ホソヘリカメムシ雄成虫のフェロモン 695 ―― 23 ―― 本カメムシのフェロモン成分としてまず 3 物質が同定 された(LEALet al., 1995)。その後,新たに 2 成分が同 定され(YASUDAet al., 2007 a ; 2007 b),単独で誘引活性を もつ主要成分の tetradecyl isobutyrate(以下,14:iBu)と, 添加することで誘引活性が増す四つの協力成分の計 5 成 分からなると考えられている(ENDOet al., 2005 など)。
II 雄成虫の誘引性およびフェロモン成分 保持量の個体間差(MIZUTANIet al., 2007) 十分に摂食し成熟した雄成虫はフェロモンを放出する と考えられるが,すべての個体が同じようにフェロモン を生成・放出するのであろうか? そこで,長日条件 (16L8D)で飼育した個体の誘引性を個体別に検証した ところ,誘引数は個体間で差が認められ,日当たり平均 で 3 個体以上誘引するものから全く誘引しないものまで 認められた(図― 1)。これら誘引源として用いた雄成虫 のフェロモン成分保持量を調査後ヘキサンで 1 時間(室 温)抽出して調べたところ,保持する成分の量とその構 成比が個体によって大きく異なった(図― 1)。このうち, 主要成分の 14:iBu は,保持する個体と保持しない個体 が認められ,保持量と誘引性の間に有意な正の相関が認 められた。一方,協力成分の(E)― 2 ― Hexenyl(E)― 2 ― hexenoate(E2 ― 6:E2Hx)と(E)― 2 ― hexenyl(Z)― 3 ― hexenoate(E2 ― 6:Z3Hx)は,ほぼすべての個体が保持 していたが,保持量に個体間差が認められた。 III 生殖休眠と雄成虫の誘引性・フェロモン 成分保持量の関係(MIZUTANIet al., 2008 a ; 2008 b) 雄成虫の性成熟と誘引性との関係を明らかにするため に,短日条件(10L14D)で飼育し生殖休眠状態にある 雄成虫の誘引性とフェロモン成分保持の有無について調 査したところ,短日で飼育した雄成虫は全く誘引性を示 さなかった(表― 1)。さらに,これら誘引源として用い た雄成虫のフェロモン成分保持量を調べたところ,短日 で飼育した雄成虫は(E)― 2 ― hexenyl hexanoate を除く いずれの成分も検出されず(表― 2),生殖休眠状態にあ る雄成虫がフェロモンを生成・放出しないことが明らか となった。 は じ め に カメムシ類では,雄成虫が雌成虫だけでなく雄成虫や 幼虫を誘引することが多くの種で知られ,近年,これら 雄成虫のフェロモンの同定・合成が進められている (ALDRICH, 1988;安田,2004;MILLAR, 2005;水谷,2006 等)。合成されたフェロモンを発生予察や防除に利用す る試みは,例えばチャバネアオカメムシ Plautia stali な どで行われている(大平,1997;足立,1998;片瀬・ 清水,2006 等)。しかしながら,実際に防除手段として 利用されているのはごくわずかな種に限られており,例 えば,世界的な重要害虫であるミナミアオカメムシ Nezara viridula では,1970 年代から研究が始まりフェ ロモンが同定されている(ALDRICHet al., 1987 ; BAKERet al., 1987)にもかかわらず,いまだに合成フェロモン剤 の実用化が進められていない。 カメムシ類雄成虫のフェロモンは異性である雌だけで なく雄や幼虫も誘引することから「集合フェロモン」と 呼ばれているが,フェロモンを “出す側” と “受ける側” の(利害)関係が明瞭ではない。カメムシ類雄成虫の合 成フェロモンがどのような場面・方法で防除に利用でき るのかを明確にするためには,フェロモンの働き,すな わち機能を解明することが不可欠である。 そこで,筆者らはホソヘリカメムシ Riptortus pedestris を用いてカメムシ類雄成虫のフェロモンの機能解明を進 めており,その過程で興味深い事実をいくつか明らかに した。機能解明のうえで大きな手がかりとなりそうなそ れらの事実についてここで紹介したい。 I ホソヘリカメムシ雄成虫のフェロモン 長日条件で飼育した雄成虫は,羽化後 1 週間ごろから 雌雄成虫と幼虫を誘引する(和田ら,1997)。また,摂 食しないと誘引しない(森島ら,2005)ことから,本フ ェロモンは,チャバネアオカメムシ(志賀・守屋,1989 など)と同様に,鎭資源の探索・利用システムと関連し ているのではないかと考えられている。
Male ― Produced Pheromone of the Bean Bug, Riptortus pedestris. By Nobuo MIZUTANIand Tetsuya YASUDA
(キーワード:ホソヘリカメムシ,雄成虫,フェロモン,ダイズ)
ホソヘリカメムシ雄成虫のフェロモン
―わかったこと,まだわからないこと―
水
みず谷
たに信
のぶ夫
お・安
やす田
だ哲
てつ也
や 中央農業総合研究センター植 物 防 疫 第 63 巻 第 11 号 (2009 年) 696 ―― 24 ―― らに,これら 2 成分は,非休眠期にはほぼすべての個体 が保持していたが,休眠期にはほとんどの個体が保持し ていなかった。これらの事実は,雄成虫のフェロモン生 成が生殖=配偶行動と関与している可能性が示唆するも また,長日条件で飼育した雄成虫に “誘引された” 雄 成虫のフェロモン成分保持の有無について調べたとこ ろ,主要成分の 14:iBu は全く保持せず,協力成分の E2 ― 6:E2Hx と E2 ― 6:Z3Hx を保持していた(図― 2)。さ 個 体 番 号 1 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 0 1 2 3 4 5 6 0 5 10 15 日当たり平均誘引数 フェロモン成分量(μg) 14:iBu E2 ―6:E2Hx E2 ―6:Z3Hx 18:iBu E2 ―6:Hx 図 −1 ホソヘリカメムシ雄成虫の個体別の誘引数およびフェロモン成分保持量(MIZUTANIet al., 2007 を改編) 表 −1 長日または短日で飼育したホソヘリカメムシ雄成虫の同種他個体 に対する誘引性(茨城および熊本,2006)(MIZUTANIet al., 2008 b を 改編) 調査場所 飼育日長a) 調査雄数 他個体を 誘引した♂の数 日当たり平均誘引数 (平均±標準誤差) 茨城 (つくば) 熊本 (合志) 長日 短日 長日 短日 11 11 10 10 5 0 4 0 0.14 ± 0.06* 0 ± 0 0.22 ± 0.12* 0 ± 0 a)長日:16L8D,短日:10L14D(25℃).*飼育日長間で誘引数に 5%レ ベルで有意差あり(Mann ― Whitney U ― test).
ホソヘリカメムシ雄成虫のフェロモン 697 ―― 25 ―― 表 −2 野外試験で誘引源として用いたホソヘリカメムシ雄成虫a)のフェロモン成分保持量(茨城および熊本,2006) (MIZUTANIet al., 2008 b を改編) 調査場所 飼育 日長b) 調査雄数 フェロモン成分量c),d)(μg/♂,平均値±標準誤差)
14:iBu 18:iBu E2 ― 6:E2Hx
茨城 (つくば) 熊本 (合志) 長日 短日 長日 短日 11 11 10 10 0.43 ± 0.16(8) 0.00 ± 00.0(0) 1.58 ± 0.67(7) 0.00 ± 00.0(0) 0.10 ± 0.03(8) 0.00 ± 00.0(0) 0.60 ± 0.22(6) 0.00 ± 00.0(0) 9.01 ± 1.14(11) 0.01 (1) 8.20 ± 1.90(10) 0.00 ± 00.0 (0) a)表― 1 に示した試験で誘引源として用いた雄成虫を分析.b)長日:16L8D,短日:10L14D(25℃).c) 14:iBu;tetrade-cyl isobutyrate,18:iBu;octade14:iBu;tetrade-cyl isobutyrate,E2 ― 6:E2Hx;(E)― 2 ― hexenyl(E)― 2 ― hexenoate,E2 ― 6:Z3Hx;(E)― 2 ― hexenyl(Z)―
3 ― hexenoate,E2 ― 6:Hx;(E)― 2 ― hexenyl hexanoate.d)( )内はフェロモン成分が検出された雄の数. E2 ― 6:Z3Hx E2 ― 6:Hx 3.57 ± 0.70(11) 0.00 ± 00.0(0) 2.78 ± 0.66 (9) 0.00 ± 00.0(0) 3.06 ± 0.74(11) 0.86 ± 0.13(11) 1.75 ± 0.38(10) 0.85 ± 0.10(10) 個 体 番 号 1 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 7/11 ∼9/1 (非休眠期) 0 10 20 30 40 50 75 80 85 90 95 100 105 110 115 120 125 130 135 140 145 9/19 ∼10/12 (休眠期) 0 10 20 30 40 50 フェロモン成分保持量(μg) 14:iBu 18:iBu E2 ―6:E2Hx E2 ―6:Z3Hx E2 ―6:Hx 図 −2 ホソヘリカメムシ雄成虫に誘引された同種雄成虫の個体別フェロモン成分保持量(MIZUTANI et al., 2008 a を改編)
植 物 防 疫 第 63 巻 第 11 号 (2009 年) 698 ―― 26 ―― 今回新たに “わかった” 事実は,同時にフェロモンの 機能を考えるうえで新たな疑問を生じている。それら新 たに生じた “わからない” 現象を一つひとつ検証してい くことによってホソヘリカメムシのフェロモンの機能を 明らかにし,それをカメムシ類雄成虫フェロモンの全体 像の解明につなげたいと考えている。 引 用 文 献 1)足立 礎(1998): 植物防疫 52 : 515 ∼ 518.
2)ALDRICH, J. R. et al.(1987): J. Exp. Zool. 244 : 171 ∼ 175. 3)――――(1988): Ann. Rev. Entomol. 33 : 211 ∼ 238. 4)BAKER, R. et al.(1987): J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1453 :
414 ∼ 416.
5)BORGES, M. et al.(1987): Entoml. Exp. Appl. 44 : 205 ∼ 212. 6)ENDO, N. et al.(2005): Appl. Entomol. Zool. 40 : 41 ∼ 45. 7)片瀬雅彦・清水喜一(2006): 植物防疫 60 : 321 ∼ 326. 8)LEAL, W. S. et al.(1995): J. Chem. Ecol. 21 : 973 ∼ 985. 9)MILLAR, J. G.(2005): Topics Current Chemistry 240 : 37 ∼ 84. 10)水谷信夫(2006): 応動昆 50 : 87 ∼ 99.
11)MIZUTANI, N. et al.(2007): Appl. Entomol. Zool. 42 : 629 ∼ 636. 12)―――― et al.(2008 a): ibid. 43 : 331 ∼ 339.
13)―――― et al.(2008 b): ibid. 43 : 585 ∼ 592. 14)森島正二ら(2005): 応動昆 49 : 262 ∼ 265. 15)大平喜男(1997): 研究ジャーナル 20( 9 ): 31 ∼ 37. 16)SHETTY, P. N. and J. A. HOUGH― GOLDSTEIN(1998): J. Entomol. Sci.
33 : 72 ∼ 81.
17)志賀正和・守屋成一(1989): 果樹試報 A16 : 133 ∼ 168. 18)田渕 研ら(2005): 応動昆 49 : 99 ∼ 104.
19)和田 節ら(1997): 九病虫研会報 43 : 82 ∼ 85. 20)安田哲也(2004): 植物防疫 58 : 304 ∼ 308.
21)YASUDA, T. et al.(2007 a): Appl. Entomol. Zool. 42 : 1 ∼ 7. 22)―――― et al.(2007 b): ibid. 42 : 161 ∼ 166. のである。 お わ り に カメムシ類の雄のフェロモンの機能については,ミナ ミアオカメムシで提唱されているように性的な誘引性を もつとする説(BORGESet al., 1987 など)と,チャバネア オ カ メ ム シ ( 志 賀 ・ 守 屋 , 1 9 8 9 な ど ) や 捕 食 性 の Podisus maculiventris(SHETTYand HOUGH― GOLDSTEIN, 1998 など)で提唱されているように鎭資源の探索・利 用システムとして機能しているとする説があるが,いま だ明確な結論は得られていない。 今回示した結果は,ホソヘリカメムシ雄のフェロモン が性的な誘引性をもつことを示唆するものであるが,雄 成虫や合成フェロモンに集まった成虫間で交尾はほとん ど認められず,誘引性の高い雄成虫で交尾の機会が増え るというような結果は得られていない(水谷,未発表)。 また,休眠期に合成フェロモンや室内で飼育した非休眠 の雄に雌雄成虫が誘引されるほか,未交尾だけでなく既 交尾の雌成虫も雄成虫に誘引される(田渕ら,2005; MIZUTANIet al., 2008 b)。これらの事実は,ホソヘリカメ ムシ雄成虫のフェロモンが “性フェロモン” のように性 的な誘引性という一つの機能しかもたないのではなく, 複数の機能をもつことを示唆しているのではないかと考 えている。 トマト茎えそ病(仮称),アスター茎えそ症,トルコギキ ョウ茎えそ症(富山県:初)9/25 ■イチジク:イチジクヒトリモドキ(奈良県:初)9/29 ■トマト:ToCV による病害(栃木県:初)9/30 ■イチジク:イチジクヒトリモドキ(滋賀県:初)9/15 ■チャ:ミカントゲコナジラミ(福岡県:初)9/15 ■ニンジン:キクノネハネオレバエ(鳥取県:初)9/17 ■ソテツ:クロマダラソテツシジミ(千葉県:初)9/25 ■キク,トマト,アスター,トルコギキョウ:キク茎えそ病,