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移住者と地元住民の「共創」に関する研究-地方創生を「移住ブーム」ではなく「異文化」・「共同性」から考える-

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*連絡先: 九州大学大学院統合新領域学府, 〒812-8581 福岡市東区箱崎 6-10-1, E-mail: 2FS16007G@s.kyushu-u.ac.jp

移住者と地元住民の「共創」に関する研究

-地方創生を「移住ブーム」ではなく「異文化」・「共同性」から考える-

A study on "co-creation" of migrant and a local resident

-Thinking of regional revitalization with "different culture" and "association "instead of "migration boom"-

後藤翔一郎

1*

Shoichiro Goto

1

1

九州大学大学院 統合新領域学府

1

Kyushu university graduate school of integrated frontier sciences

Abstract: In this paper, while migration from urban areas to rural areas in the country is becoming popular, we examined the way of migration from the perspective of "different culture" moreover "association" instead of "migration boom". The object of this study is not only a single viewpoint of migrants seen in many of previous studies but also "co-creation" of both, including the local residents. In order to build the association of migrants moreover local residents in migration, we cited three cases of "school transference," "vacation rental" and "‎organ transplantation". In consequence, it is assumed that (1) environment to play, (2) presence of third party administrator, (3) Reputation system, (4) cooperation system between administrator and local residents, (5) understanding of rejection are important by analogy. In order to lead sustainable regional revitalization, success of migration is important, as migrants and local residents can build good relationships. Therefore, we show that we can utilize the perspective of <co-creative> association proposed in this paper for support of community.

(1)はじめに

本論文では,国内における都市部から地方部へ の日本人の移住を対象に検討する.中でも,移住 者といった外から見る視点だけではなく,その土 地に住み続ける地元住民の内から見る視点の両視 点を分析視角として,お互いがよき関係性を築く 「共創」について考察する.メディアによってつ くられた「いいとこ」映しの「移住ブーム」の裏 に隠れた移住の課題について「異文化」・「共同性」 の視座から明らかにするものである. そこで,2 章では研究目的,3 章では既往研究の 整理,4 章では移住ブーム,5 章では異文化理解と 共同性・公共性についての考察,6 章では 3 事例の 類推から<共創的>共同性について考察する.最 後に7 章ではまとめと今後の展望について記す.

(2)研究目的

近年,地方部への移住が人気を集めている.2014 年度に地方自治体の移住支援策を利用するなどし て地方部に移住した人が1 万 1735 人と 09 年度か ら 5 年間で 4 倍以上に増えている(『毎日新聞』 2015.12.20 東京朝刊).現在も,移住志向の高まり を受け,支援策を拡充する自治体の増加が影響し, 地方への移住は一種の「ブーム」と言うことがで き,移住者は年々増加傾向にある. しかし,ブームの意味にあるように,ブームは 一時的に人気がでるといった最大瞬間風速は強い が,持続性は弱いものと解釈できる.都市部から 地方部への移住が,今後ますます地方創生の重要 なポジションに位置づけられていることからも, 移住を一時のブームで終わらせない持続的な取り 組みを検討する必要がある. 移住者も地元住民もその土地で生きる一人の人 間であるが故に,単に移住を行政主導による地方 創生の政治的課題として捉えるだけでなく,そこ に生きる人々の認識や価値観など人の感性的な側 面に寄り添いながら検討される必要がある.現代 の社会的背景に即する移住の在り様を個々の事象 から抽象化(メタ化)していくことが重要である. 移住者と地元住民の「間」を考察し,よそ者(異

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表 1 既往研究の整理(大橋ら13)の整理を一部加筆により作成) 文化)がその土地に棲み込む(dwelling in)ためには どうすればいいのか,移住者と地元住民のインタラ クションで考える地域づくりについて展望すること を目的とする.

(3)既往研究の整理

これまでにも移住をテーマにした研究が多く成さ れてきた.既往研究の整理を表 1 に示す.表1に示 すように,都市部や地方部に関する移住者の価値観 や居住地選択に関する選好条件など,多様な事項が これまで多く検討されている. しかし,既往研究の多くは,外側から見た視点の みを対象にした研究と見受けられる.どのようなま ちが移住場所として最適であるか,またどのような 条件を移住者は求めているのかというように,まる でそのまちが移住者のために存在しているかのよう な調査結果と分かる.実際の移住では,移住者と地 元住民との関係性や連帯感は切っても切り離せられ ない影響があるにも関わらず,移住に対する地元住 民の存在を反映させる研究が少ない.表面的に移住 を促進させたとしても,そこに生きる人々やコミュ ニティの問題は,より根深いものであり移住者と地 元住民の間には文化的差異(異文化)が生じている. 地元住民は,移住者に対してどのような感情を持ち, 何を求めているのか,移住を成功へ導くためのアプ ローチとして何が考えられるかといった問題提起が ある.既往研究の整理によって,より一層の移住者 のみならず,地元住民の視点を取り入れた分析視角 の必要性が浮かび上がってくる.

(4)移住ブーム

(4)-1 背景

近年,日本人の働き方や,ライフスタイルの在り 方は大きな転換期を迎えている.IT 技術の革新,自 治体や企業による環境整備によって移住や二拠点生 活,リモートワークへの“ハードル”が下がり,誰も がその選択の機会を享受できるようになった.米田 氏(『いきたい場所で生きる 僕らの時代の移住地図』 2016)によると,『移住が当たり前になる時代がやっ てきたのだなと実感している.移住という言葉の中 には,「東京での仕事や住まいをすべて手放して,新 しい人生を歩み直す」といった仰々しいイメージで 現実味を帯びない印象があったが,実際に移住をし ている人たちを見れば,東京と行ったり来たりして いたり,東京の仕事をリモートでやっていたりと, “身の丈にあった”移住をしている』と述べている. このように,移住と一言で言っても実生活における 移住との関わり度合いは人それぞれであることが推 測でき,移住者の中にも「骨を埋める覚悟」で移住 する人も居れば,仕事や家庭の影響で一時的に移住 をしている人など,移住の動機は多種多様である. つまり,誰もが多様なライフスタイルを選択するこ

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とが可能となり,その欲求が高まりつつあることが 考えられる.

(4)-2 ブームの事例

移住ブームに代表される地域に沖縄が挙げられる. 西村氏は,移住ブームの影響を大きく受けた沖縄の 移住について報告している14) 西村氏は,『移住ブームが形成された一要因にテレ ビや,メディアを通して浸透していった沖縄特有の 自然や気候を中心とした「沖縄イメージ」の形成』 を挙げている(西村 2008).このことは都市部から 地方部を見た際に,メディアが映し出す一種の「良 い田舎」イメージが地方部の全体として形成されて いると考えられる.つまり,「いいとこ」しか映さな い非常に限られた例を,一挙に全体のイメージにし てしまい,偏見の拡大生産に繋がる恐れがあると言 える. さらに,「移住を支援する移住仲介業者や不動産業 者の働きによる移住ビジネスの拡充,移住者のブロ グを通して移住に関する情報を容易に得ることがで きることも移住者が増加し,移住ブームへと繋がっ た要因である」と述べている(西村 2008).情報化 時代において,あらゆる情報を容易に手にすること が出来るようになったものの,ステレオタイプ(異 文化を捉えようとする場合,断片的な印象から大雑 把に類型的な形づけを行ってしまうことが多く,そ うした捉え方を指す15))な決めつけが拡大する恐れ が生じる.これは,情報を受容する立場の情報リテ ラシーがより一層問われることになっていることが 示唆される. また,移住は憧れを抱いて移住する人々が増える 中,「地域との関わりを持とうとする移住者は少なく, 地元住民は地元住民の,移住者は移住者のコミュニ ティが別に形成されることが多く,住人同士の結び 付きが弱い」ことを課題としている(西村 2008). こ こ で , 生 物 学 分 野 で 使 う イ ン ブ リ ー デ ィ ン グ (inbreeding)という言葉を用いる.同系繁殖,近親 交配,近親結婚のことであり,遺伝上の悪い問題を 起こす.生物学的にインブリーディングがよろしく ないのであれば,社会学的なコミュニティを捉える 際も,新たな創造力を排除してしまう良くないもの と推察できる.つまり,移住者は地域の新たな活性 剤・起爆剤となっている反面,ある種の「いいとこ」 イメージから抜け出せず,最終的には地域のコミュ ニティに溶け込めないまま,せっかくの移住が失敗 に終わるケースも少なくないのが今のブームの現状 である.このことから,本論文ではブーム色の強い 移住の在り様に対して否定の立場を取ることにする.

(4)-3 移住体験ツアー

現在,ブーム色から脱却するべくメディアでは分 かりきれない部分を「移住体験型プログラム」とし て提供する行政やNPO 団体等が増えている.その取 組みの一例を表2 に示す.しかし,現状の取組みの 多くは,地元住民との交流は少なく,短期間である ため実際の移住定住の理解度は浅く,表面的な一種 の観光ツアーになってしまっている.また,これら の移住体験に参加した人が,実際に移住を行い,移 住に成功している人の割合が明らかにされていない 問題も挙げられる.移住体験によって,その土地の 「いいとこ」に見て触れることができたとしても, 日常生活レベルでの体験を知り得ないままだとする と,メディアによって映し出される従来の移住の捉 え方と同様なものにしか過ぎないことが考えられる. 理解とは,そもそも拙速にならないことが大切で あり,短期間で理解が深まるはずがない矛盾がある. しかし,表面的な施策によって移住を動機づけ,促 進するしかない限界が現状であり,体験ツアーの施 策のみでは,今後も持続的に移住を成功に導き続け ることは難しいと言えるだろう. 表 2 移住体験の取り組み. 移住体験プログラムの一例 事例 番号 名称 所在地 概要 共同性 (地元住民との交流) 異文化理解 (滞在の長期性) 1 ふるさと移住体験施設 長野県信濃町 田舎暮らしを無料で体験できる施設 △ 2 高知家で暮らす. 高知県 中長期滞在型の施設,畑のオーナー制度, 移住体験イベント,移住体感ツアーの提供 △ 3 しまね暮らし体験プログラム 島根県 移住者を含む島根の人達と現地でつながる体験 △ △ 4 宮崎県移住体験ツアー 宮崎県 移住後の生活をイメージできるお試し滞在や 体験型観光,グリーンツーリズム △ △ 5 蔵の街やどかりの家 栃木県栃木市 「興味があるけど,いきなり移住となると不安」 「風土や習慣を実際に感じてみたい」人に向けた体験 △

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(5)<共創的>共同性

(5)-1 異文化理解

移住ブームの考察から,移住者と地元住民が互い に地域課題解決に向けてどのように連帯(共同)す るかが重要な課題であることを述べた.

移住者は,その土地に代々住み続ける地元住民の 視点から捉えると「よそ者」にしか過ぎない.一方 の移住者もステレオタイプが多い.そのため,移住 者(よそ者)と地元住民の間には文化的差異(異文 化)の衝突が生じる可能性を持っている.衝突によ っては,地域社会やコミュニティの分断,人間関係 の摩擦を起こす危険性がある.特に,異文化理解の 入り口は,始めによそ者である移住者が新参者とし て,地域への敬意・尊重を持つ姿勢が必要である. その上で,異文化を理解しようとするインタラクシ ョンな「共同思考」や「共同行動」が移住者と地元 住民の間に求められるだろう.さらに,インタラク ションによって自文化を見つめ直すことで,異文化 との結び付きや共通性を発見し,自文化の魅力を再 発見する好機会にもなりうると考える. このように,異文化理解の視座を整理すると,強 制的にお互いの文化的背景を統一することは好まし くないことが分かる15).お互いが他者に対する敬意 と共感によって異文化を理解する視座が,移住者と 地元住民の間の認識に必要であるだろう.ゆえに, 移住が地方創生や移住促進が政治的課題のみの議論 で完結できない所以であると考える.

(5)-2 共同性と公共性

(5)-1の異文化理解で述べたように,異文化は絶え ず接触し続けるものである.さらに,文化とはそも そも差異の体系であり,文化の差異は社会的ないわ ゆる差別と似て非なるものである.差異を無くすよ うな文化の同一性は,価値の貧しい単一化に基づく ものであり,本来の文化的差異とは豊かな価値の多 様化をもたらすものとされる.また,文化的差異は 階層秩序という縦の関係ではなく,横の関係にある 多様性という認識が重要である.ここで,複数の異 なる個人や集団の結び付きの間に生成する空間を指 して,「公共性」のある空間と呼ばれている16).一元 的・排他的な帰属を求めず多様性や多義性を認める 「公共性」の概念は,異文化理解に付随して整理し ておく必要がある.公共性は,何らかのアイデンテ ィティが制覇する空間ではなく,差異を条件とする 言説の空間である.つまり,公共性は開かれた空間 であり,互いに異質を許容し合うため,移住が増加 する中での移住者と地元住民の「間」に求められる 認識と言える. とはいえ,コミュニティの議論では,地方部のよ うな農村型コミュニティは,結合型(bonding:集団 の内部における同質的な結びつき)としての「共同 性」のアイデンティティが支配しており,対して, 都市型コミュニティでは,橋渡し型(bridging:異な る集団間の異質な人の結びつき)としての「公共性」 が支配している17)と指摘されているように,地方部 においては「共同性」を土台にして着目する必要が ある.しかし,移住者が増加する地方部のコミュニ ティにおいて,従来と同様な共同性概念で留まり続 けることが難しくなる問題がある. 上述の議論のように,公共性のある空間は誰しも がアクセスしうる空間であり,アイデンティティが 多義的であることが特徴である.異文化が絶えず接 する移住においては,共同性の捉え方が誤解して解 釈されると,個の抑圧や同化圧力,攻撃に繋がる危 険性があることも考えられる.異文化や個を理解(共 感・尊重)した「共同性」の立場が求められている (図1参考)18) また,「共同」の同音異義語に「協働(collaboration)」 がある.共通の利害関心をもつ人々が共通の目的の ために機能的に協力すること19)を示し,labor,すな わち,働くという意味合いが強い.対して,「協同 (cooperation)」,「共同(association)」は,ある人と共 通の利害関心を持たない人が,その人の求めに応じ 協力することや,広い意味で力を合わせること19)を 示す.中でも,「共同」は同じ条件・立場で結合した り関係したりと言いった意味合いが強いとされる. (4)-2のインブリーディングの議論で示したように, 移住は地方創生の一翼を担うものとされていること から,移住者と地元住民の間にまたぐ共同性を土台 に,その土地土地でよき営みを共に創りあげる創発 性のある共同性の視座が移住者と地元住民の間に求 められるものであり,その視座を提起することが重 要だと考える. これまでの考察を整理するならば,地方部におけ る従来の共同性概念は,これまで同様重要なアイデ ンティティであることに違いない.しかし,21世紀 の今,移住者と地元住民の異文化が接する移住型コ ミュニティにおいては,従来の共同性の視座に留ま り続けることは一概に好ましくないことが共同性・ 公共性の概念の整理により考えられる.人口流動が 避けては通れなくなった社会生活の中では,誰もが オープンに価値の多様化を認め合う「公共性」の中 で,ある共通した目的に沿って関係を及ぼし合いな がら結合する「共同性」を踏まえた上での「共創」 を目指していくことが重要になると考える.そこで,

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図 1 心理状態と行動に関する考察18)(一部加筆). 図 2 移住型コミュニティの概念図. 図 3 組織のダイアローグとの関連図21)(一部加筆). 図 4 移住型コミュニティの提案図. 図2にコミュニティとアソシエーション20)を軸にと った移住型「<共創的>共同性(co-creative association)」の概念図を提起する.図2で意味するコ ミュニティ(農村型コミュニティのような運命共同 体的な存在のみをコミュニティと指す場合もあるが, ここでは,より広い範囲でのコミュニティを捉える) とは,村とか町あるいは地方や国などより広い範囲 の共同生活のいずれかの領域を指し,多様な社会生 活の存在のことを指す.そこでコミュニティにおけ る創発性(emergency)を縦軸とした.対して,アソ シエーションとは,ある共同の関心(利害)または 諸関心を追求するための組織体を意味する.すなわ ち,農村型は地域志向によって域内の結び付きが強 い反面,文化・慣習の同質性によって創発性の機会 が減少しやすい.また,都市型は個人志向によって, 多様な視点を有する個々人としての創発性は高いと 言えるが,都市では隣人の顔さえ知らないように独 立した個人プレー色が強い. したがって,地方部での移住型は,移住者と地元 住民のよき関係性を築くことにより,アソシエーシ ョンと創発性を期待できるコミュニティと考えられ, 農村型の地域存続の視点を超えて,域内循環として 有望なコミュニティになると推察される. 組織マネジメント分野の議論においても,激変す る環境に適応するため,組織成員の協動的相互作用 を通じて創造性を発揮する組織として「共創型組織 (co-creative organization)」の重要性が問われている 21).時代の流れと共に,組織内部においても管理者 からフォロワーへという垂直的関係の指示的なコミ ュニケーションから,水平的関係の協調的なコミュ ニケーションが重視されるようになり,現在はさら に知識を創り出す組織のマネジメントへと強調点が 移っている.つまり,相互作用を通じた創造的なコ ミュニケーションが重視されている. 創造的コミュニケーションの重要性は,中原・中 尾氏による「組織のダイアローグ」を基に議論され ている22).組織内のダイアローグ(対話)を,共同 性・公共性・<共創的>共同性内のコミュニケ−ショ ンと比較し考察したものを図3に示す.共同性によっ て制覇される農村型コミュニティは,一般的に対人 距離が近いと考えられるため,「緊密なコミュニケー ション」が生じる.さらに「個人の主体性」や「情 報の伝達」を重視した効率的なコミュニケーション は,都市型コミュニティを制覇する公共性によるも のと推察することができる.組織のダイアローグに おいても,「相互理解」,「個人の主体性」を重視した オープンなコミュニケーションが重要視されている ように,本論文で提起する移住の<共創的>共同性 のコミュニケーションの在り様においても「オープ

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ンなコミュニケーション」が求められるものと考察 でき,そのコミュニケーションが移住を成功に導く 鍵になっているように考えることができる. また,共同性の議論では,コミュニティに関わる 担い手は果たして誰なのかを明確にしておくことが 必要である19).移住者なのか,地元住民なのか,行 政なのか,あるいは学校や民間企業なのか.コミュ ニティの担い手の所在と役割に関しても,十分に注 意しながら<共創的>共同性を考察する必要がある だろう.

(6)転校・民泊・臓器移植

移住型コミュニティには,<共創的>共同性の視 座が重要である考察を先に述べた.現在の社会では, あらゆる場面で一種の共同的事例を数多く見ること ができる.中でも,本論文では「転校」・「民泊」・「臓 器移植」の3 事例を挙げ,<共創的>共同性の構築 について類推解釈する.というのも,人間活動は感 性的な側面が大きく,理論で一様に導くことは難し いため,種々の実践・事例を用いた統合的な視覚が 必要と判断したからである. 最後に,本論文の結論として移住型コミュニティ での<共創的>共同性の提案を図 4 に示す.

(6)-1 転校(学校)

親の転勤や転職に伴って,子どもも同時に転校を 余儀なくされる.(4)-2 で述べたように,同じ立場で 関係を及ぼし合う意味合いから学校やクラスも1 つ の閉鎖されたコミュニティと捉えることができる. そのため転校(転入)も新しい環境に移行する環境 移行事態の一つであることから,一種の移住と同様 な様相を帯びていると解釈できる. 転校の特徴としては,主体が大人ではなく子供で あることが挙げられる.また,子どもは学校におい て学習環境と共に「①遊ぶ環境」が与えられる.勉 強という目的以外に,遊ぶ体験によってコミュティ の共同性に触媒的機能をもたらしているのではない だろうか.さらに,クラスの管理者には教員が存在 する.子どもから見ると「②第三者的な管理者」が コミュニティの状態を円滑にコントロールしている と言える. 転校における適応過程はこれまでも議論が多く成 されている.転校児童は,転校後「約一年間」の学 校生活が生活空間(物理的環境,対人的環境,社会 文化的環境がそれぞれ独立にではなく,一つの生活 空間として互いに関連を持って生活体に影響を与え る)再体制化に必要な期間と示されている23).そこ で,移住においても対人的環境のみを捉える議論が 多い中,物理的・社会文化的環境も含めた「生活空 間」の適応過程を捉える必要があるものと類推でき る.共同性は(5)-2 に述べたように,同じ立場・条件 によることから,生活空間に適応することがコミュ ニティの共同性を醸成する前提として欠かすことが できない因果関係になっているものと推察する.故 に少なくともその土地の春夏秋冬を体験できる一年 間を指標に移住後の経過を捉える必要があるだろう.

(6)-2 民泊(Airbnb)

近年,民泊が注目されており,中でもAirbnb(エア ビーアンドビー)が世界で人気を博している.Airbnb は,ホスト(泊める側)とゲスト(泊まる側)のニ ーズを繋ぐサービスを提供している.新しいイノベ ーションでありメリットも多いが,旅館業法との兼 ね合いや地元住民とゲスト間でのマナーや騒音問題 など改善の余地も多いとされる. ここでは,Airbnb が導入するシステムの「③レピ ュテーション,評判のメカニズム 24)」を考察する. ゲストがホストについてウェブサイト上で,どのよ うな民泊施設であったのかコメント(レビュー)で きることと同様に,ホストがゲストについてもどの ような宿泊客であったのかコメントでできるといっ た Airbnb が互いのユーザー情報を仲介する仕組み がある.ゲスト,ホストが共にお互いの評判を可視 化することで,他者のホストやゲストからも信頼を 築き不安を解消するシステムとなっている. レピュテーション開示システムは,移住において もゲスト(移住者)とホスト(移住を促進する行政 や移住サポートの企業・NPO 団体等)間での信頼性 を高められるコミュニケーションとして有用である と類推する.行政のHP などで移住者を紹介しコメ ントする仕組み同様に,移住者から行政の施策や地 域の問題にコメントやレビューをする機能を付け, その情報を地域の担い手全員に向けて可視化するこ とが重要である. とはいえ,ホストとゲストの間の合意形成が円滑 であっても,周辺の地元住民と移住者(ゲスト)の 間に生じる問題は解決されない.民泊では,ホスト と地域住民の合意無しに,ゲストと地域住民との共 同性の醸成は不可能であると考えられており,移住 においても,「④ホスト(管理者)と地域住民の協力 体制」の構築が移住促進のための前提として重要で あることが類推される.分断と統合は,いろいろな 場面で生じている問題であるが,急増する民泊の社 会現象は分断と統合の縮図と言え,移住議論の新た な糸口になるのではないだろうか.

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(6)-3 臓器移植(人体)

臓器移植とは,働きが失われた臓器の代わりに, 他の人からその臓器の提供を受け移植する医療であ る.臓器提供を受ける人(レシピエント)の人体に, 臓器を提供する人(ドナー)の一部が移植される. つまり,レシピエントとドナーの間に起きる移植は, 一種の移住と同様であると比喩的に解釈できる.移 植は,外から入ってきた異物を「非自己」(自分でな いもの)と認識して,排除する「免疫」の機能を持 つ.このことを「⑤拒絶反応」と言う.拒絶反応に は移植後,すぐに起こるものや数日から数カ月で起 こるもの,数年かけて起こるものがあるため,長期 的に経過を見ていくことが求められる.移植では, 拒絶反応をいかに最小限にコントロールすることが 重要であり,社会学的な移住を捉えた時も,同様な コントロールが求められることは容易に解釈できる. 臓器移植によって拒絶反応を起こす免疫は,生体に とって元来必要な働きであり,拒絶反応を抑えるた めに,免疫を強制的に抑えようとすると,本来の抵 抗力がなくなり感染症を起こす危険性がある.移住 者や地元住民も生体であることから類推すれば,地 元住民の拒絶反応を無理に抑圧することは,地元に 受け継がれる土地の文化や慣習,風景を風化しかね ない.つまり,その土地特有のアイデンティティを 脅かす原因になることが考えられ好ましくない.し たがって,拒絶反応が元来起こる働きであることを コミュニティに関わる担い手全員が前提として知っ ておくことが何より重要と言えるだろう.

(7)まとめと今後の展望

本論文では,移住ブーム色の強い議論から脱却し, 移住型コミュニティとして,新たに<共創的>共同 性の視座の重要性を異文化理解・共同性(公共性) の考察を通して提起した.さらに,移住者と地元住 民の<共創的>共同性の考察において,5 つの事柄 が重要と考えられることを類推解釈した.明らかに したことは以下のとおりである. ① 遊ぶ環境の提供 ②第三者的な管理者の存在 ③レピュテーションシステムの構築 ④管理者と地元住民の協力体制 ⑤拒絶反応の理解 「①遊ぶ環境」には,地域のイベントやワークショ ップ等が挙げられる.イベントとはいえ,伝統 的なお祭りは土地固有のものであるため,新参 者である移住者には敷居が高くなってしまう恐 れがあるだろう.そのため,子どもが行うよう なフラットな遊びの中に更なる共同性構築の気 づきがあると考えられる.また,遊びの中にも 「学び」があるならば,共同性に加えて,共創 的な意味合いを持つようになるものと考える. 「②第三者的な管理者」には,コミュニティの一員 として実質的には属さない行政や民間企業に務 めてもらうことが考えられる.さらに,産官学 と言われるように大学も第三セクターとしての 参加が推奨されることは容易に解釈できる.こ のように,共同体の管理者にはファシリテータ ー的で尚かつ全体のコントロールを行う役割 (仲人)を設けることによって,円滑な共同性 を築くものと解釈する. 「③レピュテーションシステムの構築」には,地元 住民の声を管理者が代表し,移住者がどのよう な人であるかコメントを付けレビューを開示す る.レビューは移住者や地元住民に可視化され るため,移住者にはその土地への敬意の姿勢を 常に持つことをお願いする.また,これから移 住する人が前移住者に関するレビューを見るこ とができるため,その土地が求める移住者像や どのような仕事で地域に活躍しているのかとい った情報を,移住者の形式的な紹介だけでなく レビューによって知れるメリットがあり信頼関 係の醸成に繋がることが考えられる. 「④管理者と地元住民の協力体制」には,管理者と 地元住民の間での合意形成の必要性を問いてい る.両者の合意形成無しに,管理者により移住 者を促進させたとしても,地元住民の理解が得 られていないため,反発や衝突が起こることは 明らかである.行政等は移住者に対しては十分 な説明を行うものの,地元住民への説明が現段 階では少ないのではないだろうか.移住者がそ の土地でよき共同性を築くためにも,地元住民 との合意形成を前提として行っておくことが重 要である. 「⑤拒絶反応の理解」は,地元住民の中で特に異文 化に触れたことが無い人であれば,そもそも対 処法に見当がつかないであろう.非自己に対す る免疫は生体の本来の機能であるという認識が 必要である.これまでの議論の多くはこの生体 本来の免疫機能を軽んじていたとこがある.拒 絶反応を強制的に抑えることで同化圧力・無関 心・分断をもたらすのではなく,お互いに尊重 し認め合う理解のまなざしが重要であると言え る. 以上,5 つの提案をまとめると,既往研究の多く に見られる移住者の価値観や移住先の選好条件を捉

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えることよりも,移住者と地元住民の関係性に関す る研究が求められることが推察できる.今後は,そ の土地に住み続ける地元住民への聞き取りを通して, 本論文で考察した共同性に関して実証しなければな らない. また,外側から見るだけでなく,内側からも理解 しようとする調査方法に,文化人類学の「参与観察 法(Participant Observation)」がある.移住も一種の 異文化理解と捉えられるため,その社会の人々と文 化的体験をなるべく共有することで深い理解に繋が る.この深い理解によって移住が失敗に終わるケー スを軽減することができるだろう.しかし,実際の 移住では誰もが皆そのような体験を持って移住する ことは,物理的制約や時間的制約によって現実的に 難しい.そのため,本論文の考察を活用し実践レベ ルで移住者と地元住民の共同性構築に活用されるこ とが今後の展望として期待される. これら共同性にまつわる議論は,観光客対観光地 に住む地元住民との間に起きる衝突(マナーや慣習 の違い)や,外国人インバウンド増加による文化衝 突等と共通した問題意識が浮かび上がる.異文化理 解や共同性に着目した移住コミュニティ議論のみな らず,インタラクションによる共創知は今日の社会 のあらゆるケースにおいて,重要性を見つめ直す必 要があるだろう.

謝辞

本論文を終えるにあたり,本研究を遂行する上で 幾度となくご助言,ご指導してくださった九州大学 坂口光一教授に厚く御礼申し上げます.

参考文献:

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表 1   既往研究の整理(大橋ら 13) の整理を一部加筆により作成)       文化)がその土地に棲み込む(dwelling in)ためには どうすればいいのか,移住者と地元住民のインタラ クションで考える地域づくりについて展望すること を目的とする.      (3)既往研究の整理      これまでにも移住をテーマにした研究が多く成さ れてきた.既往研究の整理を表 1 に示す.表1に示 すように,都市部や地方部に関する移住者の価値観 や居住地選択に関する選好条件など,多様な事項が これまで多く検討
図 1    心理状態と行動に関する考察 18) (一部加筆).      図 2  移住型コミュニティの概念図.      図 3  組織のダイアローグとの関連図 21) (一部加筆)

参照

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