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ナ ノ構造を制御した Fe/Co 多層膜の磁歪と磁気コ ンプトンプロファイルの磁場依存性

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Academic year: 2021

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(1)

令 和 二 年 度 修 士 論 文

ナノ構造を制御した Fe/Co 多層膜の磁歪と磁気

コンプトンプロファイルの磁場依存性

指導教員 櫻井 浩 教授

群馬大学大学院理工学府 理工学専攻

電子情報・数理教育プログラム

塩田 椋平

(2)

1

内容

第1 章 序論 ... 3 1.1 本研究の背景 ... 3 1.2 マルテンサイト変態と電子状態 ... 4 1.3 研究目的... 5 第 2 章 試料作製 ... 6 2.1 試料作製方法 ... 6 第3 章 X 線回折測定 ... 9 3.1 X 線回折原理 ... 9 3.2 X 線回折測定結果 ... 12 第4 章 磁化測定 ...13 4.1 VSM による測定 ... 13 4.2 SQUID による測定 ... 14 4.3 磁化測定結果 ... 15 第5 章 磁歪測定 ...19 5.1 ひずみ ... 19 5.2 磁歪測定方法 ... 20 5.2 磁歪測定結果 ... 21 第6章 磁気コンプトン散乱測定 ...25 6.1 コンプトン散乱 ... 25 6.2 磁気コンプトン散乱 ... 26 6.3 実験装置 ... 33 6.4 測定原理 ... 38 6.5 磁気コンプトン散乱測定結果 ... 39 6.6 磁気効果 Me の測定 ... 43 6.7 スピン選択磁化曲線と軌道選択磁化曲線 ... 44 第7 章 磁気量子数選択的スピン磁化曲線 ...47 7.1 磁気量子数選択的スピン磁化曲線の導出 ... 47

(3)

2

第8 章 結論 ...50 謝辞 ... 52

(4)

3

第 1 章 序論

1.1 本研究の背景

現在 IoT 技術の進展によりエネルギーハーベスティング技術(環境発電)と呼ばれる技術 が注目されている。その中でも磁歪を利用した振動発電という技術が注目されている。 その高効率化のためには磁歪材料が重要であると考えられている。 ナノ構造を有する熱処理したFeCo 合金では大きな磁歪があることが報告されており、こ の大きな磁歪はモルフォトロピック相境界でbcc 母相内に析出した fcc ナノ粒子が磁場誘起 マルテンサイト変態することで生じるという報告がある[1]。Fig.1.1 の a において熱処理な し(黒)、熱処理後徐冷したもの(青)、熱処理後急激に冷やしたもの(赤)である。磁歪の大きさ は熱処理していないもので最大 84±5p.p.m、熱処理後徐冷したもので最大 156±7p.p.m、 熱処理後急激に冷やしたもので最大260±10p.p.m を示す。Fig.1.1 の b における赤線はお およそのモルフォトロピック相境界を表している。 しかし、巨大な磁歪特性の起源である磁場誘起に伴う格子変態の電子論的な起源は明らか になっていない。

(5)

4

1.2 マルテンサイト変態と電子状態

Ni2MnGa ホイスラー合金薄膜においてマルテンサイト変態温度前後の X 線磁気円二色性 の測定から、変態温度直前で軌道磁気モーメントが増大することが報告されている[2]。 このことは磁場誘起マルテンサイト変態において、軌道磁気モーメントの変化と同時に電 子軌道の対称性が変化する可能性があるということを示唆する。そこで磁場に依存した電 子状態の変化を測定するために磁気コンプトンプロファイル測定を利用した。 Fig.1.2 Mn と Ni の軌道磁気モーメント対スピン磁気モーメント比

(6)

5

1.3 研究目的

bcc 母相内に fcc ナノ粒子が析出したナノ構造を有する FeCo 合金の巨大磁歪効果の起源と される磁場誘起マルテンサイト変態に着目して、巨大磁歪効果と磁場誘起マルテンサイト 変態を生み出す電子状態の視点から明らかにする。 ・Fe(xnm)/Co(xnm)多層膜を作製し、x を制御することで bcc 相と fcc 相が混在するナノ構 造の制御を行う。 ・Fe(xnm)/Co(xnm)多層膜の磁歪の測定を行う。 ・Fe(xnm)/Co(xnm)多層膜の磁気コンプトンプロファイル測定の磁場依存性を測定し電子 状態と磁歪との関連を調べる。

(7)

6

第 2 章 試料作製

2.1 試料作製方法

試料作製には、群馬大学高度人材育成センター(HRCC)にある高周波スパッタリング装置 (Fig2.1)を使用した。装置の概要図を Fig2.2 に示す。装置内の高周波磁場によって加速さ れたAr イオンがカソード上のターゲットに衝突することで、物質がスパッタリングされ 基板に堆積する。試料基板の位置をコンピュータにより制御し、2 つのターゲット間を一 定時間ごとに移動させることで、多層膜を作製することができる。試料は基板を変えて15 種類作製した。成膜条件をTable2.1、作製した試料の一覧を Table2.2、試料概要図を Fig.2.3 に示す。Si 基板の試料は X 線回折測定と VSM による磁化測定に使用し、Alfoil 基 板上に作製した試料はVSM と SQUID による磁化測定に使用した。また、Alfoil 基板上に 作製したFe(1nm)/Co(1nm)多層膜、Fe(8nm)/Co(8nm)多層膜は磁気コンプトン散乱測定に も使用した。ひずみゲージ上に作製した試料は磁歪の測定に使用した。なお、本研究で作 製した試料は熱処理を行っていない。

(8)

7

Fig2.2 スパッタリング装置概要図

Table2.1 成膜条件

Power Fe: 150W

Co: 150W Sputtering rate Fe: 0.154nm/sec

Co: 0.154nm/sec Base pressure 0.9~1.2× 10−5Pa Sputtering gas(Ar) pressure 1.0Pa

Substate temperature 20~60℃ Target Cathode2: Fe

(9)

8 Table2.1 試料一覧 構成 基板 [Fe(1nm)/Co(1nm)]400 Si [Fe(2nm)/Co(2nm)]200 Si [Fe(4nm)/Co(4nm)]100 Si [Fe(8nm)/Co(8nm)]50 Si [Fe(1nm)/Co(1nm)]1000 Al foil [Fe(2nm)/Co(2nm)]500 Al foil [Fe(4nm)/Co(4nm)]250 Al foil [Fe(8nm)/Co(8nm)]125 Al foil [Fe(1nm)/Co(1nm)]2500 ひずみゲージ [Fe(2nm)/Co(2nm)]1250 ひずみゲージ [Fe(4nm)/Co(4nm)]625 ひずみゲージ [Fe(8nm)/Co(8nm)]312 ひずみゲージ Fe(5µm)単層膜 ひずみゲージ Co(5µm)単層膜 ひずみゲージ Fe(2.5µm)/Co(2.5µm) ひずみゲージ Fe/Co Fig.2.3 試料概要図

(10)

9

第 3 章 X 線回折測定

3.1 X 線回折原理

入射X 線の回折条件はブラッグの法則で表される。Fig3.1 のように入射 X 線は格子面で 反射される。 格子面ⅠとⅡで反射したX 線の経路差

l

はFig3.1 に示すとおり

sin

2d

l 

(3.1) で表せる。格子面ⅠとⅡで反射したX 線がその干渉により強めあう条件は経路差

l

が波 長λ の整数倍になるときである。従って条件は

2d

sin

n 

(

n

1

,

2

,

) (3.2) と表せる。この条件がブラッグの条件である。 原子の配列が周期的であれば互いに干渉し合って、ある特定の方向のみ強い X 線が進行す ることになる(X 線回折)。この X 線回折パターンが物質特有のものであることに利用して、 X 線回折は物質の同定に使用される。 Fig3.1 ブラッグの法則

(11)

10

3.1.2 X 線回折測定

測定は、理学電機株式会社製のX 線回折測定装置を用い、測定方法は θ-2θ 法を用いた。 X 線回折測定の概要図を Fig3.2、測定条件を Table3.1 に示した。X 線源(Cu 管球)を線状 焦点にし、縦発散制限ソーラースリットによって縦方向の発散を制限する。また入射高さ 制限スリットで高さを、入射スリットで幅を制限し、試料に入射角θ で入射させる。 試料からの回折X 線は受光ソーラースリットを通り、さらに幅制限受光スリットを通っ て、回折X 線モノクロメーターによって回折され、検出器によってカウントされる。 回折角2θ と連動させてゴニオメーターを駆動することにより、2θ-回折強度の関係が得ら れ、いわゆる回折パターンが得られる。 Fig3.2 X 線回折測定の概要図

(12)

11 Table3.1 X 線回折測定条件 測定モード 連続 X 線管球 Cu X 線波長 1.5406 Å 管電圧 35 kV 管電流 25 mA 走査速度 2.00 °/min サンプリング幅 0.020 ° 入射高さ制限スリット 5.00 mm 入射スリット 1 ° 散乱スリット 1 ° 幅制限スリット 0.15 mm 測定範囲2θ 2.00 ° ~ 90.00 °

(13)

12

3.2 X 線回折測定結果

Fe(xnm)/Co(xnm)多層膜(x=1,2,4,8)の X 線回折測定の結果を Fig3.3 に示す。ここで Fig.3.3 の縦軸のX 線強度は対数スケールで示している。x=1 では bcc 単層、x=8 では bcc と hcp もしくはfcc の混相状態であることを確認した。

また、x=2,4 では bcc と fcc の混相となっている可能性が考えられる。

(14)

13

第 4 章 磁化測定

4.1 VSM による測定

VSM 装置の概略図を Fig.4.1 に示す[9]。試料を電磁石で磁化させ、加振部によって一定 の振幅・周波数で振動させる。そして、試料に近接したサーチコイルで試料の振動による電 磁誘導によって生じる起電力を測定することで磁化を求める。 Fig.4.1 VSM 装置の概略図

(15)

14

4.2 SQUID による測定

作製試料の磁化測定を群馬大学高度人材育成センター(HRCC)にある超伝導量子干渉計磁 化測定システム(SQUID: Superconducting Quantum Interference Devices)を用いて測定 した。装置図をFig.4.2 に示す[9]。

(16)

15

-1

0

1

-1200

-600

0

600

1200

Magnetic Field [T]

M

agne

ti

za

ti

on [e

m

u/

cc

]

[Fe(1nm)/Co(1nm)]

400

in-plane

out-of-plane

-1

0

1

-1600

-800

0

800

1600

Magnetic Field [T]

M

a

gne

ti

z

a

ti

on[e

m

u/

c

c

]

[Fe(2 nm)/Co(2 nm)]

200

4.3 磁化測定結果

Si 基板の磁化測定結果を Fig.4.3~Fig.4.6、Al 基板の磁化測定結果を Fig.4.7~Fig.4.10 に 示す。Si 基板の試料は VSM による磁化測定、Al 基板上に作製した試料は VSM による磁 化測定とSQUID による磁化測定を行い、それらの結果を重ねて表示した。また、試料に対 して平行に磁場をかけた場合をin-plane、試料に対して垂直に磁場をかけた場合を out-of-plane とする。後述する磁気コンプトン散乱実験では-2.5T~+2.5T の磁場を利用するため、 今後の解析ではSQUID 磁力計による測定結果のみを用いることとする。

Fig.4.3 磁化測定結果(Fe(1nm)/Co(1nm) on Si)

(17)

16

-1

0

1

-1600

-800

0

800

1600

Magnetic Field [T]

M

a

gne

ti

z

a

ti

on[e

m

u/

c

c

]

[Fe(4 nm)/Co(4 nm)]

100

-1

0

1

-1800

-900

0

900

1800

Magnetic Field [T]

M

a

gne

ti

z

a

ti

on[e

m

u/

c

c

]

[Fe(8 nm)/Co(8 nm)]

50

Fig.4.5 磁化測定結果(Fe(4nm)/Co(4nm) on Si)

(18)

17

-2

-1

0

1

2

-1000

0

1000

[Fe(2nm)/Co(2nm)]

500

Magnetic Field[T]

M

a

gne

ti

z

a

ti

on[e

m

u/

c

c

]

VSM in-plane VSM out-of-plane SQUID in-plane SQUID out-of-plane Fig.4.7 磁化測定結果(Fe(1nm)/Co(1nm) on Al)

(19)

18

-2

-1

0

1

2

-1000

0

1000

[Fe(4nm)/Co(4nm)]

250 VSM in-plane VSM out-of-plane SQUID in-plane SQUID out-of-plane

M

a

gn

e

ti

z

a

ti

on

[e

m

u/

c

c

]

Magnetic Field[T]

-2

-1

0

1

2

-1000

0

1000

[Fe(8nm)/Co(8nm)]

125 VSM in-plane VSM out-of-plane SQUID in-plane SQUID out-of-plane

M

a

gn

e

ti

z

a

ti

on

[e

m

u/

c

c

]

Magnetic Field[T]

Fig.4.9 磁化測定結果(Fe(4nm)/Co(4nm) on Al)

(20)

19

第 5 章 磁歪測定

5.1 ひずみ

ひずみゲージの概要図をFig.5.1 に示す。ひずみゲージとは金属線の伸び縮みによる電気抵 抗の変化からひずみを測定できるセンサ。使用したひずみゲージは東京測器研究所の ZFLA-1-11 である。またひずみとは式(5.1)で定義されている。ここで Ɛ はひずみ、L はゲ ージ長、ΔL は長さの変化分を表している。 Ɛ= 𝛥𝐿/𝐿 (5.1) Fig.5.1 ひずみゲージ概要図

(21)

20

5.2 磁歪測定方法

磁歪の測定にはFig.5.2 のように VSM 装置とデータ収集システム NR-500 シリーズ(キー エンス社)を使用した。NR-500 シリーズはインターフェースユニットとひずみ計測ユニッ ト(NR-ST04)から構成されたものを使用した。インターフェースユニットはパソコン接 続、トリガ入力などの外部接続のためのユニットである。ひずみ計測ユニットにはブリッジ ボックスが内蔵されており、ひずみゲージを直接接続することができる。 試料をVSM 装置の試料ホルダにセット、同時にひずみ計測ユニットに試料を直接接続して いる。Fig.5.2 のように VSM 装置で-1.5T~1.5T の磁場を印加し、試料を磁化させ、磁歪の 磁場依存性を導出した。 Fig.5.2 磁歪測定装置

(22)

21 -1 0 1 -20 0 20 40 Magnetic Field[T] Fe(1nm)/Co(1nm) M a gne tos tri c ti on[p.p.m ] in-plane out-of-plane -1 0 1 -60 -40 -20 0 20 Magnetic Field[T] Fe(2nm)/Co(2nm) M a gne tos tri c ti on[p.p.m ] in-plane out-of-plane

5.2 磁歪測定結果

磁歪測定の結果を Fig.5.3~Fig.5.9 に示す。試料に対して平行に磁場をかけた場合を in-plane、試料に対して垂直に磁場をかけた場合を out-of-plane とする。 Fig.5.3 磁歪測定結果(Fe(1nm)/Co(1nm) on MSG) Fig.5.4 磁歪測定結果(Fe(2nm)/Co(2nm) on MSG)

(23)

22 -1 0 1 -60 -40 -20 0 20 Magnetic Field[T] Fe(4nm)/Co(4nm) M a gne tos tri c ti on[p.p.m ] in-plane out-of-plane -1 0 1 -200 -100 0 Magnetic Field[T] Fe(8nm)/Co(8nm) M a gne tos tri c ti on[ p.p .m ] in-plane out-of-plane -1 0 1 0 50 100 150 Magnetic Field[T] Fe(5μm) M a gne tos tri c ti on[p.p.m ] in-plane out-of-plane Fig.5.5 磁歪測定結果(Fe(4nm)/Co(4nm)on MSG) Fig.5.6 磁歪測定結果(Fe(8nm)/Co(8nm) on MSG) Fig.5.7 磁歪測定結果(Fe(5µm) on MSG)

(24)

23 -1 0 1 0 50 100 Magnetic Field[T] Co(5μm) M a gne tos tri c ti on[p.p.m ] in-plane out-of-plane -1 0 1 0 100 200 Magnetic Field[T] Fe(2.5μm)/Co(2.5μm) M agne tos tri ct ion[p.p.m ] in-plane out-of-plane Fig.5.8 磁歪測定結果(Co(5µm) on MSG) Fig.5.9 磁歪測定結果(Fe(2.5µm)/Co(2.5µm) on MSG) 各試料について磁歪の大きさをプロットした図をFig.5.10 に示す。 また、各試料の磁歪の大きさについてFe(5µm)の磁歪の大きさを 1 として規格化を行った 図を Fig.5.11 に示す。この結果からナノ構造を有する Fe(8nm)/Co(8nm)では合金化 Fe(1nm)/Co(1nm)の 2 倍以上の磁歪が現れることが確認できた。

(25)

24 Fe Fe(1nm)/Co(1nm) Fe(2nm)/Co(2nm) Fe(4nm)/Co(4nm) Co Fe(8nm)/Co(8nm) Fe(2.5μm)/Co(2.5μm) -3 -2 -1 0 1 2 各試料の磁歪 /Fe 単層膜の 磁歪 Fe/Co膜厚 in-plane out-of-plane Fe Fe(1nm)/Co(1nm) Fe(2nm)/Co(2nm)Fe(4nm)/Co(4nm) Fe(8nm)/Co(8nm) Fe(2.5μm)/Co(2.5μm) Co -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 60 M ag n et o st ri ct io n [p .p .m] Fe/Co膜厚

in-plane

Fe Fe(1nm)/Co(1nm) Fe(2nm)/Co(2nm)Fe(4nm)/Co(4nm) Fe(8nm)/Co(8nm) Fe(2.5μm)/Co(2.5μm) Co -200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200 M ag n et o st ri ct io n [p .p .m] Fe/Co膜厚

out-of-plane

Fig.5.10 磁歪の大きさ Fig.5.11 磁歪の大きさ(Fe(5µm)で規格化)

(26)

25

第6章 磁気コンプトン散乱測定

6.1 コンプトン散乱

コンプトン散乱とは電子と光子の非弾性散乱である。Fig.6.1 のように入射および散乱方 向をスリットで指定して観測部分を微小領域に限定する。試料内の点(x,y,z)の微小部分から コンプトン散乱X 線強度 I は、物質内の経路での吸収を考慮して、次のような関係式で表 わされる

I(θ, x, y, z) = I0e−μ(E)Le−μ(E

)L′ ρ(x, y, z)dσ(θ) dΩ (6.1) 静止している電子を考えた場合、ある角度へ散乱される光子は運動量保存則とエネルギ ー保存則により、決まったエネルギーで観測される。静止している電子とコンプトン散乱し たX 線のエネルギーE′を一定の散乱角θで測定すると、入射エネルギーを E として、 E′= E 1 +mcE2(1 − cos θ) (6.2) と、エネルギースペクトル上で1 本のピークとして観測される。しかし現実の系では、物質 中の電子は運動量 p であらゆる方向に動いていて、コンプトン散乱した光子がドップラー シフト⊿ED ∆ED = (ℏ m)⁄ (𝐊.𝐩) 1 +mcE2(1−cos θ) (6.3) する。そのため幅を持つプロファイルが観測される。したがって、コンプトンプロファイル の形は、物質中の電子の運動量分布を直接反映している。 次節に述べるように円偏光した X 線と電子の散乱では、電子の電荷に依存した散乱振幅 のほかに電子のスピンに依存した散乱振幅があり、この電荷とスピンの干渉項から磁性電 子の運動量プロファイルが得られる。これは磁気コンプトンプロファイル(MCP)と呼ばれ る。 I(E′) I0(E′) θ ρ(x, y, z) Fig.6.1 コンプトン散乱で電子密度分布を計測する模式図 L L’

(27)

26

6.2 磁気コンプトン散乱

静止している電子についてはクライン-仁科の式が有名であり、無偏光 X 線に対する微分 散乱断面積は、









2 1 2 2 1 2 1 2 2 0

sin

2

1

r

d

d

(6.4)

r

0:電子の古典半径 θ:散乱角

:X 線のエネルギー (添え字の 1、2 はそれぞれ入射と散乱を表す) で与えられる。ただし、ここには動いている電子の効果や電子スピンに依存する散乱が表現 されていない。X 線のエネルギーが電子の静止質量エネルギーと比較して小さい時、非相対 論的なハミルトニアンに相対論的補正項を追加して、摂動計算により断面積を求めること ができる。 電磁場と電子のハミルトニアンは m-2の項まで考慮して

=c =1 とすると、

A

p

E

E

A

p

σ

B

σ

A

p

e

i

e

m

e

m

e

e

m

e

m

H

2

2

4

2

2

(6.5) m:電子の質量

p

:電子の運動量ベクトル

A

:電磁場のベクトルポテンシャル

:スカラーポテンシャル と表される。第4 項は電子スピン(|

σ

|=1)と電磁場の磁場ベクトル

B

との相互作用を、第 5 項はディラック電流と電磁場の電気ベクトル

E

との相互作用を表し、共にディラック方 程式に基づく相対論的補正項である。またゲージとしてローレンツゲージをとれば、

t

A

E

(6.6) となる。 (6.6)式を(6.5)式に代入し、m-2以下の高次項と p×grad Φから起こるスピン軌道項を簡単 化のために省略して、

W

V

H

H

0

(6.7)

e

m

p

m

H

2

2 0 :電磁場のない時のハミルトニアン (6.8)

2

σ

A

A

2 2 2

4

2

m

e

A

m

e

V

A

の2 次式 (6.9)

A

p

σ

rot

A

m

e

m

e

W

2

A

の1 次式 (6.10) と分割する。 ここで、電磁場のベクトルポテンシャル

A

(28)

27

exp

.

.

2

1

.

.

exp

2

1

2 2 2 2 1 1 1 1 2 1

i

t

c

c

a

i

t

c

c

a

ε

k

r

ε

k

r

A

kk

ε

:X 線の電場の単位ベクトル

r

:電磁波が電子と行き合った場所

k

:X 線の波数ベクトル(添え字の 1、2 はそれぞれ入射と散乱を表す) k

a

:光子の消滅演算子

a

k:光子の生成演算子 (6.11) である。

A

は光子を一つ生成あるいは消滅させるため、散乱現象を考えるとき、生成演算子と消 滅演算子の積

a

k

a

kを持つ項のみが行列要素として残る。そのため、

A

の2 次式である

V

は 1 次摂動として、

A

の1次式である

W

は2 次摂動としてコンプトン散乱に寄与する。

V

の 1 次摂動より電荷による散乱の行列要素は、|

i

>、|

f

> をそれぞれ電子の始状態、 終状態とすると

f

i E e

d

i

m

e

i

m

e

f

V

ε

ε

k

r

r

A

exp

1

2

2

2 1 2 1 2 2 2

k

k

1

k

2

E

1

E

1

2

E

2

(6.12) である。時間に関する積分はインパルス近似の範囲内でδEとしており、E1と E2はそれぞ れ散乱前と散乱後の電子のエネルギーである。 コンプトン散乱では、散乱前の電子の束縛エネルギーよりも光子が電子に与えるエネル ギーが十分に大きいため、終状態が平面波exp

ip f r

と近似される。そのため

  

i E E i f e

m

e

d

i

m

e

V

p

ε

ε

r

r

p

k

ε

ε

2 1 2 1 2 2 1 2 1 2

1

2

exp

1

2

(6.13)

 

p

i

exp

i

 

p

i

r

  

i

r

d

r

:始状態の運動量表示の波動関数 (6.14) kpfpi :運動量保存則 となる。 次に電子スピン

σ

に関する行列要素として

(29)

28

  

i E m

i

m

e

i

t

m

e

f

V

p

ε

ε

σ

A

A

σ

2 1 2 1 1 2 2 2 2

2

4

1

4





(6.15) が得られる。 また、W の摂動項は

n i n m

E

E

i

W

n

n

W

f

W

n

:中間状態 (6.16) の形の 2 次摂動になる。粒子の生成消滅過程は、結果的に k1が消滅して k2が生成してい る。 しかし、その過程には中間状態を挟むため、 (a) E2 k2 (b) E2 k2 Ef Ef E12 E12 En En Ei E1 k1 Ei E1 k1 (a)入射光子k1が先に消滅して散乱光子k2が生成する過程 (b)散乱光子k2が先に生成して入射光子k1が消滅する過程 というように、この2過程の足し合わせの形で書かれる。この時

ck

、光子のエネルギ ー

 

ck 

k

であるため、 (a) Ei=E1+k1、En=E12 (b) Ei=E1+k1、En=E12+k1+k2 (6.17) となっている。 まず、(a)の時を求める。生成演算子 † k

a

と消滅演算子

a

kがそれぞれ、前半のブラケット

n

W

f

内と後半のブラケット

n

W

i

内に含まれる。以下の

exp

.

.

2

1

.

.

exp

2

1

2 2 2 2 2 1 1 1 1 1 2 1

c

c

t

i

ia

c

c

t

i

ia

rot

r

k

ε

k

r

k

ε

k

A

k k † (6.18) より、摂動項は、

(30)

29

i

e

a

i

e

i

a

f

k

E

E

m

e

i k i k r k r k

ε

k

σ

p

ε

ε

k

σ

p

ε

   

1 1 2 2 2 2 2 1 1 1 1 2 1 2 1 2 2

2

1

2

1

1

2

1

(6.19) ここでブラケット内のスピン行列

σ

に依存する項は X 線のエネルギーが電子のエネルギ ーよりも遥かに大きいため、

k

1

ck

1

1



E

1

E

2とする。さらに

p

 

i

とし、|f>を 平面波と近似することで



 



 



 

 

 

i E

i

m

e

p

ε

k

ε

k

k

ε

ε

k

k

ε

ε

k

k

ε

ε

k

σ

1 1 2 1 1 1 2 2 2 2 1 1 1 1 2 2 1 2 1 2 2

ˆ

ˆ

2

1

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

2

2

1

:X 線の方向の単位ベクトル(添え字の 1、2 は入射と散乱 X 線に対応する) (6.20) となる。 (b)の摂動項も同様に

k

2

ck

2

2



E

1

E

2とすることにより、



 



 



 

 

 

i E

i

m

e

p

ε

k

ε

k

k

ε

ε

k

k

ε

ε

k

k

ε

ε

k

σ

2 2 1 1 2 2 1 1 1 1 2 2 2 1 2 2 2 2 1 2 2

ˆ

ˆ

2

1

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

2

2

1

(6.21) となる。したがって、(a)と(b)の足し合わせを考えると(6.15)式は、



 



 

 

i E m

i

m

e

W

p

ε

k

ε

k

k

ε

ε

k

k

ε

ε

k

σ



2 2 1 1 2 1 2 1 2 2 2 1 2 1 1 1 2 1 2

ˆ

ˆ

2

1

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

2

4

1

(6.22) となる。 電子スピン

σ

に関する行列要素は

  

i E m

m

e

i

W

V

σ 

B

p

2 1 2

1

4

(6.23)

(31)

30





 



 

2 2 1 1 2 1 2 1 2 2 2 1 2 1 1 1 2 1 2 1

ˆ

ˆ

2

1

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

2

1

ε

k

ε

k

k

ε

ε

k

k

ε

ε

k

ε

ε

B

(6.24) と書かれ、遷移確率は

  



 

i E E i

i

m

m

i

m

e

m

ie

m

e

2 2 4 2 1 3 2 2 1 2 2 1 4 2 2 2 2 2 1 2 2 1

16

1

Im

4

4

1

4

2

1

p

B

σ

ε

ε

B

σ

ε

ε

p

B

σ

ε

ε

(6.25) に比例する。この第1 項に比べて第 2 項、第 3 項はそれぞれほぼ

/

m

2 / m

だけ小さ いため、第3 項を無視する。よって、上式より次に挙げる 3 つのことが理解される。 I. 遷移確率は初期状態の電子運動量密度

 

p

i 2に比例する。 II. 電子スピンによる磁気コンプトン散乱強度は、電荷による散乱強度に比べて約(X 線エ ネルギー/mc2)だけ弱い。 III. 第 2 項が虚数項であるため、この項を観測するためには、すなわち MCP を得るには X 線が円偏光している必要がある。これは第2 項の行列要素が実数として残るためにεに 虚数を含む必要があるためである。 次にエネルギー保存則と運動量保存則より、散乱後の X 線のエネルギーは

cos

1

1

1

cos

1

1

1 1 1 2

m

m

m

i

p

k

(6.26) となる。ただしインパルス近似のためエネルギー保存則に電子の束縛エネルギーはあらわ に出てこない。第1 項は静止している電子と散乱した時の X 線のエネルギーで第 2 項は電 子の運動量によるエネルギーシフト(ドップラーシフト)を示している。 このシフトは散乱ベクトル

k

上への

p

iの射影成分が同じならば、同じ

2を与えるため、 2

を測定する時の散乱断面積は





 

i

dp

x

dp

y

m

i

m

e

d

d

d

2 2 1 3 2 2 1 2 1 2 4 2 2

Im

4

4

1

p

ε

ε

B

σ

ε

ε

(6.27)

(32)

31 ここでz 軸は散乱ベクトルの方向に取り

 

p

i

i

 

p

と書き換えた。 この運動量に対する 2 重積分量は一電子のコンプトンプロファイルと呼ぶべき量である。 実際の観測に掛かるものは多電子系からの散乱強度であるため、そのコンプトンプロファ イルは一電子近似の下で電子数について総和をとり、

 



 

 

 

n i z i n i y x i z

dp

dp

j

p

p

J

1 1 2

p

(6.28) と表す。 Grotch らの行った準相対論的(ω/m<1)な計算の結果は、高次の補正項を省略することに より、

 



 

z z z

p

J

p

m

k

k

m

p

J

m

d

d

d





k

k

k

k

k

σ

k

2 2 1 1 2 1 1 2 2 2 1 2 2 2 2 2

cos

1

2

1

cos

1

cos

2

cos

1

4

:微細構造定数 (6.29) となる。第 2 項が電子スピンに依存する散乱断面積であり、スピンの向きにより符号が変 わる。よって、磁化させた強磁性体のスピンに依存する散乱強度は、一電子近似の下で電子 数について和を取るとスピン上向き(

)と下向き(

)の電子のコンプトンプロファイルの差 を含むことになる。つまりこの量が磁性電子のコンプトンプロファイル(MCP)となる。 以上のことより、

n

n

n

 (6.30)

 



 

 

 

      

n i z i n i z i n i y x i z nor

p

dp

dp

j

p

j

p

J

1 1 1 2

p

(6.31)

 

 

 

 

 

    

n i z i n i z i n i y x i i z mag

p

dp

dp

j

p

j

p

J

1 1 1 2

p

(6.32) とすると、

J

nor

 

p

z は電荷によるコンプトンプロファイル(ノーマルコンプトンプロファイ ル)、Jmag

 

pz はMCP を表す。 MCP の導出の(6.31)式と(6.32)式にあるように、ノーマルコンプトンプロファイル、MCP 共にその始状態の運動量表示波動関数の二乗の積分が含まれる。直感的にコンプトンプロ ファイルを理解できるように、例として自由電子ガスモデルの運動量密度とそのコンプト ンプロファイルをFig.6.2 に示している。ノーマルコンプトンプロファイルは各軌道電子の 運動量密度分布の重ね合わせとして全電子の運動量密度分布を、MCP は磁性電子の運動量 密度分布を与える。ゆえに、MCP を観測するということは、その磁性電子の軌道状態を観

(33)

32 測していることに他ならないのである。

このコンプトンプロファイルはフェルミ面のトポロジーや電子相関の効果等の研究も用 いられている。

(34)

33

6.3 実験装置

磁気コンプトン散乱実験を行うには、 i. 円偏光した X 線が必要 ii. 磁気効果が非常に小さいため強い X 線が必要 iii. インパルス近似を成立させるため硬 X 線が必要 などの条件を満たす必要がある。以上のような条件を満たす X 線源としてはシンクロトロ ン放射光が有用である。実際には、兵庫県にある大型放射光施設SPring-8 の高エネルギー 非弾性散乱ビームラインBL08W experimental station A にて測定を行った。測定装置の配 置図を Fig.6.3 に示す。BL08W の光源は、高エネルギーの円偏光や水平直線偏光が発生可 能な楕円多極ウィグラー(EMPW)であり、MCP 測定には円偏光を用いる。EMPW より放射 された白色X 線は、Si(620)面のモノクロメーターを用いて単色化、集光して station A へ 導かれる。モノクロメーターの下流にあるTC1・2 スリットや station A 内にある Pb スリッ トは、モノクロメーターにおいて単色化されなかった必要なエネルギー以外の X 線などに よるバックグラウンドを軽減させるために設置されている。なお、空気中での散乱を軽減さ せるために X 線は真空に保ったパイプ内を通している。入射 X 線に対して 178°方向へ後 方散乱した光子を10 素子の Ge 半導体検出器(Ge-SSD)を用いて検出した。試料には超伝導 磁石を用いて-2.5T~2.5 T の磁場を掛けており、MCP はそれぞれの磁場での散乱強度の差 として得られる。 Fig.6.3 コンプトン散乱実験図 MCP の測定においては、以下の(6.33)式に示すように試料の磁化を散乱ベクトルと平行 にして

2のエネルギースペクトル

I

 

2 を測定し、次に磁化の方向を反転させて同様に

 

2

I

を測定した後、両者の差を求めることにより全体の散乱スペクトルからJmag

 

2 を取り出す(磁場反転法)。 wiggler wiggler I detector I detector I I00monitormonitor SuperConducting

SuperConductingMagnetMagnet

monochromator monochromator Si Si620620 Ion Ion chamber chamber SDDSDD Sample Sample

SSD

(35)

34 また、磁気効果Me は以下の式で表わされる。

Me = ∫(I+−I−)dE

∫ I+dE+∫ I−dE (6.33) Me : 磁気効果 I+, I- : エネルギースペクトル I+とI-はエネルギースペクトルなので、I++I-とI+-I-は、コンプトン散乱により測定可 能である。 (6.29)式を再度書き表し、

 



 

z z z

p

J

p

m

k

k

m

p

J

m

d

d

d





k

k

k

k

k

σ

k

2 2 1 1 2 1 1 2 2 2 1 2 2 2 2 2

cos

1

2

1

cos

1

cos

2

cos

1

4

:微細構造定数 (6.34)

2 1 2 2 2

cos

1

4

m

C

nor (6.35)







z m a g

p

m

k

k

m

C

k

k

k

k

k

σ

k

2 2 1 1 2 1 1 2 2

c o s

1

2

1

c o s

1

c o s

2

(6.36) のように第1 項と第 2 項の係数を書き表すと、

 

2 I

 

2 2PcCmagJmag

 

2 I  (6.37)

I

 

2CnorJnor

 

2PcCmagJmag

 

2B.G. (6.38) I

 

2CnorJnor

 

2PcCmagJmag

 

2B.G. (6.39)

P

c:X 線の円偏光度を表すストークスパラメーター

(36)

35 これらの式より、散乱強度を稼ぐには、散乱角を180°に近づけ、ノーマルコンプトンプ ロファイルに対するMCP の比である磁気効果を上げるには、散乱角を 90°に近づければ よい。実際の実験では、散乱強度を稼ぐため、散乱角は178°とした。 さらに、

2

p

zの間の関係

cos

2

cos

1

03604

.

137

2 1 2 2 2 1 2 1 1 2

m

p

z (6.40) を用いて、Jmag

 

2Jmag

 

pz に変換する。 (6.37)式が成立するには、(6.38)と(6.39)式中にある電荷散乱

J

nor

 

2 およびバックグラウ ンドが同じでなければならない。入射 X 線の強度や計測装置の時間的変動等の影響をなく すために、測定時に散乱ベクトルと平行に磁化させた方向をA、その反対方向を B とする と、ABBABAAB というサイクルを測定の 1 単位(1 サイクル)としている。 1. モノクロメーター 測定では Si のモノクロメーターの(620) 面を用いて、182 keV の X 線を分光している。 そして、試料位置で集光するようにモノクロメーター自身が湾曲している。しかし、station A に X 線を入射する際は水平方向のみを集光している。 2. 超伝導磁石 MCP は先ほど述べたように、試料に対して磁化を反転させ、それぞれの磁化での散乱強 度の差をとることによってプロファイルを得る。そのため測定の際にはできるだけ高い磁 場を素早く反転させることが可能な磁石が有効である。SPring-8 BL08W には高速反転型超 伝導磁石が設置してある。なお、この高速反転型超伝導磁石の磁場は、以下の関係式により 印加磁場を決定することができる。 E=1.4×B E:外部参照電圧 [V] (6.41) B:印加したい磁場μ0H [T] さらに、この高速反転型超伝導磁石はパルスモーターによってz、ψが稼動する架台の上に 載せてあるため、試料位置の調整を容易に行える。

(37)

36 3. X 線検出器 検出には 10 素子の Ge 半導体検出器(Solid-State Detector: SSD)を用いた。SSD の半導体 中に電荷のキャリアの存在しない空乏層があり、絶縁性が良いので高電圧が掛けてある。そ こに X 線が入射することにより、電子と正孔の対を生成して出力電荷パルスを作ることで X 線を検出する。試料側から眺めた正面図を Fig.6.4 に示す。[9] 中心の円筒状空洞部分をX 線が通り、試料により散乱された X 線が円周上に並んだ 10 個 の SSD により検出される。図中右上にある試料側から眺めた正面図に書き込まれた長さの 単位は[mm]である。 4. TC スリット及び鉛スリット等による Back Ground 対策 TC スリットとはモノクロメーターの下流にあるスリットで上下左右にスリットを切っ ていくTC1 スリットと斜めから切っていく TC2 スリットの 2 つがある。必要とするエネル ギー以外の X 線がモノクロメーターから反射されれば、その X 線からの散乱が Back Ground となる。これらのスリットはモノクロメーターからの不必要なビームを減少させる Fig.6.4 10 素子 Ge-SSD 正面図および背面図

(38)

37 ためのスリットである。さらにSSD 周辺を鉛で覆うことで、Back Ground の低減を図って いる。 5. 試料の取り付け サンプルホルダーに試料を取り付け、サンプルホルダーごと超伝導磁石内に配置する。測 定は真空下において行うので、試料をセットした後、超伝導磁石チャンバー内を真空引きす る。 6. 試料位置の調整 DSS を開けて超伝導磁石の架台を動かしながら、サンプルホルダーからのコンプトン散 乱が最小になる位置と試料からの蛍光 X 線が最大になる位置を探し出すことにより、試料 位置を調整する。 7. フロントエンドスリット(FE-Slit)の調整 フロントエンドスリットとは挿入光源の下流側でモノクロメーターの上流側にあるスリ ットのことである。スリットの幅(Width)と高さ(Height)を調整して、SSD の Live time と Real time の差である Dead time が Real time の 5%前後になるように X 線の強度を調整 する。

(39)

38

6.4 測定原理

MCP の測定手順を表したものを Fig.6.6 に示す。磁場ごとのエネルギースペクトルを測 定する際に、磁気ヒステリシスの往路と復路での測定磁場に分離し、プラスとマイナスで対 称となる磁場での散乱強度の差分がMCP の測定値となる。図の測定手順では①と③、②と ④がそれぞれ対称の磁場での測定値となる。 Fig.6.6 磁気コンプトンプロファイルの測定手順

(40)

39

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

Pz(au)

0.5T

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

2.5T

Fe1nm/Co1nm Fe8nm/Co8nm

Fig.1 Magnetic Compton Profiles

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

Jm

a

g(pz

)(

a

u

-1

)

1.5T

Pz(a.u.)

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

Pz(au)

0.5T

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

2.5T

Fe1nm/Co1nm Fe8nm/Co8nm

Fig.1 Magnetic Compton Profiles

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

Jm

a

g(pz

)(a

u

-1

)

1.5T

Pz(a.u.)

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

Pz(au)

0.5T

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

2.5T

Fe1nm/Co1nm Fe8nm/Co8nm

Fig.1 Magnetic Compton Profiles

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

Jm

ag(pz

)(a

u

-1

)

1.5T

Pz(a.u.)

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

1T

Fe1nm/Co1nm Fe8nm/Co8nm

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

2T

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

0.25T

Pz(a.u.)

Jm

a

g(pz

)(a

u

-1

)

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

1T

Fe1nm/Co1nm Fe8nm/Co8nm

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

2T

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

0.25T

Pz(a.u.)

Jm

ag(p

z)(a

u

-1

)

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

1T

Fe1nm/Co1nm Fe8nm/Co8nm

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

2T

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

0.25T

Pz(a.u.)

Jm

a

g(pz

)(

a

u

-1

)

6.5 磁気コンプトン散乱測定結果

各試料の磁気コンプトン散乱測定結果を Fig.6.7 に示す。磁気コンプトン散乱測定は Fe(1nm)/Co(1nm) on Al、Fe(8nm)/Co(8nm) on Al の試料について行った。また、MCP の 磁場依存性の違いを見るため、Fe(8nm)/Co(8nm) on Al と Fe(1nm)/Co(1nm) on Al の MCP の差を出した。その結果をFig.6.8 に示す。

(41)

40

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

-2T

Fe1nm/Co1mn Fe8nm/Co8nm

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

-0.25T

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

-1T

Pz(a.u.)

Jm

a

g(pz

)(a

u

-1

)

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

-2T

Fe1nm/Co1mn Fe8nm/Co8nm

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

-0.25T

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

-1T

Pz(a.u.)

Jm

a

g(p

z

)(a

u

-1

)

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

-2T

Fe1nm/Co1mn Fe8nm/Co8nm

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

-0.25T

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

-1T

Pz(a.u.)

Jm

ag(pz

)(a

u

-1

)

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

-1.5T

Fe1nm/Co1nm Fe8nm/Co8nm

Jm

a

g(p

z

)(a

u

-1

)

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

-0.5T

Pz(a.u.)

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

-1.5T

Fe1nm/Co1nm Fe8nm/Co8nm

Jm

ag(pz

)(a

u

-1

)

0

2

4

6

8

10

0

0.1

0.2

-0.5T

Pz(a.u.)

Fig.6.7 MCP 測定結果

(42)
(43)

42

(44)

43

-2

-1

0

1

2

-0.5

0

0.5

M

agne

ti

c E

ffe

ct

[%]

Magnetic Field[T]

[Fe(1nm)/Co(1nm)]1000

-2

-1

0

1

2

-0.5

0

0.5

Mqagnetic Field[T]

M

agne

ti

c E

ffe

ct

[%]

[Fe(8nm)/Co(8nm)]125

6.6 磁気効果 Me の測定

(6.33)式で述べたように磁気効果 Me は次の式で表すことができる。

𝑀

𝑒

=

∫(𝐼

+

−𝐼

)𝑑𝐸

∫ 𝐼

+

𝑑𝐸+∫ 𝐼

𝑑𝐸

∝ 𝜇

𝑆

(6.42) 磁気コンプトン散乱原理の6.3 実験装置を用いて測定したコンプトンプロファイル(CP) と磁気コンプトンプロファイル(MCP)の積分値から磁気効果 Me を求める。そして、磁気 効果Me はスピン磁気モーメント𝜇𝑆と比例関係にある。したがって、磁気効果Me はスピ ン磁気モーメントを反映している。Fig.6.9、Fig.6.10 に各試料の磁気効果の結果を示す。

Fig.6.9 磁気効果(Fe(1nm)/Co(1nm) on Al)

(45)

44

6.7 スピン選択磁化曲線と軌道選択磁化曲線

6.6 に示した図では縦軸が磁気効果となっているためスピン選択磁化曲線を得るためには 縦軸を単位体積あたりの磁化[emu/cc]に直す必要がある。本研究では、Co50Fe50(BCC 構造) が2.5T の磁場で、スピン磁気モーメント:𝜇𝑆= 2.18𝜇𝐵、軌道磁気モーメント:𝜇𝐿= 0.13𝜇𝐵、 全磁気モーメント:𝜇𝑇= 2.31𝜇𝐵[3]の値を持つということを利用し縦軸の補正を行う。全磁 気モーメントにおけるスピン磁気モーメントの割合は2.18𝜇𝐵/2.31𝜇𝐵より0.944 となるため、 SQUID 磁力計で測定した 2.5T の磁化の値に 0.944 を掛けることでスピン選択磁化曲線を 導出する。そのようにして求めたスピン選択磁化曲線を Fig.6.11~Fig.6.12 に示す。また、 以下の(6.43)式より全磁気モーメントはスピン磁気モーメントと軌道磁気モーメントの和 である。よってSQUID 磁力計で測定した全磁化曲線からスピン選択磁化曲線を引くことで 軌道選択磁化曲線を得た[7]。各試料の結果を Fig.6.13~Fig.6.14 に示す。

𝜇

𝑇

(𝐻) = 𝜇

𝑆

(𝐻) + 𝜇

𝐿

(𝐻)

(6.43)

(46)

45

-2

-1

0

1

2

-1000

0

1000

[Fe(1nm)/Co(1nm)]1000

total

SSMH

OSMH

Magnetic Field[T]

M

agne

ti

za

ti

on[e

m

u/

cc

]

Fig.6.12 スピン選択磁化曲線(Fe(8nm)/Co(8nm) on Al)

(47)

46

-2

-1

0

1

2

-1000

0

1000

Magnetic Field[T]

M

agne

ti

za

ti

on[e

m

u/

cc

]

[Fe(8nm)/Co(8nm)]125

total

SSMH

OSMH

0

1

2

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

Fe(1nm)/Co(1nm)

Fe(8nm)/Co(8nm)

Magnetic Field[T]

μ

L

S

Fig.6.14 磁化曲線(Fe(8nm)/Co(8nm) on Al)

Fig.6.13~Fig.6.14 の結果より、SSMH と OSMH の磁化反転挙動は異なっていることか ら、SSMH と OSMH の比を求めた。その結果を Fig.6.15 に示す。Fig.6.15 から

Fe(1nm)/Co(1nm)と Fe(8nm)/Co(8nm)ではスピンと軌道の比が一定ではないため、スピン と軌道の磁化反転挙動が異なることが確認できる。また両試料は低磁場で形が異なってお り、Fe(1 nm)/Co(1nm)では OSMH の寄与が大きく、Fe(8nm)/Co(8nm)では OSMH の寄 与が小さくなっている。特にFe(8nm)/Co(8nm)ついては 0.5T を境に低磁場の領域で OSMH が急激に変化している。これはマルテンサイト変態と関連している可能性が考えら れる。

(48)

47

第 7 章 磁気量子数選択的スピン磁化曲線

7.1 磁気量子数選択的スピン磁化曲線の導出

前述のように軌道磁気モーメントが変化する。そこで波動関数の形を見たいという理由か ら磁気量子数|m|=0,1,2 に対応する磁気コンプトンプロファイル(MCP)のモデル計算 (Fig.7.1)を用いて磁気量子数選択的スピン磁化曲線を導出する。第 6 章に示した MCP 測定 結果についてモデル計算によるフィッティングを行い、MCP を磁気量子数別に分離した。 モデル計算には(7.1)、(7.2)式を利用した。ここで𝑓𝑛𝑙(𝑟)は実空間における波動関数の動径部 分、𝑢𝑛𝑙(𝑝)は運動量空間における波動関数の動径部分、𝑌𝑙𝑚は球面調和関数で実空間および 運動量空間における波動関数の角度部分を表す。また、ここでは膜面垂直方向をz 軸として いる。(7.2)式を 2 乗して 2 重積分、フィッティングを行い磁気量子数別に分離できる。 ψ(𝒓) = 𝑓𝑛𝑙(𝑟)𝑌𝑙𝑚(𝜃, 𝜑) (7.1) χ(𝒑) = 𝑢𝑛𝑙(𝑝)𝑌𝑙𝑚(𝜃𝑝, 𝜑𝑝) (7.2) MCP の磁気量指数別の分離を Fig6.6 の全磁場の MCP 結果について行うことで、磁気量子 数選択的スピン磁化曲線を得た。これにより Fig.6.11~Fig.6.12 の SSMH はそれぞれ Fig.7.2~Fig.7.3 のように分離して表すことができる。 Fig.7.1 磁気量子数|m|=0,1,2 に対応する磁気コンプトンプロファイル

(49)

48

-2

-1

0

1

2

-500

0

500

M

agne

ti

za

ti

on[e

m

u/

cc

]

Magnetic Field[T]

[Fe(1nm)/Co(1nm)]1000

m=0

m=1

m=2

-2

-1

0

1

2

-500

0

500

Magnetic Field[T]

M

agne

ti

za

ti

on[e

m

u/

cc

]

[Fe(8nm)/Co(8nm)]125

m=0

m=1

m=2

Fig.7.2 磁気量指数選択的スピン磁化曲線(Fe(1nm)/Co(1nm) on Al)

(50)

49

0

1

2

0

1

2

3

[Fe(8nm)/Co(8nm)]125

Magnetic Field[T]

S

S

M

H

m

/S

S

M

H

m=0

m=1

m=2

0

1

2

0

1

2

3

[Fe(1nm)/Co(1nm)]1000

m=0

m=1

m=2

Magnetic Field[T]

S

S

M

H

m

/S

S

M

H

これらの結果より磁気量子数別SSMH はそれぞれ異なった変化をしており磁化反転挙動 は異なっている。磁化反転挙動をより詳しく解析するために、磁気量子数選択的SSMH をSSMHm と定義して、Fig.6.11~Fig.6.12 の SSMH との比を求めた。ここでは 2.5T を 1 として規格化を行っている。その結果を Fig.7.4~Fig.7.5 に示す。 Fig.7.4~Fig.7.5 から|m|=0,|m|=1 について比の値はほぼ一定の値を取るように見える。 |m|=2 について Fe(8nm)/Co(8nm)が Fe(1nm)/Co(1nm)に比べ、比の変化が大きく、磁場 依存性が大きいことが確認できる。この磁場依存性が大きいのは Fe(8nm)/Co(8nm)の磁歪 効果と関連していそうである。 Fig.7.4 磁気量子数選択的 SSMH と SSMH の比(Fe(1nm)/Co(1nm)) Fig.7.5 磁気量子数選択的 SSMH と SSMH の比(Fe(8nm)/Co(8nm))

参照

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