Title
[原著]80歳以上超高齢者に対する冠動脈バイパス手術
の検討
Author(s)
赤崎, 満; 下地, 光好; 上江洲, 徹; 山城, 聡; 伊波, 潔
Citation
琉球医学会誌 = Ryukyu Medical Journal, 24(3・4): 148-153
Issue Date
2005
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/1951
80歳以上超高齢者に対する冠動脈バイパス手術の検討
赤崎 満1),下地光好1),上江洲徹1),山城 聡2),伊波 潔2)
1)南部徳洲会病院心臓血管外科, 2)中部徳洲会病院心臓血管外科 (2005年11月15日受付, 2006年2月7日受理)
Coronary Artery Bypass Grafting in Octogenarians Mitsuru Akasaki , Mitsuyoshi Shimoji , Toru Uezul'
Satoshi Yamashiro2) and Kiyoshi Iha:2)
Department of Cardiovascular Surgery, Nanbu Tokusyukai Hospital Department of Cardiovascular Surgery, Chubu Tokusyukai Hospital
ABSTRACT
In recent years, an increasing number of coronary artery bypass grafting (CABG) has been performed on elderly patients. In our Department of Cardiovascular Surgery,
17 octogenarians underwent an CABG between November 1997 and September 2005. Pa-tients consisted of six males and ll females with a mean age of 83.0±1.9 years, rang-ing from 80 to 86 years. In 15 patients (88.3%) , the diseased coronary artery was either in the left main trunk or the triple vessels. The underlying ischemic heart disease was acute myocardial infarction in three patients and unstable angina in ll patients. The
rate of emergent and urgent CABG was 41.2%. CABG was performed with cardiopul-monary bypass in four patients and with off-pump CABG (OPCAB) in the remaining 13 patients. The mean number of grafts was 2.0 ±0.7. Hospital mortality was O% with elective CABG and 42.9% with emergent CABG. Overall hospital mortality was 17.6%. Long-term mortality was 14.3% (2/14 cases) and five-year survival rate was 75.1 Given the high rate of hospital mortality with emergent CABGs, we conclude that CABG
should be performed prior to a full unstable angma or acute myocardial infarction for patients over 80 years-of-age. Ryukyu Med. J., 24{ 3,4) 149-153, 2005
Key words: CABG, elderly patients, octogenarians, emergency surgery, OPCAB
緒 言
高齢化社会の本格的な到来や,生活習慣病患者および その予備軍の増加により,治療の対象となる冠動脈疾患 も増加している.経皮的冠動脈インターベンション
( percutaneus coronary artery intervention ; PCI)
は, drug-eluting stentの開発1-3)に代表されるように, 近年,急速に発展しているが,高齢者に対しては,いま だ問題が多い4,5)外科医には, PCIが困難な高齢者症 例に対しても,冠動脈バイパス手術(coronary artery bypass grafting; CABG)の適応を広げ,安全に行う
ことが求められている.今回,当科で経験した80歳以 上の超高齢者CABGの早期および遠隔成績を検討し, その手術適応および術式の妥当性や超高齢者手術の問題 点について検討し報告する. 対象と方法 1997年11月から2005年9月までに,当科で経験した 単独CABG症例は137例であった.うち80歳以上の超高 齢者は17例で,全症例の12.4%であった. Table lにそ の臨床的特徴を示した。不安定狭心症と急性心筋梗塞が 14例(82.4%)であり,冠動脈病変は左主幹部病変(left main trunk disease; LMTD)と3枝病変(triple vessel disease; TVD)が, 88.3%を占めた.術前危険 因子は,高血圧症11例,糖尿病6例,腎機能障害6例 (うち人工透析導入4例),脳血管障害4例,認知症3例 であった.大動脈癌も6例に合併していた(Table 2).
150 超高齢者に対する冠動脈バイパス手術
Table 1 Clinical characteristics of coronary artery bypass grafting (CABG)
1) Total number of Isolated CABG 137
2) Number of Octogenarians 17( 12.4 Age : 80-86 y.O. (mean 83.0±1.9 y.O.) M/F : 6/ll Type : unstable AP ll(64.8%) acute MI 3(17.6 stable AP 3( 17.6 Coronary disease : LMTD+TVD 6(35.3 LMTD 6( 35.3%) TVD 3( 17.6 DVD 2( ll.7%)
AP-angina pectons ; MI-myocardial infarction ; LMTD-left mam trunk disease TVD-tnple vessel disease ; DVD-double vessel disease ; y.0.-years old
Table 2 Preoperative risk factors in Octogenarians
Hypertension 11(65%)・Aneurysm
Diabetes melitus 6( 35%) ascending Hyperlipidemia 3( 18%) arch Renal insufficiency 6( 35%) abdominal
hemodialysis 4( 24%) iliac artery
Cerebrovascular disease 4(24%) ・ ASO 6(35%) 1 1 3 1 1 6%)
Dementia 3( 18%)・Mitral regurgitation 2(12%)
Collagen disease 1( 6%)・Preoperative pneumonia 1(
Table 3 0perative methods
On pump CABG 4(23.5%) cardiac arrest
beating heart, assist ECC
OPCAB 13( 76.5%) IABP support
(unstable 4, scheduled 1)
Emergent/Urgent 7( 41.2 Elective 10 58.8%)
ECC-extracorporeal circulation ; IABP-intra-aortic balloon pumping
術式は初期の4例(23.5%)にはon pump CABGを 行ったが,他の13例(76.E はoff pump CABG (以 下OPCAB)を採用した On pump CABG4例のうち 2例は心拍動下補助循環,残り2例は心停止下で行った. 術前より大動脈内バルーンパンビング(intra-aortic balloon pumping; IABP)が挿入されたのは5例であ
り,うち術前循環動態不安定のために挿入されたのが4 例,術中の血圧維持目的1例であった.緊急∼準緊急症 例は7例41.2 であった(Table3).バイパス本数は平 均2.0±0.7枝(1枝4例, 2枝9例, 3枝4例)であった. 使用グラフトは内胸動脈(internal thoracic artery;
ITA) 17本(左14本,右3本),大伏在静脈(saphenous
vein graft; SVG) 17本であった.左ITAは14本すべ て左前下行枝(left antero-descending artery; LAD) にバイパスした.右ITAは左回旋枝(left circumfrex artery; LCX) -1本,右冠動脈(right coronary art ery; RCA) -2本, SVGはLAD領域-6本, LCX-5本, RCA-6本,それぞれ吻合した.
結 果<
待機手術10例では,病院死亡はなかった.緊急手術 では, 7例中3例42.9%i が病院死亡であった(全体の病 院死亡は17例中3例17.牀i. 3例中1例は術翌日に術
Table 4 Published series on coronary artery bypass grafting in Octogenarians
Reference Year No.of Operative In-hospital lyear 5year published patients mortality(96) mortality( 96) survival(%) survival(%) Weintraub" Glower8 Peterson19 浦7) 滝上12) 向井11) 望月20) 福田21) Stamou" Our cases 1991 1992 1995 1996 2004 2004 2005 2005 2005 2006 10 10.5 * Ill 0 6 19 3 0 6 17 64 0.7 78.6 85.2 * 62 50 * 96.0 95.0 87.0 * * 75.5 75.5
: Data not available
iF IOO 90 80 70 g 60 ;I 旨 50 〔/つ 40 30 20 10 0 years
Fig. 1 Kaplan-Meier probability of survival for 17
oc-togenarians who underwent coronary artery bypass grafting. 後低心抽出量症候群で,他の2例は呼吸不全とMRSA 肺炎で,各々術後51日目と49日目に失った.死亡例を 除く他症例の術後経過を検討した.術後人工呼吸器の離 脱は1日以内が8例, 1-2日が2例, 3日目以降が4 例であった. ICU滞在は平均5.8日 目)であり, 入院期間は1ケ月以内2例, 1-2ケ月が5例, 2ケ月 以上が7例と長期化する傾向が見られた.術後合併症で は肺炎1例,啄疾排出困難による再気管内挿管1例,ミ ニトラック留置1例,胸水1例と,呼吸器合併症が多かっ た.ほか術後10日目発症の脳梗塞1例,縦隔炎1例, 創治癒遅延1例がみられた.術後造影で確認したグラフ ト開存はITA14本中13本(開存率92.9%), SVG13本中 11本(同84i であった.
日常生活動作(activities of daily living; ADL) をみると,術前車イス使用者は17例中5例(29%)であ り,術後は14例中5例(36%)であった.術前施設入所 者は3例(18%)であった.術後施設に入所したのは4 例(29%)で他の10例(71%)は自宅生活-と復帰した. 退院後の遠隔死亡は2例(14.c であった. 1例は, 透析患者で術前Sellers II度のMRが増悪し心不全で1 年目に失った.他の1例は術後経過良好であったが, 5 年6ケ月目に脳梗塞で失った. Kaplan-Meier法による 生存曲線では, 5年生存率は75.5%であった(Fig. 1 ). 考 察 近年, PCIの急速な発展がみられ,ステントの再狭窄 率もdrug-eluting stentの出現により,格段に改善さ れた1-3)しかし,高齢者のPCIは若年者のそれに比べ 難易度が高く、手技に伴う合併症も多いと言われてい る6).高齢化社会を背景に,冠動脈バイパス手術はPCI の適応からはずれた国難な症例に対しても,より安全確 実に行うことが要求されている. 80歳以上のCABGは 確実に増加しており, 1990年代の報告では,全CABG 症例の2.2-4.1%との報告があり7,8)近年の冠動脈外 科学会の全国アンケート調査報告では, 2000年5A 2002年6.S であった9,10)当科では12.4%とさらに高い 傾向にあったが,当施設の性格や長寿県沖縄という地域 性の反映であろうと思われた. 一般に高齢者は動脈硬化症が進行しており複雑な冠動 脈病変(石灰化,びまん性,多枝病変)が多い,多臓器 疾患合併が多いなどの特徴があり,内科的治療を選択し がちである7, ll)冠動脈病変が進行し不安定狭心症や急 性心筋梗塞になって手術を考慮するため,緊急手術の頻 度が高くなっていると思われる.当院の80歳以上の緊 急手術症例は41.5 であり,他施設も同様の傾向にあっ た7・ 1ト14)緊急手術は手術成績悪化の重要な原因であり, 今回の我々の報告でも,病院死亡は3例すべて緊急手術 例であり,待機手術例は全例軽快退院している. 当院の80歳未満の症例を検討すると, 120例中緊急手 術は11例(9.5 であり,緊急手術の割合は80歳以上 症例の1/4以下であった. 120例の病院死亡率は11で あり,うち緊急手術,待機手術の病院死亡率は各々 3.4 j, 4.e であった. 80歳未満の年齢層でも緊急手術の死
152 超高齢者に対する冠動脈バイパス手術 亡は高率であった.前述したように80歳以上の病院死 亡率は17.6 であり,うち待機手術症例では0%であっ た. 80歳以上の高齢者も,待機的に術前併存疾患を十 分に評価すること,周術期管理をしっかり行うことで, 他の年代の症例と遜色ない手術成績が期待できると思わ れる. 当院での高齢者の周術期管理を検討すると,人工呼吸 器装着時間が長くなる傾向にあり,抜管後の暗疾排出困 難例や術後肺炎の合併もみられ,呼吸器合併症をいかに 予防するかが手術成績の向上につながるものと思われる.
手術については,術式(on pumpか, OPCABか), グラフト選択,どこまで再建するか(完全血行再建か、 不完全か)が論議される.術式であるが,高齢者におい てもon pump CABGに対しOPCABの優位性をあげる 報告が多い6, 15-17)天野は, 75歳以上の単独CABGにお いてon pump群とoff pump群で比較検討し,死亡率は 両群ともに差はなかったが,術後脳梗塞,呼吸不全など の周術期合併症が有意にon pump群で高かったこと, 術後ICU滞在目数と在院日数はoff pump群で有意に短 かったことを示した6).小林は,過去に報告された80歳 以上のon pump CABGとOPCABの手術成績を比較し, 発表年度と症例数に差があるが,おおまかにOPCABの
死亡率はon pump CABGの約1/8であると報告してい る17)我々の症例は,初期の4例のみがon pumpで以後 全例OPCAB症例であったが on pumpより低侵襲で あるOPCABは,高齢者症例にも有用である印象をもっ ている.当院における80歳未満のOPCAB症例は80例あ り,うち病院死亡は1例(l.c であった. 浦らは, 80歳以上の28例に対し全例on pump心停止 下にCABGを施行し病院死亡0で,周術期合併症も60 歳代の症例との比較で差がなかったと優れた成績を報告 しており7),一考に値する. 完全血行再建か不完全かについては, Moonらは80歳 以上の場合には不完全血行再建でも左前下行枝に確実に バイパスが施行されていれば,完全血行再建と比較して も長期生存には差がないと報告している18)天野も,高 齢者では狭心症の責任病変と左前下行枝-のバイパスだ けでも十分である場合も多いと述べている6).我々も, 80歳以上の症例に対しては,必ずしも完全血行再建に こだわらず,狭心症の再発予防と手術合併症を最小限に することを手術方針としている. グラフトの選択に関しては,できるだけ動脈グラフト を使用しようとする施設から,逆にSVGの使用頻度が7 割近い施設もあり,様々である6,ll,18)前述したように 高齢者では緊急手術の頻度が高く,緊急手術例には SVGのみの使用を原則とする施設では,おのずとその 使用頻度が高くなる.脳合併症を予防するため aortic
no-touchを原則にしている施設では, SVGはin situ graftとのcomposite graftとしてのみ使用されるので, 動脈グラフトの使用頻度が高い17)我々の施設では,か かる症例には可及的にITAをLADに吻合し,残り1-2ヶ所をSVGでバイパスしており,ITAとSVGの使用 頻度はちょうど半々であった. 最近では,中枢側吻合に各種の自動吻合器が市販され ており,大動脈の部分遮断なしで吻合でき,その簡便さ も相まって,各施設で使われだしている17)大動脈に onepointで石灰化や粥状硬化のない部分があれば,哩 論的には脳合併症を起こすことなく安全にSVGを吻合 できるが,中長期の開存性が従来の手縫いと比べてどう か,まだ不明である. 報告されている80歳以上のCABG症例の手術近接期 及び遠隔期の成績をTable4にまとめた.5年生存率 は50%から87%と報告されている.80歳以上の5年期待 生存率は56%と言われており¥CABG症例は周術期を 乗り切って退院すれば,その後は年齢相応に十分な遠隔 成績が得られているものと思われる.我々の症例では, 生存曲線で求めた5年生存率は75.5%であり良好であっ た.病院死亡がすべて緊急手術であったことを勘案する と,超高齢者といえども内科的治療に縛られず,安定し た時期に待機手術を行うことが,延命につながると考え る.当科で待機手術を行えた10例に限れば,病院死亡 なく,術後5年6ケ月目に脳梗塞で1例を失ったのみで あり,5年生存率は100%である。 ADLを見ると,我々の症例は,術前から3割近くが 車イス使用者であり(5/17),施設入所者が3例18%で あった.退院後は施設入所者が4例29%に増えたが,家 族との関係での社会的な入所もあり,10例71%の症例が 自宅生活に戻っていることを評価すべきであると考える. も:/ HIt 80歳以上の超高齢者に対するCABGは,安定した時 期に手術適応を決定することと,手術術式および周術期 管理を改善することにより,今後更に手術成績の向上が 図れるものと思われた. 文献 1)MoriceM.C.,SerruysP.W.,SousaJ.E.,Fajadet J.,HayashiE.B.,PermM.,CoromboA.,Schuler G.,BarraganP.,GuaghumiG.,MomarF.and FaloticoR.:ARandomizedComparisonof Sirolimus-ElutmgStentwithaStandardStent forCoronaryRevascularization.NEnglJMed. 346:1773-1780,2002. 2)MosesJ.W.,LeonM.B.,PopmaJ.J.,Fitzgerald P.J.,HolmesD.R.,OShaughnessyC.,CaputoR.P., KereiakesD.J.,WilliamsD.0.,TeirstemP.S., JaegerJ.L.andKuntzR.E.:Sirohmus-Elutmg StentversusStandardStentinPatientswith
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