(東女医大誌 第45巻 第2号頁 71∼75 昭和50年2月)
〔シンポジウム〕
抗生物質使用法の進歩
抗生物質のえらび方とつかい方
特に内科領域から
東京女子医大第二病院内科講師清水喜八郎
シミズキハチロウ
(受付 昭和49年12月20日)Choice and Use of Ant…biodcs in Medical Practice
Kihacbiro SHIMIZU, M.D。
Department of Internal Medicin, Tokyo Women’s Medical Co11ege Second Hospital
During thc past 20 to 30 years, antibiotics kave become on accepted part of modem med量cine{br the treatment of in艶ctious disease, but it has become di缶cult about the selection and use of adequate antibiotics fbr in艶ctious discase.
This papcr is to help physians find relevant answers about the selection and ef驚ctive use of ahti−
biotics.
The author reported on tlle bief consideratioll of ncw antibiotics, the problems of bacter圭al resistance, and clinical pharmacology−including distribution, in tissue metabolism and dosagc.
L 原因菌と抗生物質 感染症の原因菌は,グラム陽性球菌からグラム 陰性桿菌に変わりつつあることはよく知られてい る事実である. この事実を抗生物質の立場からみると2つのこ とが考えられる.つまりグラム陽性球菌からグラ ム陰性桿菌へと原因菌が変わってきたことは,耐 性の問題のみからは,必ずしも説明はつかない. それよりもむしろ第一には,グラム陽性球菌に 対する抗生物質のきき方の差である.今日グラム 陽性球菌に対して効果のある抗生物質は,少なく とも0.数γの存在することにより,その菌の増殖 をおさえることが可能であるが,グラム陰性桿菌 に対してはもっとも効くといわれる抗生物質でも 数γの薬物が存在しなければ,増殖をおさえるこ とができない. つまり,これら2つの菌に対する抗生物質のき き方には,約1Q倍ぐらいの差があることが推定さ れる. 第二の点は,グラム陽性球菌に有効な抗生物質 は,各種のグラム陽性球菌(あるものは腸球菌を 除いて)に対して平等に抗菌力をもつているが, グラム陰性桿菌にきく抗生剤は,抗菌スペクトル に差のあることが,緑膿菌の増加の一因になりう
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るかもしれない.そのことは,現在の抗生物質の 抗菌スペクトルに入っていない種類のグラム陰性 桿菌が将来原因菌になりうる可能性がありうる. したがって現状での新しい抗生物質の開発は, この線にそっておこなわれる傾向がみられる,新 しいグラム陰性桿菌用抗生物質の出現が目立つ. 1L 抗生物質選択上の問題 抗生物質の選択は,感受性検査により原因菌に 対し抗菌力があり,罹患臓器に移行しやすいもの で,かつ副作用が少ないものというのが選択の原 則である. ももろん,肺炎球菌,溶連菌に対してはbenzyl・ penicillin,腸チフスに対してはchloramphenicoI のごとく,診断がすぐ薬剤選択につながる場合 と,感受性検査がきわめて必要な場合がある. 第二は,抗生物質が病巣で,菌を制圧するに必 要な濃度に存在しなくてはならない.したがつ 表1 感染症の起炎菌と薬剤の選択 剤 て,各抗生物質の体内分布の特性を知り,たとえ ぽ肺に移行しやすいもの,胆汁に移行しやすいも の,腎に移行しやいものなど,その差を知ってい ることが大切である. 第三に,抗生物質の作用機序が殺菌作用か,静 菌作用かによっての使いわけが必要になってく る.殺菌作用を発揮するpenicillin系, cephalo・ sporin系諸剤は主として重症な感染症に対して選 択されなくてはならない(表1). 皿・投与間隔の問題 一般に病巣内の薬剤濃度が菌のMIC以上にた もたれていれぽ,その薬剤の効果が期待でぎるわ けであるが,生体内ではそのような状態をつくる ことは特殊な場合をのぞいてはむずかしい(図 1).薬剤は一年間隔で投与され,その濃度は変 化してゆく(図2∼3). 薬 剤 濃 度 疾 患 主な原因性 薬 呼吸器感染症 (肺に高濃度 に移行するも の) 肝,胆道感染 症(胆汁に高 濃度に移行す るもの) 腎,尿路感染 症(尿中に高 濃度に移行す るもの) グラム陽性球 菌が多い グラム陰性桿 菌が多い グラム陰性桿 菌が多い MIC Macrolide系薬剤 Erythromycin Oleandomycin Acetylspiramycin Josamycin, Leucomycin I・icomycin, Clindamycin Penicillin, Cephalosporin 系薬剤 図 1 薬 剤 濃 度 1∼「,5hrs 1∼し5hrs M工C Cefazolin cephalexin Aminobenzy1.PC
Piromidic acid, Nalldixic acid Thiamphenicol Rifampicin
応「{「
Hostの抵抗力が正常の場合図2
薬 剤 濃 度 !∼L5hrs 1∼L5hrs MIC Cefazolin Cephaloridine Cephalothin Cephalexin Aminobenzy1−PC Kanamycin GentamicinP五romidic acid, Nalidixic acid ←一一一一一一一一∋r I 3hr$ [ Host抵抗力が0と考えられる場合 図3 この点について,Eagleらの報告1)2)が注目さ れなおされている.グラム陽性球菌に対して, penidllinを用いての成績で, M I C以上の濃度 に,ある一定時間菌がさらされると生菌数は減少 する. たとえばpenicillinのような殺菌剤の薬剤に 1∼1.5時間さらされると,菌の99%は死滅する
が,一部の菌は残存する.その菌は,薬剤のない 培地にうつしてやっても3時間ぐらいしないと増 殖してこない.この点を考慮の上で投与間隔を決 めていけぽよいことになる. このことは試験管内での成績で,つまり生体の 抵抗力が0,重症な感染症の場合が想定される. この場合は投与間隔の短いことが好ましいことに なる. これと同様なことをin vivOでおこなった場合 には,菌は6時間ぐらいは減少傾向をしめし,そ の間増殖はみられない.つまり生体の抵抗力が正 常の場合は,次に増殖をおこしてくる6∼8時間 後に薬剤を投与することでよい. rV・投与量の問題 さきにのべたごとくグラム陰性桿菌は,抗生物 質に対しては,必ずしもよい感受性をしめさない. したがって,難治感染症の治療法の場合,低毒性 の抗生物質,とくに殺菌性のものを大量に投与す ることがおこなわれる.つまりその作用機序が細 胞壁合成阻害で細菌に対する選択毒性がつよく, 作用発現濃度と毒性発現濃度の幅が大きい薬剤が 大量投与,1日109ぐらい投与がおこなわれる.緑 膿菌に対するcarbenicillin, sulben量cillinのpeni− cillin系のものと, cephalothinがあげられる. 前述の菌のMICと病巣内濃度との関係からこ のような投与量が使われているが,いわゆる適正 な量の決め方が問題であり,このことはMICと して表現される数値と臨床効果との関係にも論及 してくるわけで,今日なお多くの問題がのこされ ている. 大量に投与するとなると,静注か,点滴投与に なるが,one shotの静注では高い濃:度がえられる が,有効濃度の持続は短く,点滴投与では,点滴 時間がその濃度を規定する大ぎな因子であり,必 要な濃度をたもつことが可能である. このような条件で有効性と副作用との関係から 投与閲隔,投与法がきめられることになる. しかし抗生物質大量投与の場合にもっとも注意 しなくてはならないのが,副作用の問題である. 大量に投与すれぽ,従来用いられている常用量 のときにわからなかった問題が提起される.つま り今日一般おこなわれている投与量で従来しられ ていなかった副作用の発現がしられてきた. その一つにneurotoxicityがあげられる.penicil− Iin剤の大量使用で,痙李などの中枢神経障害が おこることがしられていたが,近年もcarbenicillin での報告例がある, またcoagulopathy,あるいはnephrotoxicityがし られている.とくに後者については,cephalothin 8g/dayで腎障害がみられたという報告,あるい はcarbenillin, sulbeni11inにてアミノ酸,ライソ ザイムの吸収の障害をみるという石本らの報告 は,腎毒性がきわめて低いといわれていた薬剤で あるだけに,とくに投与量との関係を重視しなく てはならない.またcoombs試験陽性, G O T, GPTの上昇についても注意しなくてはならな い. carbenicillin, sulbenici11inともにNaとして投
与するわけで,各々19で約4mEqのNaを含
有しているので,大量の場合は,Na制限の患者 の場合には当然考慮が払われなくてはならない。 また副作用ではないが,penicillin系の抗生物 質の高濃度と菌を接触させるとかえって殺菌され にくいとの報告もあり,一方製剤上のうえからも いくつかの疑問があげられており,この治療法は なお多くの検討されるべき問題がのこされている が,現状では充分の配慮の上でおこなわれうる一 つの治療法であろう. V.生体内代謝 抗生物質の生体内不活化の注目される現象とし て生体内代謝の問題がある. このことも薬剤選択早きわめて重要なことであ ることが知られている.抗生物質は生体内で,ほ とんどなんらの代謝をうけることなく,そのまま の形で体外に排泄されるもの,あるいはその一部 が代謝されるもの,そのほとんどが代謝されてし まうものがある. 一般的には,抗生物質の生体内において代謝さ れた代謝物は,抗菌活性は,もとの抗生物質より も劣るのが普通であるが,7−Cl・lincomycin, Piro・一73一
midic acidのごとくもとの抗生物質よりも抗菌 活性が高いものもある. ともかくある抗生物質で生体内でそのほとんど が代謝されて代謝物に変わるならば,生体内にお いて菌に直接作用するものは,代謝産物であるわ けだから,そのものの抗菌力あるいは体液濃度と いうものが臨床効果を予測するうえに必要なこと となってくる. 原則的には体内で代謝をうけないものがよいと いうことになる.たとえぽ,cephalosporin系の薬 剤でみるとcephloridine(セポラン),CePhazoline .(セファメジン)のごとく代謝をうけないもの は,Cephalothin(ケブリン,セポラシン)の如く 代謝をうけるものよりよいが,副作用(主として 腎毒性)の面とかねあいから,その使いわけがお こなわれ,薬剤代謝面も薬剤選択上の1つの因子 となってくるわけである(表2). 表2 化学療法剤の代謝 代謝のうけないもの ●Cephaloridine. ・Cephazol三ne ●CephaIexin ・Macrolide剤の一部 。Tetracycline系薬剤 ・Kanamycin ・Streptomycin ・Gentamicin 代謝・うけ・も・1 ・Penicmi駄系薬剤 ・CephaIothin ・Cephapirin ・Cephaloglycin ・Macrolide剤(一部のものを 除く) ・Rifampicin ・工incomycin, Clindamycin ・Chloramphenicol ・Thiamphenico1 ・Nadixic Acid ・Piromidic Acid ・Sulfa剤 VL 新抗生物質のうごき 前述せるごとくグラム陽性菌に対する抗生物質 については,かなりすぐれたものがみられるが, グラム陰性桿菌についての抗生物質は満足すべき は必ずしも存在しない. したがって,新しい抗生物質も主としてグラム 陰性桿菌用のものが中心に検討されているのが現 況であろう.主なうごきは,合成ペニシリン,セ ファ・スポリン系薬剤とアミノグルコシット系で あり,これらのものについてふれてみよう. 1)合成ペニシリン 広域スペクトルをもつ合成ペニシリンとして は,amp量cillin以来,いくつかのものがあるが, 緑膿菌に対して抗菌力をもつcarben三cillin, sulbe− nicillinの使用,経口投与により高い.血中濃度の えられるcyclacillin(vastocillin wybit31)の登場 が主なうごきである. 2) セファロスポリン系薬剤 セファロスポリン剤の進歩は,腎毒性の少ない もの,体内代謝をうけないもの,経口投与可能な もの,という方向で新しい薬剤が出現してきた傾 向があった.
新しいものとしてcephazoline cephapirin, ce−
phradineがあげられるが, cephapirinはcephalo− t駈inに類似したもので,生体内で代謝をうけde− sacetyl型に変わること,腎毒性はcephaloridine より少ないことなどがしられているが,とくに大 きな進歩はみられていない. cephradineは経口投与可能であるが,その抗菌 力,体内動態もcephalexinにきわめて類似して いる.こうみてみると,現時点ではセファロスポ リン系薬剤の進歩も一段落という感じがしないで もない. 3)アミノグリコシット剤 本系統の薬剤のdemeritは,腎毒性,臓器毒性 であり,これらの軽減方向へと開発はすすめられ ていたが,近年の進歩は,化学構造と耐性のメカ ニズムの解明からの新物質の開発であり,これが 本邦の梅沢博士によってつくりだされた3’・4’一di−
deoxy kanamycin B8)(DKB)であり,kanamycin 耐性菌はもとより,ka且amycinが抗菌力をもたな かった緑膿菌に対しても本剤はすぐれた抗菌力を しめす.gentamicinに類似の抗菌スペクトルをも ち緑膿菌に対してもgentam三cinより約2倍すぐ れた抗菌力をしめている.聴器に対する毒性は gentamicin より軽度であるがkanamycinとの比 較では必ずしも弱くはない.腎毒性はgentamicin
と同じとされている.1回投与量100∼200mg筋 注で使用されており,副作用に充分の配慮の上で 使用,有用な薬剤になりうるであろう, tobramycin4)は前述のDKBときわめて類似し ているものである. この系統の薬剤は最近の抗生物質の進歩の一つ であるが,本系統の薬剤の弱点である腎,聴器毒 性の軽減こそ急務の焦点であろう(図2). VII・おわりに 以上,最近の抗生物質療法の実際のうえに必要 な2,3の問題点についてふれたが,これだけ多 くの抗生物質が市場に存在する現在,その各々の 薬剤のもつmeritをdemeritをみきわめ,もっ とも有用に使用することこそ臨床家に課せられた 任務であろう. 文 献
1>Eagle, H.=Ann Int Med 33541(1950) 2)Eagle, H.;New Eng J Med 248481(1953) 3)umezawa, H・3 J Antibiotics 24485(1971) 4)Naber, K.G.3 Antimicrob. Agents Chemo−
therapy 3469(1973)