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日本国憲法12条と司法書士 : 人権・憲法の担い手としての法律家

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Academic year: 2021

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(1)日本 国憲法12条 と司法書士 − 人権 ・憲法 の担 い手 としての法律 家−.                                           森      正.   一 本稿の問題意識   日本 国 憲 法 が 公 布 され て52年 に な ろ う と して い る。 そ の 間 、 憲 法 改 正(内 容 か ら い え ば憲 法 改 悪)の 動 きが 大 き く数 えて4回 ほ どあ った。 しか し、 そ の 試 み は す べ て頓 挫 して い る。 頓 挫 の原 因 は 単 純 で は な い 。 改 憲 の動 き 自体 が、 日米 関 係 を 軸 とす るそ の 時 々 の政 治 情 勢 、 衆 参 両 院 の選 挙 結 果 、 内閣(特 に 首 相)の 体 質 、 改憲 勢 力 と護 憲 勢 力 の 力 関 係 、 な どな どが複 雑 に か らみ 合 う な か で 生 じて い るか らで あ る。   も っ と も、本 稿 の 目的 は 改憲 の動 き の頓 挫 の原 因 を 考 え る こ とで は な い。 憲 法 自身 が 自 らを 守 るた め に い くつ か 用 意 して い る安 全 装 置=憲 法 保 障 装 置 に 連動 して い る とい え る憲 法12条 を と り あ げ 、 同条 に お け る在 野法 律 家 、特 に 司 法 書 士 の役 割 を 考 え て み る    、 これ が 本 稿 の 目的 で あ る。 憲法12条 に は 、 憲法 が保 障 して い る 「自由及 び 権 利」 は 国 民 の 「 不 断 の努 力 」 で 保 持 しな け れ ば な らな い と記 され て い る。 な お、 在 野 の法 律 専 門 職 中 、 司法 書 士 の位 置 づ け は 税 理 士 な ど と 並 ん で か な り微 妙 で あ り、 いわ ゆ る法 曹 三 者(裁 判 官 ・検 事 ・弁 護 士)の 一 員 で あ る弁 護 士 が法 律 家 といわ れ る の に た い して、 司法 書 士 は 準 法 律 家 な る ネ ー ミングを 付 され た りして い るが 、私 は現 実 の 司法 書 士 の実 績 をふ ま えて 法 律 家 と捉 え る こ とに して い る。   と ころ で 、憲 法12条 が 「自由及 び 権 利 」 の 保 持 の た め に 国民 に要 請 して い る 「不 断 の 努 力」 に 含 意 され て い る意 味 につ いて 、憲 法 研 究 者 は これ ま で検 討 を 深 め て きた だ ろ うか。例 えば 、「 不断 の努 力 」 の 内容 や 「 不 断 の努 力 」 へ の 国 民 各層 の か か わ り方 、 及 び憲 法 保 障 との 関 係 な どにつ い て検 討 す る こ とは 、 憲 法 学 の 重 要 な 課 題 で あ る と思 われ る の だ が 、 本 格 的 な 検 討 は ほ と ん ど な か った といわ ざ るを えな い。   憲 法12条 は、 憲 法 が 保 障 す る基 本 的 人 権 を 享有 す る主 体 で あ る国 民 の あ り方 を説 い て い る。 後 述 す るが 、 ざ っ くば らん に い え ば 、 自分 た ち の 人権 は 自分 た ちで 努 力 して 担 い実 現 せ よ、そ うす る こ とで 憲 法 を 守 って い け 、 とい って い る の で あ る。 そ れ は 、 近 代 憲 法 と基本 的人 権 の歴 史 的 性 格 か ら して 、 及 び 国 民 主 権 原 理 か ら して 当然 の こ とな のだ が 、 当 然 の こ とで あ るが ゆ え に、 国 民 の 「不 断 の 努 力 」 の 有 りよ うな どつ い て は研 究 上 の関 心 を 呼 ば な か った の で あ ろ うか 。 そ うな の か も しれ な い 。   しか し、 事 は そ う単 純 で は な くて 、 憲法 研 究 者 に根 強 い 体 質 そ の もの に起 因 して い る よ うに 思 う。 憲 法 研 究 の 視 野 か ら 「 運 動」 を外 そ う とす る体 質 で あ る。 しか も、 それ は憲 法 を 活 か す 実 践 運 動 を 重 視 して きた 「学 派」 の 体 質 で もあ っ た 、 と私 は 考 え て い る。 こ こで い う 「 運 動 」 とは 、 広 義 の い わ ゆ る憲 法 運 動 を 、 す な わ ち憲 法 を守 り育 て る運動 を 指 して い る。 憲 法 研 究 者 の多 くに.

(2) み られ る この体 質 に つ い て は 、 私 は か な り以 前 か らあれ これ と指 摘 して きた 。例 え ば 、裁 判 当事 者 か らの 聞 き と りを とお して 戦 後 の代 表 的 な 憲 法裁 判 を跡 づ け た 拙 著(1989年)の. 「あ とが き」. に 、私 は こ う書 い た。 「こ こ しば ら く 流 行  の 気 配 さえ あ った 憲 法 訴 訟 論 を含 め 、憲 法 裁 判 につ い ての 検 討 は少 な くな い 。 しか し、 憲 法 裁 判 が す ぐれ て社 会 現 象 で あ る こ とを考 え た とき 、 これ ま での 検 討 は 、訴 訟 上 の 技 術 や 判 決 の 論 理 を 追 うこ とに懸 命 で 、 あ ま りに 静 態 的 ・無 機 的 で 、 あ る意 味 で は きれ い事 に す ぎ、 当 の裁 判 を と りま く諸 状 況 、お よび 、 裁 判 当 事 者 ・支 援 老 た ち の生 き ざ ま と闘 い ざ まが もた ら した 社 会 的 イ ンパ ク トな どな ど、 歴 史 の うね りの な か で の運 動 主 体 と 運 動 に つ い て の、 いわ ば憲 法 社 会 学 的 な 検 討 が じゅ うぶ んで は な か った よ うに 思わ れ る」(1)と 。   憲 法 運 動 を 憲法 研 究 の対 象 か ら外 そ うとす る研 究傾 向 が 、 憲 法 が 国 民 に 要 請 す る 「不 断 の 努 力」 に 応 え る個 々人 の さ ま ざ ま な営 為 に 関 心 を 払 わ な くさせ て い るの で は な い か。 そ の こ とが 、 生 きた 人 間 の姿 が み えな い、 ま た はそ の 姿 が 連 想 で き な い、 と きに は 抽 象 化 され た人 間す ら み え な い、 そ ん な 「人 間不 在 」 の人 権 論 を 次 々 と量産 させ て い るの で は な い か 。 ま た 、名 宛 て人 不 在 な い し名 宛 て 人不 明 の民 主 主 義 論 や 人 権 論 が 多 い が 、指 摘 して きた 傾 向 と内在 的 に関 連 して い る の では な い か。 これ らは 、 こ こ しば ら く私 が 抱 い て い る疑 問 で あ る。   憲 法 研 究 に み られ る傾 向 と問 題 点 を 指 摘 して きた が、 私 が こだ わ る理 由 は 、21世 紀 に む け て 、 憲 法 と人 権 の担 い手 ・担 い方 な どに つ い て 具 体 的 に検 討 す る必 要 を 感 じて い るか ら で あ る。 日本 国憲 法 公 布 か ら52年 、 憲 法 典 と現 実 政 治 の ズ レが は なは だ しい な か 、 憲 法 と人 権 を 中 心 的 に 担 っ て きた 世 代(ア ジ ア太 平 洋 戦 争 を経 験 した 世代 と戦 後 民 主 主 義 教 育 を積 極 的 に受 け た 世 代)の パ ワーが 衰 え を みせ るな か 、 担 う世 代 の 引 き継 ぎ も順 調 とは い え な い。 な に よ りも、 担 い 手 と して の 国民 各 層 の 分化 ・複 雑 化 が 進 む と と もに 、 憲法 につ いて の 価値 観 も分化 しつ つ 複 雑 に 変 化 しつ つ あ る。   そ れ で は 、上 記 の気 に な る研 究 傾 向 は な ぜ 生 じた のだ ろ うか。 解 答 は い くつ か あ りそ うだ が 、 憲 法 運 動(「 運 動 主体 」 プ ラス 「 運 動 」)と い う現 象 は ア カデ ミック な憲 法 研 究 に な じまな い 、 と の暗 黙 の 了解 が学 界 の 底 流 に あ る よ うに 思 う。 憲 法 運 動 は法 現象 で は な い とで もい うの だ ろ うか。 狭 量 で 陳 腐 な ア カデ ミズ ム理 解 で あ る。 こ うい うア カデ ミズ ム理 解 に拘 泥 して い る よ うで は 、 憲 法 学 は 今 後 とも無 味 乾燥 な 観 念 の 「学」 で あ りつ づ け 、 国民 ・市 民 に イ ンパ ク トを 与 え られ な い 「 学 」 で あ りつ づ け る こ とだ ろ う。 率 直 に い って、 歴 史 や文 学 分野 の人 た ちが 書 い た 「憲法 物 」 の ほ うが 憲法 研 究 者 が 書 い た も の よ り鋭 い感 性 を示 し、 か つ 問題 提 起 的 だ った りす るの だ が 、 名 宛 て人 の は っき りした 、 視 野狭 窄 で な い作 品ゆ え の結 果 な の だ ろ う。 名 前 を あ げ る と、家 永 三 郎 、 色川 大 吉 、 井上 ひ さ し、 小 中 陽 太 郎 、鎌 田慧 らの作 品 で あ る。   本 稿 は 以上 の よ うな 問題 意識 に も とつ い て い る。 私 の 問題 意 識 か ら して注 目 した い の は 、 山 口 県 と兵 庫 県 を主 た る舞 台 に 展 開 され て きた 国民 の 「不 断 の努 力 」 を 発 掘 し、 そ の営 為 の 憲法 的意 義 を 明 らか に して きた播 磨 信 義 の 仕 事 で あ る。 そ の播 磨 は憲 法 研 究 者 で あ る。 日本 国憲 法 を21世 紀 に つ な げ る憲 法 研 究 を 意識 す るか ぎ り、 播 磨 の仕 事 は もっ と注 目され て よい。(2).

(3)   二   憲 法12条 と国 民 、及 び憲 法保 障   日本 国 憲 法 は 自 らを守 る 装置 を用 意 して い る。 自 らの 危 険 を 回避 す る装 置 で あ る。 とは い え、 自 らを 後 生 大 事 に 形式 的 に守 る だ け の た め の専 守 防 衛 的 な 装 置 で は な い。 憲 法 の原 理 と して の 国 民 主 権(民 主 主 義)・ 基 本 的 人権 ・平 和 主 義 を 守 り育 て る こ とで 憲法 を守 ろ う とす る、 そ の た め の 装 置 で あ る。 大 日本 帝 国 憲法=明 治 憲 法 に は この よ うな装 置 は用 意 され て い なか った 。 な に し ろ 明 治 政 府 は 明 治 憲法 の こ とを 「 不 磨 の大 典 」 と 自負 して い た の だ か ら、安 全 装 置 の 発 想 は そ も そ も出 て き よ うが な か った の で あ る。   憲 法 が 自 らを 守 る こ とを 、具 体 的 に は憲 法 三 原 理 を 守 る こ とを憲 法 保 障 とい うが 、 日本 国 憲 法 は 、 自 らへ の 侵害 の前 に 自 らを予 防 的 に保 障 して お こ うとす る装 置 、及 び 自らへ の 侵 害 後 に 自 ら を保 障 し よ う とす る装 置 を 明文 で用 意 して い る。 これ らを 、 ご く簡 単 にみ て お くこ とに し よ う。   前者 は ど うな って い るか 。第 一 は 、憲法98条1項. の最 高 法 規 性 の 宣 言 で あ る。「この 憲 法 は 、国. の最 高法 規 で あつ て、 そ の条 規 に 反 す る法律 、 命 令 、詔 勅 及 び 国務 に 関 す るそ の 他 の 行為 の 全 部 又 は一 部 は 、そ の効 力 を 有 しな い」。 国家 の基 本 法 ・根 本 法 で あ る憲法 に 矛盾 す る も の は 認 め な い とす る こ とで、 自 らを 守 ろ うと して い るの で あ る。 第 二 は、 憲 法99条 の 公 務 員 の 憲法 擁 護 義務 で あ る。 「天 皇又 は摂 政 及 び国 務 大 臣 、国 会 議 員 、裁 判官 そ の他 の公 務 員 は 、 この 憲法 を尊 重 し擁 護 す る義 務 を負 ふ 」。 天皇 、 及 び公 務 に た ず さわ るす べ て の 公務 員=国 家 ・地 方 諸 機 関 に 憲 法 を 遵 守 させ る こ とで 、 自 らを 守 ろ うと して い る の で あ る。 第 三 は 、 憲 法96条1項. の 憲法 改正 手 続 き. で あ る。 「この憲 法 の改 正 は 、 各 議 院 の 総 議 員 の三 分 の二 以上 の賛 成 で、 国 会 が 、 これ を発 議 し、 国 民 に 提 案 して そ の承 認 を経 な け れ ば な らな い。 この 承 認 に は 、 特別 の 国民 投 票 又 は国 会 の 定 め る選挙 の 際 行 は れ る投 票 に お い て 、そ の過 半 数 の 賛 成 を 必 要 とす る」。 憲 法 改 正 手 続 き を 二 段 階 と し、 国 会 で の発 議 に は三 分 の二 以上 の賛 成 が 必 要 だ と し、 そ の あ と国民 の意 志 を 問 うこ とを 課 す な ど、通 常 法 の 改廃 手 続 き よ り厳 格 に す る こ とで 、 自 らを守 ろ う と して い る ので あ る。 付 言 す る と、 改正 手 続 きを 厳 格 に して い る憲 法 を 硬 性 憲 法 とい う。   後 者 は ど うな っ て い るか 。 よ く知 られ て い る制 度 で あ る が 、憲 法81条 の裁 判 所 に よ る違 憲 法 令 (立 法)審 査 制 で あ る。 「最 高 裁 判所 は 、一 切 の 法律 、命 令 、規 則 又 は 処 分 が 憲 法 に適 合す る か し な いか を決 定 す る権 限 を 有 す る終 審裁 判所 で あ る」。 法律 そ の他 の合 違 憲 性 を め ぐ る争 訟 に 法 的 判 断 を 下 す 権 限 を す べ て の裁 判所 に 認 め る こ とで 、 自 ら を守 ろ うと して い るの で あ る。   以 上 、 憲 法 保 障 は 事 前 と事後 の保 障 に大 別 され るが 、 一 連 の 保 障 装 置 は相 互 に連 関 してお り、 そ の 意 味 で 重 要 な の が 憲 法 第 十章 「 最 高法 規 」 部 分 で あ る。 憲 法 保 障装 置 の 目的 につ い ては 前 述 したが 、 第 十章 との か か わ りで考 え る と、 と りわ け 基 本 的 人 権 の保 障 とい う 目的 が は っ き りみ え て くるか らで あ る 。 す な わ ち 、第 十 章 は97条 と98条 で 構 成 され て い て 、97条 の 「この憲 法 が 日本 国 民 に保 障 す る基 本 的人 権 は、 人 類 の多 年 に わ た る 自 由獲得 の 努 力 の成 果 で あつ て 、 これ ら の権 利 は 、過 去幾 多 の試 錬 に堪 へ 、 現 在 及 び将 来 の 国 民 に 対 し、侵 す こ との で き な い永 久 の 権 利 と し て 信託 され た もの で あ る」 を受 け て、98条 が 憲 法 の最 高 法規 性 を宣 言 して い る ので あ る。 芦 部 信 喜 は 、「憲 法 が 最 高 法 規 で あ る の は 、そ の 内容 が 、人 間 の権 利 ・自由 を あ らゆ る国 家 権 力 か ら不 可.

(4) 侵 の もの と して 保 障 す る規 範 を 中 心 と して構 成 され て い るか らで あ る」(3)と 、 憲 法 の最 高 法 規 性 の根 拠 を 明解 に 指 摘 して い る。   それ では 、 これ ら憲 法 保 障 装 置 は よ く機 能 して きた とい え るか 。 憲 法 三 原 理 を よ く守 って き た とい え るか 。 冒頭 に記 した よ うに 、 憲 法96条 に つ い て い え ば 、 と りあえ ず 波 打 ち 際 で 改 憲 へ の挑 戦 を退 け て きた が 、98条 、99条 、81条 は機 能 不 良 の 状 態 に あ り、 そ うと う深 刻 な 状 況 に あ る。 こ の点 につ い て も、 ご く簡 単 に み て お きた い 。 な お 、 憲 法 保 障 装 置 の働 きを歴 史 的 に 点検 してみ る の は 、 と りわ け 憲 法 典 と現 実 の 矛 盾 の原 因 を 探 ろ うとす る さい の 重 要 な作 業 とな る だ ろ う。   憲 法98条 で あ る が 、憲 法9条. の平 和 主 義(あ. らゆ る戦 争 の 放 棄 、 あ らゆ る軍 備 の不 保 持)に 違. 反 す る 日米 安 全 保 障 条 約 と 自衛 隊 法 、 公 務 員 の 労 働 基 本 権 や 政 治 活 動 の 自由 を制 限 して い る国 家 ・地 方 公 務 員 法 、表 現 の 自由を 制 限 して い る破 壊 活 動 防 止 法 や 公 安 条 例 な どな ど、憲 法 違 反 の条 約 ・法 律 ・条 例 が実 に多 く存 在 し、 現 に 適 用 され て い る。 多 くの 国 民 ・市 民 を して 「 憲 法 は絵 に 描 い た餅 」 と失 望 させ 、憲 法 研 究 者 を して 「 立 憲 主 義 の 危 機 」 と嘆 か せ て い る根 源 は 、 ま さ に98 条 の実 情 に あ る。   つ づ い て憲 法99条 で あ る が、 天 皇 の元 首 的 諸 行 為 を は じめ 、 大 臣 、 国 会 ・地 方 議 会 議 員 、 自治 体 の首 長 、裁 判 官 、 そ の他 の公 務 員 が憲 法 を 遵 守 しな い 現 象 が 目に 余 る。政 教 分離 原 則 に反 す る 首 相 ・大 臣 な どの 靖 国神 社 参 拝 、 公 費 に よる玉 串料 支 出 な どは 、 憂 うべ き現 状 に あ る98条 の典 型 例 で あ る。 国 の 諸機 関 の行 為 に 目を む け る と、 安 保 体 制 路 線 を 突 っ走 る歴 代 政 府 に よる軍 国主 義 推 進 、 護 国神 社 へ の 自衛 官合 祀 に象 徴 され る防 衛 庁(自 衛 隊)に. よる政 教 分 離 否定 、家 永 教 科 書. 裁 判 に 象 徴 され る文 部 省 に よる教 科 書 へ の検 閲 行 為 と教 育 の 自由否 定 、 ダ ムや 河 口堰建 設 に象 徴 され る建 設 省 に よる環 境 権 破壊 、軍 事 力 に よる 「 国 際 貢 献 」 に象 徴 され る防 衛 庁 や 外 務 省 に よる 非 武 装 平 和 主 義 否 定 な ど、 ま さに枚 挙 に い とま が な い状 態 で あ る。   事 後 的 憲 法 保 障 装 置 た る憲法81条 は ど うで あ るか 。 国民 が原 告 な い し被 告 とな った 憲 法裁 判 が 数 多 く提 起 され て き た が、 最 高裁 判 所 ・高等 裁 判 所 ・地 方 裁 判 所 、具 体 的 に は 各 裁 判 所 の裁 判 官 は 、 いわ ゆ る統 治 行 為 論 や 訴 え の利 益 論 や 公共 の福 祉 論 な どを利 用 す る こ とで 、 ほ とん どの提 訴 に た い して憲 法 判 断 を 回避 した り、裁 判 を 門前 払 い に した り、 お よそ 説 得 力 の な い 合 憲 判 断 を し て き た。 人 権 を保 障 し、憲 法 を 守 るた め の 最後 の砦 で あ るはず の裁 判 所 が 、 そ の任 務 を 放 棄 して きた の で あ る。 そ れ は 、憲 法99条 で 憲 法 遵 守義 務 を 負 って い る は ず の裁 判 官 が そ れ を サ ボ タ ー ジ ュ して き た こ とを意 味 して い る。 そ の結 果 、 数 々の違 憲 状 態 が 長 ら く放 置 され た ま まに な って い る。 な か に は違 憲判 決 を 出す ご く少 数 の裁 判 官 もい るが 、 事 件 の性 格 に よっ ては 左 遷 な どの 陰 湿 な イ ジ メに あ うの で 、 大多 数 の裁 判 官 は ひ た す ら 自己 抑 制 に 徹 し、 そ の姿 勢 が81条 の機 能 不 良 状 況 を 引 き起 こ して い る とい え る の で あ る(機 能 不 良 の 原 因 は 他 に も考 え られ るが)。   日本 国 憲 法 の 憲 法 保 障 とそ の現 状 を垣 間 見 て きた が 、 憲 法98条 を 除 い て これ らの憲 法 保 障 の 主 体 とな って い るの は 、 公 務員 と国家 ・地 方 の諸 機 関 、 つ ま り 「官 」 側 で あ る。 「民 」 側 は ど うか 。 「官 」 に 頼 りき りな の だ ろ うか。 もち ろ ん 、憲 法 は そ ん な こ とを考 えて は い な い。 国民 は憲 法 原 理 の 次 元 で 主 権 者 で あ り、 人 権 享 有 主 体 で あ る がゆ え に 、憲 法 は 国民 を 憲法 保 障 に深 くかか わ ら.

(5) せ て い る。 す で に み た 憲法96条 の 憲法 改正 手 続 き に おけ る国 民 投 票 に も国 民 は 登場 す るが 、 憲 法 改 正 とい った 非 日常 的 な 事態 に お い て で は な く、 日常 の場 に お い て 国 民 を 憲 法 保 障 の 主 体 に た い する 「 番 人 」 と位 置 づ け て い る。憲法12条 に は 、「この憲 法 が 国民 に保 障 す る 自 由及 び 権 利 は 、国 民 の 不 断 の 努 力 に よつ て 、 これ を保 持 しな けれ ば な らな い。 … ・ 」 と あ る。 この12条 は 第一 義 的 に は 、 主 権 者=国 家 の 主 人 公 で あ る と と もに 人権 の享 有 者 で あ る国 民 の絶 え る こ との な い 権 利 闘 争 を 要 請 して い るの で あ るが 、 同 時 に 、 そ の 闘争 を とお して人 権 保 障 の最 高 ・基 本 規 範 た る憲 法 を も守 らせ よ うと して い る とい え 、 そ の 意 味 で 、 国 民 は憲 法 保 障 の要 と して 「番 人 」 の 立 場 に あ り、 そ の 結 果 、 論 理 必 然 的 に 憲 法 の 究 極 の 担 い 手 な の で あ る。(4)   実 際 、 憲 法81条 の憲 法 裁 判 で 裁 判 所 に 違 憲 判 断 を迫 るの は 国民(原 告 又 は 被 告)な の で あ り、 96条 の憲 法 改 正 に あた って 最 終 判 断 を 下 す の も国 民 な の で あ り、各 種 の運 動 を とお して98条 の 憲 法 の最 高 法 規 性 を 主 張 す るの も国 民 な の で あ り、99条 の 公務 員 の憲 法 遵 守 義 務 を 監 視 し履 行 を迫 る の も国 民 な ので あ る。 憲 法81条 に お け る裁 判 所 が 「憲 法 の番 人」 といわ れ る こ と と の関 連 で い え ば、憲 法12条 は 国 民 を 憲 法 保 障 の 要 と位 置 づ け 、「 憲 法 の番 人 の番 人 」 と位 置 づ け て い る と い え よ う。   とこ ろ で 、憲 法12条 が 国 民 に 要 請 して い る 「不 断 の 努 力」 の理 解 で あ る が、12条 が 示 した 「自 由及 び権 利 」 のた め の 行 動 を 中 核 に す え て 、 「 憲 法 を守 り育 て る運 動」 と捉 え て み た い。 内容 と し て は、(1)憲法 の啓 蒙 普 及 活 動 、(2)憲法 上 の諸 権 利 の行 使 、(3)憲法蹂躙 や 人権 侵 害 に た いす る告 発 とた たか い 、(4)憲法 「 改 悪 」 とのた た か い、(5)憲法 保 障 の 「 番 人」 と して の た たか い 、 な どを 指 摘 で き よ う。(5)は(3)に含 ませ る こと も可 能 で は あ るが 、 独 自の もの と位 置 づ け る こ とにす る。 行 政 の違 法 ・不 正 な行 為 を厳 し く監 視 ・追 及 す る市 民 オ ン ブズ マ ンが近 年 に わ か に脚 光 を浴 び て い る が 、公 務 員=国 家 ・地 方 諸 機 関 の憲 法 運 用 全 般 を 監 視 す る国 民 的運 動 が実 現 す れ ば 、憲 法 保 障 の 「番 人 」 と して のた た か い の一 環 と捉 え る こ とが で き よ う。な お 、「憲 法 を 守 り育 て る運 動」 と 表 現 した が 、集 団 的 な 「 運 動 」 だ け を意 味 して い るわ け で は な く、個 々人 の 単独 行 動 も含 め て い る こ と、個 々人 の行 動 こそ 「 運 動 」 の原 点 で あ る ことを 念 の た め に 付 記 して お く。   そ れ で は 、 国民 は憲 法12条 の要 請 に ど う応 え て き ただ ろ うか 。 有 名 無 名 の 個 々人 や個 々人 の 集 団 に よる 、 あ る い は政 党 や市 民 団体 に よる 「 憲 法 を守 り育 て る運 動」 の 実践 は 確 か に あ った し、 そ れ らが 継 続 的 な運 動 に発 展 して い っ た もの も あ っ た。 「 官 」相 手 の裁 判 に 限定 して も、厚 生 省 に 生 存権 保 障 を 求 め た朝 日茂 、 自衛 隊基 地 被 害 を告 発 した野 崎 美 晴 と野 崎 健 美 、 文 部 省 の 教科 書 検 定 を告 発 した 家 永 三 郎 … 、12条 が期 待 して い る典 型 的 な国 民 像 が 次 々 と登 場 し、 彼 らの 実 践 は 社 会保 障 裁 判運 動 と 自衛 隊裁 判運 動 と教 科 書 裁 判 運 動 へ と発 展 し、 国 民 の憲 法 意識 を 高 め る と と もに新 た な 人 権 理 論 の 創 造 に寄 与 す る な ど、憲 法 を守 り育 て る のに 大 いに 貢 献 す る と こ ろが あ っ た。 「 憲 法 を暮 ら しの 中に 」 の ス ロー ガ ンを 長 年 に わ た って 地方 政 治 で実 践 した 京 都 の 蜷 川 府 政 と京 都 府 民 が 果 た した 役 割 も また 、1960年 代 後 半 か らの全 国 的 な 革 新 自治 体 の誕 生 の 起 爆 剤 と な った よ うに 、 きわ め て 大 きか った 。 さ らに 、 ア メ リカ軍 基 地 被 害 と正 面 か ら対 決 す る沖 縄 県 と 沖 縄 県 民 の絶 え る こ との な い 実 践 は 、 憲 法 の 大 切 さを 全 国民 に発 信 しつ づ け て い る。.

(6)  本 稿 の 問題 意 識 か ら して紹 介 した い の は、 北 海道 で の恵 庭 事 件 で 野 崎 美 晴 が 行 な った 陳述 で あ る 。法 廷 で 野 崎 は 、 「 私 は 、か つ て 『新 しい憲 法 の話 』 とい う本 で 教 育 を うけ ま した 。先 生 も、一 切 の 戦 争 は しな い のだ と教 え て くれ ま した。 検 察 官 も裁 判 官 も、 戦 後 、 法 律 を 勉 強 され た の な ら、 憲 法9条 は一 切 の戦 力 を 持 って は な らな い と教 え られ た はず です 。 検 察 官 は うそ つ きで す 。 い や うそ つ きだ け で は あ りませ ん。 憲法 に違 反 す る 自衛 隊 を擁 護 す る ことは 、 憲 法 に 反 逆 す る大 罪 を 犯 して い るの だ と思 い ます 。裁 判 官!(自. 衛 隊 法 に違 反 した と され る−. 引 用 者)私. は、 自衛 隊. 法 が 憲 法 に違 反 し、 無 罪 で あ る とい う判 決 だ け では 満足 で き ませ ん 。 検 事 が 憲 法 に 反 逆 して い る こ とを 明 らか に して いた だ きた い と思 い ます」 と訴 え た。 は な はだ 含 蓄 に 富 む陳 述 で あ る。1960 年 代 半 ば 、 野 崎兄 弟 は あ えて 自衛隊 法 に 違反 す る こ とで被 告 席 か ら 自衛 隊 と対 決 した 。 酪 農 家 だ った 彼 らの裁 判 闘争 の原 点 に あ った の は 日々 の生 活権 確 保 だ ったが 、 同時 に、 憲 法9条. と憲 法. 保 障 の し くみ を守 ろ うと して い た の で あ る。   そ の他 、 津 地 鎮祭 訴 訟 の関 口精一 や 殉 職 自衛 官 合 祀 拒否 訴 訟 の 中谷 康 子 、民 間 企 業 相 手 の裁 判 で は、 三 菱 樹 脂 思 想差 別 訴 訟 の 高 野 達 男 、 日産 女 子 差別 定 年 制 訴 訟 の 中本 ミヨな どな ど、憲 法12 条 に忠 実 な 「使 徒」 は いつ の 時 代 に も登 場 して い るが 、 国民 が 普 く憲 法12条 の要 請 に応 え よ うと 努 力 して きた とは い え な い。 す で に み た 憲 法保 障 の現 状 、原 理 面 か ら 「 危 機 に あ る」 といわ れ る 人権 ・憲 法 状 況 の 原 因 を探 って い くと、12条 の要 請 に 全体 と して応 え られ な か った 国民 の責 任 に た ど りつ く。 率 直 に い っ て、 究 極 の 責 任 は 国 民 に あ る。 もち ろ ん 、憲 法 保 障 に お け る 「 官」側 の 責 任 も問 うベ きだ が 、憲 法 を 生 か す も殺 す もそ の鍵 を 握 って い るの は常 に 国民 で あ る、 とい う こ とを銘 記す べ きだ ろ う。 「憲法 を守 り育 て る運 動」 を先 頭 に 立 って 起 こす 国 民 は 実 際 に は 少 数 で あ り、 それ を 圧 倒 的 多数 の国 民 に 期 待 す るの は 当面 は無 理 とい うもの で あ ろ う。 時 間 は かか って も、 自 らが保 障 され た 「自由及 び 権 利 」 を 主 張 し行 使 す る こ との重 要 性 を認 識 で き る 、 そ んな 人 権 ・憲法 意 識 を 身 に つ け た国 民 を 一 人 で も増 や し、そ の裾 野 を 少 しず つ 広 げ て い く こ とが重 要 と な るだ ろ う。 そ うす れ ば 、 自分 を 含 め て 身 近 に 問題 が 生 じた と き、 あ る い は身 近 で な い と ころで 重 要 な 問題 が 生 じた とき も、 な ん らか の 声 を 発 し、な ん らか の行 動 を 開始 した り、 有 形 無 形 の支 援 を寄 せ るだ ろ う。 憲法 問題 全 般 に つ い て も敏感 に対応 す る だ ろ う。   もち ろ ん、 前 述 した よ うに 「憲 法 を 守 り育 て る運 動」 は多 岐 にわ た って い る。 人 権 分 野 に 限 っ て み て も、 憲 法 が 保 障 して い る人 権 が 多 種 多様 で あ る こ とか ら、人 権 問題 に対 応 す る運 動 も また 多 様 な形 態 を 示 す 。例 え ば、 労 働 基 本 権 を め ぐる運 動 は 労働 組 合 が 中心 とな って、 あ る種 独 特 の 運 動 が展 開 され る。 自 らをめ ぐる人 権 問 題 を原 点 に、 国 民 の 「 不 断 の努 力 」 は さ ま ざ ま な形 態 で 遂 行 され る ので あ る。   日本 国憲 法 に も とづ く戦 後 民 主 主 義 が 形 骸 ・空 洞 化 した とい われ て久 しい が、 そ の原 因は 日本 人 に特 徴 的 な  お 任 せ民 主 主 義  体 質 に あ る、 と指 摘 す る論 者 が い る。 ま った く正 しい指 摘 だ と 思 うが 、そ の よ うな 体質 は多 くの 国 民 に み られ る ばか りか 、戦 後 民 主 主 義 を担 っ て きた と自負 す る運 動 の側 に も散 見 され 、 しか も、 運 動 の側 が 国民 のそ の よ うな体 質 を醸 成 して き た 、 と私 は 考 えて い る。 事 は な か な か に深 刻 で あ る。 と もあ れ 、憲 法12条 が 無責 任 な  お任 せ 民 主 主 義  を 歓.

(7) 迎 す る はず は な い。 本 稿 で は ほ とん ど言 及 で きな い が 、 民 主主 義 論 の再 考 とい う意 味 か ら して も、 憲法12条 の 意義 を検 討 し、憲 法 保 障 と のか か わ りを考 え て み る必 要 を 感 じて い る。.   三  憲 法12条 と 司法 書 士   憲法12条 が要 請 して い る 「憲 法 を 守 り育 て る運 動 」は 多 岐 に わ た るが 、「運 動」 を担 う個 々 人 に 焦 点 を あ て る と、職 業 ・思 想 信 条 ・性 別 ・年 齢 な どの ち が い、 及 び信 仰 の 有無 な ど、 さま ざ ま な 立 場 の人 た ち が社 会 を 構 成 し、 そ の な か で 連 帯 して発 言 して い る姿 が み え て くる。 思 想 の ち が い を超 え て全 国 の女 性 た ち の支 援 を 受 け つ つ差 別 とた たか う女 性 労 働 者 、 信仰 の ち が いや 有 無 を超 え て全 国的 な支 援 を受 け つ つ 信 仰 の 自由 の た め に たた か うキ リス ト者 、 な どな ど で あ る 。(5)そし て、 平 凡 な 普 通 の一 市 民 に 目を む け た と き、 日頃 か ら縁 のな か った 法律 と図 らず もか か わ りあ い を 生 じ、 民 事 裁 判 を 起 こす こ とに な った り、逆 に裁 判 を 起 こ され て し まい 、思 い あ ぐね て 専 門 家 の助 言 や 援 助 を 受 け た り、法 廷 代 理 を依 頼 す る    、 こん な 姿 を み か け る こ とが あ る。 専 門 家 と は 、 もち ろん 法 律 家 の こ とで あ る。   さて 、 「 憲 法 を守 り育 て る運 動」 は 市民 社 会 を 基 盤 に して 展 開 され る。 こ こで い う市 民 社 会 と は 、 自由 ・平 等 ・独立 の個 人 が と り結 ぶ 民 主 的 な 社会 の こ とを い い、 そ れ は 日本 国 憲 法 が描 い て い る社 会 な の で あ る が 、 そ の よ うな社 会(法 治 国家 の社 会 版)で. きわ め て 重 要 な機 能 を果 た す の. が 、法(制 度)と 法 律 家 で あ る。 江 藤价 泰 は 市 民社 会 に おけ る法 律 家 に つ い て ふ れ 、 司法 制 度 を 正 常 に機 能 させ る た め に は、 「 制 度 ・機 構 と国 民 との 間 に 介在 して、国 民 の人 権 を擁 護 す る 『頭 脳 集 団』 が 不 可 欠 で あ る」(6)と 、簡 潔 に 指 摘 して い る。 この集 団 を構 成 して い るの が 、弁 護 士 や 司法 書 士 や 税 理 士 と い った 在 野 の 法律 家 で あ る。 本 稿 では 司 法 書 士 を と りあ げ て み る。   清 水 誠 は、 市 民 社 会 に お け る法 律 家 を二 つ の タ イ プに 分 類 して い る。 第 一 は、 そ の と きの 社 会 の権 力 を 掌 握 す る者 に た い して追 従 す る タ イ プで あ る。 第 二 は 、 自由 ・平 等 ・友 愛 の理 念 に よ っ て 形 成 され るべ き市民 社 会 の維 持 のた め に 「地 の 塩」 の ご と く奉 仕 す る タ イ プで あ る。 清 水 の こ の 分類 自体 は常 識 的 な もの で あ るが 、 第 二 の タイ プに つ い て の意 味 づ け が な か な か に 示 唆 的 で あ る。す な わ ち 、「 市 民 社 会 は ば らば らな 市 民 が た だ集 合 す る こ とに よ って は 、社 会 と して存 立 で き な い。 市 民 た ち を ひ とつ の社 会 に 束 ね る もの は 、 な ん らか の絶 対 的 な権 威 や威 嚇 で は な くて、 人 に よ って担 わ れ た法 で あ る。 法 が あ た か も人 体 に お け る漢 方 で い う経 絡 の よ うに は りめ ぐら され る こ とに よっ て、社 会 は 存 立 す る。 そ の市 民 社 会 の経 絡 を 担 うの が市 民 的法 律 家 で あ る」(7)と 、清 水 は説 い て い る。   江 藤 が 描 く法 律 家 像 と清 水 が 描 く法律 家像 に ブ レは ほ とん どな い よ うに 思 うが 、 この理 念 型 と して の法 律 家 像 と現 実 の 法 律 家 の実 像 を重 ね 合 わ せ て み る と、 少 な か らぬ法 律 家 につ いて プ レが 認 め られ る。 プ レど ころ か 、理 念 型 と して の法 律 家 像 とは 無 縁 で あ る か の法 律 家 が け っ こ うい る。 そ れ は 、 現 実 の 法 律 家 が 理念 型 か ら 自由 で あ る こ との 結 果 な の か。 理 念 型 を想 定 した 法 的 「しば り」 は な い の か 。 もち ろ ん 、現 実 の法 律 家 に は 弁 護 士法 、 司法 書士 法 、 税 理 士 法 とい う立 派 な 法 に よ る 「しば り」 が あ る。 万 能 の法 律 家 た る弁 護 士 に つ い て 、弁 護 士 法 は 第1条 に お い て 「 ①弁.

(8) 護 土 は、 基 本 的 人権 を擁 護 し、社 会 正 義 を実 現 す る こ とを 使 命 とす る。 ② 弁 護 土 は 、前 項 の使 命 に基 き、 誠 実 に そ の職 務 を 行 い 、社 会 秩 序 の維 持 及 び 法 律 制 度 の 改 善 に 努 力 し な け れ ば な ら な い」 と定 め てい る。敗 戦 か ら4年 た った時 点(1949年)で. の制 定 で あ る。 そ して 、 日本 弁 護 士 連. 合会(日 弁 連)は 基 本 的 に この 使 命 に そ って活 動 して きた 。   司法 書 士 法 で は ど うな って い るか 。 第1条 は 「こ の法 律 は 、 司 法 書 士 の制 度 を 定 め 、 そ の業 務 の 適正 を図 る こ とに よ り、 登 記 、 供託 及 び訴 訟 等 に関 す る手 続 の 円滑 な 実 施 に 資 し、 もつ て 国民 の 権利 の保 全 に 寄 与 す る こ とを 目的 とす る」 とあ り、1条. の2は. 「司 法 書 土 は 、 常 に 品位 を保 持. し、業 務 に精 通 して 、 公 正 か つ 誠 実 に そ の業 務 を行 わ なけ れ ば な らな い」 と して い る 。 この条 文 は1978年 に 司法 書 士 法 の改 正 と して 新 設 され た もの で あ る。 弁 護 士 法 に 示 され た弁 護 士 の使 命 と 比 較 して位 置 づ け の 弱 さが 気 に な る し、 団体 と して の 自治 自律 権 が確 立 され な か った とい う重 大 な 問題 点 もあ る。 しか し、 弁 護 士 法 に 実 に30年 近 く遅 れ を と った も の の、 司 法 書 士 は 人権 擁 護 と い う職 責上 の使 命 を 法 的 に認 め られ た の で あ る。   司 法 書士 の大 崎 晴 由 は1978年 法 の意 義 に ふれ つつ 、 次 の よ うに述 べ て い る 。 「この 条 文 が新 設 され る前 ま で の お よそ110年 は 、 司法 書 士 の実 際 の 仕 事 に 関 す る業 務 規 定 か らは じ ま る 業 法 に す ぎな か った の で あ る。 法 律 が 改正 され る前 は 、 司法 書 士 が誰 の た め に、 何 のた め に存 在 し、 かつ 、 司 法 書 士 た る者 は どん な姿 勢 で仕 事 を す るべ きか とい う理 念 につ い て は、 なに も規 定 され て い な か った の で あ る。 身 体 に た とえれ ば、 内臓 が あ って も頭 脳 部 分 が なか っ た ことに な る。 お お げ さ にい え ば 、 そ れ ま で は 司法 書 士 が知 的 生 産 をす る人 間 で あ る か ど うか 自体 は、 そ れ ほ ど重 要 視 さ れ て い な か った とい う こ とが で き る。 早 い 話 が知 能 程 度 は 問 われ な くて、 他 人 か ら頼 まれ て書 類 を書 くた め に 手 指 を動 か す こ とが で きれ ば 足 りる とい うだ け の 人 間性 だけ が 要 求 され て い た よ う に思 えて な らな い」。(8)ここで 大 崎 が い って い る 「 頭 脳 部 分」 と江 藤 の い う 「 頭 脳 集 団」 の 意 味 合 い は ちが うが 、「頭 脳 部 分 」= 司法 書 士 の使 命 が 明文 化 され た こ との意 義 は きわ め て大 き い。そ れ に よって 司 法 書 土 は 「 頭 脳 集 団」 に な り うる条 件 を 、清 水 の い い方 で い え ば 「市 民 的 法律 家 」 に な り うる条 件 を 確保 した 。 す な わ ち、 法 律 家 と して 「 制 度 ・機 構 と国民 との 間 に 介 在 して 」(前 掲 、江 藤 論 文)、 憲 法12条 に お け る国 民 の 「憲 法 を 守 り育 て る運 動」 に寄 与 す る条 件 を 確 保 した の で あ る。78年 法 は 司 法 書 士 の歴 史 に一 大 画 期 を 印 した 。 そ して 、 そ の後20年 の司 法 書 士 の 全 体 と して の歩 み は そ れ を 実 証 して い る とい え よ う。   こ こで、 司 法 書 士 の 業 務 内 容 を 簡単 にみ て お きた い 。 司 法 書 士法2条 ① に は 「司 法 書 士 は 、 他 人 の 嘱託 を受 け て 、次 に 掲 げ る事務 を行 うこ とを 業 とす る 。1登 て 代理 す る こ と。2裁 と。3法. 記 又 は供 託 に関 す る手 続 に つ い. 判所 、検 察 庁 又 は法 務 局 若 し くは 地 方 法 務 局 に提 出す る書 類 を 作 成 す る こ. 務 局 又 は地 方 法 務 局 の長 に 対 す る登 記 又 は供 託 に関 す る審 査 請 求 の 手 続 に つ い て 代 理. す る こ と」 とあ る。 司 法 書 士 は 大 別 して三 つ の業 務(登 記 事 務 、 供託 事務 、裁 判 事 務)を 扱 う法 実 務 家 な の で あ る。 事 務 内容 は そ れ ぞ れ細 か くて奥 が 深 い が 、 そ れ に つ い て こ こで は ふ れ な い 。 なお 、 登記 事 務 と裁 判 事 務 に つ い て は 、弁 護 士 と司 法 書 士 の あい だ で そ の職 域 をめ ぐって 以 前 か ら争 い が た え な い職 域 で あ る。.

(9)   以 上 の 司 法書 士 の業 務 は、 国民 の 「 憲 法 を 守 り育 て る運 動 」 に ど うか か わ っ て い るだ ろ うか 。 もち ろ ん 、三 大 業 務 とも 国民 の権 利 に 密 接 に か か わ るが 、 と りわ け 登 記 事 務 と裁 判 事 務 が 注 目 さ れ 、 「憲 法 を 守 り育 て る運 動 」 に つ い て の前 記(2)[憲 法 上 の諸 権利 の行 使]、 及 び(3)[憲 法蹂躙 や 人 権 侵 害 に た いす る告 発 とた た か い ] の 「 運 動 」 にか か わ っ て い る。 登 記 事 務 を み る と、 不 動 産 登 記 と商 業 登 記 に 関 す る書類 作 成 と手続 き代 理 を 内容 とす る登 記 事 務 は 、 国 民 の所 有権 ・財 産 権 ・相 続 権 な どに 関 与 す る こ とで 、(2)に深 くか か わ って い る。 裁 判所 ・検 察庁 ・法務 局 に 出す 訴 状 や 告 訴 状 を 作成 した り、 帰化 申請 書 等 の書 類 作 成 を 行 な う裁 判 事 務 は ど うか。 司法 書 士 の業 務 の な か で 、 裁 判 事 務 、 と りわけ 本 人 訴 訟 に 関 連 す る裁 判 事 務 は 、 最 もは っ き りした形 で 「 運動」 の (2)(3)とか か わ り合 う。 す なわ ち、 国民 が 民 事 裁 判 に よ って あ る権 利 を主 張 した り、 人 権 侵 害 と た た か お う とす る ば あ い、 自らが 法 廷 で 争 う本 人 訴 訟 とい う方 法 が認 め られ て い るが 、 そ の さい 司 法 書 士 は依 頼 され れ ば 業 務 と して 各 種 の 法 的 支 援 が行 な え る の で あ る。 実 際 、 これ まで 意識 あ る 司法 書 士 は本 人 訴 訟 を 積 極 的 に 支 え て きた し、 そ の経 験 をふ ま え て書 か れ た 本 もか な りあ る。(9)   憲 法32条 の 「 裁 判 を 受 け る権 利」 は 、権 利 を実 現 す る ため の基 本 権 とい わ れ る国 民 の 重要 な 権 利 で あ る。 この 権 利 は 「憲 法 を 守 り育 て る運 動 」 の強 力 な 武 器 で あ る。 しか し、裁 判 を決 断 で き な い さ ま ざ まな 事 情 を 抱 え た 国 民 の 「 裁 判 離 れ 」 現 象 が 指 摘 され て久 しい こ と も事 実 で あ る。 つ ま り、 憲 法32条 が 十 全 に保 障 さ れ な い状 況 が 改 善 され な い ま まな の で あ る。 それ で は、 現 に 行 な わ れ て い る裁 判 は ど うな って い る のか 。 弁 護 土 に 法 廷 代 理 を 依頼 しな い本 人 訴 訟 が 、 お どろ くほ ど多 い の で あ る。 そ の数 は、 簡 易 裁 判 所 で は90%弱 うの が50%近. を 占め 、地 方 裁 判 所 で も一 方 は 本 人 訴 訟 と い. い とされ る。 そ うな った 原 因 は い ろ い ろ あ る。 好 ん で本 人 訴 訟 を 選 ん だ ケ ース は 別. と して 、弁 護 料 が払 え な い、 弁 護 料 を 払 うと ワ リが 合 わ な い少 額 訴 訟 で あ る、 弁 護 土 が い な い 地 域 に住 ん で い る、 弁 護 士 に こ とわ られ た 、弁 護 士 が信 用 で き な い …. な どで あ る。 い ず れ に し ろ、. 弁 護 士 が ら み の原 因 が ほ とん どで あ る。 そ うい うなか で、 少 な か らぬ 国 民 が 思 案 の あ げ く本 人 訴 訟 とい うギ リギ リの道 を 選択 して い る の で あ る。 この よ うな 選 択 へ の 経 過 を 見 落 と して は な らな いだ ろ う。 そ して 、 司 法 書士 は選 択 され た本 人 訴 訟 を 支 援 し、 そ うす る こ とで 国 民 の 「裁 判 離 れ 」 を と もか くも現状 の線 に辛 う じて防 ぎ とめ 、 国 民 の 憲 法 上 の 権利 を 守 って きた。 そ れ に た い して 弁 護 士 は 、弁 護士 法 に よ って全 て の法 律 事 務 を 認 め られ 、 そ れ もあ って多 くの 国民 か ら裁 判 を 中 心 と した 「万能 の法 律 家 」 とみ な され 、 多 くの 弁 護 士 が そ うい う世 評 を甘 受 して き たが 、 そ の 一方 で 、 司法 書 士 の役 割 に つ い ては 弁 護 士 は 総 じて 鈍 感 で あ りつづ け て い る。 本 人 訴 訟 へ の法 的 支援 に 象徴 され る 司法 書 土 の裁 判 事 務 に よ って 、 日本 の裁 判 が な ん とか 機 能 して い る こ と、 弁 護 士 が 「万能 の法 律 家 」 でい られ る こ とを 、 国 民 も弁 護 士 も率 直 に認 め 、評 価 す べ きだ ろ う。   司法 書 士 の業 務 と 「 憲 法 を 守 り育 て る運 動」 の か か わ りを 、主 と して業 務 の性 格 に 注 目しつ つ 論 理 の上 で 明 らか に して きた が 、 近 年 、 日本 国 憲 法 の意 義 を認 識 す るな か で 、 司 法 書 士 自身 が 両 者 のか か わ りを主 体 的 に 捉 え よ うとす る動 き を 強 め て き て い る。 裁 判 事 務(本 人 訴 訟 を 含 む)に い っそ う力 を注 こ うとす る動 き もあ る が 、 関連 した動 き とい え よ う。 裁 判 官 ・検 察 官 ・弁 護 士 の いわ ゆ る法 曹 三 者 に よ る 「司 法 改革 」動 向 にた い して 、 「 市 民 のた め の 司 法 改 革 」の 観 点 か ら発 言.

(10) してい る の も、連 動 した 動 き とい え よ う。 以上 の動 向 に つ い て は 、 司法 書 土 の全 国 的 な任 意 団 体 で あ る全 国青 年 司法 書 士 協 議 会(全 青 司)の 活 動 で確 認 で きる 。  全 青 司 は 、運 動 と理 論 を意 識 しつ つ 各 種 委 員 会活 動 を 展 開 して い る。1998年9月. の三 重 全 国研. 修会 で は 九 つ の 分 科 会 が設 定 され 、 少 額 訴 訟 、 相 続 か らみ た 女 性 の 人権 問題 、登 記所 統 廃 合 に た い す る行 政 訴 訟 、 不 動産 登 記 法 改 正 問 題 、 オ ン ライ ン申 請 と法 律 家 、情 報 化 社 会 の 法律 問題 、 ク レサ ラ等 消 費 者 被 害 問 題 、成 年 後 見 等 の高 齢 者 問 題 、 少 年 の 人 権 問題 、 が議 論 され た 。請 わ れ て 私 も参 加 した が 、 いず れ の分 科 会 で も 「 人 権 」 が 意識 され て い た 。 思 い つ くま まに 列 挙 す る と、 裁 判 を 受 け る権 利 ・平 等権 ・所 有 権 ・財 産 権 ・相 続 権 ・プ ライ バ シー権 ・生存 権 ・子 ど もの 人権 ・高 齢 者 の 人権 、 な どな どで あ り、 司法 書 士 と して の 現 在 の業 務 との 関 係 で 、 及 び 今 後 の業 務 の あ り方 との 関係 で議 論 され て い た の が大 きな特 徴 で あ った 。98年 の研 修会 を含 め て 特 筆 して お き た い の は 、全 青 司 の諸 活 動 が業 界 の利 益 エ ゴか ら 出発 して いな い とい うこ とで あ る。 基 本 的 に は 、 現 代 日本 の市 民 社 会 に おけ る人 権状 況 を 憂 いつ つ 、 「 頭 脳 集 団」 「市 民 的 法律 家 」 た らん こ とを模 索 して い る とい え よ う。換 言 す る と、「 憲 法 を 守 り育 て る運 動」中 の(2)(3)に主 体 的 に か か わ る こ と を 模索 して い る とい え よ う。   全青 司 関 係 の 活 動 中 、 と りわ け 注 目 した い の は、 登 記 所 統 廃 合 に 反 対 す る 司 法 書 士 が 中 心 と な って 提 訴 した後 藤訴 訟(北 海 道)、 伊 勢 原 訴 訟(神 奈 川 県)、 富 来 訴 訟(石 川 県)で. あ る。 前 掲. の 清 水 の表 現 を借 りれ ば、 「 漢 方 で い う経 絡 」 の よ うに法 と法制 度 が は りめ ぐ ら され て い な け れ ば な らな い 市 民社 会 に おい て 、 地域 住 民 の 合意 な き登 記 所 統 廃 合 は と うて い 許 され る もの で は な い 。 司 法 書 士 に よ る提 訴 は 当 然 とい え るが 、組 織 的 な 自治 自律 権 を 確 立 して い な い 司 法 書 士 が 監 督 官庁 で あ る法 務 省相 手 に 法 的 な物 言 い を行 な って い る点 に、 業 界 利 益 エ ゴを 超 え た 姿 を み る し、 そ こに こそ 、 国 民 の側 に立 ち き る 「 市 民 的法 律 家 」 の原 像 を み た い 。 また 、 全 国 ク レサ ラ被 害者 撲 滅 キ ャ ラバ ン活 動 に象 徴 され る ク レサ ラ多重 債 務 者 の人 権 擁 護 活 動 、 及 び巡 回 法 律 相 談 な どに も、市 民 社 会 で 信 頼 され よ うとす る司 法 書士 像 を みた い。 全 国 に 広 が った い わ ゆ る裁 判 ウオ ッチ ン グ運 動 に も、 一 つ の 司法 書 士 像 を み た い。 もち ろん 、 これ ら の 活 動 は 「憲 法 を 守 り育 て る運 動」(2)(3)に深 くか か わ って い る。   さ らに 、全 青 司 が行 な って い る法 と法制 度 、国民 の法 意 識 な どに つ い て の 調 査 は 、「憲 法 を守 り 育 て る運 動 」 中 の 特 に(3)にか か わ る活 動 で あ る。 例 えば 、1998年4月. に 名 古屋 市 で 実 施 した電 話. 調 査 の レポ ー ト 「 裁 判 と専 門 家 へ の 苦 情110番 」 は 、 「 市 民 のた め の 司法 改革 」 の 早 期 実 現 の必 要 性 を よ く示 して い る。全 青 司 の 各種 の 調査 か ら示 唆 され る のは 、「憲法 を守 り育 て る運 動 」中 の(5) [憲 法 保 障 の 「 番 人」 と して の た た か い]と のか か わ りで あ る。 前述 した市 民 オ ン ブズ マ ンへ の 期 待 との 脈 絡 で い い た い こ とで あ るが 、市 民 オ ンブズ マ ンの 中 核 とな って い る弁 護 士 に 加 え て 、 司 法 書 士 に もそ の よ うな存 在 とな る こ とを期 待 す る もの で あ る。.   四   ま とめ に か え て   日本 国 憲 法12条 と司法 書 土 の 関 係 に つ い て概 観 して きた が 、 司 法 書 士業 は職 域 か ら して 中途 半.

(11) 端 な 性 格 を 残 して い る職 種 で あ る。 したが っ て、国 民 の 人 権 を守 り、「 憲 法 を守 り育 て る運 動 」に 主 体 的 に か か わ ろ うとす れ ばす るほ ど、換 言 す る と、市 民社 会 に お け る 「頭 脳 集 団」 「市 民 的 法律 家 」 と し て の使 命 感 に燃 え れ ば燃 え る ほ ど、 現 行 法 の 壁 に ぶ つ か って しま う。 弁 護 士 との 関 係 で い えば 、 弁 護 士 法3条 、72条 に よ って 司法 書 士 は 法 律 相 談 を厳 し く制 約 され て お り、 ク レサ ラ被 害 者 対 策 活 動 な どを め ぐ って 、全 国各 地 の弁 護 士 会 との あい だ で トラブ ルが 発 生 して い る。 しか し、 現 に 困 って い る多数 の 多重 債 務 者 にた い して 各 地 の 弁 護 士会 が対 応 しきれ な い 状 況 に あ る こ とを 直 視 す れ ば 、 司 法 書 士 の対 応 を弁 護 士 法 違 反 だ と杓 子 定 規 に告 発 した りす るの は 、 いか に も 社 会 的 に 説 得 力 が な い行 為 で は あ る。 法 律 事 務 独 占権 だ け を 死守 し よ う と して い る、 な ど と受 け とめ られ る と弁 護 士 会(界)に. と って不 幸 な こ とで あ ろ う。 不幸 とい え ば、 国 民 ・市 民 に と って. も同様 で あ る。 市 民 社 会 に お け る頭 脳 集 団 が い が み あ って い て は 、 国民 ・市 民 は救 わ れ る はず が な い の で あ る。   もち ろ ん 、 司法 書 士(そ. の 中心 は全 青 司)と. と もに ク レサ ラ問題 と真 剣 に と りくん で い る弁 護. 土 は 少 な か らず い る。 木 村 達 也(全 国 ク レジ ッ ト ・サ ラ金 問題 対 策 協 議 会 事 務 局長)は ち の 代表 的 な弁 護 士 で あ る。 最 近 、 木 村 は 頑 迷 な弁 護 士 会(界)に. 、そ の う. た い して 、 「 最 近 の 弁 護 士 法7. 2条 問 題   弁 護 士 会 は 姿 勢 改 め よ」 とい うタ イ トル の厳 しい 意 見 を表 明 して い る。(10)司 法書 土 と い っ し ょに 人権 擁 護 の活 動 を つ づ け て きた 弁 護 士 の 、体 験 に も とづ く率 直 な主 張 で あ るだ け に、 弁 護 士 会(界)に. は耳 が 痛 い 意 見 で あ るだ ろ う。 部 分 的 に紹 介 して み よ う。木 村 は弁 護 士 会 が ク. レサ ラ多 重 債 務 者 の救 済 に 対 応 で きな い 現 実 を 指摘 しつ つ 、 司 法 書 士 が近 年 た いへ ん力 を つ け て き た と評 価 し、 「そ の潜 在 的 エ ネ ル ギ ーや 法 的 知 識 を 登 記業 務 の み に限 定 す る こ と は 、 社 会 的 損 失 で あ る と考 え られ るに 至 って い る」 「 最 近 の司 法 書 士 、 特 に若 い 司法 書 士 の 熱 意 と多 方 面 の 社 会 的 活 動 を 直 視 し、 再 評 価 す べ き時 期 が きて い る。 少 な くと も司 法 書 士 に法 的 研 修 を 義 務 付 け る と ともに 、 特 定 の 分 野 の 法 的紛 争 へ の 関与 を認 め てゆ くべ きで あ る と思 う」 「私 は ク レサ ラ被 害 者 の法 的 救 済 手 続 を 司 法 書 士 に 担 当 して もら っ て も、 全 く問題 は な い と考 え て い る。 今 、 司 法 書 士 に 担 当 して も らわ な け れ ば 、 わ が 国 の多 重 債 務 者 問 題 は 悪 化 す るば か りで あ る と考 え る」 と主 張 して い るの で あ る。   木 村 の 主 張 か らは 、運 動論 的 に は弁 護 士 と司 法 書 士 の 連 帯 へ の 思 い が、 理 論 的 に は 司 法書 士 へ の 法 律 相 談 権 と法廷 代理 権 の付 与 が読 み とれ る。 法 廷 代 理権 の範 囲 は簡 易 裁 判 所 に 限 って い る の か な どの 疑 問 を別 に して い え ば 、 これ ら は司 法 書 士 が 「 市 民 的法 律 家 」 と して 活動 して い くた め に 不 可 欠 な 条件 で あ る とい え よ う。 司法 書 士 の 職 域 に つ い て は 自民 党 の司 法 制 度特 別 調 査 会 の提 言(1997年)の. な か で も扱 わ れ て お り、 そ れ に つ い て は議 論 の あ る とこ ろだ が 、 司法 書 士 の職 域. 問 題 の重 要 性 が認 識 さ れ た こ と 自体 を まず も って 評価 した い。 この問 題 は 、 司 法書 士 、弁 護 士 、 研 究 者 、 さ らに は 国民 の あ いだ で広 く議 論 され るべ きで あ ろ う。(11)   最後 に 指摘 して お き た い が、 司法 書 士 会(界)に. は解 決 す べ き課 題 が 山 積 して い る。 職 域 問題. に 加 え て 、 自治 自立 権 の 確立 、司 法 書 士 試験 の 改革(科. 目で は 、例 え ば 「憲 法」 の 設 置)、 本 格 的. 研 修 の実 施 な どで あ る。 国民 の意 見 も聞 きつ つ 、 司法 書 士 全 体 の民 主 的 議 論 が 早急 に展 開 され る.

(12) こ とを期 待 した い 。   憲 法12条 の 意 味 と 意 義 を 考 え 、 司 法 書 士 は12条 に ど う位 置 づ け られ る か を 考 え て み た 。 司 法 書 士 に つ い て は 、 こ れ ま で 若 干 は 検 討 し た こ と が あ る が 、(12)本稿 の 問 題 意 識 で も っ て 考 え は じ め た の はつ い最 近 の こ とで あ る。 そ の意 味 で も、 素 描 を試 み たに す ぎ な い。 積 み 残 した課 題 は た くさ ん あ る。 そ れ らに つ い て は 、続 稿 で検 討 す る こ とに した い。.    (注) (1)拙. 著 『聞 き書 き憲 法 裁 判』(東 研 出版 、1989年)。. (2)播. 磨 信 義 の 単 書 を あ げ る と、 『憲 法 を い か す 努 力 』(四 季 出版 、1987年)、 『 仁 保 事 件 救 援 運 動 史 』(日 本.     評論 社 、1992年)、 『ル ポル タ ー ジ ュ  人 権(い の ち)を 守 った 人 々− 仁 保 冤 罪事 件 支 援 者 の 群 像 − 』(法    律 文 化 社 、1993年)、 『神 姫 バ ス事 件 版 ・憲 法 を い か す 努カ− お 母 さ んバ ス ・ガイ ド奮 闘記− 』(文 理 閣 、     1997年)、 『神 戸 弘 陵 高 校 ・浅 野 事 件版 ・憲 法 を い かす 努 力 』(文 理 閣 、1998年)が. あ る。そ の他 、  『ル ポル.     ター ジ ュ  英 国 版  人 権 を守 る人 々 −英 国 の 冤 罪 事 件 と救 援 運 動 −』(法 律 文 化 社 、1995年)が. あ る。.      また 、 近 年 の 和 田進 の 仕事 に も注 目 して い る。 例 え ば、 『戦後 日本 の平 和 意 識 −暮 ら しの 中 の 憲法− 』     (青木 書 店 、1997年)が. あ る。. (3)芦. 部 信 喜 『憲 法 新 版 』(岩 波 書 店 、1997年)、12ペ. ー ジ。. (4)憲. 法 を 守 り育 て る運 動 の あ り方 に つ い て は 、 播 磨 信義 が分 か りや す く説 いて い る。 「 憲 法 の擁 護 」(憲.    法 教 育 研 究 会 『検証 ・日本 国憲 法 』 所 収 、 法 律 文 化社 、新 訂 版1998年)、211∼225ペ. ー ジ。. (5)国. 民 各 階層 に よ る 「 憲 法 を守 り育 て る運 動 」 を 取材 した 記 録 に つ い て は 、 前 掲 の拙 著 を 参 照 の こ と。. (6)江. 藤价 泰 「 司 法 書 士 の 基本 問 題 」(江 藤价 泰 編 『司法 書 士 の 実 務 と理 論 』 所 収 、 日本 評 論社 、1991年)、.     2ペ ー ジ。 (7)清. 水 誠 『法 と法律 家 を め ぐる思 索 −続 ・市 民 法 学 の試 み −』(日 本 評 論 社 、1996年)、8∼9ペ. ー ジ。. (8)大. 崎 晴 由 『司 法 書 土 を 生 きる』(東 京 法 経 学 院 出版 、1989年)の. (9)こ. こで は 本 人 訴 訟 を 支 援 して きた 代 表 的 な 司 法 書士 で あ る松 永 六 郎 の 著 書 を あ げ てお こ う。『司 法 書 士. 「 は しが き」。.     の ため の 裁 判 実 務 の 手 引 〔 全 訂 増 補 版 〕− 本 人 訴 訟支 援 の書 式 と理 論− 』(民 事 法研 究 会 、1997年)。 (10)木. 村達也 「 法 律新 聞」(1998年4月13日. 付)。. (11)司. 法 書 士 に た い す る弁 護 士 の認 識 で お どろ か され る本 が あ る。 石 原 豊 昭 ・石原 輝 ・平 井 二 郎 『訴 訟 は.    本 人で 出 来 る』(自 由 国 民社 、1987年 版)で あ る。全 体 に 中身 は な か なか 濃 い とい え る のだ が 、 次 の くだ     りには 仰 天 させ られ る 。 「よ く弁 護土 を 頼 む と金 を た く さん取 られ る と い って 、 司法 書 士 や 物知 りの 人 に     い ろい ろ聞 い て 訴 訟 を した り、 『事 件屋 』 と呼 ば れ る人 に 頼 ん だ りす る人 が い る が、 か え って 、 事 件 を紛    糾 させ た り、取 りか え しのつ か な い こ とを して しま った りで 大 け が を す る こ とに もな る」。8ペ ー ジ 。 (12)私. の司 法 書 士 論 に つ い て は、 拙 著 『私 の 法 曹 ・知 識 人 論 』(六 法 出版 、1997年)所. 収 の 諸 論文 を参 照 の.     こ と。そ の 他 、「司 法 改革 制 度 につ い て 考 え る − 司法 書 士 を 意識 しつ つ −」(全 国 青 年 司法 書 士 協 議 会 「 月    報 全 青 司」214号 、1998年)、 「 憲 法 と司法 書 士 − 市民 社 会 に お け る人 権 の担 い手 −」(「月 報全 青 司 」223    号 、1998年)が. あ る。.      なお 、 司 法 書 土や 税 理 士 の社 会 的実 績 を 正 当 に評 価 しよ う と しな い の は 、弁 護 士 会(界)だ. け では な.     い。 私 が所 属 して い る 民主 主 義 科 学者 協 会 法律 部会 や 日本 法 社会 学 会 も同様 で あ る。学 会 テ ー マ に 司 法    改 革 問 題 を と りあ げ て も、 司法 書 士や 税 理 士 の意 見 を 聞 く姿 勢 が な い し、研 究 者 や 弁護 士 の 報 告 に 司 法    書 士 ・税 理 士論 は ほ とん どない 。 日頃 か ら の い わゆ る法 曹 三 者偏 重 、 及 び過 大 評 価 の反 映 で あ る とい え     よ う。.

(13)

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