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SPring-8 BL08Wにおける磁性薄膜の磁気コンプトン散乱実験

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目次 目次 目次 目次

第一章

序論

2 1.1 研究背景 3 1.2 SiNメンブレン基板 6 1.3 磁気コンプトン散乱実験 8 1.4 研究目的 9

第二章

試料

10 2.1 試料作製装置 11 2.2 X線回折 14 2.3 試料作製 19 2.4 磁化測定 25 2.5 まとめ 27

第三章

磁気コンプトン散乱実験装置

SPrin-8 BL08W

28 3.1 実験装置の改善 29 3.2 第一段バックグラウンド低減実施 32 3.3 モノクロメーター交換 37 3.4 第二段バックグラウンド低減実施 39 3.5 第三段バックグラウンド低減実施 47 3.6 まとめ 51

第四章

磁気コンプトン散乱実験

52 4.1 磁気コンプトンプロファイル測定 53 4.2 磁気コンプトンプロファイル測定装置 57 4.3 磁気コンプトンプロファイル測定手順 59 4.4 磁気コンプトンプロファイル解析手順 61

第五章

実験結果と考察

63 5.1 磁気コンプトンプロファイル 64 5.2 検討 69

第六章

本研究のまとめ 74

参考文献

76

謝辞

78

(3)

第一章

(4)

1.1 1.1 1.1 1.1研究背景研究背景研究背景研究背景 近年、ハードディスク装置(HDD)は、コンピュータの外部記録装置としてだけでなく、 映画やテレビ番組をはじめとしたいわゆるデジタル AV(Audio-Visual)情報を扱うストレ ージ機器として、ビデオレコーダやカーナビゲーションシステム、家庭用ゲーム機などへ 搭載されつつある。AV-HDD と呼ばれるこれらの HDD は、大容量性、高速性ならびに低 価格性という特徴により、長時間録画や高速ランダムアクセス、ならびに多チャネル同時 録画再生など、従来のビデオテープや光ディスクなどでは実現不可能な多彩なニーズに応 えることができるため、今後ともその適用範囲を広げながら急激に需要をのばしていくも のと予想される。そして、そのような新しい市場に対応するためには、現在年率 100%近い 勢いで増加し、量産レベルで 30G ビット/in2に達している記録密度を、今後ともさらに向 上させていくことが強く要求されている。 これまでの HDD は、記録磁化を薄膜面内に配列させる長手磁気記録方式(面内磁気記録 方式)を用いている。この方式で高密度化を進めると、室温の熱エネルギーで記録磁化が 不安定化する熱じょう乱の問題が避けられない。さらに、反強磁性結合(AFC)媒体と呼 ばれる、熱安定性に優れ、かつ 100G ビット/in2以上の高密度化が可能な長手磁気記録媒体 (面内記録媒体)が提案されていたが、一般に 100G/in2を大きく超える記録密度の達成は 困難であると考えられている。そのため、超高密度記録が実現できる新しい記録方式、す なわち高密度化するほど記録磁化が安定化するという特長を有する垂直磁気記録方式が大 いに注目され、これまでに実用化されている。 垂直磁気記録媒体の一般的な層構成と、記録磁化の模式図を Fig. 1.1 に示す。基板上には、 軟磁性裏打ち層、非磁性中間層、ならびに情報を担う磁気記録層が順次積層されている。 記録磁化は、長手磁気記録(面内磁気記録)とは異なり膜内に垂直方向に配列されること から、各層に求められる膜構造や磁気特性は長手磁気記録媒体(面内磁気記録媒体)とは まったく異なっている。したがって、垂直磁気記録媒体の実用化には、その層構成および 薄膜材料、さらには精緻(せいち)なプロセス技術を新規に設計・開発することが必要不 可欠である。 このうち、記録磁化を保持する磁気記録層の高性能化は特に重要である。ここで、磁気 記録層に用いられる薄膜材料には、Fig. 1.2 に示すように、適用可能な記録密度に対応して、 CoCrPt [1-3]、Co/Pt[4,5]、Co/Pd[6-8]、等の微粒子系薄膜、積層膜、アモルファス薄膜、 あるいは、規則格子合金が挙げられる。これらは、それぞれの薄膜材料の微細構造や物性 値、特に垂直磁気異方性エネルギー

K

uの大きさによって特徴づけられたものであり、磁気 記録の開発の分野においては、目標とする記録密度に応じた適切な材料選択が必要となる。 記録を高密度化するときに問題となるのが「超常磁性」である。超常磁性とは、磁性電子 の粒径を微小化したとき、熱揺らぎ現象の影響を受けて、磁化がランダムに配向して常磁 性のような振る舞いを見せることである。HDD が、寿命の範囲内でデータが安定であるた

(5)

めの最低条件は、

60

>

T

k

V

K

B u (1-1) とされている。これが成り立たないとき、「超常磁性限界」と呼ばれる記録された磁気情報 が保持できなくなる現象が起こる。超常磁性は、熱揺らぎの熱エネルギー(

k

B

T

)が磁性 体の磁気異方性エネルギー(

K

u

V

)より大きくなることが原因である。超常磁性の影響を 受けないようにするためには、磁気異方性エネルギーの大きな磁性体が必要となる。磁気 異方性エネルギーは一軸磁気異方性定数(

K

u)と粒子の体積(

V

)の積で表される。記録 を高密度化すると、

V

が小さくなる。つまり、記録の高密度化のためには

K

uが大きな磁性 体が必要である。 この要求を満たすために様々な材料が検討されている。しかしながら、実用的視点から の材料開発の研究が先行する一方、垂直磁気異方性の起源については多くの実験及び理論 の研究[9-12]があるにも関わらず、未だ完全には解明されていない。いくつかの理論の論文 では、波動関数の異方性が垂直磁化に寄与しているということを指摘している。したがっ て、実験的に波動関数の異方性を観測することが、ナノ構造磁性材料の理解に大きな意味 を持ち、垂直磁気異方性の解明の鍵になると考えられる。 電子構造を測定する方法として、磁気コンプトン散乱実験がよく知られている[13-22]。 この実験法によって得られる磁気コンプトンプロファイル(magnetic Compton profile, MCP)は、磁性を持つ電子に起因した運動量密度分布を運動量 px, pyで積分したものである。 運動量密度分布は、運動量空間における波動関数の絶対値を自乗したものであるため、磁 気コンプトン散乱により、磁性電子の波動関数を知ることができる。よって、試料内にお ける磁性電子の波動関数に直結した測定量である。さらに、測定方位(pz)を変えることによ って波動関数の異方性を観測することが可能である。よって、ナノ構造磁性薄膜における 磁気特性(垂直磁気異方性など)と波動関数との関連性を明らかにする有用なテクニック として期待されている。 本研究では、垂直磁気媒体等に用いられている磁性薄膜材料を磁性電子の波動関数の観 点から評価する磁気コンプトン散乱実験法を用い、現在実用化されている薄膜材料である Co/Pd多層膜ナノメートルオーダーの厚さで磁性電子の波動関数を観測した。これまで、未 知であったナノメートルオーダーでの波動関数の観測を行うことで、よる実用化に近い材 料の評価が可能となり、電子状態から見た材料設計が可能になり、より良い磁性薄膜材料 の開発においての新しい評価法になると期待される。

(6)

Fig. 1.1記録磁化の模式図

(7)

1.2 SiN 1.2 SiN 1.2 SiN 1.2 SiNメンブレンメンブレンメンブレンメンブレン基板基板基板 基板 磁気コンプトン散乱実験用の多層膜用基板として、新たに SiN メンブレン基板(厚さ 100nm)を使用する。これは今までに用いられたことがなく、Co/Pd 多層膜のスパッタ作 成条件を探索した。これにより、従来は不可能であった、極めて薄いナノ(100nm 程度) 磁性薄膜の磁気コンプトン散乱実験を目指した。100nm 厚のナノ磁性多層膜の磁気コンプ トン散乱実験例はまだない。これまでに群馬大学の櫻井浩等により、SPring-8 BL08W に おいて、厚さ 1μm の Pd/Co 人工格子(実際には 4 回折りたたんで有効厚さを 16μm とし、 基板として厚さ 4μm の PET フィルムや厚さ 12μm の Al フォイルを使用)の磁気コンプ トンプロファイルが測定されている[17,18]。しかし、ナノ薄膜試料を桜井等の実験と同様 に行うには、次のような問題点があった。(1)測定試料の厚さが 1μm であり、現在実用 化されている磁気ストレージの磁性多層膜厚さ(50nm~100nm)と比較して十倍以上厚い。 (2)PET film 基板の厚さが、試料の厚さに比べて 4μm と十倍以上厚く、さらに、フィ ルム表面が均一ではないこと等が挙げられる。 そこで、本研究では、PET フィルムや Al フォイル等の厚い基板を廃し、薄くかつ界面が 均一な基板として SiN メンブレン基板(100nm)の導入を行った。Fig.1.3 に SiN メンブレ ン基板の概略図を示す。SiN メンブレン基板は、NTT ナノファブリケーション株式会社よ り購入した[23]。SiN メンブレン基板の磁気コンプトン散乱実験への導入は本研究が初めて である。基板の厚さを薄膜試料の厚さと同程度に薄くすることにより磁気コンプトンプロ ファイルの S/N(signal to noise ratio)が良くなることが期待された。具体的には、PET film(4μm)を SiN メンブレン(100nm)へ変更することにより、バックグランドが約 1/40 へ 低減することが期待された。SiN メンブレン基板を用いた Co/Pd系ナノ磁性多層膜試料 (100nm)の作成は、群馬大学 ATEC(Advanced Technology Research Center)の高周波スパ ッタ装置を用いた。しかしながら、群馬大学櫻井等のグループにより作成された薄膜試料 に比べて全体の試料厚さが約 10 分の 1 以下となるので、試料自体の体積が減り、磁気コン プトンシグナルが非常に小さくなる、という問題点が新たに発生した。

(8)

1.2.1 1.2.1 1.2.1 1.2.1実験実験実験実験システムシステムシステムシステムのの改善改善改善改善 ナノ薄膜磁性試料の磁気コンプトン散乱実験への適用には、試料からの散乱の低減とい う新たな問題を解決する必要がある。そこで、考えられたのが 2 つの方法である、①試料 や基板以外からの散乱(=バックグラウンド)の低減、②入射 X 線のエネルギーを変更(175 keV → 115 keV)による入射フォトン数の増加(第三章にて述べる)である。コンプトン散乱 は、あらゆるものから起こるため基板、実験装置等からでも散乱が発生する、このためバ ックグラウンドとして検出器にも入ってきてしまうので検出器回りを鉛などで遮蔽する必 要がある。すでに検出器回りは鉛のボックスで覆われているので更なるバックグラウンド 対策が必要である。

(9)

1.3 1.3 1.3

1.3磁気磁気磁気磁気コンプトンコンプトンコンプトンコンプトン散乱実験散乱実験散乱実験散乱実験

電子構造を測定する方法として、磁気コンプトン散乱実験がよく知られている[13-22]。 この実験法によって得られる磁気コンプトンプロファイル(magnetic Compton profile, MCP)は、磁性を持つ電子に起因した運動量密度分布を運動量px, pyで積分したものであ る。運動量密度分布は、運動量空間における波動関数の絶対値を自乗したものであるため、 磁気コンプトン散乱により、磁性電子の波動関数を知ることができる。よって、試料内に おける磁性電子の波動関数に直結した測定量である。さらに、測定方位(pz)を変えることに よって波動関数の異方性を観測することが可能である。よって、ナノ構造磁性薄膜におけ る磁気特性(垂直磁気異方性など)と波動関数との関連性を明らかにする有用なテクニッ クとして期待されている。 磁気コンプトン散乱実験を行うには、高エネルギーの円偏光 X 線が必要であるため、シ ンクロトロン放射光が有用である。兵庫県にある大型放射光施設 SPring-8 内にある非弾性 散乱専用ビームライン BL08W において磁気コンプトン散乱実験が可能である。磁気コンプ トンプロファイルは原理的には、磁性薄膜の波動関数の観測や元素選択的なスピン磁気モ ーメントの観測に有効であるが、実際の実験では 60keV から 180keV の高エネルギーX 線 を利用するため、薄膜の測定は困難であるとみなされてきた。これまでに、1µm 厚磁性薄 膜の磁気コンプトンプロファイルの測定が可能であるということが実証されている[18]。そ こで、ナノメートルオーダー薄膜の磁気コンプトンプロファイルの観測に挑戦する。

(10)

1.4 1.4 1.4 1.4目的目的目的目的 本研究では、ナノメートルオーダーの磁性薄膜の磁気コンプトンプロファイル測定を行 うことを目的とし、新しい基板の導入と実験装置の改良により測定を行える環境にし、磁 性薄膜試料の測定を行う。Co/Pd 人工格子において、SiN メンブレン基板上磁性薄膜試料 を作製し、試料膜面垂直方向からの磁気コンプトン散乱実験を行う。また、コンプトンプ ロファイルの観測により基板からの散乱の効果とバックグラウンド散乱の効果を評価し、 以前の結果と比較を行う。さらに、100nm 厚の薄膜試料について、測定時間の見積もりを 行う。

(11)

第二章

(12)

2.1 2.1 2.1 2.1試料作製装置試料作製装置試料作製装置試料作製装置 2.1.1 2.1.1 2.1.1 2.1.1装置概略装置概略装置概略装置概略 本研究で初めて SiN メンブレン基板(100nm)を用いるので、まず、始めに標準試料とし て Fe の成膜条件模索を行った。 試料作製には群馬大学 ATEC にある高周波スパッタ装置を用いた。装置概略図を Fig. 2.1 に示す。人工格子作製用に 3 元式(Fig. 2.2 では簡単化のため 2 元の図となっているが、実 際はターゲットを 3 個まで同時にスパッタリング可能である)のスパッタ装置となっている。 高周波電場によって加速された Ar イオンがカソード上のターゲットにぶつかることにより 物質がスパッタされ、基板に堆積する仕組みである。試料基板台をコンピュータ制御で回 転移動させることで、複数のターゲット間を一定時間おきに移動させてやることで人工格 子を作製することが可能である。まず、条件模索では、Fe の単層膜を成膜する。 2.1.2 2.1.2 2.1.2 2.1.2膜厚測定膜厚測定膜厚測定膜厚測定 スタイラス(触針)法により膜厚測定を行う。測定装置は、半径が 0.7mm~2µm の細いダ イヤモンド触針から成り、これを試料面に 500Kp/cm2(わずか 0.1g のチップ質量に相当)の 圧で押し付け、試料面を一様に横切って動かす。表面の凸凹によって生じる触針の垂直方 向の動きを電気信号に変換し、増幅後、記録する。 この方法で検知できる最小膜厚差は 2.5nm で、±2%の精度で測定でき、触針によって引 き起こされる膜の損傷もわずかである[24]。

(13)

Fig. 2.1群馬大学 ATEC 高周波スパッタ装置 Stepper m otor Sample substrate target Ar Gas

in

Sputtering power source

electrode electrode emission Stepper m otor Sample substrate target Ar Gas

in

Sputtering power source

electrode electrode

emission

(14)

2.1.3 2.1.3 2.1.3 2.1.3模索手順模索手順模索手順模索手順 ①スパッタ時の Ar 圧を変え(1Pa および 4Pa)で成膜する(Fe の単層膜)。 ②薄膜試料の X 線回折(XRD)測定を行い、回折ピークの角度から格子定数を割り出す。 ③格子定数を Ar 圧に対しプロットし回帰直線を引く。PDF データの純鉄の格子定数と同 じ値との交点の示す Ar 圧を最適な成膜条件として採用する。

(15)

2.2 X 2.2 X 2.2 X 2.2 X線回折線回折 線回折線回折 2.2.1 2.2.1 2.2.1 2.2.1測定原理測定原理測定原理測定原理 入射 X 線が結晶によって回折される条件はブラッグの法則で表される。Fig. 2.3 に入射 X 線の経路と格子面の反射の関係を示す。 格子面ⅠとⅡで反射した X 線の行路差Δl は図で示す通り Δl =2dsinθ (2-1) と表せる。格子面ⅠとⅡで反射した X 線がその干渉により強め合う条件は行路差Δlが波長 λの整数倍になるときである。従って条件は nλ=2dsinθ (n=1,2,· · · ) (2-2) と表せる。この条件がブラッグの法則である。 原子の配列が周期的であれば互いに干渉し合って、ある特定の方向のみ強い X 線が進行 することになる(X 線回折)。この X 線回折パターンが物質固有のものであることを利用し て、X 線回折は物質の同定に使用される。

入射

X

反射

X

θ

θ

θ

d

sinθ

面間隔d

格子面

格子面

Fig. 2.3入射 X 線の経路と格子面の反射の関係

(16)

2.2.2 X 2.2.2 X 2.2.2 X 2.2.2 X線回折測定線回折測定 線回折測定線回折測定 作製した試料の結晶構造を評価する方法として、X 線回折測定装置(RINT、理化学電機 株式会社)を用いた。 測定方法は θ - 2θ 法で行った。 θ - 2θ法の測定系を Fig. 2.4 に示す。 X線源(Cu 管球)を線状焦点にし、縦発散制限ソーラースリットによって縦方向の発散 を制限する。また入射高さ制限スリットで高さを、入射スリットで幅を制限し、試料に入 射角 θ で入射させる。 試料からの回折 X 線は受光ソーラースリットを通り、さらに幅制限受光スリットを通っ て、回折 X 線モノクロメーターによって回折され、検出器によってカウントされる。従っ て回折角 2θ と連動させてゴニオメーターを駆動することにより、2θ vs 回折強度の関係が 得られ、いわゆる回折パターンが得られる。 X線源 縦発散制限ソーラスリット 入射X線 入射スリット 入射高さ制限スリット 回折X線 回折X線モノクロメータ(平板) 検出器 受光ソーラスリット 巾制限受光スリット ゴニオメータ(R185mm) 試料 θ 2θ 2θ Fig. 2.4 θ - 2θ法の測定系

(17)

2.2.3 X 2.2.3 X 2.2.3 X 2.2.3 X線回折線回折測定条件線回折線回折測定条件測定条件測定条件・・・・結果結果結果結果 Table. 2.2 は X 線回折測定条件である。実験に使用する試料には、SiN メンブレン基板を 使用する予定ではあるが、現在のところ、X 線回折測定用のホルダーが SiN メンブレン基 板に適していないため、同時に Si(111)基板でも試料を同じ条件の元で作製した。ここでは、 Si基板の試料で Fe のピークを判断する。

Fig. 2.5 は、スパッタ作製条件において、(a)Ar 圧を 1.0Pa に調整して作製した試料、 (b)Ar 圧を 4.0Pa に調整して作製した試料、(c)Fe の PDF ファイルデータ、(d)Si(111)の PDF フ ァイルデータを示している。 (a)、(b)の Fe のピーク角度を見積もる。

測定モード

連続

X

線管球

Cu

X

線波長

1.5406

管電圧

35kV

管電流

25mA

走査速度

2.00°/min

サンプリング幅

0.020°

入射高さ制限スリット

5.00mm

入射スリット

散乱スリット

幅制限スリット

0.15mm

測定範囲

2.00°~90.00°

Table. 2.2 X線回折測定条件

(18)

0

50

100

2

θ[deg]

In

te

n

si

ty

[c

ou

n

ts

]

(a)

(b)

4.0Pa

0

50

(c)

0

50

F

e(

1

1

0

)

(d)

F

e(

2

1

1

)

0

20

40

60

80

0

50

S

i(

1

1

1

)

S

i(

2

2

2

)

F

e(

2

0

0

)

1.0Pa

Fig. 2.5 (a)~(d)の XRD 測定結果

(19)

2.2.4 2.2.4 2.2.4 2.2.4格子定数格子定数格子定数格子定数 XRD の薄膜の回折ピークからブラッグの回折条件式(2-2)を用いて格子定数を求める。 式(2-2)を変形して、 d = nλ/2sinθ (n=1,2,· · · ) に直し、まず、面間隔dを求める。次に 2 2 2

l

k

h

d

+

+

=

α

(2-3) α:格子定数 に結果を代入し格子定数:αを求める。 実験結果から見積もられた、格子定数と PDF データから知られている格子定数との差を とりその結果を変化量とした。結果を Table. 2.3 その変化量と Ar 圧との関係を Fig. 2.6 に 示し、回帰直線を引いた。 Ar (Pa) 1.0 4.0 格子定数(見積もり値)(Å) 2.879 2.854 変化量(%) 0.47 -0.39 PDFデータによる純鉄の格子定数: 2.866 (Å)

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

2.85

2.86

2.87

2.88

2.89

格 子 定 数 (Å ) Ar圧(Pa) ●:実験値 △:FeのPDFデータ

2.866

Table. 2.3格子定数との差 Fig. 2.6 格子定数と Ar 圧の関係

(20)

2.3 2.3 2.3 2.3 試料作製試料作製試料作製試料作製 標準試料として、Fe の単層膜を厚さ 100nm の SiN メンブレン基板上に成膜できるか確 かめるために厚さを色々変えて薄膜を作製した。 Fe 単層膜について以下に示す厚さで作製を試みた。 [Fe1µm_SiN100nm] [Fe500nm_SiN100nm] [Fe400nm_SiN100nm] [Fe200nm_SiN100nm] [Fe100nm_SiN100nm] 作製条件としては、スパッタリング電圧が Fe50W、作製前真空度が 2.0×10-5Pa、Ar ガ ス圧は 2.5Pa、スパッタリングレートは Fe0.11nm/sec、作製中の基板温度は 29.1~36℃で 行った。Fe 一層ごとの膜厚は、スパッタ時間によって制御している。 試料作製には群馬大学 ATEC にある高周波スパッタ装置を用いた(Fig. 2.1)。 作製した試料の内 1µm と 500nm の試料については、SiN メンブレン基板が割れてしま ったので、作製には失敗した。400nm、200nm、100nm の試料いついては、SiN メンブレ ン基板は割れなかったので成膜に成功した。 次に、厚さ 100nm の SiN メンブレン基板上に、Co/Pd 薄膜を作製した。 以下の Co 膜厚、Pd 膜厚で作製した。 [Co0.8nm/Pd1.6nm]167 400nm 作製条件としては、スパッタリング電圧が Co60W、Pd40W、作製前真空度が 2.0×10-5Pa

Arガス圧は 1.0Pa、スパッタリングレートは Co、Pd、全て 0.11nm/sec で行った。Co、Pd、 一層ごとの膜厚は、スパッタ時間によって制御している。 2.3.1 XRD 2.3.1 XRD 2.3.1 XRD 2.3.1 XRD測定結果測定結果測定結果測定結果 Fe、Co/Pd、人工格子の構造解析のため、θ-2θX線回折測定法を行った。線源は Cu-K αである。 Fig. 2.7 に[Fe400nm/200nm/100nm_SiN]のX線回折測定の結果を示す。さらに横軸は、 ピークが良く見えるように 40-48 度の範囲で示し、縦軸もピークがよく見えるように拡大 したものを Fig. 2.8 に示した。

Fig. 2.9 に[Co0.8nm/Pd1.6nm]167 400nmの X 線回折測定の結果を示す。fcc-Co および

fcc-Pdの粉末 X 線回折データ(PDF2plus)を載せた。Fig. 2.9(a)~(c)では fcc(111)のピーク に関して言及するため、縦軸を linear scale とし、2θを 0°~70°の範囲で表示している。

(21)

ここで、15º付近で出ているシャープなピークは回折ピークは何によるものか現時点では 不明である。 Fig. 2.7 Fe/SiN[400nm,200nm,100nm/100nm]薄膜の XRD 測定

0

20

40

60

80

0

20

40

60

80

100

F

e(

1

1

0

)

2

θ

θ

θ

θ[deg]

In

te

n

si

ty

[c

o

u

n

ts

]

(a) [Fe400nm]

S

i(

1

1

1

)

F eO (1 1 1 ) F eO (2 0 0 ) F eO (2 2 0 ) F eO (3 1 1 )

S

i(

2

2

2

)

0

20

40

60

80

10

0

10

1

10

2

10

3

10

4

(c) [Fe100nm]

0

20

40

60

80

10

0

10

1

10

2

10

3

0

20

40

60

80

10

0

10

1

10

2

10

3

10

4

(b) [Fe200nm]

(d) PDF

データ

F

e(

2

0

0

)

F

e(

2

1

1

)

(22)

Fig. 2.7、2.8 の XRD 測定の結果から、Fe 単層膜が(110)方向に配向していることがわか る。また、ピーク強度の比較を行いおよそ厚さに比例したピーク強度の比を確認した。三 つの試料とも同じ膜圧レートで作成できていることを確認した。 Fig. 2.8 Fe/SiN[400nm,200nm,100nm/100nm]薄膜の XRD 測定(40º~48º)

40

42

44

46

48

20

40

F

e(

1

1

0

)

2

θ

[deg]

In

te

n

si

ty

[c

o

u

n

ts

]

(a) [Fe400nm]

0

20

40

(c) [Fe100nm]

0

20

40

0

20

40

(b) [Fe200nm]

(d) Fe PDF

データ

(23)

2.3.2 2.3.2 2.3.2 2.3.2金属格子金属格子金属格子金属格子のののの XXXX線回折パ線回折線回折線回折パパパターンターンターンターン[25][25][25] [25] まず、典型的な金属人工格子について、X 線回折パターンの測定例を示し、その特徴を述 べる。 1)1 次元構造の測定(散乱ベクトルが膜面に垂直な測定) 金属人工格子は、Fig. 2.10 のように膜面に垂直な方向に金属薄膜を周期的に積み重ねた 層状長周期構造をもつ。したがって、Fig. 2.10 (d)のように散乱ベクトル QQQQ†が膜面に垂直 となる配置で X 線回折パターンを測定すると、X 線の波長λ、人工周期Δであるとき、ブ ラッグの式(2-2)を満たす回折角 2θにピークが現れるはずである。Fig. 2.10(a)~(c)は典型的 Fig. 2.9 [Co0.8nm/Pd1.6nm]の XRD 測定結果

0

20

40

60

10

-2

10

-1

10

0

10

1

10

2

10

3

10

4

2

θ

[degree]

In

te

n

si

ty

[

co

u

n

ts

]

S i( 1 1 1 )

[Co0.8nm/Pd1.6nm]

satellite peak

P

d

f

cc

(1

1

1

)

fcc Co

pdf

データ

(a)

(b)

(c)

S i( 2 2 2 ) C o f cc ( 1 1 1 )

P

d

(

2

0

0

)

0

20

40

60

20

40

60

80

100

(2

0

0

)

fcc Pd

PDF

データ

0

20

40

60

0

20

40

60

80

100

(1

1

1

)

(2

0

0

)

(1

1

1

)

(2

2

0

)

(24)

な金属人工周期の模式図である。 2)高角域の回折パターン 人工格子では、高角域にもシャープなブラッグピークが見られる。これらの回折ピーク は、Fig. 2.10 (a),(b)のように各々の金属層が一定の方位関係を保って配向成長しているこ とに由来し、配向原子面の面間隔に対応した回折角の近傍に強い回折反射が現れる。隣り 合う二つのピークの位置

2

θ

n

,

2

θ

n−1から、次の式を用いて人工周期の値を求めることが出来 る。

λ

θ

λ

θ

2

sin

1

sin

2

1

=

n n (2-4) 高角域の回折ピークは強い主反射と複数の副反射から構成され、合金の規則格子やスピノ ーダル分解課程の X 線回折パターンに対応させて、基本反射および衛星反射(または超格子 反射)と呼ばれる。 ここで、Fig. 2.9 の XRD 測定結果から、衛星反射(サテライトピーク)が確認されたので、 人工周期を(2-4)式から見積もってみる。その結果を Table. 2.4 に示す。 Fig. 2.10 典型的な金属人工格子の構造(a,b,c)と X 線回折実験配置(d)

(25)

Co/Pd fcc(111)回折ピーク サテライトピーク 1/Δ 人工周期Δ 40.35º 36.74º 0.38 1/nm 2.58nm 入射 X 線の波長λ:0.15406 nm 作製した試料の人工周期仕込み値は、Δ=2.4nm だったので、XRD 測定による人工周期 の見積もり値と比較したとき、10%の違いもないので、周期に関してはほぼ想定通りに作 成できたと判断した。 Table. 2.4 [Co0.8nm/Pd1.6nm] 薄膜試料の人工周期の見積もり

(26)

2.4 2.4 2.4 2.4磁化測定磁化測定磁化測定磁化測定 磁化測定には、群馬大学インキュベーションセンター三階にある VSM 装置を用いた(Fig. 2.11)。測定温度は室温で、印加磁場は 1T である。異方性測定のため、人工格子の試料面内 方向(in-plane)および試料面垂直方向(out-of-plane)の 2 方位について測定を行った。 Fig. 2.11 VSM装置の写真 磁性材料に外部磁界を加えたとき、磁化のされやすさは磁界の方向によって異なる。こ れは、結晶磁気異方性に起因する場合が多い。結晶磁気異方性とは、物質の磁気的性質、 特にその物質の磁化の安定性が結晶方位によって異なることを言う。電子構造が物質の構 成元素の種類だけでなく結晶方位にもよることに起因する。第一義的には、自発磁化の向 き易さが結晶方位に依存することを意味するが、保磁力、着磁特性等が結晶の方向によっ て異なることを意味する場合もある。Fe 単結晶では、[100]方向は[110]、[111]方向より磁 化されやすく、Ni では[111]方向が[110]、[100]方向より磁化されやすい。磁化され易い結 晶方位を磁化容易軸(方向)と呼び、反対に磁化困難な方位は磁化困難軸(方向)と言う。本研 究で用いている Co/Pd 試料は薄膜であるため、結晶磁気異方性に加え、形状磁気異方性を 考慮する必要がある。試料の形状が球形でない場合、方向により反磁界係数が異なり、反 磁界による磁気エネルギーにも差がでる。薄膜の場合では、面内方向で最もエネルギーが 低く、膜面垂直方向で最もエネルギーが高くなるように反磁界が働く。よって面内方向が 磁化容易軸になりやすく、面直方向には磁化しにくい。VSM の結果には、この結晶磁気異

(27)

方性と形状磁気異方性を含めたヒステリシス曲線が得られていることになる。

Fig.2.12 に Co/Pd 薄膜試料についての M-H カーブを示す。膜面内方向(in-plane)と膜 面直方向(out-of-plane)の 2 方位で測定を行った。Fig.2.12 の点線が in-plane の結果で、実 線が out-of-plane の結果である。Co(0.8nm)/Pd(1.6nm)では、10000Oe=1T で十分飽和す ることを確認した。 Fig. 2.12 Co/Pd薄膜試料の M-H カーブ

-10000

0

10000

-500

0

500

M

[

em

u

/C

C

]

H [Oe]

in-plane

out-of-plane

Co(0.8nm)

/Pd(1.6nm)

(28)

2.5 2.5 2.5 2.5まとめまとめまとめまとめ 作製した Fe 薄膜の(110)反射の角度から割り出された格子定数は、Ar 圧 1Pa では 2.879Å、 Ar圧 4Pa では 2.854Å であった。Fig. 2.6 に、格子定数を Ar 圧に対してプロットしたグラ フを示す。Fig. 2.6 で点線は純鉄の格子定数を示している。純鉄の格子定数に近いければ、 格子のひずみによる応力で基板が割れないと期待されるため、Fig. 2.6 より Fe 作製に最適 な Ar 圧は 2.5Pa と決定した。スパッタ電圧については、SiN メンブレン基板が極めて薄い ことから極力小さくすることにし、本研究では 50W とした。以上のことから成膜条件を「Ar 圧 2.5Pa、スパッタ電圧 50W」と決定した。その結果、SiN メンブレン基板上に Fe を最大 400nmまで成膜することに成功した。ここでは、100nm、200nm、400nm と3種類の厚 さの薄膜を作製した。 作製した Co(0.8nm)/Pd(1.6nm)167 400nmの試料について、XRD 測定と VSM 測定を行 った。XRD 測定から、fcc(111) Co,Pd の PDF データの回折ピークとは別の fcc (111)Co/Pd 回折ピークが確認できた。作製した試料の人工周期仕込み値は、Δ=2.4nm だったので、XRD 測定による人工周期の見積もり値と比較したとき、違いは 10%以下であった、周期に関し てはほぼ想定道理に作成できた。次に VSM の結果から今の測定条件で十分飽和することを 確認した。

(29)

第三章

磁気コンプトン散乱

実験装置

(30)

3.1 3.1 3.1 3.1実験装置実験装置実験装置実験装置のの改善改善改善改善 試料を薄くすると試料からのシグナルが減ることが予想される、SPring-8 BL08W にお ける試料や基板以外からの散乱( = バックグラウンド(B.G.))を低減させることにより SiN (100nm)基板にナノメートルオーダーの薄膜の磁気コンプトンプロファイル測定を可能に する。 磁気コンプトンプロファイルは、磁性薄膜の電子状態、すなわち波動関数の異方性の観 測や元素選択的なスピン磁気モーメントの観測に有効である。 薄膜のコンプトンプロファイル測定の場合、基板からの散乱のため S/N が悪くなると予 想される、さらに試料を薄くすればもっと悪くなると考えられる。そこで、十分な機械的 強度があり、電子密度が小さい軽元素中心で、できるだけ薄くかつ入手しやすい基板を検 討した。その結果、PET フィルムや Al フォイル等の厚い基板を廃し、薄くかつ界面が均一 な基板として silicon nitride (SiN)メンブレン基板(100nm)の導入を行う。基板の厚さを薄 膜試料の厚さと同程度に薄くすることにより磁気コンプトンプロファイルの S/N が良くな ることが期待された。

Fig. 3.1(a) は厚さ 100µm の Fe 板のコンプトンプロファイルを示す。測定は、SPring-8 BL08Wで行い。入射 X 線のエネルギー175keV、磁場 2.5T,-2.5T、散乱角度 178º、Ge-SSD10 素子、測定時間 100 分である。 103 keV 付近のピークがコンプトン散乱した X 線のスペク トルである。電子の運動量分布を反映して広がりを持っている。103 keV は静止した電子 からのコンプトン散乱 X 線に相当するエネルギーである。Fe の磁気コンプトン効果は通常 のコンプトン効果に対して 2%程度とわずかである。しかし、スピンを反転させながらコン プトン散乱 X 線のスペクトルを測定し、差し引きすれば磁気コンプトン効果のみが抽出さ れる。基板は非磁性であるので、基板からのコンプトン散乱 X 線も差し引きされる。(しか し、X 線強度の統計精度には含まれる。) Fe 100µm からの磁気コンプトン散乱 X 線のスペ クトルを Fig. 3.1(b) に示す。 Fig. 3.1(b) に示した磁気コンプトン散乱 X 線のスペクトルのデータを前述したようにデ ータ処理すると磁気コンプトンプロファイルが得られる。 次の式は、SPring-8 BL08W で測定した場合のコンプトンピークエネルギーωcにおける

Signal to Noise Ratio (S/N)を示す。ただし、

( )

( )

( )

c

( )

c c c

I

I

I

I

N

S

ω

ω

ω

ω

− + − +

+

=

/

(3-1) − + − +

+

=

I

I

I

I

Me

(3-2)

(31)

である。ここで、I+ (I–)は散乱ベクトルと磁場が平行(反平行)となる場合のコンプトン散乱 X線強度を表す。厚さ 100µm の Fe 板、SiN メンブレン基板上に成膜した Fe 100nm 薄膜 について、S/N を検討した。試料配置については out-of-plane 測定で検討した。これまで の磁気コンプトン散乱実験において S/N は 20 以上が好ましいとの報告がある[17.18]。 まず、Fe 板(100µm)、Fe 薄膜(100nm)を考え、それぞれの密度と質量吸収係数[26]から、 吸収係数を見積もり、式(3-3)を用いて、

t

e

I

I

=

0

µ

(3-3) µ:吸収係数、t:厚さ Fe板(100µm) に対して、Fe 薄膜(100nm)の吸収の比を見積もった。密度 g/cm-3:7.8、質 量吸収係数 cm2/g:0.152、ここから、吸収係数µ 1/cm(at 175keV):1.19、そして、式(3-2) から、I/I0は厚さに比例することがわかった。測定した Fe 板(100µm)のコンプトンピーク カウント(基板無し、測定時間 100 分)から、Fe 薄膜(100nm)のコンプトンピークカウント(測 定時間 100 分)を見積もり、この時の S/N を見積もった。

このとき、Fe 板(100µm) のピークカウントは測定結果(Fig. 3.1(a))から、Fe 薄膜(100nm) のピークカウントは、厚さの比から見積もった。Fe 板(100µm)の Me (magnetic effect)は、 測定結果から見積もった。さらに、Fe 薄膜(100nm)の Me (magnetic effect)は、測定条件 を同じであると仮定し(基板無し、バックグラウンド無し)、物質(Fe)で決まるので同じとし た。 Table 3.1にそれぞれ見積もった値を示す。Fe 板(100µm)が S/N が 18(測定時間 100 分)で あるのに対して、Fe 薄膜(100nm)の場合で S/N が 0.5(測定時間 100 分)となることがわか った。実際には、基板、バックグラウンドからの散乱も含むので、Me はもっと小さくなる。 このままでは、試料からのシグナルが小さい、基板からの散乱、バックグラウンドからの 散乱を考えれば、S/N はさらに低くなることがわかる、つまり測定時間が大幅に増えてしま うことが予想される。

ピークカウント/100min Me (magnetic effect) S/N 測 定 時 間 (h) at S/N 20 Fe板(100µm) 670630 2.17% 18 2 Fe 薄膜(100nm) 674 2.17% 0.5 2100

(32)

Fig. 3.1 Fe板(100µm)のコンプトンピークと磁気コンプトンプロファイル

0

2

4

6

8

[×10

5

]

Compton Pb Kα1 Pb Kα2 Pb Kβ1 Pb Kβ1

(b)

0

50

100

150

0

10000

20000

Magnetic Compton Energy [keV] In te n si ty I+ -I- [c ou n ts ] In te n si ty I+ [ co u n ts ]

(a)

(33)

3.2 3.2 3.2 3.2 バックグラウンドバックグラウンドバックグラウンドバックグラウンド低減実施低減実施低減実施低減実施 SPring-8 BL08W において試料、基板以外からの散乱=バックグラウンドの低減対策を 実施した。以下に実施項目とその効果を記述する。測定は入射 X 線エネルギー175 keV、散 乱角度 178°、Ge-SSD(半導体検出器) 10 素子、磁場は掛けず、試料無しコンプトンプロフ ァイル測定を行った。試料無しのコンプトンプロファイルの比較により、バックグラウン ド対策の実施前と後でバックグラウンドによるコンプトンプロファイルの変化を観測する。 ①SSD 上流側ビームスリットの調整 ビームスリットを高さ×幅 [900 (V) × 1600 (H) ]に調整した。 ②超伝導磁石を SSD に近づける カプトン膜から SSD を見えないように、さらに空気散乱の影響を少なくするため、超伝導 磁石を半導体検出器に[超伝導磁石-半導体検出器間]の距離を 5mm に近づけた。 ③真空チェンバー入り口カプトン膜の交換+試料下流側の真空チェンバーの延長 SSD下流側真空チェンバーを新しく延長した、SSD の散乱 X 線を受ける側の真空パイプ入 り口カプトン膜を交換した。膜超伝導磁石下流側、冷凍器後方は空気部分になっている所 の真空パイプを延長した長さ約 60cm。 ④SSD 上流側の鉛の増量+ビームスリットの再調整 SSD上流側からの散乱が来ているとも考えられるので SSD を覆う鉛の箱の上流側に新しく 鉛の板 6mm を置いた、さらに装置がずれの補正としてビームスリットの再調整をした。 ⑤SSD-サンプル間真空チェンバー内部に鉛を巻く カプトン膜からの前方散乱が考えられるので、真空チェンバー内部に鉛を巻くことでコン プトン散乱を鉛の蛍光に変化させることで、ノーマルコンプトンを減らすことができる。 さらに、SSD 下流出口側に鉛の板を貼って SSD より下流側からのコンプトン散乱を遮蔽し た。 Fig. 3.2 に①~③までの効果を示す。①の状態から②の状態にするとコンプトンピークの

(34)

裾の部分テールが減少した。カプトン膜からの散乱と SSD-超伝導磁石間の空気からの散 乱が減ったと考えられる。さらに③の状態にするとコンプトンピーク値が約 1/4 になった。

Fig. 3.3 に④と⑤の結果を示す。まず、Fig. 3.2 で示されている赤線は、Fig. 3.3 の黒線 に対応している。SSD 上流側からのコンプトン散乱を遮蔽することで、さらに、ノーマル コンプトンピーク値が 3/5 になった。上流側からの遮蔽が不十分であったと考えられる。次 に、真空チェンバー内部に鉛を巻くことで、鉛の蛍光が増加しノーマルコンプトンピーク が 1/3 に減少した、カプトン膜からの前方散乱が真空チェンバーと多重散乱を起こしコンプ トン散乱が SSD に入っていたと考えられる。

60

70

80

90

100

110

120

0

1000

2000

Energy [keV]

slit調整[900(V)×1600(H)] ↓ マグネットをSSDに近づける ↓ 真空チェンバーの延長

In

te

n

si

ty

[

co

u

n

ts

]

Fig. 3.2 上記①~③の結果

(35)

バックグラウンド低減の結果、実験開始時よりバックグラウンドはピーク値で Fig. 3.1 の①より、1/12 まで低減した。

60

70

80

90

100

110

120

0

200

400

600

800

1000

Energy [keV]

BG低減第一弾までの結果 ↓ SSD上流のPbを増量 ↓ SSD-sample間の真空チェンバー内部に鉛を巻いた

In

te

n

si

ty

[

co

u

n

ts

]

Fig. 3.3上記④~⑤の結果

(36)

3.2.1 3.2.1 3.2.1 3.2.1コンプトンプロファイルコンプトンプロファイルコンプトンプロファイルコンプトンプロファイル測定実験測定実験測定実験測定実験 バックグラウンドを 1/12 に低減することに成功したので Fe 単層膜を SiN メンブレン基 板 上 に 成 膜 し た 試 料 を 用 い て MCP 測 定 を 行 っ た 。 Fig. 3.4 に Fe 板 100um 、 Fe400nm/SiN100nm、SiN メンブレン基板 100nm、試料無し、基板無しのバックグラウン ド測定の各プロファイルを図に示す。Fig. 3.5 は、Fig. 3.4 の○で囲んである部分を拡大し たものを示す。

Fig. 3.4 Fe400nm/SiN100nm、SiN メンブレン基板 100nm、 バックグラウンド、Fe 板 100um、のコンプトンプロファイル

0

100

200

0

2

4

6

[×10

5

]

Energy [keV]

FeSiN[400nm/100nm] SiN100nm バックグラウンド Fe100um

In

te

n

si

ty

[

co

u

n

ts

]

(37)

Fig. 3.5 に示されるように Fe400nm/SiN100nm の試料のコンプトン散乱シグナルはバ ックグラウンドと比べてほぼ大差ない、MCP 測定を行うには、試料からのシグナルが弱す ぎること、さらなるバックグラウンド低減対策が必要であることがわかった。 Fe100um FeSiN[400nm/100nm] SiN100nm BlanlHolder Fe100um In te n si ty [ co u n ts ]

95

100

105

110

10000

20000

30000

40000

Energy [keV] Fig. 3.5 Fig. 3.4の○の部分を拡大したコンプトンプロファイル

(38)

3.3 3.3 3.3

3.3 モノクロメーターモノクロメーターモノクロメーターモノクロメーターのの交換交換交換交換

SPring-8 BL08W station A 用モノクロメーターSi 単結晶(620)から Si 単結晶(620),(400) のタンデム型に交換することで、実験使用できるエネルギー幅を広げ、さらに低エネルギ ー側で測定ができるように調整する。X 線のエネルギーを変えることでフォトン数を増やし、 試料からのシグナルが増えることが期待された。 Fig. 3.6 に Si 単結晶(620)の写真を示す。 この状態から、単結晶を外し、Si 単結晶(620),(400)の直方体を重ねて設置した。単結晶は 可動式のステージに載せられており上下移動を行うことで Si 単結晶(620)か Si 単結晶(400) に当てるか選べことができる。つまり実験に用いるエネルギーを選択することができる。 モノクロメーター交換作業実施項目 (ア)A ハッチ用モノクロメーター交換着手した。 (イ)モーター等の電源オフ及び冷却水停止した。 (ウ)内部を真空から大気圧に戻した。 (エ)手順①蓋を外すため全ネジを緩め、②簡易クレーンを用いて持ち上げる、③大きめの 机に載せてハッチ外に出す。 (オ)内部冷却水パイプを外した。 (カ)モノクロメーター設置台を吊り上げるためフレーム枠を取り付けた。 (キ)フレーム枠ごとモノクロメーターを設置台ごとクレーンで吊り上げて外に出し、大き めの机に載せた。 (ク)机ごと外に運び出し、ハッチ外のクレーンを用いてモノクロメーターを載せた机から 設置台ごと水平台に移動した。 (ケ)圧力計を用いてモノクロメーターの歪曲度を測定(位置と深さを測定し Excel で描画) した。 (コ)モノクロメーターを設置台から外した。 (サ)新しいモノクロメーター用の設置器具等を開封した。 (シ)新しいモノクロメーターを設置用器具の取り付けた。 Fig. 3.6 交換前のモノクロメーター Si(620)

(39)

3.3.1 3.3.1 3.3.1 3.3.1モノクロメーターモノクロメーターモノクロメーターモノクロメーターのののテストのテストテストテスト Benderの調整(モノクロメーターの曲がり)を行った。θと X 軸の調整(モノクロメータ ーに光が入っているか)を行った。モノクロメーターの位置調整(三軸) → Si (620)、Si (400)にそれぞれ当てるために行った。 各調整を行い、それぞれのパラメータを測定した。Bender、モノクロメーターの位置。 これにより Si 単結晶(620) 高エネルギー側:264.8 keV 低エネルギー側:174.8 keV 、 Si単結晶(400)高エネルギー側:167.2 keV 低エネルギー側:110.5 keV となることがわか った。

(40)

3.4 3.4 3.4 3.4第二段第二段第二段第二段バックグラウンドバックグラウンドバックグラウンド低減実施バックグラウンド低減実施低減実施低減実施 これまでに、ナノメートルオーダーの磁性薄膜 MCP 測定には、バックグラウンド低減対 策とシグナルの増加が必要であることがわかっている。前述のようにバックグラウンド低 減対策とシグナル増加については行った。ここでは、モノクロメーター交換後に改めてバ ックグラウンド低減対策(入射 X 線エネルギー182keV)と X 線のエネルギー115keV で行っ た磁気コンプトン散乱実験の結果について記す。 バックグラウンド低減実施項目

Fig. 3.7 に以下の対策ついて示す。測定は、試料無し、基板無しの Blank Holder の状態 で行い。各プロファイルは、測定時間 60 秒、Ge-SSD10 素子に規格化した。 ①ビームスリットを調整した。 ②出口側真空チェンバーの延長した。 空気部分からの散乱を減らすため。 ③入り口側の真空チェンバー内の鉛がずれていたので修正した。 カプトン膜からの前方散乱による真空チェンバー内部での多重散乱の効果を減らすため。 ④再度出口側の真空チェンバーを延長した。 空気部分からの散乱を減らすため。 Fig. 3.7上記①~④までの結果

60

70

80

90

100

110

120

0

500

1000

1500

実験開始時 出口の真空チェンバーの延長 入り口の真空チェンバー内の鉛がずれていたので修正 再度出口の真空チェンバーを延長 In te n si ty [ co u n ts ] Energy [keV]

(41)

①は実験スタート時の測定、②は超伝導磁石下流側の冷凍機後方の空気部分を真空パイ プで延長することで空気からの散乱の低減が予想される。しかし、変化がなかった。一度 真空パイプをはずした。③SSD 下流側の真空チェンバー内部に巻いていた鉛がずれていた ので修正を行った。これによりコンプトンピークが2つあったが 1 つ無くなった。④で再 度真空パイプの延長を行い、コンプトンピークが 7/10 になった。 Fig. 3.8 に以下の対策ついて示す。 ⑤下流側の壁に Tantalum を貼り付けた。 station A の最下流のビームストップからの散乱を蛍光に変えるため。 ⑥試料周りに鉛を巻いた。 試料後方からの散乱を遮蔽するため。 ⑤では、コンプトンプロファイルは変わらなかった。satation A の最下流であるビームス トップからの散乱はほとんどないと考えられる。⑥により、コンプトンプロファイルのピ ークが増えてしまった。

60

70

80

90

100

110

120

0

500

1000

1500

前回まで 下流側の壁にtantalを貼り付け 試料の周りに鉛を巻く

In

te

n

si

ty

[

co

u

n

ts

]

Energy [keV]

Fig. 3.8 上記⑤~⑥までの結果

(42)

Fig. 3.9 に以下の対策ついて示す。 ⑦再度試料位置の確認をして測定した。 試料位置のずれによる試料 Holder に X 線が当たってしまうのを防ぐために調整が必要で あるため。 ⑧真空チェンバー継ぎ目部分(入り口:超伝導磁石)の鉛を外した。 真空パス内狭くなっている部分もあるのでそこで散乱が起こっているのを確認するため。 ⑨真空チェンバー継ぎ目部分の鉛を増量し、真空チェンバー内の鉛を延長した。 継ぎ目の鉛による効果を上で確認したので、鉛を増量しコンプトンピークを減らすため。 ⑦で再調整する際、試料周りを鉛で覆い試料後方からの散乱を低減しようとしたが、コ ンプトンピークが増えたことから試料からの散乱から多重散乱が起こってしまったと考え られる。鉛を外し再調整し直したら、元のコンプトンピークまで戻った。⑧で真空チェン バー同士を繋ぐ継ぎ目の鉛を外したら、コンプトンピークが増加した、継ぎ目部分は、細 くなっていたので試料からの散乱がここでも多重散乱を起こして、コンプトンピークの増 加に繋がっていたと考えられる。鉛を外したことで増加したのでこれまでは、鉛の蛍光と なっていたと考えられる。⑨でそれを確かめるために再度真空チェンバー継ぎ目部分に鉛

60

70

80

90

100

110

120

0

500

1000

1500

前回の続き(さらにサンプル周りを鉛で覆う 試料位置の確認をして測定→コンプトン減少(2つ前に戻った) 真空チェンバー継ぎ目(入り口:SCM)の鉛を外す 継ぎ目の鉛を増量し、真空チェンバー内の鉛を延長

In

te

n

si

ty

[

co

u

n

ts

]

Energy [keV]

Fig. 3.9 上記⑦~⑨までの結果

(43)

を付け、さらに増加した(厚みを増した)、コンプトンピークは減少し、元の大きさに戻った。 Fig. 3.10 に以下の対策について示す。 ⑩ターボポンプを使用しさらに真空度を増した。 試料部真空パイプ内の真空度を増して、空気の散乱を減らすため。 ⑪SSD 下流側、真空パイプ入口直前に鉛の板を貼った。 真空パイプ入り口下流側から散乱してきた X 線を鉛の蛍光に変化させるため。 ⑫X 線ビームの位置を再調整した。 ⑩から真空度を 10-2Paから 10-3Paに上げてもコンプトンピークはほとんど変わらなかっ た。真空パイプ内の散乱は無いと考えられる。鉛の板を貼ることによりノーマルコンプト ンピークの裾の部分が減少した。SSD 下流側からの多重散乱の効果を減らすことができた。 ⑫で X 線ビームの位置を再調整しなおした。さらにコンプトンピークの裾の部分が減少し た。 モノクロメーターを変更、エネルギーの変更(182 keV→115 keV) Fig. 3.10 上記⑩~⑫までの結果

60

70

80

90

100

110

120

0

500

1000

1500

前回まで(さらに継ぎ目の鉛を足した) ターボポンプでさらに真空にした カプトン膜入り口に鉛の板を貼る ↓ 中心位置の修正(ズレてた) ビーム位置を修正し再測定 In te n si ty [ co u n ts ] Energy [keV]

(44)

Fig. 3.11 にエネルギー変更前と変更後の Fe 板 100µm のコンプトンピークをそれぞれ示 す。

測定時間は、60s、1 サイクルである。Counts は各ノーマルコンプトンプロファイルのピ ーク強度を見積もった値である。スリットは SSD 上流側スリットの縦幅 H と横幅 W の値 である。Table. 3.2 にそれぞれ示す。

Table. 3.2 から counts 数の違いを見積もると、単純に counts 数で 7 倍増えており、ス リットの大きさを考慮に入れると、さらに 1.6 倍になると考えた。よって、エネルギーを変 える前と後では、counts 数は約 11 倍になっていると予想できる。しかし、コンプトンピー クの値には、Fe 板 0.1 mm だけでなくバックグラウンドも含まれているので、正確性を欠 くが、それでも counts 自体は増えていることが確認できた。

Energy (keV) スリット H(mm)×W(mm) Counts (60s)

115 1440000 397670 182 2400000 67063

60

70

80

90

100

110

120

0

1

2

3

4

[×10

5

]

入射X線のエネルギー(115keV) 入射X線のエネルギー(182keV)

Energy [keV]

In

te

n

si

ty

[

co

u

n

ts

]

Fig. 3.11 Fe板 100µm の入射 X 線エネルギー(115keV,182keV) それぞれのコンプトンピーク Table. 3.2 入射 X 線の違いよる散乱シグナルの見積もり

(45)

Fig. 3.12 にエネルギー変更後のバックグラウンド対策結果を示す。以下にその項目を示 す。測定条件は、60s、Ge-SSD 10 素子に規格化している。 ⑬SSD を超伝導磁石に 20mm 近づけた。 真空パイプ上流側入り口カプトン膜からの多重散乱されたシグナルが SSD に入らなくす るため。 ⑭真空パイプ出口最下流に貼っていた Tantalum の板を外し、Gain の調整を行った。 後に後述するが、SSD のキャリブレーションが一部ずれていたため。 ⑮SSD をさらに 1mm 超伝導磁石に近づけた。 さらにシグナルが入らなくするため。 エネルギー変更後最初の測定で、SSD のキャリブレーションがズレてることがわかった、 10素子中 1 つが低エネルギー側にずれていたためコンプトンピークが左のシフトしたため に 2 つほど小さな山ができていると考えられる。そのズレを修正した。キャリブレーショ ンの値を変更し、ピーク位置が同じになっていることがわかる。⑭に示す。⑮では、さら に SSD に超伝導磁石を近づけた。20mmに比べると大きな変化ではなかったが、裾の部分 のコンプトンピークが減っていることがわかる。

70

80

90

0

5000

10000

15000

エネルギー変更(182keV→115keV) SSDをSCMに20mm近づけた 真空チェンバー出口のtantalumを外した SSDをさらに1mm近づけた

In

te

n

si

ty

[

co

u

n

ts

]

Energy [keV]

Fig. 3.12 上記⑬~⑮までの結果

(46)

Fig. 3.13 にバックグラウンド散乱を低減することに成功したので Fe400nm/SiN100nm 試料を実際に用いたコンプトンプロファイルを示す。 ここでみてとれるように試料 FeSiN[400nm/100nm]と SiN メンブレン枠のみでは強度差 はほとんどないように見える。これでは、MCP 測定を行ったとしても多大な測定時間がか かることが予想される。 ここまでのことをまとめると、 1.バックグラウンド低減に成功した。 2.空気散乱の影響の低下とカプトン膜からの後方散乱の低下及び真空チェンバー入り口の カプトン膜の交換。バックグラウンドが 1/4 になった。 3.カプトン膜からの前方散乱の遮蔽及び SSD への後方散乱の遮蔽。バックグラウンドが 1/3になった。このことから、バックグラウンドは、1/12 になった。 4.試料からの散乱よりもセッティングによるバックグラウンドの変化の方が大きい。 5.S/N を見積もってみたが、MCP 測定実験をするには、まだ厳しいことがわかった。 6.モノクロメーター交換作業により入射 X 線を低エネルギー側(115keV)の利用可能になっ たことにより、入射フォトン数が上昇した。 6.出口側真空チェンバー延長により空気散乱が減少、バックグラウンド低減効果が有った。 7.鉛を用いてカプトン膜からの前方散乱の遮蔽及び SSD への後方散乱の遮蔽、バックグラ ウンド低減に効果が有った。 Fig. 3.13 Fe400nm/SiN100nmのコンプトンピーク

70

80

90

0

10000

20000

30000

FeSiN[400nm/100nm] SiNメンブレン バックグラウンド In te n si ty [ co u n ts ] Energy [keV]

(47)

8.SSD を SCM に近づける、カプトン膜からの散乱を SSD に入らないようにする、バック グラウンドを大きく低減させられた。バックグラウンドの要因の多くはカプトン膜によ るものだと分かった。 9.バックグラウンド低減の結果、FeSiN[400nm/100nm]のコンプトンを確認ができた。 しかし、まだ、MCP 測定を行うには、さらなるバックグラウンド低減が必要であること がわかった。

(48)

3.5 3.5 3.5 3.5第三段第三段第三段第三段バックグラウンドバックグラウンドバックグラウンド対策実施バックグラウンド対策実施対策実施対策実施 これまでに二度のバックグラウンド対策を行い、モノクロメーターの交換により入射 X 線のエネルギーの変更によってフォトン数増加による散乱シグナルの増加などを行ってき た。その結果、一定量のバックグラウンドの低下とシグナルの増加が確認できたが、もっ と短い時間で MCP 測定を行うには、さらなるバックグラウンドの低下が必要である。ここ では、実験装置の改善によるバックグラウンドの低減策実施について記す。 バックグラウンド低減実施項目(以下について試料なし(SiN メンブレン枠のみ)バッ クグラウンド測定)、モノクロメーターを変更、エネルギー(182keV→115keV)、以下バッ クグラウンド低減実施項目。 今回行う、実施項目は大きく分けて2つある。1つ目は、SSD を超伝導磁石に近づける、 2つ目は、真空パイプの蓋として用いていたカプトン膜を SSD 上流側に移動することであ る。そのための実施項目を以下に記す。 ①SSD を超伝導磁石側に近づける。下流側真空パイプをフレキシブルチューブに変更。 これまでは、試料から SSD までの距離が1mであったが、これを試料側に近づけること で、立体角を増やし SSD に入るシグナルを増やす。見積もりの結果を Table 4.3 に示す。 100cm→67cm この見積もりの際用いた式は

=

a

b

1

tan

θ

(3-4) a: 試料-SSD の距離, b:光軸中心から SSD 素子までの距離 ②SSD 下流側真空パイプをフレキシブルチューブに変更。真空パイプ入り口カプトン膜の 除去する。 SSD を貫通するように真空パイプを通すのでこれまでと同じ真空パイプを使用すると試 料位置の上下スキャンを行う際に SSD 破損の可能性が考えられるので、フレキシブルチュ ーブにすることで柔軟性を持たせる。 距離(試料-SSD)(cm) 立体角(º) 近づける前 100 1.2 近づけた後 67 1.8 Table 3.3 SSDの距離と立体角

(49)

③細い真空パイプを、SSD を貫通するようにフレキシブルチューブ入り口側に取り付けて 延長。 フレキシブルチューブからさらに細い真空パイプを延長させて、SSD の入射 X 線用に空 いていた穴に通し、SSD 上流側にカプトン膜を移動させる。 ⑤試料後ろに Sn 板を取り付ける。 試料後方からの散乱を除去するために Sn 板を試料後方に取り付けて遮蔽する。 以下に実施した結果を Fig. 3.14 (a)~(d) に示す。 さらに、Fig. 3.15 に実験装置の模式図を示す。ポイントは2つで、真空パイプの延 長とカプトン膜の移動である。

Fig. 3.14 (a) SSDを近づける前 Fig. 3.14 (b) SSDを近づけた

(50)

これまでに行われたバックグラウンド対策の結果について Fig. 3.16 に示す。測定条件は、 磁場無し、測定時間 1 分、SSD1 素子、測定試料 Fe400nm/SiN100nm メンブレン基板、 SiNメンブレン基板 100nm のみ、試料無し、基板無しのバックグラウンド測定をそれぞれ 同じ条件で行った。次に、磁性薄膜試料について Fig. 3.17 に示す。測定条件は、磁場無し、 測定時間 1 分、SSD1 素子、測定試料[Co(0.8nm)/Pd(1.6nm)]167 400nm_SiNメンブレン基 板を 10 枚重ねたもの、と同じ条件で試料無し、基板無しのバックグラウンド測定を行った。 refrigerator SSD vacuum tube beam stop Incident X-Rays slit Ion chamber refrigerator sample SCM kapton film air sample A refrigerator SSD vacuum tube SCM Incident X-Rays slit

Ion chamber beam stop

vacuum tube B Kapton film refrigerator SSD vacuum tube beam stop Incident X-Rays slit Ion chamber refrigerator sample SCM refrigerator SSD vacuum tube beam stop Incident X-Rays slit Ion chamber refrigerator sample SCM kapton film kapton film air air sample A refrigerator SSD vacuum tube SCM Incident X-Rays slit

Ion chamber beam stop

sample A refrigerator SSD vacuum tube SCM Incident X-Rays slit

Ion chamber beam stop

A refrigerator SSD vacuum tube SCM Incident X-Rays slit

Ion chamber beam stop

vacuum tube vacuum tube B Kapton film B Kapton film Fig. 3.15 実験装置摸式図

(51)

Fig. 3.16 Fe400nm/SiN100nm、SiN メンブレン基板 100nm、バックグラウンドの コンプトンプロファイル測定

Fig. 3.17 [Co(0.8nm)/Pd(1.6nm)]167 400nm_SiNメンブレン基板を 10 枚重ねた

ものとバックグラウンドのコンプトンプロファイル測定

70

75

80

85

20

40

60

80

100

Energy [keV]

In

te

n

si

ty

[

co

u

n

ts

]

Fe400nm/SiN100nm

SiN100nm

バックグラウンド.

70

75

80

85

0

200

400

600

800

Energy [keV]

In

te

n

si

ty

[

co

u

n

ts

]

[Co0.8nm/Pd1.6]

167

400nm SiNmembrane

バックグラウンド

Fig. 1.1 記録磁化の模式図
Fig. 2.2  スパッタ装置内部図
Fig. 2.5 は、スパッタ作製条件において、 (a)Ar 圧を 1.0Pa に調整して作製した試料、   (b)Ar 圧を 4.0Pa に調整して作製した試料、 (c)Fe の PDF ファイルデータ、 (d)Si(111) の PDF フ ァイルデータを示している。 (a) 、 (b) の Fe のピーク角度を見積もる。 測定モード 連続 X 線管球 Cu  X 線波長 1.5406 Å 管電圧 35kV  管電流 25mA  走査速度 2.00°/min  サンプリング幅 0.020°  入射高さ制
Fig. 2.7 、 2.8 の XRD 測定の結果から、 Fe 単層膜が (110) 方向に配向していることがわか る。また、ピーク強度の比較を行いおよそ厚さに比例したピーク強度の比を確認した。三 つの試料とも同じ膜圧レートで作成できていることを確認した。Fig
+7

参照

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