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生徒の自己肯定感に及ぼす影響

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生徒の自己肯定感に及ぼす影響

著者 能勢 保幸

雑誌名 北翔大学北方圏学術情報センター年報 = Bulletin

of Northern Regions Academic Information Center, Hokusho University

巻 12

ページ 101‑107

発行年 2020

URL http://doi.org/10.24794/00003297

(2)

研究報告

構成的グループエンカウンターが発達課題を抱える生徒の 自己肯定感に及ぼす影響

能勢 保幸

北翔大学北方圏学術情報センター学外研究員

本研究は,構成的グループエンカウンター(SGE)による感情体験が発達課題を抱える生徒 の自己肯定感に与える影響を明らかにすることを目的とした。

現在の児童・生徒,学生はいろいろな発達課題を抱えているといわれている。それが学習面 や生活面,進路に関することであったり,人間関係についての悩みであったり,その対象者が 置かれている環境によって様々である。しかしそれらのほとんどは自己肯定感が低下している のがその原因の一つではないかと考えられている。では,自己肯定感が高まれば,これらのこ とが少しでも改善されるのだろうか,あるいは,自己概念の変容によって自己肯定感が高まる のだろうか。

最近の教育現場では,HR 担任が生徒の全ての課題を抱えるのではなく,生徒の支援に関す ることは,チーム支援として学校全体で取り組んでいる学校も散見される。また,教育カウン セリング理論からの実践的な研究も見受けられる。

本研究は,発達課題を抱える様々な生徒に対して教育カウンセリングの一つとされる構成的 グループエンカウンター(SGE)を体験させることによって,生徒の自己肯定感がどのように 変化したのかをアンケート調査及び半構造化面接法の手法でインタビューを行い,質的研究と して探究した。結果,実施の前後で明らかに意識が変容し,それまでネガティブ思考であった 意識がポジティブ思考へと変化し,それが自己肯定感の向上へと繋がることが示唆された。そ して,自己肯定感が高まることで他者との関わりに関心を示すようになり,コミュニケーショ ン能力が向上する傾向がみられた。

キーワード:自己肯定感,SGE,自他理解(受容),語り,意識の変容

Ⅰ.問 題 と 目 的

.はじめに

教育カウンセリングを支える理論は あり,その中の 一つが構成的グループエンカウンターであるとされる

(新井, 。アメリカの実存主義的アプローチのク ラーク・ムスターカスに師事した國分康孝・久子により 提唱された構成的グループエンカウンターは,意図され た出会いの中で,できる範囲内で互いに本音と本音を開 示し合い交流することを求めることを目的としている。

それは,自己理解と他者理解に基づく人間関係づくりに 役立つことから,育てるカウンセリングの方法として有

効であるとされる。

構成的グループエンカウンター(Structured Group Encounter 以下 SGE)は,グループアプローチの技法の 代表的な一つとされる。野島( は,グループアプ ローチを「自己成長を目指す,あるいは問題・悩みを持 つ複数のクライエントに対し,個人または複数のグルー プ担当者が,言語的コミュニケーション,活動,人間関 係,集団内相互作用などを通して心理的に援助していく 営みである。」と定義している。

國分( によれば,エンカウンターとは,「ある がままの自分に気づき,それを他者にオープンにする。

それを受けて他者も自分の内界をオープンにする。そし てお互いの世界を共有する。この心的状況をふれあいま たはエンカウンターという。」と最終的な結論として著

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書の中で報告している。SGE は今日までの間,自己理 解や他者理解,自己開示や他者受容,また自己肯定感を 育成するなど心理教育的な観点から教育現場で活用され てきている。

國分( は,SGE における感情交流を重視して おり,また,水野ら( によれば,SGE において は豊かな感情体験をすることが心理成長のための必須条 件になると論じている。

それでは,SGE は教育現場で,自己概念や自己肯定 感,他者とのコミュニケーションのあり方にどのように 関連していると考えられるのだろうか。すなわち,筆者 は,SGE を教育現場で実践することで生徒の意識がど のように変化していき,その感情体験が自己肯定感にど う影響するのかを探究したいと考えた。

教育界,とりわけ小・中学校,高等学校において「自 己肯定感」というキーワードが頻繁に取り上げられてい る。

日本の教育現場において「自己肯定感」が注目されは じめたのは,日本の子どもの自己肯定感が諸外国に比べ て低いことが指摘されたことがきっかけである。

自己肯定感と意欲との関連性については,中央教育審 議会( )による「次代を担う自立した青少年の育成 に向けて(答申)」の中で,自己肯定感の低下が意欲低 下と関連していることが指摘されている。例えば,福島 県教育委員会( )では,自己肯定感の高い子どもほ ど意欲があり前向きであるとしている。岩手県立総合教 育センター( )では,支援が必要な生徒の自己肯定 感の低下を指摘し,自己肯定感の低下が社会生活への適 応に影響するとして い る。ま た,山 梨 県 教 育 委 員 会

)では,他者を思いやり社会的絆を深めようとす る姿勢を育む基盤として自己肯定感の存在が示されてい る。

このように自己肯定感は,日本の教育現場において

「他者との関係」や「活動意欲」など,さまざまな要素 と関連づけられ語られている。そして,その要素の多く は子どもの学校生活全般に影響するものである。そのた め「自己肯定感」は,現在の子どもを語るキーワードの つとなっており, 年 月に行われた中央教育審議 会においても,我が国の危機的状況の つとして自己肯 定感の低下を指摘している。

ここ十数年間,教育現場をはじめ,教育職員研修など 多岐にわたって SGE が取り入れられている。小・中学 校,高等学校では,クラス内での人間関係づくりや生徒 の心理発達を目的として実施され,大学では,自己概念 と人間関係に関する研究や心理的効果に関する研究が行 われている。

例えば,高校生を対象とした研究では,青戸ら(

による,定時制の事例研究が知られている。青戸らは,

自己肯定感への影響要因を検討した。その結果,「わか りやすい学習」,「良好な人間関係(先生・友人)」,「社 会での経験」が示唆されている。また,吉田( は,SGE を授業で活用し,授業時間内でも人間関係の 広がりができることを実証した。他方,岡田( は,SGE が入学当初の集団の人間関係づくりに有効で あることを検証している。

文部科学省は 年の生徒指導提要において,教育相 談の新たな展開として SGE,ピアサポート活動など つの活動を教育相談に必要な人間関係を養う手法として 提起している。また,同省は,同年,コミュニケーショ ン教育推進会議を開催し,時代の変化に対応できる子ど もたちに求められる能力としてコミュニケーション能力 の育成を重要課題として掲げている。

筆者が,本研究で明らかにしたいのは,SGE 体験が 生徒の自己肯定感に及ぼす影響についてであるが,仮説 として,自己肯定感の向上がコミュニケーションの向上 に繋がると考えている。

SGE に関する過去の研究論文は,そのほとんどが数 値化され,その有意性を問う尺度を用いた量的研究が多 い。したがって,質的研究論文が極めて少ない。

果たして,人の内面に存在する感情を数値化して,そ の結果を考察することで深い心理的感情を理解できるの だろうかという疑問を生じる。筆者は,量的な研究はそ の良さがあり,質的な研究もまた,量的研究とは違う良 さが存在すると考えている。双方にそれぞれの目的に応 じた適切な分析方法が内在するのである。

野島( は,SGE 課題研究のひとつとして,よ り詳細なプロセスを理解するためには事例研究が不可欠 であると述べている。他方,水野( は,「尺度等 を用いて単に量的な比較・検討をするだけでなく,SGE の流れを質的にも捉える必要がある。」としている。ま た,能勢( は,質的研究法は,研究対象者の主 観的なプロセスを重視し,量的なものには還元できない 言語的・概念的分析を行うことにより,探索的研究ある いは仮説生成的研究を可能にするものと考えられるとし ている。これらのことを踏まえて,筆者は,本研究は質 的研究として探究することとした。

.目 的

本研究は,発達課題を抱える生徒が SGE を体験する ことによって,自己肯定感がどのように高まるのか,自 己肯定感が高まることによってどのような意識の変化が 見られるのか,そして,そのことがコミュニケーション 能力にどう影響するのかを探究することを目的としてい る。

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入学当初から約 か月の期間,SGE を実施した。感 情体験が自己肯定感に与える影響について,また,自己 肯定感の向上がコミュニケーション能力に与える影響に ついて質的に探究し今後の研究の示唆を得ることを目的 とした。

Ⅱ.方 法

.対象者

対象者は, ××年に高等学校に入学した 年生 名

(男子 名・女子 名)である。

対象者の大多数は,高校入学前の小・中学校時代に何 らかの躓きがある。例えば,対人関係が上手く築けな かった者,コミュニケーション能力が低い者,自閉的な 者,学 習 障 害 が あ る 者,ADHD(注 意 欠 陥 多 動 性 障 害)や ASD(自閉症スペクトラム)の者が比較的多く 在籍する学校である。これらの対象者は,自己肯定感や コミュニケーション能力が極めて低いとされる。

.方 法

調査方法はアンケート(記述式)及びインタビューを 実施した。アンケートは,各エンカウンター実施後に振 り返りとして行った。そして,全て( 回)の SGE 終 了後に,記述式のアンケートを実施した。そのアンケー トを元に半構造化面接法の手法でインタビューを実施し た。これらのデータは KJ 法に準じて分析した。

本研究は, カ月に 回から 回のペースで入学当初 から夏休み直前まで計 回実施した。

どのエクササイズがより効果的か,エクササイズの種 類,それを行う時期などを考慮して実施した。

カウンセリングの技法は 以上あるとされ,エンカウ ンターは つとされている。エンカウンターの技法は,

インストラクション(指示・説明),デモンストレー ション(自己開示による例示),エクササイズの展開,

インターベンション(介入),シェアリング(自己開示 の相互交流)の つである。そして,エクササイズは 以上あるとされる。

今回実施した SGE は以下の通りである。

「バースディチェーン,二者択一,大切な物ランキン グ,インタビューと傾聴,みんなでリフレーミング,い いとこさがし」の 項目である。

その中でも特に顕著なエンカウンターの特徴を記述す る(國分,

人以上のふれあい体験の一つとして,「バースディ チェーン」がある。主に学級開きの時に行うエンカウン ターである。これは,クラスの雰囲気づくりを行うこと

が目的である。一言も喋らずに 月 日から 月 日ま での誕生日順になるように円を作って並び直すエンカウ ンターである。

自己理解及び他者理解の一つとして「二者択一」は,

選択にあたっての価値観にふれるとともに,意識性と責 任性を高めることを目標にしている。このエクササイズ は,あらかじめ構造化された項目の中から二者の内の一 つを選択し,その理由を述べる。このことによって,自 己の意識の確認と他者の考えを知ることができる。

自己肯定感を高めるエンカウンターの一つとして「み んなでリフレーミング」がある。このねらいは,自分の 短所が,見方を変えれば長所でもあることを知るエンカ ウンターである。短所を長所に変えて言い返すことに よって相手に気づかせることがねらいである。

「インタビューと傾聴」は,予め構造化された質問に 対してインタビューを行い,その質問に対して答えても らう形式をとる。傾聴の手法で行う。

「大切な物ランキング」は, 項目の中から,大切な 物の順番に順位を付け,その理由を述べる方法をとる。

自分と他人の価値観や考え方を知ることができる。

.ジェネリックとスペシフィック

國分( によれば,教育カウンセリングの目的 は,「育てる」が主で「治す」は従である。つまり,育 てるカウンセリングが教育カウンセリングの核概念であ るとされる。そして,教育カウンセラーの役割とは,個 別面接,グループアプローチ,教育環境の育成,問題状 況への対応,の四つである。

SGE のエンカウンターには,ジェネリック SGE とス ペシフィック SGE がある。ジェネリック SGE は,ふれ あいと自他発見による参加メンバーの「行動変容」(自 己啓発,自己変革,究極的には人間的成長)を目的とし

「構成」された集中的グループ体験である。他方,スペ シフィック SGE は,ふれあいと自他 発 見 を 目 標 と し て,学習者の教育課題の達成を目的にしている。ここで いう学習者とは,児童・生徒,学生,カウンセリング研 修の受講者である。

スペシフィック SGE は,ホームルームや授業の中で 行われる。例えば,キャリア教育(進路指導),総合的 な学習の時間,特別活動教育,人権教育,教科指導の中 で展開される。

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Ⅲ.結 果

.分析手続き

SGE で実施した ア ン ケ ー ト 調 査 用 紙(フ ィ ー ル ド ノーツ)から,記載内容の傾向の高いキーワードと考え られる文言を抜き出した。具体的には,SGE を体験し て物の見方や考え方の意識が変化した点,自己理解(受 容)・他者理解(受容)ができた点,コミュニケーショ ン能力向上に役だったと考えられる点,その他全体を通 して気づいたことや役に立ちそうだと思った点など,そ れぞれキーワードとなるものを抜き出し切片化した。

この記述式のアンケート調査用紙の結果を KJ 法(川 喜多, ) )に準じて分類・解析することとし た。

まず,アンケートのデータから必要と考えられる全て のキーワードを項目ごとに分け,ラベルを付与し,グ ルーピングを行った。グループとしてまとめた結果を切 片化する段階でラベル名・グループ名及びグループ編成 の練り直しと修正を重ねた。グルーピングした結果の繋 がりを考えて,図としてまとめて(構造化)それらをも とに文章化(切片化)した。

.結 果

研究結果は,記述式のアンケート調査内容及びエンカ

ウンターを実施している際の観察記録,インタビュー内 容を総合して判断し分析対象とした。その際,質的研究 の一つである KJ 法によって構造化した。

Ⅳ.考 察

本研究は,構成的グループエンカウンター(SGE)に よる感情体験が発達課題を抱える生徒の自己肯定感に与 える影響を探究した。

アンケート調査用紙(記述式)及びインタビューの両 方のデータから,質的研究法の一つとされる KJ 法に準 じて分析した。(図 KJ 法による分析結果参照)。

これらの分析結果を元に各カテゴリー別に考察し,本 研究の見解を述べる。

.自己理解・自己受容

自己理解・自己受容ができたと答えたポジティブな対 象者は全員であり,逆に,ネガティブになったと捉えた 対象者は一人もいなかった。このことから,SGE を体 験することで,普段接したり話したりすることがない他 の生徒との感情交流が,自分自身の内面の漠然とした意 識を具体的な意識へと変化させたと考えられる。

分析結果より,『漠然が深い理解へと変わった』や

『ネガティブからポジティブ思考になった』,『長所や好 みを再確認できた』,『自分の考えがさらに深く理解でき た』という結果がそれを物語っている。

KJ 法による分析結果

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自分の気持ちをしっかりと捉え考えられるようになる ことで,それまで消極的で閉鎖的だった感情が,開放的 になり,さらに,自分の気持ちを表現することで自己を 肯定しようとする自己概念が意識化されたと考えられ る。それまで物事を複雑に考えていた思考がもっと単純 に考えられるようになり,自分自身がどう考えれば良い のかが把握できたことが伺える。これは,自己の感情の 表現と他人の意見を聴くことで,自己感情の再発見に繋 がったと考えられる。

また,SGE を通して相手のことを考える必要性に気 づいた点や,人との関わり合いで個人としての経験値が 増えた点がインタビューからも伺える。SGE を体験す ることで,自己理解が高まり,同時にそれが自己受容と なった結果である。

自己理解や自己受容は,自己肯定感を高める要素の一 つであると考えられる。

.他者理解・他者受容

他者理解・他者受容から見えてきたものは次の通りで ある。

多くの他者の意見や感情を聴くことで,自分と同じ考 えや違う考えを知ることができた点や,自己と他者とは 別者であることの再確認ができた。そのことは,『他者 の物の見方・考え方が理解できた』や『自己と他人とは 別者であることがわかった』から読み取れる。

また,自己と同一意見に対しては心理的距離間が近く なり,『楽しいと感じた』や,反対に,自分には無い多 くの意見を聞くことで『他人の意見の発想の豊かさを 知った』や『他人に対する興味関心が出てきた』ことへ と繋がったと考えられる。

さらに,『他者を知ることは自己を知ることだ』か ら,他者を知り受け入れることで自己の存在価値を見い だすことができたのだと考えられる。

また,『どうすれば他者が喜んでくれたり,嫌な気持 ちになるかが理解できた』や『自分と趣味の合う人を見 つけられた。』という語りから,SGE は,人とのコミュ ニケーションのあり方や人間関係の構築にも役立ってい ることが伺える。

結果から,SGE を体験することで,他者理解・他者 受容ができたと考えられ,他者理解が自己理解に繋が り,他者理解は自己理解と表裏一体であることが示唆さ れた。そしてそのことは,自己肯定感への向上に十分に 影響していると考えられる。

.意識の変容・思考の変化

SGE を体験して物の見方や考え方がどのように変化 していったのだろうか。

インタビューでは『クラス内で会話できていなかった 人と沢山話すことが出来るようになった』という語りや

『価値観の違いを深く実感できた』こと,『人の良い所 を細かく考えられるようになった』ことから,それまで は他人に対してそれほど関心を示さなかったり,人と関 わることにも興味がなかったり,他者の欠点ばかりが目 についていたが,体験後は他者との関わりに興味関心を 示し,他者の考えを受容し,他者の長所が理解できるよ うになっていったと考えられる。このことは,『他人の 気持ちを考えるようになった』や『他人の欠点が長所に みえるようになった』,『人によって思考が異なることが わかった』からも伺える。他者を理解・受容することで 自己の意識に変化がみられた。

また,コミュニケーションが苦手だったが,体験を通 してコミュニケーション能力が身についたこと,『コ ミュニケーション能力が向上した』や,他人の話を聞く だけではなく,自分の意見を言えるようになったこと が,自己肯定感が向上した要因の一つになったと考えら れる。

他方,最初は友人を必死に作ろうと思っていたけれど 体験後は自分と他人は違う存在であるという意識をはっ きりと持ち,「自分は自分でいいんだ」という意識の変 容から,無理をして友人を作る必要はないことに気づい たという少数意見もあった。

.コミュニケーションの取り方について

SGE を体験したことでその後のコミュニケーション の取り方にどのように役に立ったのだろうか。

主に「インタビューと傾聴」を体験することで『他人 と話すときの傾聴の仕方が身についた』,『聴くことの大 切さが理解できた』,『相手の話を聞く態度を改めると上 手く行く』という意見が多かった。

インタビューの仕方と傾聴の仕方を体験したことによ り,自分と相手との距離間を掴むことができ,自分を受 け入れてもらうためには相手を受け入れることが大切で あることを理解したことが伺える。

『自分を話すことも他人の話を聞くことも大事』であ る点からコミュニケーションには,傾聴の姿勢が大切で あり,相手の話をきちんと聴く気持ちと自分の話を丁寧 に話すことが必要である。

また,『話す内容を深くしたり少し変えてみる』とい う結果から,傾聴と同時に話し方やその内容の変化を加 えるとさらにコミュニケーションが上手く行くのではな いかという点にも気づいたことが伺えるのである。

他方,もともとコミュニケーションが苦手であり,高 校に入学した当初はさらに苦手意識が強かったが,SGE を体験したことで,その感情が変化し,それほど苦手で

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はなくなったという意見もあった。

対象者の多くは,自分と他人の距離間を掴むことがで き,自分とは何か,他人とは何かということを理解し,

その結果,他人と交流を持ちたいという気持ちになって いったと考えられる。

.自己肯定感に与えた影響

対象者が SGE を体験したことにより《自己肯定感》

にどのような影響を与えたと考えられるのだろうか。

図 より,自己肯定感を向上させるためには,自己理 解・受容と他者理解・受容が必要な要因であり,そのふ たつの要因が自己の意識の変容・思考の変化,コミュニ ケーションの取り方へと繋がると考えられる。

具体的には,『SGE を体験してから人の長所や優れて いる点を見つけるのが上手になったし,傾聴するように なった』,『SGE を体験して苦手な人とどう上手く距離 をとって付き合っていくかがわかるようになってき た』,という語りから,それまで苦手だった人間関係の 構築に対して,一定の方法を見いだし,人と人との繋が り方やコミュニケーションの取り方が理解できるように なったと考えられる。自己肯定感が低いと物事に対する 姿勢が消極的で,他人との関係について関係を持とうと しないという観点からみれば,SGE 体験により自己と 他者を理解し受容したことがすなわち自己肯定感が向上 したと考えられるのである。

この自己肯定感の向上が,それまで消極的だった自分 が,他者に興味・関心を持ち始め,他者と積極的に関わ ろうとする意識になるのだと考えられる。

『以前はクラスメートとあまり話せなかったが,今は 特定の人と話せる仲になりました』という語りから,他 人に対して消極的だった自分が,他人という概念を知っ たことによって自ら積極的に話しかけ人間関係を構築し ていったと考えられる。

また,『SGE を体験したことによって,消極的だった 自分が積極的になり,結果,視野が広がり,今後は積極 性を持って多くのことにチャレンジしていきたい』とい う大変前向きな語りから,このような意識の変容は,SGE 体験により自信がつき,自己肯定感が向上した結果の表 れであると考えられる。

『自分の意見,感想を言うことについて,思いを言葉 にするのが苦手だという意識があったが,しっかりと言 えるようになった』という語りから,自分に自信を持つ ことで気持ちを他者の前で語ることができた,これも自 己肯定感が向上した結果であるといえる。

以上のことから,SGE を体験することにより自己肯 定感にポジティブな影響を与え向上させることが示唆さ れた。

Ⅴ.お わ り に

構成的グループエンカウンター(SGE)が発達課題を 抱える生徒の自己肯定感に及ぼす影響に関する研究を質 的研究として探究した。体験前と後では,それまで自信 がなく消極的かつ自閉的であった生徒が,自信を持ち他 人と積極的に関わろうとする意識の変化がみられた。こ れは,この体験が人と人とのふれあい体験であり,この ふれあいこそが自己理解・自己受容,他者理解・他者受 容,そして自己主張に結び付き,信頼感と自尊感情が促 進された結果,自己肯定感が高まったと考えられるので ある。

多様化される社会の中,教育界で様々な対応が迫られ る昨今,今後は発達課題を抱える人が増加すると予想さ れる。

自己肯定感を高めるための方法は複数あると考えられ るが,この SGE は非常に有効であると考えている。教 育現場等で教職員や生徒に対して体験させる必要性があ るのではないだろうか。他方,チーム支援という名で第 次から第 次までの支援方法があり実践されている学 校も散見される。今後は,学校全体がチームとなり様々 な課題を抱えている生徒の支援をしていかなければなら ないだろう。その支援の一つの方法として SGE は有効 であると考えられる。

文部科学省( から出されている現代的健康課 題を抱える子供たちへの支援から「自己肯定感を高めら れるよう困難な状況を乗り越えられるような体験の機会 を設ける。」,「他者と円滑にコミュニケーションを図る 能力を育てる。」という提言があり,特に,「自己肯定感

(自尊感情)」と「他者と関わる力」を強く前面に出し ている。本研究結果から得られた示唆から,これら自己 肯定感と他者と関わる力を高める対応策の一つとして構 成的グループエンカウンターが非常に有効な方法である と 考 え て い る。今 後,各 教 育 現 場 で,SGE が 益 々 発 展・普及されることを期待したい。

Ⅵ.引 用 文 献

)新井邦二郎( ).教育カウンセリングの理論指 導と評価, . ,pp ‐ .

)野島一彦( ).グループアプローチへの招待 現代のエスプリ, ,pp ‐ .

)國分康孝( ).構成的グループエンカウンター の理論と方法 半世紀にわたる探究の成果と継承

(図書文化)

)國分康孝( ).続構成的グループエンカウン

(8)

ター(誠信書房)

)水野邦夫・嶋原栄子・田積 徹・新美秀和・興津真 理子( ).合宿・自発 参 加 型 の 構 成 的 グ ル ー プ・エンカウンターにおける参加者の感情変動が自 己及び他者の捉え方の変化に及ぼす影響−自他への 信頼・不信及び個人・グループ過程の変化について

− 心 理 臨 床 科 学(同 志 社 大 学 心 理 臨 床 セ ン ター), , ,p .

)青戸奏子・村瀬まき( ).定時制高校生の自己 肯定感を高める要因に関する一研究.岐阜女子大学 文化創造学部, ,pp ‐ .

)吉田隆江( ).カウンセリング学会 回大会記 念論文集,p

)岡田 弘( ).カウンセリング学会 回大会記 念論文集,p .

)野島一彦( ).日本におけるエンカウンターグ ループの実践と研究 の 展 開.九 州 大 学 心 理 学 研

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)川喜田二郎( ).KJ 法−混沌をして語らしめる 中央公論社

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..KJ 法本部・川喜田研究所.

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