Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
Upper Gastrointestinal Tract Cancers as
Double-cancers in Elderly Patients with Oral Squamous Cell
Carcinoma
Author(s)
伊川, 裕明
Journal
歯科学報, 112(4): 572-573
URL
http://hdl.handle.net/10130/2923
Right
論 文 内 容 の 要 旨 1.研 究 目 的 わが国の口腔癌患者は年々増加傾向を示している。それは,わが国の超高齢社会を背景としている。一方, 口腔癌を第1癌とする重複癌は増加傾向にあると報告されており,第2癌の好発部位に食道および胃があげら れている。当院においても口腔癌患者に対して積極的に上部消化管内視鏡検査を行っている。今回,今後の更 なる超高齢社会での増加する口腔−上部消化管併発癌症例に対応するため,改めてここ数年の口腔扁平上皮癌 患者の上部消化管癌に関する検討を行った。 2.研 究 方 法 対象は1996年3月から2008年8月までの12年5ヶ月間に,口腔扁平上皮癌と診断され,上部消化管内視鏡検 査を行った171例とした。評価項目を性別・年齢・喫煙歴・飲酒歴,口腔扁平上皮癌発現部位・TNM 分類・ Stage 分類とした。研究方法は症例対象研究とし,χ2 検定およびロジスティック回帰分析を行った。 3.研究成績および結論 口腔・食道・胃の3重複癌1症例を含め,食道癌7症例,胃癌2症例であった。食道癌と胃癌を含む上部消 化管重複癌は171症例中8例(4.7%)に認められた。65歳以上の口腔癌患者では,65歳未満と比較して食道癌の 重複が有意に多かった(OR=10.454,95%CI=1.143−95.621)。その他の項目(性別,喫煙歴,飲酒歴,口腔 扁平上皮癌発現部位,TNM 分類,Stage 分類)では,いずれも有意差を認めなかった。 今回の結果より,高齢口腔癌患者の治療を行う際には,食道癌を中心とした上部消化管癌の存在の可能性を 視野に入れた,適切な治療計画を立案する必要性がある事が考えられた。 論 文 審 査 の 要 旨 本審査委員会は,平成24年2月6日,主査片倉 朗教授,副査井上 孝教授,柴原孝彦教授,東 俊文教 授,栁澤孝彰教授で行われた。まず,伊川裕明大学院生より論文内容の概要が次のように説明された。 本研究は高齢者が増加する中で口腔扁平上皮癌(OSCC)患者の術前の検査で上部消化管における重複癌の発 生を検査することの有用性について検討することを目的とした。方法は OSCC と食道癌・胃癌の重複の頻度 氏 名(本 籍) い かわ ひろ あき
伊
川
裕
明
(石川県) 学 位 の 種 類 博 士(歯 学) 学 位 記 番 号 第 1953 号(甲第1199号) 学 位 授 与 の 日 付 平成24年3月31日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当学 位 論 文 題 目 Upper Gastrointestinal Tract Cancers as Double-cancers in Elderly Patients with Oral Squamous Cell Carcinoma
掲 載 雑 誌 名 The Bulletin of Tokyo Dental College 第53巻 1号 9∼16頁
2012年3月 論 文 審 査 委 員 (主査) 片倉 朗教授 (副査) 井上 孝教授 柴原 孝彦教授 栁澤 孝彰教授 東 俊文教授 歯科学報 Vol.112,No.4(2012) 572 ―116―
と重複癌のリスクファクターとして予想される評価項目に対して統計学的検討を行った。その結果,65歳以上
の OSCC 患者は65歳未満の者に比べ,食道癌の発生に有意差をもって多く認めた(OR;10.454,95%CI;
1.143−95.621)。また,食道癌重複症例では年齢以外に有意差は認められず,胃癌重複症例ではいずれの因子 も統計学的に有意差は認めなかった。このことから,65歳以上の OSCC 患者では食道癌を主とした上部消化 管で重複して癌が発生している可能性をより考慮し,治療開始前に消化管の精査を行うことが重要で,治療後 もそのリスクファクターを念頭において消化器内科・外科等と連携して慎重な経過観察が必要であることが示 唆された。 概論の説明後,本論文に対する質疑応答および臨床研修の内容について口頭試問が行われた。審査委員よ り,1)重複癌の患者の加療内容および予後はどうであったか,2)OSCC,食道癌および胃癌でのリスク ファクターの共通因子はどのように考えるか,3)今回の研究では喫煙歴および飲酒歴が重複癌のリスクファ クターとして有意差を認めなかった理由,などについて質問があった。1)については上部消化管に重複癌を 認めた9症例はいずれも初期癌であり,食道癌7症例中5症例が内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection; EMR),1症例が化学放射線療法,1症例が部分切除を行った。また,2例の胃癌重複症例では1 症例が EMR,1症例が部分切除術を行っていた。3名が他病死であったが原病死はいない。2)口腔と上部 消化管の癌発生のリスクファクターについて喫煙歴と飲酒歴が報告されており,近年ではアセトアルデヒド脱 水素酵素2(ALDH2)遺伝子も重要なリスクファクターであると報告されている。ALDH2 遺伝子の欠損が飲 酒関連癌の Carcinogenesis である可能性も報告されている。3)については本研究の調査対象は OSCC 患者 のみであり,対象者全員がすでに喫煙や飲酒などの曝露因子を受けていて OSCC を発症している。すなわ ち,食道癌・胃癌のリスクファクターも同時に曝露されていることから,今回の研究では喫煙歴や飲酒歴など の曝露要因を打ち消して解析を行ったことになり,有意差がでなかったものと考えられた。以上,概ね妥当な 回答が得られた。さらに論文の記述方法,表の体裁などについて指摘頂き修正した。 以上により本研究ならびに本コースの研修で得られた結果は,今後の歯学の進歩,発展に寄与するところ大 であり,学位授与に値するものと判定した。 歯科学報 Vol.112,No.4(2012) 573 ―117―