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福井市内高校卒業女性の地域移動 -経験の世代差に注目して- 利用統計を見る

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(1)

著者

西野 淑美

著者別名

Yoshimi NISHINO

雑誌名

東洋大学社会学部紀要

58

2

ページ

35-49

発行年

2021-03-18

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00012317/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止

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福井市内高校卒業女性の地域移動

―経験の世代差に注目して―

Generational Differences in Regional Migration Experiences

among Fukui City High School Female Graduates

西野 淑美

Yoshimi NISHINO

1.問題設定

1)  都道府県を越える転居の実数は、高度成長期と比べて現在は大きく下がっている。都道府県間の転 居による地域移動者は1962年に年間300万人を超え、その後1969年から1973年の間は年間400万人を超 えていた。しかし、それ以降は減少を続け、1996年に300万人を切り、2018年は約230万人まで減少し た2)。その一方で、大学等進学率は上昇を続けており、自宅から通える範囲に大学・短大・専門学校 等が無い地域からは、18歳の時点で多くの若者が進学による地域移動を経験することが続いている。  地域移動の履歴を細かく追った調査は少なく、詳細な世代間比較の実施は難しい現状がある。また、 全国調査の場合は地域的要因による違いが大きく、考慮しなければならない要素が複雑に絡んでしま う(西野 2019a:281; 西野 2019b:63)。  ただし、地域を限定して、その地域の出身者、つまり出発地が同一である人たちの移動履歴を調べ た調査は散見される。社会学の分野では、島根県の横田高校の生徒に高校3年次と卒業6年後に調査 を行った吉川徹(2001)の研究や、青森県から関東地方への地域移動経験者に調査票調査とインタビュー を行った弘前大学チームの研究(石黒格他 2012)等が挙げられる。また、人文地理学のUターン研 究では、高校同窓会を通した量的調査という方法が、長野県と宮崎県の複数高校の卒業生の地域移動 を捉えた江崎雄治・荒井良雄・川口太郎(1999,2000)の研究、山形県庄内地域出身者の地域移動を 捉えた江崎(2007)の研究などで採られている。できるだけ調査対象者を網羅する形で出身者の現住 地に調査票を届けるには、有効な方法である。  筆者が属する研究チームは、福井県福井市の公立高校を卒業した20代から70代までの人々に、質問 紙調査(以下「福井調査質問紙調査」)と聞き取り調査(以下「福井調査聞き取り調査」)を実施した。 上述の人文地理学分野での高校同窓会を通した調査手法を参考にしている。そして、これらの調査か ら得られたデータを用いて、地域的要因――例えば通える範囲にある高等教育機関の選択肢、高卒就 職やUターン就職の状況、大都市までの距離など――を統制した上で、地域移動の選択構造の分析や

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世代間の比較を試みてきた。  これまで福井調査質問紙調査のデータを用いて、Uターンをめぐる論点(石倉他 2012)、普通高校 と専門高校による移動パターンの違い(西野 2012)、35歳までの移動の世代差(西野 2019a)などを 示してきた。また、福井調査の質問紙調査と聞き取り調査を合わせて利用し、地域移動という行動の 理解のされ方の世代による変化(西野 2019b)を描いた。さらに、福井調査聞き取り調査および、別 途実施した関東在住の福井県出身女性へのインタビュー調査に基づき、東京圏に地域移動した福井県 出身者が「東京に行く」という選択を主観的にどう位置付けているのかも探った(西野 2020)。本稿 では、福井調査質問紙調査と同聞き取り調査を用いて、女性に絞って、地域移動をめぐる経験の世代 変化を記述する。  高校進学率が上がり、さらに大学等進学率が上昇していくことは、女性の地域移動においてどのよ うな経験を意味したのか、それは男性とはどのように違ったのか。このことを本稿では問いとして設 定し、量的データから明らかになる点を示すとともに、その内実をインタビューで補いながら、いく つかの知見を仮説的に提示してみたい。

2.調査の方法

 数値のデータとして用いる福井調査質問紙調査は、福井県福井市内の全日制公立高校7校のうちの 6校、すなわち福井県立足羽高校、同羽水高校、同科学技術高校、同高志高校、同福井商業高校、同 福井農林高校の同窓会員で、2010年当時23-74歳の男女に実施した質問紙調査である3)。卒業生の約 1/10を層化二段無作為抽出し、抽出された8934名のうち、住所不明者と事前のはがき返信で調査拒 否を表明した人を除く6823名に、2010年12月から2011年1月(ただし羽水高校のみ2013年2月)にか けて、郵送法で行った。有効回収数は2064名分で、調査票発送数を分母とする有効回収率は30.3%、 対象抽出数を分母とする有効回収率は23.1%である。  また、インタビューのデータとして用いる福井調査聞き取り調査は、福井市内高校の卒業者に対し て2015年8月~11月(1名は2016年3月)に行ったものである。①専門高校/難関大学への進学実績 の高い普通高校(以下「進学校」と表記)、②性別、③年齢3区分(60・70代、40・50代、20・30代) ④ずっと県内在住/Uターンして現在県内在住/現在県外在住という指標を設け、以上①~④をかけ あわせた各カテゴリーにつき原則1名、計37名に、1人1時間~1時間半ほどの半構造化インタビュー を実施した。専門高校については、1校の同窓会経由で調査協力者の紹介を得て、進学校については、 福井県庁職員の紹介で2校の卒業生から調査協力を得た。  なお、分析では、調査対象者を1955-1971年3月に高校を卒業した人々(概ね1936-1952年生、調 査当時58-74歳)を第1コーホート、1972-1988年卒(概ね1953-1969年生、同41-57歳)を第2コー ホート、1989-2005年卒(概ね1970-1986年生、同24-40歳)を第3コーホートと称して区分してい る。それぞれのコーホートで、高校卒業後の就職率と大学等進学率の特徴が異なるためである(図1

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-1・図1-2参照)。

3.福井市内高校卒業後の女性の地域移動の世代差

 以下では公的統計と福井調査質問紙調査を用いて地域移動の量的な傾向を示し、インタビュー調査 と合わせてその内実を探っていく。 出所:学校基本調査より作成 図1-1 福井県の生徒の進路(女性) 出所:学校基本調査より作成 図1-2 福井県の生徒の進路(男性) 出所:学校基本調査より作成 図2-1 福井県内高校卒業生の進路(女性) 出所:学校基本調査より作成 図2-2 福井県内高校卒業生の進路(男性)  図1-1と図1-2は学校基本調査をもとに、福井市のみではなく、福井県全体の生徒の進路を示 している(西野 2019b:66より再掲)。また、図2-1と図2-2では福井県の高校生の高校卒業後の 進路を、学校基本調査の男女別データがある1978年から示している(西野 2019a:283より再掲)。

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 学校基本調査の男女別データは第2コーホートの途中からしか入手できないが、質問紙調査の回答 者についてはそれより前の世代にさかのぼることができる。福井調査質問紙調査回答者について、男 女別・高校タイプ別4)・世代別に高校卒業後の進路5)を集計したのが図3である。また、高校卒業後 から調査時点までの地域移動経験を3つのパターンに分けて、合わせて高校後非進学(就職)者と進 学者の内訳を示したのが図4である。なお、福井県全体の統計データと福井市での調査データを同一 視することはできないが、県レベルの統計で全体傾向を把握しながら、本調査で見られる世代変化を 読み解いていくために、両者を併用している。  男性と比べた女性の特徴として本稿では3点を取り上げる。以下、項に分けて説明する。 ⑴ 就職・進学に還元できない女性の県外移動  特徴の1点目は、世代ごとの進路の変化には男女で違いがあり、背景に同じ構造を想定すると地域 移動の解釈がうまくいかないことである。男性の変化は高卒就職による県外移動の減少と県外進学の 継続的な多さで概ね説明できるが、女性は一定の趨勢変化に還元することが難しい。  図1-1・図1-2をみると、第2コーホートから男女とも大学・短大進学者が増えている。しか し、進学先の内訳は男女で違うことが図2-1・図2-2からはわかる。2000年頃まで、男性の県外 進学と県内進学の割合は4:1前後であるが、女性は概ね2:1の状態が続く。時代が進むにつれて 就職者に対して進学者の割合が男女とも増えるが、上記の比自体はあまり変化していない。つまり、 女性の場合、進学率が上がっても県内進学の割合が高いという時代が2000年頃まで続いた。県内大学・ 短大の収容率はこの間向上していたが(西野 2019b:67 図3)、それは女性の県内進学に寄与してい たと考えられる。 出所:福井調査質問紙調査より作成 図3 福井市内高校卒業生の属性別の卒業後進路

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 ただし、図2-1・図2-2は第2コーホート途中からのデータである。福井調査質問紙調査から 作成した図3(西野 2019a:284より再掲)と組み合わせて第1コーホートからのより長期的な傾向を 読み取ると、男性の場合、普通高校と専門高校で進学者の割合は違っていても、進学する場合はいず れにせよ第1コーホートの頃から県外進学の割合が高く、その傾向が第2コーホート以降継続したも のと考えられる。 出所:福井調査質問紙調査より作成 図4-1 福井市内高校卒業女性の地域移動パターン 出所:福井調査質問紙調査より作成 図4-2 福井市内高校卒業男性の地域移動パターン  また、図4-1・4-2は、福井調査質問紙調査から、コーホートごとの地域移動パターンを男女 別にまとめたものである。県外居住経験のない人は「ずっと福井県内在住」、一度は県外に出た経験 があるが調査当時は福井県内にいた場合は「県外からUターンして調査時県内在住」、調査時に県外 に住んでいた人は「調査時福井県外在住」と区分している。男性については、当初は県外に出る道が 進学と就職の両方でありえたのが、時代が進むにしたがって、県外へのルートが進学に一本化された とまとめられる(西野 2019b)。このことは、図2-2や図3において、第3コーホートでは高校卒 業後に県外就職をする割合が小さくなっていることとも一致する。  一方、女性については、状況はより複雑である。図2-1や図3からは、そもそも進学経由でも就 職経由でも、高校卒業直後に県外に出る道が男性に比べて狭かったことが読み取れる。図3では第1 コーホートに比べて第2コーホートの大学等進学率の上昇が特に普通高校で著しいが、この上昇を支 えたのは県内進学の増加である6)。また図1-1からは、第2コーホートの女性の半数近くは高校を

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最終学校として就職していったことがわかる。そしてその大半は県内就職だった(図2-1)。しか しその後、第3コーホートにかけて進学率が一層上昇する際は県外進学も増加した。ただし、専門高 校では県内進学も増加している。本稿の調査対象の世代からは外れるが、第3コーホート以降では県 内進学の増加が進学率のさらなる上昇に寄与していることが図2-1・2-2からは読み取れる。つ まり、女性の場合は男性と異なって様々な変化があり、進学率の上昇が継続的に県外移動につながっ ていたわけではなかったのである。  しかも、図4-1をみると第1コーホートについては、「ずっと福井県内在住」の女性は第2コーホー トよりも少ない、つまり県外経験のある人がその後のコーホートより多いことがわかる。さらに、調 査時に福井県外在住だった比率は、女性の場合実は第1コーホートが一番高い。高校卒業後に県外に 出るルートは狭かったのに、なぜだろうか。  もちろん、図4については質問紙調査の回答者の偏りの可能性もある。しかし、世代の違いである 可能性もこのあと示したい。まずは1点目の特徴として、女性の地域移動経験は就職・進学のみには 還元されないこと、男性に比べて複雑であることを指摘しておく。 ⑵ 結婚にまつわる地域移動  特徴の2点目は、県外への地域移動経験の男女差は就職・進学のみでは説明できないが、世代によ る結婚行動の変化と組み合わせると、理解しやすくなることである。ここからは、福井調査聞き取り 調査から得られた証言と組み合わせて解釈していく。 出所:福井調査質問紙調査より作成 図5 福井市内高校卒業生の初婚年齢(女性)  図5は福井調査質問紙調査の3つのコーホートにおける初婚年齢の違いを、高校後の進路別に示し たものである。第1コーホートの場合、大多数の女性が26歳未満で結婚している。大学等進学者の方 が若干初婚年齢が高めだが、進学者も高卒就職者も最終学校卒業後4年ほどで少なくとも半数が結婚 していたと理解できる。  そうであるならば、学校卒業後、結婚するまでの間に職に就いたとしても、その継続期間は短い。

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具体的な経験を聞き取り調査から抜き出してみる。  進学校を卒業し、県内短大で栄養士資格を取った A さん(1960年代末卒、以下卒業時期は高校卒 業を指す)は、県内での就職後に転職し、県外で働いたことがあった。ただし、その期間は短く終わっ た。  「心機一転して、いっぺん県外に出てみたいな」と思ったんです。(…)結果的に1年ぐらい になってしまったんです。行っているあいだに、うちの母が、そんなところに何年もいさせたら やっぱり心配だし、しきりに「結婚せい」「お見合いをせい」と言ってきたんで、あるときに「お 見合いしてみようかな」と思って。  また、そもそも進学先卒業後に職に就かず、花嫁修業を行う場合もあった。東京の短大を卒業した Bさん(1970年代初頭卒)もその一人である。  あのころはお見合い結婚がすごく多かったですから、お嫁道具の1つとして短大でも行ってお いたらどうでしょうみたいな、そんな感じでの受験でした。将来何になりたいからその学校へ行 きたいとか、そういうものはなかったんです。将来どこに住みたいというイメージも無かったで すね。  当時は県内の大学・短大の定員が少なく、女性が進学する場合は「嫁入り道具」といえども県外に 出る可能性は高かった。そのために、第1コーホートの場合、少なくとも本調査の回答者では、進学 者に占める県外進学の割合が男性にかなり近いほど高かったのだと考えられる(図3)。しかし、女 性については自宅から通える者しか採用しない傾向があったために、大都市での就職が難しかったと いう事情もあり、卒業後は福井に帰って花嫁修業をすることも珍しくなかったという。そしてその後 は、お見合い等によって福井出身の県外在住男性と結婚をする可能性があり、そうするとまた県外に 出ることになる。これがNターン、つまり一度県外に出てから県内にUターンし、その後また県外に 出ていく経路の一例である。Bさんの場合も、23歳で結婚してまた東京に戻っていった。  Nターンではなかったとしても7)、結婚をきっかけに初めて県外に出ることは、第1コーホートで は多かったと考えられる。質問紙調査では、高校後県内進学又は県内就職をしてからその後のどこか で県外に出たという人が、第1コーホートの女性には14%含まれている。それ以降の世代よりも比率 が高い。男性も第1コーホートの方が第2コーホートよりも、高卒就職者・大学等進学者とも調査時 に県外在住だった人が多く、そのように県外に定着した男性たちの居住地に結婚を機に移動したとす れば、女性にも県外移動が生じるのはつじつまがあう。  女性の場合はそのほかに、夫の転勤などにより県外に出る、いわゆる随伴移動もある。進学・就職 とは関係のない年齢になって初めて県外に出る女性はどのコーホートにも見られるが、それは結婚に

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よる離家のほかに、随伴移動の可能性が考えられる。  このように第1コーホートの女性には、結婚と関連しつつ、男性とは異なる様々な形での県外経験 がありえた。Aさんのように県内に進学したが県外に仕事に出て、また県内に戻って結婚するケース もあれば、BさんのNターンのように逆の移動をするケースもある。  いずれにせよ、県外就職や県外進学の道が男性より閉ざされていたにもかかわらず、結婚を契機に 移動する可能性が、この世代の女性には若い年齢の時期にあった。この結婚移動が女性にはあるため、 大学進学率がまだ低く、県外就職の機会が少なかったにもかかわらず、第1コーホートの女性は第2 コーホートの女性よりも、「ずっと福井県内在住」の人が少ない結果となったとの仮説が立てられる8) ⑶ 男女差の語られ方の変化  特徴の3点目は、進路選択における男女差の意識への言及の仕方が、世代によって変化していくこ とである。以下、コーホート別に示したい。 1)第1コーホートの語り  第1コーホートでは、専門高校の卒業生に、当時の封建的な福井の状況への言及の一環として、福 井を出ること/出ないことをめぐる語りが見られた。前述のAさんやBさんが、進学校の卒業生であっ ても結婚を前提にしたライフコースを選択していたことと、表裏一体とも考えられる。  Cさん(1960年代中頃卒)は、高度成長期に東京で服飾の技術を極めようとしたが、その後福井に 帰った人である。Cさんは、福井に戻った後に経験した違和感をこう語った。  オートクチュールに入って、まずはそこのお店のアトリエで、仕立てをしました。何年かした ら、カットのほうに回らないかと言われて、先輩に一から仕込んでもらって。5年間、働きまし た。私の夢は、銀座で一流のカッターになりたいという夢だったんですね。でも、腱鞘炎になっ て。それがなかったら私は福井に帰ってこなかったと思うのですけれども。(…)  私、どちらかというと、今でも東京に行きたい人だから。(…)「都会にいた女」ということで、 結婚のときに反対されました。都会から来た女じゃないですよ。都会に何年か行っただけだけれ ども。ちょっと考えられないでしょう、今だったら。  高校卒業後に大阪に出て、親戚の商売を手伝いながら洋裁学校に通ったDさん(1960年代中頃卒) もこう語った。  私たちが二十歳前後の頃はまだけっこう田舎で、封建的でうるさかったでしょう。こんな封建 的なところは嫌というのが、福井を出たいというきっかけでした。

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 高校卒業後に就職したEさん(1960年代中頃卒)も「『高校を出たら大学へ』という選択肢がなん となくなくて、『高校を出たら就職』という、なんかそういう雰囲気でしたね」と語った。将来の目 標に合わせて進路を選ぶのではなかった、との前述のBさんの発言とも通じる。就職難ということは まずなく、Eさんの周りの友人もほとんど県外に出なかったという。Eさんは3年弱で結婚退社したが、 その後また働き始め、以降家族の都合に合わせて何度も転職したり、家族従業者として働いたりして きた。福井の特徴とされる共働きを、女性が「働ける」という文脈ではなく、「働かなければ」とい う文脈でEさんは語った。  「もし急病とかになったときは応援するから、子供のために身を粉にして働きなさい」という、 母の変な言葉を今でも覚えています。「ああ、子供のためには身を粉にして働くのか」と。それ でフルタイムで仕事に戻りました。    第1コーホートの語りは、「男女差」と言及するまでもなく、女性は結婚や家族を優先して人生設 計をすることが当たり前とされる状況があったことを物語っている。 2)第2コーホートの語り  第2コーホートになると、進学校の卒業者を中心に、一度は福井を出るべきか考えた、という発言 が見られるようになる。主体的な選択の対象として、地域移動が意味づけられうるようになったとも 考えられる。  Fさん(1970年代前半卒)は、受験科目の関係で福井大学を受けられずに県外に進学したが、進学 先で教育の道を志すようになる。しかし、福井は教職の道が狭く、まず大阪で教員になった。その後 福井で教員になるが、大阪の5年間の経験が非常に重要だったという。  (親は、福井を)出て、どこかで苦労しなければいけない、自分で考えろと。戻ってくるのか どうなるかはわからないけれどと。本当にそれはありがたくて。ずっと福井で、福井大学を出て、 そのまま教職でずっときた人を見ると、それはよかったと思います。県外で苦労して戻ってきた 人たち、(…)やはり1つ乗り越えてきたという感じで、いいなと思いました。都会に行くと、 生き方が真剣なのです。子どもに伝わります。  Gさん(1970年代中頃卒)は、福井から出たいとは思っておらずに県内に進学したが、それでも周 囲の同級生を見て、将来を考えさせられたという。  皆さん、すごい夢を持っていらしたのです。私は普通に結婚して、子どもができればいいとい う感じで思っていたのですけれど。

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 先輩とか友達とかがいろいろなところに行くと、「行ってみたいな」という気持ちはあったの です。でも、(…)いろいろ考えていくと、やはり福井に留まるのが一番かなと思って。福井から、 それほど出たいと思ったことはないです。  県外に進学したいと思いつつ、県内に進学してその後県内で就職したHさん(1980年代中頃卒)も このように話していた。  会社の中でも、大学もずっと福井だったので、「おまえは知らないんだよ」みたいに言われる ことが結構多くて、やっぱり一回県外に出なくちゃだめじゃん、というような感じはありました。  福井を出るべきかという語りに加えて、仕事についての語りもこの第2コーホートは第1コーホー トと異なる特徴が見られた。この世代も次の第3コーホートと比べれば、初婚年齢は低い。しかし、 将来や仕事について高校時や就職して間もないころにどう考えていたかについての語りは、第1コー ホートとは対照的に、結婚とはつながりつつも独立していた。そして、働き続けることへの思いの強 さも聞かれた。その後結婚で東京に移動したHさんは以下のように語った。  仕事はずっとする、自分の食いぶちは自分で稼ぐというのが、昔からあったんですよね。福井 の女性は結婚したからって辞める人はほぼいないですし。私のもうちょっと上だと、本当に結婚 か仕事かという世代だと思うんですよね、特に東京の場合は。  働き続けることへの思いは、専門高校の卒業生からも聞かれた。ずっと福井県内在住であるIさん (1980年代中頃卒)は次のように話した。  両親とも共働きだったし。福井にいると、どちらかというと働くのが当たり前という気が。(…) 働きたいのは、ずっと働きたいというか、社会とかかわっていたい。短時間であろうと。とは思 います。  第1コーホートの語りでは、結婚という人生経路が所与としてあり、高校と結婚の間に挟まれた短 い期間に一時的に仕事をする自分、という構図の社会的な強さが読み取れた。それに対して第2コー ホートからは、将来の自分というものを、結婚とはつながりつつも、以前より相対的に独立に想定し ていたことが伝わってくる。だからこそ、将来に向けて何をなすべきか、思い描いてみたのであろう。 それは同時に、進学という進路選択のシステムの広がりを通して、個々の女性が選択する主体たるこ とを求められるようになりつつあったと解釈することもできる。

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3)第3コーホートの語り  第3コーホートでは、高校後に進学せずにずっと福井県内にいた女性の比率が一気に減ったことが、 図2-1、図3、図4-1からわかる。それに呼応するように、高校時代に進路についての意識の男 女差は感じなかったと語った人が多い。親にはUターンしてほしいと言われたと話したり、自分の親 は考えが古かったという前置きが挟まれることはあるが、それは個別事情として語られる。進学校を 出たJさん(1990年代中頃卒)は、「『女性だから、あまり県外に出ない』とかは、全然なかったと思 います」と話した。  専門高校出身者も同様である。  (親は県外に)行くのは全然大丈夫だったんですけれど、(戻ってほしいと言われたのは)い ずれ将来的には、だと思います。勉強しに出ることは、全然反対はしなかったです。(Kさん、 2000年代初頭卒)  今、私たちの世代で、出たら絶対に戻らないといけないというのはないのかなみたいな。(L さん、2000年代前半卒)  一方で、図4-1からは、県外に出た経験がある第3コーホートの女性の過半数が、調査時点では U ターンして県内に住んでいたこともわかる。「U ターンして調査時県内在住」の人が「県外在住」 の人より高い割合なのである。インタビューでも、「卒業と同時に帰ってくる友人が多い」と語った 人は複数いる。男性の場合は「県外在住」の割合の方が若干高いので、少なくとも質問紙調査の回答 者の間では、大学等卒業後の地域移動に男女差が見られる。  そしてそのUターンは、あまりポジティブには語られなかった。前出のJさんは、Uターンしても 専門職でなければ大学の経験を活かす仕事を見つけることが難しいことを語った。  やっぱり文系の大学に進んだ子とかは、職を探すのに結構苦労していたと思います。病院関係 の仕事とかは、わりとすんなり決まっていったのですが。  ある程度いい大学に行って、いろんなことを活かそうと思うと、やっぱり福井でというとなか なか受け口が少ないんじゃないかなとは思うんです。  他にも福井でのキャリアのイメージは持てなかったことや、福井の外ならば選択肢が広がるという 認識への言及があった。  (進学先から福井にUターン後も)ずっと働くイメージはありましたけど、キャリアを積んで いくというのは、あまり。転職はあまり考えてなかったのですけど、姉が結婚して出産して辞め

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ていくのを見ていたら、自分もそうなるのかなというのは思いましたね。(Mさん、1990年代初 頭卒)  本当に関西に来てよかったなと思うのは、やっぱり選択肢が広がるというのがあって。多分福 井だったら絶対できないだろうなということも、こっちだったら、ちょっと知り合いのつてで声 をかけたら、いろいろやらせてもらえたりとか。(前出Lさん)  なお、Uターンのタイミングは進学先を卒業した直後が大半であり、卒業後に県外で暫く働いてか らいわゆる中途Uターンをするケースは質問紙調査では少数派だった。この世代は調査時点で40歳未 満であり、今後中途Uターンが発生する可能性はもちろんあるが、聞き取り調査でも「県外で就職し たならそのままそちらで結婚して落ち着いてしまう」「30歳を過ぎてから帰ってくる人はいない」な どの語りが聞かれた。  この第3コーホートは、第1コーホートのように、学卒後の行動が結婚に強く縛られることはもう ない。しかし、この世代も何にも制約されずに地域を移動できているわけではない。高校卒業後や進 学先の卒業直後というタイミング、つまりいわば18歳と22歳に地域移動のチャンスの多くが限られて いるのである(石倉他 2012)。ただし、このことは男性も同様である。その意味では、進学や就職の 行動のみで説明するのが難しかった第1コーホートに比べると、女性の地域移動も、男性同様に進学 や就職で理解しやすくなっており、語りにもそれが現れていると言えよう。  この世代は女性も男性も同様に、「やりたいこと」を早く見つけるように中学や高校で促され、そ れと関連付けながら進学に向き合うように促される。ただし、そのやりたいことを女性が実現しやす い場所としては、地元福井は必ずしも映っていないようであった。

4.おわりに

 本稿では、福井市内高校の50年にわたる年代幅の卒業生への量的・質的調査を通して、地域移動と の関連において進学率の上昇が女性にとってどのような経験だったのかについて、いくつかの特徴が 浮かび上がった。1点目の特徴として、女性の地域移動経験は、就職・進学のみには還元されず、男 性に比べて複雑であることが挙げられる。2点目として、結婚を契機とした移動が女性にはあるため、 男性とは異なる様々な形での県外経験がありえ、世代によっては就職・進学とは異なる要因が地域移 動に対して説明力を持つことを指摘した。3点目として、進路選択における男女差への言及の仕方が、 世代によって変化していくことが挙げられる。女性は結婚や家族を優先して人生設計をすることが当 たり前とされる状況だった第1コーホートに比べ、第2コーホートでは地域移動を含む将来設計に対 する主体的な選択の意識が見られはじめたこと、第3コーホートでは進路選択に男女差は無いという 語りが強くなり、女性の行動も男性同様に進学や就職で理解しやすくなっているが、地域移動のタイ

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ミングや地域による雇用内容の制約から自由になっているわけではないことを描いた。  女性の階層をどのような指標でみるか、女性の学歴をどのように社会移動と結びつけて考えるかは、 社会学の階層研究・社会移動研究においても様々に議論されているところである。それは、女性の社 会移動を理解することが一筋縄ではいかないことの証左でもある。  本稿では、女性の進学の機会が広がることの地域移動への影響が世代によって異なること、男性と 同じような文脈で解釈できるか否かも世代によって異なることを、事例的に示した。進学率上昇の女 性にとっての効果は、その地域・その時代の社会意識と照合しながら細かく解釈していく必要がある。 もちろん、一地域だけの結果では一般化は難しく、事例的な研究が様々な地域について蓄積され、量 的データの解釈にフィードバックされていくことで解明が進んでいくと考えられる。今後も分析を深 め、そのプロセスに寄与していきたい。 注 1)本稿は、2019年10月27日に日本都市学会第66回大会で行った研究発表の配布資料に、加筆と修正を加えたも のである。 2)国立社会保障・人口問題研究所ウェブサイト掲載の「人口統計資料集2020年版」表9-1より。元データの 出所は『住民基本台帳人口移動報告年報』。 3)質問紙調査実施メンバーは石倉義博・西野淑美・元森絵里子・西村幸満・平井太郎である。なお調査に含ま れていない1校は、難関大学への進学実績で県内の最上位を占めてきた福井県立藤島高校である。ただし、 1980年から2003年は、藤島高校と高志高校で同一の入試を行い、合格者を両校にランダムに振り分ける「藤島・ 高志学校群選抜入試」が行われていた。よって、本稿の第2コーホート後半・第3コーホートにおいては、少 なくとも高校入学時点で両校の学力差は無く、普通高校のデータに大きな影響はないと考えられる。しかし、 それ以前の世代は、藤島高校の方が進学率や県外移動率が一層高かったと予想され、結果の読み解きに留意が 必要である。なお、聞き取り調査には藤島高校出身者も含まれている。 4)普通高校は足羽高校、羽水高校、高志高校を、専門高校は科学技術高校、福井商業高校、福井農林高校を指す。 5)「大学等進学」とは大学、短大、高専、専修学校の専門課程・一般課程への進学を指す。 6)福井調査聞き取り調査では、進学校に通っていた第2コーホートの女性から、高校の福井大学進学クラスが ほぼ女性のみだった年もあったとの話があった。県外進学を親に反対されて、教員になりたくないが福井大学 教育学部に進学したと話す同世代女性もいた。 7)Nターンについては、いずれのコーホートにも6-7%の経験者が含まれている。ただし、世代によってNター ンの内容は違う可能性がある。 8)国立社会保障・人口問題研究所が2011年に実施した第7回人口移動調査で、概ね第1コーホートに相当する 世代の女性は、概ね第2コーホートに相当する世代の女性よりも、離家理由が結婚である割合が高く、入学・ 進学が理由である割合が低いこととも一致する(国立社会保障・人口問題研究所編 2013:87)。なお、第1コー ホートでは高校進学率自体が5割を超え始めた程度だったため、本調査のように高校進学者が母集団の場合、 学歴があって県外経験の機会があった人の比率が同世代全体よりも高く出るはずであることには留意する必要 がある。 参考文献 江崎雄治,2007,「山形県庄内地域出身者のUターン移動」石川義孝編著『人口減少と地域:地理学的アプローチ』 京都大学学術出版会,171-190. 江崎雄治・荒井良雄・川口太郎,1999,「人口還流現象の実態とその要因―長野県出身男性を例に」『地理学評論』 72A⑽:645-667. ――――,2000,「地方県出身者の還流移動―長野県および宮崎県の事例」『人文地理』52⑵:80-93.

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石黒格・杉浦裕晃・山口恵子・李永俊,2012,『「東京」に出る若者たち―仕事・社会関係・地域間格差』ミネルヴァ 書房. 石倉義博・西野淑美・元森絵里子・西村幸満・平井太郎,2012,「Uターンとは何だろう」東大社研・玄田有史編『希 望学 あしたの向こうに 希望の福井、福井の希望』東京大学出版会,246-276. 吉川徹,2001,『学歴社会のローカル・トラック―地方からの大学進学』世界思想社. 国立社会保障・人口問題研究所編,2013,『2011年社会保障・人口問題基本調査 第7回人口移動調査報告書』国 立社会保障・人口問題研究所. 西野淑美,2012,「文脈の中の地域移動:福井市内高校卒業生の将来イメージと実際の移動から」『東洋大学社会 学部紀要』50⑴:67-82. ――――,2019a,「福井市内高校卒業者の居住地移動の世代差―35歳までの移動に注目して―」『日本都市学会年 報』52:281-290. ――――,2019b,「地域移動と社会移動をめぐる「了解」の変化―50年間の福井市内高校卒業生への調査より―」 『日本都市社会学会年報』37:62-79. ――――,2020,「『東京に行く』という選択をめぐる語り―福井市内高校卒業後の地域移動調査より―」『関東都 市学会年報』21:14-22.

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【Abstract】

Generational Differences in Regional Migration Experiences

among Fukui City High School Female Graduates

Yoshimi NISHINO

 Using quantitative and qualitative research conducted over 50 years on Fukui City high school graduates, this paper describes several points on how women in Fukui City experienced rising college enrollment rates. First, regional migration undertaken by female graduates is more complex than that of male graduates. It cannot be explained only by changes in college enrollment or job seeking. Second, marriage is a significant factor behind the relocation of female graduates, giving rise to different experiences from male graduates; this is one reason why female mobility cannot be entirely explained by education and job seeking factors. Third, interviewees commented differently on gender discrepancies with regard to education depending on their generation. Compared to the first cohort, who lived during the time when women were expected to plan their lives giving priority to marriage and family, the second cohort tended to speak of their life plans and migration in terms of their own initiative, relatively independent of marriage. The third cohort tended to insist that there were no gender discrepancies concerning their education and/or career-path. It is true that female migration of this cohort is more likely explained by education and job seeking, more similarly to their male counterparts, yet they are not free to relocate as they wish. For example, opportunities to relocate to other areas are limited to certain times of life. This paper can be summarized as a case study illustrating how increased opportunities for female college enrollment impacted the generations in different ways, and also examines whether or not the impact of such opportunities could be interpreted similarly to male college enrollment, depending on the generation.

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