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マルハナバチ普及の現場から ―ポリネーターとしての利用の現状と将来―

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21(1):17-25 HoneybeeScience(2000)

マル- ナバ チ普及 の現場 か ら

- ポ リネ- クー と しての利用 の現状

と将来-マルハ ナバ チが 日本 の農作物 の栽培施設 に導 入 されて,10年 弱 の年 月 が経過 した.この間, マルハ ナバ チの利用状況 は大 き く変化 した.覗 荏, 日本 国内 にお ける年 間 のマル- ナバ チ使用 群数 は3-4万群 と推定 されて い る. この ほとん どは, トマ ト, ミニ トマ トであ る が, ここ 1, 2年 で はナ スへの導入 の機運 が高 ま り,若干 停滞 ぎみで あ った マルハ ナバ チ取扱 いメーカーが俄 に活気づ いて いる. 1991年 に始 めて 日本 に紹 介 され た施 設栽培 にお けるマルハ ナバチを利用 した花粉交配 (ポ リネー シ ョン)技術.国 内で利用 されて い るマ ル- ナバチ は, ヨー ロ ッ/ヾか ら中東域 に掛 け広 く分 布 す る セ イ ヨ ウ オ オ マ ル - ナ バ チ

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で あ る. 在来種 で はない こ とに よ る諸 問題 は後 述 す る と して, これ ま で,施設 内 には栽培 す る作物以外 の生物 は生息 で きないよ うな栽培環境 づ くりを行 って きた 日 本 の農業体系 に,風穴 を開 けるよ うな技術 で あ った に違 いない. マル- ナパ テを施設 内 に導入

光畑 雅宏

し, かっ正常 に活動 させ るため には,彼 らが生 息 で きるよ うな環境 を整 えてや らなければな ら ない. 当然化学農薬 の使 用 は制 限 され る. これ が,現在 のオ ーガニ ック野菜 ブームとあいま っ て,普 及 の一端 を担 って い る.省力化,高品質, 減農薬 が マルハ ナバ チを販売 す るメーカーのキ ー ワー ドで あ る.現在, 国 内で マルハ ナバ チを 販売 して い るメーカーは6社,この内4社 は国 外 メー カーか らの製 品輸 入 とい う形 を と り,2 社 が 自社 で生産工場 を持 ち製造販売 を行 って い る (表1). これ まで に, マル- ナバ チの販売 に着手,計 画 した企 業 は他 に5社 程 度 あ った と推 定 され るが, その難 しさか ら,撤退 を余儀 な くされて い る. これ は,事業運営 の面 か らだ けでな く, 国内でのマル- ナバ チの普及速度 が予想以上 に 遅 か った ことが一端 と して挙 げ られ る. もちろん, マル- ナバ チ導入 が様 々な面 か ら 期待以上 の成果 を挙 げて い ることも,主要 な冬 春 トマ ト栽 培 産地 で60%以上 の普 及 率 とい う 表 1 日本におけるマル-ナバチ取 り扱い企業とその製品 上段 :商品名 下段:生産国 (生産 ・提携企業) 東海物産㈱ ㈱ トーメン ㈱ トモノアグリカ ア ピ㈱ ㈱キャッツ ・アグ リシステムズ ㈱菱三商事㈱ ハニー トーン ベルギー (biobest社) ナチュポール、ナチュポール ・ブラック (在来種) オランダ (KOPPERT社) トモノマルハナバチ オランダ (BBB社) はなまるくん、-イポ リナ (在来種) 日 本(B・

・P社) キャッツマル-ナバチ 日 本 (BioPol社) HISSANマルハナバチ イスラエル (YAD MORDECHAI社)

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数字か ら読み取れ る (表2参照).ここでは,国 内におけるマルハナバチ普及が どのように行わ れて きたか, また現状の問題点 と今後の展望 に つ いて述べたい. 日本へのマルハナバ チ導入事始 マル-ナバチが利用 され る以前 の施設栽培 に おける トマ トの花粉交配 には,欧米諸国では電 気振動器 (バイブレーター)が, 日本や トル コ などではホルモ ン剤 (植物生長調整剤)の噴霧 による方法が用 い られて きた. これ らの方法 に は 1株,もしくは 1花 ごとの処理が要求 され, 栽培管理の中で も,大変労力のかか る作業の一 つ であ る.現在栽培 されて いる多 くの品種 で は

,

「段」 と呼ばれる 1花房 ごとに花を付 ける. 大玉 (もしくは丸) トマ トでは1段でおおよそ 5,6花が咲 く (ミニ トマ ト,中玉 トマ トではそ れ以上).また,1段の中で も一斉開花す るわけ で はない.加えて,ほぼ1週間の間隔で花房 は 開花 してゆ く.近年の施設技術 の向上で,長段 取 りと呼 ばれ る栽培方法で は

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段程度花 を付 けさせ る.オ ランダか らもた らされた周年栽培 方法では, 文字通 り 1年中開花状態が続 く.1 花 の寿命 は,季節,天候,気温条件で多少異 な るが

,3-5

日程度.当然 この開花期間内に,交 配作業 を しなければな らないので,開花期問が 比較的長 くなる冬季で も, 1週間に 1回 は交配 作業を行わなければな らない. ここまで読 まれ ただけで も,花粉交配処理 がいかに手間のかか るものかが ご理解 いただけると思 う. さらに, 交配処理 は,花が着果 しやすい午前 中に行わな 図 1 換気部にネットを展張 したビニール-ウス ければな らないが,4,5段 目以上 になると下段 の果実の収穫 も午前中に行 う.平均的な日本の 大玉 トマ ト栽培施設 は,か まぼ こ型ハ ウス土耕 栽培で,面積が

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,作付株数 は

3

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000

株 とい った ところ.1株 には,おおよそ 2,3段分合わ せて

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花程度が咲 きそろ う.単純計算 して も

30

,

00

0

個 もの花 を,収穫作業後 に

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花づって いねいに噴霧処理 しなければな らない,花以外 の部分 に塗布す ると,植物体のホルモ ンバ ラン スが崩れるため,施設内一括噴霧 はできない. 施設面積,作付 け株数が増加すればす るほど, この作業 に掛か る労力 は比例 して増加す る.作 付 け面積が広 い大規模農家や花数の多 い ミニ ト マ ト栽培農家では,区画 ごとに作業 日を ローテ ーションし, はば毎 日花粉交配作業 を行 ってい る. 前置 きが少々長 くな って しまったが,前述 し たよ うな重労働を省力化 させ るための技術 こそ が マルハ ナバ チを用 いた花粉交配 法で あ る.

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年 にベルギーの

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によ り実用化 された技術 は,同様 に人の手 によ る花粉交配が行われて きたオランダをは じめと す る, ヨーロッ/ヾ諸国の トマ ト産地 に受 け入れ られた. この技術が

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9

月, 日本の養液 栽培研究会の ヨーロッパ視察団によって 日本 に 紹介 されることになる.その後 この技術 は,静 岡県農業試験場病害 虫部 の池 田二三高研究主 幹,三重大学農学部松浦誠教授 を中心 に愛知 県,三重県 の農業試験場 な どで検討 が進 め ら れ,翌年

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991

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2

月,最初のセイ ヨウオオマ ルハ ナバ チ

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コロニ ーが 日本 に導入 され た (岩崎

,1

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)

.

技術普及現場での格闘

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2

年 か ら本格的 に開始 された, 日本 にお けるマル- ナバチの普及 は多難 を極めた.理 由 と して, まず,販売元のメーカー自身 のマル-ナバチに関す る知見が圧倒的に不足 していたこ とが挙 げ られ る. これは, 日本国内におけるマ ルハナバチの研究量が欧米諸国に比べ少 なか っ たことが考え られ る.加えて, もともとベルギ

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-,オランダで開発 された技術であったため, ヨーロッパにおけるダッチライ ト式大型ハ ウス の栽培方法 と日本式 ビニール- ウスでの栽培技 術摩擦が原因 として挙げ られる.始めに気候条 件 による管理体制の違い.オランダの例を挙げ れば,夏季は冷涼であり,冬季 は極端 に日照量 が不足 している. 日本のように露地で トマ トを 栽培することはできない.そのため, ロックウ ール栽培, 自動化の進んだ環境制御の整 った平 均面積lhaの大型- ウスで周年栽培 を行 って いる.一方の日本 は,東西南北 に延びた多様な 気候条件であり,条件 に合わせて促成,抑制, 夏秋など多 くの作型 に分かれている. これを, ヨーロッパメーカーの取扱 い方法を基本に作成 された,一辺倒のマニュアルで普及 させるのは 不可能 と言 って良い.加えて,- ウスの形状 も 千差万別.比較的標高の高 い夏秋地域 に多 く見 られる簡単な骨組みの屋根部 に ビニールを展張 した 「雨よけ」 と呼ばれ るものか ら, ダッチラ イ ト式大型- ウスまでその種類 は数 え切れな い.また,- ウスの覆い もビニール, トタン, ガラスなど,その厚 さ,素材 は様 々である. こ こで,環境条件 による トラブルの例をいくっか 取 り上 げたい. (D高温期,厳寒期の トラブル 国内で栽培 されている大玉 トマ トは, これま でホルモ ン処理 による花粉交配 と,多収の観点 か ら,花粉量が非常 に少 ない品種 に改良 されて きた.通常で も少ない花粉量が,高温期の夜温

25

℃以上 (っまり熱帯夜)が数 日続 くと,花粉 量が極端 に減少 もしくは稔性が低下する. また 厳寒期, これまで多 くの農家は節間が徒長する との理由か ら最低温度を

8

℃に維持 してきた. しか し,夜温が

1

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℃を切 るとやは り花粉量 が 極端 に減少 も しくは稔性 が低下 す る (小 出, 1997). 幼虫のタンパ ク源 として花粉を採取す るマル-ナバチが,状態の良い花粉を出 してい ない花 に訪花するはずがない.以前,農業改良 普及員の方が各生産者の- ウスに毎夜に忍び込 み, ボイラーの設定温度 を

2

℃ずつ上昇 して回 ったといった苦労話 もある. ②ハウス外への外勤活動,逃去 19 マル-ナバチが 日本に導入 された当初,マル ハナバチの訪花特性 として,記憶 した花 に対す る専攻 (選好)性が挙 げ られていた.つまり, 数 日間完全に閉鎖空間下で トマ トの花を覚えさ せれば,その後は- ウス外の別の花には見向き もしないとの解釈である. これはマル-ナバチ の巣門を開放するときの 「癖付 け」 と呼ばれる 方法で実践 される. この処理を行えば,- ウス の換気部を開放 して も,問題 はないとの指導が されていた.しか し,マルハナバチの働 き蜂は, 1種類の花 (主専攻花)以外にも,保険 として 別の副専攻の花を持っ ことが知 られている.当 然,主専攻花 よ りも副専攻花か ら効率良 く花 塞,花粉を採取す ることができれば,たちまち 副 専 攻 花 は主 専 攻 の花 に な る (Heinrich, 1979).日本の トマ トのように花粉量が少ない 品種であれば,- ウス外のより多 くの花粉を提 供 して くれる花を専攻す るのは必然であろう. 現在, この件 に関する多 くの トラブルか ら,ハ ウス換気部 には目合 い 4mm 以下 の ネ ッ トを 展張 した上での使用が推進 され始めている (図 1). ③光による不活性 マル-ナバチの導入当初強調 された もう一つ の活動特性が,紫外線がカ ッ トされた条件下で も訪花活動 に影響がないことである. これは, あ くまで もミツバチと比較 してのデータであり (松浦,1993),マル-ナバチがまった く影響を 受 けないということではない. トマ ト- ウスに 展張 される紫外線 カットフイルムは,害虫の-ウス内への侵入および- ウス内での増殖を防止 する目的で用いられる. しか し,マルハナバチ にとっては,曇天 もしくは雨天下での外勤活動 に近い条件になり,晴天条件に近い通常のフイ ル ム展張下 に比べれば,外勤個体数 は減少す る. また, トタン材のよ うな光線を乱透過する ものでは,環境に適応す るまでに数 日要するこ ともある.加えて,湿度保持や地温上昇のため に,地面 に張 られるマルチと呼ばれる農業資材 には, シルバーメタ リックな色が施 され,鏡の ような輝 きを持っ もの もある. このような資材 が用 いられている場合,ハチは腹部側か らも太

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表2 トマ トにおけるマルハナバチ使用調査 地 方 名 (》総面積 ② 使 用 面積 ③使用群数 ④使用群数 ⑤市場群数 ⑥導入 率 (農水統計) (農 水 統 計) (農水統計) (推 定) (①什 5×2)

(

④/⑤)% 北 海 道 3,750 1.231 1,094 2,000 5,000 40 青 森 1,860 東 岩 手 1,570 宮 城 1,190 秋 田 890 山 形 1,210 福 島 3,220 555 289 600 2,480 255 326 400 2,093 364 351 350 1,586 204 256 250 1,187 219 209 300 1,613 609 700 1,500 4,293 4 9 2 1 9 5 2 1 2 2 1 3 小 計 9,940 2,206 2,131 3,400 13.252 茨 城 7,010 関 栃 木 2,900 群 馬 2,750 埼 玉 1,470 千 葉 8,410 東 京 190 神奈川 1,240 山 梨 970 長 野 740 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 5 0 0 8 3 5 5 5 1 4 2 2 1 1 1 0 1 0 5 4 5 5 5 1 3 8 9 8 0 7 1 5 1 9 0 3 0 1 1 1 0 0 2 3 6 3 8 2 0 3 5 9 7 2 3 4 1 4 5 7 1 7 1 8 9.347 3,867 3,667 1,960 ll,213 253 1,653 1,293 1.120 9 4 1 6 3 0 7 5 8 3 4 2 I A . 2 1 1 小 計 25.680 3 3 0 4 3 8 3 6 6 5 5 0 新 潟 1,270 北 富 山 170 石 川 660 福 井 380 30 55 100 1.693 66 56 100 226 104 154 170 880 98 211 200 506 6 4 9 0 4 1 4 小 計 2.480 298 476 570 3,305 静 岡 東 岐 阜 愛 知 三 重 2,270 674 668 800 3,027 530 715 802 800 767 4.600 1.365 2,226 4,000 6,133 1,000 876 715 800 1.333 小 計 8,400 3.630 4,411 6,400 11,260 滋 賀 近 京 都 0 0 0 0 0 0 2 9 0 5 5 8 2 4 3 9 6 6 5 3 3 5 7 1 9 7 4 5 3 3 1 3 3 0 6 6 6 9 5 0 6 6 0 2 6 4 2 8 9 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 0 0 1 1 1 1 2 2 4 5 5 9 3 2 3 1 2 2 2 中 国 ・ 四 国 鳥 取 島 根 岡 山 広 島 山 口 徳 島 香 川 愛 媛 高 知 0 0 0 0 0 0 0 0 0 7 3 8 6 0 3 6 2 5 5 4 3 4 6 7 7 9 2 14 22 11 91 一 67 38 56 50 2 1 8 5 13 83 一 69 74 83 83 1 6 1 0 3 6 3 0 3 3 6 3 6 7 0 1 0 7 1 2 3 7 5 5 6 8 9 0 2 3 日日 日 0 0 0 0 0 0 0 0 0 5 0 0 0 5 0 0 0 0 1 2 2 3 8 3 2 7 7 0 3 6 1 9 4 0 1 4 3 3 7 2 6 小 計 5,100 6 4 9 日‖ 2 1 8 2 2 0 0 福 岡 1,700 九 佐 賀 590 長 崎 1.030 熊 本 8,400 大 分 1.220 宮 崎 2,000 鹿 児 島 720 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 8 6 5 0 1 0 1 8 2 4 7 7 2 4 9 3 3 0 2 4 2 0 3 5 4 4 4 3 2 1 3 5 9 9 1 4 1 8 2 2 1 9 5 5 1 5 6 7 2 2,267 786 1,373 ll,200 2,667 1,627 960 5 6 6 1 4 0 0 3 7 3 7 0 1 日 H 小 計 15,660 4,702 5,176 12,100 20.880 沖 縄 440 154 27 100 587 17 全 匡l 74,730 16,878 18,914 33,740 99,838 34 1998年農林水産省統計より (平成9年3月か ら平成10年3月),面積 は千m2

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陽光線を受 けることにな り,飛期できないとい ったケースもあった. 化学 農薬 の併 用 今やマル-ナバチは, 日本全国各地の トマ ト 施設で用いられている (表 2).メーカー,取扱 い代理店,単位農協や普及所 に寄せ られるクレ ームは,作型,利用環境 により千差万別,取 り 上げれば切がない.既述 した トラブルは,氷山 の一角 にす ぎない. しか し, トラブルの中で最 も多い内容が,化学農薬 に関す るものである. 最近で こそ,減農薬,無農薬栽培生産物が消費 段階で もて はや され るよ うにな って きて いる が,いまだに商品を色,形で選ぶ傾向が強いよ うに思われる.当然,虫食 いがあるような生産 物 は許 されない, したが って, 日本 は非常 に化 学農薬依存度の高い病害虫管理 によって作物が 生産 されている.また,湿潤な環境下での土耕 栽培 も,病害虫の発生頻度を高め,化学農薬へ の依存度を強めている.使用 される化学農薬 も 多岐に渡 る,除草剤,殺菌剤,殺線虫剤,殺 ダ ニ剤,そ して殺虫剤.- ロに殺虫剤 と言 って も, 水和剤,乳剤,粒剤, くん煙剤などに分かれて お り,有機 リン,塩素,合成 ピレス トロイ ドと 系統が変われば作用の仕方が異なる.加えて, 日本 における農薬登録制度.作物別 に指定 さ れ,都道府県で も多少差異がある. この多種多 様 な殺虫剤 の残効 日数 を調 べなければな らな い.なぜな ら,農薬の効果が残 っていると,マ ル-ナバチを- ウス内に導入 して も,ハチは活 動できないか らだ.導入 されて も,ハチは巣箱 内か ら出てこない.最悪の場合 には, コロニー が死滅す る.脱皮阻害剤 のよ うな ものになる と,成虫の働 き蜂には問題がな くて も,働 き蜂 が剤を巣箱内に運 び入れ ることによって,巣内 の幼虫に散布 されることになる. このようなこ とがないように,各 メーカーの製品には必ず, 農薬使用表が添付 されてお り,代表的な化学農 薬商品別にマル-ナバチとの使用間隔が明記 さ れている. メーカー側 としては,-チに影響が 少ないよう,残効 日数の短 いものを使用するよ 21 うに注意 している. しか し,現状では,残効 日 数が延びるにもかかわ らず,数種類の化学農薬 を混用することが頻繁 に行われたり,表示 日数 を守 られていないことも多い. これまで農薬消 費大国であった日本 における化学農薬の使用方 法には,時間をかけた意識改革が必要なのか も しれない. 実 は,当のオランダも10年 ほど前 までは, ヨーロッパ最大の農薬消費国であった.生産性 向上 のための,必須資材 で あ った と言 ってよ い. しか し,国内の水質,土壌汚染に加え,作 物輸出国か らの突 き上げを受 け, 1990年, オ ランダ政府 は 「長期作物保護計画書」を作成 し, 化学農薬の使用規制を進めた. この結果,急速 に技術開発 されたものが生物農薬 (天敵農薬) である.生物農薬を利用 した化学農薬削減体制 の中での,受粉用昆虫マル-ナバチの利用.覗 荏では,パプ リカ (カラーピーマ ン), メロン, ナス, イチゴ, ブルーベ リー, クランベ リーな どに もマルハ ナバ チが利 用 されて い る (van Doorn,1997).わが 日本では,受粉用昆虫,坐 物農薬生産開発のための研究には,国か らの助 成金が支給 されているが,利用推進のための方 針,政策 は残念なが ら打 ち出されていない.受 粉用昆虫,生物農薬の普及には,あ くまで も販 売 メーカー,各代理店,単位農協,農業改良普 及所,農業試験場 などの機関 に依存 されてい る.つまり,マル-ナバチの技術導入の受入れ 態勢が不充分な状態で, 日本でのマルハナバチ 利用は開始 されたのである. 受粉 用昆 虫 マルハ ナバ チの これか ら このように粁余曲折あ った トマ トへのマルハ ナバチの普及 も,今 日では一段落を迎えたと言 え るので はないだ ろ うか.マル-ナバ チ製品 は,各 メーカーがそれぞれ一定基準 を設 けて厳 選 した商品を出荷 している. しか し,工業製品 のようなわけにはいかない.あ くまで も生物で あるがゆえの, トラブルはつ きものだ. 1コロ ニーの使用可能期間 (寿命)は

,45

∼60

日, ただ し,その時の気候条件 により, コロニーに

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供給 され る花粉量 は左右 されるので, 目安以上 になることもあれば, それ以下 になることもあ る.生物問の相互作用 を利用す る技術だけに, 販売側,使用側 ともに, よ り知見を深めてい く 必要があることだけは確かである. ここ数年来 の販売 メーカー,各代理店,単位農協,農業改 良普及所,農業試験場,生産者 (農家)の努力 によ り, 日本での トマ トにおけるマルハナバチ 利 用技術 は安定 した もの にな りつつ あ る. ま た,取扱 い代理店,単位農協の担当者 を集 め技 術講習会 などを定期的 に開 き,普及技術の向上 を計 るメーカー もある. このよ うな活動 は大変 評価で きるもの といえる. ただ し, マル-ナバチの普及活動 は,実際の ところ水面下での動 きであると言わざるを得な い.国内において トマ トの受粉がマルハナバチ によって行われていることを,一般 の消費者 は 知 らない.驚 くべ きことだが, イチゴやメロン の受粉がセイ ヨウ ミツパテ (Apismellifera) によって行われていることも意外 に知 られてい ない. この ことはマルハナバチの普及 において あま り都合のよい話ではない.現在, マルハナ バ チ販売 メーカーの うち 4社では,マルハナバ チ普及会 を組織 し,利用技術の向上 と, この事 態 の打開を図 るために活動 している.その1例 が,マル-ナバチによる生産物 に

,

「マル-ナバ チ交配」を明示す るものだ (図 2).これまで, トマ トの大生産地で は,出荷箱 に独 自にプ リン トを施 していたところ もあ ったが,末端 の消費 段階 まで行 き届 くことはほとん どなか った. マ ルハナバチ導入農家 は,使用農薬 を制限 し, よ 図2 マル-ナバチ普及会が制作 した 表示 マーク (商標登録出願中) り高品質 の トマ ト作 りに努 めて きたわ けだか ら,少 しで もホルモ ン処理産物 との差別化 を図 り,高値で生産物 を販売 したいと望む ことは当 然である. これまで省力化 の面 を強調 して きた が,実 は, ホルモ ン処理 で トマ トを 「想 像妊 娠 ・擬イ以受粉」 させて きた 日本では, マル- ナ バチを使用す ることによ り,思わぬ効果 も得 ら れた.マル-ナバチを使用す ることで,総 ビタ ミンC含量の増加,空洞異 の減少,重量 の増加 とい った品質 の向上 が もた らされた (小 出 ・ 柿,1993).高品質,減農薬のマルハナバチ交 配 トマ トが,小売段階で もっと明瞭にされ るこ とを期待 したい. 日本での生産物集荷体制 は,特定業者,企業 と契約 している一部 の生産者 を除 き,そのほと ん どが農協 での一斉集荷である.集荷後, マル -ナバチ交配 の ものと, ホルモ ン処理 の ものを 分別 して出荷 されることはなされていない. こ れには,従来の選果方法 と単位農協,県経済連 の一連の流通 システムを変更 しなければな らな い. この改革 は,一都道府県下 を挙 げての一大 事業 になるため,現在の ところ実行 されている 例 はない. しか し, この大事業 に取 り組み始 め た県が高知県である. この取 り組みは, トマ ト で はな くナスで はあ るが,県 の農政部 を先頭 に,農業改良普及所,農業試験場,取扱 い代理 店,園芸連,単位農協 そ して生産者が,一体 と な って活動 している. これ まで, ナス施設での マル-ナパテ利用 は, マル-ナバチが 日本への 導入が開始 された頃か ら試験的に試み られてい た. しか し, ナスへのマル-ナバチ導入 は, ト マ トに比べ発生害虫の多 さか ら,化学農薬散布 回数への影響が懸念 され,本格的な利用 は始 ま っていなか った.ここ1,2年 の問に, トマ トの 大生産地 に隣接す る宮崎,熊本,佐賀県の一部 産地での導入の本格化 を皮切 りに, 日本の施設 ナス

1

/

4

の面積 (約

41

0ha

)

を持っ高知県が, 天敵農薬 の使用 までを視野 に入れた 「環境 にや さ しいナス産地づ くり協議会」 を発足, マルハ ナバチの本格導入を開始 した (岡林, 1999). また,1999年11月には,高知県 においてマル ハナバチ普及会が主催す る 「ナスにおけるマル

(7)

図3 トマ ト(上)で明瞭に確認できるバイトマーク (荊部の変色)はナス (下)では確認できない ハナパテ利用技術研究会」が開催 され,全国の ナス産地の関係者が参加 した. ナスへのマルハ ナバチ利用 は, メーカーにおいて もシェア拡大 への期待が大 きい. なぜ な ら, 1コロニー当た り大玉 トマ トで は25a, ミニ トマ トで も 20a までが利用可能 な作付 け面積であるのに対 し, ナスで は5a∼10aが適正面積 と確認 されたた めである.同 じ作付 け面積であれば, トマ トの 2倍∼5倍の使用群数が見込 める. ただ し, ナ スでのマルハナバチの利用技術普及 には, トマ トでの普及以上 に課題が多 い.その代表的な例 が,バイ トマークによる訪花活動の確認が困難 な ことである.バイ トマークは,マル- ナバチ の大顎 によ って訪花後の前部 に見 られる噛み跡 であるが, トマ トでは明瞭に確認で きる (図3 上).生産者 はこれによって,-チの活動 を確認 し, また, コロニーの交換時期 を把握す る. し か し, ナスの花で は,薪が太 くまとまっていな いこと,花粉量が多 いことか ら,バイ トマーク が付 き難 いことが考え られる (図3下).オ ラ ンダの米 ナス栽培 で は,バ イ トマー クで はな く,柱頭の変色 による確認がなされているとの ことなので, 日本 の品種 で も同様 の確認方法 を,用 い ることが可能 か検討 す る必要 が あ る (橋本,私信).加えて, ナス花 は花粉量が多い ことか ら, トマ ト施設内 とはコロニーへの花粉 供給量が大 きく異なることが推測 され,導入後 のコロニーの使用期間 も再考が必要であると考 え られ る.また,ナスで は花車深 くに潜 り込み, 防除に手間 と大量 の化学農薬 を必要 とす るアザ ミウマ類が多 く, これ らを捕食す るククメ リス カプ リダニ(Amblyseiuscucumm s)などの天 敵農薬 との併用技術 の開発 も,早期 に実現 した い課題 の一つである.今後,使用群数が増加す ると共 に,諸問題が浮上 して くることは想像 に 難 くない. しか し, ネ ッ トの展張が義務付 け ら れた指導方針など, トマ トでの普及経験 を生か した利用技術の向上 と, マル- ナバチ交配 マー クが明記 された生産物 の販売 に期待 したい. 世 界 の事 情 と在 来 種 の実 用化 今後,施設 ナスでの普及が進 めば, マル-チ バチの国内における使用群数 は,現在 の約2倍 の需要があるとの見方 もある.冒頭で も記 した よ うに,現在, 日本国内 における年間のマルハ ナバチ使用群数 は3-4万群 と推定 されている (図 4). これは,世界のマルハナバチ使用群数 の約6-8%に相当す る (図 5). マル-ナバチ が受粉用昆虫 として利用 されているのは, ヨー ロッノ<,中東,北 アフ リカ諸国, ニュージーラ ン ド, アメ リカ合衆Eg, カナダ, 日本,そ して 韓国である.その使用群数 は50万群 と推定 さ (普j = ) 意 告 時世 匡 駄 1992 1993 1994 1995 1996 1997 図4 匡l内のマル-ナバチ利用の推移

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北ヨーロッパ諸国 20% 図5 マルハナバチ使用量における国別の比率 (和田,1997) れている (図6). この うち約85%という高 い 比率で, セイ ヨウオオマル-ナバチが利用 され ているが (和田, 1997),一部地域では早 くか ら土着在来種 の実用化を進 め, カナ リア諸島で は,

B.c

anariensisを,北 アメ リカでは東海岸

側でB.impatience,西海岸側でB.occident

a-lisを利用 している (vanDoorn,1996). ヨー ロッパ諸国では, セイ ヨウオオマル- ナバチを 在来種 として利用 しているが,広 い分布域 を も つセイ ヨウオオマル- ナバチの異 なったエコタ イプ (生態型)の混用が問題 にな っている. セ イ ヨウオオマル-ナバチは現在,北 ヨーロッパ か ら中東 にかけて, 把握 されているだけで も

5

亜種 に分類 され,増殖設備 内で も交雑 は容易 に 行 うことがで きる(deRuijter,1996).セイ ヨ ウ ミツバチのよ うに人為的な品種 の育成 までは 行われていないようだが,多様性の維持 とい う 観点か らは憂慮すべ き問題 であろう. また近年 のマルハナバチ研究の大 きなテーマとして取 り 上 げ られているものが,寄生性病害虫の問題で ある (MacFarlane1995). これまでに知 られ て い るマ ル- ナバ チの主 な寄 生 性 病 害 虫 は Nosema bombi,Kuzinia laevis,Matessia bombiと マ ル ハ ナ ポ リプ ダ ニ (Locustacari buchneri)などである (deRuijter,1996).こ れ らの うち,Nosemabombiやマルハナポ リプ ダニが, 日本で利用 されているセイ ヨウオオマ ル-ナバチの コロニーか らも確認 され,外来種 マルハナバチのみな らず,寄生者や病原体の国 内への流入 も明 らかにな った (五箇 ら,1999). これまでにも, セイ ヨウオオマル-ナバチをEg 内において利用す ることで, 日本の生態系 に与 え る影響の推測 は,本誌 に も数編の論文が寄せ られている.また,この ことが,1997年 に新聞 な どのマスメデ ィアで大 きく取 り上 げ られ,物 議を醸 した時期 もあ った.現在 は,農林水産省 新産業先端技術開発事業の一つ として,(秩)ト ーメン,ア ピ (秩),東海物産 (秩)の3社共同 で,在来種であるオオマル-ナバチ (B.hypoc -rita)とクロマル-ナバチ (B.ignitus)実用化 に関す る研究が行われていることもあ り, この 論議が,行われ ることは少 な くな った.ただ し, 在来種であ って も, 1種 のみ大量増殖 を行 い, 利用す ることは自然個体群 の多様性の維持 とい う点か らは, セイ ヨウオオマル-ナバチを利用 oo 的 00 oo o 5 4 3 2 -(告 ・)= ) 点 苫 ty 世 臣 牡 1988198919901991199219931994199519961997 図6 世界のマル-ナパテ利用の推移

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す ること以上の リスクも推測 されるといった意 見 もあり, 日本産 マル- ナバチの実用化 は混沌 とした状況 にある. しか し,前述 したよ うな寄 生者や病原体の国内への流入 といった事実が明 らかにされは じめた今 日,在来種の実用化 を再 検討す る時期が来ているのではないだろうか. 種の実在性が問われている昨今ではあるが, セ イ ヨウオオマルハナバチ との競合 による在来種 の衰退や交雑 による遺伝的撹乱 など, 日本 の固 有種,亜固有種 を,種 レベルで保全できない現 状況下で,地域個体群 レベルの多様性を維持で きる可能性があるとは考 えに くい. さらに, マ ルハナバチの利用が始 まったばか りの韓国や中 国で も,在来種であるE ignitus(日本 との共 通種)や B.lucorumの実用化の検討,研究が行 われてお り (梁 ら, 1999), アジア地域でのマ ル-ナバチの利用環境 は,大 きく変化す ると予 測 され る.今後, アジア各国におけるそれぞれ の在来種 の研究が さらに進み,増殖技術か ら利 用技術 まで,多 くの情報交換 をされることが望 まれ る. 謝辞 今回の知見を得 るに当た り,米田昌浩氏 (農 林水産省特別研究員) とア ピ株式会社養蜂事業 那,株式会社 トーメ ン生物産業部の諸氏 に大変 お世話 にな りま した.心 よ り感謝 いた します. (〒226-0003 横浜市緑区鴨居 3-25-6) 引用文献

deRuijter,A.1996.The7tll lnternatiollalPol -linationSymposium.

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Midoriku, Yokohama, Kanagawa, 226-0003 Japan.

In Japan,Poll】natlOnOftoITlatOeSand clle汀y tomatoescropslngleenhousewithcommercial packages of non-native European bumblebee (Bombusterreslr‡S)became more popularsince

theirimporthasbeenpermittedabout10yeal-S ago.Useoftheeffectivepollinat10nSaveslabor moreand produceshiglleI-qualityfruitswhen tllOSe are COmpared Witll treatmentOf plallt glOWthregu】ato11 Thenumbe1-0ftheEuropean bumblebeecolony usedforpolllnatlOnPurpose llaSincreasedalldltreachedca.40,000(ca.6% Ofglobalproduction ofcommercialpackages), Recently eggplantisrecognized asnew pot en-tlalcroptoexpandtheuseofbLlmblebeepac上( -agesinJapan.From ecologicalviewpoint ,how-ever,negative Impacts tO native biota have beenconslderedbecauseoflackoftheillfor

ma-tion on thetaxonomy and patllOlogy ofJ apa-nese Bombus. The autllOr Strongly recom一 mended that commercialization of Japanese llativebLlmblebeessllOuldbel・ealizedassoonas posslble.

表 2 トマ トにおけるマルハナバチ使用調査 地 方 名 ( 》総面積 ② 使 用 面 積 ③使用群数 ④使用群数 ⑤市場群数 ⑥導 入 率 ( 農水統計) ( 農 水 統 計 ) ( 農水統計) ( 推 定) ( ① 什 5×2) ( ④/ ⑤) % 北 海 道 3, 750 1
図 3 トマ ト( 上)で明瞭に確認できるバイトマーク ( 荊部の変色)はナス ( 下)では確認できない ハナパテ利用技術研究会」が開催 され,全国の ナス産地の関係者が参加 した

参照

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