少子化と子育て支援の関係性 : 秋田県を事例とし
て
著者
工藤 豪
雑誌名
埼玉学園大学紀要. 人間学部篇
巻
20
ページ
79-88
発行年
2020-12-01
URL
http://id.nii.ac.jp/1354/00001326/
年の1.57ショックを契機として開始し、現在 に至るまで多様な施策が展開されてきた。そ の中心的課題として取り組まれてきたのが、 保育サービスの拡充や待機児童対策などの 「子育て支援」である。地域のニーズに合わ せた支援を行い、産み育てやすい環境を整備 することに重点的に取り組んできたといえよ う。しかし、その方向性は適切であったとい えるのであろうか。というのは、現在の合計 特殊出生率は少子化対策を始める前よりも低 い水準となっているからである。 このような状況を念頭に置きながら、本稿 では、秋田県における少子化と子育て支援の 関係性について考察を試みることにしたい。 秋田県の年少人口(0-14歳)割合は全国で最 1.はじめに わが国では、1970年代半ばより合計特殊出 生率(total fertility rate)が1)人口置換水準 を下回っており、すでに「少子化」2)の状態 が40年以上続いている。2018年の合計特殊出 生率は1.42であり、先進国の中でもきわめて 低い水準にある。この少子化は、わが国が現 在直面している人口高齢化の主要因の一つで あり3)、日本を世界で最も老年人口割合が高 い国へ押し上げたといってよい。そして、医 療・介護・年金など社会保障制度の持続可能 性を危ぶませ、国民の危機感を高める状況と なっている。 それに対して、わが国の少子化対策は1990 キーワード : 少子化、合計特殊出生率、子育て支援
Key words : declining birthrate, total fertility rate, childcare support
─ 秋田県を事例として ─
The Relationship between Declining Birthrate and Childcare Support
A Case Analysis in Akita Prefecture
工 藤 豪
KUDO, Takeshi 本稿では、秋田県における少子化の動向と少子化対策の展開を整理し、少子化と子育 て支援の関係性について考察を試みた。その結果、秋田県における少子化の主要因と少 子化対策における重点施策との間にミスマッチが生じていることを指摘した。さらに、 秋田県で手厚い子育て支援については評価されながらも、子育て環境だけが充実しても 地域の未来に希望を抱けない人びとが多いことを明らかにするとともに、産科や小児科 の病院が縮小・撤退していくことへの不便性・不安感が高まっている現状が、子育て環 境という“質”だけを整えることの限界を示唆しているのではないかという結論に至った。佐賀県1.64、長崎県1.68、熊本県1.69、大分 県1.59、宮崎県1.72、鹿児島県1.70)は総じ て高くなっているのに対し、東北地域(青森 県1.43、岩手県1.41、宮城県1.30、秋田県1.33、 山形県1.48、福島県1.53)は全体的に低くなっ ているという対照的な地域差も把握できる。 このような状況をみると、少子化や合計特 殊出生率に関して、日本を一括りにして画一 的に分析することには限界があるようにも思 われる。各地域の実態や特徴を整理し、その 差異が生じている要因や抱えている問題を明 らかにすることは、重要な意味をもつのでは ないだろうか。少子化対策を実施するにあ たっても、各地域の実情に適した方向性のも とで施策を検討することが必要であると考え る。 (2)秋田県に着目する意図 次に、上述のような問題意識を踏まえ、な ぜ秋田県に着目するのかについて説明してお きたい。それは、秋田県が少子高齢化の著し い日本の先頭を走っているからである。『人 口動態統計』(平成30年の状況)によれば、 秋田県の出生数は5,040人、人口1,000人に対 する出生率は5.2で全国47位、これは平成7 も低く、老年人口(65歳以上)割合は全国で 最も高くなっており、秋田県は少子高齢化が 著しい日本の先頭を走っているといえよう。 その秋田県が抱える特徴や問題を明らかにす ることは、多くの地域にとって、今後の少子 化対策や子育て支援の取り組みを検討する上 で重要な示唆を与えてくれるのではないだろ うか。 2.地域という視点で秋田県に着目する ねらい (1)地域という視点から接近する意図 まず、「地域」を単位とした少子化について 考えていくことになるが、ではなぜ、地域と いう視点から考察することが必要なのであろ うか。まず、その意図について詳述しておき たい。 それは、少子化における地域差が著しいこ とである。出生数が異なるのは人口規模に依 るので当然であるが、合計特殊出生率におい て顕著な差がみられることは注目すべき実態 であろう。具体的に確認すると、合計特殊出 生率(2018年)の全国値は1.42であるが、最 も高い沖縄県は1.89、最も低い東京都は1.20 となっており、また、九州地域(福岡県1.49、 図1 わが国の出生数と合計出生率の推移 (資料)厚生労働省『人口動態統計』
さらに、注目したいのは、2015年および 2020年の秋田県における値と2045年の全国値 の関係である。年少人口割合における秋田県 (2015年)と全国値(2045年)の水準、生産 年 齢 人 口 割 合 に お け る 秋 田 県(2020年 は 52.5%と推計)と全国値(2045年)の水準、 老 年 人 口 割 合 に お け る 秋 田 県(2020年 は 37.9%と推計)と全国値(2045年)の水準は、 それぞれ同じ水準となっているのである。す なわち、現在の秋田県における少子高齢化の 状況は、未来(2045年)の日本における少子 高齢化の状況とほぼ同じ姿を示しているので あり、それ故、今、秋田県が抱える特徴や問 題を明らかにすることは、日本の多くの地域 にとって、今後の少子化対策や子育て支援の 取り組みを検討する上で重要な示唆を与えて くれるのではないかと考えられる。 3.秋田県における少子化の動向と少子 化対策の特徴 (1)秋田県における少子化の動向 なぜ、秋田県の合計特殊出生率は著しく低 く、年少人口割合が全国最下位となっている のであろうか。秋田県は十分な少子化対策を 実施してこなかったのであろうか。どのよう な方向性のもとで少子化対策を行ってきたの であろうか。少子化対策の効果は得られてい 年以来24年連続の最下位となる。合計特殊出 生率の値も1.33と全国42位であり、著しく低 い水準となっている。これは、年少人口割合 の低下および生産年齢人口割合の低下ととも に、老年人口割合の上昇へとつながっていく ことになる。 そこで、表1に、2018年の合計特殊出生率 が最も高い沖縄県と最も低い東京都、そして 秋田県における年少人口割合・生産年齢人口 割合・老年人口割合の推移を、日本において 少子化が始まる直前の1970年、直近の2015年、 将来推計が示されている2045年の数値を『国 勢調査』から示した。これを確認すると、ま ず1970年では、高度経済成長期の激しい人口 移動(若者の首都圏への流入)によって東京 都の生産年齢人口割合が高いこと、沖縄県が 合計特殊出生率の高さを背景に年少人口割合 が高いことを指摘できるが、秋田県では全国 値と大きな差は生じていない。しかし、2015 年では、秋田県における年少人口割合と生産 年齢人口割合が低いこと、老年人口割合が高 いことが際立つ。この傾向は今後も続くと予 想されており、2045年には全国値との差が大 きく拡がって、年少人口割合と生産年齢人口 割合はともに全国で最も低い水準となり、老 年人口割合は全国で最も高い水準になると推 計されている。 表1 年齢別人口割合の動向(%) 都道府県 1970年 年少人口割合(左) 生産年齢人口割合(中) 老年人口割合(右) 2015年 年少人口割合(左) 生産年齢人口割合(中) 老年人口割合(右) 2045年 年少人口割合(左) 生産年齢人口割合(中) 老年人口割合(右) 全国値 24,0 68,9 7,1 12,5 60,8 26,6 10,7 52,5 36,8 秋田県 24,4 68,3 7,3 10,4 55,8 33,8 7,4 42,5 50,1 東京都 21,0 73,8 5,2 11,3 66,0 22,7 10,3 59,0 30,7 沖縄県 34,8 58,6 6,6 17,3 63,0 19,7 15,3 53,3 31,4 (資料)総務省『国勢調査』
存の調査研究による成果から検討していくこ とにしたい。まず、岩渕等による『出生率の 地域格差に関する研究』では、1990年代後半 から2000年代前半の秋田県の状況についてヒ アリング調査が行われている5)。それによる と、対策の柱は「すこやか子育て支援事業」 であり、第3子以降の保育料を全額助成する とともに、2003年度からは第1子の0歳児保 育についても全額助成を実施した。さらに、 未就学児を育てる従業員に育児・介護休業等 を取得させている事業主に対して支給する育 児両立支援奨励金を定めた。また、調査対象 となった鹿角市や横手市では、県による保育 料助成に上乗せした保育料の助成サービスを 実施するとともに、医療費の助成なども行っ ているという(岩渕 2004:71)。 次に、松田等による『少子化対策に関わる 政策の検証と実践的課題の提言』では、2010 年代前半の秋田県の状況についてヒアリング 調査が行われている6)。それによると、市町 村に対して地域事情に応じた幅広い少子化対 策を支援するための「市町村少子化対策包括 交付金」の支給、あきた結婚支援センターを るのであろうか。このような問題を考察する にあたり、先に秋田県における少子化の動向 を概観しておきたい。 図2は、戦後からの秋田県における出生数 と合計特殊出生率の推移4)を示したものであ る。第二次世界大戦後に第一次ベビーブーム が起きたこと、丙午の影響による出生数減少 および合計特殊出生率の低下、1970年代半ば から合計特殊出生率が人口置換水準を下回り 始めたこと、同じ1970年代半ばから続く出生 数の減少など、日本全体の推移との共通点は 多い。一方、相違点に注目すると、日本にとっ て1970年代前半の第二次ベビーブームにあた る時期に秋田県では出生数がほとんど増加し ていないこと、日本にとって2005年以降の合 計特殊出生率が緩やかに回復した時期に秋田 県ではそれほどの回復を示さなかったことを 指摘できる。なお、2016年の合計特殊出生率 は1.39とやや高かったものの、2017年が1.35、 2018年は1.33となっている。 (2)秋田県における少子化対策の特徴 秋田県における少子化対策については、既 図2 秋田県における出生数と合計出生率の推移 (資料)秋田県あきた未来創造部『考えよう 秋田の少子化』
その結果、高校卒業後の進学・就職等で県外 流出の傾向が強まったことで15-49歳女性人 口は大幅に減少するとともに、20歳代および 30歳代の有配偶率は大幅に低下しているが、 有配偶出生率については、20歳代では減少し ているものの30歳代では上昇していることに より、全体的に緩やかな上昇がもたらされて いる。以上のことから、秋田県における出生 数減少の要因は、女性人口の減少と有配偶率 の低下によるものであるという。 ここで注目したいのは、出生数減少の要因 に関する分析結果で示された二つの主要因と、 秋田県における少子化対策の重点施策とのミ スマッチである。秋田県における少子化対策 の柱は保育料の助成を中心とした子育て世帯 への支援であるが、有配偶出生率の低下が出 生数減少の主要因ではないことが明らかに なっている。もちろん、それが必要なかった というのではなく、保育料の助成を中心とし た手厚い子育て支援を行ってきたからこそ、 有配偶出生率が低下せずに保たれてきたとも いえよう。しかし、出生数減少の主要因であ る二つの要素に重点的な施策を行ってこな かったことが、現在の秋田県における少子化 の厳しい状況をもたらしたのではないだろう か。 ところで、「あきた未来総合戦略」では新た な方向性を確認することができる。基本的視 点と基本目標として、①東京圏等への人口流 拠点とした出会い・結婚支援、保育所の整備 拡充や企業に対する支援制度を設けるなどの 両立支援が実施されている。その中で、特徴 的な取り組みとしては、結婚支援と第3子以 降への出産支援を挙げている(松田ほか 2016:139-142)。 近年の少子化対策については、2015年度か ら2019年度を期間とした「あきた未来総合戦 略」に、少子化対策として三つの重点プロジェ クト、①保育料助成・医療費助成、②子育て 世帯に対する住宅支援、③多子世帯の負担の ピークに合わせた奨学金制度の創設が示され ており、さらに、あきた結婚支援センターの マッチング機能の強化や子育てしやすい職場 づくりの推進などが掲げられている。 (3)秋田県における少子化の動向と少子化 対策の関係性 ここからは、秋田県における少子化の動向 と少子化対策の特徴を踏まえ、その関係性に ついて考察していきたい。まず、秋田県あき た未来創造部による、秋田県における出生数 減少の要因に関する分析結果をみておくこと とする7)。この中では、出生数の変動要因と して「A:15-49歳女性人口」・「B:15-49歳 女性の有配偶率」・「C:15-49歳女性の有配 偶出生率」を提示し、1985年から2015年まで の推移を分析している。表2は、その概要を 示したものである。 表2 秋田県における出生数減少の要因について (資料)秋田県あきた未来創造部『考えよう 秋田の少子化』
県・市町村が実施している少子化対策の取り 組みについてどのように評価しているのであ ろうか。そして現在、少子化の深刻な秋田県 において、どのような問題を不安に感じてい るのであろうか。この点を分析・考察してい くにあたり、秋田県の「少子化要因調査・分 析事業」において実施したヒアリング調査の 結果を用いていくことにしたい9)。 この調査では、第一に、秋田県内の市町村 間における合計特殊出生率の地域間格差が生 じている要因を明らかにすること、第二に、 秋田県における少子化や人口減少に対し、気 候・風土・風習・ライフスタイルなどの地域 特性や生活慣行が、どのように影響している のかを追究すること、以上の二つを目的とし、 市役所職員や保健師などの行政関係者、保育 所職員などの保育関係者、民生委員および高 等学校教員などの教育関係者を対象として実 施したものである。ここでは、調査結果の中 の、地域住民が少子化や少子化対策をどのよ うに捉えているか、地域における特徴や問題 をどのように捉えているか、その部分に焦点 をあてて検討していくこととする。表3は鹿 出に歯止めをかけるための「産業振興による 仕事づくり」、②東京圏等から秋田への人の 流れをつくるための「移住・定住対策」、③ 若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかな えるための「少子化対策」、④時代に合った 地域をつくり、くらしの安全を守るための「新 たな地域社会の形成」を掲げ、多様な施策・ 事業を実施すべく展開されている。この中で、 ①および②は女性人口の減少に対する取り組 み、③は有配偶率の低下に対する取り組みと 位置づけられ、厳しい状況を打破するために 新たな方向性が示されたように思われる。し かし、前述のように、少子化対策の中心となっ ているのは依然として“子育て”であり、“結 婚”の希望をかなえるための施策・事業は未 だ希薄であると言わざるを得ない8)。 4.分析・考察 (1)分析視角・資料 前節において、秋田県における少子化の動 向と少子化対策の関係性について検討を加え てきたが、地域住民は、現在の状況をどのよ うに認識しているのであろうか。また、秋田 表3 鹿角市における調査結果の概要 鹿角市 摘 要 行政関係者 ・政策評価に関する市民へのアンケート調査において、効果が得られている政策として“子育て支 援”は常に上位3位以内をキープしている。 ・女性の未婚率が低いのは、男が余っていることが影響しているのではないか。 ・平成30年10月から市内に産科がなくなったので、妊婦が大館へ検診等で通う際の交通費や分娩時 の宿泊費などを助成している。 保育関係者 ・15年目になる未来事業団の保育施設が6カ所、他は民間の施設。家から近いということでなく、 通勤や送り迎えの関係などで、利用希望の所に入れる。 ・保育所の子ども数としては減少傾向にある。 ・以前は母親が2歳くらいまで仕事せずにみていたり、母親が仕事していても祖父母がみている家 庭が多かったが、今は0歳、1歳から入る子も増えてきた。 民生委員や 教育関係者 ・厚生病院があり、これまでは安心して産みやすい環境だったが、大館に機能集約してしまったことで、不便になりつつある。 ・親と別居して一軒家を建てた人は子ども2人でストップをかけている人が多く、親と同居して三 世代で暮らしている人の方が3人、4人と産む人が多い。 (資料)『秋田県「少子化要因調査・分析事業」報告書』
強いことで地元に留まりやすい男子に対し、 女子は流出傾向が強いため、男子に比べて女 子が少なく、未婚率が低くなりやすい。子ど も数は減少しているが、保育環境は整備され ており、手厚い子育て支援が行われていると 認識されている。また、家族(祖父母)によ る子育てサポートが重要な役割を担ってきた 角市、表4は仙北市、表5は男鹿市における 調査結果の概要を示したものである。 (2)鹿角市・仙北市・男鹿市における概況 鹿角市では、秋田県内の中で合計特殊出生 率が高い要因は女子未婚率が低いことにある と考えており、その背景として、長男規範が 表4 仙北市における調査結果の概要 表5 男鹿市における調査結果の概要 仙北市 摘 要 行政関係者 ・若者が外へ出てしまい、残った少ない人が二人、三人と産んでいる結果、出生率が高くなってい るのであって、望ましい状況とはいえない。出生数は減少している。 ・出生数は10年くらい前と比べると大きく減少しており、危機感が強い。 ・結婚した人が多く産んでいるのは、家族の協力、祖父母のサポートが大きい。同居していなくて も、祖父母に預けたり、送迎を頼める環境にあることが大きいのではないか。 ・小児科の常勤の先生がいないため(半年交代)、市外へ通う人も多い。また、産婦人科や内科の 開業医も高齢化で、将来への不安がある。 保育関係者 ・この地域の園児数は減少しており、子どもが減っている。地域のこども園では充足率にばらつき があり、交通アクセスの良い所へ集まってくる。 ・田沢湖地区では三世代、四世代で暮らし、子どもも3人、4人という家庭が多い。大勢の子を皆 でやりくりしながら育てている環境。祖父母が送迎することも多い。 民生委員や 教育関係者 ・企業の中には、独身男性がとても多いところもあり、そういった企業では、いずれやっていけなくなると危機感を強くもっている。職場の男女バランスに大きな偏りがある企業もあり、結婚支 援を望んでいるが、サポーターと応援企業の連携が取れていない。 ・昔は祖父母が子どもをみてくれた。孫が生まれたら仕事を辞めて子どもをみる意識が強かった。 今は祖父母もまだ仕事している人が多く、親世代だけで育てるとなれば二人が限度。病気したり、 いろいろ起きるので、三人、四人産んで育てようとは思えない。 (資料)『秋田県「少子化要因調査・分析事業」報告書』 男鹿市 摘 要 行政関係者 ・出生率が低いことについては、結婚している人が少ないこと、20~30歳代の未婚率が高いことに 要因があると認識している。 ・学校も統廃合が進み、子どもを育てる環境として男鹿で希望が見えにくい、このような環境では 男鹿で若い人が減っていくのは致し方ない部分を感じる。 ・男鹿市内に出産できる病院はなく、検診も市外へ通わなければいけない環境。小児科も一カ所し かない。 ・昔は三世代家族で暮らす人が多かったが、今では若い人が結婚するときに同居せず、外へ家を建 てることも多くなっており、親世代も同居を望まない人が増えている。 保育関係者 ・昔は2、3歳から保育所へ入る子が多く、0歳の頃は祖父母がみている家庭が多かったが、今は0 歳から入る子が増えている。今は祖父母も働いている人が多くなっている。 ・常に送り迎えをしている祖父母は少ない。近くにいてもあまりかかわりをもっていない家族も多い。 民生委員や 教育関係者 ・子育て環境が充実していても、仕事がなければ地元へ戻ってこない。・なまはげは、地域によって行っていない所も多かったが、ユネスコ無形文化遺産になり、昨年30 年ぶりに復活した所もある。1970年代まではほとんどの地域で行っていたが、1980年代頃から子 どもが少なくなり、減少していった。 (資料)『秋田県「少子化要因調査・分析事業」報告書』
いえば、未婚率における格差(合計特殊出生 率の高い鹿角市では未婚率が低いのに対し、 合計特殊出生率の低い男鹿市では未婚率が高 い)が著しいことと、家族(祖父母)との同 別居の状況および子育てへのサポート体制が 影響しているように思われる。 第二に、家族(祖父母)のサポートが以前 よりも得られにくくなっている中で、子育て 支援が重要な役割を果たし、継続的に手厚い 支援が行われていることで、結婚した夫婦が 一定数の子どもをもちやすい環境となってい ることを地域住民は明確に認識し、評価して いる。しかし、一方で出生数自体は減少し、 地域の子ども数が著しく減少している状況に 強い危機感をもっており、その要因は若者の 流出と未婚率の上昇にあると捉え、その二つ が改善されることを希求しながらも、有効な 対策案や明るい展望は見えていない。 第三に、子育て支援は充実しているものの、 産科や小児科の病院が縮小・撤退していくこ とへの不便性・不安感をどの地域においても 抱いている。妊婦が検診で遠隔地へ通わなけ ればならない状況や、医師の高齢化などによ り小児科へ安心して通うことができない可能 性を危惧するなど、医療環境の問題が顕在化 しているといえよう。これは、子ども“数” や地域人口の“数”が減少していけば、学校 の統廃合などとともに避けられない問題であ ると考えられる。このような不便性・不安感 が高まっていくと、保育を中心とした子育て 支援が充実していたとしても、子育て世代の 流出により一層拍車がかかってしまうように 思われる。ここに、子どもの“数”を回復・ 増加させることに固執するよりも子育てや子 どもの育つ環境の“質”を重視するという方 向性の限界が示唆されているのではないだろ ことが伺える。そして、市内から産科の病院 がなくなってしまったことへの不安が指摘さ れている。 仙北市では、地元へ残り結婚した人は二人、 三人と子どもを産んでいるが、地元から出て いく若者が増えたことで出生数は大きく減少 しており、地域住民も中小企業においても危 機感が強い。家族(祖父母)による子育ての サポートが以前よりも得られにくくなってい るが、結婚した人で三人以上子どもを産む人 が比較的多いのは、祖父母のサポートが得ら れることが大きいのではないか。そして、小 児科の常勤医師の不在、産婦人科や内科の開 業医の高齢化などへの不安が高まりつつある。 男鹿市では、合計特殊出生率が著しく低い 要因は未婚率の上昇にあると考えているが、 市として結婚支援の取り組みは現在行ってい ない。結婚後の三世代家族形成が減少してい るため、家族(祖父母)の子育てへのかかわ りが少なくなっている。保育などの子育て環 境は充実しているが、仕事がないため地元へ 戻る若者は減っており、さらに子ども数の減 少で学校の統廃合が進み、“なまはげ”などの 伝統文化も失われつつあり、子どもを育てる 環境として希望が見えにくいと認識されてい る。そして、市内に出産・検診等のできる病 院がないことや小児科も一カ所しかないこと に不便を感じていると指摘されている。 (3)考察 ヒアリング調査結果の整理を踏まえ、三点 指摘していきたい。第一に、鹿角市、仙北市、 男鹿市すべての地域において、保育を中心と した子育て支援の取り組みは充実しており、 そこに大きな違いは生じていない。では、な ぜ合計特殊出生率に格差が生じているのかと
の衰退・自治体の消滅は不可避な状況にある。 その未来を変えるためには、この厳しい現状 とその背景を理解し、地域の未来にとって、 国の将来にとって何が必要なのかを真剣に考 えることが求められているのではないだろう か。 注 1)高橋によれば、ある年次の女性の年齢別出生数 を同年齢の女性人口で除した数値である年齢別出 生率を計算し、この値を年齢15歳から49歳の年齢 範囲で足し上げた値のことを指す(高橋 2015: 23)。期間合計特殊出生率を一般的に用いるが、 ある世代に着目し、その世代の女性15歳から49歳 の出生率を積み上げたコーホート合計特殊出生率 もある。 2)大淵によれば、「少子化とは出生率が人口置換水 準(純再生産率でいえば1、合計出生率でいえば 2.07程度)を持続的に下回っている状態」(大淵 2015:267)である。 3)人口高齢化の要因としては、長寿化(死亡率の 低下)、人口移動(若年層の流出・高年層の流入)、 そして少子化、以上の三つが指摘されている(清 水 1998)。 4)2015年以前の合計特殊出生率については、指標 の作成方法に問題があり、正確な値ではないとし て、東北大学高齢経済社会研究センターによる修 正値が公表されている。それによれば、秋田県に おける当該期間の合計特殊出生率は若干高くなる ものの、2005年から2015年の間を1.31~1.40で推 移しており、従来の値と大きな差はない。詳細は 2019年6月の東北大学「プレスリリース・研究成 果」を参照されたい。 5)自治体の政策および社会経済的要因が出生力に 及ぼしている影響について分析し、少子化対策に 資する政策的な含意を導くことを目的として、秋 田県(鹿角市・横手市)、静岡県、愛知県、兵庫県、 香川県において調査が行われた。 6)合計特殊出生率において特徴的な秋田県・東京 うか。 5.おわりに 本稿では、少子化の著しい秋田県を分析対 象とし、少子化と子育て支援の関係性につい て考察を試みてきた。その結果、秋田県にお いて少子化の主要因と少子化対策における重 点施策との間にミスマッチが生じていること を指摘し、少子化対策としての効果を得るた めには、従来のような子育て支援に偏る施策 ではなく、少子化の主要因である未婚化への 対策を重視する方向性へと転換する必要性が あることを言及した。 そして、未来(2045年)の日本における少 子高齢化の状況とほぼ同じ姿を示している現 在の秋田県において、手厚い子育て支援施策 について肯定的な評価をしながらも、一向に 改善されない地域の少子化(出生数の減少) の状況に対し、子育て環境だけが充実しても 地域の未来に希望を抱けない人びとが多いこ とを明らかにしてきた。さらに、産科や小児 科の病院が縮小・撤退していくことへの不便 性・不安感が高まっているという現状が、子 育て環境という“質”だけを整えることの限 界を示唆しており、子どもの“数”を一定数 確保することが、より良い子育て環境の形成 にとって必要なのではないかと思われる。 少子化に関する施策を展開する国・県・市 町村の立場からみると、個人の自由に委ねら れるべき「結婚」や産めよ増やせよの記憶と 結びつけられやすい「子どもの数」を重要視 し、そこに施策の焦点をあてることは、現代 の日本社会において批判を招きやすいため、 できるなら忌避したいと考えるのが当然であ ろう。しかし、このままでは少子化に歯止め をかけることはできず、秋田県を先頭に地域
事業報告書)こども未来財団. 大淵寛、2015、「人口政策としての少子化対策(試 論)」高橋重郷・大淵寛編著『人口減少と少子 化対策』原書房. 鬼頭宏、2011、『2100年、人口3分の1の日本』メディ アファクトリー. 工藤豪、2019a、「少子化は克服できるのか」清水浩 昭・工藤豪・菊池真弓・張燕妹『新訂 少子高 齢化社会を生きる』人間の科学新社. 工藤豪、2019b、「未婚化と人口性比の関係性」『埼 玉学園大学紀要 人間学部篇』第19号 埼玉学 園大学. 国立社会保障・人口問題研究所編集・発行、2019、『人 口統計資料集 2019』. 佐々井司、2016、「地域の出生動向分析と少子化対 策への示唆」『課題設定による先導的人文学・ 社会科学研究推進事業』中央大学・一橋大学・ 中京大学・明治大学. 清水浩昭編著、1998、『日本人口論=高齢化と人口 問題=』放送大学教育振興会. 高橋重郷、2015、「日本と欧州の低出生率と家族・ 労働政策」高橋重郷・大淵寛編著『人口減少と 少子化対策』原書房. フィデア総合研究所、2019、『秋田県「少子化要因 調査・分析事業」報告書』秋田県あきた未来創 造部あきた未来戦略課. 松田茂樹、2013、『少子化論――なぜまだ結婚・出 産しやすい国にならないのか』勁草書房. 松田茂樹ほか、2016、「自治体の少子化対策の現状 と課題」『課題設定による先導的人文学・社会 科学研究推進事業』中央大学・一橋大学・中京 大学・明治大学. 守泉理恵、2015、「日本における少子化対策の展開」 高橋重郷・大淵寛編著『人口減少と少子化対策』 原書房. 都・愛知県・熊本県を対象として、少子化の状況 および少子化対策とその成果を把握することを目 的として調査が行われた。 7)ここで、合計特殊出生率(TFR)ではなく、出 生数が分析対象とされているが、佐々井が「地域 の出生分析には地域間の人口移動への配慮が不可 欠であることから、個人のライフコースにおける 晩婚化や晩産化の影響を地域のTFRというマクロ 指標の決定要因と結論付ける前に注意深い考察が 必要になる」(佐々井 2016:112)と指摘してい るように、TFRを対象とした正確な分析は困難で あるという背景もあろう。 8)あきた結婚支援センターの取り組みは、成婚者 数をみると一定の効果を得られているが、県北地 域の女性会員が著しく少ないこと、イベント開催 が秋田市近辺に偏っていること、結婚サポーター の活動も活発化しているとは言い難いことなど課 題も多い。 9)調査は2019年の2月から3月に鹿角市、仙北市、 男鹿市、にかほ市、三種町で行ったが、本稿では、 秋田県の中で合計特殊出生率が高い鹿角市、平均 的な仙北市、合計特殊出生率が低い男鹿市の結果 を用いる。なお、本調査は秋田県あきた未来創造 部によるフィデア総合研究所への委託事業として 実施され、筆者もメンバーの一人として参加した。 参考文献 安蔵伸治、2014、「少子化の本当の『原因』とその 対応」21世紀政策研究所『実効性のある少子化 対策のあり方――少子高齢化への対応は日本に 与えられた世界史的な役割』. 岩澤美帆・金子隆一、2013、「分母人口を限定した 出生力指標から見る2005年以降の期間合計出生 率反転構造」『人口問題研究』第69巻第4号、 国立社会保障・人口問題研究所. 岩澤美帆、2015、「少子化をもたらした未婚化およ び夫婦の変化」高橋重郷・大淵寛編著『人口減 少と少子化対策』原書房. 岩渕勝好、2004、『出生率の地域格差に関する研究』 (平成15年度 児童環境づくり等総合調査研究