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女性不妊症の診断と治療に於ける最近の進歩

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〔綜 論〕

(吾塾綿甲繍聖霊

女性不妊症の診断ご治療に於ける最近の進歩

東京女子医科大学産婦寿科学教室 教 授 柚 :Lノ

木 祥 量

シH:〉 ち』ノキ (受付昭和31年12J]121−i) 郎 ltウ 結婚後,凡そ何年位妊娠を希望するに拘わらず 妊娠しない状態を不妊症とするかに就いては,未 だ諸学者の間に充分意見の一一ikを見ないのであり ますが,大体に於いて結婚後3年間妊娠しないも のを原発不妊とする意見が多いのであります。そ レてこ⑱原発不妊症と認められるものは,現今で もなお大凡全夫婦の8∼12%,平均IQ%に二二す ると考えられています。近来は後に述べますよう に不妊症の診断及び治療法に就いて著しい進歩を 見ているに拘わらず,不妊痒の頻度は.なお著しL) 低下を見ない状態であります。 不妊の正確な原因を判定する助けとするために 先ず正常の妊娠が成立するためには如何なる条件 が必要であるか,そしてそれ等の条件が充されて いるか,或いはその何れに欠陥があるかを知らね ばなりません。正常の妊娠が成立する為には次の ような条件が必要であります。1.健全な卵子が 排卵されてそれが卵管内に進入すること。2. 健 全な多数の精子が子宮腔より:更に卵管内まで進入 すること。3.そこで即ち大凡卵管内に於いて受 精が可能であること。4.更に受精卵が子宮腔内 に着床して発育し得ること。 以上の条件が一つでも満されない時は正常の妊 娠は起らない,又この条件の満されない部分に不 妊の原因が存するわけであります。実験的研究の 結果,卵巣から排卵された卵子の生存期間は僅か に数時間乃至24時間以内と’されています。これに 反して精子の運動傑及猷捜精能力な女偉々器内に 於いては少なぐとも3日間或はなおそれ以上の 長期間保つことができるものと老えられていま す。従って排卵された卵子はそれが卵管采によっ て卵管内に収容されうや否や直ちに受罰しなけれ ば昼らないのであ.bます。雌に精モ峠排卵前に既 に卵管内に進木して卵を待期している必票があり ます。健全な精子は1分間『

ノ約2∼3mmの速度

で前進運動をする能力がφりますから外子宮口か .ら.卵管釆までを二線距離で計算します匂それに 要する時間は1∼2時間に過ぎないQであります 炉,実際にはこの道二二干にとって難行路であり ますので,性交後数時間乃至10数時間を要し,遅く とも凡そ24時聞後には精子は卵管の腹腔口に達す ることができるのであります。 不妊の卵管因子 然し膣内に射出された精子は先ず子宮頸管を通 過して子宮腔に上昇せねばなりません。子宮頸管 内には常時粘液が分泌されて所謂粘液栓を形成し ていますから精子は先ずこの粘液栓を突破するこ とが必要です。然るにこの頸管粘液は性ホルモン の支配を受けて周期的に変化し,或る一定時間即 ち排卵期の前後のみには精子の通過を許します が,其の他の時期には精子の貫通を許さないもの で南ります。又性ホルモン作用の異常頸管の炎 症,その他の病変によって頸管粘液は排卵期に於 ても屡々精子の通過に不適合の性質を持つように 塗ります。従って精子の上昇がその母初op関門に 於て妨害を受けることになり,不妊症の原因とし て重大な関係をもつのでありまして,最近所謂頸 管因子と呼ばれて,不妊症の原因として重大視さ

ShyosiburO Y UNOKI (Department of Gynecology & Obstetrics) : Recent adVances in diagnosis and

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れるようになったのであります。 排卵された卵子は放線状冠等の多くの顯粒膜細 胞によって囲まれ,これらの細胞は相互にピアル ロン酸を含む物質によって膠着されています。故 に精子はこれ等の雨粒膜細胞の結含を溶解して細 胞を遊離し,直接卵細胞に到着する道を開かねば なりません。これにはピアルnニダーゼを必要と し,これは精子に含有されることが証明されてい ます。多数の精子が集ってそのピアルロニダーゼ によって進路を開き,その中の唯一個の糖子のみ が卵子に接着してその中に進入することができる のであります。従って受精には一定の多数の精子 の存在を必要とし,精子数の少ない精液では授精 能力を発揮することがでぎないのであります。な お私の教室では頸管粘液中にもピアルロン酸様物 質が存在することを証明していますので,精子の ピアルロニダーゼは頸管粘液を貫通する上にも必 .要なものではないかと考えられます。 現今では不妊の原因が男性,即ち主として精液 や精子に在るものが案外に多く,不妊症の原因の 約30∼50%近くにも達するものと考えられ,従っ て男性不妊は甚だ重要なものと認められているの で,不妊症の問題には男性側の原因を軽視するこ とは出来ないのでありますが,今日はこの問題に 触れないで,唯女性に原因のある場合のみに就い て述べることに致します。 不妊症の女性側原因のみに就いてもその原因は 全身的或は局所的に亘り甚だ複雑でありまして, これを一々挙げて述べることは治国が許しません から,これ等のことは省略して原因統計の表を御 目にかけるに止め,唯重要な二,三のことに就い て述べることに致します。 無能卯性月経 排卵の有無に関しては種々の:方法によって臨床 的にこれを知ることが可能になったのみならず, その排卵の日をも大凡推定することが出来るよう になったのであります。このことは不妊原因の診 断のみならず治療の上にも重要な進歩でありま す。従来は月経には排卵を伴うものと信じられて いたのでありますが,近来排卵を伴わない月経の 存在することが明らかとなり,これは臨床的にも 容易に診断することができるのであります。然し その原因はなお充分明ちかではありません。月経 があっても排卵のないものは不妊であることは言 うまでもありませんが,たとえ正常に排卵されて もその卵子が卵管を通過して子宮に入ることがで きなければ矢張り正常の妊娠は出来ません。即ち 卵管に疎通性がなければ妊娠致しません。「 ・ 卯管疎通障害 卵管の閉鎖を起す最:も大きな原因は淋菌及び結 核等による卵管の炎症であります。従来は女性不 妊の原因としてこれ等の炎症による卵管疎通障害 が最も重大なものでありましたが,近来は化学療 法の進歩によって淋疾等は著しく減少した結果, 卵管疎通性障害の頻度は著しく減少したのであり ますが,性器結核に関しては減少がみられないの みならず,その診断法の進歩の結果却ってその頻 度は大となり,従って現今では性器結核が性器炎 症中の重要部分を占めるようになりましたが,一 方叉近年多く行われる人工妊娠中絶の後遺症とし て軽度の卵管炎を発生し,それがために子宮外妊 娠の原因となり,甚しい揚合には不妊の原因とな ることも決して稀ではなく,又昔から多いと考え られている子宮発育不全症及び卵巣の機能不全が 女性不妊の原因として重要な地位を占め,他方で は男性不妊の頻度が大きく注目されて来た事が現 在の大勢であるということができます。 不妊症原因の診断 不妊症の治療を確実にするためには先ずその不 妊の原因を明らかにする必要があります。従来は 不妊の原因として卵管炎とか,子宮発育不全症又 は卵巣の機能不全等と,唯漠然と考えられて来た のでありますが,最近に於いては卵管の如何なる 種類の障害か,或は如何なるホルモンの障害か等 と,その原因に点て詳細な検査が行われるように なり,更に男性不妊の存否,頸管粘液の精子に対 する適合性等種々の診断が行われるようになりま した。殊に女性不妊症の診断に於いては卵巣機能 と卵管の疎通状態に関する検索が最:も必要であり ます。 排卵の;有無及び排卵日の測定 先ず基礎体温の測定によって体温曲線を作製致 しますと,正常月経周期に於いては周期の凡そ前 半は低温期であり後半は高温期であります。その 境界は華氏98度を基準とします。即ち高低二相性 の体温曲線を現わします。この低温期から高温期 に移行する前に最も体温の陥落する日が屡々認め られます。この体温陥落日或は上昇期前の体温の

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最:も低い日を排卵日と唱えるものが多いのであり ますが,必ずしも常にこれに一致すると決定する ことは出来ません。これに続く上昇期の間にも排 卵の行われることがあります。然しこれによって 大体の排卵日を推定することが出来ます。若し排 卵が行われない時は,即ち無排卵性周期の時は体 温曲線は低温期のみが持続して単相性でありま す。低温期は卵胞ホルモン即ちエストVゲン期で あり,高温は黄体ホルモン即ちプロゲスチンの影 響によるのであります。従って月経周期の長短如 何に拘わらず高温期は約14日間であります。然し 卵巣機能不全の不妊婦人に於いてはこの基礎体温 曲線に種々の変化が現われます。 Papanicolaou, Murray其の他の研究によっ て,膣粘膜の周期性変化が明らかにされ,膣内容 液,所謂Vaginal Smearsによっても卵巣周期 を知ることができ,更に子宮体内膜の組織学的検 査,所謂EndOmetri・al biopsy lこよって確実に卵 巣周期を診断出来,即ち図に見られるように子宮 内膜は月経周期日数の経過と共に肥厚し,腺の増 殖肥大を来し,更に排卵後には黄体ホルモンの影 響によって腺の分泌像を示すのでありまして,こ れ等の組織像によって排卵の有無及び排卵後に於 てはその組織像が排卵後何日目の像であるかとい うことまで,可なりの正確さを以って判定できる のであります。これを分泌期内膜の日附け診断と 呼んで居ります。其の他尿中に排泄せられるフ。レ グナンジオールの測定,.血中のプロゲステロン証 明等化学的叉は生物化学的に正確に排卵を判定す ることができるのであります。婦入では,成熟期 間を通じて子宮体内膜が前述のように常に一定の 周期的変化を営んでいるのでありますが,子宮頸 管内膜の周期性変化は組織学的に明らかではあり ません。然しその機能即ち頸管分泌の周期性変化 は近来明瞭となったのであります。 頸管粘液の周期性変化 健康な成熟婦入に於ては,頸管分泌は排卵期の 前後に著しくその量を増加致します。その分泌液 は無色透明で粘稠度少なく水飴様アルカリ性で, 精子の通過を妨害しない性状でありますが、周期 の他の期間即ち排卵期前後以外の時期には量は少 なく不透明、粘稠で細胞成分が多いのでありま す6これ等の諸性状の周期的変化は図の如くであ ります。 頸管粘液塗抹乾燥標本のシダ葉状結晶形成現象 頸管粘液を操直してこれを載物ガラス上に薄く 塗布し自然に乾燥きせた標本を顕微鏡下に見る と,月経周期の時期によって種々の模様が見られ る。定型的のものは恰もシダの葉の如き非常に美 しい結晶が見られ,その他の葺合には樹枝状,苔 状等非定型的の結晶,及び帰る時には全くこのよ うな結晶型の模様は見られません。定型的のシダ 葉状の像は排卵期を中心とする数日のみに見られ るので,其の時期を前後に遠ぎかるに従って非定 型的となり,月経の前後の時期には全く結晶は認 められないで唯白血球のみが見られ,即ち結晶形 成は陰性となります。正常月経周期の婦入では月 経後間もなく,即ち2∼5日で非定型結晶が現わ れ,其の後即ち卵胞成熟期には次第に薯明に且つ 定型的なシダ葉状結晶となり,排卵前期には最も 強く現われ,即ち排卵前4∼5日には全体に亘っ て定型的の結晶を認めるようになりますが,排卵 後1∼2日で再び定型的の結晶は全く非定型的の もののみとなり,次の月経前6∼9日には結晶は 陰性,即ち全く結晶を認めないで唯白1血球のみを 認めるようになります。伺シダ葉状結晶形成の最: も著明な時期,即ち排卵期叉はその1∼2日前に は所謂結晶核の現われることがあります。然しこ れは毎常必ず現われると決ったものではありませ ん。結晶核とは1952年Grttnbergerが発見した もので,シダ葉の中心部に発見される十字架状, 正方形叉は菱形等の結晶をいうのであります。 頸管粘液の化学的成瀬の肩期性変化 このような結晶形成現象の本態は主として粘液 中に含まれる食塩其の他ムチン,蛋白等の濃度に よるものでありますが,頸管粘液の化学的性状に 関する研究は未だ甚だ少なく,従って街明らかで ない部分が多く,当教室に於きましては,頸管粘 液の化学成分の周期性変化に就いて詳細な研究を 行い,その成績を発表して来たのであります。粘 液の大部分即ち約95%前後は水分でありますが, 排卵期前後の粘液増量期に於きましては,97∼98 %に増加i致します。最:も:重要なものは,クロー ル,ナトリウム即ち食塩含有量でありますが,石 田が行ったクロ 一一ル濃度測定の成績によると図の ように排卵期には平均909mg%で最高値を示し, 他の成分の増減とは反対にクロ・一ル量は却って排 卵期に増量し,卵胞期、黄体期及び妊娠時には減

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:旧し,叉クロール蛋白の比は排卵期に於いて極め て著明な上昇を示すのであります。ナトリウムは クロ 一一ルと同様に排卵期に薯しく増加し,他の時 期には減少し,カリウ4はナトリウムに比して極 めて微量でありますが,.反対に排卵期には却って 減少し,他の時期には増量します。又マグネシウ ムも.同様の変化をすることが認められます。 頸管粘液が粘稠なのは,主としてムチンの含ま れていることが多い故でありますが,このムチン 含有量を化学的に測定致しますと,これの濃度も 亦大凡排卵期に急激に著しく減少し,その前後の 時期には濃度が高く,蛋白濃度も同様の周期性変 化を示します。千葉の実験によると,粘液中の遊 離糖,グリコーゲン,乳酸の含有濃度はいつれも 並行して周期性変動を示し,矢張り排卵期に最も 低くその他の時期には高い値を示します。以上の 諸成分の周期性変動を健康な同一の婦人の頸管粘 液に就いて検査した成績を図に示すとこのようで あります。 其の他,粘液中に含有されるアミノ酸を,ペー パークロマトグラフ法に依って,測定致します と,正常頸管粘液中にグリシン,・ロイシン,チロ シン,メチオニン,グルタミン,タウリン,アル ギニン等,15種類のアミノ酸の存在を証明しまし たが,これらのアミノ酸の濃度及び検出されるア ミノ酸の種類の数は,共に排卵期には著明に減少 して,其の他の時期には多い事を認めました。 又,フォスファターゼ,アスコルビン酸及びヒァ ルロン酸等に就いても,実験の結果,前に述べた 諸成分と全く同様の変化,即ち,これ等の濃度は 排卵期に最:も低く,其の他の時期及び殊に妊娠時 には高い事を認めます。’ 以上述べました様に,ムチン,蛋白,糖類,グ リコーゲン,乳酸,アミノ酸,アスコルビン酸 等,クn一一ル及びナトリウム以外の諸成分はすべ て排卵期に其の濃度が最も低下するに拘わらず, クロール及びナトリウムのみは却って排卵期にそ の濃度を増加するのであります。排卵期には頸管 の分泌:量が著しく増加して水分を増加するため に,其の中に含まれている諸成分は稀釈されて濃 度が著しく低くなるに掬わらず,食塩の濃度のみ は稀釈されないで却って上昇する事は,頸管粘液 の精子受容性及び精子の貫通を許容する条件とし て甚だ必要なものと考えられます。前に述べまし た頸管粘液乾燥標本のシダ葉状結晶も亦,主とし て,この食塩濃度が関係するものと認められま す。 頸管粘液性状の変化と性ホルモンとの関係 以上述べました様な変化はすべて卵巣ホルモン の支配を受けて変化するものでありまして,即ち 卵胞ホルモンの作用によって促進きれ排卵期に最 高潮に達し,排卵後期から,即ち黄体ホルモンの 作用によって抑制されるものであることは明らか であります。例えばエストロゲン不足の婦人に大 量の手スト戸ゲンを与えるときは頸管粘液の量は 薯しく増加し,叉シダ葉状結晶も著明に形成され るようになるのが認められます。又これ等すべて の頸管粘液性状の変化は子宮発育不全や卵巣機能 不全の揚合には,いずれもその程度が低く正常の 排卵期の状態に達し難いのであります。無月経及 び無排卵性月経等卵巣機能不全の患者に於いて は,一般にクロール量の排卵期増加を認めず,、蛋 白,ムチン,遊離糖,グリコーゲン,乳酸その他 種々の成分の濃度は低い値を持続し,叉正常の排 卵期に見られるような急激な谷を示さないのであ ります。 受精に対する頸管粘液の恩義(頸管粘液の精子 受容性) 頸管粘液は子宮頸管を充填している故に精子は これを貫通して子宮腔に上昇せねばなりません。 故に粘液の性状如何は受胎の成否に関係する重大 な意義を持つものであります。頸管粘液が精子の 進入通過に好適であるか:否かを検査する方法とし て,Huhner−test及びMiller−1(urzrok−test等が 行われます。Huhner−teg.tは性交後検査法と呼ば れ,性交後間もない時期に婦人の頸管粘液の一一滴 を採取して,その中に存する精子の状態を検査す る方法でありますが,Miller−Kurzrok・testはス ライドガラスの上に頸管粘液の一滴と被検精液の 一滴とを相接して並べて置き,その上を一枚のカ バt一一ガラスで被い,両液の接触界面を顕微鏡で見 て,粘液内えの精子の進入状況を観察する:方法で ありまして,正常の二合には精子がこの境界面に 頭部を向けて集り,随所に於いて精子群が三角形 の柱を作って粘液内に進入を始めます。然し例え ば,頸管の炎症等で頸管粘液の不良の揚合には, たとえ正常の精子であっても粘液内に進入するこ とは出来ないのであります。この様な方法で検査

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致しますと,精子は何時でも頸管粘液内に侵入す ることができるのではなくて,甚だ限られた時期 に於いてのみ可能であり,其の他の時期には殆ん ど或は全く粘液を通過することが出来ないのであ ります。即ち頸管粘液の完全な精子受容性は唯僅 かに凡そ排卵期の頃の4∼5日間に存在するに過 ぎないのであります。排卵期前後の時期には頸管 粘液は急激にその量を増し透明となり粘稠性を減 じますが,この時期にのみ精子の受容性は強陽性 となるのでありまして,シダ葉状結晶形成も亦こ の時期に陽性となって定型的の結晶像や結晶核が 現われるのであります。即ちこれ等の頸管粘液の 変化と精子受容性は全く一致した結果となりま す。 石田がMiller−Kurzrok−teεtで頸管粘液の精子 受容性を検べ同時にその粘液のクPt ・一ル,蛋白, ムチン等の濃度を測定したのでありますが,精子 受容性の最高の時期は排卵期前後の約4日間であ って,シダ葉状結晶形成陰性の時期は精子の受容 性も亦陰性であり,その定型的結晶像出現に並行 して陽性となるのが認められました。クn 一一ル濃 度との関係は正常婦人の排卵期ではクPt・一ル濃度 の平均値は900mg%前後,即ちSGO∼1000mg%の 濃度に於て精子・受容性が強陽性であるものの率が 高く,それを上下するに従って陰性率が高くなる のでありまして,これは同濃度の食塩水を用いた 実験でも,唾液に食塩を加えて行った実験でも同 様の成績を得たのであります。不妊症や卵巣機能 不全の頸管粘液で定型的のシダ葉状結晶を形成す るに拘わらず,精子受容性を欠くものがあります が,このような揚合に頸管粘液のクロール含有量 が平均600mg%以下であって,これに食塩を加え て約900mg%程度の濃度にすると精子受容性が強 陽性になったのであります。蛋白及びムチン,糖 其の他の諸成分に就いてはクローール程の重要な意 義はありませんが,何れも凡そ排卵期における濃 度が精子の活動に対して最も好適でありまして, それ以外の濃度は或る程度精子の運動を障害する ものであります。 頸管粘液を精子が通過し得るか否かは妊娠の成 立にとって決定的な意義を有することでありま す。頸管粘液の周期性変化は卵巣ホルモン即ちエ ストロゲン及びプロゲステVンの支配を受け,こ れ等のホルモンの分泌不全或は平衡障害及び炎症 等によって頸管粘液に異常を生じると精子の貫通 性が障害されます。然しこれ等の異常に対しては エストロゲン等のホルモン及び抗生物質等の投与 は粘液の性状改善の上に有効であります。 卵管疎通性検査法 卵管が疎通するか否かは精子の上昇及び受精卵 の運搬の可否に直接関係し,従って女性不妊症の 直接原因として甚だ重要であります。卵管の疎通 性検査にはレントゲン線による子宮卵管造影法, 卵管通気法,卵管通水法及び卵管色素通水法,カ ルドスコピ一等が行われます6これ等の方法には 夫々一長一短がありますが,今日は霜曇の関係上 省略致します。これ等の中で最も正確で卵管の詳 細の所見を知ることが出来るものは,レントゲン による子宮卵管造影法でありますが,これには種 々の造影剤を子宮から卵管内に一定の圧力で注入 して直ちにレントゲンで撮:影致します。この時正 常の卵管では図の如く全卵管の像が得られ,卵管 峡部は糸の如く細く迂曲し,峡部と膨大部の像が 明瞭に区別せられ,卵管疎通の証拠として卵管腹 腔口から骨盤腔内に流出したブドー房状の形を呈 する所謂油剤の遊離像が現われます。更に24時間 後に撮影しますと一これを終末撮影と呼ぶので ありますが一一腹腔内に流出した造影剤が腹膜や 腸管等の表面に拡散して雲状の散乱像を呈するの であります。 子宮発育不全の診断 子宮発育不全の義倉には子宮の形が全体として 小さく,典型的なものに於ては,子宮頸管像が子 宮体の像に比して著明に拡大延長し,即ち頸管像 が子宮体に比較して著しく大であります。子宮体 は幅が狭く小さく,即ち狭小な二等辺三角形を呈 しますが,同時に強度子宮前屈或は後屈等の位置 異常を伴うことが多いので,この時はこれ等に相 当する影像の変化が見られます。叉同時に卵管の 発育不全を伴うことも多く,即ち卵管像演著しく 細く短く屈曲が異常に強い等の所見が認められま す。卵管が子宮端に於いて閉鎖している揚合には その卵管像は全然現われません。卵管に癒着のあ るときはその程度に応じて卵管像の屈折屈曲が薯 しく,その走.向も亦異常であります。卵管炎に於 いては,一般に卵管像の走向が異常に屈折し峡部 と膨大部との区別が明瞭でなも或は一様に太い 棒状叉は不規則な棍回状等の像を呈することが多

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いのであります。卵管の腹腔端で閉鎖しているも の及び卵管面心を形成しているものでは,卵管像 は棍扇形,瓢箪形,ソーセt一一ジ吾等の嚢状像を呈 し,これ等の像は終末撮影に於いても依然として 変化しないで残存します。 女子性器結骸の診断 最初に述べましたように,女子の性器結核は不 妊症原因の重大な部分を占めているのでありまし て,叉子宮発育不全症にも性器結核を伴うものが 少なくないのでありますが,従来はその診断は組 織学的の検査によるのみでその発見率は低く,診 断が困難でありましたが,近来は月経志士は子宮 腔内洗旧註を培養することによって,或は螢光顕 微鏡検査によって結核菌を証明することが比較的 容易となり,又臨床的にも子宮卵管造影法の所見 によって結核を診断することが出来るようになっ たのであります。これは篠田,貴家等の研究によ って一層の進歩を見たもので,即ち卵管像は主と して一般の卵管炎の像叉は卵管溜膿腫の像を呈す るのでありますが,卵管レリーフ像,菊花蕾像, 錆針金像,ピンヘッド像等の像が卵管結核の特異 像と認められ,子宮腔像では内応壁不整像,子宮 萎縮像,リンパ管像等が,叉頸管像では内子宮口 拡大像及び頸管が拡大してその内腔が不整で羽毛 状叉は木の葉状を呈し,頸管腺の著しく増殖した ことを示す像等が性器結核の特異像と認められま す。従ってこれ等のレントゲン像を参老として臨 床的に性器結核を疑い,更にその分泌物或は月経 血等から結核菌を証明して診断を決定することが 出来るのであります。 女性不妊の治療 不妊症の最も効果のある治療法は先ず正確な診 断殊にその原因を明らかにし,計画を立て処置を 行い,長い期間に亘ってたゆまず治療することで あります。殊に不妊症の治療は出来るだけ一早期か ら,即ちなるべく年令の若い時代に行うことが必 要であって130才以後,殊に35才以後に出てはも 早治療が奏効しないことが多いのであります。原 因の明らかになったものに対してはその原因の排 除に努めることは云うまでもありませんが,今日 伺原因の明らかでないものも少なからず存在しま すし,又今日の治療法ではどうしても原因排除の 出来ないもの,或はたとえ充分に治療を行うとし てもその効果に余り期待出来ないものも少なくあ りません。現在行われている不妊の治療の圭なも のはホルモン療法,手術療法等であります。其の 外一般的の栄養,新陳代謝,内科的疾患,玉入科 的疾患に対する治療が必要であることは申すまで もありません。 不妊症のホルモン療法 ホルモン療法としては脳下腿体前葉,又は絨毛 性ゴナドトロ.ピン,卵巣ホルモン,即ちエストロ ゲン及びプロゲステロン:及び男性ホルモン,其の 他甲状腺剤,副腎皮質ホルモン等が用いられます が,上之等のホルモン製剤は近来寵しく進歩し, 結晶として純粋に合成せられ,又ペレットやデポ ー等の形として有効な製剤が多く販売されていま す。叉ホルモンに対する学理も非常に進歩したの でありますが,然し婦人の無月経や無排卵月経に 対して排卵を的確に誘発することは現在では尚不 可能であり,叉或程度以上に高度の子宮発育不全 症等に対しては現在では殆んど無効であります。 卵胞ホルモン不足のものに対してはエストロゲン を,黄体ホルモン不足に対してはプロゲステロン 等を投与することは勿論合理的でありまして,即 ち主として月経周期の前半期にはエストロゲン を,後半期にはプロゲステPンを,叉これにゴナ ドトロピン,FSH:叉はLHを夫々併用すること, 即ち所謂混合ホルモン療法が行われ,これ等のホ ルモンの効果は基礎体温,膣内容細胞所見,頸管 粘液の変化等をその指針として決定するのであり ますが,無月経の婦人に対してもエストPtゲンを 投与した立大:量のプロゲステロンを与えて後投与 を中止すれば月経様の出血が起ります。この様な 出thiはエストロゲンの大量投一与のみでも起すこと が出来るのであります。然しこれ等の天心は所謂 ホルモンの消退出一己でありまして,排卵を誘発し 得たのではなくてホルモンの消退による子宮粘膜 の崩壊によるものが多く,即ち多くは真の月経で はなくて無排卵性月経に類似するものに過ぎない ものであります。然し卵巣機能不全等のホルモン 障害に基く不妊症に対しましては,熱心に且つ充 分適合したホルモン療法を行うことが全く合理的 でありまして,例えば子宮発育不全症に対して私 の行って居ります治療標準を示せば図のようであ ります。このような主面にはその治療効果を挙げ 得る揚油も決して少なくないのでありますが今日 は時間の関係上省略致します。性器結核に対して

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はストマイ,INAH, PAS等を全身的及び局所的 に用いる化学療法が行われ,その治療効果が認め られていますが,妊娠に対する効果は極めて低く 即ち今日ではこのような治療によっても妊娠に対 する希望は持てないのであります。 女性不妊症の手術療法 卵管が明らかに閉鎖しているものに対しては手 術的にこれを開通させる以外には殆んど確実な治 療法がないのであります。しかもその手術療法に 於いてもその効果は不確実で,現今その成績は芳 しくなく、その効果になお多くを期待できない現 状であります。然しその手術式は次第に改良せら れ進歩を見ているのでありますが,卵管の機能は 甚だ微妙でありますから,単に卵管の形を整えた のみでその機能の回復することを期待することは 出来ず,又一度犯された卵管粘膜の病的状態は再 びこれを完全に回復することが甚だ盗難であるこ と等が重大な原因であります。従ってたとえ卵管 の疎通性が回復しましても,粘膜の機能障害が残 存する限り矢張り不妊は治癒せず,叉たとえ受精 してもその受精卵の輸送が障害されて卵管妊娠を 起す等の危険が多いのであります。卵管開通手術 として最も簡単なものは所謂卵管剥離術及び卵管 開画意であります。これ等は卵管が腹腔灯のみで 閉鎖している場合に行われるのでありまして,卵 管采が大網,腸管,腹膜等に癒着しているために卵 管が閉鎖しているだけの場合には卵管剥離術を, 叉卵管釆や卵管の腹腔口のみで卵管が閉鎖してい る際には,その腹腔端を切開し,その部分を反転 して卵管外膜に縫合し,再び癒着閉鎖することを 防ぐ方法でありまして,これ等は比較的手術の効 果が良好であります。鈴木氏はこの裏合卵管膨大 部に窓を作る方法を案出して成績が好いと報告し ています。卵管がその根本即ち子宮端で閉鎖して いる際には,卵管をその閉塞部の外側で切断し, これを子宮内に移植する,所謂卵管子宮内移植法 が行われます。これはStrassmann法として広く 知られたのでありますが,其の後多くの変法が考 案されました。然し要は切断した疎通部の卵管断 端を切割して2弁を作り,子宮の卵管角部で子宮 壁を穿孔してトンネルを作り,この中に卵管端を 引き入れて糸で固定するのであります。その種々 の術式は図を御覧下されば判ることと思います。’ 以上の手術々式で種:々の成功例が発表されていま すが,一般的にみてその成績は不良であってその 効果を期待することが出来ないのであります。こ れ等の手術の不成功の原因は多くは術後炎:症が再 燃し,或は新しい手術創に於いて再び癒着を生じ て卵管が再閉鎖することにあります故に,この炎 症の再燃を防ぎ且つ手術後の再癒着を防止するこ とが必要であります。炎症を防ぐためには充分の 抗生物質が用いられますが,再癒着を防ぐために は最近ポワエチレン管等をこれ等の成形した卵管 に挿心することが行われ,叉ポワエチレンの薄膜 で作られた7・・一一ドで卵管の腹腔端を被覆する等の 方法が講ぜられるようになりました。これは1952

年CaStallo&Wainer氏が猿に就いてポリエチ

レン管が無害有効であることを実験して,これを 臨床的に応用したのに始まるのであります。其の 方法の詳細に就いては省略致しますが,要するに 細いポリエチレン管を卵管に通してその一端を腹 腔に,他端を子宮腔を通じて膣内に引き出し,腹腔 に出た部分は更に腹壁即ち開腹手術創外に引き出 して固定しておき,手術後2∼8週問の長期聞そ のままに放置するのであります。これは卵管の開 口術叉は卵管子宮内移植術に応用されます。:更に 卵管の中間部で閉塞のある女癖,此の閉塞部を切 除して空谷の端々吻合を行うことは,従来殆んど 成功しないとされていたものでありますが,この ポリエチレン管挿入法を応用するときは,これも 亦容易となる等種々の利点が挙げられています。 叉卵管采部の成形に際してはポリエチレンの薄い 膜で作られた漏斗状のフードを挿入し,或は卵管 采部を外部から被屈する等の方法が行われます。 叉,最近ではポリエチレン膜の代りに帝王切開時 に揉諭した卵膜,即ち羊膜を移植して卵管采部を 被凝する方法等が案出きれました。これ等の方法 によって卵管成形手術の妊娠に対する予後が著し く改善されたことが報若せられ,我国に於いても 追試されていますが伺それ等の決定的の遠隔成績 は未だ発表の時期に達していないので不明であり ます。 不妊症最後の治療手殺として人工:授精の問題が ありますが,これは女性側に不妊の原因がなく男 子側に重大な原因のあるときに行われるものであ りますから,むしろ男性不妊の治療法でありま す。故に今日はこれを省略します。 結 語

(8)

以上私の教室で行っている不妊症の研究を中心 として女性不妊症の診断治療の現況の大略を述べ たのであります。不妊症の治療は出来るだけ原因 的療法を行うべきことは言うまでもありません が,実際に於いては不妊の原因は甚だ複雑であ り,殊に男性側に不妊原因の存する揚合が意外に 多く,又数種の原因が合併することが少なくあり ません。それ等の原因を診断し,明らかにするこ との困難なことも少なくありません。女性不妊に 於ては従来最大の原因と考えられていた性器の炎 症は,結核を除外すれば著しく減少し,従って卵 巣機能不全,子宮発育不全,性器結核等の原因的 意義が益々重要視されて来たのであります。これ に対して不妊原因の診断法は近年著しく進歩し, 又頸管因子として頸管粘液の性状が重要視せら れ,更にホルモン療法,手術療法等も薯しく進歩 を示して来たのでありますが,それにも拘わらず 伺不妊症の治療は甚だ困難で,その予後は債浪好 とは言えない現状であります。

参照

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