17 (東京女医大誌第27巻第5号頁243−246昭和32年5月)
窒息母体内胎児の死因に関する研究(その1)
東京女子医科大学法医学教室(主任吉成京子教授)酒
サカ猪
イノ岩
イワ根
ネ本
モ1’井
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クマ本
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チ 箭 セツ テ鶴
ズ 子.子
永
ナガン(受付昭和32年3月23目)
緒 言 窒息に関する研究は古来極めて多く,中でも窒 息の死因に関する研究はその血液ガスを分析する ことに集められた感がある。したがって多くの文 献に接する事が出来,その一次的主因をなすのは02の減少にあってCO,の増加は二次的のもので
あることを知るのである。 今回私共は母体の窒息が胎児に及ぼす影響を検 索して,母体内胎児の運命にっき法医学的考察を 及ぼしたいと思って以下の如き実験を行ったもの である。案験方法
動物は成熱メスウサギを妊娠せしめ,その比較的末 期に実験に供した。 先づ妊娠ウサギを固定し,頸動脈より窒息前血液を 採取して赤血球数,ザーり一氏血色素指数,血液100cc 中の02含有量を測定算出した。ついで窒息方法とし て気管を直接コッヘル氏鉗子をもつて閉塞した3分後 及び末期呼吸停止後の頸動脈血液について同様02含 有最を測走した。胎児対照血は健康妊娠ウサギを帝王 切開術にて開腹し,胎児心臓血を採取し,母体対照血 と同様赤血球数,ザーV一氏血色素指数,血液02含 有量を求めた。ついで母体窒息開始後10分と20分に採 血して02含有量を測定した。血液含有量はマクPパ ークロフト氏血液ガス測定器による。測定は30∼35。 C恒温槽内で行い,これを0。Cに換算したものである。 また胎児の成熟度は体重を測定したところ約25∼35g で胎生後半のものである。実験成績
成績は表の如くである。 母体について:体重は平均28009前後で赤一血球数を算定すると平均663万である。この数値は津
崎(1954)1)のウサギ正常時の520∼740万に比して 大約その範囲内である。金森(1940)2)の妊娠末期 の540∼570万に比して可なり大である。ザーリs一一一 更 ノ 飾 子L〕 度 % loO・』 、 {O 60 40, F一 20r xx xxL_:二
xN x …一一 ォ.俸 胎 児 x xN xx xN N N NLg一一t−u
ilt;t jt ,., ,, tt 自応 じ12345 1〔〕 15 荊分筋分fi 分 介 窒息時血液02含有量変化 20 分Set,suko SAKAI, Tei INOigUMA, Chizuke IWAMOTO & Na.eashi NEMOTO (Dept. of Legal
Medicine, TokYo Women’s Medical CoH,ege) : Causes of death of fetus in asphyxiated mother (Part 1 ).
18 母体及胎児血液所見
体鵡蜻数iザー』・一磯遮墜絶無分蝿塑
(9) c万) ・砂ヌ▽8:三・/・・醐㈱度V・Lcc/dll百暦齢
母 体 2800 2980 2700 720 688 583 84 ! 17. 40 80 [ 17.90 82 i 17.40 94. 87 102. 83 96.94 2. 05 1. 58 2. 40 ユ1.66 9. 08 13. 37 死後」血液02含有量 V・1・・cc/・il百分飽鞭 1. 85 1. 20 1. 10EI.’U1MI TnMimuiJ3−t TLil.’593s ト 10. 08 6. 70 6. 13
平均
2827 663 i 82 1 17. 57 ! 98. 21 7. 63 胎 児体重鷺烏数ザー・一漏壷三二量壁論叢瞭[苺体墾1霊誕量
(・)(万)堕蕎数lV…cc/d11百朧鍍1V・・cc/d1醐卸艘・・1・cc/d1岡飽継
25N30
30−v35 16fv30 36e 270 315 61 66 56 13. 25 14. 28 12. 40 99. 40 99. 03 101. 31 8. 05 10. 00 7. 50平均25・一35[・・5
60. 39 69. 35 62. 27 4. 64 3. 86 3. 25 34. 81 26. 77 26. 55t一 i3JS−t 1 T”56tJsllJ.gi 一 P一 ’一’s.s2M− P−T4.oo / ”一g.g2 1 2g.3s
氏血色素指数を見ると平均82%で,津崎の正常値 77・6%に比してまた大である。高橋(1930)5)の正 常値77.0%,分娩前1週間値76. 0%に比しても大 である。次に血液100ccに対する02含有:量は平均 17・6ccであった。この値は大塚(1934)4)の18。56 Vo1・%に比して小である。 Tiegerstedt(1917)5) の0。C,760mmHg:における17.4∼18.9VoL%に比 べると範囲の下の限界に近い。また門:倉(1934)6) の15.3∼18.9Vo1.%に比してその中問値にある。 窒息開始後3分では急激に減少して平均2.01VoL %で,これは窒息前に比べて11.43%に当る。即ち 窒息開始後1分で血液中0。は約90%が失われる。 窒息死後の値は,13.8Vol。%で,これは窒息前の 7・85%に相当する。したがって窒息時の.血液:中の
02は窒息後3分までの間に甘んどが失われ,そ
の後はあまり減少が著しくなく死後においてもなおすべての02が消費しっくされるものではなく
7%前後が残存することを知る。この事に関しては大塚の詳細な研究があり,氏はこの02の減少
の仕方は2分子反応としてキレイに説明きれると 述べている。, 胎児について:胎児は一一taから10匹前後生れ, 胎児体重は25∼309の範囲にあり,各実験に当り 母体にわけるように連続採血を行うことが不可能 なため,体重の近接せるものを一系列とした。胎 児の赤血球数,血色素量は成熟度によって異るも のであるが平均315万及び61%であった。これら の数値は高橋の検べた成績と照合すると両者共に 胎生28日前後であり,母体の赤血球数の施弱であ り,ザーリー氏血色素指数は%弱である。さて血液02含有量を見ると窒息前のものでは
13.3Vol.%である。その百分飽和度は平均99.9%を示した。即ち赤血球数血色素指数に比して02
含有量は極めて高いことが知られる。この数値に 関しては一血色素以外血漿においても02を含有す るということを参考とすれば飽和状態に近いとい う数値は胎児においては考え得る所である。 母体窒息開始後10分に開腹論ずつて採血せる胎 児血02含有量は8.52Vol.%でその減少は36%前 後である。百分飽和度で64. 0%を示した。母体窒 息開始後20分では」血液02含有量は3。92Vo1・%で 窒息前の29.5%を示し減少率は70%前後である。 Zuntz7)の測定によれば正常時の静脈血は40%前後の02を含有するという。したがって語例の百
分飽和度29.4%はかなり静脈血性である。また志 村は緩性窒息死の左心一血02含有量は6∼28%を認 めている。グラフは,母体及び胎児の窒息時血液02含有量の変化を示したものである。即ち母体
においては極めて急激なる減少を示すにかかわら ず胎児の減少の仕方は殆んど直線的である。考 按
先学の業績を播いて見ると窒息時血液02含有
:量を測定したものはかなり沢山ある。 Reuter(1931)8)は窒息紅藻にわいて左右心室血 の02含有量を測定して正常量の%∼Ys}c減少し ていることを認めている。大塚もまた,正常ウサ 一 24,4 一19 ギ動脈血中02:量は18。56VoL%でこれを窒息せ しめると時間と共に減少し,その減少の仕方は2分 子反応としてキレイに説明されると述べている。 Stroganow(1938)9)は窒息死体の血液中には全く 02は存在しないと述べている.。しかしSchmid− tmann(1907)10)やReuter lこよればHbO,は僅か に残存し窒息死においては他の死因に比して残存 量が極めて少いのだと述べている。志村(1924)11) によれば急性窒息死においては動脈血のみならず 静脈血中0、量も減少し,しかも両者の左は極め て接近し多くは2∼3%を示すのみで,時には全く 差のなくなることもあるという。ところが緩性窒 息では両者の差が10%以上に達しているという。 堀(1931)12)によればかかる緩性窒息においては CO,増加による迷走神経中枢の刺戟,ついで同中
枢の疲労の結果血液中の02が完全に消費されな
いうちに心臓機能は停止すると述べている。なお 浅田(1949)15)は動脈一DiL中02量減少が10%に及べ ば失神を免れないと云っている。その他窒息時に おける血液ガスの分析に関する文献は多いが窒農、死の死因は血液中CO,増加というよりは02減少
ということにおいて先学の意見は一致している。 さて窒息母体内胎児に関する文献を見出すことは 極めて困難であったが河合(1928)14)は人体剖検 例並びにウサギ実験においてその解剖所見より胎 児もまた母体同様急性窒息死せるものであると述 べている。なお河合は28分絞頸を含めて急性窒良、 とせるものである。しかし本実験の結果を再び通 覧して考察しうるところは次のようである。胎児 の赤血球数,血色素指数共に母体のそれらに比し て低値を示しているにもかかわらず02百分飽和 度は母体の98.21%に比べて,99.91%を示したこ とは,胎児Hbの02・rVtt合能がより高いのか,若しく はHb以外の一血1漿成分もまた02結合能を有してい るものであろうか。また胎児の血液循環において は紙入と異る経路を有し即ち卵円孔読売,ボタロ ー一gl管開通などであるがこのため心血は動脈血, 静脈皿の混合により心臓血は純動脈血性よりもや や静脈血性を帯びると老えられるにも拘らず本実 験の結果は極めて高い02飽和度を示した。した がって胎児静脈一nttは成熟ウサギのそれよりは02飽和度が高いのではなかろうか。即ち胎児の動
静脈血0詔含有量の差は二二せるもの二大ではな いのではなかろうか。つまり胎児のガス代謝は成 熟せるものに比べて低調なのではなかろうか。な お本疑問に対するもう一つの観察所見は,母体よ りの02供給の杜絶にもかかわらず胎児」血液中の 02減少が直線的でありしかも緩慢であるという ことである。母体内胎児の生活代謝は成人と大差 なしと唱える学者の漸次多くあるといわれるがP− flUger15)らの唱えるように胎児の生活代謝は成人 の如く強烈ではなく,低調であると考えられる。し たがって胎児の胎内における生存の意義は独立生 活個体とは趣を異にするものの如く考えられる。 次に母体窒息開始後胎児の死亡までの旧聞は正 確を期し得なかったが大略30分以内であった。 以上の所見より母体窒息時の胎児の死因に関し ては,1)亜急性窒息死,2)衰弱死,3) 自家 中毒死などが老えられる。 母体窒息時の胎児一血液02含有量の変化は母体 のそれに比べ緩慢にして直線的に減少し,1母体窒 息開始後20分では29.4%の飽和度を示して志村の緩性(1時間乃至4時問)窒息死所見と近似的所
見である。もともと胎児の生存は全く依存的で, 外部環境例えば環境温度においても母体々温の低 下は胎児の生活に大きな影響をもたらすものでは ないだろうか。また羊水成分においても母体循環 を借りて胎盤を通して常に恒常に保たれ,この恒 常性の欠如は胎児の生活に極めて大なる影響を及 ぼすことは知られている。勿論母体循環停止によ り栄養物質の杜絶することは胎児にとって重大で ある。その他老廃物質,不全酸化物の蓄積などに より衰弱,自家中毒などを惹起することは想像に 難くないところである。しかし以上のいずれも死 因となすには根拠が薄弱である。なぜならば正常 時における胎児のガス代謝を始め,その他の物質 代謝に関する生理が未だ明確を期し得ないからで ある。例えば謄帯動脈及び静脈血中のこれらの物 質の収支に関しての研究は困難を感ずるものであ る。また母体窒息開始後,胎児が死亡するまでの 時聞の明確なる測定及び窒息時の羊水成分の分析 など不備なる点,研究すべき点を多く残している。 したがって今回は母体窒息時の胎児血液02含有 量を測定した結果から,やや緩慢なる02欠乏症を 惹起しなおその上に種々なる要因のもとに胎児は 死亡するものであることを推論するにとどめる。 未明なる点,解明すべき疑問の諸々については 今後なお研究を続行するつもりであるQ 一一 24”5 一20 稿を終るに際して終始御懇篤なる御指導と御校閲を 賜った吉成京子教授並びに御助言を賜った生化学松村 義寛教授,松村剛講師に心から謝意を捧げます。 主要.丈献. 1)津崎孝道:実験用動物解剖学兎編(1954) 2)金森修二:名医誌,51,4,『753(1940) 3)高橋次郎:児科雑誌,356,119(1930) 4)大塚 阜:東京医会誌,53,3,326(1939)
5) Tiegerstedt, R.:Lehrbuch d. Physiol. d. Menscheris. 508 (!917)
6)門倉桃太郎:東京医会誌,53,1,14,29(1939) 7)Zilntz(11)より引用)
8) Reuter, Fr.:Lehrbuch d. ger. Med. 325
9) Stroganow, N.:PflUger’s Archiv. XI[, 1876
(1838)
10) Schmidtmann: M. Handb. d. gerichtl. Med.
880 (1930) 11)志村太賀志:北海道医学誌,7,4,463(1929) 12)堀 泊郎:北海道医学誌,14,263,747(1936) 13)浅田 一:菅つりと窒息死(1949) 14)河合信蕊:社会医学雑誌,No.495,306(1928) 15)Pf職ger:塚原僻勢松,新産科学,71(1943) より引用。 一一一 246 一