名古屋短期大学研究紀要 第57号 2019 1 はじめに 現代の子どもの体力向上に対して、日本体育協会の「子どもの身体活動ガイドライン」(1)では、 あらゆる身体活動を含めて、毎日最低60分以上からだを動かすことを基準としている。平成28 年度における学校の体育授業以外で遊びを含む運動やスポーツの実施時間は、平日で男子63.9 分、女子43.8分(2)であり、運動時間が確保されているように見える。しかし、運動をする子ども としない子どもの二極化(3)が指摘されている通り、1週間の総運動時間が420分以上の割合は男 子55.7%、女子32.7%(2)であり、男子は5割、女子に至っては3割程度しか1日60分の運動量を 満たしていないことになり、日常的な運動を習慣づける対策を講じる必要がある。文部科学省(4) によると、運動時間と運動やスポーツへの意識に関する調査で、「運動やスポーツをすることが 好き」、「運動やスポーツは大切なもの」、「中学校に進んだら、授業以外でも自主的に運動やス ポーツをする時間をもちたい」などの質問に肯定的な回答をした子どもほど運動時間が長いこと を報告している。このことは運動時間と運動意識の深いつながりを示しているが、運動時間を左 右する運動欲求が運動意識にどのように影響を及ぼしているかは明らかでなく、検討の余地があ る。 ところで、小学生年代では、子どもたちの運動習慣には学校が与える影響が大きく、特に、習 慣化はしていないが運動に対して潜在的な欲求を持っている子どもには、学校がそのきっかけづ くりをすることが非常に重要であり、アプローチの仕方を工夫することで「運動習慣」が身に付 くことが多い(5)。そのきっかけづくりの時間として、中休みや昼休みなどの休み時間が考えられ る。休み時間は教育課程にほぼ、毎日、位置付けられていることから全ての子どもにとって日常 的に身体活動ができる時間である(6)ことからも、休み時間を活用することが運動習慣形成に有効 であると考えられる。休み時間での実施率の高い遊びは、なわとび、ボール遊び、鬼ごっこな ど(7)で、これらは身体活動量の多い伝承遊びである。身体活動量の多い伝承遊びは、小学生の保 護者世代にも子ども時代に親しまれていた遊びであり(8)、いつの世代であっても子どもにとって 魅力ある遊びであることは伝承遊びが休み時間に親しまれている要因であると推察される。しか し、伝承遊びをしたいという欲求が子どもの運動に対する意思決定にどのように影響するか明ら かでない。 これらのことから、本研究では、運動と伝承遊びの欲求の要因が、運動意識にどのように影響 しているか検討することを目的とした。
運動と伝承遊びの欲求が運動意識に及ぼす影響
山下玲香 都築繁幸
2.1 対象 調査計画をA県B市の教育委員会に承認を得た後に、対象校の校長に依頼し、職員会議で了解 を得た。対象校に質問紙を郵送し、後日回収した。その結果、329名から回答があった。今回の 分析は、調査用紙に不備のなかった327名(4年男子53名、女子47名、5年男子59名、女子55 名、6年男子59名、女子54名)とした。 2.2 手続き 調査は無記名とする質問紙調査で行った。実施期間は20XY 年Z月である。質問紙を学校に配 布し、回収した。質問紙は、性別、学年、運動意識に関する24項目、休み時間運動欲求と、伝 承遊びに関する2項目からなる。 2.2.1 運動意識の項目 子どもの運動意識を検討するため、山下ら(9)の運動意識尺度28項目を改編し24項目で質問紙を 作成した。回答は「かなりあてはまる(5点)」、「ややあてはまる(4点)」、「どちらでもない(3 点)」、「あまりあてはまらない(2点)」、「まったくあてはまらない(1点)」の5段階で求めた。 この項目の中には逆転項目も含まれており、得点は反転して処理した。一個人の最高得点は 120点であり、最低得点は24点である。 2.2.2 休み時間における運動欲求と伝承遊び欲求の項目 休み時間における運動欲求と伝承遊び欲求の項目として、「休み時間に体を動かす運動をもっ とよくしたい」、「休み時間に鬼ごっこなどの遊びをもっとしたい」の2項目を設定した。回答は 運動意識尺度同様に5段階で求めた。 2.3 分析の観点 休み時間における運動欲求と伝承遊びの要因が運動意識にどのような影響をおよぼすかを検討 するため、以下の分析を行った。分析には、IBM SPSS Statistics Version21を用いて行った。 1)対象の運動意識の因子得点を算出するために主因子分析・プロマックス回転による因子分析 を行う。回転後の因子負荷量の絶対値0.45以上を基準として因子を解釈する。 2)休み時間における運動欲求と伝承遊びの要因それぞれについて、「かなりあてはまる(5 点)」、「ややあてはまる(4点)」と回答した群を高群、「あまりあてはまらない(2点)」、 「まったくあてはまらない(1点)」と回答した群を低群とし、高群と低群の差の検定に対応 のないt検定を行う。有意水準は5%未満とした。
運動と伝承遊びの欲求が運動意識に及ぼす影響 3 結 果 3.1 因子分析による「運動意識尺度」 因子数を6で規定した主因子分析・プロマックス回転法による因子分析を行った。因子の解釈 可能性の観点から、6因子が最適であると判断されたため、因子負荷量が0.4未満の項目を除き、 6因子で再度同様の因子分析を行った。Tab. 1にその結果を示す。 Tab. 1 子どもの運動意識の因子分析 項目内容 因子負荷 共通性 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ [ 第Ⅰ因子:身体的有能さの認知 α = .862 ] 私は、運動について自信をもっているほうです 0.954 0.052 0.019 ‒0.219 0.024 ‒0.066 0.748 私は、たいていの運動は上手にできると思います 0.904 ‒0.060 ‒0.009 ‒0.131 0.023 ‒0.034 0.618 私は、運動能力がすぐれていると思います 0.870 ‒0.139 ‒0.161 ‒0.062 0.135 ‒0.003 0.536 私は、むずかしい運動でも進んでやります 0.661 ‒0.154 0.123 0.219 ‒0.051 0.120 0.676 [ 第Ⅱ因子:運動の日常生活の効果 α = .736 ] 私は、運動をすると夜にぐっすり眠れると思います ‒0.229 0.780 ‒0.053 0.058 0.130 ‒0.086 0.503 私は、運動をすると体の調子がよくなると思います ‒0.101 0.755 0.064 ‒0.079 0.099 ‒0.060 0.508 私は、運動をすると、体がじょうぶになると思います ‒0.022 0.699 0.011 ‒0.083 ‒0.031 ‒0.014 0.379 私は、運動をすると、給食がおいしく食べられると思います 0.025 0.614 ‒0.078 ‒0.146 0.129 ‒0.047 0.315 [ 第Ⅲ因子:運動の否定的感情 α = .780 ] 私は、運動をすると、疲れるからいやになります ‒0.005 0.022 ‒0.781 0.050 ‒0.026 0.113 0.572 私は、運動をすると、汗をかいたり、筋肉痛になるのでいやになります 0.041 ‒0.009 ‒0.684 ‒0.076 0.098 0.142 0.440 私は、運動をすると、時間がもったいないように思います 0.155 ‒0.096 ‒0.656 0.004 0.020 0.140 0.371 私は、運動をすると、運動が下手なのでいやになります ‒0.421 0.107 ‒0.556 0.141 0.017 0.097 0.544 [ 第Ⅳ因子:運動種目の上達願望 α = .707 ] 私は、はやく走ったり長い距離を走ったりできるようになりたいです ‒0.077 ‒0.170 0.012 0.765 0.057 0.038 0.430 私は、水泳がもっとじょうずになりたいです ‒0.146 0.021 ‒0.027 0.706 0.041 ‒0.094 0.388 私は、器械運動を練習してもっとじょうずになりたい ‒0.119 0.143 ‒0.016 0.650 ‒0.043 0.028 0.440 私は、サッカーやドッジボールなどのボール運動がもっとじょうずになりたいです 0.027 ‒0.192 0.215 0.518 0.063 0.010 0.332 [ 第Ⅴ因子:運動中の友好関係 α = .765 ] 私が、運動をしているとき友だちがはげましてくれたり、応援してくれます 0.139 ‒0.037 ‒0.102 0.104 0.693 ‒0.091 0.550 私は、運動をすると友だちの運動を見たり、応援したりできるので楽しいです ‒0.168 0.028 0.140 0.101 0.659 0.075 0.526 私が、運動をしているとき、先生がはげましたり応援してくれます 0.080 0.152 ‒0.154 ‒0.037 0.589 ‒0.138 0.385 私は、運動をすると友だちや先生と仲良くなれるので運動をします 0.084 0.140 0.177 ‒0.072 0.448 0.126 0.504 [ 第Ⅵ因子:休み時間における外的調整 α = .715 ] 私は、休み時間に運動をしないと学級の雰囲気になじめなくなるので運動をします ‒0.081 ‒0.080 ‒0.282 ‒0.021 0.011 0.795 0.623 私は、休み時間に運動をしないと気まずくなるので運動をします 0.022 ‒0.005 0.237 ‒0.099 ‒0.152 0.644 0.428 私は、休み時間に運動をしないと授業についていけなくなりそうなので運動をします ‒0.055 0.216 ‒0.370 ‒0.044 ‒0.032 0.599 0.492 私は、休み時間に運動をしないとさびしい感じになりそうなので運動をします 0.058 ‒0.178 ‒0.162 0.064 0.049 0.565 0.305 因 子 寄 与 11.264 2.374 1.47 1.127 1.057 0.639 累積寄与率(%) 31.289 37.885 41.968 45.098 48.035 49.81 全体の信頼性 α= .767 第一因子に含まれる4項目は、運動の自信、運動スキル、難しい運動への挑戦、運動能力など の項目で構成されていることから「身体的有能さの認知」と命名した。 第二因子に含まれる4項目は、運動がもたらす丈夫な体、快眠、快調、快食等の項目で構成さ れていることから「運動の日常生活の効果」と命名した。 第三因子に含まれる4項目は、運動が下手で嫌、汗や筋肉痛の不快感、疲労感、時間の無駄な
いという項目で構成されていることから「運動種目の上達願望」と命名した。 第五因子に含まれる4項目は、友達や先生と仲良くなれる、友達の運動の応援や観戦、先生や 友達からの応援などの運動中における周囲との関わりの項目で構成されているから「運動中の友 好関係」と命名した。 第六因子に含まれる4項目は、休み時間に運動をしないことによる気まずさ、寂しさ、学級の 雰囲気になじめなくなる、授業についていけなくなるといった項目で構成されていることから 「休み時間における外的調整」と命名した。 以上の6因子に関する信頼性を検討するため、因子ごとにα係数を算出した。第一因子の「身 体的有能さの認知」がα=0.862、第二因子の「運動の日常生活の効果」がα=0.736、第三因子の 「運動の否定的感情」がα=0.780、第四因子の「運動種目の上達願望」がα=0.707、第五因子の 「運動中の友好関係」がα=0.765、第六因子の「休み時間における外的調整」がα=0.715であり、 24項目全体ではα=0.767であったため、使用可能であると考えられる値が得られた。 3.2 運動意識に及ぼす要因の検討 運動意識の六つの因子および合計得点と休み時間における運動欲求および伝承遊び欲求に関す る要因2項目について、高群と低群で対応のないt検定を行った。有意水準は、0.1%とした。 その結果を Tab. 2、Tab. 3に示す。 Tab. 2 運動欲求の要因における群別の 運動意識得点 高群 低群 t 検定 因子/N 234 40 第Ⅰ因子 14.26 8.48 *** 身体的有能さの認知 (3.70) (3.42) 第Ⅱ因子 15.89 12.43 *** 運動の日常生活の効果 (3.65) (4.00) 第Ⅲ因子 17.03 13.05 *** 運動の否定的感情 (3.30) (3.88) 第Ⅳ因子 17.79 14.55 *** 運動種目の上達願望 (2.44) (4.11) 第Ⅴ因子 14.74 10.43 *** 運動中の友好関係 (3.71) (3.23) 第Ⅵ因子 15.51 17.25 ** 休み時間における外的調整 (3.65) (2.51) 合計 95.22 76.18 *** (12.14) (12.15) ** p<0.01 *** p<0.001 Tab. 3 伝承遊び欲求の要因における群別の 運動意識得点 高群 低群 t 検定 因子/N 200 69 第Ⅰ因子 14.19 10.33 *** 身体的有能さの認知 (3.86) (3.42) 第Ⅱ因子 16.08 13.22 *** 運動の日常生活の効果 (3.53) (4.14) 第Ⅲ因子 16.90 14.16 *** 運動の否定的感情 (3.36) (4.32) 第Ⅳ因子 17.80 15.35 *** 運動種目の上達願望 (2.37) (3.92) 第Ⅴ因子 14.98 11.94 *** 運動中の友好関係 (3.71) (3.48) 第Ⅵ因子 15.49 16.51 n.s. 休み時間における外的調整 (3.73) (3.11) 合計 95.43 81.51 *** (12.56) (13.43) *** p<0.001 3.2.1 運動欲求の要因 合計得点、第一因子、第二因子、第三因子、第四因子、第五因子において、高群が低群より有 意に得点が高かった(p<0.001)。第六因子において、低群が高群より有意に得点が高かった (p<0.01)。これらのことから、運動欲求の高い子どもは低い子どもより、身体的有能さの認知や、
運動と伝承遊びの欲求が運動意識に及ぼす影響 運動の日常生活の効果、運動の否定的感情、運動種目の上達願望、運動中の友好関係などが高い が、休み時間における外的調整は運動欲求の低いこどもが高い子どもよりも高いことが示され た。 3.2.2 伝承遊び欲求の要因 合計得点、第一因子、第二因子、第三因子、第四因子、第五因子において、高群が低群より有 意に得点が高かった(p<0.001)。第六因子では有意差は見られなかった。これらのことから、伝 承遊び欲求の高い子どもは低い子どもより、身体的有能さの認知や、運動の日常生活の効果、運 動の否定的感情、運動種目の上達願望、運動中の友好関係などが高いが、休み時間における外的 調整は伝承遊び欲求に左右されないことが示された。 4 考 察 4.1 運動意識に及ぼす要因 4.1.1 運動欲求の要因 ①身体的有能さの認知 児童期後期は、神経系の発達が100%に近づき、スポーツに必要なあらゆるスキル獲得の最適 時期である。運動スキルの獲得の自覚は児童の運動有能感に影響を及ぼすとされ(10)、児童期後 期におけるスポーツ活動での運動スキル獲得は身体的有能さの認知を高めると推察される。本研 究から運動欲求の高い子どもは、身体的有能さの認知が高いことから休み時間に運動をしたいと いう運動への前向きな意欲が、難しい運動を進んでやる、たいていの運動は上手にできるといっ た運動課題の達成や高い運動スキルに影響を及ぼしていると推察される。 ②運動の日常生活の効果 今回の結果から運動欲求の高い子どもは、運動の日常生活の効果の知覚が高いことから、休み 時間に運動をしたいという欲求が活動的な日常生活を送る要因となり、健全な状態であることの 認識に繋がると推察される。子どもの運動意欲に関連する要因として松平ら(11)は、食事・睡眠 を始めとする健全な生活習慣、座位中心の生活が少ないことや運動への心理社会的要因として個 人的、体育授業、家庭環境への肯定的かつ積極的評価、日常生活全体における身体活動量の高さ の3側面が好循環しているとする。また、運動時間の長い子どもの特徴として、文部科学省(4) は、1週間の総運動時間が420分以上の子どもは、自分が健康でいるために、「食事・睡眠・運 動」がそれぞれ同じように大切であると回答する割合が高かったとしている。これらのことから も、子どもが日常生活と運動との関わりを認識することで運動に対する意欲を喚起したり、生活 そのものが豊かになると考えられる。 ③運動の否定的感情 本研究の運動欲求の低い子どもは、運動の否定的感情が高かった。身体活動が不活動な子ども は他の子どもに比べ、身体活動の恩恵に対する知覚が弱く、負担を強く感じている(12)ことから も、運動欲求の低い子どもは運動の否定的感情が強いことが、身体活動の不活発に繋がるものと
ており、適度な運動量であったと感じた被験者の感情に変化があったが、運動量が「強すぎる」 と感じた被験者は感情の変化の尺度が減少していることから、運動実践者にとって適度な運動量 (強度)であることが重要であるとしている。これらのことから、運動が嫌いな子どもの否定的 な感情は運動によって肯定的な感情へ向上する可能性があるが、個々に適した運動量を選択でき るという条件が不可欠であると言える。 例えば、ゴム跳びのように、ゴムが低い位置から高い位置へ徐々に段階を踏んで挑戦できる遊 びや、だるまさんがころんだのように、鬼に向かって進む距離が個人の意思によって選択できる 遊びのように、個人の選択によって運動量を調節することができる遊びなどが考えられる。 ④運動種目の上達願望 波多野ら(14)は、運動嫌いを引き起こす原因として体育授業をはじめとする運動場面での喜び の欠如を挙げ、失敗しないかという意識から「食わずぎらい」傾向になり、体育授業経験の中で さらに増幅されることを指摘している。サッカーやドッジボールなどのボール運動は、体育授業 で取り扱われる運動種目であり、休み時間においても屋外で遊ぶことのできる運動で、子どもに とって人気のある遊びである。本研究においては運動欲求の低い子どもは運動種目の上達願望も 低かったことから、波多野ら(14)の結果を踏まえると、体育授業経験からの「食わず嫌い」が休 み時間の運動欲求の低下を引き起こしているとも考えられる。 ⑤運動中の友好関係 本研究の結果から、運動欲求の高い子どもの運動中の友好関係は良好であった。体を使う遊び の多い子どもほど遊び仲間が多く、遊び場にも恵まれ、運動能力も高く、活発な傾向にある(15)。 このことから、運動欲求の高い子どもは、遊ぶ場面では友達と遊ぶ機会が多いため、子ども同士 で声掛けをしたり、遊びを見たりすることも多くなることが、友好関係の形成に影響を及ぼして いると推察される。杉原(16)は、先生に褒められてから運動が楽しいと感じるなどの承認動機や、 友達と仲良く運動ができるから楽しいと感じるなどの親和動機などの外発的動機づけが満たされ ることで楽しいという感情が生起するとしている。また、文部科学省(17)の調査では、「今後どの ようなことがあれば、今よりもっと運動やスポーツをしてみたいと思うか」という質問に対し て、1週間の総運動時間、運動やスポーツの好き・きらい、体力総合評価を問わず、「好き・で きそうな種目があれば」「友達と一緒にできたら」「自分のペースで運動ができたら」「自由に使 える場所があれば」が上位であったとしている。これらのことから、運動する動機づけとして友 達の要因は大きく、友達と一緒に遊ぶ機会や複数で遊ぶ遊びを提供することで、活発な身体活動 が期待できると考える。 ⑥休み時間における外的調整 外的調整は、外的な圧力によって運動をしている動機づけであり、外発的動機づけの中では最 も自律性の程度が低いとされている(18)。本研究での休み時間における外的調整は、休み時間に 運動をしないことによる疎外感や孤独感などを示すものである。今回、運動欲求の高い子どもの 得点が低かったことから一人だけ学級から浮いてしまうことへの恐怖が感じられる。ギャングエ
運動と伝承遊びの欲求が運動意識に及ぼす影響 イジである小学4∼6年生にとって、決まった集団に属することが休み時間の外的調整の低さを 生じさせていると考えられる。 ⑦まとめ 以上のことから運動欲求の要因は、身体的有能さの認知、運動の日常生活の効果、運動の否定 的感情、運動種目の上達願望、運動中の友好関係、休み時間における外的調整に影響を与えるこ とが示された。 4.1.2 伝承遊びの要因 ①身体的有能さの認知 仙田(19)は、子どもたちが遊ぶことによって開発される能力の中に、身体性(運動能力や体力) や挑戦性、やる気、意欲などがあるとしている。本研究における伝承遊びを好む子どもの身体的 有能さの認知が高いことから伝承遊びによって高い運動能力を自己認識し、運動への挑戦性を身 に付けていると推察される。 ②運動の日常生活の効果 だるまさんがころんだにはトレーニング効果が得られる(20)ことや、ライン鬼は運動量が多 い(21)ことから、伝承遊びによっては身体活動量が多い遊びがある。したがって、伝承遊びを好 む子どもは身体活動量が多く、このことが、快眠や快食といった日常生活に影響を与えていると 推察される。 ③運動の否定的感情 本研究における運動の否定的感情は、運動による疲労感や、筋肉痛といった身体への負担や、 時間の無駄、運動が下手だという認識などの項目から成る。上地ら(12)は、身体を動かすことの 負担を過剰に知覚することが、身体を動かす準備段階の阻害要因であるとしている。本研究にお いて、伝承遊び欲求の高い子どもの否定的感情が低いことから、伝承遊びには身体への負担を軽 減させる要因があると考えられる。鬼ごっこや氷鬼などの鬼遊びは、運動量が多いにも関わらず 現代まで継承されている伝承遊びである。子は鬼から逃げる際、他の子が逃げている間は休憩が できたり、走力の低い子に対して鬼が手加減をしたりと、単なる徒競走ではない遊びである。ま た、伝承遊びの中には、ゴム跳びなどのバリエーションの豊富な遊びや、だるまさんがころんだ などの静と動の混じる遊びなど、運動量を自己調節できる遊びが数多くある。このような遊びに は運動の否定的な感情を軽減する可能性があると考える。 ④運動種目の上達願望 森ら(22)は、中高校生が子どもの頃によく遊んだ遊びの上位として、缶けり・鬼ごっこ、ドッ ジボールなどであり、子どもの頃の遊びは中高校での部活動と関連が高かったことから、スポー ツと遊びは非常に関連が深いとしている。このことは、日ごろの遊びが運動の基礎となり、体育 授業や部活動での運動種目と発展する可能性を示唆しており、本研究における運動の上達願望の 項目内容である陸上運動やボール運動などの運動種目と伝承遊び欲求の関連を示唆するものであ る。
であるとしている。また堺ら(24)は、外遊びの減少によって、直接的なコミュニケーション能力 の低下と間接的なコミュニケーションによる人間関係の多さが子どものリーダーシップ能力の低 下や学校生活に悪影響を与えているとしている。このように、遊びが人間関係を良好に形成させ るだけでなく、学校生活の質の低下にも結び付くことから、鬼ごっこをはじめとする多種多様な 遊びを経験することは学童期において重要である。本研究の伝承遊び欲求の高い子どもは、運動 中の友好関係が良好であった。したがって、伝承遊びは人間関係を良好にするコミュニケーショ ン能力を育てる要素が含まれていると推察される。 ⑥休み時間における外的調整 休み時間における外的調整は、休み時間に運動をしないことによる気まずさ、寂しさ、学級の 雰囲気になじめなくなる、授業についていけなくなるといった項目で構成されている。運動の外 的調整は、外的な圧力により、強制的に運動をさせられている動機づけである(25)。本研究におけ る、伝承遊び欲求の高低は、休み時間における外的調整に影響を与えないことから、伝承遊びは 子どもにとって強制的に運動をしているという外的な圧力を受けない遊びであると考えられる。 ⑦まとめ 以上のことから伝承遊びの要因は、身体的有能さの認知、運動の日常生活の効果、運動の否定 的感情、運動種目の上達願望、運動中の友好関係、休み時間における外的調整に影響を与えるこ とが示された。 4.2 休み時間における遊びの位置づけ 先述の通り、伝承遊びは、子どもにとって身近であり、休み時間に実施する最たる遊びである と考る。鶴山ら(7)によると、休み時間での実施率の高い遊びとして、なわとび、ボール遊び、鬼 ごっこなどの身体活動的な遊びを挙げている。 日本体育協会(1)は、からだを使った遊び、生活活動、体育・スポーツを含めて、毎日最低60 分以上からだを動かすことを推奨している。1日に必要な身体活動時間に対して休み時間が担う 役割は大きいと言えよう。また、体力の向上を目的とした休み時間の活用について文部科学省中 央教育審議会(26)は、全校で体を動かす時間を設定すること、児童生徒がより運動することを楽 しみ、体力の向上に積極的に取り組むこと、子どもの発達段階に応じて、外遊びを促したり、体 を動かす楽しさや喜びを体験させる指導ができるよう、幼稚園や小学校の教員の実技研修などを 充実することなど挙げている。 これらのことから、休み時間の十分な時間確保や外遊びの奨励等、学校が果たす役割は大き い。また、伝承遊びが子どもに親しまれていることから、休み時間における伝承遊びの奨励は、 子どもに対して負担をかけない利点があると推察する。 4.3 今後の課題 先述の通り、伝承遊びは子どもに親しまれ休み時間においても実施されている。しかしなが
運動と伝承遊びの欲求が運動意識に及ぼす影響 ら、長谷川ら(27)の現代の子どもの実態調査によると、昔より外で遊ぶ機会が減り、子どもが外 で思いっきり遊べる環境が整っていないことやテレビゲームをして遊ぶことが定着してしまった ことによって、室内遊びが多くなっていると指摘している。また、伝承遊びについて、伝承遊び はうまくできる子どもが減少し、やる気があると答えた割合が他の遊びより少ないことから、子 どもたちに伝承遊びの魅力を意識的に伝えることが重要であることも述べている。このことか ら、一部の子どもには伝承遊びが魅力的でない遊びであるものの伝承遊びは現代の子どもにも受 け継がれており、伝承遊びの魅力を子どもに伝えるという課題がある。 休み時間において伝承遊びを取り入れた活動報告では、1週間の総運動時間や新体力テスト合 計得点の上昇(28)や、休み時間や放課後に運動を実施する子どもの増加やコミュニケーション能 力の向上(29)など成果が見られている。しかしながら、これらの報告された取組では、学校全体 としての成果は言及されているものの、休み時間での伝承遊び活動が子どもたち自らの運動意欲 をどのように助長したか、また学年差や男女差といった詳細な検討はなされておらず、この点も また今後の課題である。 5 まとめ 本研究では、運動欲求と伝承遊び欲求の要因が、運動意識にどのように影響しているかを検討 した。小学校4年生から6年生までの327名を対象に質問紙調査を行った。その結果、 1)運動欲求の高い子どもの方が低い子どもより、身体的有能さの認知や、運動の日常生活の効 果、運動の否定的感情、運動種目の上達願望、運動中の友好関係などが高い。その一方、休 み時間における外的調整は運動欲求の低い子どもの方が高い子どもよりも高い。 2)伝承遊び欲求の高い子どもは低い子どもより、身体的有能さの認知や、運動の日常生活の効 果、運動の否定的感情、運動種目の上達願望、運動中の友好関係などが高い。休み時間にお ける外的調整は伝承遊び欲求に影響されないことが示された。 引用文献 ⑴ 日本体育協会(2010)アクティブ・チャイルド60min.─子どもの身体活動ガイドライン─、サン ライフ企画 ⑵ スポーツ庁(2017)平成28年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査報告書 第3章 基礎集計 小学校児童の結果2、pp. 118‒131 ⑶ 文部科学省(2012a)子どもの体力向上のための取組ハンドブック 第2章 全国体力調査によっ て明らかになったこと 3 運動習慣と体力の二極化傾向、pp. 17‒19 ⑷ 文部科学省(2016)平成27年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査報告 第2章 分析結果と 取組事例テーマ 2 運動時間の長い児童生徒・学校の特徴、pp. 42‒61 ⑸ 文部科学省(2012b)子どもの体力向上のための取組ハンドブック 第3章 Ⅱ 運動の日常化の ために、pp. 56‒85 ⑹ 佐藤善人、志賀克哉、田島宏一、原信一、福島健明、板村邦弘、千葉克之、加藤爽子、高橋直 樹(2006)児童・生徒の運動・スポーツに対する有能感の認知と体育指導 第二報児童生徒の
養学部紀要4、pp. 133‒137 ⑻ 山下玲香、山下純平(2013)子どもの体力向上を目的とした運動系伝承遊びの学校教育への導 入─学校・家庭・地域をつなぐ─、愛知教育大学保健体育講座研究紀要38、pp. 27‒30 ⑼ 山下玲香、都築繁幸、石川恭(2016)子どもの運動意識の構成要因とそれに及ぼす性差と学年 差の影響、発育発達研究71、pp. 1‒8 ⑽ 中山綾、松坂晃、吉野聡(2012)小学生の運動有能感と体力・運動能力および運動スキルとの 関係、茨城大学教育実践研究31、pp. 255‒262 ⑾ 松平宗之、高井和夫(2010)子どもの運動意欲を支える心理社会的要因、文教大学教育学部紀 要44、pp. 129‒142 ⑿ 上地広昭、竹中晃二、鈴木英樹(2003)子どもにおける身体活動の行動変容段階と意思決定バ ランスの関係、教育心理学研究51(3)、pp. 288‒297 ⒀ 蓑内豊(2009)運動に対する主観的評価と感情変化の関係、大学体育学6、pp. 13‒22 ⒁ 波多野義郎・中村精男(1981)「運動ぎらい」の生成機序に関する事例研究、体育学研究26(3)、 pp. 177‒187 ⒂ 小佐野由衣、澤田孝二(2011)幼児期・学童期の身体活動の取り組みに影響する要因の分析、 山梨学院短期大学研究紀要31、pp. 27‒38 ⒃ 杉原隆(2003)運動指導の心理学、大修館書店、pp. 117‒131 ⒄ 文部科学省(2014)平成25年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果・特徴 Ⅱ 調査結果 の特徴 もっと運動やスポーツをするようになるには、pp. 36‒37 ⒅ 藤田勉・佐藤善人(2009)小学生と中学生の体育授業における動機づけの比較検討、鹿児島大 学教育学部研究紀要人文社会科学編61、pp. 43‒59 ⒆ 仙田満(2011)子どもの遊びと運動意欲を喚起する環境、体力科学60、pp. 4‒5 ⒇ 倉藤利早、斎藤辰哉、及川和美、荒金圭太、松本希、高木祐介、河野寛、藤原有子、白優覧、 小野寺昇(2011)だるまさんがころんだ運動時の心拍数と酸素摂取量変化、川崎医療福祉学会 誌20(2)、pp. 461‒464 岩田直人、春日晃章(2010)子どもの活動量からみた各種伝承遊びの特性、岐阜大学教育学部 研究報告 自然科学34、pp. 123‒127 森楙、井上勝、湯地宏樹(2000)中高校生のスポーツ能力と幼年期の遊びとの関連、幼年教育 研究年報22、pp. 35‒43 森誠護(2010)子どもの体力低下に関する一考察─遊びの減少に着目して─、鈴鹿工業高等専 門学校紀要43、pp. 33‒37 堺賢治、藤原誠、伊賀上哲旭、山本孔一(2007)子どもの遊びとリーダーシップに関する研究 ─スポーツクラブと学校生活の関係を中心にして、愛媛大学教育学部紀要54(1)、pp. 119‒127 藤田勉・佐藤善人・森口哲史(2010)自己決定理論に基づく運動に対する動機づけの検討、鹿 児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編61、pp. 61‒71 文部科学省中央教育審議会(2002)子どもの体力向上のための総合的な方策について(答申) 長谷川雅康・豊留由美(2005)子どもの遊びの変化とその意欲への影響に関する研究、鹿児島 大学教育学部教育実践研究紀要15、pp. 181‒195 文部科学省(2013)平成24年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果報告書 第4章 取組 事例集 石川県小松市立新谷小学校、pp. 124‒125 文部科学省(2012c)子どもの体力向上のための取組ハンドブック 第3章 体力向上への活用 のポイントと取組事例 東京都足立区立五反野小学校、pp. 66‒67 (受理日 2018年9月25日)