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角型化の高いTbCo垂直磁化膜のスピン・軌道・元素選択ヒステリシス測定

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1

目次

第1 章 序論 3 1.1 本研究の背景 3 1.1.1 磁気記録媒体の現状 3 1.1.2 希土類遷移金属合金膜の現状 4 1.2 目的 6 第2 章 原理 7 2.1 コンプトン散乱 7 2.2 磁気コンプトン散乱 8 2.3 実験装置 15 2.4 測定原理 20 第3 章 試料作製 21 3.1 作製方法 21 3.2 X 線回折 25 3.2.1 X 線回折(XRD)原理 25 3.2.2 X 線回折(XRD)測定 26 3.2.3 X 線回折(XRD)測定結果 28

3.3 EPMA(Electron Probe Micro-Analysis) 30

3.3.1 EPMA 測定原理 30 3.3.2 EPMA 測定結果 32 第4 章 磁化測定 33 4.1 VSM 33 4.1.1 VSM の測定原理 33 4.1.2 VSM の測定結果 34 4.2 SQUID 36 4.2.1 SQUID の測定原理 36 4.2.2 SQUID の測定結果 37

(2)

2 第5 章 試料 1 : Tb28Co72 40 5.1 スピン選択磁化測定 40 5.1.1 スピン選択磁化測定原理 40 5.1.2 スピン選択磁化測定結果 42 5.2 スピン選択磁化曲線と軌道選択磁化曲線 46 5.3 磁気コンプトンプロファイルにおける Tb の寄与と Co の寄与の分離 49 5.3.1 フィッティング方法 49 5.3.2 フィッティング結果 49 第6 章 試料 2 : Tb23Co77 55 6.1 スピン選択磁化測定 55 6.1.1 スピン選択磁化測定原理 55 6.1.2 スピン選択磁化測定結果 57 6.2 スピン選択磁化測定と軌道選択磁化測定 61 6.3 磁気コンプトンプロファイルにおける Tb の寄与と Co の寄与の分離 64 6.3.1 フィッティングの方法 64 6.3.2 フィッティングの結果 64 第7 章 考察 72 7.1 両試料の比較 72 7.2 試料 2 Tb23Co77の磁化反転プロセス 72 第8 章 結論 73 参考文献 74 学会発表および論文 74 謝辞 76

(3)

3

第 1 章 序論

1.1 本研究の背景

1) 1.1.1 磁気記録媒体の現状 磁気記録はAV 機器をはじめコンピュータ周辺機器をして欠かせないものとなっている。情 報化社会を迎え、われわれの取り扱う情報量も膨大なものになっており、より高密度、高速 の記録システムが求められる。これに応えるために、磁性材料の高性能化と磁気再生系の特 性改善が急速に進められている。磁気記録の高密度化には磁性粒子を小さくすることが有 効である。しかし、磁性粒子を小さくすると磁化が熱に対して不安定になり、記録したデー タが消える可能性がある。これを防ぐために磁気エネルギーを大きくして磁化の安定性を 高める必要がある。しかし、それにともないディスクの保持力が高くなり書き込み性能が低 下する。このため、安定性確保の点からディスクの保持力を磁気ヘッドの記録能力を超える ほど高くする必要があり、通常の磁気ヘッドでは記録できなくなるという問題が乗じる。 一方、CD、レーザーディスクなど光を用いた情報記録媒体も AV 機器として急速に普及 し、さらにその非接触性、高密度性を活かしてCD-ROM という形で辞書などの電子出版用 情報媒体へ販路を広げつつある。光磁気記録はレーザー光を用いて記録する方法である。 近年、この磁気記録の技術と光磁気記録の技術を融合させた熱アシスト磁気記録が注目さ れている2)。この方式は、通常記録できないような光保持力媒体に対し、光照射することで 熱磁気的に記録した後、常温に戻した状態で磁気的に再生する。この技術の適用により、高 保磁力媒体に記録できるので、熱安定性を保ちながら磁性粒子を微細化できる。磁気記録の 記録方式に熱アシスト磁気記録方式がある。熱アシスト磁気記録材料としては TbFeCo が ある。Tb は希土類元素であり、Fe や Co は遷移金属であり、これらをアモルファス合金膜 にすると組成比や膜厚によって特性を大きく制御できるという利点があるからである。し かし、TbFeCo は三元系のため、解析が困難である。そこで基礎研究として、二元系の希土 類遷移金属に着目した。 また、磁気記録の高密度化に伴い、書き込み・読み込みの高速化が求められている。書き 込み・読み込みの高速化が求められている。磁気記録は“1”“0”で記録するため、書き込 み・読み込みのスピードを上げるには、磁化反転プロセスを解明することが重要である。つ まり、磁気モーメントの磁場応答を研究は有益なことである。 以上のことから、二元系の希土類遷移金属の磁化曲線について研究を行う。

(4)

4 1.1.2 希土類遷移金属合金膜の現状 ① 元素選択ヒステリシス RE-TM(Dy-Co)合金膜において、X 線磁気円二色性(XMCD)による元素・軌道別の磁化曲 線(ESMH)は、膜全体の磁化曲線(VSM)よりも急激に変化することが発表された。(Fig.1.1)3) Fig.1.1 元素選択磁化曲線 これは、元素(Dy、Co)により異なることが原因か、それともスピンと軌道の磁化曲線が異 なることが原因かと考え、スピン選択磁化曲線を測定した。 ② スピン選択磁化曲線 Tb33Co67垂直磁化膜において、磁気コンプトン散乱強度による磁化曲線は、膜全体の磁化 曲線(VSM)と定性的に似た形状になることが発表された(Fig.1.2)4) Fig.1.2 スピン選択磁化曲線 Dy-Coの 磁化曲線 Coの磁化曲線

(5)

5 ③ スイッチングプロセスの解明 Tb43Co57垂直磁化膜において、スピン選択磁気モーメントと軌道選択磁気モーメントの 比の値が|H|<0.5~1T で変化することが報告された(Fig.1.3)5)。またその原因が元素別磁 気モーメントの磁場依存性が異なるためではないかという報告もされている(Fig.1.4)6) Fig.1.3 元素別スピン選択磁化曲線 Fig.1.4 元素別スピン選択磁化の比 また、これらの試料はグラフから読み取れる通り角型比・保磁力が小さいものであるため、 その影響も考えられる。

(6)

6

1.2 目的

①②③の報告より、本研究では、角型比の高いTbCo 膜におけるスピン・軌道・元素別の磁 化過程を観測し、ミクロなスイッチングプロセスについて考えることを目的とした。 保磁力の異なる試料について ① スピン選択磁化曲線、軌道選択磁化曲線を求める ② MCP を解析し、元素別の寄与を求める

(7)

7

第 2 章 原理

2.1 コンプトン散乱

7) コンプトン散乱とは電子と光子の非弾性散乱である。Fig.2.1 のように入射および散乱方 向をスリットで指定して観測部分をびしょう領域に限定する。試料内の点(x,y,z)の微小部分 からコンプトン散乱X 線強度 I は、物質内の経路での吸収を考慮して、次のような関係式 で表わされる。

I(θ, x, y, z) = I0e−μ(E)Le−μ(E′)L′ρ(x, y, z)dσ(θ) (2.1)

静止している電子を考えた場合、ある角度へ散乱される光子は運動量保存則とエネルギ ー保存則により、決まったエネルギーで観測される。静止している電子とコンプトン散乱し たX 線のエネルギーE′を一定の散乱角θで測定すると、入射エネルギーを E として、 E′= E 1 + Emc2(1 − cos θ) (2.2) と、エネルギースペクトル上で1 本のピークとして観測される。しかし現実の系では、物質 中の電子は運動量 p であらゆる方向に動いていて、コンプトン散乱した光子がドップラー シフト⊿ED ∆ED = (ℏ m)⁄ (𝐊.𝐩) 1 +mcE2(1−cos θ) (2.3) する。そのため幅を持つプロファイルが観測される。したがって、コンプトンプロファイル の形は、物質中の電子の運動量分布を直接反映している。 次節に述べるように円偏光した X 線と電子の散乱では、電子の電荷に依存した散乱振幅 のほかに電子のスピンに依存した散乱振幅があり、この電荷とスピンの干渉項から磁性電 子の運動量プロファイルが得られる。これは磁気コンプトンプロファイル(MCP)と呼ばれ る。 I(E′) I0(E′) θ ρ(x, y, z) Fig.2.1 コンプトン散乱で電子密度分布を計測する模式図 L L’

(8)

8

2.2 磁気コンプトン散乱

8-10) 静止している電子についてはクライン-仁科の式が有名であり、無偏光 X 線に対する微分 散乱断面積は、









2 1 2 2 1 2 1 2 2 0

sin

2

1

r

d

d

(2.4)

r

0:電子の古典半径 θ:散乱角

:X 線のエネルギー (添え字の 1、2 はそれぞれ入射と散乱を表す。) で与えられる。ただし、ここには動いている電子の効果や電子スピンに依存する散乱が表現 されていない。X 線のエネルギーが電子の静止質量エネルギーと比較して小さい時、非相対 論的なハミルトニアンに相対論的補正項を追加して、摂動計算により断面積を求めること ができる。 電磁場と電子のハミルトニアンは m-2の項まで考慮して

=c =1とすると、

A

p

E

E

A

p

σ

B

σ

A

p

e

i

e

m

e

m

e

e

m

e

m

H

2

2

4

2

2

(2.5) m:電子の質量

p

:電子の運動量ベクトル

A

:電磁場のベクトルポテンシャル

:スカラーポテンシャル と表される。第4 項は電子スピン(|

σ

|=1)と電磁場の磁場ベクトル

B

との相互作用を、第 5 項はディラック電流と電磁場の電気ベクトル

E

との相互作用を表し、共にディラック方 程式に基づく相対論的補正項である。またゲージとしてローレンツゲージをとれば、

t

A

E

(2.6) となる。 (2.6)式を(2.5)式に代入し、m-2以下の高次項と p×grad Φから起こるスピン軌道項を簡単 化のために省略して、

W

V

H

H

0

(2.7)

e

m

p

m

H

2

2 0 :電磁場のない時のハミルトニアン (2.8)

2

σ

A

A

2 2 2

4

2

m

e

A

m

e

V

A

の2 次式 (2.9)

A

p

σ

rot

A

m

e

m

e

W

2

A

の1 次式 (2.10) と分割する。 ここで、電磁場のベクトルポテンシャル

A

(9)

9

exp

.

.

2

1

.

.

exp

2

1

2 2 2 2 1 1 1 1 2 1

i

t

c

c

a

i

t

c

c

a

ε

k

r

ε

k

r

A

kk

ε

:X 線の電場の単位ベクトル

r

:電磁波が電子と行き合った場所

k

:X 線の波数ベクトル(添え字の 1、2 はそれぞれ入射と散乱を表す。) k

a

:光子の消滅演算子

a

k:光子の生成演算子 (2.11) である。

A

は光子を一つ生成あるいは消滅させるため、散乱現象を考えるとき、生成演算子と消 滅演算子の積

a

k

a

kを持つ項のみが行列要素として残る。そのため、

A

の2次式である

V

は 1 次摂動として、

A

の1次式である

W

は2 次摂動としてコンプトン散乱に寄与する。

V

の 1 次摂動より電荷による散乱の行列要素は、|

i

>、|

f

> をそれぞれ電子の始状態、 終状態とすると

f

i E e

d

i

m

e

i

m

e

f

V

ε

ε

k

r

r

A

exp

1

2

2

2 1 2 1 2 2 2

k

k

1

k

2

E

1

E

1

2

E

2

(2.12) である。時間に関する積分はインパルス近似の範囲内でδEとしており、E1と E2はそれぞ れ散乱前と散乱後の電子のエネルギーである。 コンプトン散乱では、散乱前の電子の束縛エネルギーよりも光子が電子に与えるエネル ギーが十分に大きいため、終状態が平面波

exp

i

p

f

r

と近似される。そのため。

  

i E E i f e

m

e

d

i

m

e

V

p

ε

ε

r

r

p

k

ε

ε

2 1 2 1 2 2 1 2 1 2

1

2

exp

1

2

(2.13)

 

p

i

exp

i

 

p

i

r

  

i

r

d

r

:始状態の運動量表示の波動関数 (2.14)

k

p

f

p

i :運動量保存則 となる。 次に電子スピン

σ

に関する行列要素として

(10)

10

  

i E m

i

m

e

i

t

m

e

f

V

p

ε

ε

σ

A

A

σ

2 1 2 1 1 2 2 2 2

2

4

1

4





(2.15) が得られる。 また、W の摂動項は

n i n m

E

E

i

W

n

n

W

f

W

n

:中間状態 (2.16) の形の 2 次摂動になる。粒子の生成消滅過程は、結果的に k1が消滅して k2が生成してい る。 しかし、その過程には中間状態を挟むため、 (a) E2 k2 (b) E2 k2 Ef Ef E12 E12 En En Ei E1 k1 Ei E1 k1 (a)入射光子k1が先に消滅して散乱光子k2が生成する過程 (b)散乱光子k2が先に生成して入射光子k1が消滅する過程 というように、この2過程の足し合わせの形で書かれる。この時

ck

、光子のエネルギ ー

ck

k

であるため、 (a) Ei=E1+k1、En=E12 (b) Ei=E1+k1、En=E12+k1+k2 (2.17) となっている。 まず、(a)の時を求める。生成演算子 † k

a

と消滅演算子

a

kがそれぞれ、前半のブラケット

n

W

f

内と後半のブラケット

n

W

i

内に含まれる。以下の

exp

.

.

2

1

.

.

exp

2

1

2 2 2 2 2 1 1 1 1 1 2 1

c

c

t

i

ia

c

c

t

i

ia

rot

r

k

ε

k

r

k

ε

k

A

k k † (2.18) より、摂動項は、

(11)

11

i

e

a

i

e

i

a

f

k

E

E

m

e

i k i k r k r k

ε

k

σ

p

ε

ε

k

σ

p

ε

   

1 1 2 2 2 2 2 1 1 1 1 2 1 2 1 2 2

2

1

2

1

1

2

1

(2.19) ここでブラケット内のスピン行列

σ

に依存する項は X 線のエネルギーが電子のエネルギ ーよりも遥かに大きいため、

k

1

ck

1

1



E

1

E

2とする。さらに

p

i

とし、|f>を 平面波と近似することで



 



 



 

 

 

i E

i

m

e

p

ε

k

ε

k

k

ε

ε

k

k

ε

ε

k

k

ε

ε

k

σ

1 1 2 1 1 1 2 2 2 2 1 1 1 1 2 2 1 2 1 2 2

ˆ

ˆ

2

1

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

2

2

1

:X 線の方向の単位ベクトル(添え字の 1、2 は入射と散乱 X 線に対応する。) (2.20) となる。 同様に(b)の摂動項も

k

2

ck

2

2



E

1

E

2を考慮することにより、



 



 



 

 

 

i E

i

m

e

p

ε

k

ε

k

k

ε

ε

k

k

ε

ε

k

k

ε

ε

k

σ

2 2 1 1 2 2 1 1 1 1 2 2 2 1 2 2 2 2 1 2 2

ˆ

ˆ

2

1

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

2

2

1

(2.21) となる。したがって、(a)と(b)の足し合わせを考えると(2.15)式は、



 



 

 

i E m

i

m

e

W

p

ε

k

ε

k

k

ε

ε

k

k

ε

ε

k

σ



2 2 1 1 2 1 2 1 2 2 2 1 2 1 1 1 2 1 2

ˆ

ˆ

2

1

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

2

4

1

(2.22) となる。 電子スピン

σ

に関する行列要素は

  

i E m

m

e

i

W

V

σ

B

p

2 1 2

1

4

(2.23)

(12)

12





 



 

2 2 1 1 2 1 2 1 2 2 2 1 2 1 1 1 2 1 2 1

ˆ

ˆ

2

1

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

2

1

ε

k

ε

k

k

ε

ε

k

k

ε

ε

k

ε

ε

B

(2.24) と書かれ、遷移確率は

  



 

i E E i

i

m

m

i

m

e

m

ie

m

e

2 2 4 2 1 3 2 2 1 2 2 1 4 2 2 2 2 2 1 2 2 1

16

1

Im

4

4

1

4

2

1

p

B

σ

ε

ε

B

σ

ε

ε

p

B

σ

ε

ε

(2.25) に比例する。この第1 項に比べて第 2 項、第 3 項はそれぞれほぼ

/

m

2

/ m

だけ小さ いため、第3 項を無視する。よって、上式より次に挙げる 3 つのことが理解される。 I. 遷移確率は初期状態の電子運動量密度

 

p

i 2に比例する。 II. 電子スピンによる磁気コンプトン散乱強度は、電荷による散乱強度に比べて約(X 線エ ネルギー/mc2)だけ弱い。 III. 第 2 項が虚数項であるため、この項を観測するためには、すなわち MCP を得るには X 線が円偏光している必要がある。これは第2 項の行列要素が実数として残るためにεに 虚数を含む必要があるためである。 次にエネルギー保存則と運動量保存則より、散乱後の X 線のエネルギーは

cos

1

1

1

cos

1

1

1 1 1 2

m

m

m

i

p

k

(2.26) となる。ただしインパルス近似のためエネルギー保存則に電子の束縛エネルギーはあらわ に出てこない。第1 項は静止している電子と散乱した時の X 線のエネルギーで第 2 項は電 子の運動量によるエネルギーシフト(ドップラーシフト)を示している。 このシフトは散乱ベクトル

k

上への

p

iの射影成分が同じならば、同じ

2を与えるため、 2

を測定する時の散乱断面積は





 

i

dp

x

dp

y

m

i

m

e

d

d

d

2 2 1 3 2 2 1 2 1 2 4 2 2

Im

4

4

1

p

ε

ε

B

σ

ε

ε

(2.27)

(13)

13 ここでz 軸は散乱ベクトルの方向に取り

 

p

i

i

 

p

と書き換えた。 この運動量に対する 2 重積分量は一電子のコンプトンプロファイルと呼ぶべき量である。 実際の観測に掛かるものは多電子系からの散乱強度であるため、そのコンプトンプロファ イルは一電子近似の下で電子数について総和をとり、

 



 

 

 

n i z i n i y x i z

dp

dp

j

p

p

J

1 1 2

p

(2.28) と表す。 Grotch らの行った準相対論的(ω/m<1)な計算の結果[26]は、高次の補正項を省略すること により、

 



 

z z z

p

J

p

m

k

k

m

p

J

m

d

d

d





k

k

k

k

k

σ

k

2 2 1 1 2 1 1 2 2 2 1 2 2 2 2 2

cos

1

2

1

cos

1

cos

2

cos

1

4

:微細構造定数 (2.29) となる。第 2 項が電子スピンに依存する散乱断面積であり、スピンの向きにより符号が変 わる。よって、磁化させた強磁性体のスピンに依存する散乱強度は、一電子近似の下で電子 数について和を取るとスピン上向き(

)と下向き(

)の電子のコンプトンプロファイルの差 を含むことになる。つまりこの量が磁性電子のコンプトンプロファイル(MCP)となる。 以上のことより、

n

n

n

 (2.30)

 



 

 

 

      

n i z i n i z i n i y x i z nor

p

dp

dp

j

p

j

p

J

1 1 1 2

p

(2.31)

 

 

 

 

 

    

n i z i n i z i n i y x i i z mag

p

dp

dp

j

p

j

p

J

1 1 1 2

p

(2.32) とすると、

J

nor

 

p

z は電荷によるコンプトンプロファイル(ノーマルコンプトンプロファイ ル)、

J

mag

 

p

z はMCP を表す。 MCP の導出の(2.31)式と(2.32)式にあるように、ノーマルコンプトンプロファイル、MCP 共にその始状態の運動量表示波動関数の二乗の積分が含まれる。直感的にコンプトンプロ ファイルを理解できるように、例として自由電子ガスモデルの運動量密度とそのコンプト ンプロファイルをFig.2.2 に示している。ノーマルコンプトンプロファイルは各軌道電子の 運動量密度分布の重ね合わせとして全電子の運動量密度分布を、MCP は磁性電子の運動量 密度分布を与える。ゆえに、MCP を観測するということは、その磁性電子の軌道状態を観

(14)

14 測していることに他ならないのである。

このコンプトンプロファイルはフェルミ面のトポロジーや電子相関の効果等の研究も用 いられている。

(15)

15

2.3 実験装置

磁気コンプトン散乱実験を行なうには、 i. 円偏光した X 線が必要。 ii. 磁気効果が非常に小さいため強い X 線が必要。 iii. インパルス近似を成立させるため硬 X 線が必要。 などの条件を満たす必要がある。以上のような条件を満たす X 線源としてはシンクロトロ ン放射光が有用である。実際には、兵庫県にある大型放射光施設SPring-8 の高エネルギー 非弾性散乱ビームラインBL08W experimental station A にて測定を行った。測定装置の配 置図を Fig.2.3 に示す。BL08W の光源は、高エネルギーの円偏光や水平直線偏光が発生可 能な楕円多極ウィグラー(EMPW)であり、MCP 測定には円偏光を用いる。EMPW より放射 された白色X 線は、Si(620)面のモノクロメーターを用いて単色化、集光して station A へ 導かれる。モノクロメーターの下流にあるTC1・2 スリットや station A 内にある Pb スリッ トは、モノクロメーターにおいて単色化されなかった必要なエネルギー以外の X 線などに よるバックグラウンドを軽減させるために設置されている。なお、空気中での散乱を軽減さ せるために X 線は真空に保ったパイプ内を通している。入射 X 線に対して 178°方向へ後 方散乱した光子を10 素子の Ge 半導体検出器(Ge-SSD)を用いて検出した。試料には超伝導 磁石を用いて-2.5T~2.5 T の磁場を掛けており、MCP はそれぞれの磁場での散乱強度の差 として得られる。実験の運動量分解能は0.45 a.u.であった。 Fig.2.3 コンプトン散乱実験図 MCP の測定においては、以下の(2.33)式に示すように試料の磁化を散乱ベクトルと平行 にして

2のエネルギースペクトル

I

 

2 を測定し、次に磁化の方向を反転させて同様に

 

2

I

を測定した後、両者の差を求めることにより全体の散乱スペクトルから

J

mag

 

2 を取り出す(磁場反転法)。 wiggler wiggler I detector I detector I I00monitormonitor SuperConducting

SuperConductingMagnetMagnet

monochromator monochromator Si Si620620 Ion Ion chamber chamber SDDSDD Sample Sample

SSD

(16)

16 また、磁気効果Me は以下の式で表わされる。 Me = ∫ I+− I−) dE ∫ I+dE + ∫ I−dE (2.33) Me : 磁気効果 I+、I- : エネルギースペクトル I+とI-はエネルギースペクトルなので、I++I-とI+-I-は、コンプトン散乱により測定可 能である。 (2.29)式を再度書き表し、

 



 

z z z

p

J

p

m

k

k

m

p

J

m

d

d

d





k

k

k

k

k

σ

k

2 2 1 1 2 1 1 2 2 2 1 2 2 2 2 2

cos

1

2

1

cos

1

cos

2

cos

1

4

:微細構造定数 (2.34)

2 1 2 2 2

cos

1

4

m

C

nor (2.35)







z m a g

p

m

k

k

m

C

k

k

k

k

k

σ

k

2 2 1 1 2 1 1 2 2

c o s

1

2

1

c o s

1

c o s

2

(2.36) のように第1 項と第2項の係数を書き表すと、

 

2

I

 

2

2

P

c

C

mag

J

mag

 

2

I

(2.37)

I

 

2

C

nor

J

nor

 

2

P

c

C

mag

J

mag

 

2

B

.

G

.

(2.38)

I

 

2

C

nor

J

nor

 

2

P

c

C

mag

J

mag

 

2

B

.

G

.

(2.39)

P

c:X 線の円偏光度を表すストークスパラメーター

(17)

17 となり(2.32)式で表される MCP を得る。 これらの式より、散乱強度を稼ぐには、散乱角を180°に近づけ、ノーマルコンプトンプ ロファイルに対するMCP の比である磁気効果を上げるには、散乱角を 90°に近づければ よい。実際の実験では、散乱強度を稼ぐため、散乱角は178°とした。 さらに、

2

p

zの間の関係

cos

2

cos

1

03604

.

137

2 1 2 2 2 1 2 1 1 2

m

p

z (2.40) を用いて、

J

mag

 

2

J

mag

 

p

z に変換する。 (2.37)式が成立するには、(2.38)と(2.39)式中にある電荷散乱

J

nor

 

2 およびバックグラウ ンドが同じでなければならない。入射 X 線の強度や計測装置の時間的変動等の影響をなく すために、測定時に散乱ベクトルと平行に磁化させた方向をA、その反対方向を B とする と、ABBABAAB というサイクルを測定の 1 単位(1 サイクル)としている。 1. モノクロメーター 測定では Si のモノクロメーターの(620) 面を用いて、182 keV の X 線を分光している。 そして、試料位置で集光するようにモノクロメーター自身が湾曲している。しかし、station A に X 線を入射する際は水平方向のみを集光している。 2. 超伝導磁石 MCP は先ほど述べたように、試料に対して磁化を反転させ、それぞれの磁化での散乱強 度の差をとることによってプロファイルを得る。そのため測定の際にはできるだけ高い磁 場を素早く反転させることが可能な磁石が有効である。SPring-8 BL08W には高速反転型超 伝導磁石が設置してある。なお、この高速反転型超伝導磁石の磁場は、以下の関係式により 印加磁場を決定することができる。 E=1.4×B E:外部参照電圧 [V] (2.41) B:印加したい磁場μ0H [T] さらに、この高速反転型超伝導磁石はパルスモーターによってz、ψが稼動する架台の上に 載せてあるため、試料位置の調整を容易に行える。

(18)

18 3. X 線検出器 検出には 10 素子の Ge 半導体検出器(Solid-State Detector: SSD)を用いた。SSD の半導体 中に電荷のキャリアの存在しない空乏層があり、絶縁性が良いので高電圧が掛けてある。そ こに X 線が入射することにより、電子と正孔の対を生成して出力電荷パルスを作ることで X 線を検出する。試料側から眺めた正面図を Fig.2.4 に示す。 5.2.3 磁気コンプトンプロファイル(MCP)測定手順 1. SSD の立ち上げ 測定においては 10 素子の Ge‐SSD を用いており、この中に液体窒素を入れる。そして

57Co の 81.00 keV、302.85 keV、133Ba の 122.06 keV、136.53 keV の標準 γ 線を用いてエ

ネルギー校正を行う。この操作は、実験終了後にMCP の横軸をチャンネルからエネルギー に変換し、さらに式(3-36)を用いて pzに変換する時に必要である。(チャンネルとエネルギー

は比例しているので、エネルギー校正を行った値に対して一次式における近似を行い、そこ から求まるエネルギーで pzに変換する。)

4. ビームの位置出し

X 線の通路上の約 2、3 ヶ所に蛍光板を貼り Down Stream Shutter(DSS)を開けて蛍光板 の蛍光位置をCCD カメラで確認する。そして、試料取り付け位置の中心にビームが照射で き、それ以外の部分にビームが照射しないようにビームの位置出しを行う。ここで注意しな ければならない点は、あらかじめ蛍光板に印をつけておくことである。 Fig.2.4 10 素子 Ge-SSD 正面図および背面図 中心の円筒状空洞部分をX 線が通り、試料により散乱された X 線が円周上に並ん だ10 個の SSD により検出される。図中右上にある試料側から眺めた正面図に書き込 まれた長さの単位は[mm]である。

(19)

19 5. TC スリット及び鉛スリット等による Back Ground 対策 TC スリットとはモノクロメーターの下流にあるスリットで上下左右にスリットを切っ ていくTC1 スリットと斜めから切っていく TC2 スリットの 2 つがある。必要とするエネル ギー以外の X 線がモノクロメーターから反射されれば、その X 線からの散乱が Back Ground となる。これらのスリットはモノクロメーターからの不必要なビームを減少させる ためのスリットである。さらにSSD 周辺を鉛で覆うことで、Back Ground の低減を図って いる。 6. 試料の取り付け サンプルホルダーに試料を取り付け、サンプルホルダーごと超伝導磁石内に配置する。測 定は真空下において行うので、試料をセットした後、超伝導磁石チャンバー内を真空引きす る。 7. 試料位置の調整 DSS を開けて超伝導磁石の架台を動かしながら、サンプルホルダーからのコンプトン散 乱が最小になる位置と試料からの蛍光 X 線が最大になる位置を探し出すことにより、試料 位置を調整する。 8. フロントエンドスリット(FE-Slit)の調整 フロントエンドスリットとは挿入光源の下流側でモノクロメーターの上流側にあるスリ ットのことである。スリットの幅(Width)と高さ(Height)を調整して、SSD の Live time と Real time の差である Dead time が Real time の 5%前後になるように X 線の強度を調整 する。 9. 測定 コンピュータに測定条件を入力する。各磁場 A、B での測定時間はそれぞれ 60 秒であり、 磁場を切り替えるのに約5 秒掛かるため、1 ループ ABBABAAB の測定には約 520 秒掛か る。以上のことを考慮に入れて 1 回の測定時間を決定する。その他の条件を入力し終われば 測定を開始する。 測定中は定期的に磁場、真空度を確認する。超伝導磁石側面に永久磁石が糸で吊ってあ る。磁場が掛かっているかどうかはこの磁石の変化を確認すればよい。またハッチ内には真 空度用のデジタル表示の計器があるため、これを用いて真空度を確認する。1 回の測定が 終われば、その都度測定用と解析用のパソコンにデータを保存しておき、次の測定の測定 時間を決定し、測定を行う。

(20)

20

2.4 測定原理

MCP の測定手順を表したものを Fig.2.5 に示す。磁場ごとのエネルギースペクトルを測 定する際に、磁気ヒステリシスの往路と復路での測定磁場に分離し、プラスとマイナスで対 称となる磁場での散乱強度の差分がMCP の測定値となる。図の測定手順では①と③、②と ④がそれぞれ対称の磁場での測定値となる。 Fig.2.5 磁気コンプトンプロファイルの測定手順

(21)

21

第 3 章 試料作製

3.1 作製方法

試料作製には、共同実験者である信州大学大学院工学研究科の劉小晰氏に依頼し、高周波 スパッタ装置を用いて作製した。高周波スパッタ装置の概要図をFig.3.1 に示す。装置内の 高周波磁場によって加速された Ar イオンがカソード上のターゲットにぶつかることによ り、物質がスパッタされ基板に堆積する。このようにして、厚さ12μm の Al ホイル基板上 にスパッタリング電圧24[W]、ターゲット Co+Tb チップで成膜した。この基板を用いた理 由は、X 線の透過率も高く、MCP 実験の問題点である基板からの散乱によるバックグラウ ンドの影響を軽減してくれるからである。作製した試料は、MCP 実験で散乱断面積を稼ぐ ために32 枚重ねにした。試料は組成・構造それぞれ異なるものを 3 種類作製し、Table3.1 に示す。 Table.3.1 作製試料 試料1 Tb28Co72 保磁力:小 (アモルファス構造) 試料2 Tb23Co77 保磁力:大 (TbCo アモルファス膜と Ti 膜の多層膜) 試料3 Tb23Co77 (垂直磁気異方性なし) また、試料3 については第 4 章で述べるが、垂直磁気異方性を有していない試料となっ ているためVSM の結果のみ示す。

(22)

22

Fig.3.1 高周波スパッタ装置概要図

Fig.3.2 ターゲット (5mm×5mm×0.05 23 枚)

(23)

23

Fig.3.3 多層膜の構造

Fig.3.4 作製試料

2.25cm×3.5cm×12 m の Al 基板上に 2000nm 成膜し、4 回折り 16 枚重ね (コンプトン散乱実験の際には 5 回折り 32 枚重ね)

(24)

24 Table.3.2 作製条件 スパッタリング電圧 24W 製膜前の真空度 1.2×10-5Pa Ar ガス圧 0.6Pa ターゲット Tb+Co チップ 基板 Al スパッタ時間 2 時間 膜厚 2000nm TbCo 薄膜の垂直磁気異方性は磁気補償組成である Tb15Co85で生じやすい。ただし、Tb の磁気モーメントは温度によって変化する可能性がある。磁気コンプトンプロファイル測 定は室温で行うので、Tb の磁気モーメントの温度依存性を考慮に入れた上で、この近傍の 組成の試料を作製した。

(25)

25

3.2 X 線回折

3.2.1 X 線回折(XRD)原理 入射X 線の回折条件はブラッグの法則で表される。Fig.3.5 のように入射 X 線は格子面で 反射される。 格子面ⅠとⅡで反射したX 線の経路差

l

は、

sin

2d

l

(3.1) で表せる。格子面ⅠとⅡで反射したX 線がその干渉により強め合う条件は経路差

l

が波状 λの整数倍になるときである。従って条件は、

2d

sin

n

(

n

1

,

2

,

) (3.2) と表せる。この条件がブラッグの条件である。 原子の配列が周期的であれば互いに干渉し合って、ある特定の方向のみ強い X 線が信仰 することになる(X 線回折)。この X 線回折パターンが物質特有のものであることに利用し て、X 線回折は物質の同定に使用される。 Fig.3.5 ブラッグの法則の原理図

(26)

26 3.2.2 X 線回折(XRD)測定

測定は、理学電機株式会社製のX 線回折測定装置を用い、測定方法はθ-2θ法を用いた。 X 線回折(XRD)測定の概要図を Fig.3.6、測定条件を Table3.2 に示した。X 線源(Cu 管球)を線状焦点にし、縦発散制限ソーラースリットによって縦方向の発散を制限する。ま た入射高さ制限スリットで高さを、入射スリットで幅を制限し、試料に入射角θで入射させ る。 試料からの回折 X 線は受光ソーラースリットを通り、さらに幅制限受光スリットを通っ て、回折X 線モノクロメーターによって回折され、検出器によってカウントされる。 回折角2θと連動させてゴニオメーターを駆動することにより、2θ-回折強度の関係が得ら れ、いわゆる回折パターンが得られる。 Fig.3.6 X 線回折(XRD)測定の概要図

(27)

27 Table.3.3 X 線回折(XRD)測定条件 測定モード 連続 X 線管球 Cu X 線波長 1.5406Å 管電圧 35kV 管電流 25mA 走査速度 2.00°/min サンプリング幅 0.020° 入射高さ制限スリット 5.00mm 入射スリット 1° 散乱スリット 1° 幅制限スリット 0.15mm 測定範囲2θ 2.00°~90.00°

(28)

28 3.2.3 X 線回折(XRD)測定結果 測定結果をFig.3.7.1、Fig.3.7.2 に示す。両試料ともブロードなピークが観測され、観測 されたピークはすべてAl 基板のみのピークと一致する。また、Tb、Co の PDF データと一 致するピークは観測されなかった。このことから作製試料がアモルファスであると考えら れる。 Fig.3.7.1 試料 1 X 線回折(XRD)測定結果

(29)

29

(30)

30

3.3 EPMA(Electron Probe Micro-Analysis)

3.3.1 EPMA 測定原理

EPMA は、電子線を対象物に照射することにより、発生する特性 X 線の波長から構成元 素を分析する方法である。特性X 線は、元素の種類によって特定の波長になっているため、 波長とそこで得られたピークの高さによって元素の種類と量が分かる。そのため、固体の試 料をほぼ非破壊で分析することが可能である。

EPMA 装置の外観を Fig.3.7、原理図を Fig.3.8 に示す。

Fig.3.7 EPMA 装置の外観

(31)

31

(32)

32 3.3.2 EPMA 測定結果 測定結果をTable.3.4 に示す。Mol(%)はモル比であり、WT-Norm(%)は質量比である。Tb はCo に比べ原子量が約 2.7 倍重いので、WT-Norm(%)ではなく、Mol(%)の値より作製試料 の組成比を決めた。 Table.3.4 EPMA

ELE. Mol(%) WT-Norm(%) 試料1 Co 72 48 試料1 Tb 28 52 試料2 Co 77 56 試料2 Tb 23 44 XRD、EPMA より、作製試料 1 が Tb28Co72のアモルファス合金、作製試料2 が Tb23Co77 のアモルファス合金であることを確認した。

(33)

33

第 4 章 磁化測定

作製した試料の磁化測定を行った。磁化測定には群馬大学高度人材育成センターにある 振動試料型磁力測定計(VSM)と超伝導量子干渉計磁化測定システム(SQUID)を用いた。

4.1 VSM

4.1.1 VSM の測定原理 VSM 装置の概略図を Fig.4.1 に示す。 試料を電磁石で磁化させ、加振部によって一定の振幅・周波数で振動させる。そして、試 料に近接したサーチコイルで試料の振動による電磁誘導によって生じる起電力を測定する ことで磁化を求める。 Fig.4.1 VSM 装置の概略図

(34)

34 4.1.2 VSM の測定結果 VSM の測定結果を Fig.4.2.1、Fig.4.2.2、Fig.4.2.3 に示す。試料 3 については、面直方 向より面ない方向の磁化が大きくなっている。この試料に垂直磁気異方性を生じさせるた めにTi をバッファーレイヤーとして堆積させ、界面に歪みを与えたものが試料 2 になる。 試料1 と試料 2 については、面内方向より面直方向の磁化が大きくなっている。面直方向 の方が磁化が大きいということは、垂直磁化膜に近いということである。垂直磁化膜は、ハ ードディスクなどに応用が可能なため、この試料の評価を行うことは有用である。 Fig.4.2.1 試料 1 VSM の磁化測定 Fig.4.2.2 試料 2 VSM の磁化測定

(35)

35

Fig4.2.3 試料 3 VSM の磁化測定

(36)

36

4.2 SQUID

4.2.1 SQUID の測定原理 装置図をFig.4.3 に示す。

(37)

37 4.2.2 SQUID の測定結果 測定結果をFig.4.4.1、Fig.4.4.2 に示す。VSM の測定結果より試料が垂直磁化膜に近い ということがわかっているため、SQUID 測定では面直方向のみを測定する。 Fig.4.4.1 試料 1 SQUID の磁化測定 Fig4.4.2 試料 2 SQUID の磁化測定 VSM と SQUID の 2 つの異なる方法で比較可能なデータを取ることができた。2 つの測 定結果を比較したものをFig.4.4.3、Fig.4.4.4 に示す。比較のため SQUID のデータはドッ トで示す。グラフから 2 つの測定結果が正しいものであることが読み取れる。このことか ら、コンプトン散乱によるスピン選択磁化曲線も比較可能である。

(38)

38

Fig.4.4.3 試料 1 VSM と SQUID

Fig.4.4.4 試料 2 VSM と SQUID

VSM では、磁場を-1T から 1T まで測定したが、SQUID では、磁場を-2.5T から 2.5T で測定したので、以下スピン選択磁化曲線との比較にはSQUID の結果を用いる。

(39)

39 SQUID 測定から求めた残留磁化、飽和磁化、保磁力をそれぞれ Table 3.5 に示す。 Table 3.5 SQUID 測定 残留磁化(emu/cc) 飽和磁化(emu/cc) 保磁力(T) 角型比 試料1 101.6 102.5 0.26 0.991 試料2 45.5 47.2 0.58 0.963 Table 3.5 から、試料 1 より試料 2 のほうが保磁力の大きい試料であることがわかる。ま た、それぞれの角型比は、残留磁化/飽和磁化よりで求めた。計算結果から、両試料とも 角型比がほぼ1 であることがわかった。

(40)

40

第 5 章 試料 1 : Tb

28

Co

72

5.1 スピン選択磁化測定

5.1.1 スピン選択磁化測定原理 磁気効果Me は次の式で表すことができる。 Me = ∫{I+− I−}dPz ∫ I+dPz + ∫ I−dPz (5.1) 第 2 章原理の 2.3 実験装置を用いて測定した磁気コンプトンプロファイル(MCP)とコン プトンプロファイル(CP)の積分値から磁気効果 Me を求める。磁場が 2.5(T)の場合の磁気 コンプトンプロファイル(MCP)を Fig.5.1 に、コンプトンプロファイル(CP)を Fig.5.2 に示 す。磁気コンプトンプロファイル(MCP)の積分値とコンプトンプロファイル(CP)の積分値 がそれぞれ(5.1)式の分子・分母に相当し、その値は ∫{I+− I−}dPz = 45316.767 (5.2) ∫ I+dPz + ∫ I−dPz = 52253285 (5.3) であり、(5.1)式に代入すると Me = 0.000867252 (5.4) となる。

(41)

41

Fig.5.1 コンプトンプロファイル

(42)

42 5.1.2 スピン選択磁化測定結果 5.1.1 の計算を全磁場ごとに行った結果を Fig.5.3 に示す。またエラーバーΔMe は誤差の 伝搬法則より次の式で求める。 ∆Me = √(((𝑆𝑀2/𝑆𝑁4) × ∆𝑆𝑁2) + ((1/𝑆𝑁2) × ∆𝑆𝑀2)) (5.5) Me : 磁気効果 SN : コンプトンプロファイル値の合計 ΔSN : SNの誤差 SM : 磁気コンプトンプロファイル値の合計 ΔSM : SMの誤差 しかし、これでは縦軸が磁気効果(Magnetic Effect)になっているため、正確なスピン選択磁 化曲線にはなっていない。そのため、縦軸を単位体積あたりの磁化に直す必要がある。 Fig.5.3 スピン選択磁化曲線

(43)

43 ここで、2(a.u.)~10(a.u.)の範囲でコンプトンプロファイルをフィッティングした結果を Fig.5.4 に示す。fitting の方法、考察については 5.3 節で述べる。 Fig.5.4 磁気コンプトンプロファイルのフィッティング結果 フィッティング結果から磁気コンプトンプロファイルはTb の寄与・Co の寄与・実験値と fitting 値の差である Conduction の 3 つに分離することができる。2.5(T)の場合の 2(a.u.)~10(a.u.)の範囲で積分した値はそれぞれ ∫ 𝑀𝐶𝑃 𝑑𝑃𝑧 = 4454.5.505 (5.6) ∫ 𝑇𝑏 𝑑𝑃𝑧 = 8693.866 (5.7) ∫ 𝐶𝑜 𝑃𝑧 = −6060.34 (5.8) ∫ 𝐶𝑜𝑛𝑑𝑢𝑐𝑡𝑖𝑜𝑛 𝑑𝑃𝑧 = 1830.977 (5.9) となる。Me は(5.4)式と(5.5)式からそれぞれ

(44)

44 𝑀𝑒𝑇𝑏= 8693.866 × 0.000867252 4454.505 = 0.001693 (5.10) MeCo= −6060.34 × 0.000867252 4454.505 = −0.00118 (5.11) MeConduction= 1830.977 × 0.000867252 4454.505 = 0.000356 (5.12) と求めることができる。 上記の磁気効果 Me はスピンの磁気効果を考えたものである。軌道の磁気効果も考慮に入 れるとき、Tb4f が 4f8電子配置にあるとしてTb4f の軌道磁気モーメントを 3μB、スピン磁 気モーメントを6μB、全磁気モーメントを9μBと考えると、(5.10)式で求めた値より Tota_MeTb= 0.001693 × 9 6= 0.002539 (5.13) となり、Co の軌道の磁気効果を考慮に入れるには Co の実験値11)より、軌道磁気モーメン トを0.145μB、スピン磁気モーメントを1.53μB、全磁気モーメントを1.675μBと考える と、(5.11)式で求めた値より Total_MeCo= −0.00118 × 1.675 1.53 = −0.00129 (5.14) と求めることができる。全磁気効果は(5.12)・(5.13)・(5.14)式で求めた値の和になるので 𝑇𝑜𝑡𝑎𝑙_𝑀𝑒 = 0.000356 + 0.002539 − 0.002539 = 0.00160161 (5.15) となる。この値を全磁気モーメントと同等の値にするためのFactor を Factor = Total magnetic moment ÷ Total _Me (5.16) とする。2.5(T)の場合の全磁気モーメントは第 4 章より

Total magnetic moment = 106 (5.17) であるから、(5.15)・(5.17)式の値を(5.16)に代入して

Factor = 106 ÷ 0.00160161 = 66183.4 (5.18)

と求めた。このFactor の値を Me、ΔMe にかけることでスピン磁気モーメントの絶対値 を求めた。求めた結果をFig.5.5 に示す。

(45)

45

(46)

46

5.2 スピン選択磁化曲線と軌道選択磁化曲線

スピン選択磁化曲線と軌道選択磁化曲線と全磁化曲線の関係は

全磁化曲線=スピン選択磁化曲線+軌道選択磁化曲線

なので、Fig.4.4.1 の SQUID 装置による全ヒステリシスの面直方向から、Fig.5.5 のスピン 選択ヒステリシスを引くことにより、軌道選択ヒステリシスを求めた。これをFig.5.6 に示 す。ここで、軌道選択磁化曲線のエラーバーは、スピン選択磁化曲線のエラーバーと同じと した。また、比較のためスピン・軌道・全磁気ヒステリシスを同一のグラフにまとめたもの をFig.5.7 に示す。

(47)

47 Fig.5.7 スピン・軌道・全磁化曲線 これを見ると、スピン選択磁化曲線と軌道選択磁化曲線は全く異なる形状となり、全磁化曲 線とも異なる形状であることがわかる。また、磁化反転を起こす前に値が増減する挙動を示 す。関連性を調べるため、スピン選択磁化曲線と軌道選択磁化曲線の比を求めたものを Fig.5.8 に示す。

(48)

48 Fig.5.8 スピン選択磁化曲線と軌道選択磁化曲線の比 グラフから見て取れる特徴として ① 磁場に依存して増減する挙動 ② |H|<1T で磁気ヒステリシスが観測されない ③ 磁場に対して対称 以上3 点がある。

(49)

49

5.3 磁気コンプトンプロファイルにおける Tb の寄与と Co の寄与の分離

スピン選択磁化曲線と軌道選択磁化曲線の比が 3 点の特徴を持つ原因は、元素の磁場応 答の違いではないかと考え、フィッティングにより分離して元素ごとの寄与を求めた。 Tb のスピン選択磁気モーメントは 𝜇𝑠𝑝𝑖𝑛𝑻𝒃(𝐻)= ∫ 𝐽𝑚𝑎𝑔𝑇𝑏(𝑝𝑧, 𝐻)𝑑𝑝𝑧 (5.19) で求めることができ、Co のスピン選択磁気モーメントは 𝜇𝑠𝑝𝑖𝑛𝑪𝒐(𝐻)= ∫ 𝐽𝑚𝑎𝑔𝐶𝑜(𝑝𝑧, 𝐻)𝑑𝑝𝑧 (5.20) で求めることができる。また、スピン選択磁気モーメント、Tb のスピン選択磁気モーメン ト、Co のスピン選択磁気モーメントには 𝜇𝑠𝑝𝑖𝑛𝐶𝑜= 𝜇𝑠𝑝𝑖𝑛𝐶𝑜(𝐻)+ 𝜇𝑠𝑝𝑖𝑛𝑇𝑏(𝐻) (5.21) の関係が成り立つ。 5.3.1 フィッティング方法

Tb4f は F. Biggs の文献値12) 、Co(3d、4s、4p)は Y. Kakutani の文献値 13)を用いて、

MCP を最小二乗法でフィッティングを行った。Tb は 1s から 5s、5p までは詰まっていて、 磁気コンプトン散乱の寄与はなくなるため、フィッティングの際に考慮する必要はない。ま た、Tb5d は非常に小さいので、無視した。2(a.u.)以下は、遍歴成分と考えられるため、以 下のフィッティングでは、2a.u.以下の範囲を除外した。 5.3.2 フィッティング結果 2(a.u.)~10(a.u.)の範囲でフィッティングを行った結果を Fig.5.9 に示す。この図から、Tb スピンとCo スピンは逆方向を向いていることが分かる。これまでに、Tb の磁気モーメン トとCo の磁気モーメントが逆方向を向いているが報告されている14)が、今回、スピン成分 だけみてもTb と Co で磁気モーメントが逆向きになっていることが明らかになった。また このフィッティング結果から求めた元素別(Tb と Co)のスピン選択磁化曲線を Fig.5.10 に 示す。

(50)

50

(51)

51

(52)

52 Fig5.10 元素別スピン選択磁化曲線 Tb のスピン選択磁気モーメントと Co のスピン選択磁気モーメントには ① 向きが逆 ② 磁化反転の直前に値が増減する 上記2 点の特徴がある。この元素ごとの寄与との関連性を検討するため Tb のスピン選択磁 気モーメントとCo のスピン選択磁気モーメントの比を求めたグラフを Fig.5.11 に示す。

(53)

53 Fig.5.11 Tb のスピン選択磁気モーメントと Co のスピン選択磁気モーメントの比 グラフから見て取れる特徴として ① 磁場に依存して増減する挙動 ② |H|<1T で磁気ヒステリシスが観測されない ③ 磁場に対して対称 以上3 点がある。 この特徴は 5.2 で述べたスピン選択磁気モーメントと軌道選択磁気モーメントの比の特 徴と同様であることから2 つのグラフを比較したものを Fig.5.12 に示す。

(54)

54

Fig.5.12 Fig.5.8 と Fig.511 の比較

上記から角型比の高い垂直磁化膜(Tb28Co72 アモルファス薄膜)は 1. (磁気ヒステリシス観測すると、)磁化反転に先立ちスピン選択磁気モーメント、軌道選 択磁気モーメント、Co のスピン選択磁気モーメント、Tb のスピン選択磁気モーメントの 値が増減している 2. スピン選択磁気モーメントと軌道選択磁気モーメントの磁化反転プロセスは、Co のスピ ン選択磁気モーメントとTb のスピン選択磁気モーメントに対応する 3. 磁化反転プロセスは、磁場で決まる(ゼーマンエネルギー・交換エネルギー)

(55)

55

第 6 章 試料 2 : Tb

23

Co

77 第5 章で述べた試料 1 と同様の解析をしていく。

6.1 スピン選択磁化測定

6.1.1 スピン選択磁化測定原理 磁気効果Me は次の式で表すことができる。 Me = ∫{I+− I−}dPz ∫ I+dE + ∫ I−dPz (6.1) 第 2 章原理の 2.3 実験装置を用いて測定した磁気コンプトンプロファイル(MCP)とコン プトンプロファイル(CP)の積分値から磁気効果 Me を求める。磁場が 2.5(T)の場合の磁気 コンプトンプロファイル(MCP)を Fig.6.1 に、コンプトンプロファイル(CP)を Fig.6.2 に示 す。磁気コンプトンプロファイル(MCP)の積分値とコンプトンプロファイル(CP)の積分値 がそれぞれ(6.1)式の分子・分母に相当し、その値は ∫{I+− I−}dPz = 25146.96876 (6.2) ∫ I+dPz + ∫ I−dPz = 41041174.87 (6.3) であり、(6.1)式に代入すると Me = 0.0006127 (6.4) となる。

(56)

56

Fig.6.1 磁気コンプトンプロファイル

Fig 5.9  フィッティング結果

参照

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