氏 名 埴原 光人 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医 学 ) 学 位 記 番 号 医工博 4 甲 第 143 号 学 位 授 与 年 月 日 平成26年3月20日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 先進医療科学専攻 学 位 論 文 題 名 マウスグリオーマモデルにおけるインドールアン 2,3-ジオキシ ゲナーゼ阻害による抗腫瘍効果の解明
(Anti-tumor effect with indoleamine 2,3-dioxygenase inhibition in a murine glioma model)
論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 瀧山 嘉久 委 員 准教授 端 晶彦 委 員 講 師 奈良 政敏
学位論文内容の要旨
(目的) 悪性グリオーマは、成人に発生する最も悪性度の高い脳実質内腫瘍であり、現行の治療では、生命 予後は1-2 年程度であり、脳外科医にとって新規治療の開発が喫緊の課題である。これまでも本腫 瘍に対しては、免疫療法などの adjuvant therapy が数々試されてきたが、そのすべてにおいて明 らかな有効性が確認されておらず、本腫瘍の頑強な抵抗性の原因と考えられる免疫回避機構を克服す ることが重要と考えられている。インドールアミン 2,3 ジオキシゲナーゼ (Indoleamine 2,3- dioxygenase, IDO) はトリプトファンの代謝酵素で、免疫抑制作用を有し、妊娠の維持や癌免疫に関 与している。当科ではこれまでにヒトグリオーマ組織におけるIDO の発現と組織学的悪性度との相 関について明らかにし、IDO が腫瘍免疫に対する阻害要因である可能性を報告してきた。そこで本 研究では、IDO 阻害による抗腫瘍効果を解明することを目的とし、マウス同種グリオーマ移植モデ ルを用い、IDO 阻害の有無が腫瘍増殖に及ぼす影響について検証した。また、悪性グリオーマの標 準化学療法薬であるテモゾロミド (Temozolomide, TMZ) と IDO 阻害剤による相乗効果について解 析を行った。 (方法) IDO の腫瘍増殖に果たす役割を解明するため、IDO ノックダウンマウスグリオーマ細胞を用いた マウス皮下移植モデルを用いて検討した。腫瘍細胞株として初期 10 継代以内のマウスグリオーマ GL261 細胞を、宿主として C57BL/6 マウスを用いた。まず、IDO 発現の有無を確認するため、IDO 誘導作用のあるIFN-γ刺激下で GL261 細胞を培養し、定量的 PCR 法により IDO 発現を確認した。 次に、IDO ノックダウン細胞は、GL261 細胞に IDO およびコントロール shRNA のプラスミドをウイルスベクターを用いて導入し作成し、定量的PCR 法により確認した。IDO 阻害の細胞増殖能に及 ぼす影響については、Water soluble tetrazolium assay にて解析した。大腿部に移植された腫瘍の 平均体積を継時的に測定し、移植後 14 日目に摘出して、腫瘍中の IDO 発現を免疫組織学的に検討 した。さらに、IDO 阻害剤と TMZ 併用の腫瘍体積に及ぼす影響を検討するため、IDO 阻害剤 (1-methyl- L-tryptophan, 1-MT) 投与群、TMZ 投与群、1-MT/TMZ の併用群における平均腫瘍体 積を比較した (各群 n=10)。1-MT は 1mg/ml 濃度を自由飲水で投与、TMZ は 100µl(1µg/µl)を移 植7 日目から 2 日ごとに計 4 回腹腔内注射により投与した。IDO 阻害による T 細胞への影響を解析 するため、IDO ノックダウン細胞移植後及び1-MT 投与後のマウスの脾臓を摘出し、T 細胞に占め るCD4と CD8 陽性細胞の比率をフローサイトメトリーにてカウントしコントロールと比較した。 (結果)
GL261 細胞は、IFN-γ刺激下において IDO mRNA の発現が誘導された。また、IDO ノックダウ ン細胞におけるIDO の mRNA の発現はコントロールに比し 32%に抑制されたが、増殖能には変化 を認めなかった。1-MT の付加も増殖能に影響を与えなかった。 一方、マウス移植モデルにおける生着腫瘍組織の免疫組織学的検討では、移植組織の辺縁部で IDO の発現が亢進していた。この発現は、IDO ノックダウン細胞移植組織では減弱していた。移植後 14 日目における平均腫瘍体積は、IDO ノックダウン細胞は、コントロール群の 5%(p=0.008)に減少 した。さらに、1-MT 投与により、49% (p=0.005) に、TMZ 投与で 30% (p=0.0002 に)、1-MT と TMZ の併用により 13%(p=0.002)に腫瘍体積が減少した。同時に摘出した脾臓中の T 細胞に占める CD4 陽性および CD8 陽性細胞の比率は、IDO 阻害群において有意に上昇していた。 (考察) 本研究は、マウス同種移植グリオーマモデルにおいてIDO 阻害により腫瘍進展の抑制効果を示し た初めての報告である。IDO はトリプトファンをキヌレニンに変換する代謝酵素で、IDO 活性によ り局所的なトリプトファンの減少とキヌレニンの蓄積が生じる。その結果、キラーT 細胞、ヘルパー T 細胞や NK 細胞の増殖抑制および活性低下が生じると報告されている。つまり、IDO 活性を阻害 することにより、宿主の腫瘍免疫が賦活され、治療効果の向上に繋がると考えられる。 本研究では、局所および全身的なIDO 阻害により T 細胞における CD4 陽性および CD8 陽性細胞 の比率の上昇が確認された。このことから、グリオーマ組織における局所的なIDO 活性が、ヘルパ ーT 細胞やキラーT 細胞などの増殖抑制に関与すると考えられた。 さらに、本研究では、TMZ に IDO 阻害剤を併用することにより相乗的な抗腫瘍効果を示すことが 明らかとなった。最近、IDO の間接的な免疫抑制作用として、キヌレニンがグリオーマ細胞の核内 レセプター、アリルハイドロカーボン受容体に作用し、制御性T 細胞の走化因子である CCL22 を介 する機序が明らかになっている。TMZ の制御性 T 細胞の選択的な増殖抑制効果についても報告があ り、IDO 阻害剤との相乗効果を考える上で重要な機序と考えられる。 (結論) 悪性グリオーマ細胞におけるIDO の発現は宿主の腫瘍免疫を抑制することから、IDO 阻害は有力 な治療手段になる可能性が示された。
論文審査結果の要旨
本 研 究 は 、 癌 に よ る 免 疫 回 避 機 構 に お け る 中 心 的 な 役 割 を 担 う 酵 素 で あ る Indoleamine 2,3-dioxigenase (IDO) に着目し、マウスグリオーマモデルにおいて、IDO 阻害による抗腫瘍効果の 検討と、グリオーマの標準化学治療薬であるテモゾロミドとIDO 阻害薬による抗腫瘍効果を検討し たものである。 その結果、IDO ノックダウン細胞では、コントロール細胞に比べて有意に腫瘍の進展が抑制され ること、グリオーマ細胞におけるIDO 阻害薬 (1-methyl-L-tryptophan: 1-MT) 投与は腫瘍抑制効果 を認めること、テモゾロミドとIDO 阻害薬の併用により、腫瘍抑制効果に相乗効果を認めることを 見出した。 本研究は、マウスグリオーマ細胞株の同種移植モデルを用いてIDO 阻害薬効果を検証したはじめ ての報告であり、評価できる。また、現在、グリオーマの放射線治療に化学療法薬の第一選択薬とし て用いられるテモゾロミドの上乗せ効果は、わずか2.5 ヶ月程度の生存延長でしかないが、今後、テ モゾロミドとIDO 阻害薬の併用によりグリオーマの治療効果が改善される可能性を示した点も評価 できる。 しかし、今回の実験は皮下移植モデルであったので、今後は頭蓋内モデルを用いた研究が望まれる。 加えて、血液脳関門を通過するような低分子でIDO 阻害効果の強い薬剤を用いた検討が必要であろ う。 申請者は人格、見識、能力ともに優れており、研究成果、研究に対する真摯な態度、今後の研究へ の意欲など総合的に考えて、本学の博士 (医学) の学位を授与するに相応しいと全員一致で判断した。