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異文化間コミュニケーション教育における内省の活性化 利用統計を見る

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内省の活性化

奥村圭子       要  旨  本稿では、留学生・日本人学生の混成の「異文化間コミュニケーション」授業 において、ラーニング・ジャーナルを書くという活動を通して、いかに学生の内 省が促され、メタ認知的知識が意識化され、さらにメタ認知的活動が行われたか を考察した。この授業では、さまざまな活動を通じて「学生自身の自己モニタリ ング能力を高めること」と「異文化を広いフレームの中で捉え、スムーズにコミ ュニケーションする能力を社会的スキルとして身につけること」を二つの到達目 標として掲げたが、それらは、ほぼ達成されていると考えられた。ラーニング・ ジャーナルでの内省では、人間のコミュニケーションについて、課題について、 そして方略についての知識を意識化した後、それから更にモニタリングや、コン トロールなどのメタ認知的活動を通して、目標設定や今後の計画が明示されてい ることが観察された。授業の中で学生が実際に経験した異文化体験とラーニン グ・ジャーナルでの内省が、相乗的に効果的な異文化理解学習を共に実現したと 言える。今後は、内省の評価をいかに行うかの検討とともに、異文化授業体験を 異文化理解の拡大と深化につないでゆくことが課題であろう。 キーワード:異文化間コミュニケーション、ラーニング・ジャーナル、内省、       メタ認知

1.はじめに

 大学全体の国際化推進に向かって、多文化クラス1による異文化理解教育がわが国でもさま ざまな大学で実践されるようになってきている。これは、外国人留学生の日本での異文化適応 教育としてだけでなく、国際的な視野に立った日本人学生の異文化間コミュニケーションカの 育成という意味でも重要な意義がある。また、留学生と日本人学生の相互交流の促進、共同作 業を通すことによる視野の拡大、さらに自文化や他文化への理解を深めるなどの教育効果が報 告されている(田崎2005、土屋1995、徳井1997、脇田2000)。多文化クラスの多くでは、従来の 講義形式ではなく、ディスカッションやグループワークなどの交流・体験型の授業形態が数多 く採用されている。  2004年度より本学の留学生センターでも、留学生・日本人学生の混成クラスの形式による共 通科目「異文化間コミュニケーション」を開講している。授業の到達目標を、1)学生自身の自 1土屋(2000)の定義によると、「多文化クラス」は、「さまざまな文化背景をもった学生が参加し、異文化理解に ついて学ぶクラス」とされている。

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己モニタリングカを高めること、2)異文化を自国以外の文化圏の人との関係の枠組みの中だ けでなく、性別、年齢、職業、環境の異なる人々を含む広いフレームの中でとらえ、スムーズ にコミュニケーションする力を社会的スキルとして身につけること、の二点においている。  異文化間コミュニケーションの技術や知識など、一般論としての認知的な知識は、測ること も容易であろう。しかし、到達目標の前者の「自己モニタリングカ」と後者の「社会的スキル 習得」については、個人の中でそれらが実現されているかどうかを見るために、どのような方 法をとればよいのだろうか。コミュニケーション活動の主体となる個人の内面的な気づきや発 見、学びに向けての深層構造の心的過程が極めて重要であるため、それらを体現に結びつける、 さらに活性化させる何らかの教室活動が必要である。       ぽ  本稿では、上記の必要性に応える形で、次に述べる「ラーニング・ジャーナル」というツー ルを用いることによって、受講生たちはどのような内省作業を行い、どのようなメタ認知的活 動を行って学び、学びが活性化され、そしてその授業が掲げた到達目標に達したかどうかを考 察する。その上で、今後に残された課題について述べたい。

2.ラーニング・ジャーナルがもらたすもの

2.1ラーニング・ジャーナルとは       〕  ジャーナルOournal)はフランス語‘jour’(「日、毎日jの意味)からの派生語で、新聞、雑誌、 日記などを示している。ラーニング・ジャーナルとは、学習日誌や学習ジャーナルとも呼ばれ、 臨床心理学や福祉医療学、看護学、教育学など、さまざまな分野で盛んに使われてきた。 Moon(1999)は、ラーニング・ジャーナルを内省的なライティングとも呼んでいる。学習者は ラーニング・ジャーナルを書くことから学ぶ、つまり、内省を通してもう一度学習項目、学習 スタイルや学習ストラテジーを見つめ直し、新しいアイデアも含めて他のやり方に挑戦し、さ らにそれを見直し、また学ぶという学習プロセスのサイクルの申で、優れた学習効果が得られ ていくと述べている。McCrindle and Christensen(1995)は、ラーニング・ジャーナルは、学習 者自身の学習内容に関する認知プロセスに内省の機会を与え、学びの目的やプロセスに関する 気づきを促し、学習の概念を理解する機会を与え、メタ認知ストラテジーおよび活動を促すも のだと指摘している。  ここで、「認知」と「メタ認知」という用語について、確認する必要がある。「認知」とは、人 が外界にある対象を知覚した上で、それが何であるかを判断したり解釈したりする過程のこと である。メタ‘meta’は、「後から」、「越えて」や「一緒に」の意味を示す接頭語で、「メタ認知」 とは、一旦認知された時点から始まる、認知に対するさらなる認知、すなわち、見る、聞く、 書く、話す、理解する、覚える、考える、といった通常の認知活動をもう一段高いレベルから とらえ直した認知を指す。たとえば、日本語の学習者が、日本語のある会話パターンを懸命に 繰り返して覚えるのは、単なる認知的ストラテジーであり、認知的活動である。これに対して、 経験や情報を駆使して、「文意を十分に理解してから覚える方がよく覚えられるのではないか」 と考えたり、「自分のぺ・一一・一・スだと、毎日少しずつ、一週間かけて覚えるのが望ましい」と判断 したり、あるいは自分の学習を点検してみたりするのは、メタ認知的ストラテジーであり、メ

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タ認知的活動といえるものである。  McCrindle and Christensen(1995)が指摘しているように、効果的な学習のために、学習者は 認知ストラテジー、およびメタ認知ストラテジーを用いるが、ラーニング・ジャーナルを記述 することによって生まれる内省を通して、二つのストラテジーが共に相まって活性化されるこ とになる。効果的な学習のためにも、ラーニング・ジャーナルを導入するのである。        / 2.2ラーニング・ジャーナルにおける内省を支えるメタ認知とその概念  内省という行為を支えるのが「メタ認知」であるが、このメタ認知の概念は、認知心理学の 分野で1970年代からFlavell(1987)やBrown(1987)らの研究によって急速に広まった。両者は通 常の認知に対する認知、つまり「メタ認知」の必要性を論じ、それを「認知についての知識」と いった知識的側面と、「認知のプロセスや状態のモニタリングおよびコントロール」といった、 学習につなげる活動的側面の二つに大きく分けた点で、一致している。 図1.コミュニケーションに対するメタ認知の構成 メタ認知  メタ認知的知識 ①人間のコミュニケーションについての知識   ・個人のコミュニケーションの特性についての知識     例「わたしは、気持ちを伝えるのに日本語語彙が足りないと思う。」   ・個人間のコミュニケーションの特性比較についての知識     例「XさんはYさんより、ディスカッションの司会が上手だ。」   ・一般的なコミュニケーションの特性についての知識     例「意図したこととは異なった受け取り方をされることがある。」 ②課題についての知識     例「プロジェクト発表は、受け手の理解があって初めて成功といえる。」 ③方略についての知識     例「Xさんのように、自分も留学生に積極的に話しかけようと思う。」 ●メタ認知的活動 ①メタ認知的モニタリング     例「プレゼンテーションは論理的で分かりやすかっただろうか。」 ②メタ認知的コントロール     例「自分が使った語彙は留学生には難しかったそうだ。注意しよう。」       三宮(2004)より引用(例文は筆者による)  Wenden(1998)は第二言語習得の分野において、メタ認知的知識の区分、それらの知識と学 習との関係、そして研究意義を説いているが、三宮(2004)はFlavellの分類を踏まえて、コミュ ニケーションに対するメタ認知の構成要素を図1のように整理している。本稿の研究対象は、 異文化間コミュニケーションであるため、このフレームワークを分析で用いることにする。  メタ認知的活動について、Nelson&Narens(1994)は、モニタリングとは、メタレベルが対 象レベルから情報を得ることであり、コントロールとは、メタレベルが対象レベルを修正する ことであると説明している。メタ認知的モニタリングには、認知についての気づき、感覚、予 想、点検や評価などが含まれる。一方、メタ認知的コントロールには、認知の目標設定、計画、 修正などが挙げられる。Nelson&Narensの概念に基づき、三宮(1995)が作成したモデルが図 2である。

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図2.メタ認知的活動のモデル(三宮(1995・1996)をもとに)   メタ認知的   モニタリング 気づき・感覚・予想   点検・評価

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情報の 流れ

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<==コ メタレベル  メタ認知的  コントロール 目標設定・計画   修正 ぐ=コ 対象レベル  ラーニング・ジャーナルを書くことと内省すること、それらとメタ認知のプロセスのとの関 係について、Moon(1999)は、学びの初期の段階では、事実の報告や表面的な学習しか現れな いが、高度な段階になるにつれ、メタ認知のプロセスが現れるのだと指摘する。そのメタ認知 の最たるものが、メタ認知的活動に含まれると考えられる「学びの応用」(transformative learning)である。つまり、取り掛かっている課題を解決するために、学習者は以前の課題にお いて習得した知識や技術を応用するが、その段階では、内省の役割が極めて重要で、コントロ ールとモニタリングが活発に行われる。このMoonの見解を十分考慮に入れて、受講者のラー ニング・ジャーナルに表れた内省を分析してゆきたい。

3.共通科目「異文化間コミュニケーション」での実践

3.1「異文化間コミュニケーション」の概要  留学生と日本人学生の混成授業、共通科目「異文化間コミュニケーション」は表1に示され るように、週1コマ、14週に亘って行われ、最後の2週はグループ・プロジェクトの発表にあ てられる。毎週の授業活動は、まずその週のテーマに関していくつかの仮想場面を与えられ.’ どう考えるか、どう行動するかといった問いかけを通して、個人もしくはペアで自己モニタリ 表1.「異文化コミュニケーション」2005年度前期スケジュール 第1週 第2週 第3週

幼週

第5週 第6週 第7週 第8週 第9週 第10週 第11週 第12週 第13週 第14週 4月12日 4月19日 4月26日 5月10日 5月17日 5月24日 5月31日 6月7日 6月14日 6月21日 6月28日 7月5日 7月12日 7月19日 オリエンテーション 「はじめまして」相手を知ろう 新しい常識発見 文化とコミュニケーション コミュニケーションのスタイル 言語コミュニケーション 非言語コミュニケーション 価値観と文化的特徴 自分を知ろう 異文化間コミュニケーションのスキル カルチャー・ショックと異文化適応 異文化適応トレーニング グループ・プロジェクト 発表 1 グループ・プロジェクト 発表 2

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ングを行うことから始まる。次に講義形式の異文化間コミュニケーション理論の紹介を交えな がら、ロール・プレイ、インタビュ・一、グループ・ディスカッションなどの活動を、毎週グル ープの構成メンバーを変えながら実施している。授業での使用言語は基本的には日本語である が、キーワードの解説や自己モニタリングのやり方についての細かい説明などについては、適 宜英語も使用している。教員は、グループの周りを回りつつ学生の様子や反応を見ながら講義 し、グループ・ディスカッション時にはファシリテーターの役割を担っている。6週目にグル ープ・プロジェクトのためのグループ・メンバーが決められ、7週目以降は90分授業のうち30 分ほどがグループ・プロジェクト発表の準備に使われる。プロジェクトに関しては、課外にも 時間を合わせてグループ単位の発表準備が毎週行われている。  この科目の成績評価には平常点60%、すなわちラーニング・ジャーナル(15%)、出席(15%)、 授業での参加度(15%)、課題レポート(15%)のほか、自己評価とピア評価を含むグループ・ プロジェクト発表に対する評価の40%が考慮され、総合的に評価される。  今回研究の対象となった2005年度前期の履修生は計43名で、その内訳は表2の通りである。         表2.2005年度前期「異文化間コミュニケーション」参加学生数 所属 留学生 日本人学生 教育人間科学部 4名(男1・女3) 15名(男8・女7) 工学部 15名(男10・女5) 5名(男4・女1) 医学部 一一牢 3名(男2・女1) 医学工学大学院(聴講生) 1名(男1) 一 垣一 計 20名(男12・女8) 草ミ:マレーシア9、 ?曹V、台湾1、 Iーストラリア3 23名(男14・女9)  受講生は、留学生20名のうち17名までが1年生であるのに対し、日本人学生の23名のうち11 名が1年生、残りは2年生から4年生までが数名ずつ参加している。出身国に偏りはあるもの の、性別、年齢、専攻もさまざまな、前述の「多文化クラス」であると言える。 3.2ラーニング・ジャーナルの導入  異文化間コミュニケーションの深層構造とも言うべき異文化接触に際して、ジャーナル・ア プローチ2を提唱する倉地(1991)は学習者の心的過程を重視した教育法開発の必要性を説き、 自己表現の拡大を進めるジャーナル・アプローチを提唱している。その実践原則として、下記 の3点を挙げている。 ①個人のプライバシーを相互に尊重することを示しておくこと ②学習者の語学力に対する劣等感や表現欲求が抑制されないように配慮する。そのために  作文指導のような評価や、添削、訂正などは行わないこと 2ジャーナル・アプローチとは、ラーニング・ジャーナルを使った教授法である。倉地(1991)は、従来の教育で はコミュニケーションの技術面や表層構造、とくにその目的文化を背景とする人々が要求する、あるいはのぞま しいとする意思疎通の技術をいかに獲得するかということに最大の注意が払われてきたのではないかと見てお り、それに代わる教育活動として、ジャーナル・アプローチを提案している。

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③自発的な自己表現を奨励しようとしてジャーナルを毎日書かせたり、あるいは字数を定  めるような規則や制限は設けず、提出期限までに記述させること  これらの3点を念頭に、「異文化間コミュニケーション」の第1週目のオリエンテーション の際、「ラーニング・ジャーナル」を形成的評価3の一つと位置づけ、「授業の中での自分の学 びや体験を客観的に捉えて意識化し、自分を省察し、自分、他者、グループとのコミュニケー ションを模索すること」を目的とすることを受講生に説明した。  受講生全員に「異文化間コミュニケーション」の授業の中での新しい発見、気づき、感動な どを、自由に、英語または日本語のうち自分が書き易い言語で書くためのノートを一冊ずつ渡 した。授業の最後に10分ほどの記述の時間を設け、その間に書き終えない場合には翌週の授業 までの提出とすることによって、学生は自由なペースで書き進めることができる。個々の学生 の記述に対して、読後何らかのフィード・バックを書いて、できるだけ早急に返却をすること を原則とした。毎週何らかの書き込みがあり、提出されていれば「可」のレベルとし、それに 加え内省の質と記述内容の質的変化に関して評価を行った。著者が記述内容を研究の対象とす ることについて受講生の許可を得て、個人のプライバシーは守られる旨も明確に伝えた。

4.ラーニング・ジャーナルの実際

4.1受講の目的について  第1週の授業の際、学習目的について聞き、ラーニング・ジャーナルの1ページ目に回答を 記してもらったところ、「相互理解をしたい」と考える学生が24名(留学生(以下「留」とする) 8名、日本人学生(以下「日」とする)16名)、「留・日の混在授業に参加して友人となりたい」、 また「他の国の文化や習慣を知りたい」(留10名、日6名)と答えており、通常なかなか接触す る機会のない異文化を背景にもつ学生との交流を大きな履修の理由としているのが注目され る。また「自分の考えを話せるようになりたい」(日5名)、「国際的な視野を広げ自分を大きく 成長させたい」(日3名)と、知識やスキルを求めて履修をしている日本人学生が何人か見られ る。一方、留学生の半数近く(8名)が、日本語運用力や英語力を伸ばすことを副次的な目的 として挙げている。そのほか、「自文化を外から見直す」(日3名)、「留学生が日本をどのよう に見ているか知りたい」(日3名)と、長い間享受してきた自らの文化を客観的に見つめる場と したい学生も多い。「日本について学び、生活の役に立てたい」(留4名)、「自分の行動範囲を 広げたい」(日4名)と自己啓発の機会としたい学生も見られる。  次の質問、「この授業が終わる段階までに何を身につげたいか、何を期待するか」に対して は、留学生が「日本人の友人」(留6名)という日常的な交流を期待しているのに対し、日本人 学生からは、異文化に対する正しい知識や理解、異文化に触れる勇気、外国人的な価値観、新 しい発見、自信、日本と緊迫した関係にあるアジア諸国からの留学生との交流など、さまざま な積極的な回答が得られたのも特記すべき点である。 3形成的評価は、モニター評価とも言われ、学習指導の質的な管理のための、教員と学習者に対する双方向の評 価と考えられる。形成的評価は日常の評価活動なので、学習者の学びの変化や学習指導の成果を分析できる。

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4.2メタ認知的知識の具体的な例  第2週以降は、学習や心の動きなどを記すラーニング・ジャーナルの教室活動を始めたが、 前述の「コミュニケーションに対するメタ認知」(図1)の区分に基づいて、受講生のメタ認知 に関する具体的な内省を分析したい。ラーニング・ジャーナルに実際に記された受講生の内な る声4を引用する。内容がほぼ同様だと見なされる場合はまとめて記す。記述の後の()には、 留(外国人留学生)、日(日本人学生)、そしてその後に個人ナンバーを示している。  まず、三つのメタ認知的知識、すなわち①人間のコミュニケーションの特性についての知識 (学習を促進、もしくは妨げる人的要因について、受講生が持っている一般的な知識)②課題に ついての知識(課題の目的、性質、要求していることが受講生の認知活動に及ぼす影響につい ての知識)、そして③方略についての知識(目的に応じた効果的な方略の使用についての知識) を順に分析する。 ①人間のコミュニケーションの特性についての知識  「個人のコミュニケーションの特性についての知識」として、コミュニケーションを広義に インターパーソナル・コミュニケーションも含めて捉えると、個人に関して挙げられたものに は、以下のようなものがある。    ・自分が受身的コミュニケーションを使っていることがわかり驚いた。(留5)    ・これからのコミュニケーションに自信が出てきました。(留6,12)    ・面子をつぶすのは大嫌い。自分の面子を守るのは、命より大事かも。(留20)    ・人間として、他の人に攻撃的になりたくないが、自分の心の中には、攻撃的な自分が    いる。(留12)    ・自分の知らない自分、自分が持つ無意識の中での考えなどを少しずつ発見している。     (留4,12,日1,5,8,11,17,19,21,22)    ・自分の固定観念の多さに驚いた。(日18)    ・自分が日本人なのだと再認識しました。(日14)  このような新たな自分、意外な自分の一面の発見などについての内省は、2週目の段階から 最終まで頻繁に出された。学習の中で表れる喜び、驚き、自信の獲得、学習動機などの要素は、 グループ・プロジェクトに関しての情意的要素を含んだ内省として現れている。    ・それなりにいい発表ができた。このトピックについてもう少し深めたいと思う。    (日2,留19)    ・プロジェクトで感じた苦労も結局は楽しみとなった。人生に活かしたい。(日1)    ・この授業のいちばん勉強できるところ、面白いところはプレゼンの準備や発表だと思    う。(留20)    ・今日の発表では、私のできることを精一杯やることができて、満足だ。(日8,19)  一方、「個人間のコミュニケーションの特性比較についての知識」については、ラーニン グ・ジャーナル自体の特性として自分の学び、自分の心の変化などを中心に述べられることが 4データのうち一部は園田博文・奥村圭子・内海由美子・黒沢晶子(2006)「留学生と日本人学生の交流活動実践 から見えてくるもの」『山形大学紀要教育科学』14巻第一号.で紹介されている。

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多いため、個人間の比較はあまり行われていなかったのが実情であった。   ・アジア人は、西洋人よりずっと繊細だと思う。(留9)   ・外国人と日本人の価値観は共通点や相違点も含めていろいろだ。(日3)  「一般的なコミュニケーションについての知識」については、以下のような観察がなされて いた。   ・異文化間コミュニケーションも人と人との関わりには違いないのだから、相手を思い    やると同時に、自分もしっかりした考えをもって接することが必要。(日6,8,17,18)   ・描写・解釈・評価を示すDIE法を学んだが、どこでも、どの相手にでも使えます。(留1)   ・現代の社会では、ティーム・ワークが極めて大事である。(留20)   ・誤解とはことばの誤解だけではなくて、相手の気持ちの勘違いもある。(留8) ②課題についての知識  課題はここでは、異文化間や学生相互のスムーズなコミュニケーション、日本語能力や英語 能力の伸長、そして最終2週に亘って行われるグループ・プロジェクトなどであるが、 Welden(1998)のいう課題の達成手順やタスクの困難さについての知識が観察された・   ・誤解が生じた場合には、冷静にして文化が違うから起こったのではないか、と可能性    を考えるといい。(留10,12)   ・自分の中で当然だろう、と思っていたことが異文化では通用しないこともあることが    わかった。(日16)   ・相手の表情を見ながら、相手の反応を見ながら話し、自分の意見を言うのが大事だ思    う。 (日2,17)   ・相手に自分の意図することをうまく伝える難しさを感じた。(日15)   ・背景が異なる人と仲良くなっても、ちょっとした行き違いで問題も起こってしまいそ    うなので、相手の文化について気を配っていきたい。(日12)  グループ・プロジェクトについて、達成手順について方法論の困難さが述べられている。    ・学部・学科の違う人とプロジェクトの準備をするのは時間割があわず、大変だった。     (日23)    ・準備の時間が足りなかった。(留2)    ・出身国別の比較だったが、国によっては数少ないサンプルしか集まらなかった。(留2)    ・パワーポイントは、やはりグラフを入れて発表した方が分かりやすい。(留9)  語学力に関しては、特に留学生からの感想が多く見られた。以下に代表される。    ・日本人と話していて、日本語が少しずつうまくなっているのがわかる。(留15,18)  日本人の学生側から次のような気付きも記されている。    ・留学生を見ていて、このように授業で自分たち日本人と1時間半も話さなければいけ    ない状況下では、語学の上達は早いだろうと思った。(日1)    ・留学生の日本語が自分たちの英語に比べ、はるかに上手だったことには驚いた。・     (日3,9,15,19)  また、ちょうど「言語コミュニケーション」をテーマとして授業が行われた日の鋭い指摘も

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ある。    ・授業中静かな状態が続いたとき、日本人の一人が「し一ん」と言ったが、留学生の    みんなはその意味がわからない様子だった。日本語にはユニークな擬音語、擬態語    が多く使われていて、改めて文化の違いを感じる。(日5)  普段は気にもとめない事象も、クラス活動を通して、敏感に感じるようになったのであろう。 ③方略についての知識  この分類には、他者が学習リソースとして認識されている記述がいくっか見られた。    ・マレーシアの留学生と価値観が共有できたとき、無性に嬉しかった。国を越えても価    値観を共有できることはたくさんあるのではないか。(日3)  日本人学生3の感想は、理論を学ぶと同時にさまざまな協同作業が行われている中から生ま れたものであると解釈する。    ・留学生が積極的に社交的に話してくれ、とても話しやすかった。(日8,15,17)    ・留学生を見ていて、自分もさらに外交的になってコミュニケーションを積極的にして    いこうと思った。(日10)    ・同じグループになった留学生から「期待」というのはどのような意味か、と聞かれ    簡単な言葉に言い換えようとしても難しいことがわかった。留学生にわかる言葉を探    し出し、且つ使えるようになる機会だと思う。(日8)  グループ・プロジェクトに関しても他者が大いに個人の学びに関与しているのが観察される。   ・発表もチーム内の協力と努力があって作られた。その過程が全て国際交流だろう。(留1)   ・グループ・プロジェクトを通しての日本人と他の外国人との付き合いがすばらしい経    験でした。(留8,14)  上述した①から③の例のように、学生たちが学習を振り返るラーニング・ジャーナルには、 さまざまな学びが意識化されて記されており、異文化理解のプロセスを具体的に観察すること ができる。ラーニング・ジャーナルを記述することにより、次に挙げるメタ認知的活動へ学び が導かれている。次の学びへの[助となっている、と言えよう。 4.3メタ認知的活動の具体的な例  これまで述べてきた知識の意識化から一歩進んだ学習である、前述のNelson&Narens(1994) (図2を参照)の示す「メタ認知的活動」には、①メタレベルが対象レベルから情報を得るメタ 認知的モニタリングと、②メタレベルが対象レベルを修正するメタ認知的コントロールがある が、それらにあたる記述を考察したい。 ①メタ認知的モニタリング  モニタリングには、気付きや感覚、予測、点検、評価などがふくまれる。   ・低コンテキスト文化からの人間同士も高コンテキストのタイプになる可能性も多いの    ではないだろうか。また、誰が高/低コンテキスト文化の人とは言えないのではない    か。それぞれの個人同士の関係の深さによって、高コンテキスト文化のようなコミュ    ニケーションになるだろう。私が低コンテキスト文化の人と高コンテキスト文化的な

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   会話をすることも可能じゃないか、今度試してみたい。(留20)  この記述はモニタリングのうち、予想することから始まり、最後は次へ向けての計画を述べ ている。   ・グループによってはテーマが非常に面白く、着眼点が新鮮であった。(留17)   ・発表の練習の結果、やり方に改善点が見られた。(日16)  このような個人や他のグループのプロジェクトに対する評価は4.2の項でも挙げられてい るが、プロジェクトの評価には、自己評価とピア評価が組み込まれていたため、非常に積極的 な評価参加が観察できる。   ・最近の日中関係の悪化にも拘らず、実際に個人対個人では仲良くなれるというのを再    確認できてよかった。(日4)  この学生は、受講の目的として「日本と緊迫した関係にある中国の留学生と交流を深めたい」 と語っていた学生であるが、体験を通して、身をもって確認ができたようである。   ・固定観念はよくない。ステレオタイプで見ていた留学生に対するイメージが払拭され    たのはとてもよかったです。(日9)   ・この授業をとって、物事を多角的に見られるようになってきたと思う。(日17) と、自分の内的成長や変化を評価しているものもある。 ②メタ認知的コントロール  コントロールには、目標設定、計画、修正などが含まれると考えられる。4.2の項で紹介し たいくつかの例のほかに次のような例が挙げられる。   ・コミュニケーションのためには、自分のことを知ってもらわなければ。少しずつ自己    開示を広げていき、初対面の人でも、打ち解けられるようにしたい。(日3,17)   ・中々人にオープンになれないため、「恥ずかしがっちゃだめ」を心がけるようにしたい。     (日11)   ・今まで、面倒だからやらないとか、恥ずかしいからやらないと思っていたことに挑戦    してゆきたい。例えば授業中の発言など。(日22)   ・異文化間コミュニケーションだけではなく、友人との間でも、何か問題があったら、    自分の考えも言え、相手の言うこともしっかり聞いていくつもりだ。(留18)  個人の現状の把握を授業で行った後、次の目標や方略が練られており、新しい可能性を探っ ている学習の様子がわかる。 4.4授業の到達目標の達成度  「異文化間コミュニケーション」の授業で掲げている到達目標は、すでに述べたように、① 学生自身の自己モニタリングカを高めること、②異文化間コミュニケーションする力を社会的 スキルとして身につけること、の2点であるが、それらは実際に達成されているのであろうか。  まず、①学生が自分自身、自文化、自分の物の見方について見つめる力を高めているかを示 す気づきは、4.2の項で多く例が出された通りだが、そのほとんどが日本人学生からの記述 である。日本人学生にこのような内省が多いのは、「この機会がなければ、4年間恐らく話す

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こともなかった留学生と友人になれたのは貴重」(日8)だと感じる日本人学生が大半であり、 異文化に接する機会が乏しいことを示唆している。日本人学生には、自分を客観視し、コミュ ニケーションの方向性を模索するきっかけが、この授業によって提供されたと言えよう。この ほか、4.3の項で扱ったメタ認知的活動にも、自己モニタリングと解釈できる例があった。  一つ、何より注目すべき例がある。「留学生との混在授業というのに、ヨーロッパからの学 生がほとんどいないので正直がっかりした」、「留学生と日本語で話すのは疲れる」、「留学生が 一緒だと陳腐な質問が多い」(日19)と第1週に述べていた学生が、前期半ばには、「今まで自 分が留学生に対して失礼な見方をしていたのがわかった」と今までの自分の行動を省みて反省 をしており、新しい学びを「人との話し方を学べた気がする」(日19)と、記し、「この授業が終 わるのはさびしい。本当にどうもありがとうございました。」(日19)と最終週に述べている。 ラーニング・ジャーナルの中で内省を通して一人の学生の、異文化から来た留学生に対して、 人間としての内的成長が見られ、授業参加が個人の見方、価値観をも変え得る学習過程であっ たことが窺える。  到達目標の②「異文化間コミュニケーションをする力の習得」については、参加学生の多く が、「大学の中で、いながらにして本当の異文化間コミュニケーションができた」(日1,日17 他)と述べており、「驚きと発見の連続」(日16)の14週間に、「異文化理解に必要なスキルを身 につけることができた」(日2)と感じている。しかし、「異文化間コミュニケーションと言っ ても人付き合いの延長である」(日6)し、「文化的な違いもたくさんあるが、人と人との関わ りあいであるので、相手を思いやり、尊重することが大切である。」(日8)とも述べている。 留学生の多くは、「文化差ももちろんであるが、個人差も、コミュニケーションでは大きな変 数ではないか。」(留3,4,20,日3,15,他)と記している。また、「若い世代は移動も激しく、 順応も早いので、文化差も薄まってきているのではないか。コミュニケーションが徐々にし易 くなってくるかもしれない。」(日15)とのコメントも、留学生との密な異文化理解活動であっ たからこそ、出された見解である。

5.ラーニング・ジャーナルに対する教員の評価

 ラーニング・ジャーナルは、コミュニケーション活動の主体となる個人の内面的な気づきや 発見、学びに向けての深層構造の心的過程を知るため、そして内省を通しての学びの活性化の ためという二つの目的をもって導入されたが、ラーニング・ジャーナルなしには、クラス全員 の異文化体験は見えず、到達目標が現実に達成されているかどうかも確かめることは不可能で あったと思われる。また、ラーニング・ジャーナルに書き込む形で受講生からの授業への提案 が出されれば、毎回のクラス活動に修正や改善を反映させることができたのも得がたい利点で ある。  学生がメタ認知的知識の意識化ばかりでなく、高度な学習とも言える、評価、予想、目標設 定、計画などのメタ認知的活動にまで学習が及んでいるのことも観察された。  また、ラーニング・ジャーナルのもう一つの側面として、教員と学生の間に何らかの信頼関 係を形成していた点が評価できる。教員からのフィード・バックは決して長くはないが、ラー

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ニング・ジャーナルでは聞き手は教員一人である気安さからか、口頭では容易に言えぬことに ついても、学生は自由に心の内を語り、対話を求めている。受講生の7割は、授業の時間内に ラーニング・ジャーナルを書き上げ、提出を済ますが、残りの3割は、授業と授業の合間の1 週間、参加型の体験学習をゆっくり振り返る。その中には、日常生活の中で経験した具体的な 気づきの喜びや驚きを記す学生もいる。言語が日本語と限定されていなかったのも、非漢字圏 からの学生に自由な記述を促したようである。学生の個性や新しい側面が見え、心理的距離感 も縮まり、教員側にとっても有意義な体験であった。時間をかけて振り返りをしてもらうため には、自宅で記述する方が引き出せる内省も多くなるのではないだろうか。  倉地(1991)が指摘するように、ラーニング・ジャーナルは必ずしも科学的、分析的な異文 化理解を志向するものではない。また、今回の参加学生の中にも見られたが、「書く」という 作業を億劫と感じ、それが得意な自己表現法ではない場合もあろう。その場合にはラーニン グ・ジャーナルと組み合わせてインタビューを行ったり、ビデオを撮ったり、他のアプローチ を併用することも考えなければならないのかもしれない。

6.おわりに

 本稿では、本留学生センターにおいての「異文化間コミュニケーション」で取り入れている ラーニング・ジャーナルを通して受講生の内省を活性化させることによって学びを観察し、そ の導入の意義を考察した。受講生たちは、授業に参加すること自体、異文化間コミュニケーシ ョンを90分間にわたって続けざるを得ない状況に立たされ、さまざまな教室活動をグループで 共同体験しながら、且つメタ認知を用いながら、タスク遂行を試みていた。自己モニタリング をしながら、異文化間コミュニケーションカの伸長に向けて、メタ認知的知識はもちろんのこ と、メタ認知的活動を活用している例が見られ、授業の到達目標はほぼ達成されたと考えられる。  2005年度前期の実践を振り返る限り、第一週にラーニング・ジャーナルの書き方、各内容な ど例を挙げて説明をしているものの、それに慣れない受講生は、まだ「何を学んだか」という 授業内容を中心に書いており、Moon(1999)が言うところの、高度な段階の学習成果は、非常 に多かったとは言い難い。しかし、今後授業の中で進める予定の「自律学習」の柱となるツー ルとしてラーニング・ジャーナルを定着させていくべく、書く意義や内省の書き方なども受講 生に伝えてゆきたい。  ラーニング・ジャーナルで派生する内省をいかに評価するか、という評価方法も検討課題で ある。自己評価を取り入れるならば、客観性と公正性を持ってもらうため、学生への指導も必 要となり、いかに信頼性をあげるかが課題であろう。  学生にとって、授業体験を一時的な異文化体験に終わらせないためにも、自律学習を取り入 れた継続的な異文化理解活動もあわせて進めていく所存である。外国人留学生と日本人学生の 異文化接触の拡大のみならず、深化にも働きかけが必要である。

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参照

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