な文脈における指導を継続的に行うことに. 徒によっては自分の進路や実習について考え,決. より, 「状況判断」や「自己・他者理解」ができ. 定していくことを最終的な目標としたり,日常生. る場面が増え,学校の中においては状況に応じた. 活におけるスケジュールや活動の手順について自. 適切な行動を選択する力が育ってきた。. 己決定したり調整することを想定した。ある生徒. しかしながら,対人マナーや対人スキルを身に. に対しては仕事場面で「今日はロスがなくなるよ. 付けることはできたものの,卒業後の実社会にお. うに,丁寧に作業しよう」とか,「今日はいつも. いてはやはり人間関係についての課題を示すケー. より汗をかいたから,食事の前に入浴しよう」な. スが多く報告された。つまり,これまでの指導だ. ど,社会生活のあらゆる場面で自己選択・自己決. けでは人間関係を形成する力を十分に育てられる. 定し,職場における人間関係を構築し,それを維. とは言えず,今後は自己をより深く理解して集団. 持できることも想定した。. の中で自分の良さを発揮したり,他者と適切にか. 以上のことから,本研究では,高等部の生徒を. かわり合いながら他者を理解したりする力を高め. 対象に,作業学習において自己選択,自己決定す. る必要があるのではないかと考えるに至った。. る力を高める授業のあり方を検討することを目的. そこで, 生徒の「自己を高めること」に着目し,. とした。. そのために必要な力として「自らをコーディネー トする力」を高める授業についての研究を進める こととした。 「自らをコーディネートする力」とは, 本校で「自己を高める」ために必要な力として設. 150.

(4) 生徒一人一人の自己を高める授業. と他者を比較することで自分の良いところや改善. Ⅱ 方 法. の方略に気付くこととした。「Action(改善)」で. 1.指導について. は,成功の期待や新たに生まれたアイディアを基. 実践は,領域・教科を合わせた指導である「進. に次の行動を考えたり選択したりして次の「Plan」. 路・作業」の受注作業の授業においての指導とし. につなげていくこととした。. た。 授業の中に, 自己決定の場面と自己評価の場面,. 2.自己決定場面の設定について. 再度自己決定する場面を意図的に繰り返して設定. 本研究における主体的な自己決定について,次. し,各領域・教科のねらいを達成することを目標. のように考えた。今回の研究では「より良い方略. とした。 この自己決定と自己評価の繰り返しが「自. を自己決定できる力を高める授業づくり」を領. らをコーディネートする力を高めるPDCAサイク. 域・教科を合わせた指導の中で行うこととしてい. ル」 (Fig.1)であり,このサイクルを意識した授. る。この「より良い方略を自己決定できる力」こ. 業づくりを行った。PDCAサイクルの「Plan(自. そが,本校卒業生の卒業後の課題である「自己を. 己選択・自己決定) 」は自分の思いと求められる. より深く理解し,集団の中で自分の良さを発揮し. 活動を調整することであり,できたことを振り. たり,他者と適切にかかわり,他者を理解したり. 返ったり,他者の様子を見て自分の活動の方法を. する」ことに対して有効なのではないかと考えた。. 考えたり,決定したりすることとした。「Do(行. これまでに積み重ねてきたり,経験したりしたこ. 動) 」は集団の中での経験から自己選択・自己決. とのある限定された場面で自己決定する力に加. 定した行動について,方略をもって実行すること. え,卒業して社会に出るとき,つまり進路決定や. とした。 「Check(自己評価・他者評価) 」は自分. 自己実現の場面で自己決定する力や,実際に社会. や他者の様子について従来の机上での振り返りだ. に出てからも,環境に合わせて自分の力を伸ばせ. けでなくICT機器等を用いた根拠のあるモニタリ. るように,方略をもって自己決定を修正・改善し. ングを行うことで,自分の様子を振り返り,自己. ていく力を育てたいと考えた。. . 3ODQ࠙⮬ᕫ㑅ᢥ࣭⮬ᕫỴᐃࠚ . . ᐯЎƷ࣬ƍǍᘍѣǛᎋƑǔᲦ ൿNJǔŵ. $FWLRQ࠙ᨵၿࠚ. 'R. ǑǓᑣƍ૾ဦǛᎋƑǔŵ. ࠙⾜ືࠚ. ܱᨥƴᘍѣƢǔŵ. ᐯЎǍ˂ᎍƷಮ‫܇‬Ǜᚇ‫ݑ‬ƠᲦ ൢ˄Ƙŵ. . . &KHFN࠙⮬ᕫホ౯࣭௚⪅ホ౯ࠚ. Fig.1 自らをコーディネートする力を高めるPDCAサイクル. 151.

(5) 清水 拓海・古城 瞳・加藤 琢也・梅﨑 誠・土屋 和彦・横田 雅美・厚谷 摩紀・越橋 規芳・松倉 泰介・三笠加奈子・北村 博幸. 授業の中では,選択肢の中から活動や行動を選. 分の様子を振り返ることや,他者からの評価を受. んで決定する場面と,モニタリング後にもう一度. けること,他者の様子と自己の様子を比較するこ. 活動や行動を選びなおす場面を設定して,自己決. とのすべてが自己評価であるとする。さらに他者. 定することや自己決定を修正・改善することをね. 評価については,自身が他人を評価することに限. らった。また,自己決定に対して教師が生徒を称. 定し,自己評価の過程において発生する自己評価. 賛することなどの社会的な評価によって,生徒の. の一部として捉えることとした。. 自己肯定感を高め,生徒が主体的な行動を引き出 せるよう促した。. Ⅲ 実 践. 3.自己評価・他者評価場面の設定について. 1.授業について. 自己評価・他者評価の場面では,生徒と教師が. ⑴ 対 象. 客観的に事実を確認し,共有できる支援として,. 北海道教育大学附属特別支援学校高等部の自閉. 静止画や動画などのモニタリングによる振り返り. 症の生徒5名と知的障害の生徒1名を対象とし. 場面を設定した。太田(2014)はセルフモニタリ. た。本学習グループは,高等部1,2年生の6名. ングについて,自閉症スぺクトラム障害児の行動. で構成されるグループである。この6名は場面に. 変容プログラムとしての科学的根拠が認められて. 応じた定型文を活用し,作業に関わる報告や要求. おり,指導者からの指揮監督によらず行動の自己. ができる。しかし,気持ちや意思を交換するよう. 管理が可能になる手法であることを示唆してい. な会話が苦手であったり,他者の気持ちを考えた. る。 本研究においても,生徒がモニタリングによっ. 会話が苦手である生徒もいる。全員が記録映像を. て行動を振り返ることを基盤とした。実際の授業. 見て誰が何をしているかを認知できる。さらに,. 場面では,静止画や動画などを視聴して活動の様. その記録映像を見ながら自分の行動の様子とその. 子を振り返る時間や,教師による言葉かけやワー. 結果の関係を理解できる生徒も数名いる。先行経. クシートを活用することで生徒が自分で活動の様. 験として発注書を基に,納期に間に合うように仕. 子や結果を確認する場面を設定する。モニタリン. 事をする事務サービスの経験をしており,納期に. グを行う際には,活動の結果を言語化して伝える. 間に合ったことを喜び合う姿が見られた。また,. ことや,動画や静止画のどの部分に注目すべきか. 協働の経験として,校内の食堂の清掃や,集団で. について事前に説明・解説をする。また,日常的. のモップがけを行ってきた。モニタリングの経験. にTVモニターやタブレット端末などのICT機器. としては,選択スポーツの授業で短距離走の映像. 等を使う場面を多く設定し,実態把握を行うとと. を見たり,文化祭での鑑賞の様子を映像で見たり. もに,生徒がICT機器に対して過剰に興味を示す. して,できた点や改善点を振り返る活動を行った。. ことがないよう配慮した。. また一部の生徒は,中距離走の自己記録を更新す るよう所要時間を確認しながら運動した経験があ. 4.本研究における自己選択・自己決定と自己評 価・他者評価について. る。(table 1) ⑵ 期 間. 小島ら(2008)は,自己決定について自らの意. 平成25年11月~平成26年2月の3か月間. 志や判断に基づいて,自らの生活や人生を方向づ. ⑶ 指導場面. けるべく,選択や決定をすることと述べている。. 原則週1回,作業学習におけるメール封入業務。. これを受け, 本研究における自己決定については,. ⑷ 単元の計画. 自分の意志をもって選択・決定する一連のプロセ. 本研究では生徒が自己の経験やその結果につい. スのこととする。また,自己評価については,自. て,あるいは他者の経験やその結果についての双. 152.

(6) 生徒一人一人の自己を高める授業. Table 1 本事例における生徒の実態 生徒名. 個別の実態. A. ◦ 教師からの作業依頼に対してちゅうちょせずに「分かりました」と答える。 ◦ ○時間△△分といった時間の読み取りができるが,所要時間の比較は難しい。 ◦ 各工程に正確に取り組む。作業ペースは比較的早く,安定している。 「納期」の意味理解はまだ不 十分である。 ◦ 周囲の拍手に合わせて拍手をする場合がある。他者の行動に対してコメントする場合があるものの, 称賛する行動は見られない。. B. ◦ 周囲の作業状況を確認し,まだ仕事が終了していない仲間が誰かを判断できる。また,率先して手 伝いに向かえる。 ◦ 前回と今回の所要時間を比較し,どちらがより短時間(長時間)だったのか正しく判断できる。記 録映像を見て,作業の精度や効率を判断できる。 ◦ 各工程に正確に取り組む。作業ペースは比較的早く,安定している。「納期」を理解している。 ◦ 自分や仲間が目標を達成したり,行動を改善できたりした場面では,自他を問わずに喜べる。 モニターを見て誰が何の作業をしているか正しく認知できる。. C. ◦ 教師からの作業依頼に対してちゅうちょせずに「分かりました」と答える。 ◦ 二桁の数字を正しく読み取れるが,○時間△△分といった時間の読み取りはまだ習得していない。 所要時間の比較は難しい。 ◦ 各工程に不正確さが見られる。作業ペースは比較的遅いが,安定している。 「納期」の意味理解は まだ不十分である。 ◦ 自分や仲間が目標を達成したり,行動を改善できたりした場面では,自他を問わずに喜べる。. D. ◦ 周囲の作業状況を確認し,まだ仕事が終了していない仲間が誰かを判断できる。また,率先して手 伝いに向かえる。 ◦ 前回と今回の所要時間を比較し,どちらがより短時間(長時間)だったのか正しく判断できる。記 録映像を見て,作業の精度や効率を判断できる。 ◦ 各工程に正確に取り組む。作業ペースは比較的早く,安定している。「納期」を理解している。 自分や仲間が目標を達成したり,行動を改善できたりした場面では,自他を問わずに喜べる。. E. ◦ 教師からの作業依頼に対してちゅうちょせずに「分かりました」と答える。 ◦ ○時間△△分といった時間の読み取りができるが,所要時間の比較は難しい。 ◦ 各工程に正確に取り組む。作業ペースは比較的遅いが,安定している。 「納期」の意味理解はまだ 不十分である。 ◦ 自分や仲間が目標を達成したり,行動を改善できたりした場面では,自他を問わずに喜べる。. F. ◦ 周囲の作業状況を確認し,まだ仕事が終了していない仲間が誰かを判断できる。また,率先して手 伝いに向かえる。 ◦ 前回と今回の所要時間を比較し,どちらがより短時間(長時間)だったのか正しく判断できる。記 録映像を見て,作業の精度や効率を判断できる。 ◦ 各工程に正確に取り組む。作業ペースは比較的早く,安定している。「納期」を理解している。 自分や仲間が目標を達成したり,行動を改善できたりした場面では,自他を問わずに喜べる。. 方を自己評価の指針としつつ,モニタリングで得. 入業務を行った。全員で納期に間に合うように取. た新しい情報を基に自己決定しなおすプロセスが. り組むという目標設定をすること,全工程を経験. 「自己の高まり」だと考える。そして自己を高め. して,自分や仲間の得意な工程を知ること,学習. る授業として,自分や仲間の経験から,より良い. の中に振り返りによる自己評価,他者評価の場面. 方法や考え方等の方略を導き出し,仲間の中で自. と自己決定の場面を設定することで,自己や他者. 分らしい行動に調整していく場面を設定した授業. の理解を深め,協力・協働することを学習できる. を継続して行う単元を設定した(table 2)。. ように考え,授業のねらいを以下のように設定し. ⑸ 授業のねらい. た。. 本実践では高等部の作業学習として,メール封. ①自分や仲間の作業状況を考えながら,より効率. 153.

(7) 清水 拓海・古城 瞳・加藤 琢也・梅﨑 誠・土屋 和彦・横田 雅美・厚谷 摩紀・越橋 規芳・松倉 泰介・三笠加奈子・北村 博幸. Table 2 本事例における単元の計画 時. 学習の目標. 活動内容. 1~3. ●全ての工程を経験する。 ●自分や仲間の作業状況を記録映像から理解する。 ●正確な作業のためのポイントを知る。 ●自分の作業を評価し,良い点や改善点を知る。. 4~8. ●自分や仲間の得意な工程(複数) ,苦手な工程を理解する。 ●自分や仲間の作業状況を記録映像や所要時間から理解する。 ●正確な作業のためのポイントを意識し続ける。 ●自分や仲間の作業を評価し,良い点や改善点を認め合う。. 9~12. ●自分や仲間の作業に対する得手,不得手を考えながら担当工程を選択する。 ●自分や仲間の作業状況を記録映像や所要時間,現場の様子から理解する。 ●作業の精度を意識しながら納期に間に合わせる。 ●協働作業の結果を評価し,良い点や改善点を認め合う。. 13~20. ●自分や仲間の作業状況を考えながら,より効率的に協働する。 ●自分や仲間の作業状況を記録映像や所要時間,現場の様子から判断する。 ●作業の精度を維持しながら納期に間に合わせる。 ●協働による作業効率の向上をたたえ合う。. 的に協働する。 ②自分や仲間の作業状況を記録映像や所要時間, 現場の様子から判断する。. ◦ 用紙の3つ折り ◦ 丁合 ◦ 封入 ◦ 封かん ◦ ラベル貼り ◦ 仕分け ※ 時期によっては 内容を選出するこ とがある。. 考えをもって活動しながら,授業のねらいに迫っ ていけるだろう」という仮説を単元に落とし込ん でいった。. ③作業の精度を維持しながら納期に間に合わせる。. 「人とのかかわり合いの中で」の部分は,本単. ④協働による作業効率の向上をたたえ合う。. 元は6名の小集団での学習を基本とし,他者との. ⑹ 題材について. かかわり合いが発生するようにした。「自分や仲. 本実践では, 高等部の「進路・作業」の学習で,. 間の経験を基に」の部分は,メール関係業務の全. 校内から受注を受けてメール関係業務を行った。. 工程を経験し,映像を振り返って自他の得意な作. メール関係業務では,発注書で依頼された納期に. 業を知る場面を設定した。「より良い方略を自己. 間に合うよう,作業を協力して進めることを目標. 決定できるような授業」の部分は,生徒自身が得. とする。生徒が役割を分担するだけでなく,状況. 意な工程を選択すること,納期の設定による作業. に応じて助け合うことで作業が効率的に進み,結. の時間短縮を目安として評価した。「生徒は仲間. 果,納期に間に合うことにつながると考えた。ま. の中で自分の考えをもって活動しながら」の部分. た,協力して目標を達成することで,協働に対す. は,毎回の授業の中に自己選択・自己決定と自己. る達成感や成就感を得られると考えた。自己選. 評価・他者評価の場面を設定した。「授業のねら. 択・自己決定は,担当工程を選択・交渉したり,. いに迫っていけるだろう」の部分は,①自分や仲. 仲間を手伝ったり,応援を求めたりする場面で設. 間の作業状況を考えながら,より効率的に協働す. 定できるであろう。また,自己評価・他者評価は,. る。②自分や仲間の作業状況を記録映像や所要時. 仲間の作業を手伝う等の行動が作業の成果に影響. 間,現場の様子から判断する。③作業の精度を維. する様子を振り返る場面で設定できると考えた。. 持しながら納期に間に合わせる。④協働による作. ⑺ 仮説の落とし込み. 業効率の向上をたたえ合う。以上の4つの授業の. 「人とのかかわり合いの中で,自分や仲間の経. ねらいを設定した。(Table 3). 験を基に,より良い方略を自己決定できるような 授業を設定することで,生徒は仲間の中で自分の. 154.

(8) 生徒一人一人の自己を高める授業. Table 3 本事例における仮説の落としこみ 仮説. 授業内の設定. 人とのかかわり合いの中で. 6名のグループで協力する場面の設定. 自分や仲間の経験を基に. 全員の生徒がメール封入業務の全工程を経験し,その様子を映像 で確認することにより自他の得意な工程を確認. より良い方略を自己決定できるような授業. 生徒が得意な工程を自己決定できる場面を設定し,納期を目標と して活動. 生徒は仲間の中で自分の考えをもって活動し ながら. 自己選択・自己決定の場面と自己評価・他者評価の場面を設定. 授業のねらいに迫っていけるだろう. 4つの目標を設定 1)自分や仲間の作業状況を考えながら,より効率的に協働する 2)自分や仲間の作業状況を記録映像や所要時間,現場の様子か ら判断する 3)作業の精度を意識しながら納期に間に合わせる 4)協働による作業効率の向上をたたえ合う. 2.手続き. ⑵ 自己評価・他者評価場面の設定. ⑴ 自己選択・自己決定場面の設定. 自己評価・他者評価場面では,自分の状況と周. 自己選択・自己決定を促す手立てとして,作業. 囲の状況を確認して比較し,作業の進捗状況につ. 種を複数用意し,全体の作業効率を考えながら,. いて考える場面を設定した。また,授業の最後に. 自分の得意な工程を選択することや,仲間の苦手. 生徒自身が自分の行動や友達の行動を振り返るた. な工程を自主的に選択することで,全体の効率を. めの手立てとして,その日の作業の状況や,仲間. 考えて行動できるように促した。また,全員で協. に応援を要請する場面や仲間を手伝っている場面. 働して納期に間に合うように作業をするという目. など,協働している部分について撮影し,TVモ. 標を共有し, 自分の担当の工程が終わったときに,. ニターを使って動画や静止画のモニタリングを. 仲間の作業を手伝うことができるかどうか自分で. 行って自己評価や他者評価を行った。(Fig.2). 判断する場面を設定した。同様に,作業が終わっ ていないときに仲間に応援を要請する場面を設定 した。.         . Fig.2 本実践における自らをコーディネートする力を高めるPDCAサイクル. 155.

(9) 清水 拓海・古城 瞳・加藤 琢也・梅﨑 誠・土屋 和彦・横田 雅美・厚谷 摩紀・越橋 規芳・松倉 泰介・三笠加奈子・北村 博幸. 3.結 果. ⑶ まとめ. ⑴ 自己選択・自己決定場面における経過と変容. この取り組みでは,生徒の変容が見られ,以下. 自分の作業を選択する場面では,作業効率を考. の4つの授業のねらいに迫ることができた。①自. えて選択し,同じ作業を選択してしまった場合に. 分や仲間の作業状況を考えながら,より効率的に. は譲り合うことができるようになるなど,納期達. 協働できた。②自分や仲間の作業状況を記録映像. 成のためにより効率の良い選択ができるように. や所要時間,現場の様子から判断できた。③作業. なった。仲間の手伝いをする場面では,「手伝い. の精度を維持しながら納期に間に合わせることが. ます」と自分から声をかけることや,仲間に対して. できた。④協働による作業効率の向上をたたえ合. 「手伝ってください」と依頼すること,依頼を引き. えた。. 受けて手伝うことができるようになった(Fig.3)。. 授業の中で生徒に自己選択,自己決定の場面と, 実態に応じたモニタリング等における自己評価・ 他者評価場面を適切に設定して作業を行うこと で,生徒の自己決定に変容が見られ,作業の成果 が上がった。学習の様子を動画や静止画で振り 返って客観的に評価し,より良い方略を探って実 行していくことは,作業学習だけでなく他の学習 場面にも応用できることであり, 「自己を高める」 有効な手法の一つと言えるのではないか。今後, 別のグループで同様の活動を行うことや,同じグ. Fig.3 仲間を手伝っている様子. ループで別の学習を行うことなどで,仮説をさら に検証していきたい。. ⑵ 自己評価・他者評価場面における経過と変容 自己評価・他者評価場面では,自分の状況と周 囲の状況を確認して比較して理解し,次の行動に. Ⅳ 考 察. 移行することができた。また,授業の最後に作業. 授業の中に「自らをコーディネートする力を高. の様子をモニタリングし,自分の行動や友達の行. めるPDCAサイクル」に合わせた自己選択・自己. 動を振り返る場面では,所要時間が短縮できたこ. 決定により「自己調整力」を,自己評価・他者評. とを喜び合ったり,協働できた場面を振り返り,. 価によって「自己教育力」を高めることで, 「自. 作業を効率良くできた理由を発言できるようにな. らをコーディネートする力」の高まりと,より深. るなど,変容が見られた(Fig.4)。. い自己理解につながった生徒が見られた。 これまでに検証してきた,主体的な自己選択・ 自己決定や,根拠のある自己評価・他者評価を促 す支援を活用して,「自らをコーディネートする 力を高めるPDCAサイクル」に即した場面を授業 に設定することで,授業の中でモニタリングに対 する生徒の反応や,自己決定に至るプロセスなど において,変容が見られた。また,授業の中で「よ り良い方略を自己決定する力」が育まれ,「自ら をコーディネートする力を高めるPDCAサイク. Fig.4 協働の場面を振り返っている様子. 156. ル」が生徒の中で主体的に行われる場面が見られ.

(10) 生徒一人一人の自己を高める授業. た。このことから,今回の実践では, 「自らをコー. 特別支援学校(2013) :特別支援教育の授業づくり「社. ディネートする力」を高めるための指導が有効な. 会とかかわる力」を育てる!6つの支援エッセンス.. ことがうかがわれた。 実践事例では,根拠のある自己評価の方法とし て,タブレット端末やTVモニターを使用したモ ニタリングを行ったが,多様な生徒の実態に応じ た方法を授業の中に設定することや,生徒の理解 度については教師がうかがい知ることができない 部分があるなど,自己評価の方法についての課題 が分かった。 本研究では,授業の中で生徒が自己の行動の正 しさや改善の方略について発見・学習し,それを 基に再度自己決定できるような場面を設定するこ とで, 「自らをコーディネートする力」を高め, 生徒が自己をより深く理解し,集団の中で自分の 良さを発揮したり,他者と適切にかかわり,他者 を理解したりする力を高めるという, 「自己の高 まり」を目指していた。今回は,全ての生徒に「自 己の高まり」という成果が十分に見られたとは言 えず,小さな成果にとどまった生徒に対して,ど のような支援が有効となるかについて,さらに検 証していく必要があるであろう。 学校を卒業し,社会生活を送る生徒たちが,自. 明治図書出版株式会社. 小島道夫・石橋由紀子編(2008) :発達障害の子どもがの びる!かわる!「自己決定力」を育てる教育・支援. 田中道治・都筑学・別府哲・小島道夫編(2010) :発達障 害のある子どもの自己を育てる.ナカニシヤ出版. 北海道教育大学附属特別支援学校(2010):北海道教育大 学附属特別支援学校研究紀要,第24号. 北海道教育大学附属特別支援学校(2010):北海道教育大 学附属特別支援学校研究紀要,第25号. 北海道教育大学附属特別支援学校(2011):北海道教育大 学附属特別支援学校研究紀要,第26号.. (清水 拓海 附属特別支援学校 教諭) (古城 瞳 附属特別支援学校 教諭) (加藤 琢也 附属特別支援学校 教諭) (梅崎 誠 附属特別支援学校 教諭) (土屋 和彦 附属特別支援学校 教諭) (横田 雅美 附属特別支援学校 教諭) (厚谷 摩紀 附属特別支援学校 教諭) (越橋 規芳 附属特別支援学校 教諭) (松倉 泰介 附属特別支援学校 教諭) (三笠加奈子 附属特別支援学校 教諭) (北村 博幸 函館校 教授) . 分の獲得した力を生かして,充実した生活を送り 続けるためには,日常的に自分の行動を振り返り, 他者の様子を観察するなどして,自分の行動を決 定していく力を高めておく必要がある。そのため には,限られた場面での指導にとどまらず,学習 活動全体で自己選択・自己決定の場面や自己評 価・他者評価の場面を設定し,生徒の「自己調整 力」や「自己教育力」ひいては「自らをコーディ ネートする力」の高まりを目指していくことが望 まれる。. Ⅴ 文 献 太田研(2013):自閉症スペクトラム障害児のセルフ・モ ニタリングの行動調整機能に関する研究.発達研究, 第28巻,29-40. 北村博幸・五十嵐靖夫・細谷一博・北海道教育大学附属. 157.

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