中国における日系企業の昇進システムの研究 : ホワイトカラー労働者を対象にした事例調査
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(2) 30. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). (404). 上記 の 研究目的を達成するための研究方法. 位性を持っている.それに日本流の「遅い昇進」. は,次のものである.日本と中国企業のホワイ. が労働者に受け入れられていることが考察でき. トカラー労働者の昇進に関する先行研究をサー. た.しかし,離職率が高い上海の近くにあるA. ベイし,そこから得られた知見に基づき事例調. 社寧波の電子有限会社では離職率が高いため,. 査項目を作成して,アンケート調査を行う.ま. 職位ごとに募集している.つまり,「遅い昇進」. た,流動性が異なる外部労働市場をもった地域. とは言い難い.C社は 2006 年までは職位ごと. の日系企業を抽出して研究対象とする.. に候補として採用し,4 年~ 5 年をかけて内部. 本論文は,以下のような内容となっている.. 昇進させるシステムであった.しかし,2007. 第 1 節では,先行研究のサーベイを通じて 80. 年7)から上昇する離職率と中間管理職の不足に. ~90 年代日本企業の雇用システムは「遅い昇. よる引き抜きが頻繁に発生しているため,職位. 進」が特徴であり,また, 「遅い昇進」は低い. ごとに採用し,試用期間を 1 年としている.こ. 流動性のもとでの「長期競争」から生み出され. こで C 社は「遅い昇進」とは言い難い.したがっ. たことを明確にする.第 2 節では,日本企業が. て本論文の目的を明らかにすることができた.. 進出している中国労働市場の現状について述べ. まず,外部労働市場の競争性が低い地域では「遅. る.人材不足,民工荒が発生していると同時に. い昇進」が行われ,競争性が高い地域では「遅. 4). 下崗(レイオフ) が頻繁に行われている.そ. い昇進」とは言い難い昇進が行われている.次. の中で中国企業は中途採用も盛んである.ま. は,C 社の例を通じて外部労働市場の変化によ. た,早い段階で優秀な人を選抜して昇進させて. り日本流「遅い昇進」が行われる.. いくことが明らかになる.第 3 節では,異なる. まず,本論文の第 1 節では日本企業の「長期. 競争環境の労働市場に進出した日系企業の昇進. 雇用」により生み出された「長期競争」の昇進. システムの現状を述べる.要するに,中国企業. システムの特徴を分析する.「遅い昇進」がど. と昇進スピードが異なり,日系企業の「遅い昇. のようなものがあるか,また,「遅い昇進」ど. 進」が議論されている. 「遅い昇進」の下では. んなメリットとデメリットがあるか,先行研究. すぐにやめてしまうので人材不足が深刻になっ. を通じて詳しく考察しよう.. ていることを指摘している.第 4 節では,第 1, 2,3 節を踏まえた上でインタビュー項目を作. 1 日本企業の昇進システムの理論. 成し,中国における日系企業 3 社5)に対して調. 「日本型雇用システム」の特徴として一般的. 査を行った.その結果,B社福建省の漳浦県6). に挙げられるのは,①長期雇用(低い流動性),. では専門人材が限られていてホワイトカラー労. ②年功賃金8),③企業別組合,の 3 つ で あ る9).. 働者の流入が少なく,労働市場の流動性が低い. このうち,第 1 節で取り上げたいのは①低い. 福建省漳浦県 に あ る B 社 は「遅 い 昇進」が 優. 10) 流動性により生み出された「遅い昇進」 であ. る.その「遅い昇進」のメリットっとデメリッ . 4)下崗(レイオフ):中国語ではシャカンと呼ぶ. ただし,アメリカの選任権制度と異なり,労働者 がもとの職場に戻る可能性はほとんどないと理解 してもよい. 5)A社寧波 の 電子有限会社,B社福建省 の 漳 浦県の繊維製品有限会社,C社シンセン市内の鋼 板加工会社 6)漳浦県では毎年職業訓練を受けていない周 辺の余剰農民のみ増加傾向にある.. . 7)2010 年の追跡調査で明らかになったもので ある. 8)服部良太・前田栄治(2000)が 日本銀行月 報の掲載論文である.90 年代半ば頃から, 「長期雇 用・年功賃金」に特徴付けられる日本の雇用シス テムが景気回復を阻害する要因の一つであると指 摘された時期もあった. 9)樋口(1996) ,八代・原田(1998)など参照. 10)小池(1991)編を参照..
(3) 中国における日系企業の昇進システムの研究(金). (405). 31. トがあることを明らかにする.. につく労働者を厳しく選抜していく.評価を. 日本企業 の 昇進11)の 仕組 み は,労働者 の 能. 積み重ねることで企業は労働者を適切に選抜. 力や仕事ぶりによって昇進が決まるのではな. していく.. く,年齢や勤続年数も昇進を決める重要な要素. 上記で述べている日本企業の「遅い昇進」が. であるという意味で,年功的であるといわれて. どんなメリットとデメリットがあるかに関して. きた.そこで小池(1991)は日本企業では「遅. 樋口(2001)は次のように指摘している.日本. 12) い昇進」 が行われていると主張した.このほ. 企業は内部昇進を特色としており,時間をかけ. かにも勤続年数と昇進に関する研究は多く存在. てゆっくりと昇進させる人を見抜けば,精度の. す る.た と え ば,白井(1982) ,花田(1987) ,. 高い評価を行うことができる.採用されて間も. 竹 内( 1988) , 若 林( 1987) , 小 池 編( 1991,. ない時点からファスト・トラックにのる人とそ. 2005) ,冨田(1992)である.. うでない人に差がでてくる時期は相対的に遅. 13). また,宮本 (1999,2004)では昇進と職能. い.時間をかけて慎重な評価が行われていると. 資格制度の関係を次のようにまとめている.つ. いうこともできる.しかしその反面,遅い昇進. まり,一定の職位につくためにはそれに見合う. 下では,優秀な人材も,そうでない人と同じよ. 職能への昇格が前提とされていてその職能評価. うなキャリアを積まされることになる.誰もが. は年月をかけないと極く短い時間では一般的に. こなせる,さほど高い能力を必要としない仕事. 到達できない.これも一つの「遅い昇進」に至. を長年やらせることになる.より早くその能力. る原因の一つになっていることを指摘してい. を見極めていれば活用することができた人材を. る.. 長時間無駄にするといった問題が生じる.ある. 小池編(1991)は 第一選抜 の 遅 れ が 昇進全. いは幹部候補社員に経営者教育を施す時間が短. 体を遅らせると主張している.一定の期間を. くなる,といった問題が生じる.遅い昇進は,. 過ぎると,企業は一転してより上位の管理職. 精度の高い評価を行うメリットを手に入れる代 償として,優秀な人材を早い時期から活用でき. . 11)橘木俊詔(1992)『査定・昇進・賃金決定』 有斐閣,p. 215. 12)樋口(2001)『人事経済学』生産性出版,p. 151 の竹内(1988)によると日本企業において勤続 年数が異なる労働者をも含めた昇進の仕組みでは, 勤続年数の短い人のほうがさきに昇進することが 少なからずあることを示した研究もあった. 13)職能資格システムを A・B・C のランク付 け を し て A の 職能 か ら B の 職能,さ ら に C の 職 能への昇進は学歴や職種の違いに関係なく共通の 職能等級として組み立てられている.職能 A にお ける昇進は,勤続に応じていわば自動的であった としても,A から B,B から C への昇進,あるい は B や C における昇進は,個人ごとの能力の評価 に基づき,個人間の格差を大きくするものとなる. それは職能等級の長い連鎖から構成され,このよ うな次第に個人間の格差を拡大させる方式が,「遅 い昇進」と呼ばれることになる.係長や課長や部 長といった「職位」に関する資格としても機能する. 「職位」につくためにはあるレベルの職能等級が必 要である.. ないコストを払うことになる. 要するに日本のような流動性の低い外部労働 市場のなかで,企業は時間をかけて精度の高い 評価を行い,優秀な人材を選抜することができ る.つまり,「遅い昇進」が受け入れられ,そ の優位性が発揮できる.しかし,流動性の高い 外部労働市場のもとで「遅い昇進」は優勢性を 失うと同時に「遅い昇進」そのものが問題視さ れることになる.なぜ,「遅い昇進」が問題視 されるか,第 2 節の中国の労働市場の現状と昇 進の先行研究を通じて分析しよう. 2 中国労働市場の現状と中国企業の昇進に関 する研究 日本および欧米諸国の労働力移動に関する 研究は,基本的に人々が自由に移動できるこ.
(4) 32. (406). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). 出所:国家統計局編『中国統計年鑑』各年版より作成.. 図 1 都市人口対前年度増加推移. と が 前提 だ が14),中国 は 大部分 の 国々と は 異. が 発生 し た.そ れ は 下放政策 の 緩和 に よって. なり,戸籍制度 により人口の自由移動を管理. 本来の戸籍地に戻ってきたためである.また,. してきたため,労働力移動が一層複雑なもの. 1982 年人民公社崩壊後,曾(2002)が 指摘 し. になっている.. たように 80 年代前半は「離土不離郷」(離村せ. 中国における労働力移動の変化は労働市場の. ずに離農する)で,余剰労働力が非農業領域に. 萌芽期「待業」 , 「民工潮」 ,レ イ オ フ, 「民工. 流入 し た.し か し,80 年代後半 の 経済不況 が. 荒」でまとめられる.労働市場形成の萌芽期は,. 引き金となり,郷鎮企業は農村余剰労働力を吸. 「文化大革命」修了後,1979 年から発生した大. 収する能力が低下し,耕地面積の減少や農村で. 量の「待業」で ある.それでは図 1 を見なが. も「一人っ子政策」が 機能 せ ず,1.5 億 か ら 2. ら都市人口増加とその原因を分析しよう.1979. 億の余剰労働力17) が発生している.したがって. 15). 年の小城鎮を中心とする戸籍改革期 (1979 ~. 80 年代後半から,農民の一部が出稼ぎ労働者. 2000)に増加傾向にある.1979 年だけでも都. として都市部に進出し,地域を越えた移動を果. 16). 市人口 が 1250 万人増加 し,大量 の「待業」 . 14)日本と欧米諸国の人口移動の多用性に関し て若林(1993)と Bohning(1978)を参照. 15)中国の戸籍制度の由来と変化は次のとおり である.自由移動期(1949~1957),厳格規制期(1958 ~1978 年),小城鎮を中心とする戸籍改革期(1979 ~2000),大都市における戸籍改革(2001~). 16)下放政策 の 緩和 に よって 本来 の 戸籍地 に 戻って き た 1700 万人 の 青年 が 本来吸収 さ れ る は ずであった都市の国有企業と集団所有制企業の職 場に,彼らが下放期間に,逆に都市部へ流入した 1400 万人の農村出身者により占められることにな り,ミスマッチが発生することになった.. 19) たした18).これが「民工潮」 である.しかし,. 蔡昉編(2007)によると近年出稼ぎ労働者の「供 . 17)中国農村部の労働力の 1/3 が余剰労働力で あることが近年,劉建進(2002)などの研究で証 明され,この説は蔡昉編(2007)などで広く引用 されている. 18)1949 年新中国成立 か ら 78 年 の 農村改革 の 開始までは,農民の産業的,地域的移動は厳格に 禁止されていた時期である. 19) 「盲流」 , 「民工潮」 「農民工」な ど 様々な 用 語使いがあり,その用語自体が時代によって変化 してきたが,日本の研究者の間では 「出稼ぎ労働者」 という用語が一般的に定着している.盲目的に移.
(5) 中国における日系企業の昇進システムの研究(金). (407). 33. 給過剰」状態が続いている.全体的に過剰であり. り外資系・民営企業への転出があった22).. ながらも部分的に過不足が生じている状態に転換. 高 い 失業率23)も 無視 で き な い.ま た,中国. しつつ,熟練労働者,若手労働者は供給不足に転. 都市部の失業問題において,下崗労働者につい. じる傾向にある.さらに 2004 年から「民工潮」. て論じる必要がある.下崗労働者は,企業に籍. から「民工荒」へ転換が深刻化しつつある.. はあるが,企業に出社することはなく,再就職. 農民が出稼ぎ労働者として都市部に進出し,. のための訓練を受けるなどして再就職活動を行. 地域を越えた移動を果たしているなか,都市. う労働者を意味する.下崗労働者は,失業者に. の企業も変革を遂げてきた.陳(1993)による. 極めて近い存在である.その失業率と下崗率は. と,国有企業20)は,社会主義計画経済を遂行し,. 省別24)に異なる.馮(2009)は,80 年代前半,. 1978 年 の 改革開放以来,国営企業 は,企業自. 失業状況を改善するため省内での移動があっ. 主権の拡大(1978─1984 年) ,経営請負制の導入. たと指摘する.しかし,馮は 80 年後半からは. (1984─1991 年) ,現代企業制度 の 導入(1992 年. その他の省への移動が盛んに行われ,流入地域. ─現在)と の 三段階 を 通 じ,企業改革 を 行って. と流出地域が分かれるようになったとも指摘す. きた.また,市村(1998)と伊藤(1998) ,山本. る.さらに,彼は地域によっては学歴別流入と. (2000) ,丸川(2002)で指摘しているように 90 21). 流出が行われていると主張する.. 年代前半から表面化し,90 年代後半から下崗. 既に述べた「待業」の発生が中国労働市場の. (レイオフ)と呼ばれる人員削減が行われてき. 萌芽期とすると,さらに「労働市場」という概. た.その結果,国有企業と集団所有制企業の労. 念が中国で意識されたのは,1977 年の農村郷. 働者数は急速に減少しつつある.逆に,90 年代. 鎮企業や県政府管轄下の国有企業や集団企業に. に大きく増加してきた部門は私営企業,個人企. おける農村労働者の採用と一定の労働期間を定. 業,香港マカオ台湾企業,外資系企業等である.. めた雇用契約を結ぶ契約工制度,硬直的な固定. 90 年代に農村部の労働市場では,郷鎮企業,私. 工制度の柔軟化を目的とする「労働契約制」普. 営企業,個人企業の農村労働者が大きく増加し. 及であった.. た.同時に国有企業の不振により,国有企業よ. 山本(2000)は,80 年代初期に導入された新. . 動する者はわずかで親戚・友人・同郷などのネッ トワークを通じて仕事を見つけている.また近年 季林 2007 で は 政府機関 や 民間仲介組織 を 通 じ て 移動も次第に増加していると指摘している.また, 手稼ぎ労働者の主要な就労地域の構成は県庁所在 地,県内その他都市,揚子江デルタ地域,華南地域, 環渤海地域,福建周辺地域,その他地域である. 20)1993 年 の 全国人民代表大会第 8 期大会第 一回会議における憲法改正によって,これまでの 「国営企業」を「国有企業」と呼ぶようになった. 21)1998 年 か ら「下崗」労働者 の 所属企業 は, 「下崗」労働者の所属先として企業内で「再就職セ ンター」という機構を設置している.再就職セン ターの 役割 は,最長 3 年 に わ た り「下崗」労働者 の生活手当を支給し各種の保険料を代わりに支払 い,職業訓練や就職指導を行って再就職を促進す る.しかし,三年が経っても再就職できない場合, 企業との関係を完全に打ち切り,「登録失業者」と な る.再就職 セ ン ターの 運営 は 政府財政,企業経 費と失業保険金から拠出する.. 規雇用者への労働契約制度および企業による公 開募集・選別採用を指摘する.それは日本以上 に徹底的に終身雇用制度にメスを入れ,労働力 の流動化に道を開くことを意味する.彼は契約 . 22)国有企業よりその他外資系,民営企業への 転出の統計データはないが,国有企業よりその他 非国有セクターへ転出を指摘した先行研究はある. 詳細は蔡・林(2003)pp. 160─162,莫栄編(2004) pp. 25─27. 23)これまで 3% 前後の国際的にみて非常に低 い水準であった.ただし,この失業率は,登記失 業率であり,人口センサスなどの調査で得られる 失業率とは必ずしも一致していない. 24)2005 年の中国人口センサスによる統計より 省別 に 失業率 は 10% を 超 え る 省・自治区・市 は, 天津,遼寧,吉林,黒龍江,江西,湖北,湖南,重慶, 四川,陝西,甘粛,青海,寧夏 の,内陸 を 主 と す る多くの省・自治区・市からなっている.このよ うに,中国都市部の失業問題は深刻である..
(6) 34. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). (408). 表 1 採用人員の主要供給源(%)複数回答 新卒業生. 中途採用. 退役軍人. 人材派遣. その他. 上海. 54.3. 88.8. 1.7. 12.1. 7.8. 北京. 61.9. 80.9. 6.0. 2.3. 8.8. 広東. 56.0. 89.3. 3.9. 4.4. 6.8. 出所:清家彰敏・馬淑萍(2005),原資料:2004 年国務院発展研究中心 企業研究所. 表 2 ホワイトカラー労働者の転職による収入の影響(%) 増加. 変わらない 74. 減少 8. 18. 出所:清家彰敏・馬淑萍(2005),原資料:中華英才網 http://www.chinahr.com/. 制導入を新規採用者に限定し,既存労働者の抵. う に サ ポート す る 必要性 を 説 く.ま た,今野. 抗を考慮したと指摘する.すなわち平等原理か. (1996),候(2006)では,中途採用を積極的に. ら競争原理へ移行することになった.. 取り入れていると指摘する.. 表 1 の清家・馬(2005)の「国務院発展研究. 表3は,日本と中国の労働力の移動と日本企. 中心」のデータを用いて考察しよう.. 業と中国企業の雇用および昇進の違いをまとめ. まず表 1 からは中途採用が大きな割合を占め. たものである.. ていることが判明する.さらに,流動性が高い. 表からは日本と中国はそれぞれ異なる労働力. ことも判明する.一方表 2 からは転職による収. 移動制度によって,異なる労働市場の流動性を. 入減少がないことが考察できる.これらにより. 持っていることが分かる.それにともない企業. 転職の容易さ,あるいは,労働力の流動性が存. の雇用,昇進方式,昇進を決定する要因も相違. 在することは明確であると言えよう.. が認められる.また,日本企業が中国に進出し. 25). 26). 27). 今野 (1999) ,金 (2004) ,蘇・吉原(2003). た場合,「遅い昇進」が問題視されることにな. は,中国企業の比較的速い昇進を通じて優秀な. る.したがって,中国に進出後,困難が生じる.. 人材を見抜き,経験とキャリアを積み重ねるよ. いかなる困難が生じるかを第 3 節で明らかにし. . 25)中国の 19 社に対して事例分析を行った.分 析対象は国有企業と集団企業で,労働者数は 1000 人以上の企業のホワイトカラーとブルーカラーが 昇進に必要とする年数を考察しているが,課長ま で昇進するには通常 5 年ほど,ブルーカラーがホ ワイトカラー化するには 12 年以上の年月が必要で あると述べている.その評価基準も業績中心の企 業が多いことがみられる. 26)金賢敏の研究結果を,中国で使われている 言葉に言い換えると「競馬の中でよい馬を識別し, 早く走れるものをサポートする」ということになる. 27)金(2004),蘇・吉原(2003)は樋口(2001) に 指摘 し た ファス ト・ト ラック と 類似点 が あ る. また,樋口が指摘した「遅い昇進」のデメリット が中国では問題になっていることを示唆している.. よう. 3 日系企業の直面している困難と昇進システ ムの現状 3. 1 日系企業の直面している困難と昇進シス テムの問題点 日系企業の人事管理に関する研究として,賃 金,労使コミュニケーション,教育訓練,日本 式管理への疑問,進出時における事前調査の欠 如,さらに昇進に関する研究などがあげられる. 具体的 に は,ア ジ ア 社会問題研究(1992),日 本貿易振興会(1998),日中投資促進機構(1990), リ ク ルート リ サーチ 調査部(1992),総合開発.
(7) 中国における日系企業の昇進システムの研究(金). (409). 35. 表 3 日本と中国の労働力の移動と日本企業と中国企業の雇用および昇進の違い . 日 本. 中 国. 労働力移動の制度. 自由移動. 1978 年までの厳格規制期から現在は大都市におけ る戸籍改革期である. 外部労働市場の流動性. 低い. 地域により流動性が異なる. 企業の雇用の特徴. 長期雇用. 1987 年から「労働契約制」. 企業の昇進方式. 内部昇進. ・中途採用を積極的に行う ・外部登用と内部昇進を併用. 企業が昇進を決定する 要因. ・第一選抜期の遅れによる「遅い昇進」 ・勤続年数 ・一定の職位につくため,時間をかけて職能を積 み重ねる必要がある. ・人材を早い段階で選抜 ・優秀な人を早い段階で選抜して一定の職位につ かせる為に経験を積み重ねるようにサポートす る. 機構(1997)などの調査研究があげられる.. ⑵ 「退職してしまう」について. これらをまとめると,中国のホワイトカラー. 日本企業では採用時の困難に留まらず,苦労. 人材の管理における困難は,「採用できない」,. して採用した現地中国人が,定着せずに辞める. あるいは「退職してしまう」に分けられる.. ことも大きな問題となっている.特に入社後 1. ⑴ 「採用できない」について. ~2 年以内の短期勤続者,若年者,また優秀な. 採用困難は,「質」及び「数」の両面で現れ. 人材ほど他社からの引き抜きもあって退職率が. る.「質」に関しては,採用したいレベルの人. 高い28).. 材確保の困難性があげられる.「数」に関して. 欧米企業や中国現地の優良企業と比べて,日. は,採用における人材不足があげられる.①中. 本企業の報酬制度は入社年次や序列を考慮して. 国人事科学研究院 が ま と め た「2005 年中国人. 設定されるケースが見受けられる.この研究は. 材報告」によると,中国の就労人口に占める高. 張・生田・小林(2003)が明らかにしている.. 学歴人材の割合は先進国の 1990 年代半ばの最. また,馬(2000)は日本企業から欧米企業への. 低水準(11% 前後)よりも 2~3% 低い.また,. 転職が発生しており,さらに引き抜きも行われ. 政府 の 第 11 次 5 カ 年計画(2006~10 年)は, 経済・社会の発展によって人材に対する需要 が 一層拡大 し,2010 年 に は 専門技術人材 の 不 足が 1746~2665 万人に達するとの見通しを示 す.現在,聯想やハイアールに代表される中国 企業も台頭することにより,産業構造の高度化 が進んでおり,高度人材への需要は急速に拡大 している. また,沿海部と内陸部の地域経済格差や,職 種や企業の種類(国有・民営・外資)による賃 金格差が中国労働市場の現象として現れてい る.これらのことが,人材需給の不均衡をもた らし,企業間の人材獲得競争の激化を導いてい る.. . 28)離職率 が 高 い 理由:中国 で は「労働契約」 による有期雇用制度が基本であって,日本で一般 的な,採用時から雇用期間を定めない.いわゆる 正社員制度が浸透していないことが,人材の流動 化の背景にあると考えられる.このような背景か ら,人材の流動化が当たり前とも言える中国にあっ て, 「退職してしまう」ことへの対応とともに, 「退 職されても問題が発生しにくい仕組み」として, 組織的な業務運営体制を強化することが課題であ ろう.初めから流動性を前提とした人事政策をとっ ている企業もあるが,専門的技術的人材や管理職 などの需給の逼迫がますます深刻になることが予 想され,また社内の技術やノウハウを継承し,発 展させていくことを考えると,優秀な人材につい てはいかに引き留めるかということが企業にとっ て重要な課題となろう..
(8) 36. (410). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). ていることを示唆する.加えて彼は成長に応じ. い.80 年代後半から「民工潮」,90 年代の国有. たスピード感のある昇進29)・昇格を可能とする. 企業 の レ イ オ フ,2000 年代 の「民工荒」に 見. 制度を明確に打ち出すべきだと指摘している.. 舞われている.また,失業率も高く,人材不足. . も深刻である.そのなかで中国企業は早い段階. 3. 2 日系企業の経営に関する先行研究のまと. で優秀な人材を選抜して,経験を積み重ねるよ. め. うにサポートするはやい昇進を促進している.. 市村(1998) ,趙暁霞(2002) ,奥村(2003) ,. したがって日本企業の「遅い昇進」が中国に進. 鈴木(2005)は,日系企業では優秀な人材を採. 出した際,引き抜きが行われ,すぐやめるよう. 用するのが非常に困難でその多くが日本本社の. な困難が生じる.. 管理システムを使っているか,中国私営企業の. 外部労働市場の流動性が低い中国の各地域に. 特色である家族式経営を模倣していると指摘す. おいて日本企業の「遅い昇進」が受け入れられ,. る.エリートを見つけ昇進スピードを速める必. 優位性を発揮できるか.あるいは,外部労働市. 要があるが,エリートこそ客観的な環境に合わ. 場の流動性が高い地域において日本企業の「遅. なくすぐ辞職する現状を述べている.しかし実. い昇進」が優位性を失うものの,いかなる形で. 際にエリートたちがどれほどの勤続年数で中間. 修正されるかを第 4 節の事例調査を通じて考察. 管理職につくかに関しては詳しくふれていな. しよう.. い.また,それが地域により異なる可能性があ ることを指摘していない.. 4 日系企業に関する事例調査. 白木(編) (2005)と日本貿易振興機構(ジェ. 研究対象は中国の寧波市,福建省南部にある. トロ) (2005)では中国人のキャリア感と中国. 漳浦県,深圳市にある日系企業 3 社である.ま. の人材活用・採用で大学連携と日系企業の現状. た,その 3 社に対してインタビューを行った.. を指摘して昇進のスピードを速め,また中国各. 調査時期 は 2006 年 で,2010 年 に 追跡調査 を. 都市の事例分析を通じて昇進のスピードを速め. 行った.中国各地域において外部労働市場の流. るべきであると述べている.しかしながら,そ. 動性により日本流の「遅い昇進」が優位性を持. こでは新卒の第一選抜期あるいは中間管理職に. つか否かを明らかにしたい.そのため,下記項. 就くに至る勤続年数,中間管理層の昇進スピー. 目を用いてインタビューを行う.. ドと中国国内の外資系企業との比較は行ってい. 1)日本企業の「遅い昇進」が中国の日系企業. ない.実際,どれほど早く,それが中国各都市. でも行われているか?もし,行われている. 部の労働市場の状況に応じていかに変容をとげ. ならばいかなる外部労働市場下で行われて. てきたかを明確に指摘していない.. いるか?. これまでの議論をまとめると以下のようにな. 2)日本企業では,一般に新卒の第一選抜期が. る.一般的に日本企業は外部労働市場の低い流. 遅いことが昇進全体のスピードそのものを. 動性の下で長期雇用が行われる.したがって勤. 遅くしていて,在中の日系企業では新卒の. 続年数と強いつながりを持つ「遅い昇進」が受. 第一選抜が入社何年後からになるか?. け入れられる.しかし,中国労働力移動は流入. 3)日本企業では一定の職位につくためにはそ. 地域と流出地域があり,また,その流動は激し. れに見合う職能への昇進が前提とされてい. . 29)鈴木(2005)では日系企業の部長クラスま での昇進は進んでいることを示唆している研究も ある.. る.日系企業の昇進システムでは,どうなっ ているか? 4)昇進と勤続年数の相関関係は存在するのか?.
(9) 中国における日系企業の昇進システムの研究(金). 4. 1 寧波市の紹介と電子有限会社(ゲームソ. (411). 37. 業である.中国市場を主導する 99 種の寧波製. フト開発とゲーム機の組み立て工場)の. 品のうち,95% のメーカーは私営企業である.. 事例調査. このような環境にある,A 社の労働者構成を. 4. 1. 1 寧波市の地理位置と外部労働市場の労 働力の状況. 考察し,その中でどのような昇進システムが形 成されているかを分析していくことにする30).. 寧波市は中国の海岸線の中央部,そして浙江. 4. 1. 2 寧波市 A 社,電子有限会社(ゲームソフ. 省寧紹平原 の 東 に位置している.市の総面積. ト開発とゲーム機の組み立て工場) (独 資). は 9,365 平方キロであり,うち市街区の面積は 1,033 平方キロである.. イ ン タ ビューの 日時:2006 年 12 月 14 日 . 2009 年 に 寧波・上海間 を 結 ぶ 杭州湾大橋 が. 14:20 (調査は一回のみ) . 完成すると上海から陸路で約 1 時間半となるた. A 社は 1998 年に桂林に設立され,2000 年に. め,近年注目を集めている.機械部品,精密機. 寧波市に移し,本格的に事業を拡大した.中国. 械,電子,繊維製品,食品加工など幅広い分野. 国内の組み立て工場の労働者数は 130 名(男性. での産業が集積している.. 労働者 70 名),ホ ワ イ ト カ ラー労働者数 は 29. プラスチック成型を中心に金型集積,鋳物,. 名である.ゲームソフト開発とゲーム機の組み. アルミダイキャストの集積地として知られ,プ. 立て作業による商品は日本に再輸入され,販売. ラ ス チック 成形機生産 シェア は 全国生産量 の. されている.中国進出目的は短期的にはコスト. 50% 以上を占めている.また,金型企業は約. ダウンを図り,長期的には中国市場の拠点とし. 3,000 社に及び,就業者数は約 7 万人に達して. て進出に必要な情報提供源を作るためである.. いる,プラスチック金型を得意とする余姚,寧. 中国においての労働者の人員構成,管理層の学. 海地区,プレス金型の慈恵地区,鋳造金型の北. 歴・勤続年数は表 4 ~ 7 のとおりである.. 侖地区などに分かれる.そのほか,国内最大の. 人事担当のインタビューと表から次のことが. 携帯電話 メーカー,寧波波導(Bird) ,国内最. 明らかになる.. 大の紳士服メーカー,ヤンガーなどの民営企業. 第一 に,A 社 は 表 7 と イ ン タ ビューか ら 日. を生み出している.. 本企業の「遅い昇進」の傾向が見られないこ. 人口 は 543 万人 で,1981 年 か ら 2005 年 に か. とと,同時に離職率31)が高いため「遅い昇進」. け,同市に就職した大学卒業生が 182,500 人い. の原因である勤続年数・新卒の第一次選抜期の. る.2002 年末 ま で 9 万人 の 国内専門家 と 1200. 出現が確認できない.ただし,転職前のキャリ. 人余りの外国専門家は寧波市で勤務した.職業. アを考慮にいれていることは日本企業の昇進と. の技術訓練を受けた学生の人数は 100 万人に近. 職能等級の相関関係の結果ではないかと判断さ. い.. れる.. 寧波市は浙江省の重要な工業基地,中国の主. 第二に,寧波市外部労働市場の構成から分析. な食料,木綿,食用油と海産物の産地であり,. をすると就職した卒業生が 182500 人,2002 年. すでに総合的な工業構造を形成した.伝統的な. 末まで 9 万人の国内専門家と 1200 人余りの外. 柱産業には紡績,服装と機械製造があり,また 港を依存する石油化学,鉄鋼,電力と製紙など の大型産業もある.寧波市の私営企業は発足が 早く,速やかな発展を遂げ,市場経済に活気を 注いでいる.そのうち 9 社は中国トップ 500 の 私営企業 で,8 社 は 浙江省 トップ 50 の 私営企. . 30)寧波に関するホームページ http://japanese. ningbo.gov.cn/index.html. 31)ここでは離職率が一番高い IT 産業を調査 対象にしたので,もともと離職率が高い産業の特 徴により「遅い昇進」が考察できない限界も否定 しない..
(10) 38. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). (412). 表 4 A 社管理層の構成 日本人(出向). 中国現地管理職. 1名. 29 名: (総経理 2 名),(課長 4 名,車間主任 4 名),(車間主任候補 4 名,プロジェクト技術 7 名,通 訳・翻訳 5 名,総務:3 名). 表 5 A 社労働者数 130 名の学歴表 大学以上. 短大. 高校(職業高校). 中学校. 26 名 �. 4� 名. 30 � 名. 70 名. 表 6 A 社中間層の学歴 修士以上. 大学. 短大. 高校. 総経理. 管理層/学歴. 2名. 0名. 0名. 0名. 課長クラス. 1名. 7名. 0名. 0名. 主任候補クラス. 0名. 15 名. 4名. 0名. 表 7 A 社管理層の勤続年数 7 年以上. 5 年以上. 3 年以上. 1 年以上. 総経理. 職位/勤続年数. 0名. 1名. 1名. 0名. 課長クラス. 0名. 3名. 4名. 1名. 主任候補クラス. 0名. 2名. 11 名. 6名. 国専門家は寧波で勤務した.また,職業の技術 訓練を受けた学生の人数は 100 万人に近い. 外部労働市場とソフトウェア技術者の離職率 が一番高い上海と距離的に近いことで離職が増. 4. 2 漳浦県の紹介と繊維製品有限会社の事例 調査 4. 2. 1 漳浦県の地理位置と外部労働市場の労 働力状況. し技術者の昇進はポストごとに募集している,. 漳浦県は福建省南部の沿海に位置している.. 当初からキャリアを持つ有能な労働者にポスト. 現在,県は 16 個の鎮,4 つの郷,11 個の農林,. を与えることで人材確保を心がけ, 「外部登用」. 塩・茶加工場が存在する.2000 年 11 月全国人. が中心的役割を演じ, 「遅い昇進は」行われて. 口調査 の 統計 に よ る と 795,483 人 で 1997 年 か. いない.. ら 2006 年まで 11.3 万人の農民が農村を離れ,. 第三に,A 社は比較的高い技術を必要とする. 都市市民 に 登録 さ れ た.毎年平均 1 万人 が 都. 職種である.表 6 で見られるように,学歴と非. 市人口に登録されている.06 年 6 月の調査に. 常に強い相関関係が認められる.日本企業では,. よ る と 都市人口 が 80.4 万人 で 農林水産業人口. 一定の職位にそれに見合う職能への昇進が前提. が 72.1 万人,農村労働力 が 35.1 万人 で,農村. とされている.ところが当日系企業においては. 余剰労働力は 17 万人である.しかも,県内企. 32). 職能を学歴で代替している .内部昇進よりも. 業の深刻なレイオフにより,県政府は就職機会. 中途採用をメインとしている傾向がみられるの. を増やす政策を打ち出している.例えば,台湾. で,新卒が定着しない.. 系企業の投資を積極的に優待して,2006 年だ けでも 6000 人のレイオフ労働者に再就職機会. . 32)ただし,学歴は企業内部で形成されるもの ではない.特別に OFF-JT はないことは確認した.. を作り出している.また,農業貧困家庭に対し.
(11) 中国における日系企業の昇進システムの研究(金). (413). 39. 表 835) B 社管理層の構成 日本人(出向). 中国現地管理職. 2名. 19 名:(工場長 3 名),(車間主任 4 名,経理:1 名),(主任候補 4 名,通訳:1 名,倉庫保管員 2 名, 技術・検定課:4 名).. 表 9 B 社労働者数 138 名の学歴表 大学. 専門学校. 高校(職業高校含む). 中学校. 1名. 1名. 56 名. 80 名. 表 10 B 社管理層学歴表 大学. 専門学校. 高校(職業高校を含む). 中学校. 工場長. 管理層/学歴. 0名. 0名. 2名. 1名. 主任クラス. 1名. 0名. 3名. 1名. 主任候補クラス. 0名. 1名. 4名. 4名. 表 11 B 社管理層の勤続年数 3~5年. 6~8年. 9 ~ 10 年. 工場長. 職位/勤続年数. 0名. 1名. 2名. 主任クラス. 0名. 2名. 3名. 主任候補クラス. 0名. 3名. 5名. 33) ては「一戸一就職」 政策を打ち出し,優先的. 漳浦県 の B 社 で あ る 繊維製品有限会社(独. に職業訓練を受けさせて就職機会を斡旋してい. 資)は 1996 年 10 月設立され,日本国内の従業. る.また,それに比較して漳浦県には各専門分. 員 60 名,中国工場での従業員数 138 名のうち. 野の技術者が 6476 人の中に土木系 458 人,農. (男性:8 名),ホ ワ イ ト カ ラー労働者 19 名 で. 業系 159 人,医療系 375 人,経済系 214 人,経. ある.. 営 系 130 人,統 計 系 23 人,教 育 系 5032 人 い. 生産項目として日本のデパートに高値のカバ. る34).上記のホワイトカラー労働者はすでに決. ン,カシミヤニット,帽子を提供している.. まった配属先で働いていて,レイオフの労働者. 責任者のインタビューから漳浦県の繊維有限. の中でもホワイトカラー労働者は 2% しか占め. 会社は労働集約型で 90% 商品は日本に再輸入. ない.さらに県以外からの人材流入とホワイト. され,10% が他の国に輸出される.. カラー労働者の出稼ぎはほとんどない.. 表 8~11 と日本人駐在人のインタビューから. 4. 2. 2 福建省漳浦県の B 社,繊維製品有限会. 確認できる点は次のとおりである.. 社(独資). 第一に,B 社は主任クラスまでの昇進が 6~. イ ン タ ビューの 日時:2006 年 11 月 07 日 . 8 年で日本企業と変わらないことが分かる.し. 18:30(1 回目) ,2010 年 7 月 25 日 13:00. たがって比較的に「遅い昇進」ともいえる.こ. (2 回目) . 33)漳浦県政府工作報告 http://www.stats-fj.gov. cn/admin.manage.news.show.asp?id=150 34) 出所:http://www.zhangpu.com.cn/zpgk.asp 35)8 か ら 11 ま で の 表 は 2006 年 の イ ン タ ビューに基づき,作成したものである.. の よ う な 昇進制度 の 定着 は B 社 の 給料体系36) と外部労働市場の競争性によるものである.つ まり,高学歴のホワイトカラー労働者の他省, 他県からの流入がほとんどなく,労働技術訓練 . 36)他の企業に比べ月給が 150 円ほど高い..
(12) 40. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). (414). を受けていない農村労働力のみが流入してい. と判断されよう.. る.専門職の人は転職する人が少なく,職を求 めて動いているホワイトカラー労働者はレイオ フの中でも 2% しかない.したがって流動性が 低い中では「遅い昇進」は維持されていること. 4. 3 深圳市の紹介と C 鋼板加工会社の事例調 査 4. 3. 1 深圳市の地理位置と外部労働市場の労 働力状況. が考察できる. 第二に , 第一次選抜期が遅い.だたし,大卒. 深圳市は広東省の南沿海に位置している.総. の第一選抜ではなく , 新規高校卒の第一選抜で. 面積 は 1952 平方 キ ロ メート ル で 特区面積 は. ある.上記は 2010 年の追跡調査より明らかに. 395.81 平方 キ ロ メート ル で あ る.深圳市 は 移. したものである.車間出納係で働いたホワイト. 民都市で 2005 年末統計によると戸籍登録人口. カラー労働者が入社して 7 年目に財務部主任代. が 181.93 万 人,長 期 滞 在 人 口 が 827.75 万 人,. 理に昇進した.さらに,昇進にあたって経験者. 戸籍人口出生率 は 12.64%,死亡率 は 1.41% で. を優先に選抜している . すなわち , 職務と昇進. 自然人口増加率 は 11.23% で あ る.平均年齢 は. 37). の相関関係も示唆する .. 30.8 歳,全人口の 0~14 歳は 8.49%,15~59 歳. 第三に,勤続年数との相関関係がみられ,一. 労働力 88.41% を 占 め,20~24 歳 が 全人口 の. 定の職務が前提で昇進が行われていることが明. 5/1,65 歳以上の人口は 1.22% を占めている.. らかになる.. 各専門知識 の 技術者 が 79.10 万人,中級技術者. 第四に,ブルーカラー労働者の「ホワイトカ. は 30.52 万人である.深圳市には世界 500 位に. 38). ラー化」 が明らかになる.. 入る多国籍企業が 114 社もある.. すなわち外部労働市場の流動性が低い漳浦県. ま た,2008 年深圳城市薪酬福利研究 に よ れ. において勤続年数と相関関係の持つ 「遅い昇進」. ば深圳市は賃金の上昇にも関わらず,離職率は. が考察でき,職務と職位の相関関係がある昇進. 減少する傾向はない.2008 年深圳市の非製造. が行われていることが明らかになる.また,第. 業の平均離職率は 15.5%,製造業は 35.3%(2007. 一選抜も遅く,ブルーカラーからホワイトカ. 年非製造業 17.4%,製造業 は 31.3%)で あ る.. ラー化される現象も 7 年目に入って発生するこ. 離職率が上昇する一方,C 社はいかなる昇進シ. とが考察できる. 県内労働市場の流動性が低く,. ステムを採用しているかを明らかにしよう.さ. 外部からの人材流入も少ないため,漳浦県では. らに「遅い昇進」が行われるかを確認しよう.. 勤続年数に基づいた「遅い昇進」が可能である. 4. 3. 2 深 圳市内 の C 社:鋼板加工会社(独. . 37)漳浦県 は 80.41 万人 の 中 で 農林水産業 の 人 口が 72.1 万人で農村余剰労働力が 17 万人である. それに 1997 年から 11.3 万人の農民が都市に入り, 収入を求めて仕事を探している.これが B 社にとっ ては大きな外部労働市場になり,11.3 万人の人が 流動したことにより就職難が一つの社会問題にな ることで,労働者は簡単に辞められず,給料が他 の会社よりよければ昇進が遅いことは問題にされ ないことになる.それに技能訓練を受けている農 民は少なく,いきなりホワイトカラー労働者にな れる能力は持っていない. 38)小池(1990),(2005)よ り ブ ルーカ ラー労 働者が長い歳月を要してホワイトカラー労働者と 同じ待遇を受けることである.. 資) インタビューの日時:2006 年 11 月 17 日 22:00(1 回目),2010 年 7 月 20 日 20:00 (2 回目) 事例調査の対象は深圳市内にある鋼板加工会 社 の C 社 で あ る.日本国内従業員 350 名,中 国 の 子会社 の 従業員:150 名(男性労働者: 120 名),ホワイトカラー労働者は 20 名である. 同社は新日鉄製鋼板をカット加工・販売して いる会社である.製造品の 70% が日本へ再輸 入・販売 し,30% を 中国国内 お よ び ア ジ ア 各 国 で 販売 し て い る.最終目的 は 製造品 の 80%.
(13) 中国における日系企業の昇進システムの研究(金). (415). 41. 表 1239)C 社管理層の国籍表 日本人(出向) 3名. 中国現地管理職 20 名:(工場長 2 名),(課長 6 名),(車間主任:7 名,通訳:3 名,)経理係:2 名.. 表 13 C 社労働者 120 名の学歴表 大学. 専門学校(短大). 高校(職業高校含む). 中学校. 8名. 11 名. 40 名. 61 名. 表 14 C 社管理層学歴表 大学. 専門学校(短大). 高校(職業高校を含む). 中学校. 工場長. 管理層/学歴. 1名. 0名. 1名. 0名. 課長クラス. 2名. 2名. 1名. 1名. 主任クラス. 3名. 2名. 2名. 0名. 主任候補クラス. 4名. 1名. 0名. 0名. 表 15 C 社管理層の勤続年数 2~5年. 5 年以上. 10 年以上. 15 年以上. 工場長. 職位/勤続年数. 0名. 0名. 1名. 1名. 課長クラス. 0名. 2名. 3名. 1名. 主任クラス. 1名. 3名. 3名. 0名. 主任候補クラス. 1名. 2名. 2名. 0名. 以上を中国市場で販売することである.. 第三 に,一定職位 に 必要 な 職能 の 要求 は な. 表 12~15 とインタビュー結果より次のこと. く,前職の仕事経験と職位を募集の条件として. が明らかになる.. いる.. 第一に,日本企業の「遅い昇進」が日系企業. 第四に,中途採用から課長まで昇進するには. では日本の一般第一次選抜期の 2 年ほど早く,. 5 年という期間をおくことからは勤続年数と相. 昇進は勤続年数とある程度の関係を持っていて. 関関係を持っていることが考察できる.. 勤続年数 5 年を基準にしていることがわかる.. し か し,2010 年 の 追跡 イ ン タ ビューで は,. ただし絶対的な年功序列ではなく査定による点. 引き抜きが深刻化している中間管理職において. 数制も考慮して評価することにする.日本企業. は職位ごとに採用を行うことになっている.こ. と比較した際には完全に「遅い昇進」とは言い. こからは日本流の「遅い昇進」が優位性を失っ. 切れないところがあり,きめ細かい査定評価に. ていることが明らかになる.. より査定が昇進においては決定的な位置を占め. 4. 3. 3 A・B・C 三社 に お け る 事例調査 の ま. ている.. とめ. 第二に,新卒の第一選抜期に関しては,新卒. 今回の事例調査は,日系企業の 3 社に対して. 者がいてもすぐ転職するため,第一選抜期は考. 行ったものである.調査対象の共通点は,いず. 察できなかった.. れも 100 人以上 150 人以下で独資の中国の日系. . 39)12 か ら 15 ま で の 表 は 2006 年 の イ ン タ ビューに基づき,作成したものである.. 企業であり,規模がほぼ同じであることである. ただし,これら 3 社の相違点も多いので,昇進 システムにおいて一概に論じることはできな.
(14) 42. (416). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). い.このため,A・B・C 社の相違点を分析し. られる.その原因としては,B 社の外部労働市. た上で,その相違点によって,それぞれ多少異. 場が農民から都市戸籍登録された人口が多く,. なった昇進システムが展開されていることを分. 就労の機会を求めて動いている農民が多いため. 析していくことにする.まず,相違点としては,. で あ る.毎年都市人口 に 登録 さ れ て い る 90%. 以下の点があげられる.. の農民たちが職業訓練も受けておらず,就職が. ① A・B・C 社の労働者構成に関しては,B 社. できない為,政府の「一戸一就職」のもとで,. は比較的に女性労働者が多く,A・C 社では. 職業訓練 を 受 け,優先的 に 斡旋 さ れ る 政策 に. 男性労働者が多数を占めている.. 頼っている.それに,県外から人材流入はほと. ②生産分野と生産している商品が異なってい. んどない.. る.A 社は,組み立て作業においては労働. 第二 に,就職先 が な い な か , B社 は 給料設. 集約型であるが,同時にソフトウェアの開発. 定40)も他社より高く設定している . これも「遅. においては,高技術も不可欠となっている.. い昇進」を可能とする一つの側面であること. B 社は労働集約型である.C 社も労働集約型. は否定できない.A・C 社は常に競争的な国. であるが,高技術も必要とされる.. 際経済環境におかれ,人材の確保を心がけて. ③ 3 社の中国進出の目的に関しては,次のよう. いることがわかる.A 社は,転職率が高い職. な相違が指摘できる.A・C 社は,今後中国. 種に関しては職位ごとに中途採用を行い,C. での事業展開を企画し,中国をこれらの消. 社 は 2007 年 ま で 中途採用後 に お い て 内部昇. 費市場として捉えている.B 社は日本の繊. 進を行うことで人材確保と定着に努めていた.. 維産業の不況によりコストダウンを主な目. しかし,引き抜きが深刻化するなか,2008 年. 的として進出しており,中国市場を十分に. からは職位ごと採用する方法を導入している.. 視野に入れていない.. すなわち,競争性の低い外部労働市場の下,. ④ 3 社 の 中国進出時期 や 地理的位置,そ れ ら. B 社は Prendergast(1992)のモデルに従って日. を取り巻く労働市場の環境も異なっている.. 本流の「遅い昇進」が優位性を発揮している.. A・C 社は,中国経済の発展地域に位置し,. しかし,競争性が高い外部労働市場の下,A 社,. 労働力の流動が激しい労働市場にあるのに. C 社においては「遅い昇進」が優位性を失って. 対して,B 社は農業を主として余剰農業労. い る.そ の 結果,中国各地 に お い て 日本流 の. 働力が存在する地域に位置しているため,. 「遅い昇進」は優位性の度合いが異なることが. 労働力の流動が限られている.. 明らかになった.. ここでは,これら 4 つの異なる環境のもと,. C 社は当初から「遅い昇進」とは言い難かっ. それぞれの日系企業が存在していることを前提. た.それに追跡調査では人材不足による引き抜. に,分析を行っている.上記の 3 社の相違点を. きが深刻になる中,完全に職位ごとに採用して. 踏まえて,本章の冒頭で触れた調査項目と合わ. いることが明らかになった.. せて分析を行うことにしよう.. また,中国の日系企業において労働市場の競. 日本企業の「遅い昇進」と比較した場合,次. 争性の相違により,「遅い昇進」が行われてい. のことが言える.. る地域と行われていない地域が存在することが. 第一に,B 社ではブルーカラー労働者がホワ. 明らかになった.. イトカラー化されるケースである,また,日本 企業で定義される 「遅い昇進」も行われている. すなわちブルーカラー労働者とホワイトカラー 労働者を問わず考えた際は「遅い昇進」が認め. . 40)給料水準が他社より高いと述べているが, 平均他社より 1000 円高い..
(15) 中国における日系企業の昇進システムの研究(金). (417). 43. 表 16 日系企業三社の相違点. 相 違 点. 項目. A 社(寧波). B 社(漳浦県). C 社(深圳). 労働者の男女構成. 男性:70 名 女性:60 名. 男性:8 名 女性:138 名. 男性:120 名 女性:30 名. 生産方式. 組み立て作業で労働集約型 ソフト開発は高い技術を要 労働集約型 求している. 中国への進出理由. ・コストダウン ・中国を販売市場として. 労働集約型 と 鋼板設計 は 高 い技術が必要である. 日本 の 繊維業界 の 不景気 に ・コストダウン 伴 い,単純 に コ ス ト ダ ウ ン ・市場調査 を目標とする. ・1997 年から 11.3 万の農村 ・長 期滞在人口 が 戸籍登録 ・幅広 い 分野 の 産業 が 集積 余剰労働力 が 流 れ 込 み, 人口の 3/4 を占めている. 地理的位置 か ら 外部労働市場 している 合計:17 万人 の 農村余剰 ・専 門知識技術者 と 中級技 の環境と構成 ・1/5 に近い人口が専門的技 労働力がある 術者 ま で が 人口 の 1/8 を 術訓練を受けている ・し か し 専門技術者 は 6476 占めている 人しかいない 中国に進出時期した時期. 1998 年. 1996 年. 1990 年. 表 17 日系企業三社の昇進システムの調査結果 項目. A 社(寧波). B 社(漳浦県). C 社(深圳). 調査結果. 「遅い昇進が行われているか. ・ 「遅い昇進」が行われてい ・ 「遅い昇進」が行われてい ・中途採用後 5 年 ほ ど で 課 るとは言い難い る 長に昇進させる ・中途採用 を 促進 し て い て ・ブ ルーカ ラーが 入社 7 年 ・2007 年からは前の仕事経 前 の 仕事経歴 を 参考 に 職 後「ホ ワ イ ト カ ラー」化 歴 を 参考 に 職位 ご と に 採 位ごとに採用している が起きている 用する. 第一選抜期は入社何年後か. 転職 が 多 い た め,新卒 が 昇 大卒ではないが,高卒入社 6 ・中途採用 が 多 く 新卒 の 第 進するまで定着しない 年後から 一選抜ははかれない. 職位と職能との関係. 入社前の仕事歴を重視. 昇進と勤続年数との関係. ・学歴 と 強 い つ な が り を ・中途採用後 5 年 ほ ど で 昇 持っている 勤続年数 と 強 い 相関関係 を 進できる ・勤続年数 と 相関関係 が あ 持っている ・2007 年から職位ごとで昇 るとは言い難い 進. まとめ. 技能 の 熟練度 に よって 職位 入社前の仕事歴を重視 を与える. 「遅い昇進」が行われている地域があり,また, 中途採用が主に行われ,比較的早い昇進が行わ. 「アジア経済危機」後,日系企業の中国への. れている地域もあることが判明した.言いかえ. 進出は盛んに行われ,2007 の統計によれば日. れば,「遅い昇進」が日系企業の全体の特徴で. 系企業は 25000 社に達する. このようななかで,. はないことを確認した.. 本論文は,人的資源の活用において議論される. さらに,本研究を通して以下ことが明らかに. ことが多い「遅い昇進」の問題に研究対象を絞. なった.. り込み,以下のことを明らかにした.中国にお. 第一 に,90 年代,日本 に お い て は,外部労. ける日系企業の昇進システムは外部労働市場の. 働市場の低い流動性の下で企業内部において. 競争性に左右されている.中国の日系企業では. 「長期競争」が行われていて,そのことによって,.
(16) 44. (418). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). 企業内部労働市場での労働者間の競争が強化さ. 動的 で「遅 い 昇進」は 行 わ れ な い.A 社(寧. れることになっていた.この点に関して,特に,. 波)の地理的な位置から見れば,IT の離職率. 日本企業における「遅い昇進」の特徴を,先行. が一番高い上海と杭州の近くで転職しやすい環. 研究のサーベイをとおして整理した. 「遅い昇. 境が形成され,離職率が高い.また,9 万人の. 進」の根本的な原因としては,昇進と勤続年数. 専門家が市内で働いて,100 万人以上の学生が. との強い関係,第一次選抜期が遅れることによ. 就職のために職業訓練を受けている.1981 年. り昇進全体が遅れること,また一定の職位に着. ~2005 年まで職業訓練を受けた 182,500 人の学. くために職能の積み重ねが必要となることなど. 生が寧波で就職している.このような環境に応. がある.. じて A 社は職位ごとに募集を行っていて,他. 第二に,中国各地域においてレイオフが実施. 社での仕事経験を参考に研修期間を終えてすぐ. される.比較的に深刻な人材不足が存在するこ. 最初に希望していた職位に着くことになってい. とが確認された.このような現状とアンケート. る.C 社(深圳市)の外部労働市場の構成から. による資料の分析によって,中国企業は新規卒. 2006 年調査当時 は「遅 い 昇進」と 日本的経営. 業者とともに中途採用者が重要な役割を演じて. を踏襲していた.しかし,2010 年の追跡調査. いて,ホワイトカラー労働者では転職による収. では 2007 年と 2008 年の深刻な引き抜きが生じ. 入が上昇する可能性があるので,中国の労働市. たために現在職位ごとに採用していることが分. 場は転職しやすい環境にある.このため,中国. かった.これは中国各地域の外部労働市場の流. 企業は,業績中心の昇進システムを活用してい. 動性により昇進システムを調整していることが. ることが観察される.. 考察できる.C 社からは外部労働市場の状況に. 第三に,先行研究においては,日系企業の直. より昇進システムを修正していることが考察で. 面している困難の一つとして「遅い昇進」が行. きた.. われているために,よい労働者を「採用できな. 要するに,本論文の事例調査を通じて,外部. い」 ,労働者が「すぐやめてしまう」という問. 労働市場 の 競争性 の 度合 い に よ り 日系企業 の. 題がしばしば指摘されている.しかし,外部労. 「遅い昇進」の優位性に相違を確認することが. 働市場の競争性の相違を考慮して, 「遅い昇進」. できた.しかしながら,今回の 3 社に対する事. の有効性を検証した研究は少ない.. 例調査については,限界も少なくないことを指. 第四に,本論文では,異なる労働市場の環境. 摘しておく必要がある.まず,この 3 社のみの. における日系企業の昇進システムについて事例. 事例調査では,中国における日系企業の昇進シ. 調査を行い, その結果から以下のことが言える.. ステムに関して,その調査結果を一般化するこ. 「遅い昇進」が行われているといえるのは B 社. とは不可能であり,異なった労働市場の環境の. である.漳浦県に位置している B 社の外部労. もとでの日系企業に関するさらなる事例調査が. 働市場 は 11.3 万人 の 農民 が 都市戸籍 に 登録 さ. 必要である.また,3 社の地理的な位置と産業. れている.しかし,人材の流入は県外からほと. が相違しているが,3 社それぞれが属している. んどない状況にある.ホワイトカラー労働者は. 地域と産業の日系企業すべてが同一の昇進シス. ある程度安定していて,レイオフの中でもホワ. テムをもっているとも一概に言い切れない.し. イトカラー労働者は 2% しか占めていない.増. たがって,今後,異なる地域の日系企業に関す. 加傾向にあるのは職業訓練をうけていない農村. る事例調査の数を増やし,本論文で得られた結. 労働力のみである.上記のような外部労働市場. 論が,どの程度一般的に妥当するものであるの. の下では 「遅い昇進」が行われていると言える.. か,検証していく作業が必要となろう.. 比較的に A・C 社は外部労働市場が非常に流.
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