• 検索結果がありません。

児童の自己有用感を高める授業づくり -

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "児童の自己有用感を高める授業づくり -"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

児童の自己有用感を高める授業づくり

-児童の言葉を活かす手立てを通して-

高度学校教育実践専攻 実習責任教員 若井ゆかり 教員養成特別コース 実習指導教員 末内 佳代 長澤 実花

キーワード:自己有用感,児童主体

Ⅰ 課題設定の理由

筆者は,教職大学院に入学し,講義を通して 授業づくりに関して学ぶ中で,児童が主体とな ることが重要であると気付いた。しかし,イン ターンシップの授業実践では,指導案の流れを 意識するあまり誘導的な発問や筆者の言葉でま とめてしまうなど,児童が主体となる授業とは ほど遠い実践となっていた。本来授業とは児童 が活き活きと自分の思いや考えを伝え合い,児 童の言葉により,児童が主体となって進められ ていくべきものである。そこで,児童の言葉を 活かした授業づくりとは何かをあらためて問い なおしたいとの思いを強くもった。またその中 で,児童の言葉を授業の展開や板書に活かして いくことで,課題の発見や解決に児童が主体と なって取り組んでいく授業が実現されると考え た。

このように児童の言葉を活かすことで,児童 が課題の発見や解決に主体的に関わっている姿 を筆者は児童の自己有用感が高まっている姿と 捉え,本研究課題を設定した。

Ⅱ 1 年次の実践研究

(1)大学院授業における授業実践

授業科目「授業実践研究Ⅰ」と「授業づくり のチーム演習」において国語科の授業実践を行 った。振り返りの際,課題として,対象学年の 児童の実態に合った学習活動ができていなかっ

たことや,教材と児童の実生活との関連付けが 不十分であったことなどが挙がった。これらを 意識しながら,主免教育実習及び基礎インター ンシップにおける授業づくりに臨んだ。

(2)基礎インターンシップ

A 小学校第 2 学年において,算数科「三角形と 四角形」(1/12)の授業実践を行った。本単元で は三角形と四角形の定義を理解することをねら いとしている。教材の動物の挿絵を基に,動物 を囲んでできた形を図形カードにしたものを仲 間分けし,三角形と四角形の定義の理解につな がるようにする場面である。ここで大きく二つ の課題が見つかった。

①児童の発言の取り上げ方

動物を直線で囲む活動に入る際には,「(絵の 周りにある)点と点をつないだらいいと思う」

と発言した児童がいた。しかし,筆者はその場 で発言を拾わず,後で改めて「点と点をつない で直線を引く」ということを指示する形になっ た。児童自身が問題解決につながる手立てを見 つけることができたものの,その発言を拾って 活かすことができなかったことで,動物を直線 で囲むことが児童にとって「やらされている」

作業になってしまったと言える。

②児童の思考が見えない板書

筆者の問いに対して発表した児童の言葉を書 き残し,筆者の言葉でまとめるものとなってい た。図形カードの仲間分けを行う場面では,前

(2)

と考えが変わったことや気付いたことを他の児 童と口々に話し出す児童もいた。筆者がそうし たつぶやきを拾って残すことができていれば,

児童の思考の変遷や学びの履歴も残すことがで きたと考える。

Ⅲ 2 年次の実践研究

(1)総合インターンシップⅠ

ここまでの実践を通して見えてきた課題をも とに,児童の言葉を活かすための具体的な手立 てとして,児童の言葉を「広げること」,「つな げること」の 2 つを設定した。

広げる

児童の課題発見や課題の解決につながりそう な発言を拾い,学級全体に広げていくというこ とである。授業計画の段階で児童の思考の流れ を予測し,授業のねらいに沿ってどの場面でど のような発言を拾って広げるかを明確にしてお く。また,発言だけでなく,ノート・ワークシ ートなど書いたものも児童の言葉として広げ,

授業に活かし,多くの児童にスポットが当たる ようにする。

つなげる

個別の児童の考えが,対話を通してより新た な気付きや深い考えを生み出すことである。そ のための支援として,筆者は特に板書を大切に したいと考えた。板書は,児童が対話の中だけ では整理しきれない考えや気付きを残し,分か りやすく示すことができる。また,板書に児童 のつぶやきや気付きが言葉として残ることで,

板書がノートに写して書くためだけのものでな く,児童が自分たちの言葉のやり取りで授業が 作り上げられた,学びの跡として感じられるも のになると考えた。そのため授業では,拾った つぶやきや気付きを授業内容と結び付けて板書 して,児童の学びや思考の履歴が残るよう配慮 するようにした。

①授業の概要

配属学級にて,第 5 学年社会科の小単元「日 本の地形と気候」の授業を行った。ここでは,「広 げる」,「つなげる」の視点から,以下のような 手立てを実践した。

広 げ る

・自力解決の場面を設け,児童が自分の 考えをもった後,グループでそれぞれが 考えたことを伝え合う場面を設ける。

・グループ活動は司会を中心に進め,一 人一回は自分の考えを伝える場をもつ。

・机間指導で日本の地形や気候の理解に つながる意見を拾い,学級全体に広げ る。

つ な げ る

・ワークシートに書いた各自の考えを班 ごとにホワイトボードにまとめて書き 表した後,それを基に発表し合って互い の考えをつなげ,授業のまとめに活か す。

②成果と課題

〇成果

授業後のアンケートから,多くの児童が自分 なりの考えをもち,それを言葉や文字で表した り伝えたりすることができたことが分かった。

グループ活動の前に,自力解決の時間をとった ことで,児童一人一人が自分の考えをしっかり ともってグループ活動に入ることができた。ま た,事前にグループ活動の約束を共有していた ことでグループ活動の目的や自分の役割が明確 になり,全員が参加して話し合えた。普段は話 好きな児童が多い実態もグループ活動に適して いたと思われる。

〇課題

同じくアンケートから,自分の考えをもち伝 えられたものの,授業の中に活かされていない と感じている児童が多くいることが分かった。

その原因の一つは,筆者と児童の意識の差であ ると考えた。筆者が考える「児童の言葉を活か

(3)

す」とは,全体に向けての発言の有無に関わら ず,グループでの話し合いでの発言やワークシ ートなどに書かれた言葉を板書に反映させるこ とも含んでいた。アンケートの結果から,大半 の児童にとって「自分の言葉が授業に活かされ たかどうか」を判断する尺度は「手を挙げて発 言したかどうか」,「自分が発言したことに対し て教師の反応があったかどうか」ではないかと 推測される。

また,プロトコルから,児童がグループで話 し合ったことに対して筆者による価値づけが十 分にできていなかったことが分かった。児童は 一人一人が主体的にグループ活動に取り組み,

それぞれ工夫を凝らした発表をしていた。しか し,そうした児童の様子や,発表という一つの 成果をあげたことへの評価を筆者が児童に伝え ることができていなかった。そのため児童の中 で,グループ活動で伝え合った一人一人の言葉 や考えが授業のまとめに凝縮されているという 意識をもたせることができなかったと考える。

このように,総合インターンシップⅠでは,

児童の振り返りの言葉等から,児童が授業の中 で自分の思いや考えが活かされたと感じること 授業における児童の自己有用感を高めることが 大切であることが分かった。そこで,児童にと っての自己有用感を自分は「価値のある存在で あるという実感(存在感),他者や集団に対して 自分が役に立つ行動をしているという状況(貢 献),他者や集団から自分の行動や存在が認めら れているという状況(承認)」の 3 つの要素とし て捉える。(出典:栃木総合教育センター『高め よう!自己有用感』2015)この感覚を高めるこ とで,児童は意欲をもって,他者と協働しなが ら自主的に学ぶことができると考える。

(2)総合インターンシップⅡ

総合インターンシップⅠにおける授業実践の 課題を踏まえ,引き続き「広げる」,「つなげる」

の視点から,総合インターンシップⅡの授 業実践に向け,以下 2 点の取り組みを考えた。

児童の考えを活かす場面

手を挙げて発言する以外の場面においても児 童が自分の考えが活かされていると感じること ができるようにしていく必要があった。そのた めの具体的な手立てとして「児童の言葉を拾う 意識をもち,それを広げる場面を作ること」と

「授業に合ったグループ活動のしかたを考える こと」の二つを考えた。

評価の内容と伝え方

児童の自己有用感を高めるには,自分の言葉 が学級の役に立ったと感じられる児童が増える ような働きかけを行う必要があると考えた。そ のための具体的な手立てとして,「具体的な点を 挙げて肯定的な評価を行うこと」と,「他者評価 の場面を設定すること」の二つを考えた。

①授業の概要

総合インターンシップⅡにおいては,第 5 学 年社会科の小単元「世界とつながる日本の工業」

の授業実践を行った。上記の取り組みの内容を 踏まえ以下のように具体的な手立てを実施した。

広 げ る

・前時のワークシートに記入している振 り返りの内容を紹介する場面を設定し,

本時の導入に活かす。

・個人の考えを全体で共有する場面では,

発表できなかった児童も自分と似た考え にマグネットを貼るなどして,板書に児 童の意見が残るようにする。

つ な げ る

・自力解決やグループでの意見交換の際 には,児童の様子を観察し,活動への取り 組み方や内容についてよかった点を全体 に向けて評価できるようにする。

・ワークシートに他の児童の意見を受け て考えたことやよいと思ったところを書 くことができるようにし,他者評価の場 とする。

(4)

②成果と課題

〇成果

授業の振り返りの言葉には「自分の考えを言 えた時,うれしくて続けて話をしてしまう気持 ちだった。」,「最初は不安だったけれど,自分の 意見を発表したら,良かったという気持ちにな った。」など,感じたことが前回より詳細に表れ ていた。また,その他にも,「成長したんだなと 思いました。」,「ほっとする。」など,自分の成 長を感じたり,安心感をもったりした児童もい た。意見交換しながらじっくり考えたり,全体 に向けて言葉では伝えられなくても,マグネッ トで自分の意見を表したりすることができたこ とで,自信や達成感を感じることができた児童 もいたのではないかと考える。また,本授業で は,グループで考えを伝え合ったり,メモをし ながら他の児童の考えを聞いたりした上で,各 自が学習課題についてもう一度考えるようにし た。自分の考えを伝える場は前回と同様である が,「グループの意見」としてまとめなかったた め,各自の言葉がそのままの形で残り,アンケ ート結果からも「自分の考えを伝えられた」と いう気持ちの高まりが見られた。

〇課題

アンケートからは,ほとんどの児童が,自分 の考えをもって何らかの形で表し,誰かに伝え ることができたと感じているが,それが「授業 に活かされた」という意識とつながっている児 童はまだ少ないと言える。依然として,全体に 向けて発言をすることで「自分の言葉が活かさ れた」と感じる児童がいることが分かった。し かし一方で,全体に向けて発言する機会があっ たものの,自分の言葉が活かされなかったと感 じている児童がいることが分かった。その中に は,何度も挙手したりして発言をしていた児童 もいた。児童によって,本授業で行った取り組 みの効果に大きくばらつきが見られた。

これらの結果から,自分の意見を発表した児 童の中にも「自分の言葉が活かされていない」

と感じている児童がいるのは,発表して自分の 考えを全体に広げることはできたが,広げた自 分の言葉が,授業の中で学級全体の学びにつな がっているという実感をもてていなかったから ではないかと考えた。プロトコルを見ると,児 童が発表したことに対し,筆者は発言の内容を 簡単に言い換えるのみで,児童の言葉を活かし て学習課題について全体で考えを深めることが できていなかった。児童は,単に発言の機会を 与えられるだけでなく,自分の考えを基に学級 全体で考え,深めたり,新たな気付きを生んだ りすることができて初めて「自分の言葉が活か された」と実感することができると考える。

5.今後の展望

児童一人一人の言葉が息づき,自己有用感が 高まっている姿を実現させるためには,まず児 童が学習課題を自分ごととして捉え,考えたい,

解決していきたいと思っていることが大切であ る。しかし,ワークシートの振り返りの内容か ら,学習課題を自分ごとでなく,自分と切り離 して考えているような児童が多くいると分かっ た。児童の言葉を活かすための取り組みはもち ろん必要であり,実際にそれによって「みんな の役に立ててよかった」と感じることのできた 児童もいた。しかし,一部ではなく,学級すべ ての児童の想いや考えが息づいて,自己有用感 を高めることにつなげたい。そのためには,ま ず土台である「学習課題を自分ごととして捉え る」ことができるよう,今後も現場において,

本研究の課題と向き合い,日々の授業実践にお いて省察を続け,授業力向上に努めていきたい。

【引用文献】

栃木総合教育センター『高めよう!自己有用感』2015

参照

関連したドキュメント

ア詩が好きだから。イ表現のよさが 授業によってわかってくるから。ウ授

本学級の児童は,89%の児童が「外国 語活動が好きだ」と回答しており,多く

児童について一緒に考えることが解決への糸口 になるのではないか。④保護者への対応も難し

イ小学校1~3年生 の兄・姉を有する ウ情緒障害児短期 治療施設通所部に 入所又は児童発達 支援若しくは医療型 児童発達支援を利

参加者は自分が HLAB で感じたことをアラムナイに ぶつけたり、アラムナイは自分の体験を参加者に語っ たりと、両者にとって自分の

12 月 24 日に5年生に iPad を渡しました。1月には1年から 4年の子どもたちにも配付します。先に配っている iPad

本来的自己の議論のところをみれば、自己が自己に集中するような、何か孤独な自己の姿

わが国において1999年に制定されたいわゆる児童ポルノ法 1) は、対償を供 与する等して行う児童