「みらいらぼつしま」開催から考える地域型コンベンションの可能性
Potential of regional conventions to think from hosting 'Mirai Labo Tsushima'
佐藤雄二
Yuji Sato
合同会社ビーコンつしま
Beacon Tsushima LLC
1.はじめに
平成 29 年 6 月に対馬市で実施した「第 2 回人工知 能学会市民共創知研究会(みらいらぼつしま)」か ら 1 年が経過する。前年 11 月の研究会で開催を打診 された際、特段コンベンションに関する実績もなけ れば開催しやすい環境が整っているわけでもなく、 むしろ交通の面から考えると、九州以外の地域から は距離があり悪天候の影響も受けやすいので不便で あるため冗談かと思ったが、研究会の場に様々な経 歴を持った方々が集まり対等に対話していること、 そしてプロジェクトを立ち上げて終わりではなく実 現に向けた取り組みがなされていることから、開催 すれば対馬にとって何か良いことがあると思い引き 受けることを決めた。 国 の 観 光 政 策 の ひ と つ に MICE ( Meeting 、 Incentive Travel、Convention、Exhibition または Event)の開催・誘致の推進が掲げられており、開催 することによって、ビジネス・イノベーションの機 会の創造、地域への経済効果、国・都市の競争力向 上といった効果が期待されている*1。観光庁の web サ イトでは国際観光の施策として位置づけられている が、対馬には地域資源や課題が多岐にわたり存在す ることや、外国人観光客の増加を背景に観光におけ るインフラが整備されはじめていることなどを考え ると、地域資源の利活用や地域課題の解決を目指す にあたり、地域に合ったアプローチになるのではな いかと考えられる。 そこで、実際に市民共創知研究会を対馬で開催し て感じたことや、研究者が地域に出入りすることに よって生み出される効果について検証しながら、地 域型コンベンションを開催する意義や可能性につい て考えていきたいと思う。2.対馬のポテンシャル
コンベンションを開催するにあたり、テーマに関 連する集客や情報の集積、円滑な実施に資するイン フラが不可欠である。無難にこなそうと思ったら、 ヒトや情報が集まりやすく、事務用品や運営にまつ わるサービスも充実している都市部で開催すること になるであろう。 しかし、市民共創知研究会が市民と研究者との共 創を目的とし、市民がいる場所で開催することに意 味を見いだすように、研究対象がある場所での開催 を検討する主催者がいることも考えられる。そこで、 コンテンツである「研究対象となる地域資源」、参 加者動員のカギとなる「対馬の観光業の現況」、地 域課題の解決に取り組む主体の動きとして「対馬市 における官学連携の動き」という切り口から、対馬 のコンベンション開催にまつわるポテンシャルにつ いて検討してみた。2.1 研究対象となる地域資源
九州と朝鮮半島の間に位置する離島で、大陸から の玄関口であるとともに最前線でもあったことから、 自然・歴史・文化・産業・国際交流など様々な分野 における研究資源を有するとともに、他の離島と同 様、過疎化や少子高齢化も全国平均を上回るペース で進行し、それに伴う社会問題も顕在化しており、 研究対象となるものは数多く存在する。 そして、地域の人たちに地域資源の価値が認識さ れておらず、研究者も常に対馬にいるわけではない ので、資源を保全する観点から島内外に対馬の地域 資源を認識してもらう取り組みが必要な状況でもあ ると考えられる。2.2 対馬における観光業の現況
対馬への入込客数について、国内客はここ10 年横 ばいである一方、外国人客は平成24 年以降増加傾向 にあり、平成29 年には 35 万人以上が訪れているが (図1)*2、移動に際し高波や強風などによる交通の乱れが発生しやすいことや、悪天候になりやすい冬 期とそれ以外の時期とにおける入込客数の差が大き いといった問題がある(図2)*2。 とはいえ、平成28 年には国内外合計で約 50 万人 の入り込みを記録し、道路や港湾、フリーWi-Fi など のインフラ整備、大型宿泊施設やコンビニ、ドラッ グストアの進出などといった動きにつながっている。 進出した企業側からは、「客数の季節変動を抑えた り、急増する外国人観光客以外にも様々な属性のお 客さんが対馬に出入りするようになったりすること によって経営の安定化につながると思うので、研究 者が出入りする機会がもっと増える動きが起きると したらありがたい」(厳原町・宿泊業関係者)という 声もある。
2.3 対馬市における官学連携の動き
平成26 年度から、地域と大学が連携し、相互に学 び合うことで、対馬の新たな価値を創造し、持続可 能な産業を創り出すという基本理念のもと、域学連 携事業が始まった*3。 当事業の開始以前の平成 24 年度から集落に入り 実践合宿形式で行われている「島おこし実践塾」の 継続や、対馬で行われている研究や市民活動の内容 や成果を発表する「対馬学フォーラム」の開催など の取り組みが行われており、平成29 年度には約 750 名の学生・教職員が訪れている(図3)*4。 また、今年度からは都市部大学などとの連携を図 りながら、アグリパークを拠点に高齢者が生きがい を持てる場の提供や在来作物の保全などにより地域 コミュニティ活動の助長を図る「地域連携プロジェ クト事業」も始まり、連携の幅も広がっている。 欲をいえば、会議用の施設を質・量とも充実して ほしい、インターネットの通信速度を改善してほし い、急に必要な印刷物が発生しても対応できるサー ビスがほしいなど課題は色々あるものの、先の内容 を踏まえて考えると、コンベンションを企画するに あたり根幹となる要素に関しては良い条件が揃って おり、対馬のコンベンション開催にまつわるポテン シャルは高いと考えられる。3.みらいらぼつしま開催による発
見と課題
前段の内容と一部時系列が前後するところはある が、平成29 年 6 月 30 日~7 月 2 日にかけて実施し た「みらいらぼつしま」の成果を、開催後に実施し たアンケート(n=27)などをもとに振り返ってみる ことにする。 【開催概要】 主催:人工知能学会市民共創知研究会 後援:対馬市 一般社団法人対馬観光物産協会 一般財団法人地域活性化センター 公益財団法人日本離島センター 開催日:平成29 年 6 月 30 日~7 月 2 日 開催場所:長崎県対馬市(セッション会場の宝泉寺 と西山寺は厳原町) 参加人数:54 人(うち島内参加者 12 人) (図1)対馬への入込客数と宿泊収容人数*2 (図2)対馬の月別観光客数*2 ※平成24~28 年の平均 (図3)域学連携事業における来島人数*4*53.1 研究会の満足度
アンケートの結果によ ると、全体の満足度につ い て は 、27 人 中 12 人 (44.4%)が「非常に高かっ た」と回答した(図4)。 そして、各プログラム 別に 1 日目の「フィール ドワーク」、2 日目の「対 話セッション」、3 日目の 「共創対話セッション」 での結果では、満足度が「非常に高かった」人に絞 るとほぼ同数であるが、トップ2 の回答数で比較す ると「フィールドワーク」の満足度が高く、ふたつ のセッションについてはほぼ同水準であった(図5)。 少なくとも対馬では、研究対象となる現物を実際 に見てもらうことに意味があり、この点が満足度向 上につながる肝になりそうである。3.2 経済効果
「みらいらぼつしま」開催にあたり、地元消費額 が約132 万円(ひとりあたり約 3.2 万円)、交通費も 含めると約342 万円(同約 8.2 万円)の経済効果が 得られた(表1)。補足すると、行政からは補助金(15 万円)と会議室使用(半日×2 会場)の支援をいただ いている。 平成28 年度 MICE の経済波及効果及び市場調査 事業報告書によると、国際会議に参加する前後の日 程における観光予定の有無について、日本人参加者 は約 22%が「観光予定がある」と回答しているが、 開催地別に見ると、大きな差が見られる(表 2)*6。 もちろん、三大都市圏で開催される会議の数は多 いため、すでに観光地を巡っている可能性があるこ とや、都市部の参加者が多いため観光をせずに移動 してしまうことが多いと考えられるが、地方の場合 は、コンベンショ ンを開催すること によって全国数多 ある観光地の中か ら訪れてもらえる 機会が一緒に付い てくる、と考える ことができる。3.3 内容に関する課題
フィールドワークにおける参加人数の読み違いに より漁業コースで現場まで案内できなくなったこと や、地元関係者からの発表が5 本で地域側の参加者 も少なかったことにより、地域の問題を発信するの に不十分な結果に終わった、などの課題が残った。 要因として、市民の方々が日々の生業や地区の行 事ごとなどで日常的に忙しいだけでなく、生業の内 容が天候に左右されること、全島から人を集めるこ とが地理的に難しいこと、このような場での発表や ワークショップは敷居が高いといったことが要因と して考えられ、今後市民の参加を促すにあたっては 留意しておきたいところである。3.4 手配に関する課題
開催した6 月末がドック配船(船を数日間集中点 検することにより、減便など変則ダイヤになる)期 間に当たるところに、前日から当日朝にかけ豪雨や 視界不良により空路の欠航や遅延が発生し、交通関 係のトラブルにより、一部行程に影響が発生した。 その一方で、後日談であるが、ある学会の幹事を 務める大学教員の方から「宿や移動手段を大口で手 配できるよう、(自分の学会では)開催時期を観光の オフシーズンに設定することもある」との話を伺っ た。リスクが避けられるに越したことはないが、様々 な制約がある島という環境でそれにこだわりすぎる と何もできなくなる恐れもあり、むしろリスクが起 きることを前提に、影響を最小限に抑える対策を準 1 日目 フィールドワーク (n=25) 2 日目 対話セッション (n=27) 3 日目 共創対話セッション (n=27) (図4)全体の満足度(n=27) (表1)みらいらぼつしま開催による経済効果 (表2)国際会議前後の観光予定*6 (図5)各プログラムにおける満足度備しておくことが必要になりそうである。