Title
パインアップルハウス内の炭酸ガス濃度の日変化と季節
変化
Author(s)
川満, 芳信; 中山, 博之
Citation
沖縄農業, 32(1): 2-6
Issue Date
1997-08
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/1363
Rights
沖縄農業研究会
パインアップルハウス内の炭酸ガス濃度の曰変化と季節変化
川満芳信・中山博之 (琉球大学農学部) YoshinobuKAwAMITsuandHiroyukiNAKAYAMA:Diurnalandseasonalchangesm CO2concemrationunderpineapplegreenhouse. 材料及び方法 調査は,パインアップル大苗供給システム実証事業 (1994年度)で使用中の名護市屋我地のパインアップル 種苗センターの鉄骨ハウスで行った.調査したハウス 面積は20m×50m(10アール)で,その中に約4000本の パインアップル(系統N67-10)を1994年8月に鉢植え し,鉢は高さ10cmのパットに並べ,4条の3列設けた 潅水は朝夕2回200mlづつ点滴潅慨で行った施肥は, 液肥を10日に1回の割合で200mlづつ潅水同様に点滴潅 慨方式で行った温度は,ハウス天窓が35℃になると開 き,25°Cに閉じる自動開閉装置によって管理した. 3月の調査ではハウス側面は閉じ,天窓は昼は開き, 夜は閉じた状態であった.また,植物体は,花芽分化処 理前の,栄養成長期のものであった 5月から11月の調査では,ハウス側面は開き,天窓は 昼間は開き,夜は閉じた状態であったまた,5月はカー バイト処理によって花芽分化を誘発させた植物体を用 いてハウス内微気象を計測した. 計測機器は,ハウスの中央部分に設置し,炭酸ガス濃 度,光量子密度,温度,湿度,葉温について測定した 炭酸ガス濃度の測定はCOSのCO2モニター(GH-250) を用いて,群落の上層部付近から空気をサンプリング し測定した.光量子密度は,光量子センサー(LI-190, ライカー社)を用いて,植物体の頂部で測定した湿度 と温度は,温湿度センサー(HMP-113Y,バイサラ社 製)を用いて,直射日光が当たらない様に,センサー部 分を遮光して測定した葉温は銅・コンスタンタンの 熱電対を用いて,葉の裏側にビニールテープで固定し 測定した.これらの全ての測定は,マルチデータロガー (岩通,SC-7501)で10分に1回の割合で記録した. はじめに パインアップルは露地で栽培した場合,植え付けか ら収穫まで18~25年を要する.それは,パインアップ ルが特異的なCAM型光合成経路を有するからであるs). また,沖縄地域は,パインアップル栽培に適した地域と されてはいるが,温度の面からみた栽培環境は必ずし も最適地とは言い難い.NieldとBoshell3)は,沖縄の気 象特性は植物体の量的生育には有利なものの,果実の 品質には余り適さないことも指摘している.事実,沖縄 の冬場の気温はパインアップルのガス交換の最適温度 から見ると低く6),その要因も関連してか生育や品質は 必ずしも良好とは言えない 近年は海外から安価なパインアップル果実が輸入さ れ,沖縄県のパインアップル産業は価格競争において 厳しい立場に立たされている.このような,外国産に対 抗するためには,追熟しないパインアップル果実の特 性を活かし,沖縄独特の品質の高い果実の生産技術体 系の確立が望まれる. 最近,パインアップルの栽培期間の短縮と品質の向 上を目指し,ビニールハウスを利用した施設栽培法が 増加している.ハウス栽培は,冬場の低い温度環境を補 うため,また,気温の低くなる夜間の温度を保つためハ ウスを密閉状態にするが,一方で外気の流入は著しく 阻止される.パインアップルは特異的に夜間に炭酸ガ スを吸収するため,密閉状態のハウス内の炭酸ガス濃 度は急速に低下することが予想される. そこで,本稿では,実際にパインアップルをハウス栽 培している条件下で,ハウス内部の炭酸ガス濃度の実 体を把握するため,1995年3月から11月までの期間に 日変化と季節変化を調べた.111満・中山:パインアップルハウス内の炭酸ガス濃度の日変化と季節変化 3 結果 図1から図8には,3月から11月までの各月の炭酸 ガス濃度,光量子密度,温度,相対湿度の代表的な3日 間の日変化を示した.それぞれの図の上図は,炭酸ガス 濃度と光量子密度を,下図は温度と湿度の変動である. 光量子密度は,ハウス内では雲やハウスの鉄格子の 影響などで変動が激しく,一定の値を示さない.また, 光量子密度は,太陽の動きに伴って,日の出と共に放物 線を描いて上昇し,午後低下する.各月の光量子密度を 比較すると,7月,8月はピークの高さが高く,光量が 高いことがわかるしかし,光量子密度は,測定日の天 候の影響を強く受けるため,各月の光環境を単純に比 較することは困難である. 次に,炭酸ガス濃度を見ると,3月(図1)と10月 (図7)の一部を除いて,各月とも250~400ppmの範囲 で曰変動を示した一日の変化に着目すると,7月(図 6月16日~18日 3月9日~12日 500 2000 500
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炭酸ガス五度叩 く 光■子鹿度 、 、 5 0 Ⅱ 光■子密度 0 如釦卯、⑪ RH RH 、 印 扣 、 l〃 相対湿度㈹ l 遇度℃ I l 沮度℃ I l 相対湿度僻 Temp 0 18,0 1800 1800 18DO B噂2m 図3.6月のパインアップルハウス内の炭酸ガス濃度(CO2),相対鵬(%), 組子密度(PFD,UmoI・m2sリ,気温(℃)のB変化計測は名護市屋我地に ある緑化センター内のピニールハウス内で,1995年6月16日~18日に行った. 7月26日~28日 ■てr】】HIDmlH・ID、 u■ 時刻 図1.3月のパインアップル内の炭酸ガス濃度(CO2)`相対温度(%)‘光量 子密度(PFD,似ITM.、2.sリ,気温(℃)の日蜜化計測は鋼市屋我地にあ る緑化センター内のピニールハウス内で,1995年3月9日~12日に行った. 5月12日~14日 500 靱迦麺、no 炭酸ガス五度叩 CO2 1500 1000 光且子密度 ■■ P PFD (璽ITnlJ
RH l 温度℃ I l 逼度℃ I l 相対湿度伸 Temp TDD1HHDHDWmH】 時刻 図2.5月のパインアップルハウス内の炭酸ガス濃度(CO2),相対温度(%)‘ 光量子密度(PFD,似、01.m231),気温(℃)の日変化計測は名護市屋我地に ある緑化センター内のピニールハウス内で,1995年5月12日~14日に行った. 時刻 図4.7月のパインアップルハウス内の炭酸ガス濃度(CO2),相対温度(%), 光量子密度(PFD,似1,1.,2s'),気温(℃)の日変化計測は名護市屋我地に ある緑化センター内のピニールハウス内で’1995年6月26日~28日に行った沖縄農業第32巻第1号(1997) 4 4),8月(図5),9月(図6)で,側窓と天窓を開け ている日中に濃度の低下が見られた.また,3月(図1), 10月(図7)の一部では,夕方から深夜にかけて急激 な炭酸ガス濃度の低下が見られた.夜の中ごろに最低 値に達しその後上昇するが,日の出頃に一時的に炭酸 ガス濃度の低下が確認され,CAM型光合成の影響が観 察された3月ではCO2が約100ppmまで低下した 温度は,7月(図4),8月(図5)で高く,25~45 °Cの範囲で推移した.その他の月は,11月の15~30℃と 低い以外は,20~40℃の範囲内で推移した.相対湿度は, 各月とも温度とは逆の日変化を示し,温度が上昇する と湿度は低下し,温度が低下すると上昇した相対湿度 は,夏場に温度が高いときは30%まで低下する日も観 察されたが,各月の1日の平均は60~70%であった 8月16日~18日 10月22日~24日 2000 500 500 CO2 CO2
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麺 光■子密度 四 m 1500 光■子密度 1000 PFD PFD 渇度に l 温度℃ I l 相対湿度隈 l 相対湿度院 Mx、1BDO1BDOu5uL 田.、⑪1HIX] 時創 図7.10月のパインアップルハウス内の炭酸ガス濃度(CO2)`相対温度(%)‘ 蝿子密度(PFD,似1,1.,2s'),気温(℃)の日慶化計測は名護市屋我地に ある緑化センター内のピニールハウス内で,1995年10月22日~24日に行った 時刻 図5.8月のパインアップル内の炭酸ガス濃度(CO」相対温度(%),光量 子密度(PFD,似、01.,2.s')`気温(℃)の日慶化計測は名護市屋我地にあ る緑化センター内のピニールハウス内で,1995年8月16日~18日に行った. 11月23日~25日 9月19日~21日 500 靹皿函羽 COP 靱 麺 、I 0 m炭酸ガス濃度”
光己子密度 光■子密度 ■■ PFD 1 週度℃ I l 温度℃ I l 相対湿度僻 nm【】1R・。[ 出HIX」Uru。U■」1ⅨⅥ】ul皿で■ 時刻 図6.9月のパインアップルハウス内の炭酸ガス濃度(CO2),相対温度(%)‘ 光量子密度(PFD`LImol・m2s1),気温(℃)の日蛮化計測は名護市屋我地に ある緑化センター内のピニールハウス内で,1995年9月19日~21Bに行った. 時刻 図8.11月のパインアップルハウス内の炭酸ガス濃度(CO2),相対温度(%), 鯛子密度(PFD,似、01.,231)`気温(℃)の日慶化計測は名護市屋我地に ある緑化センター内のビニールハウス内で,1995年11月23日~25日に行った. 、 麺呵 迦泗麺郵 、 0m⑩、、⑩ 炭酸ガス五度、⑪
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■ ■ FD ▲■-ロ‐■-■■h.■■、-■。■ロロ▲Ⅱ-□-■-■ニロ‐■.■△川満・中山:パインアップルハウス内の炭酸ガス濃度の日変化と季節変化 5 考察 本調査は,1995年3月から11月までの9ヶ月間で各々 の月を3日間程度で代表させたが,各月毎のハウス内 環境条件を全て表現するものではない. まず,光環境について考察する7,8月の光量子密 度は高く,夏場の光環境は著しく高いことがわかる関 塚8)は,那覇気象台のデータから各月の1日あたりの光 合成有効放射量を求め,夏場のそれは冬場の約2倍に 達し,光環境が季節的に大きく変化することを認めて いるパインアップルのCO2交換速度からみた光飽和点 は,30~40klxと言われる`).SI単位に換算すると600~ 800ノリ、o1.,.2.s'である.本調査で得られた夏場の光量 子密度は,パインアップルのガス交換速度の光飽和点 を越えており,乾物生産にとっては適正条件と考えら れる.しかし,3,9,10,11月の秋~冬期の光量子密 度は,日中500〃molom組。s1以下で推移し,パインアッ プルのガス交換速度の制限要因になっている可能性が 高い 温度に関して,Nealesら2)は,パインアップルのCO2 収支量からみた最適温度は昼温25℃,夜温15℃と報告 している調査した期間のハウス内部は,この最適温度 条件に比べ高く推移した.また,パインアップルをはじ めとするCAM植物は,温暖な昼温と冷涼な夜温でCO2 収支量が最大になると言われる"6).沖縄は年間を通し て日較差が5°Cと小さいがハウス内はそれが比較的大 きく,パインアップルの生育にとっては適正温度環境 条件の範囲内となっている. 次に,ハウス内の炭酸ガス濃度条件について考察す る.我々は,パインアップルは大気CO2濃度の350ppm では,気孔抵抗が大きく,また,葉が厚いため葉内への 炭酸ガスの拡散が不十分で,CO2交換速度及びCO2収支 量が抑制されていることを明らかにした').ハウス内の 炭酸ガス濃度もほぼ大気条件と同様の濃度で推移した ことから,ハウス内環境はパインアップルのCO2交換速 度,CO2収支量に対し限定要因の一つであると考えられ る.各月の炭酸ガス濃度の日変化に着目すると,7~9 月は日中に炭酸ガス濃度の低下がみられた.パインアッ プルはCAM型光合成を営むため,昼間の炭酸ガス濃度 の吸収は,朝方の明期はじめと夕方の明期終わりにの み存在する.従って,このハウス内で計測された日中の 濃度の低下は,ハウスが開放されていたため,ハウス外 部の植物によるCO2濃度の低下に影響されたものと考え られる.すなわち,夏場は,C3,0植物の光合成が盛ん に行われ,日中は炭酸ガス濃度が著しく低下するが,ハ ウス内部もその影響を受けたものと考えられる. 3月と10月の一部には,夕方から深夜にかけて急激 な炭酸ガス濃度の低下がみられ,最低値に達した後,上 昇に転じ,日の出頃に再度一時的な炭酸ガス濃度の低 下がみられた.この炭酸ガス濃度の変化はパインアッ プルのCO2交換速度の日変化を逆にしたかたちとよく似 ている.3月は夜間は天窓も閉じ,ハウス内は密閉状態 となる.そのため,パインアップルの夜間の炭酸ガス吸 収によってハウス内の炭酸ガス濃度が低下し,そして, 日の出ごろの一時的な炭酸ガスの吸収が,ハウス内の 炭酸ガス濃度の低下を招いたと考えられる. この夜間のハウス内の炭酸ガス濃度の低下が,パイ ンアップルのCO2交換速度,CO2収支量に及ぼす影響に ついて考察するCO2濃度が大気以下で減少するとCO2 収支量は著しく抑制される.そのため,冬場の温度確保 を目的としたパインアップルのハウス栽培は,温度の 面からは最適条件を確保できたと言えるが,ハウスの 密閉による夜間の炭酸ガス濃度の低下は,逆に,生育を 著しく抑制すると考えられる 以上のことから,パインアップルのハウス栽培は,沖 縄の冬場の恵まれない温度環境を克服するためには優 れた方法の一つと考えられるが,昼夜を問わずハウス を密閉するために生じる炭酸ガスの飢餓状態は,CAM 型光合成を営むパインアップルの夜間の炭酸ガス吸収 を低下させ,CO2交換速度,CO,収支量を著しく低下さ せると考えられる.さらに,効率的な栽培期間の短縮と 高品質の果実を得るためには,夜間に炭酸ガスを施肥 する方法や,曇天日の昼間に楠光する方法等も導入し, 沖縄のパインアップル産業を活性化させる必要がある と考える.
沖縄農業第32巻第1号(1997) 6 参考文献 1.川満芳信・中山博之・野瀬昭博1994.高CO2がパ インアップルの個葉のガス交換速度及びCO2収支量に 及ぼす影響.日作紀63(別2):111-112. 2.Neales,TF.,PJMSaleandC・P・Mayer1980. Carbondioxideassimilationbypineappleplants, A7zq"qscomosus(L)MerrlLEffectsofvariation oftheday/nighttemperatureregimeAustJ、 PlantPhysioL7:375-385. 3.Neild,RE、andFBoshelll976、Anagroclimatic procedureandsurvayofthepineappleproduction potentialofColombia・Agri、MeteoL17:81-82 4.Nobel,P.S・andT・LHartsockl983・Relation‐ shipsbetweenphotosyntheticallyactiveradiation, nocturnalacidaccumulation,andCO2uptakefor acrassulaceanacidmetabolismplant,Opuntiα /icus-jndica、PlantPhysioL71:71-75. 5.野瀬昭博1979.CAM植物における光合成作用と その制御農業技術34:34147. 6.----1986パインアップルのCAM型光合成に関 する研究.琉大農学報.33:7-34 7.----1992.CAM型光合成の変異と制御.日作紀 61:161-171. 8.関塚史郎1996.フアレノプシス系デンドロビウム のCrassulaceanAcidMetabolism型光合成に関す る研究.沖縄農試研究報告17:1-70.