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慢性腎臓病における高血圧発症 ー腎ATRAPの決定的な役割ー

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Academic year: 2021

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(1)

 慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者はしばしば 高血圧を合併し,高血圧は CKD をさらに進行させるとい う悪循環を形成する。CKDで高血圧が生じる主な機序とし て,糸球体濾過量(GFR)の低下によるナトリウム・体液の 貯留,交感神経活性の亢進,そして主にアンジオテンシン Ⅱ タイプ 1(AT1)受容体(AT1R)を介した腎組織局所でのレ ニン・アンジオテンシン系 (RAS)の亢進の関与などが指摘 されているが,いまだ不明な点が多い。したがって,CKD に高血圧が合併するメカニズムを明らかにし,その進展制 御法を開発することは大きな課題である。

 AT1 receptor-associated protein (ATRAP)は,AT1 受容体 C 末端の直接結合分子として単離・同定された。ATRAP は主 にエンドソームに存在し,AT1R を持続的に細胞内で捕捉 することにより, AT1R 情報伝達系の一部の系 P38MAPK な どを選択的に阻害して、組織の生理的な機能には影響を与 えず,病的な過剰活性化を抑制する方向に働く可能性が ある1,2)。ATRAP の体内での分布を調べたところ,ヒトの 検討では腎臓で高発現であり,腎尿細管で特に高発現であ ることがわかっており3),腎生検で得られたヒト IgA 腎症 における検討では,腎尿細管 ATRAP 発現は eGFR 低下と ともに低下を認めており,腎機能と腎 ATRAP 発現の相関 が認められた4)。以上の背景から,本研究では 5/6 腎摘出術

(remnant kidney model)を用いて作製した CKD モデルを用 いて,「CKD における高血圧発症に腎 ATRAP 発現のダウン レギュレーションが関与し,腎 ATRAP 発現を制御するこ とで,CKD における高血圧発症を抑制できる」という作業 仮説を検証した。  まず,高血圧感受性の差異に ATRAP が関与するか調べ るため,C57BL/6 および 129/Sv の 2 系統のマウスに対し て,remnant kidney model を作製し比較検討した。術後 4 週 後に評価したところ,両系統のマウス共に,Sham 手術群と 比較してremnant kidney modelでは,クレアチニンクリアラ ンス(Ccr)の低下を認めたが,C57BL/6 では 5/6 腎摘後に血 圧上昇を認めないものの,129/Sv では有意な血圧上昇を認 めた5)。AT1R および ATRAP の発現を qRT-PCR で調べたと ころ,AT1R の発現は,C57BL/6 で減少を認め, 129/Sv では 有意差ではないものの減少傾向を認めており,共に発現の 減少を認めた。一方 ATRAP の発現を調べたところ,血圧 の変わらなかった C57BL/6 では,Sham 手術群と比較して remnant kidney modelで ATRAP 発現の増加を認め,血圧上 昇を認めた 129/Sv では,ATRAP 発現の減少を認めた(図 1)。次に免疫染色で ATRAP 発現を評価したところ,PCR の結果と同様に,remnant kidney model において,C57BL/6 では ATRAP 発現の増加を認めたが,129/Sv では ATRAP 発 現の低下を認めた。2 系統のマウスを用いた検討により, はじめに 高血圧感受性の差異に ATRAP が関与するか 日腎会誌 2017;59(8):1225 1228.

第 39 回腎臓セミナー・Nexus Japan プロシーディング

横浜市立大学大学院医学研究科病態制御内科学

YIA

受賞記念講演 3

慢性腎臓病における高血圧発症

̶腎 ATRAP の決定的な役割̶

A critical role of angiotensin II type 1 receptor-binding molecule in hypertension

in a chronic kidney disease model

小 林   竜  涌 井 広 道  田 村 功 一

(2)

マウス種の高血圧感受性の有無に AT1R ではなく,ATRAP が関与することが示された。  次に,高血圧抵抗性である C57BL/6 を背景に全身性 ATRAP欠損マウスを作製し,CKD 病態における血圧を比 較検討した。全身性 ATRAP 欠損マウスは,ベースライン の血圧に変化はなく,腎形態異常および腎機能障害を認め なかった。また,mRNA レベルでの AT1R 発現も野生型 C57BL/6と差は認めなかった。野生型 C57BL/6 マウスおよ び全身性 ATRAP 欠損マウスに対して,remnant kidney model を作製し比較検討した。術後の血圧経過を追ったところ, 野生型 C57BL/6 では血圧は不変だったが,5/6 腎摘を行っ た全身性 ATRAP 欠損マウスで有意な血圧上昇を認めた。 有意な血圧上昇の認められた術後 4 週の時点で解析を行っ たところ,腎機能低下の程度は,野生型 C57BL/6 マウスと 全身性 ATRAP 欠損マウスは同等であったが,Evans blue 法 にて循環血漿量を測定したところ,5/6 腎摘を行った野生型 C57BL/6マウスでは循環血漿量は不変だったが,5/6 腎摘を 行った全身性 ATRAP 欠損マウスで有意な増加を認め,血 圧上昇の機序と考えられた(図 2)。本結果から,Ccr の低下 だけでは循環血漿量の増加をきたさず,ATRAP が欠損する ことで初めて循環血漿量が増加することが示された。循環 RASを調べたところ,血漿レニン活性は remnant kidney modelにおいて両群で上昇を認めたが,野生型 C57BL/6 マ ウスと全身性 ATRAP 欠損マウス間で有意差は認めなかっ た。また,アルドステロン濃度および尿中カテコラミン排 泄量についても有意差は認めず,体重や腎重量,尿量など の生理的パラメータについても,野生型 C57BL/6 マウスと 全身性 ATRAP 欠損マウス間で有意差は認めなかった。  また,腎細胞膜分画において AT1R 発現を調べたところ, 全身性 ATRAP 欠損マウスにおいて,腎細胞膜分画 AT1 受 容体発現が増加していることが確認され,内在性 ATRAP が発現している野生型 C57BL/6 マウスにおいて,AT1R の インターナリゼーションが確認された。  次に,循環血漿量の増加の機序を調べるべく,Na+チャ ネルの発現を調べたところ,NHE(Na+-H+ exchanger)3, NKCC(Na+-K+-2Cl- cotransporter)2,リン酸化 NCC(Na+-Cl -cotransporter)の発現は,全身性 ATRAP 欠損マウスと野生型 C57BL/6マウスは同様だったが,全身性 ATRAP 欠損マウ スでは,5/6 腎摘により ENaC(上皮型 Na+ transporter)α分 CKD合併高血圧における ATRAP 欠損の影響 1226 慢性腎臓病における高血圧発症̶腎 ATRAP の決定的な役割̶ 図 1  5/6 腎摘(RK)により,C57BL/6 では腎 ATRAP 発現が増加するものの,129/Sv では減少する C57BL/6

**

Sham RK R el at iv e re na l A T 1 R m R N A e xp re ss io n 1.5 1.0 0.5 0.0 129/Sv p=0.0678 Sham RK R el at iv e re na l A T 1 R m R N A e xp re ss io n 1.5 1.0 0.5 0.0 C57BL/6

**

**

Sham RK R el at iv e re na l A T R A P m R N A e xp re ss io n 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 129/Sv Sham RK R el at iv e re na l A T R A P m R N A e xp re ss io n AT1R 4 weeks after surgery ATRAP

(3)

画の発現の増強を認め,循環血漿量増加の一因と考えられ た。  炎症の関与があるか調べるべく,炎症性サイトカインを qRT-PCRにて調べたところ,MCP-1,CD68,F4/80,IL-1 β,IL-6 については全身性 ATRAP 欠損マウスと野生型 C57BL/6マウスは同等だったが,全身性 ATRAP 欠損マウ スでは,野生型 C57BL/6 マウスと比較して 5/6 腎摘による TNF-α発現の増加が増強していた。TNF-αの影響を調べ るべく,5/6 腎摘を行った全身性 ATRAP 欠損マウスに対し て,TNF-α受容体製剤であるエタネルセプトの腹腔内投与 を行い,TNF-α阻害を行った。エタネルセプト投与群は, コントロール群と比較して有意な血圧の低下を認めた。術 後 4 週の時点で Na+チャネルαENaC の発現を調べたとこ ろ,エタネルセプト投与群でαENaC 発現の低下を認め,高 血圧改善の機序の一因と考えられた(図 3)。 CKD合併高血圧における炎症の関与 1227 小林 竜 他 2 名 図 2  全身性 ATRAP 欠損マウス(KO)では,5/6 腎摘による腎機能低下は野生型 C57BL/6 マウス (WT)と同等だが,5/6 腎摘により循環血漿量が増加する

図 3  TNF-α阻害分子標的薬エタネルセプト(ETN)は,5/6 腎摘による全身性 ATRAP 欠損マウス(KO-RK) における高血圧および腎αENaC 発現増加を抑制する

**

120 100 80 60 Saline KO-RK

values are means ± SEM,

**

p<0.01, vs Saline ETN R el at iv e re na l α E N aC /β -a ct in le ve l αENaC β-actin KO-RK-Saline KO-RK-ETN Saline (%) (mmHg) ETN

**

130 120 110 100 90 0

Weeks after surgery ETN 8mg/kg i.p. 3 days before and every 3 days

2 4 S ys to lic b lo od p re ss ur e 4 weeks after surgery

**

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Sham RK

4 weeks after surgery

2-way ANOVA values are means ± SEM(n=8~9),

**

p<0.01, vs Sham, ††p<0.01, vs WT Sham RK C re at in in e cl ea ra nc e 300 200 100 0 Ccr(μL/min) WT KO (μL/min)

**

†† Sham RK

4 weeks after surgerySham RK

P la sm a vo lu m e 70 60 50 40 Plasma volume(μL/gBW) WT KO (μL/gBW)

(4)

 本研究において,CKD 病態において ATRAP が欠損する ことで,AT1R-TNF-α-αENaC を介した経路により,循環血 漿量の増加ならびに血圧の増悪が示された(図4)。 つまり, CKD病態における循環血漿量の増加は,腎機能 (GFR)の 低下の程度によらず,腎 ATRAP 発現の減少による尿細管 での Na+再吸収亢進がその本質であることが示された。  今後の展望として,腎組織局所での ATRAP の発現増加 あるいは活性化は,CKD 合併高血圧に対する新たな治療的 介入となりうる可能性がある。 謝 辞  最後に,この研究を支えてくださった田村功一先生,涌井広道先 生,山下暁朗先生,岡山大学 田邉克幸先生,前島洋平先生,香川大学 西山成先生,また,横浜市立大学医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学 の先生方に心より感謝申し上げます。   利益相反自己申告:申告すべきものなし 文 献

1. Tamura K, Wakui H, Maeda A, et al. The physiology and patho-physiology of a novel angiotensin receptor-binding protein ATRAP/Agtrap. Curr Pharm Des 2013;19:3043—3048. 2. Wakui H, Tamura K, Tanaka Y, et al. Cardiac-specific activation

of angiotensin II type 1 receptor-associated protein completely suppresses cardiac hypertrophy in chronic angiotensin II-infused mice. Hypertension 2010;55:1157—1164.

3. Tsurumi Y, Tamura K, Tanaka Y, et al. Interacting molecule of AT1 receptor, ATRAP, is colocalized with AT1 receptor in the mouse renal tubules. Kidney Int 2006;69:488—494.

4. Masuda S, Tamura K, Wakui H, et al. Expression of angiotensin II type 1 receptor-interacting molecule in normal human kidney and IgA nephropathy. Am J Physiol Renal Physiol 2010;299: F720—F731.

5. Ma LJ, Fogo AB. Model of robust induction of glomerulosclero-sis in mice: importance of genetic background. Kidney Int 2003;64:350—355. おわりに 1228 慢性腎臓病における高血圧発症̶腎 ATRAP の決定的な役割̶ 図 4  ATRAP と CKD 合併高血圧のかかわり 高血圧 高血圧抵抗性マウス C57BL/6 ナトリウム再吸収(αENaC)の亢進 循環血漿量の増加 ナトリウム再吸収 は不変 循環血漿量は不変 正常血圧を維持 TNF-αの活性化 炎症系変化は軽微 ATRAPの発現が低下 ATRAPの発現が増加 易高血圧発症マウス 129/Sv 全身性ATRAP欠損マウス(C57BL/6)

図 3   TNF- α阻害分子標的薬エタネルセプト(ETN)は, 5/6 腎摘による全身性 ATRAP 欠損マウス(KO-RK)

参照

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